平成22年 3 月 1 日 91
症例報告
PEDIATRIC CARDIOLOGY and CARDIAC SURGERY VOL. 26 NO. 2 (187–190)
別刷請求先:〒857-4404 長崎県南松浦郡新上五島町青方郷 1549-11 上五島病院 山本 浩一
平成20年10月6日受付 平成21年12月1日受理
TCPC 後遠隔期のうっ血性肝障害の 1 例
山本 浩一,本村 秀樹,森内 浩幸
長崎大学病院小児科
A Case of Congestive Liver Injury as a Late Sequela of TCPC
Hirokazu Yamamoto, Hideki Motomura, and Hiroyuki Moriuchi Department of Pediatrics, Nagasaki University School of Medicine, Nagasaki, Japan
A 10-year-old girl was reassessed for detailed cardiovascular problems. She underwent an extracardiac total cavopulmonary connection (TCPC) at 4 years of age, following staged operations with banding of pulmonary artery and bidirectional Glenn anastomosis for single ventricle. She had been on anticoagulant therapy after TCPC. She did not have any apparent cardiovascular problem except malaise upon exercise. Blood studies did not show elevation of liver enzymes, but an enhanced CT scan revealed heterogeneous hepatic parenchymal enhancement, multiple hypervascular nodules in the liver, and splenomegaly, which suggested progression to congestive liver injury. The central venous pressure was 14 mmHg, which was slightly high for Fontan circulation. But angiography did not show any remarkable blood flow congestion or thrombosis around the conduit. Congestive liver injury should be considered as a late complication of right heart bypass surgery including TCPC that warrants careful observation and prompt therapy.
要 旨
症例は単心室に対し肺動脈絞扼術,両方向性Glenn手術の段階手術を経て4歳時に心外導管型上下大静脈肺動 脈吻合術(extra cardiac TCPC)を施行された女児である.以後抗凝固療法を継続し,運動時倦怠感を感じる以外は循 環器系に大きな問題はなかった.10歳時に再評価を行ったところ,血液検査で肝逸脱酵素の上昇はなかったが,
造影CT検査では肝臓の造影効果がまだらで,複数の過形成結節と思われる病変が認められた.脾臓腫大も認め,
うっ血性肝障害が示唆された.中心静脈圧は14 mmHgでFontan循環としてやや高値であったが,造影検査上グラ フト前後の血流うっ滞は著明でなく,血栓も認めなかった.右心バイパス手術後はTCPC例においても遠隔期で の肝臓障害を念頭に置いて経過を追う必要があると思われた.
Key words:
single ventricle, total cavopulmonary connection (TCPC), congestive liver injury
はじめに
二心室修復が困難な複雑心奇形も,Fontan手術およ びその改良型の上下大静脈肺動脈吻合術(total cavopul- monary connection:TCPC)が行われるようになり,小児 期における生命予後,QOLは改善した.しかし,こ れらの右心バイパス手術では肺循環に駆動ポンプを有 さない特異な循環状態となるため,慢性的な右心系の うっ血が問題になる.その結果,遠隔期の患者では不整 脈,蛋白漏出性胃腸症,浮腫,血栓症などの合併症が見 られる1).TCPCは,特に心外導管型(extra cardiac)で は静脈還流に右心房を介さないために従来からのFon-
tan手術よりうっ血が起きにくいとされている2).しか しわれわれはTCPC後6年の遠隔期に特異な画像所見 と検査所見を認め,うっ血性肝障害が明らかになった 女児例を経験したので報告する.
症 例 1.症例
10歳,女児.
2.家族歴
父親,腎臓癌手術にて再発なし.
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大動脈弁および右側大動脈弓以外の大動脈の異常はな かった.また気管支動脈などの肺への側副血行路は明 らかでなかった.右心系では,下大静脈および肺動脈 に血栓はなく(Fig. 2),平均中心静脈圧は14 mmHg,
肺動脈圧,肝静脈楔入圧も同様に13〜14 mmHgと TCPC循環としてはやや高値であった.肺動脈楔入圧
は9 mmHgと正常で,右左シャント血流はなかった.
7.治療経過
以上からTCPC循環は比較的良好に成立していると 考えた.一方,肝臓に関しては慢性的な右心系のうっ血 の影響による肝障害と診断した.血栓症の危険はある ので,warfarinによる抗凝固療法を継続し,今後の長期 的心負荷低減のためにACE阻害薬の投与を開始した.
利尿薬は,右心系うっ血の軽減を期待して増量した.
その後中等度以上の運動を禁止として1年間経過を 観察したところ,心臓や肝臓由来と思われる症状は認 められなかった.1年後の血液検査でやはりAST,
ALTは正常範囲内で,ビリルビン値の上昇は認めない が,IV型コラーゲン精密測定で221 ng/ml(正常値140 以下)と高値であった.また,肝臓の造影CTでは,
造影された腫瘤はわずかに増大していた.
