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運転免許のレヴィアタン : 認知症と交通事故

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運転免許のレヴィアタン : 認知症と交通事故

著者 柿本 昭人

雑誌名 同志社政策研究

号 4

ページ 108‑138

発行年 2010‑03‑08

権利 同志社大学政策学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000012111

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運転免許のレヴィアタン

---認知症と交通事故

柿本 昭人 Akihito Kakimoto

はじめに

 筆者には<痴呆>について、すでに三つの拙稿がある。「誰が「生きている」の か――痴呆・認知症・心神喪失」では、dementiaという用語の歴史的系譜を追いな がら、痴呆という用語の言い換えとして登場した認知症という用語によって、痴呆 と心神喪失が同じ「資格剥奪」という出自であったことが完全に消失し、より一層 の混乱をもたらすさまを描いた1)。ついで「「脳トレ」ブーム――支配は服従を享 楽し、服従は支配を育む」では、「脳トレ」を主導してきた学者によって、トレー ニングをすれば「資格剥奪」の状態からの復帰や予防が可能であるかのような、そ して現に「資格剥奪」状態にあるのは怠慢の結果であるという気分の醸成に一役買っ たことを跡づけた2)。さらに、「〈老い〉の不在がもたらす軋み」では、実証されて いない「やればやるほど良くなる」という臆見の系譜を辿り、近代社会における〈老 い〉の不在に至った3)

 本稿では、免許証という「有資格」の証明を持ちながら、同時に「資格剥奪」の 状態でもある認知症罹患者による自動車事故という<捻れた>事態について探って みたいと思う。そこで、ネットの隆盛にもかかわらず、最も信頼性があるメディア と見なされている新聞報道から、この問題がどう報じられてきたかを分析の中心に 据えてみた。その<捻れ>をどう見ているのかを確かめたかったからである。

1.被害者から加害者へ

 新聞記事に、痴呆(認知症)と交通事故とが結びつけられて登場するのは、筆者 が追いかけた限りでは、1986年7月24日が最初である。その記事は犯罪や事故の被 害者としての老人をどのようにして未然に防ぐかについて強調している。「独居老 人、老人夫婦などをねらった犯罪、悪徳商法の横行」「高齢者特有の原因、たとえ ば病苦、孤独などによる痴呆化しての家出の増加」「高齢者の交通事故や逃げ遅れ て火災に巻き込まれる事故の多発」である。痴呆の問題は、この時点では、徘徊に よる所在不明と交通事故の被害者となる可能性しか言及されていなかったのである

(『日本経済新聞』〔以下『日経』〕1986/07/24)。

 高齢者が交通事故の第一当事者として注目されるには、さらに四年を要した。

 

石橋富和・東大阪短期大学教授(心理学)は「一定の年齢で体力や判断力、運

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109 転技能といった点をみる高度の診断システムを設け、本人の自覚を促すことが

急務」と高齢者に視点を据えた交通行政の必要性を指摘している。警察庁の調 べによると、昨年末現在、全国で高齢の運転免許所有者(原動機付きを含む)

は99歳の男性の現役を最高に、90歳以上の人で約600人。65歳以上だと249万人 にのぼる。交通事故でどちらかといえば違反(過失)の重い第1当事者の立場 に立った65歳から69歳までの人が、63年の1年間で6707人(5年前は5614件)

▽70歳以上は7520人(同4141件)と増える傾向(『朝日新聞』〔以下『朝日』〕

1990/03/03)。

同じ記事のなかで、ひき逃げ事件の容疑者が「老人性痴呆症」であった事例が紹介 されている。

去年8月1日昼のこと、静岡市内の国道で青信号の横断歩道を渡りかけた自転 車の高校生が、乗用車にはねられ、2週間のけがをした。車は走り去ったが目 撃者の覚えていたナンバーなどから男性の運転者(70)がわかり、警察で事情 を聴いたがはっきりしない。結局、指定医師の診断で「老人性痴呆症」とわか り、県公安委員会が道交法で運転免許を取り消すという騒ぎがあった。

この記事から、免許取り消しがあったことは分かる。しかし、警察は送検したのか どうか、検察は起訴したのかどうかすら、何も書かれていない。その後の報道もな い。しかも、記事の中で、「一定の年齢で体力や判断力、運転技能といった点をみ る高度の診断システムを設け、本人の自覚を促すことが急務」と高齢者に視点を据 えた交通行政の必要性を指摘する大学教授は、「車が高齢者の健康保持や老化防止 に役立っていることは明らか」と述べている。一ヶ月後の「春の交通安全運動」に 関する記事でも、交通事故における第一当事者としての高齢者への関心は表明され ている。

同年〔=1989年〕九月三十日朝には、長野県佐久市で老人性痴呆症の七十四 歳の男性が、近所に止めてあった他人の軽トラックを勝手に運転、歩行中の 八十五歳の女性をはねて重傷を負わせて逃走する事件を起こした(『毎日新聞』

〔以下『毎日』〕(夕)1990/04/06)。

 1993年になると、「精神保健法」の改正が浮上する。資格や免許取得における欠 格事由の廃止が焦点だった(『日経』『読売新聞』〔以下『読売』〕1993/03/18)。こ の背景には、入院患者への暴行が問題となった、1984年の宇都宮病院事件がある。

国連からも、日本の精神病院における人権侵害が「後進国的対応」として問題視さ れたのを受けてのことであった(『読売』1993/03/19)。しかし、焦点の一つであっ た運転免許の欠格事由の廃止は見送られる。

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同省の構想は、精神障害者でも具体的な症状が一年以上なく、法的に認められ た指定医が問題なしと判断したケースでは、その資格の所管省庁の判断で取得 を認めることができるようにするものだが、検討対象となっていた運転免許が 結局外されたことについて、同省では「関係省庁間での調整が間に合わなかっ た。今後の課題として引き続き検討したい」(精神保健課)としている。しかし、

警察庁側は「交通安全という観点からは、現状では精神障害者の方に免許を出 すことの危険性はクリアされておらず、制限緩和を検討するつもりはない」(運 転免許課)としており、実現は難しそうだ(『読売』1993/04/24)。

ところが、「交通安全という観点からは、現状では精神障害者の方に免許を出すこ との危険性はクリアされておらず、制限緩和を検討するつもりはない」と警察庁運 転免許課は言いながら、どのようにして欠格事由を有する者に運転免許を実際に取 得させず、更新時に更新させず、停止や取り消しを行うかについての具体的な規定 がまったく無かったのである。欠格事由は存在しても、具体的に欠格事由に該当す る者に運転免許を持たせないシステムが無かったことは、次の事例からも明らかで ある。

乗用車を運転中、てんかんの発作で事故を起こし、業務上過失致死傷、道路交 通法違反(ひき逃げ)の罪に問われた大阪市内の会社役員(五九)に対する判 決公判が二十六日、大阪地裁で開かれた。福島裕裁判長は「被告は事故当時、

てんかん発作によって心神喪失に陥っていた可能性がある」と道路交通法違反 については無罪としたうえで、業務上過失致死傷罪だけの成立を認め、禁固一 年二月、執行猶予三年(求刑禁固一年二月)を言い渡した。判決によると、会 社役員は一九九二年三月三日午前十一時二十五分ごろ、大阪市西成区岸里一丁 目で乗用車を運転中、道路右側を歩いていた女性(六三)と外国人女性(二一)

