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アメリカの大学制度と法学・政治学教育  

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(1)

125 『岡山大学法学会雑誌』第54巻第1号(2004年9月)  

アメリカの大学制度と法学・政治学教育  

− 岡山大学法学部政治学講座共同企画  

﹁新しい法学部像と政治学教育﹂ の一環として臼  

谷  

二 一   

二二一   

二二二   

二・四   

二・五   

二・六  

第三章   

三・一   

三・二   

三二二    第三早 本稿の趣旨と位置づけ  

一一岡山大学法学部政治学講座教育改革プロジェクト  

一 二 なぜアメリカの大学か  

一二ニ アメリカの大学の多様性  

一二川 本稿の役割とその限界  

第二章 アメリカにおける大学制度の概要  

適格認証制度   

大学の設置主体と法人格   

授与学位別にみた大学の数と種類  

一般的な大学分類   

編入制度とコミュニティ・カレッジ   

大学の格付け  

大学の組織と財政   

統治機関   

執行部   

財政と大学の規模  

聖  美  

一二五   

(2)

相 法(54−−1)126  

第四章   

閃∵一   

四二一   

四二↓   

四・川  

第五章   

五■一   

五ニ   

五二一  

第六章   

■■  六・  

六・  

六・  

﹂′.    .ヽ     ノ  

.\   ﹂′ ∴   

六・   

六・   

六・   六二一学位・専攻・副専攻  

六二二・四  

六二二・五  

六∴二・六  

六/ 二・七   教員組織と人事シそ丁ム︑および教員の職務   

学科︑教授会︑学科長   

教員の種類と人事制度   

教員の評価と待遇   

教員の自治組織と組合 ︵以上五三巻号︶  

学生選抜と財政支援   

選抜機関と選抜方式   

選抜過程と評価事項   

学生に対する財政支援 ︵以上第五三巻二Uケ﹂  

学士教育   

大学教育?ニ本桂  

一 ¶ リベラルアーツ教育  

一二一専門職教育  

一  一般教育 ︵広領域教育︶  

二・一  

三二一  

三二二   二 一専攻・学位・学位記  二 二 複数専攻選択と副専攻  二二一個人設計専攻と一般研究学位   

学部教育  

講義以外の教育形態  

単位互換および在外学習制度  

単位と成績  

成績評価の方法  

成績不振者への対応  

不正行為の処分  

成績優秀者の顕彰  

(3)

127 アメリカの大学制度と法学・政治学教育  

ノ  ヽ 

.  

−ノ  

.ヽ  .  

第七章   

七・一   

七二   

七二一   六二二■八 優秀生特別プログラム   六・二∵九 大教室の中の学生たち   六二二・十 少人数クラスにおける学生たち  

六・四 学士課程を区切る時間   

六■四・一 ﹁学年制﹂ と在学期間   

六・四二山 入学前履修 ︵AP︶ 単位と﹁早期卒業﹂   

六・四∴二 セメスター制とクォーター制  

六・五 学生に対する指導と支援   

六・五二 新入生オリエンテーション等   

六・五二一アドバイザーによる支援   

六・五・三 その他の勉学支援  

五・四 就職に関する支援  

五・五 障害を持つ学生に対する支援 ︵以上本号︶  

学部段階における法学・政治学教育   

学部レベルにおける法学教育   

ロースクールへの進学   

学部レベルにおける政治学教育   

一二七  

(4)

岡 法(541)lZ8   

六・一・一 リベラルアーツ教育   

アメリカでは︑学部教育の中心にあるのはリベラルアーツ教育である︒これに︑医者や法律家の養成課程ほど高  

度なものではないが︑それなりの専門惟をもった職業人の養成を目指す専門職教育が加わる︒また︑リベラルアー  

ツ教育は︑主として一年生や二年生の段階で履修することが期待されているさまぎまな入門科目の学習と︑政治学  

や物理学といったリベラルアーツの特定領域を集中的かつ専門的に学習する専攻段階の教育に区分することができ  

る︒大学によっても異なるが︑前者はしばしば一般教育︵Genera−EducatiOn︶と呼ばれるのに対し︑後者に関して  

は﹁リベラルアーツにおける専門的な学習・教育﹂ として捉︑ろられているだけで︑特定の用語は見あたらないっ た  

だ︑それでは不便なので︑本稿においては大学教育におけるその位置づけをふまえて︑特に‖本譜訳をつける必要  

がある場合には﹁専門学芸教育﹂という名称を付しておきたい︒   

リベラルアーツと専門職教育は全く別個のものと考︑ろられているのではなく︑後者は前者の基礎︑あるいはそれ  

との連携において初めて十全な効果を発揮できると考えられている︒特に︑一般教育は専門学芸教育と専門職教育  

のどちらにおいても重視される︒しかし︑専門学芸教育︑専門職教育︑そして一般教育はそれぞれの力点に違いが  

あるので︑本稿では︑この三つが学士教育の三本柱を構成しているものと捉え︑順次説明していきたいら そのため  

には︑日本でしばしばみられるリベラルアーツ教育観とは反対に︑リベラルアーツこそアメリカの大学における学  

部教育の中心に位置するということを十分押さえておく必要がある︒    大学数育のlニ木柱  

第六章 学士教育  

(5)

129 アメリカの大学制度とは学・政治学教育   

口本では︑アメリカにおける学部数育というと職業教育に重点を置いた実学が中心だと思っている人が多い︒そ  

して︑そのアメリカに見習って︑学生が社会に出たあと即戦力となるよう︑実践的な要素を重視して学部教育を見  

直していくべきだというたぐいの議論 ︵文部科学省や国立大学では︑これを出口論と呼んでいる︶ が盛んである︒  

確かに︑アメリカにおいて︑看護学部や経営学部︵ビジネス・スクール︶ などの学部は専門職業人の養成を明確に  

目的として掲げており︑その存在は華々しくも効率的であるように見える ︵後述のように︑経営学部における専門  

課程相当の学士教育はT一年生または三年生から始まる︶︒しかしながら︑アメリカでは︑実は非美学的な学部教育が  

どちらかというと主流に近いのである︒このことは︑アメリカではリベラルアーツ系の大学や学部で学位を目指す  

学生のウェイトが高いという事実によく表れている︒   

表6−1は︑アメリカ全体を通じてみた分野別の学士号授与状況である︒このなかで︑リベラルアーツ系の大学  

や学部がカバーするのは主に人文︑社会︑自然の三分野で︑そこにおける学位が全体の約四一パーセントを占めて  

いる︒確かに︑アメリカでは工科大学のような単科大学や︑職業資格と結びついたコースを提供する中小規模の大  

学がたくさんある︒従って︑それらを総合すれば︑リベラルアーツ部門での学位取得数を上回ることになる︒しか  

し︑ハーバード︑ ミシガン︑UCバークレーといった主要な大学となると︑リベラルアーツの学問を修めて学位を  

取る者の割合はさらに大きくなり︑過半数を超えることになる︒表6−2は︑ミシガン大学における学部︵sch00訂  

aコdc011eges︶別の学士号授与数とその大学全体に占める割合を表したものである︒見ての通り︑リベラルアーツ学  

部で学士号をとる学生が全体の六割を占める︒他方︑カリフォルニア大学については︑学部別ではな︿同大学機構  

全体を通じた分野別の統計となるが︑自然科学︑文学︑数学︑社会科学などを合計すると︑リベラルアーツ系全体  

で仝授与学士号の五六パーセントとなり︑ミシガン大学の場合とほぼ同じであることがわかる︵表6−3︶︒さらに︑  

音楽や美術といった芸術系の分野も加えると︑リベラルアーツ部門で学位を取る者の割合は全体の三分の二前後と  

一二九   

(6)