考 察
Fontan手術後は,特異的循環動態のため慢性的な右 心系のうっ血を来す.その結果,蛋白漏出性胃腸症,
浮腫,血栓症などが従来問題となっていたが,1980
年代のLemmerらの報告以降,長期観察例が増加する
に伴い肝障害の報告が増えてきた3).
一部には輸血によるウイルス性肝炎の影響もある が,最近の多くの症例はFontan循環に伴う中心静脈 圧の慢性的増大とそれによる下大静脈および肝静脈の うっ血に起因すると考えられる.その数は,手術後経 3.現病歴
在胎37週1日,出生体重2,950 gであった.3生日に チアノーゼに気づかれ,心臓超音波検査にて単心室と診 断された.内臓心房錯位の併発は認められなかった.生 後1カ月で他院に入院となり,心房中隔裂開術(BAS)お よび肺動脈絞扼術を施行され退院した.さらに2歳11 カ月時に両方向性Glenn手術,4歳11カ月時に気管支 動脈の塞栓術を施行され,その後TCPC(下大静脈−
肺動脈GoreTexグラフトによる心外導管)および心房
中隔欠損(ASD)拡大術を施行された.その後はwarfarin による抗凝固療法および少量の利尿薬投与を継続され た.6歳時から当科で経過観察となった.激しい運動 は避けているが,時折倦怠感を感じる状態である.今 回病状の再評価が必要と考え精査目的で入院となった.
4.既往歴
5歳時に細菌性腎炎に罹患した.その後腎機能は回復 し後遺症は残さなかった.同時期に,頭部造影CT検査 にて左内頸動脈の無形成などの脳血管異常を指摘された.
5.入院時現症
身長148 cm,体重45 kg.血圧108/70 mmHg,心拍
数80 bpm.経皮的動脈血酸素飽和度94%.結膜に貧
血や黄疸を認めなかった.頸静脈怒張もなかった.胸 部聴診所見でII音が単一であるが,心雑音は聴取しな かった.また呼吸音に異常を認めなかった.腹部はわ ずかに膨満気味で肝臓を2横指弾性軟に触知したが,
圧痛は認めなかった.下肢に浮腫を認めなかった.
6.検査所見
血液検査(Table 1)にてASTとALTは正常範囲内 で,ビリルビン値上昇や低蛋白血症も認めなかった.
BNP 13.8 pg/mlも正常で,凝固機能はPT-INR 1.39と 抗凝固療法を反映して延長していた.D-dimer 0.5 eg/ml と血栓形成傾向はなかった.肝炎ウイルスについては HBs抗原,HCV抗体はともに陰性であった.胸部X 線写真では,心胸郭比51%で肺うっ血を認めなかっ た.心電図検査では,75 bpmの洞調律でPQ間隔,
QRS幅は正常で心室肥大を認めなかった.
造影CT検査(Fig. 1)で,TCPC導管や肺動脈内に明 らかな血栓はなく,肺血流は良好と考えられた.肝臓 は右葉が萎縮し左葉が腫大して,造影効果はまだら で,過形成結節と思われる複数の濃染する腫瘤を認め た.脾臓は腫大していた.
心臓カテーテル検査で,心室収縮機能は駆出率80%
と良好であった.軽度の僧帽弁閉鎖不全を認めたが,
Table 1 Blood examination WBC 8,800 /el
Hb 16.3 g/dl
Hct 48.7%
Plt 16.8×104 /el PT-INR 1.39
APTT 35.0 sec D-dimer 0.5 eg/ml BNP 13.8 pg/ml CRP 0.05 mg/dl
Na 138 mEq/l
K 4.6 mEq/l
Cl 106 mEq/l BUN 10 mg/dl Cr 0.58 mg/dl AST 24 IU/l ALT 28 IU/l T-bil 0.8 mg/dl TP 8.0 g/dl Alb 4.5 g/dl
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年的に増加するとの報告がある4,5).
Ghaferiらは,Fontan手術後数時間から最長18年後 にさまざまな原因で死亡した9例の剖検例で肝臓の病 理学的検討を行った6).慢性受動性うっ血は7例(術後 数時間〜18年)に,うっ血性肝硬変は4例(術後4〜18 年)に認められ,右房圧と慢性受動性うっ血の範囲に 明らかな相関を認めた.術後長期例では腫瘍性病変の 合併もあり,うっ血性肝硬変を起こした症例中術後9 年の1例に肝腺腫を認め,また別の術後18年に肝細 胞癌を合併した1例を報告している.また,Kiesewetter らはFontan術後遠隔期にextracardiac TCPC術への変 換のため紹介されてきた12例(15.8〜43.4歳)で,肝 障害を組織学的および画像的に検討した.彼らの報告 によると,うっ血性肝硬変は7例で認められ,うち胃 食道静脈瘤を4例,画像上過形成結節を2例に認め た.中心静脈圧は肝硬変例で16.4w6.1 mmHgあった が,非肝硬変例では11.3w2 mmHgと差を認めた5).本 邦からは,池本らのFontan手術14年後にうっ血性肝 硬変を来した症例の報告7)があるが,検索した限りで はまとまった報告は少ない.
