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視点 規範意識を育てる

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Academic year: 2021

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(1)

視点 規範意識を育てる

著者 近喰 ふじ子, 佐藤 明穂

雑誌名 東京家政大学附属臨床相談センター紀要

巻 15

ページ 83‑87

発行年 2015‑03

出版者 東京家政大学附属臨床相談センター

URL http://id.nii.ac.jp/1653/00010095/

(2)

はじめに

筆者はN区(教育相談員をお願いされている)

A小学校の校長から「規範意識について」話し

て欲しいとの依頼を受けた。久しく忘れていた 懐かしい響きの言葉であった。今、この事が各 小学絞の校長間で問題としてクローズアップさ れているのかも知れないと思われた。そこで、

改めて規範とは何かを調べてみることにした。

橋口は、人間が成長するにおいて社会の構成 員としての社会規範を学習していなければなら ず、そのためには教育が重要な意味を成すと記 載している1)。すなわち、人間が人間らしく生 きるための基準を提供するための規範の存在は 道徳であり、いつの時代も、どこの社会におい ても普遍的な価値として存在しているというの である。では、道徳が規範にとって重要な意味 を持つとするのは如何なる理由からなのであろ うか?道徳や道徳性の問題は、人間が幸せな人 生を享受できるように人間尊重の精神にのっと り、その行為に正邪善悪の基準を与えようとす るところに発するようで、学問するということ 自体の中にすでに道徳の問題が関わっていると

も述べている1)

そこで、与えられたテーマを踏まえ、女子大 学生の規範意識について調査したので報告す る。

対象・方法

平成24年、本学大学3年生を対象に「規範意 識」質問紙を77名に配布した。但し、欠席者7 名の他に欠損者6名と白紙提出者2名がいたた め実質対象者は65名(84.42%)となった。新た に、平成26年、大学2年生を対象に同じ内容 の「規範意識」質問紙を71名に配布した。但し、

欠席者3名の他に未提出者5名がいたため実質 対象者は63名(88.73%)となった。白紙提出者 や未提出者がいたことは、筆者にとって初めて の経験であり、質問紙の内容に抵抗を感じたか らであろうかと思った。

結 果

質問項目の1~5は決まりに関する質問であ る。今回、集計に際し、“いつもそう思う”、

“少しそう思う”と回答した者を肯定者として集 計した。

「決まりを守る方だ」を肯定的に捉えていた学 生は、平成24年は46名(70.77%)、平成26年は 51名(80.95%)で、合わせて97名(75.78%)あっ

規範意識を育てる

近喰 ふじ子

1)

佐藤 明穂

2)

A study of factor in the normative consciousness Fujiko KONJIKI Akiho SATO

視 点

1)東京家政大学人文学部心理カウンセリング学科 心身医学研究室

2)東京家政大学人文学部心理カウンセリング学科資料室

(3)

規範意識を育てる

た。70%代は多いか?少ないか?決まりを守る のは当たり前だと思っている者にとっては十分 な頻度とはいえないであろう。20%弱の学生は 決まりを守る必要はないと考えているようで、

決まりがある事に対しどう考えているのかと思 う。決まりが必要なのはどうしてなのか?とい う基本的な問題に遭遇した事がないのだろうと も思われた。では、「決まりは意味があり、重 要である」の問いでは、肯定者は前者が38名

(58.46%)、後者が50名(79.36%)で、合わせて 88名(68.75%)で、決まりを守る事は大切・重 要と考えている学生は 70%に満たなかった。

そこで、「決まりを守るのは自分のため」の問い に対し、肯定していた学生は前者では 36 名

(55.39%)、後者では43名(68.25%)で、平均69 名(53.9%)であった。そして、12名(18.8%)

の学生は自分のために守るのではないと考えて おり、決まりを守るのは何のため?誰のため?

に守ろうとするのかという考えが必要なのであ ろうか?決まりを守る事をどう捉えているので あろうか?考えさせられる。決まりを守るとい う事を受け入れていない学生が相当数いる事実 は社会生活の上でも大きな問題である。決まり を守る事は親や教師から常々言われてくる事で ある。家庭での躾、学校での道徳の中で自然に

身に付けてくる事である。そこで、「親や先生 の意見には従う方がよい」では、前者は26名

(38.46%)、後者は31名(49.21%)で、合わせて 57名(44.53%)であった。肯定している学生は 半数にも及んでいなかった。親や教師・教員は 権威を喪失したのか?信頼されなくなったか?