岡 法(54−1)130    表6−1 全米分野別学士号授与状況(2000年度)  

人 数   割合(%)  

人文分野(1)  

社会科学・行動科学(2)  

自然科学(3)  

工学・コンピューター科学(4)  

教育学(5)  

ビジネス・経営学(6)  

その他の領域(7)  

213,518   17.2   

201,570   16.2   

90,206   7.3  

114,241   9.2   

105,566   8.5  

265,746   21.4  

253,324   20.4  

全 体   1,244,171    100.0  

資料:国立教育統計センター(NCES)ホームページ  

(1)日本でいう人文諸科学に含まれるものの多〈のほか、神学、学際領域   

(interdisciplinarystudies)、演劇、音楽、 美術を含む。  

(2)心理学、歴史学を含む。  

(3)科学技術(sciencetechnologies)を含む。  

(4)日本で工学部がカバーしている領域のうち、建築・郡市工学を除〈。  

(5)教育学部で学位を取った者のみ。他学部で教職の単位を取って教員免許    状を取得した者は含まれていない。  

(6)Business/Management.  

(7)農学・自然資源学、建築学、環境デザイン、コミュニケーション技術、   

健康・医療関係(看護学など)、家政学、法学、図書館学、軍事苧、公園・   

リェクレーンョン学、警察・治安・司法行政関係、公務(publicaffaires)、   

交通学、その他分類不能領域。   ○   

(7)

131アメリカの大学制度と法学・政治学教育  

表6−2 ミシガン大学における学部(1)別学⊥号授与状況(2001年度)  

人 数   割合(%)  

建築・都市計画学部   美術・デザイン学部  

経営学部  

歯学部   教育学部   工学部   情報学研究科  

体育学部(2)  

ロー・スクール   リベラルアーツ学部(3)  

メディカル・スクール   音楽学部  

自然資源・環境学部   看護学部  

薬学研究科   保健学研究科   公共政策研究科   社会福祉研究科   

75   1.3  

162   2.8  

320   5.6  

36   0.6  

129   2.3  

1,051   18.4  

0   0.0  

175   3.1  

0   0.0  

3,416   59.7  

0   0.0  

148   2.6  

76   1.3  

132   2.3  

0   0.0  

0   0.0  

0   0.0  

0   0.0  

全 体   5,720   100.0  

資料:ミシガン大学ホームページ  

(1)大学を構成するschoolやcollegeを学部と訳している。ただし、学士    号授与数がゼロの部局は大学院課程のみから成り立っているので、研究科   

と訳してある。第三章 三・二・四節を参照。  

(2)体育学部(DivisionofKinesiology)は正確には学部(schoolorcollege)   

としての独立性を完全には備えていない。しかし、大学を構成する基本単    位の一つであるとは考えられているので、ここでは学部と訳した。  

(3)ミシンガン大学の))ベラルアーツ学部の名称は正確には Schoolof    Literature,Science,andthe Artsである。   

(8)

同 法(54−1)132    表6−3 カリフォルニア大学9校全体の分野別学士号授与状況(2001年度)  

人 数   割合・(%)  

農学・自然資源  

頭重築・環と項ニテナザイン   地域石井究  

生命ヰ斗学(1)  

ビジネス・糸㌢首  

コンピュータ【・情報ヰ斗ドアニ   幽学  

複数専攻(2)  

教育学(31  

」二学  

アート ▲ テ、ザイン(4)  

外国語  

イ呆健関係専「1職(5)  

家政学   学際研究  

ジャーナ  リズム  

法学   二文学   E司書館学  

数ゴア   医学   者諸学   検巨艮医養成(引   薬学   体育教育(7)  

自然何丁)ア:(別  

保健学(9)  

ネ上全車斗学  

社会福祉・介護サービス   退役軍人医療(10)   

949   3   

283   1   

455   1  

4,334   12  

1,598   5   

932   3  

16   2,752  

0  

2,601   1,901   

516  

0   

128   1,849  

0   

157   2,692  

0    612  

0  

4  

53  

*807510* 5C* 8020* *  

0   (〕  

70   *   

736   2  

0   0  

8,531   25  

80   *  

12   *  

全 体   34,716   100,0  

資料:Department ofInformation Resources and Communications,   

OfficeofthePresident,Skzlisiic?lS mmary qfStudenisの7dSわがjbr   

差Il12002,p.29.,University ofCalifornia,2OO2.なお、学位取得者はい    るものの、その割合が0.5%未満の場合にはすべて*印で、表してある。  

(1)BiologicalSciences.‖二本てて、通′尉イメージされる生物学のほか、バイオ    テクノロジーなどの/分・野もカノヾ−「している。  

(2)Double/Triple Majors.2つないし3つ♂)領域を圭専攻とした学力二が    この分類にはいる。本市 六・=.・一節を参照。  

(3) カリフォ/レニア州てサは、教ff学の課程は大!、芦ド完レベルに軋曇ってi泣けられ   

てし、る。  

(4)Fine&Applied Arts.  

(5) Health Professions.  

(6)Optometry.アメI)カでは通儒■手札プ)検査はこうした検Ll艮医と呼ばれる専    門職が壬旦当する。  

(7)PhysicalEducation.  

(8)PhysicalSciences.Fl本で通常理学部がカバーする自然科学分野のう    ち、生物学を除く。  

(9) Public Health.  

(10)Veterinary Medicine.   