を相次いではねた。女性は頭などを強く打って死亡、外国人女性も右腕などに 十日間のけがをした。検察側は、会社役員が「事故直後、負傷者の救護など必 要な措置を取らずに、現場から逃走している」として業務上過失致死傷罪に加 え、道路交通法違反の罪でも起訴した。福島裁判長は会社役員に対する医師の 鑑定結果などをもとに、「事故当時、一時的な意識障害に陥っていた可能性は 十分うかがえる」と指摘。捜査段階での会社役員の供述についても、「警察官 の示唆や、誘導に合わせてなされた可能性があり、信用性に欠ける」と判断し た(『朝日』1994/09/26)。

裁判所が「精神障害」となれば機械的に「心神喪失」と判定し、無罪を言い渡すと すれば、検察官は起訴便宜主義ゆえに起訴せず、すぐさま措置入院の手続を取るで あろう。そうなれば、警察段階でも、送検を見合わせることになる。交通事故も、

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111 たとえそれが死亡事故であろうとも、別様ではないだろうと推測される。

 さらに、痴呆(認知症)は「精神障害」の病名ではなく、症状であり、しかも本 人に病識が乏しいという基本的な理解が記者にも欠けてもいる。痴呆(認知症)は 高齢者特有の疾患であるという誤った認識もある。次の記事が、それをよく示して いる。

右目が白内障でほとんど見えないのにバイクを手放さず、白昼、停車中の車に 激突して死亡。直近に三回も物損事故を起こしていた(七十七歳の男性)。数メー トルそばの交差点をしり目に道路を横断した。信号は赤で、車にはねられて死 亡(六十七歳の女性)。痴呆症が出始めていた七十歳の男性が軽乗用車を運転、

高速道路を逆走した。幸い物件事故で済んだ。――今年、東京都内で起きた高 年者の典型的な交通事故三態だ。「確実に注意力が落ち、病弱にもなりがちだが、

身体の衰えを認めたくない。その結果が無理につながる」と警察庁が背景を挙 げる。実際、高年者の事故時の違反は、一時停止、不適切な運転操作などの安 全運転義務違反が多いという。……(中略)……だが、交通死が一万人を超え 始めたのは、皮肉にも六十五歳以上の死亡が増え始めた時期とほぼ一致する。

総人口の高年者割合が一〇%を超え始めたのと比例するように高年者の死者数 は急増し、二年前にはついに若者層を超えた。今年は全交通死の三〇%超が確 実視されている。どうやったら高年者の事故死を減らせるのか。「何よりもまず、

本人の自覚だ。注意力の衰えはどんなに個人差があっても事実。時に車を手放 す勇気と、歩行中は二重三重に慎重を期すこと」――警察当局の指摘は一致す る。問題は、そうした「自覚」「勇気」が、本人たちには「老い」を認めるこ とになり、すんなりとはいかないこと。しかも、心身が弱くなるほど、また地 域事情で、車の利便性が必要になる。このため、大半の警察本部が免許更新時 に任意で動態注意力測定を行っているが、「運転不適当と判定されても、やめ ない人が多い」(警察庁)という。……(中略)……「待ったなし」の対策が 講じられなければならない。極論を覚悟で言えば、万能ではなかろうが、一定 の免許制限は重要な検討課題だ。現に外国には、七十歳を基準に制限し、以後、

毎年、チェックした上で更新する制度がある(『読売』1995/09/21)。

「自覚」と「勇気」。警察当局も記者も完全に認識不足なのである。認知症は高齢者 のみに現れるわけではない。高速道路の逆走も高齢者に特有ではない。この記者の 言う「七十歳を基準に制限し」も、記者の「老人のボケ」と認知症を同一視する 発想から出ていると思われる4)。運転免許における欠格事由が機能していないこと に新聞記事が言及するには、さらに時間が必要であった。初めて言及されるのは、

1999年になってからである。

道路交通法は精神障害者の運転免許取得を認めないが、試験の際、精神障害を

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診断しておらず、障害があっても免許が取れる場合も多いなど、欠格条項自体 が形がい化している例もある(『毎日』(夕)1999/04/21)。

2.欠格条項とスクリーニング

 運転免許行政によって免許を与えるということは、道路交通において<主体>と して振る舞いうるという資格を認定するということである。そしてまた、運転免許 を取得するということは、道路交通において<主体>として振る舞うという宣言の 証明でもある。もし、この原理が行政の側からも、免許取得者の側からもないがし ろにされるなら、<資格>そのものが無効となり、道路交通は「万人の万人に対す る闘い」を想定せざるを得なくなるであろう。つまり、行政側が「無資格者」に免 許を与えること、そして免許取得者が「無資格者」ゆえに免責されることがあって は、道路交通は<文明世界>からずり落ちてしまうということである。そして司法 は、<文明世界>からの滑落を阻止する防波堤の役割を担うことになる。ところが、

現実は相変わらず、そうではなかった。

大阪地検堺支部は七日、交通事故をめぐるトラブルから女性をひき殺したとし て、殺人容疑で送検されていた大阪府泉大津市の会社員(23)を、処分保留で 釈放した。精神鑑定の結果、会社員に発作的に意識を喪失する持病があったこ とがわかり、同支部は「事件当時、会社員は心神喪失状態だった可能性がある」

と判断。泉大津署の調べでは、会社員は五月十七日朝、同市豊中町の市道で軽 乗用車を運転中、和泉市善正町の幼稚園教諭宮芝貴美子さん(当時四十六歳)

運転の乗用車に追突。宮芝さんが車から降りて話をしようとしたところ、車を 急発進させ、前に立った宮芝さんをひいたとされる。宮芝さんは一週間後、入 院先の病院で死亡。会社員は当初、「宮芝さんに非難され、かっとなってやっ た」と話していたが、その後「以前から、突然意識を失う持病があり、事故を 起こしたことも覚えていない」と供述を変えた。道交法では、意識喪失を伴う 発作を起こす持病のある人は、運転免許を取得できない。会社員は十年前か ら、この病気で複数の病院に通院しているが、一九九五年に普通免許を取得、

更新も一度している。同支部は、会社員が自分の持病を知りつつ運転をしてい たとして、容疑を業務上過失致死に切り替え、今後も捜査を継続する(『読売』

2000/09/08)。

昨年五月、交通事故をめぐるトラブルで女性をひき殺したとして殺人容疑で送 検され、精神鑑定で発作的に意識を喪失する持病とわかり、処分保留で釈放さ れた大阪府岸和田市の無職男性(24)について、大阪地検は二十三日、持病が あるのを知りながら、運転していたとして、業務上過失致死罪で起訴した。し かし、殺人罪については、同地検堺支部が心神喪失で不起訴処分とした(『読売』

2001/02/24/)。

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113 検察が業務上過失致死罪で起訴したことは、この記事から分かる。しかし、起訴後