と考えざるをえない。さらに、学生の基本であ る「遅刻はしてはいけない」をみてみると、前者 は51名(78.46%)、後者56名(88.89%)で、合 わせて107名(83.59%)であり、8割前後の学生 は遅刻がいけないと思っている事は分かった が、1割の学生は遅刻がいけないとは思ってい ないという事実にも出会った。また、「まかさ れた仕事は最後までやり遂げなくてはならな い」の質問に対し、前者は63名(98.89%)、後者 は59名(93.65%)とほぼ同頻度で、合わせて 122名(95.31%)と90%以上の学生が支持してい た。課題達成型の学生が大半を占めている事か らも頷ける頻度であった。さらに、「間違ったこ とをしたら、あやまらなくてはならない」では、

前者は63名(96.93%)、後者は61名(96.83%)ほ ぼ同頻度であり、合わせて124名(96.88%)で、

間違った事に対する謝罪の意味は理解している ようであった(表1)。

表1.平成24,26年度の「規範意識」質問項目の頻度と割合(%)

質問項目 いつもそう思う 少しそう思う

平成 24 年度 平成 26 年度 平成 24 年度 平成 26 年度 1.決まりは全部、意味があって重要だ 11(16.92) 18(28.57) 27(41.54) 32(50.79)

2.決まりはよく守る方だ 15(23.08) 12(19.05) 31(47.69) 39(61.90)

3.決まりがあるのは当たり前だ 23(35.38) 17(26.98) 33(50.77) 32(50.79)

4.決まりを守るのは自分のためだ 14(21.54) 11(17.46) 22(33.85) 32(50.79)

5.決まりに対して不満はない 5( 7.69) 2( 3.17) 18(27.69) 17(26.98)

6.言葉使いに気をつけている 16(24.62) 15(23.81) 24(36.92) 33(52.38)

7.自分のものも他の人のものも大切に扱うべきだ 40(61.54) 46(73.02) 24(36.92) 16(25.40)

8.まかされた仕事を最後までやり遂げなくてはならない 41(65.04) 32(50.79) 22(33.85) 27(42.86)

9.間違ったことをしたら、あやまらなくてはならない 48(73.85) 46(73.02) 15(23.08) 15(23.81)

10.親や先生の意見には従う方がよい 7(10.77) 4( 6.35) 19(27.69) 27(42.86)

11.遅刻してはいけない 24(36.92) 42(66.67) 27(41.54) 14(22.22)

(4)

考 察

昔はどうであったのかは分からないので、今 回の結果との比較は難しいが、筆者なりに、少 なくとも規範の意識が薄れてきていると考えて も良いのではないかと思う。規範意識は学年が 上がるにつれて低下し、社会の環境による影響 が大きいと吉田は述べている2)。ここでは、

「規範」ないしは、「規範意識」などについて述べ てみることにする。

1.「規範」の考え方

規範には外的規範と内的規範があり、前者は 法律や校則など外からの強制による規範のこと であり、社会生活のルールやマナー、家のしき たり、地域の風習などをさしている。一方、後 者はこころの中にあるもので、「こうありた い」、「こうしてはいけない」と望む気持ちで、

個人の良心や信念の命じる規範のことである。

内的規範は外的規範が存在しなければ成立しな いと考えられている。従来、外的規範といわれ ているものは、家庭や地域などで共通の規範と して育てられていたのであり、内的規範は読 書、友人や学校教育などを通じて人として成長 させてきたものである。規範意識の消失や欠如 は何故にここにまで至ってしまったのだろう

か?考えられることは、①親自身が規範意識を 消失、欠如してしまっている(親を育てた親に 責任があると考えられる)、②地域の結びつき が希薄化し、地域の住民たちの共同意識が消 失、欠如している(個人主義や「個」の存在がク ローズアップされた)、③学校教育の中では、

先生に対する尊敬が消失、欠如している など があげられる(親自身が教師化してきている)。

では、規範意識が低下してきた、育ちにくい 理由は何であろうか?上記の①~③にも書いた が、さらに列擧してみよう。

(1)「個」の尊重

(2)集団意識の薄れ(集団より個人という考え)

(3)早期の課題教育の慣れ

(4)少子化(王子様、お姫さま症候群)

(5)個室化(自己コントロールの低下)

(6)家庭の希薄化(家庭間での衝突を避ける)

(7)子育てに自信のない両親の増加

(8)マスメディアの視聴率との戦い

(9)偉人の蹴落とし化

(10)自己愛の環境

以上を概観してみると、文化(環境)による人 間の変化が関係しているようにも思える。

ところで、先にも述べたように、社会環境や社 会システムが規範意識の低下の根幹であるとす

N=128

どちらともいえない あまり思わない 全然思わない

平成 24 年度 平成 26 年度 平成 24 年度 平成 26 年度 平成 24 年度 平成 26 年度 22(33.85) 9(14.29) 3( 4.62) 4( 6.35) 2( 3.06) 0 13(20.00) 7(11.11) 6( 9.23) 4( 6.35) 0 1( 1.59)

8(12.31) 10(15.87) 1( 1.54) 4( 6.35) 0 0

24(36.92) 13(20.63) 5( 7.69) 7(11.11) 0 0

29(44.62) 26(41.27) 13(20.00) 17(26.98) 0 1( 1.59)

14(21.54) 9(14.29) 11(16.92) 6( 9.52) 0 0

1( 1.54) 1( 1.59) 0 0 0 0

1( 1.54) 3( 4.76) 1( 1.54) 1( 1.59) 0 0

2( 3.08) 1( 1.59) 0 1( 1.59) 0 0

34(52.31) 24(38.10) 6( 9.23) 7(11.11) 0 1( 1.59)