(9)

133 アメリカの大学制度と法学・政治学教育  

なる︒研究大学として教育と研究の双方に力を入れている州立大学では︑状況はどこでも似たようなものである︒  

州立ワシントン大学の﹁大学の役割と使命﹂という文書は︑その点について端的にこう述べている︒﹁ワシントン大  

学における教学の核心に位置するのはリベラルアーツ学部︵CO︼−ege OfArts aコd ScieコCeS︶ である︒多くの専門  

職業教育担当学部︵prOfessiOコa−sch00−s︶における教育と研究は︑芸術︑人文学︑社会科学︑自然科学︑そして数  

理科学の諸プログラムにとってなくてはならない補完機能を果たしている﹂︵同大学ホームページより︶︒   

では︑私立大学ではどうであろうか︒ここでは︑一方には種々の実学教育や技術教育に力を入れる比較的小規模  

の大学が数多くみられる︒しかし︑他方では逆にリベラルアーツに特化した大学もた︿さんある︒第二章の二・四・  

四で紹介したダートマスなどリベラルアーツ大学は︑職業教育を排して文字通りリベラルアーツ教育だけを行う大  

学である︒このような大学が全国的にその名を知られ︑入学するために要求される高校の成績やSATのスコアが  

とても高いということは︑リベラルアーツ教育がアメリカにおいて高い威信を伴っていることを示している︒そし  

て︑そのことをさらに端的に物語っているのが︑ハーバード大学など世界的に名の知れた私立大学における学士教  

育のあり方である︒すなわち︑こうしたトップクラスの研究大学タイプの私立大学では︑学上教育を行うのはリベ  

ラルアーツ学部だけという場合が多いのである︒別の言い方をすれば︑学部教育という観点からみると︑ハーバー  

ドなどアメリカの主要私立大学は基本的にリベラルアーツ大学だということになる︒   

このようにいうと︑﹁ハーバードでは学部レベルの工学教育も行われている﹂という反論があるかもしれないn そ  

れはその通りである︒しかし︑そのようにいう人は︑ハーバードの工学教育部門は学士段階ではリベラルアーツ学  

部︵COニegeOfGeコera−St亡dies︶ の一部門として位置づけられているという事実を想起しなければならない︒ハ  

バード大学における学士レベルの工学教育は︑リベラルアーツ教育と密接な関連性を持つ形で行われているのであ  

る︒実際︑ハーバード大学の工学部門は独立した工学部ではなく︑リベラルアーツ学部の内部におかれ︑工学・応  

一三三   

(10)

開 法(54   1)134  

一三四   

川科学部門 ︵DEAS−DiまsiOnOfEngineeringandApp−iedScieコCeS︶ となっている︒そして︑学部学生は︑﹁リベ  

ラル7−ツの環境のなかで一流の教員から教育を受ける﹂と謳われている︵同部門ホームページより︶︒こうしたこ  

とは︑アメリカの大学教育においてリベラルアーツが中心的な位置を占めていることを如実に物語っている︒   

リベラル7−ツ学部は︑教育面だけでなく研究面でも重要な役割を果している︒特に︑一流の研究大学といわれ  

るような大学においては︑リベラルアーツ学部はさまざまな分野で高い評価を受ける研究者や学科を擁して︑その  

大学における学術研究の中心的な位置をl㌔めている︒本稿は︑第二章の表2−5から表2−7でトップ一五に位置  

する大学を示したが︑そこで示された政治学や歴史学の分野を担っているのはリベラルアーツ学部のなかの政治学  

科や歴史学科なのである︒日本のように政治学講座が法学部という専門学部︑歴史学が文学部という専門学部の中  

にそれぞれ位置するというようなことはアメリカではありえない︒実際︑この二つの学問分野だけでなく︑物理学  

や数学︑人類学や社会学︑あるいは経済学や心埋学など︑人文︑社会︑自然各領域における基礎科学部門では︑ど  

の大学でもそれを担うのはほとんどがリベラルアーツ学部のなかでそれぞれの部門に対応している諸学科なのであ  

る︹﹀ そして︑研究人学では︑そうした学科は学部段階の上に大学院を持ち︑高度学術研究と研究者の養成を行って  

いるのである︒   

主要大学における研究面からみたリベラルアーツ学部の実力は︑ノーベル賞受賞者がしばしばこの学部に属して  

いるという事実にもはっきりと表れている︒たとえば︑UCバークレーには経済学部門で二人のノーベル賞受賞者  

がいるが︑その二人はともにリベラルアーツ学部の教授である︒物理学や化学の部門になると︑ノーベル賞を受賞  

するアメリカ人研究者は工学部やさまぎまな研究所︑民間企業に所属していることもあるが︑やはりリベラル7−  

ツ学部の教授であるというケースも少なくない︒現に︑二〇〇三年に田中耕一氏と同時にノーベル化学賞を受賞し  

たフェン ︵JOhnB.Fen︶ 氏は︑ヴァージニア・コモンウェルス大学 ︵≦rginiaCOmmOnWea︼thUniくerSity︶ のリ   

(11)

135 アメリカの大学制度と法学・政治学教育  

ベラルアーツ系学部 ︵同大学では最近学部体制の再編があって︑他の大学のりベラルアーツ系学部とは名称等が全  

く異なる︶の化学科教授である︒また︑同じ年に小柴教授とともにノーベル物理学賞を受賞したデイヴィス︵RayヨOnd  

DaまsJrし氏も︑ペンシルヴァニア大学リベラルアーツ学部の物理学科教授である︒有力大学のリベラルアーツ学  

部には各分野の世界的な研究者が集まっているのである︒   

では︑リベラルアーツの教育とはどのようなものであろうか︒この点については︑ミシガン大学リベラルアーツ  

学部 ︵CO宕geOfLiterature↓Science−aコdtheArts︶ の父兄向けホームページがわかりやすい解説を載せている︒  

それによると︑リベラルアーツ教育ニibera−ed亡CatiOn︶ の背後にあるのは︑﹁知および知の探求はそれ自体として  

人間が人間として自らを作り上げていくために不可欠のものである ︵knOW−edge and thesearch fOr knOW−edge  

areintheヨSe−完Sh亡manizin乳﹂という考え方であるっ 未知なるものの探求は人間が自分自身を知ろうとする活動  

であると同時に︑人間の自己探求という営為に形を与えていくものだからである︒従って︑リベラルアーツ教育の  

目的は︑博識にして賢明︑さらに公止で幸福な人間を創りあげること ︵thecreatiO︼︼OfknOW−edgeab−e﹀WiseL亡St  

andhappyヨenandwOヨen︶ なのだとされる∩ そして︑このような教育理念を達成するためには︑学生は人生に  

おいて経験するさまざまなものごとを分析し︑分類し︑比較し︑弁別し︑批判し︑そして評価するすべを身につけ  

なければならないい さらにまた︑学生はそのような能力・徳目︵fac亡−ties︶を用いて︑人生のよりどころとなる価値  

観と行動の指針︵くa−亡eSaコdprincip−e︶を旛養するとともに︑卒業後にめぎそうと志している進路に応じて知識や  

応用力︑技術的な力を身につけていくことが求められる︒   

ここで︑リベラルアーツ教育は将来の職業生活に対する準備を第一目標とするものではないことをもう一度確認  

しておく必要がある︒ミシガン大学リベラルアーツ学部はすべての学生に対して︑﹁君たちの将来計画や職業選択が  

どのようなものであれ︑リベラルアーツ教育のもっとも中心的な価値が学ぶことそれ自体の自己目的性にあるのだ  

二二五   

(12)