の裁判の結果はどうなったのであろうか。そして、この被告の免許はいかなる扱い となったのであろうか。この事件の続報はない。

 その一方で、1998年3月、当時の古川貞二郎官房副長官が事務次官会議で各省庁 に指示していた欠格条項の見直しは(『日経』『毎日』1998/03/31)、2001年6月の 道路交通法改正成立によって進展する。「欠格事由」は廃止され、身体能力および 知的能力はすべて試験で判断するという方針となった(『産経新聞』〔以下『産経』〕

(夕)2001/06/13)。一律に免許を拒否する絶対的事由から、社会参加を促すとい う理由から、実態によって拒否や取り消しができる相対的欠格事由に変更がなされ た(『読売』2001/11/06)。

現行法は「運転免許を与えない者」として▽精神病者、知的障害者、てんかん 病者、目が見えない者、耳が聞こえない者、口がきけない者▽政令で定める身 体障害者▽アルコール、麻薬などの中毒者、と定めている。……(中略)……

新しい道交法は、その対象を〈1〉幻覚の症状を伴う精神病〈2〉発作により 意識障害か運動障害をもたらす病気〈3〉その他安全運転に支障を及ぼすおそ れがある病気〈4〉痴ほう〈5〉目が見えないなどの身体障害〈6〉アルコー ル等の中毒者――とした。これらのうち、どんな場合に拒否や取り消しを行う か、具体的な基準は施行令で定める。警察庁が九月に示した施行令の素案では、

免許を認める条件は別表の通りで、かなり厳格だ。しかも免許の申請、更新時 に病状・病歴の申告義務付けを検討するという(『読売』2001/11/06)。

確かに、病名を基準とした一律の拒否や停止、取り消しは姿を消した。「痴ほう」

が病名ではないことを警察庁当局は認識していたということになる。問題は、「こ れらのうち、どんな場合に拒否や取り消しを行うか、具体的な基準は施行令で定め る」点にある。同じ記事の別表を見てみよう。

《病気にかかわる運転免許の条件について警察庁が示した素案》

病名 免許を保留・停止なしで認める条件病 精 神 分 裂 病、 そ う う つ 病、

そう病、軽症以外のうつ病、

持続性の妄想障害

寛解の状態(残遺症状がないか極めて軽微なものに 限る)、または安全運転に支障を及ぼす恐れが明ら かにない

てんかん 発作が睡眠中に限られるか運転に影響しない単純発 作だけ、または過去2年間に発作がなく今後も起き る恐れがない

ナルコレプシー(過眠症) 睡眠発作を起こす恐れがない 失神(脳虚血) 座っている場合に起きる恐れがない

糖尿病 起きている間に低血糖発作による意識障害を生じる 恐れがない

睡眠時無呼吸症候群 著しい眠気をもたらすものでない

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すぐに気がつく。この別表には、痴呆(認知症)が施行令の素案には欠けているの である。もちろん素案に挙がった「病名」について、誰が、どのような基準で当該 の条件によって、「免許を保留・停止なしで認める条件」に当てはまるのかを決定 する手続きが、この記事からは分からないままである。

今回、施行令が改正されることになったのは、昨年六月に成立した改正道交法 で、精神病者や特定の身体障害者などの免許取得を一律に拒んできた欠格条項 が撤廃されたため。その代わりに施行令を改正し、精神分裂病、てんかん、低 血糖症、そううつ病といった病名や障害名を具体的に指定したうえで、症状 に合わせた免許取得の条件を規定することになった。その改正試案では、たと えば精神分裂病の人も、主治医の診察や、専門医による臨時適性検査で「症状 が軽いか、再発の恐れは認められない」と判断されれば、免許を取得できるこ とになる。同庁によると、現行制度では臨時適性検査を行うかどうかは、過去 の交通事故で偶然見つけた病気の症状で判断するしかない。このため試案では 新たに、英仏両国や米国の一部の州の制度と同様、自己申告制を導入すること にした。申請書類には「過去に病気で意識を失ったことがあるか」といった質 問条項を設けて、該当者にはチェックしてもらう形式になる見込みだ。こうし た手続きについて、〔障害者欠格条項を〕なくす会が最も問題視しているのは、

病気にかかっているというだけで危険性を疑われてしまうという点だ。同会共 同代表の牧口一二さんは「試案は『障害者だから人をはねる危険がある』とい う発想に基づいており、障害者に対する差別を助長することにもなる」と懸念。

「持病があってもセルフコントロールをしながら安全に運転している人の免許 まで奪われる可能性がある」とも指摘する。これに対し、警察庁は八日の協議 で、身体障害者に免許取得に必要な補助器具などのアドバイスをしている「運 転適性相談窓口」を充実させ、精神障害者の免許取得に向けた環境整備を進め ることを約束した。ただ、交通安全を確保する観点から、試案の見直しは不可 能との見解を示している。一方、まったく逆の視点からの懸念や批判も少なく ない。中でも、「全国交通事故遺族の会」は、現行の欠格条項に該当する人に 対し、▽免許申請時に診断書の提出を求める▽定期的な健康診断を義務付ける ことを強く求めている。自己申告制と臨時適性検査をセットで導入する今回の 試案について、「それだけでは免許の有効期間中、ずっと事故を起こさないと いう保証にはならない」というのが遺族の会の主張だ(『読売』2002/01/11)。

病気にかかわる運転免許の条件では、主治医の診察、専門医による臨時適性検査で 軽症または再発の恐れなしと判断されなければならないという条件がついていたの である。

 「障害者欠格条項をなくす会」の言う「試案は『障害者だから人をはねる危険が ある』という発想に基づいており」というのも正当である。事故を起こす可能性は

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115 運転者の誰にもある。病気を理由に特別の手続が要求されるなら、それは「差別」

であろう。病気の有無にかかわらず、免許を取得したなら同一の道路交通の世界に おける<主体>として処遇されるということでなければならない。その一方で、全 国交通事故遺族の会の言う「刑事、民事責任を問えない可能性のある人に認めるべ きでない」という主張も正当なのである。ただし、「それだけでは免許の有効期間 中、ずっと事故を起こさないという保証にはならない」という主張には妥当性がな い。なぜなら、免許保有は事故がないように努める義務はあるが、無事故の保証で は決してないからである。ではここで、自己申告となる「免許申請書等の病気の症 状等申告欄における申告事項」5)について、見ておこう。

 