8(12.31) 3( 4.76) 6( 9.23) 3( 4.76) 0 1( 1.59)

(  )%

(5)

規範意識を育てる

る吉田の考えをみてみると、一つは共同体社会 が崩壊し、生活空間が拡大したことにより、相 互監視システムが機能しなくなり、対人関係や 社会関係機能力が低下していると自分と気の 合った仲間だけで社会を作り、それ以外の人た ちには関心を示さなくなってしまったという点を あげ、もう一つは情報化社会へ突入し、価値観 の多様化がすすみ、個人の価値判断が優先され る社会になってしまった点などをあげている2)。 徐々に社会・環境が変化したのではなく、早い スピードで変わらされた社会・環境の変化それ 自体が人間の精神生活をも危ういものへと変え てしまったのであろう。

2.人が成長(発達)すること

子どもが成長していく過程を振り返ると、小 集団の環境である家庭に出会う。家庭には両 親、祖父母、きょうだいの存在に気づき、それ らの人たちとの関係性を通じ、次の階段を上 る。すなわち、愛情、危険、善悪などの判断を 身に付け、その思いを受け取り・必要ないもの は排除させられる。スターンは、赤ん坊は産ま れた直後から自我を育て、その事から発達課題 から自己感へと考え方が移行したと言ってい る。このように、自己体験のパターンが各々の 自己感の領域内でどう確立していくかであると

述べている3)。この事を考えれば、赤ん坊だか らといって傍で夫婦喧嘩をしたり、人の悪口を 言ったりするのは改めるべきであろう。この時 期のこころの醸成を基本に、更なる人間関係を 通じて発達していくからである。さらに、発達 とは(1)身体的・形態的な側面の変化、(2)行 動やパーソナリティなど心理的・社会的な側面 の変化があげられる。生得的な要因を基礎に、

環境的な要因が関わり、発達する。それに、さ らに学習が加わっていくのである。では、発達 は進化するのかと問われれば、発達はランダム な変化ではなく、一定の方向性を持った量的で 質的な連続的な変化である。また、増大と発展 における衰退も発達の一部である。人間は誕生 から死の直前まで発達し続けるのである。しか し、個人差は大きい。また、学習も大きく関 わってくるわけだが、このような学習や経験の 結果、比較的永続的な行動の変容が起こること も意味している。ここでの学習は(1)勉強や学 問に関わる狭義の学習だけでなく、(2)人間が 環境との相互作用を通じて学び取り、身につけ る行動の全てを学習とみる広義の学習であり、

学習とは何かの答えである。すなわち、人間が 順調に成長していくためには、発達、環境、学 習が重要と考えられる(図1)。筆者は何年前だ か覚えていないが、だいぶ前だと記憶してい

(6)

る。“皆で渡れば怖くない”のキャッチフレーズ で

TV

に飛び出してきた漫才3人組の言葉の辺 りから子どもたちが変わったと感じている。こ のような出来事はマスコミの先取りとも言える が、マスコミが人を変えていく要因になるのだ と実感した時でもあった。

3.規範意識を育てる

滝は規範意識を育てるのは学校教育でしかな いと言い、他者と関わる感情の乏しさを育てる 事だと述べている。感情の乏しさは体験不足で あるが故、治療的対応ではなく教育的対応の必 要性が重要なのだと説き、社会的スキルやコ ミュニケーション能力の訓練などで身につくも のではないと報告している。さらに、自己肯定 感、自尊感情、自己存在感などではなく、他者 と交流して得られる「自己有用感」という感情が 重要であると言っている。なぜなら、「自己有 用感」が獲得されれば、少しの不満をも抑え、

社会の一員である事を自覚させられると言うの であり、教育の力が大きいと述べている4)。ま さしく前頭連合野の働きそのものであり、筆者 がつねづね遊戯療法の講義の中で話している遊 びの重要性の指摘に通じることでもあり、遊び を通じて自己と他者との関係性の育みを通じて 大脳辺縁系への働きかけを生じさせていること に他ならないと実感したのであった。

では、いったいどうすれば「自己有用感」を 育て、育む事ができるのであろうか?

滝は「お世話活動」を取り上げている。ここ ではその活動内容は述べないので、文献を参考 にしていただきたい。

今回のこのテーマは筆者に依頼のあったもの であったが、小学校教育の中で、今、新たに規 範意識がクローズアップされその取り組みが開 始されようとしているのかも知れない。更なる

この取り組みが増すことを期待したい。

文 献

1.橋口英俊(編):児童発達の心理学、小林出 版、1982

2.吉田俊和、廣岡秀一、斉藤和志(編):21世 紀型授業づくり48 教室で学ぶ「社会の中 の人間行動―心理学を活用した新しい授業 例―」、明治図書、2002

3.D.N.スターン(著):乳児の対人世界―臨床 編―、小此木啓吾、丸田俊彦、他(訳)、岩 崎学術出版社、1991

4.滝 充:文部科学省委託研究「児童生徒の 社会性を育むための生徒指導プログラムの 開発」(http://www.nier.go.jp/shido/syakaisei/

index.htm/)

参照

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