岡 法(54   1)136  

六・一・ 専門職教育   

学部レベルにおける教育の中心がリベラルアーツにあるということは︑アメリカの大学がヨーロッパの伝統を引  

き継いでまずリベラルアーツ教育から出発し︑あとからそれに職業関連の教育が加わったという歴史的経緯を反映  

している︒アメリカで専門性の高い職業人養成のための教育が大学で行われるようになったのは︑建国後一〇〇年  

以上もたった二〇世紀初頭の頃からである︒大学教育におけるこの新しい潮流について︑辛辣な批評で知られる経  

済学者・ヴェブレンは︑一九一八年にこう述べている二近年における大学の世界においては︑﹃職業訓練︵召CatiOn巴  

trainiコg︶﹄が際だった特徴となってきた︒︵中略︶ ﹃職業訓練﹄は高収入を期待できるいくつかの職業︵OCCupati〇コ︶    一三六   

ということを理解﹂してほしいと述べている︒たしかに︑入学段階で卒業後の進路をある程度決めていた学生にと  

っては︑リベラルアーツ教育に求めるものはそうした職業選択に関連した特定領域の勉学ということになるかもし  

れない︒しかし︑入学段階で何になりたいかはっきりとした考えをもっていない多くの学生たちにとっては︑リベ  

ラルアーツ学部の四年間は自分自身と自分を取り巻く世界について探求を進め︑自らの将来計画を練り上げていく  

期間だということになろう︒あるいは︑この四年間を人間的成長の機会だととら︑え︑多くの人や考え方と出会い︑  

卒業後も長く自分の人生に影響を与えていくことになるであろう目標や関心を培っていくチャンスだと考える者も  

いるであろう︒このように︑リベラルアーツ教育に求められるものは多様であり︑またそのあり方について古今様々  

な意見の対立があることも事実であるい りベラルアーツ学部はそのことを認めたうえで︑最後にこう述べているウ  

リベラルアーツ教育を通して︑﹁大学を卒業していくとき︑学生たちはその後の職業︑あるいは大学院進学に対して  

備えができているというだけでなく︑責任ある人生というより大きな人間としての進路︵the︼argerhuヨanCareer  

OfrespOnSib︼e≡e︶ に対して備えが備わっている﹂ ことになるのだと︒  

(13)

137 アメリカの大学制度と法学・政治学教育  

で必要とされる熟達を目指すもので︑一つの大学のなかに職業学校を単に併置しているという点を除いては︑高等  

教育︵higheュearning︶ とは本来何ら関係をもたない︒だからこそ︑職業教育を大学に導入しようとする着たちが  

その主張を展開するときに弁解がましくも攻撃的な態度をとることになるのだ︒﹂ヴェブレンがここで述べている職  

業教育とは︑各種技術者や小中学校の教員養成︑ダンスや美術などの芸術家養成といったもので︑法律家や医師の  

養成は含まれていない ︵くeb−en﹂垂扇p.−会︶︒しかし︑彼は当時のロースクールにおける教育︑なかでもケース  

メンツドによるそれについても︑学問としての法律学の伝統を汚すものだとこきおろしている︵恕叫札.も.−∽∽︶︒彼に  

とって︑学問と職業教育はどのようなものであろうと相容れないものだったのである︒   

ヴェブレンがさげすんだ職業教育は︑しかしながらその後アメリカの大学世界にしっかりと根を下ろし︑アメリ  

カの産業や文化を発展させる強力なエンジンとして機能している︒そして︑単なる職業訓練ではなく︑より高度な  

専門職教育プログラム︵prOfessiOna−prOgramS︶が多彩に展開されるようになっている︒ただ︑それだけなら︑ヴ  

ェブレンが椰輸したように︑高度な専門学校を単に大学のキャンパスにおいただけでないかという批判は依然とし  

て妥当することになろう︒この問題に対しても︑専門職教育はそれぞれの分野における学問的発展を土台としてい  

るだけでなく︑︵少なくとも建前上は︶リベラルアーツ教育との有機的な連関を保つことでアカデミズムの伝統を継  

承しようとしている︑という答えを返すことができるだろう︒ただ︑この点については︑一般教育について論じる  

次節でふれることにしたい︒   

では︑学部レベルにおける専門職教育はどのような形で行われているのであろうか︒この点については︑まず具  

体的にミシガン大学を例にとって説明しよう︒表6−Iは︑ミシガン大学を構成する学部を学士教育と大学院教育  

の両方を担当するものと大学院教育だけを担当するもの ︵従って表では学部ではなく研究科という名称を用いた︶  

とに分けて表している︒学部教育を担当する単位のうち︑リベラルアーツ学部と︑厳密には大学固有の部局とはい  

一三七   

(14)

岡 法(541)138   表6−4 ミシガン大学の学部編成  

大学院教育のみ   学士教育と大学院教育を担当  

Medicine  

(メディカル・スクール)  

Dentistry  

(歯学研究科)  

Graduate School♯  

(総合大学院)  

Information  

(情報工学研究科)  

Law  

(ロー・スクール)  

Public Health  

(保健学研究科)  

Public Policy 

(公共政策研究科)  

Social Work 

(社会福祉研究科)  

Literature,Science,andtheArts  

(リベラルアーツ学部)  

Architecture&Urban Planning  

(建築・都市計画学部)  

Arts&Design  

(美術・デザイン学部)  

Business  

(ビジネス・スクール)  

Education  

(教育学部)  

Engineering  

(工学部)  

Kinesiology  

(体育学別科)  

Music  

(音楽学部)  

NaturalResources&Environment  

(資腺・環境学部)  

Nursing  

(看護学部)  

Pharmacy  

(薬学部)  

OfficerEducation Programs■蠣  

(士官養成プログラム部門)  

* 総合大学院は、J.D.やM.D.などの高度専門職学位を除く全ての博    士号(Ph.D.)を出す全学共通機関。独白の研究科長(Dean)や副科長、   

事務部門、および建物をもつが、専任教員はおらず、各学部・研究科の教    員がいわば兼任の形でその運営に参加する。ロー・スクールなどのプロフ   ェッショナル大学院に属するものを除く全ての大学院生は形式的にはこの 天    総合大学院に所属するが、学生選抜や大学院教育は実質的8こは各学部・研    究科で行われる。アメリカの総合大学では、大学院教育の体制はミシガン    大学と同様の場合が多い。  

** 上官養成教育を実施する、いわば軍の委託部門。大学の専任教員はこ    こにはいない。第五章 五・三・四を参照。   

(15)