○免許申請書

1 病気を原因として、又は原因は明らかではないが、意識を失ったことがあ る方

2 病気を原因として発作的に身体の全部又は一部のけいれん又は麻痺を起こ したことがある方

3 十分な睡眠時間を取っているにもかかわらず、日中、活動している最中に 眠り込んでしまうことが週3回以上ある方

4 病気を理由として、医師から、免許の取得又は運転を控えるよう助言を受 けている方

5 1~4のどれかに該当する方で、申請前に運転適性相談を終了している方 6 1~4のどれにも該当しない方

○更新申請書

1 病気を原因として、又は原因は明らかではないが、意識を失ったことがあ る方

2 1に該当する方で、これまでの免許の申請時又は免許証の更新の申請時に 申告していない意識消失の経験がある方

3 病気を原因として発作的に身体の全部又は一部のけいれん又は麻痺を起こ したことがある方

4 3に該当する方で、これまでの免許の申請時又は免許証の更新の申請時に 申告していないけいれん又は麻痺の経験がある方

5 十分な睡眠時間を取っているにもかかわらず、日中、活動している最中に 眠り込んでしまうことが週3回以上ある方

6 病気を理由として、医師から、免許の取得又は運転を控えるよう助言を受 けている方

7 1~6のどれかに該当する方で、申請前に運転適性相談を終了している方 8 1~6のどれにも該当しない方

このなかで痴呆(認知症)が関係するのは、「病気を理由として、医師から、免許

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の取得又は運転を控えるよう助言を受けている方」のみである。新聞記事では、こ の「免許申請書等の病気の症状等申告欄における申告事項」の内容について伝えて いない。また、医師には患者に対する善管注意義務と説明義務があるが、認知症の 罹患を知りながら患者に告げていない場合等の問題も、新聞記事は触れていない6)。 そもそも、この自己申告が有効なのかどうかということも全く問題となっていな い7)。自己申告で「1~6のどれにも該当しない方」を選択すれば、次の臨時適性 検査に送られることもない。

 

「呆け老人をかかえる家族の会」副代表理事の三宅貴夫さんも「痴呆といっ ても、状態や残存能力に幅があり、条件つきで運転できる人もいる。個別に判 定すべきことではないか」と指摘する。本人よりも家族が運転をやめさせるこ とに苦慮している実態がある。警察庁は「家族が各地の運転免許センターにあ る運転適性相談窓口に相談に来ていただきたい」といい、必要により臨時適性 検査を行うなどして免許を取り消す場合はあるという。三宅さんは「相談窓口 は家族にとって助かるが、取り消されても運転しようとする人もいる現状は理 解してほしい」と訴える(『毎日』2002/05/19)。

 

 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第20条によれば、「自傷他害防止上の 監督義務」は1999年の法改正で無くなったが、依然として精神障害者に治療を受け させる「医療保護義務」がある。また同法第24条「警察官は、職務を執行するに当 たり、異常な挙動その他周囲の事情から判断して、精神障害のために自身を傷つけ 又は他人に害を及ぼすおそれがあると認められる者を発見したときは、直ちに、そ の旨を、もよりの保健所長を経て都道府県知事に通報しなければならない」とある が、事故現場で認知症と思われる被疑者と遭遇、あるいは「窓口相談」で運転免許 を保有する認知症患者と思われる者と遭遇した際、この法律に則って措置入院の通 報を行っているのかどうか。不起訴処分とした際の検察官の通報義務を定めた第75 条。もちろん、改正以前から存在する道路交通法第70条「車両等の運転者は、当該 車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び 当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなけ ればならない」は、いったいどのように適用されているのか、全く明らかではない。

次の記事は、その典型である。

痴ほうとみられる症状を持つ七十歳代の男性が車を運転中、主婦をはねて死亡 させたとして、広島県警は二十五日、業務上過失致死の疑いで書類送検した。

……(中略)……調べでは、男性は昨年秋、軽トラックを運転中、横断歩道を 渡っていた主婦をはね、死亡させた疑い。男性は赤信号を無視した形になった という。男性は事故の一週間前、家族の勧めで病院に行き「痴ほうの疑いがあ る」と診断されており、事故直後の事情聴取に「なぜここにいるのかわからない」

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117 と供述。現場の約百メートル手前までの記憶はあるという。……(中略)……

今回のケースでは広島地検は「事故当時、心神喪失だったとしても痴ほうの疑 いを知りながら運転したなら過失に当たる可能性がある」とし、慎重に捜査を 進める方針。二〇〇五年には痴ほう老人が全国で百八十八万人を超えるとされ、

改正道交法では、本人か家族の申請に基づき、適性検査などを経て運転免許取 り消しになるようにしたが、警察庁によると痴ほうによる取り消しはこれまで に数件という。中村重信・広島大名誉教授(神経内科)の話「痴ほうと診断さ れると本人はショックを受けるだろうが車の運転を控えるようきちんと指導す るのが理想的だ」(『読売』2003/02/26)。

送検された後、検察はどのような処分決定を行ったのかの続報はない。「事故当時、

心神喪失だった」ならば、刑法39条により不起訴処分となる。「痴ほうの疑いを知 りながら運転したなら過失に当たる可能性がある」とあるが、心神喪失状態で運転 したこの老人に事故の責任があるのか、老人の「保護者」に責任があるのか。痴呆 と診断したとあるが、何を原因疾患とする痴呆なのか、その痴呆の程度はどうだっ たのか。記者には「痴呆」という病名と認識しているふしもある。あるいは、痴呆 と診断したが車の運転について適切な指導をしなかった(かもしれない)医師に善 管注意義務違反の責任があるのか、いずれも不明なままである。記事の最後がまた、

奇妙である。「車の運転を控えるようきちんと指導するのが理想的だ」とは、どの ような意味なのか。誰が指導するのか。もし、ここで言われている「誰が」が医師 ならば、それは「理想」上の単なる要請ではありえない。

3.触法精神障害者

 「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」

いわゆる心神喪失者医療観察法が成立したのは、2003年7月のことである。この法

律は、2001年6月に起きた「大阪教育大付属池田小児童殺傷事件」に端を発している。

捜査の中で「詐病」であったことが判明したにもかかわらず、簡易鑑定で「精神障 害者」であるとなると、殺人であっても不起訴になり、そのまま措置入院となって、

あっというまに「触法精神障害者」が退院してくる。「殺人者が野に放たれている」

というこうした世論に押され、無理に無理を重ねて成立してしまった。法律の施行 は二年後となった8)。その記憶があったからであろうか。東名高速道路で起きた逆 送事故については、全国紙三紙が「措置入院」に言及している。

 

小山町桑木の東名高速・足柄サービスエリア出口付近で昨年7月、ワゴン車を 運転中に高速を逆走し、男性会社員(当時52)を死亡させ、その妻にも重傷を 負わせたとして、殺人と殺人未遂容疑で逮捕された男(25)について、地検沼 津支部は20日、「犯行当時は心神喪失状態で、刑事責任は問えない」として不 起訴処分にした。男は昨年9月に殺人容疑などで御殿場署に逮捕されたが、「誰

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かに追われている気がした」などと話していた。同支部では昨年10月2日から 鑑定留置の手続きを取り、精神鑑定を受けさせていた。その結果、「犯行時妄 想に支配され、善悪の判断ができない状態だった」と診断された。同支部では 精神保健福祉法に基づいて県に通報。男は20日から病院に措置入院していると いう(『朝日』2004/02/21)。

静岡県小山町の東名高速で昨年7月、会社員らをはねて2人を死傷させ殺人容 疑などで逮捕された同県焼津市のトラック運転手の男性(25)について、静岡 地検沼津支部は20日、不起訴処分にした。精神鑑定で心神喪失状態と判断され たため。男性は県内の病院に措置入院した。取り調べ中に、男性は「誰かに追 いかけられている」などと意味不明の言動を繰り返し、地検は精神鑑定をして いた(『毎日』2004/02/21)。

