福岡県工業技術センター 研究報告 No. 19 (2009)
- 125 -
分裂促進因子制限と骨形成形態タンパク質-4刺激による EGF依存性神経幹細胞(SFME細胞)の神経発生
楠本 賢一*1
Parton Angela
*2David Barnes
*2Mitogen Limitation and Bone Morphogenetic Protein-4 Promote Neurogenesis in SFME cells, an EGF-Dependent Neural Stem Cell Line
Ken-ichi Kusumoto
*1, Angela Parton
*2and David Barnes
*2組織性幹細胞である神経幹細胞は,あらゆる脳細胞への分化能を有し,個体では損失した脳組織を補うべく厳密 に制御されている。そのため神経幹細胞の分化能を解明することは細胞学的実態を理解するだけでなく,神経疾患 において何らかの原因により損失している神経細胞を外部から補充するといった再生医療分野においても注目され ている。本研究では,マウス胎児の正常脳組織から樹立した SFME 細胞が分裂促進因子である EGF/FGF-2 の低刺激 において,骨形成形態タンパク質 BMP-4 により神経細胞に分化することを明らかにした。さらに BMP-4 刺激は,神 経伝達抑制機能を担う GABA 作動性神経細胞への成熟分化を導いた。このように,SFME 細胞は中枢神経系にみられ る多分化能幹細胞と同様な機能を有する細胞株であることが示された。
1 はじめに
SFME (serum-free mouse embryo) 細 胞 は , 無 血 清 培養により細胞老化や染色体異常,悪性形質転換を引 き起こすことなく無限増殖可能な正常神経幹細胞であ る1)。SFME細胞は,マウス胎児の正常脳組織からEGF (epidermal growth factor) 存在下で樹立され2),こ れ ま で に 血 清3)や TGF-β (transforming growth factor β)4)の刺激によ り神 経細胞の 保護 を担うグ リ ア細胞に分化することが分かっている。本研究では,
どのようなサイトカイン刺激により神経分化を促すの かを検討し, SFME細胞が幹細胞であることを証明した。
2 方法
2-1 神経分化アッセイ
SFME細胞は24-well plate上でDMEM/F-12培養液を用 い , 低 濃 度 (0.5 ng/ml) の EGF お よ び FGF-2 (fibroblast growth factor-2) 存在下で,100 ng/ml BMP-4 (bone morphogenetic factor-4), ア ク チ ビ ン , CNTF (ciliary neurotrophic factor), 500 nM レ チ ノイン酸の刺激を4日間行った。
2-2 免疫染色法による分化評価
分化刺激後,細胞はアルデヒド固定し,各種の神経 マーカーにより免疫染色を行った;high-molecular-
weight neurofilament protein (NF-H), GABA (gamma-aminobutyric acid)。
3 結果と考察
3-1 BMP-4による神経細胞への分化誘導
SFME細胞は,検討した分化刺激の中でBMP-4により 神経マーカーNF-Hの発現を誘導した(図1)。さらに この神経誘導はEGFとFGF-2が低濃度の場合でのみ観察 された(図2)。この結果から,BMP-4は増殖シグナル の低下状態においてのみ神経への分化スイッチを開始 させ,増殖シグナルの強化はBMP-4の神経分化誘導を 抑制させた。BMP-4による神経幹細胞の神経分化誘導 は,増殖シグナルによって厳密に制御されていること が示唆された。
0 5 10 15 20 25 30
EGF/FGF-2 BMP-4 CNTF アクチビン レチノイン酸
ニューロフィラメント(NF-H)陽性細胞(%)
図1 BMP-4による神経細胞への分化誘導
*1 生物食品研究所
*2 Mount Desert Island Biological Laboratories, USA
福岡県工業技術センター 研究報告 No. 19 (2009)
- 126 -
図2 EGF/FGF-2による神経分化の抑制効果
3-2 BMP-4によるGABA作動性神経細胞への分化誘導 BMP-4による神経細胞の分化誘導は,GABA作動性神 経細胞への成熟を促進させた(表1)。一方,BMP-4刺 激による他の神経細胞種への成熟分化は観察されなか った。この結果は,これまで知られていなかったSFME 細胞の神経分化能力を明らかにし,SFME細胞が脳組織 内で神経幹細胞として存在しつつ,何らかの原因によ り神経細胞が失われた際には,BMP-4などの刺激によ り中枢神経系の大脳活動の抑制作用を担っている大脳 皮質GABA作動性神経細胞のような神経細胞種の再生を 行っているのかもしれない。以上の結果から,SFME細 胞は中枢神経系にみられる多分化能幹細胞と同様な機 能を有する細胞株であることが示された。将来,SFME 細胞を用いた神経分化解明やGABA作動性神経細胞によ る機能評価アッセイなどの応用が期待される。
表1 BMP-4によるGABA神経細胞への分化誘導 成熟神経細胞種 BMP-4 刺激
GABA ニューロン 41.7% ± 14.6%
Glutamate ニューロン 0.6% ± 0.65%
TH ニューロン 0%
ChAT ニューロン 0%
TPH ニューロン 0%
GABA; ガンマ‐アミノ酪酸,Glutamate; グルタミ ン酸,TH; チロシン水酸化酵素,ChAT; コリンアセ チルトランスフェラーゼ,TPH; トリプトファン水 酸化酵素
4 参考文献
1) Loo DT et al., J.Cell Physiol., Vol.139: pp.
484-491 (1987).
2) Loo DT et al., Science, Vol.236: pp. 200-202 (1987).
3) Loo DT et al., J.Neurosci.Res., Vol.42: pp.
184-191 (1995).
4) Loo DT et al., Neuroreport, Vol.5: pp.1585- 1588 (1994).
5 掲載論文
In Vitro Developmental Biology, Animal Vol.
45(1-2): pp.55-61 (2009)
0 10 20 30
0 0.5 5 50
EGF/FGF-2 (ng/ml)
ニューロフィラメント(NF-H)陽性細胞(%)