139 アメリカの入学制腔と法学・政治学教育  

えない士官養成プログラム部門とを除いた残りが職業教育にかかわる学部である︒ただ︑例えばハーバード大学で  

は先述のように工学部門がリベラルアーツ学部の中におかれており︑またUCバークレーでは音楽教育や美術関係  

は独立の学部によってではなく︑リベラルアーツ学部のなかの学科が担当するなど︑リベラルアーツ教育と専門職  

教育の間の線引きは必ずしも明確ではない︒後述のように︑︑こシガン大学にはない専門職教育を提供している大学  

もたくさんある︒さらに︑教育学や経営学 ︵ビジネス関係の教育︶ などを大学院のレベルに限定している大学もあ  

る︒逆に︑ミシガン大学では大学院レベルに限定している保健や社会福祉の領域でも︑学士教育プログラムを備え  

ている大学もある︒従って︑ミシガン大学の例は︑アメリカにおける専門職教育のおおよその姿を知るための手が  

かりとして紹介するものだと理解して頂きたい︒   

さて︑ミシガン大学で専門職教育を提供する一〇の学部には︑学生を一年生︵Freshman︶から受け入れるものと︑  

二年生︵SOphOmOre︶または三年生︵JuniOr︶から学生を受け入れるものとがある︒一年生から受け入れる学部は︑  

建築・都市計画学部︑美術∴丁ザイン学部︑⊥学部︑音楽学部︑資源・環境学部︑看護学部︑薬学部︑体育学別科  

の八つである︒学生選抜は前章で述べたように大学のアドミッションズ・オフィスが統一的に行うが︑芸術系の学  

部の場合には︑一般出願書類のほかに自分が作った作品の写真を提出させたりオーディションを課したりしてそれ  

を学部で審査し︑その結果に基づいてアドミッションズ・オフィサーと協議しながら選抜を行う︒学生たちは一般  

教育の要件を満たすための講義は主としてリベラルアーツ学部で受けながら︑それぞれの学部では専門教育を受け  

るU もっとも︑専門教育といってもリベラルアーツ学部のスタッフと協力しながら提供される科目もあり︑特に環  

境・資源学部における教育はりベラルアーツ学部とほぼ全面的な提携を保ちつつ行われている︒なお︑教育学部以  

外の学生でも︑教育学部で所定の教職科目の単位を取得すれば疋の種類の教職資格を得ることができる︒   

ビジネス・スクール ︵経営学部︶ と教育学部の場合には︑一日∵リベラルアーツ学部に入学した学生を︑そこにお  

一三九   

(16)

固 法(54   1)140  

一円○   

ける最初の一年または二年の成績などを勘案して選抜する︒日本では︑ビジネス・スクールというと︑MBA︵Master  

Of Business AdmiコistratiOコ︶ を出す大学院レベルのプロフェッショナル・スクールだと考える人が多いが︑アメ  

リカでは学士課程の教育も行い︑経営学士 ︵BBA︑Bache−Or Of BusiコeSS AdmiコistratiOコ︶ の学位を出すところ  

が少なくないひ ミシガン大学のビジネス・スクールは︑三年生から学生を受け入れて︑会計学︑企業経営︑財政学︑  

ビジネス情報システム︑ビジネス法︑経営史などの学科に分かれて専門的な教育を行うっ ただ︑専門教育の期間が  

二年間ということから分かるように︑一年生︑二年生のあいだに経営以外の分野の学問を幅広く学ぶことが期待さ  

れており︑卒業に必要な一二〇単位のうち五四単位以上はビジネス・スクール以外で取得しなければならない︒教  

育学部の場合には︑初等教育教員養成課程が二年生後期から︑中等教育教員養成課程が三年生から︑それぞれ学生  

を受け入れている︒   

次に︑ミシガン大学の学士教育においては提供されていないが︑他の大学では比較的目につくプログラムを簡単  

にみておこう︒これも具体的な大学を例に挙げた方がわかりやすいように思われる︒まず︑ボストンのノースイー  

スタン大学 ︵NOrtheasterコUコi完rSity︶ には︑健康科学部 ︵COege Of Hea−th ScieコCe︶ があり︑そこの健康専  

門職部門 ︵Sch00︼OfHea−thPrOfessiOn︶ では︑健康運動トレーナー︑臨床心理療法士︑リハビリテーション介護  

士︑言語疾患療法士など多彩な医療技術関係者を養成している︒また︑刑事司法学部︵COegeOfCrimiコaこustice︶  

は︑警察官や矯正施設職月︑犯罪被害者のケア専門家︑少年事件に関する諸専門家などを養成している ︵刑事司法  

学部については次章でもう一度取り上げる︶︒さらに︑ジャーナリズム学部︵Sch00−○こOurコa−ism︶では︑新聞記  

者やテレビのレポーター︑あるいは広報の専門家などを養成している︒   

他方︑ノーザン⁚ミシガン大学 ︵NOrtherコMichigaコUコi完rSity︶ には︑その名も専門職養成学部 ︵COegeOf  

PrOfessiOコa−Studies︶ がある︒その学科構成は︑臨床検査料学科︵CHコica−LabOratOryScieコCeS︶︑コミュニケー   

(17)

14t アメリカの大学別度と法学・政治学教育  

ション障害学科 ︵COヨヨuコicatiOnDisOrder︶︑刑事司法学科 ︵Criヨiコaこustice︶︑教育学科︵EducatiOn︶︑健康・  

運動教育・レクレーション学科 ︵Hea−声Physica︻EducatiOコaコdRecreatiOn︶︑看護学科︵Nursing︶︑准看護学  

科 ︵Practica︼Nursiコg︶︑軍事科学科 ︵Mi−itaryScience︶︑社会学・ソーシャルワーク学科 ︵SO︹iO−OgyaコdSOCia−  

WOrk︶となっている︒これをみれば︑どのような専門職の養成が行われているのか︑おおよその見当がつくであろ   

︑つノ   

ノースイースタン大学やノーザン⁚︑︑シガン大学における専門職教育の種類は︑中堅の大学によく見られるもの  

である︒それは︑地域社会に必要なさまぎまな専門家を養成しょうとするもので︑多くは地元ないし近隣出身の学  

生を受け入れる地域型の教育大学であることが多い︒カリフォルニア州であれば︑カリフォルニア大学機構の系列  

ではなく︑カリフォルニア州立大学の系列である ︵第二章 四二丁一を参照︶︒それは全国から優秀な学生を集め︑  

世界的な競争力を持つ大学ではないが︑アメリカの地域社会に必要な人材を供給するとともに︑移民やその子弟︑  

あるいは経済的に恵まれない家庭の子供たちにも堅実な社会的上昇の道を開くことによって︑アメリカ社会のいわ  

ば土台の部分を支えるという重要な機能を果たしているのである︒移民が多いカリフォルニア州やニューヨーク州  

でこうした大学のキャンパスを訪れてみれば︑そこでハーバード大学やミシガン大学といった名門大学とはかなり  

違った学生の群像をみることができるであろう︒すなわち︑人種や民族の構成は実に多様で︑働きながら生活費と  

学資︑そしてしばしば子供の養育費を賄っている学生が多い︒学生の間における年齢のばらつきも大きく︑三〇オ  

を過ぎた学生も決して少なくないのである︒全国タイプの研究大学とこうした地域型の教育大学との差異から︑ひ  

とはアメリカ社会における階層間格差を見て取ることもできようが︑同時に絶えることのないこの国の活力を感じ  

ることもできるはずである︒  

一四山   

(18)