静岡地検沼津支部は二十日、東名高速道路で都内の夫婦を故意にワゴン車では ねて死傷させたとして殺人と殺人未遂の疑いで逮捕された、焼津市の元運転手 の男性(25)を「心神喪失」だったとして不起訴処分とした。男性が「追いか けられているような気がした」などと供述したことから精神鑑定が行われ、精 神科医が、犯行当時「妄想に支配されていて、理非罪悪の判断ができなかっ た」と判断した。同支部はまた、精神保健法に基づいて県に通報、男性は不起 訴処分後、措置入院となった。調べでは、男性は昨年七月十二日深夜、小山町 桑木の東名高速道路下り線足柄サービスエリア出口付近でワゴン車を運転し、

急に減速して後続の乗用車に追突させ、その後Uターンし、乗用車から降りて きた東京都内の会社員(当時五十二歳)と妻(34)をはねたとされる(『読売』

2004/02/21)。

この三つの記事は、殺人-心神喪失-措置入院に関心があって、加害者の免許の取 得・更新、事件後の免許の取り消し・停止については興味がなかったのであろう。

あるいは静岡県警と公安員会が、免許の取り消し・停止について何も反応しなかっ たのかもしれない。

 「心神喪失」を巡って、大きな動きがもう一つあった。2004年4月、「痴呆問題の 今とこれから」という題目で座談会が開かれる。高齢者痴呆介護研究センター・研 修センター長である長谷川和夫、柴山漠人、長嶋紀一の三名から当時の坂口厚生労 働大臣に「痴呆」という名称の変更の申し入れがなされる。「痴呆への偏見を解消し、

地域の中で暮らしていける社会づくりを進めていくために」早急に用語の変更を行 うとの約束がなされた。「痴呆」という用語が侮蔑的で差別的だということで用語 変更の申し入れがなされ、「痴呆に替わる用語に関する検討会」を通じて、その年 のクリスマス・イヴには用語変更が決定される。そこには「痴呆」の者を「精神障 害者」から、とりわけ痴呆=何も分からないという認識からの「心神喪失」と「触

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119 法精神障害者」から引き離したいという思惑が働いていた。その現実化が、2005年

1月の通常国会に提出予定であった「介護保険関連改正法」の提出である。用語変 更を、その法案に盛り込もうとしたゆえに、性急な用語変更が行われることとなっ た。あらゆる「痴呆」という表現が、「認知症」という言葉に変更されたのである。

しかし、痴呆という言葉が「精神病」全体の症候を指すと同時に、個別の疾患を指 し示す言葉としてもあった問題点は、何も顧慮されていない。「認知症」という用 語によって、それがあたかも一つの疾患と見なされる流れを強化することにもなっ た9)

 「認知症 ハンドル握って大丈夫? 原因によって能力に差」(『朝日』2005/02/08)。

この見出しからすると、認知症の原因疾患によって、どのように運転能力に違いが あるか、それが書かれているものと思うだろう。ところがそうではない。「運転な どに支障が出やすいピック病」「認知症の原因によって運転能力には違いがあり、

軽度のアルツハイマー病では行き先を忘れるなどしても、助手席で指示すれば運転 できる場合もある」。見出しと関わっているのはこの二カ所のみである10)。同じ記 事には、具体的な数字も挙がっている。

厚生労働省の推計では、認知症の患者は189万人(05年)で、65歳以上の7.6%

が認知症とみられている。警察庁によると65歳以上の免許保有者は03年末で 879万人。単純計算では、65歳以上の認知症患者の66万人以上が免許を持って いることになる。一方、65歳以上の高齢者が第一当事者になった事故は03年で 8万9千件(死亡事故は約1千件)。10年前の2倍以上になっている。……(中略)

……だが、警察庁によると、認知症が理由の免許取り消しは03年は30件。各地 の運転免許センターなどの運転適性相談窓口では、家族らから相談を受けた際 に自主的な返納を推奨しているのが現状だ。

 66万人と30人。この落差からだけでも、2002年6月施行の改正道路交通法が、認 知症に関する免許取り消し・停止について、なぜ機能しないのかという疑問が湧い てくるだろう11)。ここにあるのは「警察庁によると」という現状の追認と、「大変だ」

の気分の吐露だけである。そして、この記事の末尾は、こう結ばれている。「日本 神経学会は認知症の治療指針の中で、認知症の重症度が軽度以上を運転中止の目安 にし、ごく軽度の場合は半年後に再評価するべきだとしている。だが、両者の区別 は専門医でも難しいとの指摘もある」。「重症度」というのが、日常生活における困 難であるとすると、それは自動車の運転における支障と重なるわけではない。記者 が「原因によって能力に差」と書いたのなら、原因疾患によって、重症度の分母も また変わることに気づくべきであろう。現状は、専門医ですら、診断における重症 度を測りかねているのである。運転能力が損なわれている重症度ではない12)。  それでも、事故は起き続ける。

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10日午後8時半ごろ、浜松市篠原町の国道1号浜名バイパス下り線で、愛知県 豊橋市西口町の無職男性(67)の乗用車が追い越し車線を逆走し、避けようと した新居町新居の会社員、仲田晃久さん(39)の乗用車が中央分離帯に衝突し た。仲田さんは左腕に軽傷を負った。浜松中央署の調べでは、現場は片側2車 線の道路。男性は認知症(痴呆)の症状があり、どこからバイパスに入ったか 不明で逆走の認識もなかったという。この事故の直前にも現場から西に約5キ ロ離れた同バイパスで、逆走車を避けようとした乗用車が中央分離帯に衝突す る物損事故があり、無職男性との関係を調べている。同署は、道交法違反(通 行区分違反)と業務上過失傷害の疑いもあるとして男性から事情を聴いている

(『毎日』2005/06/12)。

10日午後8時35分ごろ、浜松市篠原町などの国道1号浜名バイパス下り線で、

愛知県豊橋市西口町、無職男性(67)の乗用車が約5キロを逆走し、乗用車2 台が衝突を避けようと相次いで中央分離帯に衝突、新居町新居の会社員(39)

が左腕に軽いけがをした。男性は認知症で家族から運転を止められており、浜 松中央署が業務上過失傷害の疑いで調べている(『読売』2005/06/12)。

「男性は認知症の症状があり」とあるが、その情報の出所はどこからなのだろうか。

「男性は認知症で家族から運転を止められており」とあるが、「認知症」の診断は誰 が行ったのだろうか。「道交法違反(通行区分違反)」と「業務上過失傷害」と警察 署は言うが、そのあと送検なり、刑事裁判となったのであろうか。あるいは、保険 金は男性の「認知症」を理由として、免責とならず支払われたのであろうか。この 事件については、かなりの期間をおいて続報があった。

S字カーブを抜けようとした時、突然前方からライトの明かりが飛び込んでき た。05年6月10日午後8時半すぎ。浜松市の国道1号浜名バイパス下り線。片 側2車線の右側を走行していた静岡県新居町の会社員、仲田晃久さん(40)は、

