早稲田大学大学院 先進理工学研究科
博士論文審査報告書
論 文 題 目
Fast, High-Yield Fabrication Processes
of Low-Resistivity, Flexible Carbon Nanotube Films 低抵抗カーボンナノチューブ・フレキシブル膜の
高速・高収率作製プロセスの開発
申 請 者
Hiroyuki SHIRAE 白江 宏之
先進理工学専攻 応用化学研究Ａ
2018 年 2 月
1
本 学 位 論 文 で は 、 カ ー ボ ン ナ ノ チ ュ ー ブ( C N T )を 対 象 に 、 そ の 合 成 、 分 散 、 塗 布 に よ る 低 抵 抗 フ レ キ シ ブ ル 膜 の 高 速 ・ 高 収 率 作 製 プ ロ セ ス の 開 発 を 目 的 と し て い る 。 フ レ キ シ ブ ル 透 明 導 電 膜 は C N T の 重 要 な 応 用 先 の 一 つ と し て 盛 ん に 研 究 さ れ て き た が 、 そ の 多 く は 性 能 向 上 を 主 眼 と し 、 生 産 性 や 収 率 を 考 慮 し た プ ロ セ ス 開 発 は 遅 れ て い る 。 本 学 位 論 文 で は 、 液 相 で の 物 理 操 作 と 気 相 で の 化 学 反 応 に 対 し 、ナ ノ ス ケ ー ル で 現 象 を 理 解 し 装 置 お よ び プ ロ セ ス の 開 発 へ と 繋 げ 、 質 と 量 の 両 立 を 図 っ た も の で あ る 。
第 一 章 で は 先 行 研 究 お よ び 関 連 技 術 を 概 説 し 、 そ の 内 容 を 踏 ま え 、 第 二 章 で は 本 論 文 の 目 的 を 説 明 し て い る 。 第 三 章 で は 、 高 結 晶 性 の C N T が 未 だ に 高 価 な 現 状 を 踏 ま え 、 高 ス ル ー プ ッ ト 合 成 の た め の 基 礎 技 術 を 開 発 し た 。 火 炎 法 に よ り 1 0 秒 ス ケ ー ル で 合 成 さ れ た( C o O )x( A l2O3)1 –x ナ ノ パ ウ ダ ー を 触 媒 と し 、1 0 秒 ス ケ ー ル ・1 0 0 0 ° C 前 後 の 高 速 ・ 高 温 操 作 に よ り 触 媒 活 性 化 と C N T 合 成 を 検 討 し た 。C o 過 剰 の ナ ノ パ ウ ダ ー は C o O の 表 面 偏 析 と 還 元 に よ り 速 や か に 活 性 化 で き 、 高 結 晶 性 の C N T を 合 成 で き る こ と を 示 し た 。 ナ ノ ス ケ ー ル で の 現 象 解 明 は 学 術 的 に 、1 0 秒 ス ケ ー ル で の 触 媒 調 製 は 工 学 的 に 、価 値 が 高 い と 評 価 で き る 。 第 四 章 で は 、C N T の 分 散 に お け る 質 と 量 の 間 の ト レ ー ド オ フ を 説 明 し 、 そ の 解 決 法 を 提 案 ・ 開 発 し た 。C N T 凝 集 体 を 界 面 活 性 剤 水 溶 液 に 添 加 、 短 時 間 の 超 音 波 照 射 で 弱 く 分 散 し 、遠 心 分 離 に よ り 上 澄 み を 分 取 し 薄 膜 作 製 に 利 用 し 、 沈 殿 物 に 界 面 活 性 剤 水 溶 液 を 添 加 し て 分 散 に 再 利 用 す る 繰 り 返 し プ ロ セ ス で あ る 。 こ の 方 法 で 、 界 面 活 性 剤 水 溶 液 利 用 で は 最 高 性 能 の 透 明 導 電 膜 を 収 率 9 0 %以 上 で 実 現 、ま た パ タ ー ン 濾 過 法 に よ り C N T パ タ ー ン の ロ ス フ リ ー 印 刷 も 実 現 し た 。 加 え て 、 分 散 し た C N T を 分 取 す る こ と で 凝 集 体 の 分 散 が 促 進 さ れ る こ と 、 質 と 量 の 両 立 に は 分 散 し た C N T を 速 や か に 系 外 に 取 り 出 す こ と が 重 要 と 明 ら か に し た 。 こ れ ら の 現 象 解 明 は 学 術 的 に 、 質 と 量 を 両 立 す る プ ロ セ ス は 工 学 的 に 、 価 値 が 高 い と 評 価 で き る 。 第 五 章 で は 、 第 四 章 の 知 見 を も と に 連 続 分 散 プ ロ セ ス を 開 発 し た 。 回 分 操 作 で は 、 超 音 波 照 射 以 外 の 操 作 に 多 く の 時 間 が 必 要 で あ り 生 産 性 が 低 い 。 そ こ で 、 超 音 波 分 散 槽 の 底 部 に 金 属 メ ッ シ ュ を 設 け 、 分 散 槽 に C N T 凝 集 体 を 含 む 界 面 活 性 剤 水 溶 液 を 連 続 供 給 し 、 分 散 槽 に て 凝 集 体 の 分 散 と 分 散 し た C N T の 分 取 を 同 時 に 行 っ た 。 分 散 槽 中 の 溶 液 の 滞 留 時 間 で C N T の 分 散 時 間 を 制 御 で き 、 回 分 操 作 で の 最 適 値 3 分 程 度 が 連 続 操 作 で も 好 適 と 確 認 し た 。プ ロ セ ス 全 体 の 時 間 を 超 音 波 照 射 に 用 い る こ と で 生 産 性 を 大 幅 に 向 上 、1 L の 小 型 分 散 槽 で 6 0 万 m2/年 の 透 明 導 電 膜 に 必 要 な 分 散 液 を 調 製 で き る と 見 積 も っ た 。良 質 の C N T 分 散 液 の 高 速 ・ 高 収 率 分 散 は 、工 学 的 に 価 値 が 高 い と 評 価 で き る 。
以 上 、C N T の 合 成 、 分 散 、 塗 布 に よ る フ レ キ シ ブ ル 導 電 膜 作 製 に お い て 、 高 速 な 触 媒 活 性 化 と 高 結 晶 性 C N T 合 成 、良 質 な C N T 分 散 液 の 高 収 率・高 速 調 製 、 お よ び 低 抵 抗 C N T 膜 の 高 収 率 ・ 簡 易 製 膜 を 実 現 し た こ と が 、 本 論 文 の 工 学 的 価 値 と 言 う こ と が で き る 。 よ っ て 本 論 文 は 、 博 士 （ 工 学 ） の 学 位 論 文 と し て 価 値 あ る も の と 認 め る 。
2 0 18 年 1 月
2 審 査 員
（ 主 査 ） 早 稲 田 大 学 教 授 博 士 （ 工 学 ） 東 京 大 学 野 田 優 （ 署 名 ）
早 稲 田 大 学 教 授 工 学 博 士 早 稲 田 大 学 平 沢 泉 （ 署 名 ）
名 古 屋 大 学 教 授 博 士 （ 材 料 科 学 ） 北 陸 先 端 科 学 技 術 大 学 院 大 学 竹 延 大 志
（ 署 名 ）
富 士 フ イ ル ム 株 式 会 社 工 学 修 士 東 京 工 業 大 学 五 十 嵐 達 也 （ 署 名 ）
早 稲 田 大 学 教 授 博 士 （ 工 学 ） 早 稲 田 大 学 小 柳 津 研 一 （ 署 名 ）