岡 法(54叫1)142  

一因二  

六・一二ニー般教育︵広領域教育︶   

少し前まで︑日本の総合大学には教養部という組織があった︵今でも若干の大学にはそれが残っているが︶︒この  

教養部は︑主として一︑二年生を対象に﹁教養教育﹂を施す役割を与えられていた︒そして︑そのための専任教員  

を擁し︑﹁教養科目﹂あるいは﹁一般教育科臼﹂を提供していたっ このような組織が置かれたのは︑大学生が専門の  

知識だけに偏った視野の狭い人間にならないよう︑アメリカのりベラルアーツ教育に倣って幅広い ﹁教養﹂を身に  

つけさせるためであった︵旧制高校教員の救済という意味もあったであろう︶︒しかし︑日本の教養部は︑アメリカ  

のリベラルアーツ学部のように大学の中心に位置づけられるどころか︑正式な学部としての地位も十分な予算も与  

︑えられず︑そこに属する数日月は大学世界におけるいわば二級市民としてしばしば差別やさげすみの対象とされる有  

様であったっ 筆者自身︑教養部に長く存籍して︑何度か差別的な言辞や対応を経験したことがある︒しかも︑教養  

部の教員自身︑自分のおかれたそのような立場に対するコンプレックスから︑教養部をスクール■オブ・リベラル  

アーツなどと英訳して裏‖からそうした薫別意識に同調していた面もある︒そうLた差別意識は︑教養部の大部分  

が組織としては廃止された今‖になっても完全に消え去ったとはいえない︒   

しかし︑既に明らかなように︑アメリカの大学におけるリベラルアーツ学部は口本の教養部とは全く異なったも  

のである︒教員組織のあいだに高度な専門教育を担当する者とそうでない者との区別があるわけでもない︒そのよ  

うにいうと︑ノースイースタン大学のように︑新入生向けの入門的なリベラルアーツ科目だけを担当する郡局を置  

いている大学があるではないかという反論を受けるかもしれない︒確かにそういうケースもあり︑しかもそこには  

専任の教員が配置されているという点で︑日本の教養部に似ているともいえる︒実際︑ノースイースタン大学では  

その部局を﹁一般教育学部 ︵COegeOfGener巴Studies︶﹂と呼んでいる︒だが︑そのような学部は︑学力や通性  

などによってそこで教育を受けた方がよいと大学が判定した一部の学生だけを対象に︑そしてそうした学生に適し   

(19)

143 アメリカの大学制度と法学・政治学教育  

た教育方法で一年間だけ教えるというもので︑日本の教養部とはずいぶん趣を異にしている︒それに︑こうした例  

はかなりまれにしかみられない︒   

それでは︑戦後日本の教養部創設に影響を与えた︑﹁学生に幅広い教養を身につけさせる﹂という理念はそもそも  

アメリカには本来存在していなかったもので︑何かの誤解でそう考えられただけなのだろうか︒もちろんそうでは  

ない︒アメリカの大学においては一幅広い教養﹂ の理念はどこでも常に強調されており︑学生はこの理念にもとづ  

いて一定の数まで幅広い科目を痍択して単位を取ることが義務づけられている︒この︑幅広い教養を身につけさせ  

る教育を︑アメリカではしばしば﹁一般教育 ︵Genera−Ed亡CatiOnOrGenera︼St亡dies︶﹂ と呼んでいるり 従って︑  

一般教育は﹁広領域教育﹂を意味するといえよう︒また︑ハーバード大学などいくつかの大学ではコア・カリキュ  

ラム ︵COreC亡rricuFm︶と呼んでいる︒ただ︑ハーバード大学は︑自らのコア・カリキュラムを単なる一般教育で  

はないと︑その独自性を主張している︒もっとも︑ここでは立ち入らないが︑ハーバード大学のコア・カリキr二フ  

ム教育が他の大学の一般教育と同様の広領域選択料目刺という理念にもとづいて編成されていることは︑表6−5  

に示されたコア・カリキュラムの科目グループ編成を見れば明らかである︒   

アメリカの学士教育では︑﹁重要な学問領域に関する広範な知識の取得と︑一つの特定領域において深奥を極める  

ことをともに実現すること﹂ ︵Fac亡吉10fAユsandSciences一HarくardUniくerSity︸N茎︺一Ch.N︶ という理念が重視  

され︑学生の科目選択もこの理念に沿って行われることが要求される︒すなわちそこでは︑基礎科学のような学問  

としての学問であれ︑専門的職業と結びついた応用的︑実用的な学問であれ︑一つの学問分野を深く極めると同時  

に︑そうした特定の学問以外の分野を幅広く学習することが求められるのである︒前者の︑特定領域を掘り下げて  

勉強するということが﹁専攻︵MajOrOrCOnCentrati∃︶﹂に相当し︑後者の一般的知識の取得は一般教育とかコア・  

カリキュラムの分野に属することになる︒一般教育というカテゴリーのなかで卒業要件としてどのようなものを何  

一四三   

(20)

岡 法(54−1)川4    表6−5 ハーバード大学の一般教育履修科月グループ(コア・カリキュラム)  

Moral Reasoning 

(倫理学、法・政治哲学、宗教学)  

Quantitative Reasoning  

(数学、応用数学、コンピューター)  

Science A  

(物理学)  

Science B  

(生物学、環境科学)  

Social Analysis 

(社会科学)  

Foreign Cultures 

(外国文化、地域研究)  

HistoricalStudyA  

(非西欧地域の歴史、国際政治史)  

Historical Study B 

(欧米の歴史)  

Literature and Arts A  

(文学)  

Literature and Arts B  

(美術・音楽,演劇)  

Literature and Arts C  

(文学史・芸術史)  

一川四   

単位とらなければならないかは︑大学によっても︑  

また同じ大学でも学部によって異なっているが︑  

リベラルアーツ学部であれ専門職系の学部であれ︑  

一般教育としてカウントされる科目を全くとらな  

くてもよいというようなことはまずありえない︒   

ここで︑ミシガン大学リベラルアーツ学部にお  

ける一般教育について具体的にみてみよう︒ミシ  

ガン大学では一般教育関係は主として﹁広領域学  

習︵AreaDistribu︵iOコ︶﹂と呼ばれている︒ここで  

は︑最低卒業要件一二〇単位のうち三〇単位を五  

つの科目グループからそれぞれ指定された単位数  

で取得しなければならない︒五つの科臼グループ  

とは︑自然科学︑社会科学︑人文科学 ︵Huヨan・  

ities︶︑数学・応用数理 ︵MathematicsandSyヨ・  

bO−icAna−ysis︶︑芸術︵CreatiくeE眉reSSiOn︶で  

ある︒このうち︑最初聖二領域からは必ず七単位  

ずつをとらなければならない︒さらに︑五領域の  

うち三領域を選んでそれぞれからもう三単位ずつ  

をとることが求められる︒科目の選択にあたって   

(21)