とっさにハンドルを切り、中央分離帯にぶつかって止まった。ライトの正体は、

バイパスを逆走してきた無職男性(当時67歳)=愛知県豊橋市=の車だった。

約5キロ手前でも、別の車と危うくぶつかりかけていた。が、男性は「何も知 らない。分からない」と繰り返した。認知症だった。仲田さんは幸い、左手の 打撲傷で済んだ。……(中略)……男性が認知症と診断されたのは、60歳過ぎ。

妻や娘の名前を間違えるようになった。運転は控えるようにしたが、数百メー トル離れた家庭菜園まで、時折ハンドルを握った。医者に運転をやめるよう言 われたことはなかった。妻(68)は「いつもは普通でした。“まだら”というか、

時々おかしくなる。近所の人も認知症とは思っていなかった」と振り返る。た だ、歩いて出たまま数回行方不明になり、2日後に見つかったこともあった。

事故を起こした日、男性は妻と家庭菜園にいた。午後3時ごろ、妻が、男性が

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121 いないことに気づいた。車もなかった。バッグに入れていたキーがなくなって

いた。すぐに警察に通報した。「お店で盗んで捕まってほしい」。妻は、そう記 した紙を神棚に置いた。代金を払わずに店を出ようとすれば、少なくとも無事 に見つかる。警察から連絡が入ったのは約6時間後。後日、車は処分し、男性 は翌年病死した。……(中略)……被害者の仲田さんは、妻と子供2人の4人 家族。下の子は事故後に生まれた。「あの時死んでいたら、残された家族はど うなったか。年齢に関係なく、更新時に認知症検査ができないのでしょうか」。

仲田さんは今もカーブに差し掛かると、あの時の恐怖が脳裏をかすめるという

(『毎日』2007/04/03)。

この記事でも、先ほど示した疑問は一向に解消しない。むしろ、事故直後の報道と は別の事実が出てくる。加害者は60代になって、既に認知症と診断されていた。では、

原因疾患は何だったのか。医師から運転中止の勧告が無かったとしたら、認知症の 重症度は低かったのか。家族も運転を止めていたわけでもない。「バッグに入れて いたキーがなくなっていた」から、一人だけでは運転させないようにしていたのは 推測できる。被害者へのインタビューが行われているが、加害者の刑事処分がどう なったか、損害賠償等は行われたのかについて、記者は何も尋ねなかったのだろう か。「あの時死んでいたら、残された家族はどうなったか。年齢に関係なく、更新 時に認知症検査ができないのでしょうか」は、事故の不条理と事故後の不条理の表 明として読み取り可能だということであろうか13)

 2005年8月、発表された『警察白書』への関心は高い。『警察白書』は「世界一 安全な道路交通を目指して」という特集を組んでいたからだ。

警察庁は十日、平成十七年版の警察白書を公表した。「世界一安全な道路交通 を目指して」と題した特集では、戦後の交通安全対策の変遷を振り返るととも に、深刻化が進む高齢者(六十五歳以上)の交通事故問題を取り上げた。交通 事故の被害者・加害者らの手記も交え、究極の目標である「交通事故のない社 会」への道を探っている。……(中略)……その上で「高齢運転者の交通事故 の状況を詳細に分析し、適性検査の充実方策を検討していく必要がある。特に、

認知症の疑いのある運転者を把握する手法について、早急に調査研究を進める 必要がある」と今後の方向性を示した(『産経』(夕)2005/08/10)。

「高齢者対策がカギ握る交通安全」ということで、政府が掲げた「十年間で交通事 故死者数を五千人以下にする」という目標達成を阻害するのは高齢者、とりわけ「認 知症」の免許保有者であると照準が定められる。

白書も、身体能力の低下には個人差があるとして、普通免許に定年制を設ける ことには消極的だ。しかし、明らかに事故を起こしかねないような人には、き

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ちんと対処しなければならない。現在、70歳以上の人には免許更新時に特別講 習を行っているが、最近は認知症のドライバーによる重大事故も多い。更新時 に認知症を把握する手法は、まだ導入されていない。白書は、高齢者について「安 全運転教育を充実し、運転継続の可否をきめ細かく判断できるよう、適性検査 も充実させる必要がある」と指摘している。現役を続けるには、自らの弱点を 自覚することも重要なことだ。認知症の場合も含め運転適性の科学的根拠が示 されれば、本人や家族も納得して免許の取り消しに応じるのではないか(「社説」

『読売』2005/08/14)。

「明らかに事故を起こしかねないような人には、きちんと対処しなければならない」。

「起こしかねない」という可能性から予防措置を積極的に求める「リスク社会」が そこにはある。疾患があるから事故を起こすというのが、差別であるとして欠格事 由の廃止に至ったことも忘れられている。そもそも警察庁は、痴呆(認知症)が事 故に関係していたかどうかの統計を取ってこなかった。各都道府県警察に報告を求 めていたのは、年齢だけである14)

 「痴呆(認知症)」であれば、免許の取り消しや停止は、すでに2002年の改正道路 交通法で可能となっているのである。起きた事故から、免許の取り消しと停止が厳 正に行われていない現実が霧消してしまう。「運転適性の科学的根拠」が証明され たから、免許が交付されているのではない。

関越自動車道で8月、逆走した軽トラックを避けようとした乗用車が別の乗用 車と接触する事故があり、その後、軽トラックを運転していた赤城村の男性(76)

が認知症の疑いがあると診断されていたことが8日、県警高速隊の調べでわ かった。県警は近く男性を業務上過失傷害容疑で書類送検し、運転免許を取り 消す方針。男性は「事故のことはまったく覚えていない」と話しているという。

調べでは、男性の軽トラックは8月14日午前11時ごろ、みなかみ町で関越道下 り線を逆走。これを避けようとした茨城県内の男性会社員(44)の車が別の車 に接触後、ガードロープにぶつかり全焼した。男性会社員の車に乗っていた少 年が軽傷を負った。軽トラックの行方は当初わからなかったが、高速隊が目撃 情報などから数日後に赤城村の男性を割り出した。男性は事故後、病院で認知 症の疑いがあると診断された。04年8月に免許を更新した際には、問題はなかっ たらしい(『朝日』2005/11/09)。

みなかみ町(旧月夜野町)の関越自動車道下り線で今年8月、逆走してきた軽 トラックを避けようとした乗用車2台が衝突、うち1台の1人が軽傷を負った 事故で、県警高速隊は8日までに、軽トラックを運転していたのは赤城村在住 の男性(76)と断定。男性は認知症の疑いがあり、調べに対し「まったく覚え ていない」と話しているという。同隊は男性を業務上過失傷害、道交法違反(通

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123 行区分)容疑で前橋地検に書類送検する方針。調べでは、男性は8月14日午前

