コモン・ローにおける外国法証明の展開《国際家族 法研究会報告((第31回)》
著者名(日) 徐 瑞静
雑誌名 東洋法学
巻 56
号 1
ページ 299‑302
発行年 2012‑07
URL http://id.nii.ac.jp/1060/00000156/
《国際家族法研究会報告(第
コモン・ローにおける外国法証明の展開
31回)》徐 瑞静 一 はじめに 本報告は、とくにシンガポール法を中心として、コモン・ローにおける外国法の証明に関する最近の改革の一端について、
Ti ong Mi n Yeo , C omm on law in nov ati ons in provi ng foreign law, Yearbook of private international law 2010, p.493 et seq.
における論考を参考として、若干の論及を試みるものである。二 外国法証明の新しい方法シンガポール法においては、外国法は、当事者によって提出された専門家による証拠の他に、通常のコモン・ローの証明方法に従い、当事者が、専門家に頼ることなく、外国法を援用することが裁判所によって認められていた。一般的に、裁判所は黙認的な証明方法を採用している。従来、論証の過程において、裁判官はあまり役割を果たしていないから、すでに、本研究会において報告されたように、外国法は事実問題として、外国法を援用する当事者によって証明されていた(拙稿「渉外家事事件における外国法の性質」東洋法学五三巻三号三四三頁以下、拙稿「外国法調査責任と当事者利益の保護」東 洋法学五四巻二号一八五頁以下)。すなわち、専門家の証人による証拠が当事者によって提出されることとなる。しかし、専門家に依頼する費用が高額であるばかりか、それによる証拠の品質も判例のそれと大差があり、最近、このような方法によって調査された外国法の内容が疑われるようになり、シンガポールにおける外国法証明の処理の方法が変化しようとしている(Yeo, op. cit., p.493 et seq.)。
それでは、シンガポール法における外国法の証明方法は、いかように変化しているか。先ず、一般的な傾向として、シンガポール裁判所は、自らが積極的に事件を処理する方法を採用するようになった。その一例として、
Westacre Invest - ments Inc v The State-Owned Company Yugoimport SDPR
事件の控訴審において、イングランド法に基づく判決をシンガポールにおいて執行できるか否かということが問題とされた。控訴裁判所は、専門家による証拠が不確実であると判断して、イングランド裁判所の宣告を求めるべきことが当事者に指示され、そのうえで、イングランド判決を執行した。その後、シンガポール高等法院は、タイに所在する不動産の譲渡契約違反に基づく損害賠償請求に関するNg Teck Sim Colin v Hat Holdings Pte Ltd
事件において、当事者は、タイ法に関して、タイ裁判所に照会する義務があると判示した(Yeo, op. cit., p.494.)。次に、シンガポール司法部は、オーストラリア・ニューサ
ウスウェールズ州と外国法証明に関する相互協力のための覚書きを締結して、二〇一〇年六月二三日、それぞれの裁判所が判決を下す際に、それが適用されることが公布された。両者の民事訴訟規則(ニューサウスウェールズ州二〇〇五年統一民事訴訟規則第六部第九編、シンガポール裁判所規則命令第一〇一号)は、右覚書きに効力を与えるため、その規定の内容を修正している。まず、ニューサウスウェールズ州が新たな要件を導入して、裁判所が外国法を適用すべきと判断したときは、事前に、その適用を主張する一方当事者が、相手方当事者に対し、当該外国法の然るべき原則、および、当面の問題へのその適用について通知すべきこととしている(Yeo, op. cit., p.494 et seq.)。また、ニューサウスウェールズ州の修正は、明確に外国法を援用する際には、裁判所によって委任された専門家が外国法を提供することを定めている。この点について、シンガポール法においては、既にそのような規定があったが、ニューサウスウェールズ州の右修正は、シンガポール裁判所における外国法証明に関する問題に影響を及ぼしている。すなわち、ニューサウスウェールズ州においては、裁判所はいかなる国家の法律も認めるが、しかし、そのためには、両当事者の同意が前提とされる。それに対して、シンガポールにおいては、裁判所は一方または双方の当事者が、ニューサウスウェールズ州の法律を適用することを求めれば、裁判所は自らそのための手続きの開始を決定すること ができる。従って、理論上、少なくともシンガポール裁判所は、更なる権力を有することとなり、裁判所は外国法によって審理する権限を与えられたことになる。その一方、実践上においては、シンガポール裁判所も、双方当事者の同意を得ずに外国法を適用して判決することを欲しない。しかしながら、ニューサウスウェールズ州規則は、基本的に、裁判所が主体的に外国法を援用し、それを適用することを促している。かくして、この規則は外国法証明問題に新たな機能を与える結果をもたらすに至っているのである(Yeo, op. cit., p.495.)。三 照会された裁判所に関する問題
外国法の照会は、照会された裁判所における通常の民事手続によって開始されるが、その際、唯一の条件は、外国裁判所が当該事項についての管轄権を行使することができること、及び、最少限の宣言を下すことができることだけである。この権限は、照会された裁判所の管轄規則及び民事訴訟規則に関わることである。多くのコモン・ロー裁判所がこのような最少限の宣告を下すことができる。最も困難な点は、裁判所がその司法上の機能と合致するか否かということであるが、当面の問題は、その管轄権内において解決しようとする問題としては現実性を欠いている。蓋し、一般的に、コモン・ロー裁判所は、現実性のある紛争を解決するという機能を担っており、単なる法律の助言者ではないからである(Yeo, op. cit., p.496.)。