145 アメリカの大学制度と法学・政治学教育  

は︑必ずしも入門的なものばかりではなく︑かなり専門性り高い科目でも広領域学習要件を満たすとされている︒  

また︑建築・都市計画学部などいくつかの他学部が開講している科目も一定程度履修することができる︒こうした  

ことからわかるように︑ミシガン大学では一般教育に充てるために別途授業科目が開設されているのではなく︑入  

門的なものから高度なものまで︑専門科目として開講されているものが非専攻生にとってはそのまま一般科目とな  

るのである︒このように︑各学科︑学部が開講する専門科目をそのまま一般教育科目として認定するというのはほ  

とんどの大学が採用している方式である.︶ なお︑ミシガン大学のリベラルアーツ学部では︑幅広い学問分野に関す  

る素養を身につけるというその趣旨から︑学生の専攻分野に属する科目は広領域学習の対象とは認められていない︒   

ミシガン大学リベラルアーツ学部では︑広領域学習要件のほかに︑三種類の全学科共通の一般教育的科目の履修  

が要求されている︒その第一は︑一年次レベル文章力要件科目 ︵First・YearWritiコgRequirement︶ とよばれるも  

ので︑そこでは大学での学習に必要な文章作成能力や表現法などが講じられる︒この要件の満たし方はやや複雑で  

あるが︑Cマイナス以上 ︵一〇〇点滴点で七〇点以上︶ の成績で四単位をそろえるというのがおおよそのところで  

ある︒この要件が満たされないと︑学生は二年生に進級できないn一年次が終わるまでにこのように二疋レベル以  

上の文章作成能力をつけるよう要求することはアメリカの大学ではきわめて一般的であるっ そのために︑ミシガン  

大学をはじめ︑授業以外に文章力向上を支援する専門機関︵WritingCenter︶ を設けている大学が少なくない ︵通  

常専門スタッフやボランティアの上級生などによって運営される︶︒   

どのような専門分野に進もうとも︑文章力同様学生が必ず満たさなければならないのが﹁量的推論能力︵Quantitatiくe  

ReasOコiコg︶﹂要件である︒これは︑大まかにいえば統計学的素養の取得ということで︑数的︑あるいは幾何学的手  

法を用いて問題を定義し︑意思決定や判断を行い︑さらに予測をたてる能力を身につけることである︒この要件に  

合致する科目としては自然科学の統計的分析を扱うものから計量政治学や社会統計学までさまぎまなものが想定さ  

一四五   

(22)

同 法(541)146  

︷四六   

れており︑それらのなかから原則として四単位を取らなければならない︒   

三番臼の共通一般教育科目は﹁人種と民族︵RaceandEthnicity︶﹂で︑学生はすべて︑卒業するまでにこのカテ  

ゴリーに入る科目を一つはとらなければならない︒﹁人種と民族﹂は科目名ではなくカテゴリー名であるし どのよう  

な科目がこれにカウントされるかというと︑次の三つのテーマを講義のどこかで扱うものである︒H人種︑民族お  

よび人種差別に関する議論︒白人種的︑民族的な不寛容︑およびそこから生じる不平等チノリカにおけるもので  

あれ他の国におけるものであれ︶︒H人種︑民族︑宗教︑階層・階級︑あるいはジェンダーにもとづく差別の比較論  

的検討︒ミシガン大学リベラルアーツ学部では︵他の大学でも同様だが︶︑さまぎまな科目がこのような問題を扱っ  

ており︑学生たちには︑そうLた科目を受講することによって人種的︑民族的な不寛容から生じる様々な問題を理  

解することが期待されているのである︒   

このほか︑リベラルアーツ学部では外国語の能力も重視されている︒通常︑学生には︑大学で教えられている約  

凶○カ国語 ︵日本語を含む︶ のうちの一つを選び︑中級 ︵二年次後期のレベル︶ コースでCマイナス以上の成績を  

とることが求められる︒ただし︑大学が実施する外国語検定試験で所定の成績を収めたものには科目受講が免除さ  

れる︵留学生の場合にはもちろん所定のレベルの英語能力が要求される︶︒リベラルアーツ教育においては︑外国語  

の学習は非英語圏における人類の知的︑文化的遺産に接近するツールとしてだけではなく︑英語自体の構造と複雑  

な要素について新たな視点から理解を深めるよすがとしても重要だと考えられている ︵以上︑ミシガン大学リベラ  

ルアーツ学部二〇〇三年度学生便覧および同学部ホームページより︶︒   

では︑UCバークレーにおける一般教育はどうなっているのであろうか︒その概略はミシガン大学の場合とさほ  

ど違っていないが︑ミシガンの広領域学習に相当するものはここでは﹁広領域七コース ︵Se扁n・COurSeBreadth︶﹂  

と呼ばれている︒すなわち︑一般科目は文芸 ︵Artsand Literature︶︑日生命科学︵BiO−Ogica−ScieコCe∵⁚日歴   

(23)

147 アメリカの入学制度と法学・政治学教育  

史研究 ︵HistOrica−Studies︶︑相国際研究 ︵InternatiOna−Studies︸国際関係論や地域研究など︶︑国哲学・倫理学   

︵PhエロSOphyaコdくa−ues−法哲学や宗教学などを含む︶︑㈹自然科学 ︵Physica−Scieコ︹e一物理学︑天文学や地学︑  

化学を含む︶︑㈲社会科学・行動科学の七コースで︑学生はそれぞれのコースから二単位以上を取得しなければなら  

ない︒その際︑ミシガン大学と違って︑学生は自分の専攻領域で取る単位も七コース要件に含めることができる︒   

これらの一般科目のほかに︑UCバークレーでも外国語など共通要件科目が設定されている︒その第一は﹁課題  

A要件︵Subje︹tARequireヨent︶﹂とよばれるものである︒これは︑学術的なテーマで報告・発表を行う際に必要  

とされる英語能力 ︵目頭での伝達力および文章作成力︶ を身につけさせるものである︒ただ︑入学段階で既に大学  

が求める水準を満たしている学生は︑英語力向上のための入門科目を免除される︒そこで学生は入学後すぐに﹁課  

題A試験︵SubjectAEパaminatiOn︶﹂というテストを受けて︑学術的な観点からの英語能力を測定される︒その結  

果︑英語能力が要求される水準以下と判定されると︑その学生は直ちに﹁大学レベル作文1A﹂という授業を履修  

Lなければならない︒これは︑文章作成入門コースと︑より程度禦口同い﹁読解・文章作成1A︵ReadingandCOヨpOSitiOn  

−A︶﹂という科目を合体させたもので︑仝﹂ハ単位の集中的な訓練がなされる非常にハードな科目である︒入学時点で  

既に一定の英語表現力を身につけていると判定された学生は︑この科目の入門部分をとばしてただちに﹁読解・文  

章作成﹂ に分類される科目 ︵いくつもの科目がこのカテゴリ1に入る︶ をその1Aと1Bとして二科目受けること  

になる︒読解・文章作成の1Aと1Bに相当する科目は二年次終了までにすべての学生がパスすることを求められ  

ている︒このように︑ミシガンであれUCバークレーであれ︑アメリカの大学ではまずもって大学での勉学にふさ  

わしい口頭・作文両面での英語 ︵すなわち国語︶ 表現力を学生に身につけさせるのである︒   

全学生を対象とした必修科目にはもう一つ︑﹁臼一里的推論能力︵QuantitatiくeReasOniコg︶﹂というカテゴリーがあ  

るが︑その概要はミシガン大学のものと同じなのでここでは立ち入らない︒外国語の要件については︑UCバーク  

山四七   

(24)