11時ごろ、軽トラックで同自動車道を逆走。避けようとした茨城県古河市の男 性会社員(43)の車が中央分離帯に衝突、はずみで埼玉県久喜市の男性会社員

(28)の乗用車に接触したうえ、路側のガードロープ(金属製)に再び衝突した。

この事故で古河市の男性の乗用車に同乗していた男性の娘(14)に軽い打撲傷 を負わせた疑い。乗用車は衝突後に炎上して全焼した(『毎日』2005/11/09)。

みなかみ町(旧月夜野町)の関越道で8月、逆走した軽トラックを避けようと した乗用車など2台が巻き込まれた事故で、県警高速隊は、走り去ったままと なっていた軽トラックの運転手を赤城村の無職男性(76)と突き止め、業務上 過失傷害と道交法違反(通行区分違反)容疑で近く前橋地検に書類送検する方 針を決めた。男性は認知症の疑いがあり、「全くわからない」などと話してい るという。調べによると、男性は8月14日午前11時ごろ、みなかみ町の関越道 下り線を軽トラックで逆走。避けようとした乗用車が後続の乗用車に接触した 後、ガードロープにぶつかって炎上するなどし、炎上した車に乗っていた1人 の腰などに軽傷を負わせるなどした疑い。目撃証言などから男性が浮上した。

男性は昨年8月に免許を更新していた(『読売』2005/11/09)。

この男性は、2005年12月に免許取り消しとなっている。このことが分かるのは、

2006年3月である(『朝日』2006/03/01)。では、送検はどうなったか。それが記 事で取り上げられるのは、2007年4月と12月のことだった。

軽トラックの男性は70代で、事故後に認知症と診断され、運転免許を取り消さ れている。道交法違反(通行区分違反)などの疑いで書類送検されたが、起訴 猶予処分となった(『朝日』2007/04/18)。

男性は1年前に運転免許を更新したばかり。事故歴もなく、家族も認知症に 気づかなかった。男性は業務上過失傷害容疑などで書類送検され、不起訴処 分になった。群馬県公安委員会は認知症を理由に免許を取り消した(『毎日』

2007/12/07)。

この事故が免許取り消しと不起訴処分(「起訴猶予処分」と食い違うのも問題だが)

になったことまで伝えたのには理由がある。被害者側が民事訴訟を起こしていたか らである。『毎日』の記事には、こう続きがある。

古河市の一家には、保険金が支払われた。だが、心の痛みは消えなかった。事 故後、子供たちは車に乗るのをいやがり、夜もうなされた。帰省先の祖父母 に見せるはずだったスポーツ大会の賞状も焼失した。妻は「体の傷より、心の

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傷の方が大きかった」という。今年3月、「死の恐怖に直面した」として提訴。

男性側は「認知症で、高速道路を走っているという認識がなかった」と免責を 主張したが、地裁は10月31日、「過失責任を左右する事情が認められない」と して116万円の支払いを命じ、11月下旬、判決が確定した。妻は「私も認知症 の親を介護したことがあり、家族も大変だったと思う。でも、認知症の人にな ぜ運転させてしまったのか」と話す。事故から2年4カ月。落ち着きを取り戻 したように見える子供たちは、車内で寝ていても強くブレーキを踏むたびに

「何?」と不安げに起きてくる。「認知症の人の運転免許を認めた国にも責任は あるのでは」。妻のその思いは今も残る。

 運転免許の交付は行政にその責任がある。しかし、同時にまた免許保有者にも安 全運転の義務がある15)。認知症が過失責任の免責理由とはならず、民事訴訟で勝訴 したにも関わらず、「認知症の人の運転免許を認めた国にも責任はあるのでは」と いう嘆きが被害者から表明されるのはなぜか。不条理があるからだ。安全運転に必 要な最小限の技量と自動車に乗る限りは安全運転に努める意思がある者として交付 される運転免許証が、その交付者によって保証されないという不条理である。

4.認知症のスクリーニングへ

 2006年2月になると、警察庁は免許更新のさいに認知症のスクリーニングを行う ことを発表する。全国紙5紙すべてが報道している。

警察庁は二日、車の運転に必要な認知機能を簡単に把握できる検査方法の開発 を始めることを決めた。機能が低下した高齢者による事故を防ぐためで、専門 家で構成する委員会を設置、九月に検査方法をまとめる。警察庁は免許更新時、

一定年齢以上の免許保有者に検査を義務づけ、機能低下が発覚した場合には安 全運転指導をしたり、医師の診断を受ける制度の導入を検討している(『日経』

(夕)2006/02/02)。

高速道路の逆走など認知症が原因とみられる高齢者の重大事故が各地で相次い でいることを受け、警察庁は、免許更新時などに運転者の判断能力などを簡単 に検査できるシステムの開発に乗り出す。高齢者医療の専門家らによる専門の 委員会を設け、今秋には報告をまとめる予定。……(中略)……認知症患者に絞っ た事故統計はないが、65歳以上の運転者約927万人のうち約30万人は認知症患 者といい、認知症や判断能力の低下が原因となった事故が目立つ。……(中略)

……開発予定の検査システムは免許更新時などに映像を見せて記憶力を試した りする。認知症の疑いがあれば医師の検査を受けてもらい、運転に影響がある と診断されれば取り消しや停止にするという(『朝日』(夕)2006/02/02)。

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125 高齢運転者の事故が増加しているため、警察庁は、高齢者の認知機能を簡易に

判定する検査制度の導入を決めた。認知症と判断された場合は医師の診断な どを経て、免許を取り消す方針。7日、東京都老人総合研究所の本間昭参事 研究員を委員長とした専門家委員会の初会合を開き、検査手法の開発を始め る。同庁は今年9月ごろに最終報告を受け、道路交通法の改正を含めた運転免 許制度の見直しを進める。……(中略)……委員会には、簡易に判定できる 検査手法の開発のほか、判定の基準作りなどが求められている(『毎日』(夕)

2006/02/02)。

高齢者のドライバーによる深刻な交通事故が目立つことを受け、警察庁は2日、

高齢者が運転免許証を更新する際、認知症の有無や認知機能の低下を判定する

「簡易検査」を義務付ける方針を明らかにした。専門医らによる委員会を7日 に設置し、今年9月をめどに、効果的な検査法と検査対象年齢の下限などをま とめたいとしている。簡易検査は、日付や自分のいる場所など、本人の認識能 力や記憶力を確認する程度の内容になる見込み。「認知症の疑い」が判断され た時は、専門医の診断に移行する(『読売』(夕)2006/02/02)。

高速道路の逆走など六十五歳以上の高齢運転者による事故の増加が深刻化する 中、警察庁は二日、認知機能が低下した運転者や、認知症の疑いがある運転者 を把握する簡易な検査方法を開発するため、精神医学の専門家らによる委員会 を設置することを決めた。平成十四年施行の改正道交法により、認知症と診断 された高齢運転者には免許の取り消しや停止の措置が可能になった。しかし、

認知機能が低下しているものの認知症とは診断されていない"事故予備軍"を把 握して安全指導を徹底する方法がなく、疑いのある運転者に医師の検査を受け てもらう仕組みもないのが現状だ。警察庁は九月に委員会の最終報告を受けた 後、道交法改正を含め、一定年齢以上の高齢運転者を対象にした新たな検査制 度の導入を検討する。同庁によると、委員会は専門家六人で構成し、今月七日 に初会合を開く。日本認知症ケア学会理事長で東京都老人総合研究所の本間昭 参事研究員が委員長を務める。七十歳以上に義務付けられている高齢者講習な どの際に短時間で行うペーパーテストを念頭に、精神医学や交通安全の専門的 観点から検査項目や判定基準を策定。多様な情報の一時的な記憶や地理的、時 間的な認識-など運転に必要な能力を医師以外でもチェックできる「認知機能 検査」の開発を目指す(『産経』(夕)2006/02/02)。