最近の多くのFontan手術例では,自験例のように TCPCが採用されるようになり遠隔期での静脈系の うっ血が回避されることが期待されている.しかし自 験例では,同手術後6年でうっ血性肝障害が明らかに なった.自験例は心不全症状もなく,チアノーゼ所見 も認めなかった.また血液検査上肝酵素の上昇もなく 良好な経過が示唆されたが,造影CT検査で肝臓の造 影効果はまだらで,複数の過形成結節と思われる造影 された腫瘤を認め,脾臓は腫大していたことから,
うっ血性肝障害と診断した.組織検査は施行していな いため,現段階で肝硬変と診断してはいないが,肝線
維化マーカーであるIV型コラーゲン精密測定は高値 で,線維化は進行しているものと考えた.心臓カテー テル検査のデータおよび右心造影所見に血流うっ滞や 血栓などの問題なくTCPC循環として良好な経過と考 えられたが,やや高値の14 mmHgであった中心静脈 圧が6年にわたって継続したことが,うっ血性肝障害 発症の一因となったと考えざるを得ない.TCPCに関 する歴史は浅く,同手術施行症例の長期遠隔例はまだ 多くないこともあり,中心静脈圧の高さや術後の経年 時間がうっ血性肝障害の発生に及ぼす影響については 不明な点が多く,今後の検討が待たれる.
また自験例では,造影CT検査にて濃染する複数の 過形成結節を認めた.組織検査は施行していないが,
この過形成結節の組織としてわれわれは 限局性結節 性過形成(focal nodular hyperplasia:FNH)に相当するも
a b
Fig. 1 Enhanced CT image.
a: Multiple hypervascular nodules are seen in bilateral lobes of the liver.
b: Heterogenous hepatic parenchymal enhancement, designated as pseudolobules , is shown.
Fig. 2 IVC angiogram shows preserved blood flow to pulmonary arteries via extracardiac conduit without apparent congestion or thrombosis.
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のでないかと考えた.FNHの成因として血栓形成等 の血管血流異常を原因とした肝実質における限局性の 虚血性障害に対する代償性再生(過形成)説が有力視さ れている8).前述のように,Fontan循環では右心系駆 動ポンプの欠損から慢性的肝うっ血が起き,肝全体の ドレナージが持続的に障害されている.その結果,慢 性的に門脈血の流入が減少した状態にあると考えられ る.こうした肝内血行動態の変化がFNH様の過形成 結節を生じたものでないかと推察された.FNHは
Fontan手術例と同じくうっ血性肝硬変を来すBudd-
Chiari症候群の組織検査などでも報告がある.通常は
1〜2 cm以下であるが肝硬変において見られる他の再
生結節より大きく9),病状が改善しない限り進行し,
そこを母地として肝細胞癌が発生することもある10).
Fontan手術後のうっ血性肝障害においても肝細胞癌の合
併が報告されており,注意深い経過観察が必要になる.
したがって今後は,自験例も含めTCPC遠隔期の症 例はうっ血による肝線維化の進行による肝硬変症状の 出現や肝細胞癌の発症のリスクを考え,観察加療して いくことが重要である.血液検査では,肝トランスア ミナーゼ値は変動が少なく,抗凝固療法中のためプロ トロンビン時間など凝固マーカーも有用な指標になら ない.コリンエステラーゼ,アルブミン値などの肝予 備能,血中IV型コラーゲン,ヒアルロン酸などの肝 線維化指標を観察していく必要がある.画像所見では 腹部超音波検査の有用性の報告もあるが11),本例では 癒着などによる描出能の問題から,FNH様病変を含 め超音波検査による方針決定には限界があった.
TCPC例では,本例のような術後癒着や無脾症,対称 肝などの内臓心房錯位の併発例もあり,超音波検査に よる肝画像評価には限界があるかもしれない.造影検 査を含めたCTやMRI検査によって,癌化を含めた肝 組織性状の変化に注意していく必要があると思われ た.生検による組織検査は,自験例を含め多くの症例 で抗凝固療法がなされていること,肝内病変が均一で ないことから,一般的には行われていない.
現在,画像検査で肝うっ血が疑われた症例に対する 遠隔期での治療にコンセンサスはない.血栓症など導 管機能不全があれば,外科的介入の可能性があるが,
内科的薬物療法に関してはbosentan,sildenafil12)等の 肺血管拡張薬,酸素療法等によるうっ血軽減は有用か もしれないが確立されたものではなく,今後の検討が 待たれる.また,長期的な肝病変の進行例では心臓,
肝臓移植も検討を要することになる13).自験例におい ては,ACE阻害薬投与の開始,利尿薬の増量で経過 を見ていくこととしている.
結 語
TCPC術後6年の遠隔期にうっ血性肝障害を認めた 症例を報告した.今後は従来からのFontan手術と同様,
TCPC例でも非生理的肝循環の結果,うっ血性肝障害 は起こり得ると考えて,注意深く診療に当たる必要が あると思われた.そのための遠隔期での画像的検索法 や,うっ血性肝障害例での治療法の検討を行う必要が あると考えられた.
【参 考 文 献】
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