しかし、新たな規則は、シンガポール裁判所及びニューサウスウェールズ州裁判所が、それ自身の法律について、外国裁判所によってなされた質問に答えなければならないことを定めている。今日、英国における見解では、裁判所は仮定的問題について回答しないことを原則としている。しかし、ニューサウスウェールズ州の有力な学説において、これは一つの管轄権に関する問題であることとされている。この問題について、シンガポール裁判所は未だに明確にしていないようである。しかし、近時のある判決により、これは裁判所の管轄問題であることが述べられている(Yeo, op. cit., p.496 et seq.)。
仮に、裁判所にとって、外国裁判所からの法律の照会に答えることが一つの自由裁量権の問題であると想定すれば、裁判所がこの説明を拒否することができることも、異議のないところである。裁判所にとって最も重要な機能は裁決することであり(司法解釈に限らない)、そして、コモン・ロー体系において、価値の判断基準は先例に従うことである。伝統的なコモン・ロー体系において、規則は、それが権利執行可能性にのみ影響するときは、法律抵触の目的のための手続きである。更に、外国判決は手続問題において当事者を拘束することができない(Yeo, op. cit., p.497 et seq.)。四 意見としての回答
外国判決は裁判としての拘束力を有しない。従って、それ は、外国法の表明として言及することのみが可能である。シンガポール裁判所により、外国判決の許容性については、外国法の内容の証拠として考えられていることは明らかである(Yeo, op. cit., p.498 et seq.)。かような表明は、外国法に関する専門家の意見として認められることもできるが、手続は更に煩雑である。原則上に、外国法を適用することは法廷地国裁判所によって支配される裁判手続である。しかしながら、英国およびシンガポールの裁判所は、外国裁判所がいかにしてその法律を事実に適用するかの証拠を考慮することに反対していない。それに対して、オーストラリアにおいては、裁判所はこのような証拠を認めない。例えば、その例として、ニューサウスウェールズ州の裁判所における判決が挙げられる。シンガポール裁判所であろうが、他の国の裁判所であろうが、それら外国裁判所によって下された判決は、ニューサウスウェールズ法の下において、いかなる理由によっても当事者を拘束せず、従って、外国法の内容はその適用から切り離すために精査されなければならないことになる(Yeo, op. cit., p.499.)。五 コスト効率の問題
シンガポールのメディアが新しい手続のための専門家証人の費用が高額であると発表し、また、ニューサウスウェールズの新聞が、手続は非常に費用効果が高いと報じている一方、ニューサウスウェールズ州最高裁判所の主席裁判官の談
話によれば、手続は、しばしば、専門家証人よりも高額になることが判明するであろうと言われている。費用弁護士、裁判所費用の支払、訴訟遂行によって発生する費用、及び、上訴によって発生する費用等が外国法の照会の潜在的な費用に加わり、訴訟費用は増えることになる。そのような負担に対する、現実的な反論は、費用の節約よりも、権威があり、かつ、正確な外国法の表明を獲得することであると言うほかはない(Yeo, op. cit., p.500.)。六
フォーラム・ノン・コンヴェニエンスに関する新手続の効果 フォーラム・ノン・コンヴェニエンスの原則の配慮に基づいて言えば、通常、外国法の適用の資格において一番良いのは、その本国法を適用する外国裁判所に裁判を委ねることである。しかしながら、実際上、そうすることが妥当であるかは、ある程度まで、外国裁判所において全面的に裁判が行なわれることと、異なる二つの管轄の裁判所にまたがって裁判が行なわれることの費用いかんの比較にかかっていると言うことができるであろう(Yeo, op. cit., p.501.)。七 おわりにシンガポール裁判所の指導は他にもあろうが、裁判所の職権による外国法の援用をもって、専門家証人を代替することは不可能であろう。多数の国家においては、主として当事者によって外国裁判所判決の照会が試みられる。コモン・ロー の基本的な前提は変わらないから、渉外訴訟問題の意義、及び、専門家による外国法の証明問題が強調されている。実際に、シンガポール司法部はニューサウスウェールズ州において覚書きに署名したが、その後、二〇一〇年一〇月に、ニューヨークにおいて副本に署名された際、当初、目論まれた手続とは異なっている。すなわち、全ての関係当事者の同意をもって、一方の裁判所によって照会された場合、回答は、他方の裁判所が構成した名簿の専門家によって与えられるべきものとされている。実際には、最も問題となったのは、誰が費用を負担するかということである(Yeo, op. cit., p.501 et seq.)。
しかしながら、新たな方法を探求することによって外国法の証明問題を提唱することは歓迎すべき発展である。主な欠点として発生している問題点は、費用が不明瞭であることである。費用は重要な問題であり、また、多くの外国法証明の方法があるが、やはり、確実的な外国法調査方法が最も重要なものとして必要であると言わねばならない(Yeo, op. cit., p.502.)。(じょ・ずいせい 東洋大学法学部非常勤講師)