岡 法(54一−1)148  

一四八   

レーの場合︑高校で三年間外国語を学び︑最終学年でCマイナス以上の成績を修めた者には大学での外国語履修を  

免除している︒また︑ミシガン大学の ﹁人種と民族﹂ に近いものとしてUCバークレーで全学生の必修とされてい  

るのは︑﹁アメリカの諸文化︵AヨericanC亡−tures︑ACと略称される︶﹂というカテゴリーに入る科目である︒いろ  

いろな学科が開講しているアメリカの文化や人種︑民族に関する科目を一つ受講してCマイナス以上の成績を修め  

ることが求められる︒受講する科目は一︑二年用の入門的なものでも︑三︑四年生用のより専門的なものでもかま  

わない︒また︑﹁アメリカの歴史および諸制度︵AmericaコHistOryandlnstit亡tiOnS︑AH&Ⅰと略称される︶﹂と  

いうカテゴリーに入る科目を歴史学科および政治学科で一つずつとらなければならない︒ミシガン大学の場合と違  

って︑﹁アメリカ﹂が強調されているのは︑移民とその子弟が多く︑人種・民族構成がミシガン州よりもはるかに多  

様なカリフォルニア州の大学だからであろう︒   

本節の最後に︑一般教育重視がリベラルアーツ学部に限らないということを示すため︑ミシガン大学工学部の一  

般教育要件を簡単にみておこうじ 工学部では︑全ての学生に人文科学と社会科学の科目を合計一六単位取得するこ  

とを義務づけている︒そのうちの六単位は︑心理学︑政治学︑経済学といった特定領域のうちの一つで体系的に履  

修し︑かつ︑選択した領域では少なくとも一科目は三年生以上の学生を対象に開講される高度なものでなければな  

らないとしている︒日本でいえば︑工学部の学生が法学部で私法入門の講義を受けるだけでなく︑それに引き続い  

て物権論や債権論といった専門的な講義もとって︑民法に関する体系的な理解と思考力を身につけることが求めら  

れているようなものである︒この一事をみても︑アメリカにおける一般教育が単に入門的な科目をばらばらにとっ  

ておしまいというような単純なものではないことが分かるであろう ︵アメリカの一般教育に関する分析的な研究と  

しては︑吉田文︑一九九九を参照︶︒   

(25)

t49 アメリカの大学制度と法学・政治学教育  

六・ニ 学位・専攻・副専攻   

六二丁一専攻・学位・学位記   

アメリカの大学は︑音楽学部などを例外として︑細かな専門分野に分けて学生を募集するということは通常しな  

い︒もちろん︑入学する前から︑学生が自分は大学で心理学を専攻しようとか環境問題について集中的な勉強をし  

たいといった希望︑あるいは決意をもっていることも少なくない︒しかし︑それはあくまで個々人の主観の問題で  

あって︑入学後一定の段階まではその考えを変えることも自由である︒ここのところは日本の大学制度とは非常に  

違っているので︑リベラルアーツ学部を例にとって説明することにしたいが︑事情は工学部などでも全く同じであ  

る︒すなわち︑工学部で機械工学を専攻するかそれとも生命医療工学を専攻するかといった進路の問題については︑  

入学後これを選択することになるのであるし   

ミシガン大学のリベラルアーツ学部には︑政治学や物理学︑日本学︵JapaneseStudies︶︑女性学︵WOmen﹀sStudies︶  

といった学科が全部で四一ある︒また︑学部教育を行うセンタⅠや研究所が五つ︑レジデンシャル・カレッジ︵Residentia−  

CO−−ege︑一部教月も居住する寮で四年間のリベラルアーツ教育を行う制度︶︑それに八つのプログラム︑計五五の教  

育単位が存在する︒ここでいうプログラムとは狭義のそれで︑例えば応用物理や博物学などといった相互に関連す  

る学科や他学部の教月が集まって作る教育単位である︒これは︑専任教月がいらない分安価に運営できると同時に︑  

学際的な教育も行えるという利点を有しており︑アメリカでは普通にみられる制度である︒なお︑広義のプログラ  

ムは専攻領域の教育プログラムを指し︑一つの学科が複数のプログラムを提供することもある︒結局このような理  

由で数が増えるので︑ミシガン大学リベラルアーツ学部が設置している専攻プログラムは合計で六五にのぼる︒   

入学時点においては︑学生はこれらの教育単位とはいかなるつながりももたないっ 彼らは基本的には先述した一  

般教育の要件を満たす限り︑各学科やセンターの教員が開講する科目を原則として自由に選択できる︒また︑授業  

一四九   

(26)

開 法(う4一1)ほ0  

一五〇   

に出てみた結果関心を持てなかったり自分に合わないと思ったりすれば︑疋の期間内なら受講登録をキャンセル  

して別の授業に登録替えすることもできる∩もちろん授業によっては入門科目や関連科目をすでに履修しているこ  

とが前提とされているし︑教室等の関係で人数制限が設けられることも普通だが︑これはあらかじめ学生の進路を  

制限するという性格のものではない︒   

しかL︑こうして比較的自由に科目選択を行っていく過程で︑学生は六五の教育単位のうちどこに特化して専門  

的な勉学をするのかを考えなければならない︒そして︑遅くとも二年生が終わるまでにはその専門領域を学部に届  

け出て︑その領域で集中的︑体系的な勉学をすることが求められる︒この︑学生が自分を特化させる専門領域のこ  

とを﹁専攻﹂といい︑カリフォルニア大学やワシントン大学などでは∃aj〇rという用語を︑またミシガン人学やハ  

ー バード大学などでは公式にはcOnCentratiOnという用語をあてている 首肯の用語としてはヨajOrという言葉  

も用いられている︶︒また︑専攻を決めて届け出ることを﹁専攻を軍言する ︵dec︼are cOnCentratiOコ〇rヨajOr︶﹂  

というい ただ︑専攻の音言といっても学生が一方的に自分の希望を述べればことが済むわけではないつ 各専攻には  

人数制限があり︑希望者がそれを上回れば成績上位の者しか受け入れてもらえない︒また︑一般教育で所定の科白  

を履修していることを受け入れの条件としている場合も少なくない︒   

いずれにせよ︑学生は二年生の終わりまでには専攻を決めるよう期待される︒しかし︑入学前から何を専攻する  

か決めていて一年次の自由選択期間にもその決意が変わらなかった学生ならともかく︑学科やプログラムの様†が  

よくわからないなかで自分の進路を決めることは必ずしも容易なことではない︒ミシガ︑/大学リベラルアーツ学部  

政治学科のホームペー∴ゾに掲載されている専攻選択に関するアドバイスは︑この点に関して﹁学生の大部分は︑大  

学で何を専攻すべきなのか︑卒業後の目標をどこにおいたらいいのかあまり分からないまま大学に人ってくる︒⁝⁝  

大部分の学生は︑五つも六つもの専門領域のあいだで迷った揚げ句ようやく専攻を決めることができるものだ﹂と   

参照

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