九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
弱束縛核の動的性質と静的性質
渡邉, 慎
https://doi.org/10.15017/1654646
出版情報:Kyushu University, 2015, 博士(理学), 課程博士 バージョン:
権利関係:Fulltext available.
(様式3)
氏 名 :渡邉慎
論 文 名 : Dynamic and Static Properties of Weakly-bound Nuclei ( 弱束縛核の動的性質と静的性質 )
区 分 : 甲
論 文 内 容 の 要 旨
近年の不安定核ビーム技術の進歩は、安定線から遠く離れた不安定核の性質を探ることを可能に した。不安定核は魔法数の消失やそれに伴う巨大な変形といった、安定核には見られない性質を示 す。特に中性子ドリップライン付近では、数個の核子が芯核から極端に離れて運動する“ハロー構 造”を持つ原子核が存在する。このとき重要になるのが、原子核の弱束縛性(1中性子または2中 性子分離エネルギーが小さいこと:Sn or S2n ≾ 1 MeV)と低角運動量性(最終軌道の中性子は s またはp軌道を占有すること)である。これらは、原子核を孤立系としてとらえたときの“静的性 質”といえる。
一方、弱束縛核が入射する反応では、入射核は標的核との相互作用によって容易に分解する。こ れは散乱における入射核の“動的性質”と捉えることができる。核子多体系である原子核を包括的 に理解するためには、これら“静的性質”と“動的性質”の両方の理解が必要不可欠である。これ らの性質を理解するため、我々は以下の3つの課題を設定した。
(I) 6Li弾性散乱における6Li分解の動的性質の解明
(II) 反応断面積による中性子過剰Mg同位体の静的性質の抽出
(III) ハロー性を定量化するパラメータの提案とその普遍的性質の解明
課題(I)では、6Liと標的核(T)の弾性散乱を解析し、4体散乱(n+p+α+T) における6Liの動的性質 を解明した。6Liのサブシステムであるn+p系は重陽子(d) として束縛するため、6Li散乱において は、4体分解過程(6Li+T→n+p+α+T)だけでなく、3体分解過程(6Li+T→d+α+T)も存在する。これら の分解過程は散乱途中で複雑に絡み合うため、サブシステムに束縛系が存在しない6He散乱等に比 べ、反応機構は複雑になる。これら3体分解過程と4体分解過程は統一された枠組みで取り扱われ るべきものであり、これは紛れもなく、4体連続状態離散化チャネル結合法(4体CDCC)である。4 体CDCCを用いた結果、6Liは散乱過程でほとんどd+αに分解し、n+p+αに分解する効果はほとん ど無視できることを突き止めた。我々はこの現象を“dα-dominance”と名付け、さらにこの現象が 今回解析した入射エネルギー(24-210 MeV)において普遍的に実現していることも明らかにした。
dα-dominanceは、6Liにおいて本質的な動的性質といえる。
課題(II)では、近年測定されたMg同位体の反応断面積(σR)の理論解析を通じ、それらの核の静的 性質(基底状態の性質)を系統的に引き出した。さらにその結果をもとに “逆転の島”を再解析し た。逆転の島は、核図表において陽子数(Z)が10-12 (Ne, Na, Mg)、中性子数(N )が20-22付近 の領域を指し、領域内の原子核は殻構造の急激な変化に伴う異常な性質を示す。我々は反対称化分 子動力学法と二重畳み込み模型を用いた微視的理論によって、測定された反応断面積の解析を行っ た。我々の理論は実験データをよく再現しており、高い信頼性を有している。この理論を用い、Mg
同位体の基底状態の性質(スピン・パリティ、束縛エネルギー、変形度)を引き出した。更に Ne 同位体の結果と組み合わせて逆転の島を再解析したところ、N =19 (31Mg, 29Ne)からN =28 (40Mg) まで巨大な変形が続いていることを突き止めた。我々は、この領域を“巨大変形の半島”と名付け た。この結果は、従来考えられていた“逆転の島”(N ≈20-22) の領域拡大を示唆している。
課題(III)では、コア核(c)と中性子(n)からなる 1 中性子ハロー核(a)のハロー性を定量化するパラ メータℋ=[σabs(a)-σabs(c)]/σabs(n)を提案し、その普遍的性質を明らかにした。ここでσabs(x)は入射 粒子x(=a,n,c)の吸収断面積で、共通の標的核、共通の核子あたりの入射エネルギーを取る。我々は
まず、ℋが0≤ ℋ ≤1の値を取り、特にℋ = 1で最もハロー性が強くなることを示した。従って、こ
のパラメータはハロー性を定量化するよい指標になることが期待できる。我々は分解効果が無視で きる高エネルギー入射の反応においてσabs ≒ σRとなる性質を利用し、σR(x)に対する実験値からℋ の値を種々のハロー核に対して決定した。その後、アイコナール近似と断熱近似に基づく模型計算 によって Snを変化させることで、ℋ を弱束縛極限へ外挿し、その振る舞いを調べた。ℋ = 1 は s 波のハロー核の弱束縛極限でのみ実現され、さらに(Sn, ℋ)=(0,1)という点はs波ハロー核において 普遍的であることを示した。
我々はこれらの解析を通じ、6Li 散乱における“dα-dominance”、逆転の島を超えた領域まで広 がる“巨大変形の半島”、さらに ℋに対する“普遍性”といった、新たな性質を見出した。これら の概念は原子核をより明確かつ簡便に理解させてくれるはずである。