「認知症」に関する事故統計がない。にもかかわらず「高速道路の逆走など認知症 が原因とみられる高齢者の重大事故が各地で相次いでいる」という判断。そして

「認知機能が低下しているものの認知症とは診断されていない"事故予備軍”」が存 在すると。既に見てきたように、医師から「認知症」と診断され、運転を控えるよ

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うに指導され、家族からも運転をやめるように言われていても、現実には事故が発 生する。「効果的な検査法と検査対象年齢の下限などをまとめたい」というが、認 知症の原因疾患は多種多様であり、その症状もまた、それに応じて多種多様なので ある。「東京都老人総合研究所の本間昭参事研究員」とあるが、彼の専門はアルツ ハイマー病であって、彼が中心となるということは、「認知症」という触れ込みに もかかわらず、その簡易検査はアルツハイマー病の診断を意識したものなるだろう。

認知症の原因疾患はアルツハイマー病だけではない16)

 「痴呆」の原因としては、以下のものが挙げられている。アルツハイマー病、脳 血管性障害、ピック病、正常圧水頭症、パーキンソン病、ハンチントン病、外傷 性脳損傷、脳腫瘍、低酸素血症、感染症(ヒト免疫不全ウィルス、梅毒)、プリオ ン病(クロイツフェルト・ヤコブ病)、内分泌疾患(甲状腺機能低下症、高カルシ ウム血症、低血糖)、ビタミン欠乏症(チアミン、ナイアシン、ビタミンB12の欠 乏)、免疫疾患(リウマチ性多発性筋症、全身性エリテマトーデス)、肝障害、代謝 性疾患(クフ病、副腎白質変性症、異染性白質変性症、成人および小児のその他の 蓄積性疾患)、および他の神経疾患(多発性硬化症)など17)。「認知症」に共通する 症候である記憶障害一つをとっても、その現れ方は一様ではない。標準化された簡 易認知テスト、例えばMMSE(Mini-Mental State Examination)の使用についても、

その限界が指摘されてきた。MMSEは症状の確定した「痴呆」の格付け手段とし ては有効なのだが、Dementia of Alzheimer's Typeの初期段階ではほとんど役に立 たないと言われている。見当識、記銘や基本的な言語能力は保持されているからで ある。またピック病をはじめとするDementia of Frontal Typeでは、重度であって も、MMSEをはじめとする認知テストにはまったく信頼が置けないとも言われて いる。MMSEで30点中30点の満点を出す者の比率が3分の2を越えるという報告 もある18)

 2006年10月になり、警察庁は高齢者の免許更新時に認知症検査義務づけの方針 であると、新聞は伝える。20分の簡易テスト。内容は、年月日、イラストを見た 後での記憶テスト、時計の文字盤に時刻を書かせる等の内容。得点が低いほど良 好である、得点によって「認知症の疑いがある」「認知症に至らないが認知機能が 低下している疑いのある者」「認知機能が低下している疑いがない者」の三つに分 類される等があきらかになった(『日経』『朝日』『毎日』『読売』『産経』各(夕)

2006/10/12)。

 2006年11月末になると、検査を受ける年齢が「75歳以上」で検討されていると伝 えられた。75歳以上になると、事故率が急上昇する。認知症の有病率75歳以上では

7%、65-74歳に比べ三倍以上に跳ね上がる(『日経』『毎日』『読売』『産経』各(夕)

2006/11/30)。前者のデータは警察庁によるものである。しかし、後者はそうでは ない。警察庁は、75歳以上の事故率の上昇は、認知症の有病率の上昇が原因だから、

75歳以上に簡易検査を行うのが有効だとしている。新聞記事も、その因果関係を肯 定する。しかし、そもそも警察庁は、「認知症」が<原因>で事故が発生したとい

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127 う点について、統計データを持っていない。さらには、それを判定する方法も手段

も持ち合わせてはいない。

 世論に押されて法律が改正される。認知症もその例なのだが、同じ道路交通法で は、飲酒運転がその代表例である。1999年11月23日、東名高速道路上で、飲酒運転 の10トントラックが乗用車に衝突、幼女二名が焼死した。業務上過失致死傷、道路 交通法違反に問われた被告への一審判決が懲役四年で「軽すぎる」ということに端 を発している。危険運転致死傷罪や厳罰化の世論である。しかし、これによっても 飲酒運転による悲惨な事故は後を絶たなかった。2006年8月、橋の上で停車中の自 動車に飲酒運転の自動車が衝突。追突された自動車は河に転落。幼児三人が死亡し た。飲酒運転に関わりのある者にも責任を負わせるという方向に動いていく。

同乗者については、現行の道交法にはまったく規定がないが、運転者と一緒に 飲食するなどして飲酒運転をすることを知りながら同乗した場合は、「飲酒運 転を容認したうえ、送ってもらうという利益も得ている」と判断。運転者が酒 酔い運転なら懲役3年以下、酒気帯びなら同2年以下とした。車や酒を提供し た場合も「飲酒運転を助長する」とし、罰則を運転者と同じ量刑にした。とも に、現行法では罰則がないため、現在は刑法のほう助罪や教唆罪を適用して摘 発しているが、条文として明記することで、運転者だけでなく、周囲も罰せら れるという意識からの抑止効果を狙っている(『読売』(夕)2006/12/28)。

「認知症と知ってはいたが、運転をやめると足がない」を理由に、「仕方がない」と いう運転者と家族もいる(『毎日新聞』2007/05/16)。飲酒運転では、「飲酒運転を 容認したうえ、送ってもらうという利益も得ている」として、同乗者にも事故の責 任を負わせる。「認知症運転を容認したうえ、送ってもらうという利益も得ている」

として、同乗者の責任を問うという論調は皆無である。車を販売し、あるいは家族 が車の鍵を隠していたにもかかわらず新しい鍵を提供した自動車販売会社が、「認 知症運転を助長する」とし、罰則を運転者と同じ量刑にするという方向は到底出て きそうにない。

 家族が免許の取り消しを求めても、警察自体が消極的なことは記事に出てい る。「法律で認知症は免許の取り消しの対象と定めているのに進まないのは、警察 の現場レベルで具体的な指針がないことも一因だ」という調査結果もある(『毎 日』2007/05/15)。現場の警察官の中には、法律の存在自体を認識していない場合 も露見している。神奈川県警保土ヶ谷署に、夫が認知症で、医師からの勧告を受 け入れず、運転を続け、事故も起こしているので免許証の取り消しができないか と相談に訪れた。「そんな規則は、ありません」の一点張りで、全く相手にされな かったという事例である。妻の不条理感は、被害者の側もまた抱いている。「あの 後、夫が人をひいていたら、誰が責任を取ってくれたのでしょうか」。当の警察側 は「高齢者という弱者の交通手段を奪い、強制的に権利を奪うことに抵抗感があ

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る」(『毎日』2007/05/15)。「本人や家族の協力なしに免許を取り消すのは難しい。

認知症の疑いを持っても、医者でもない警察官が『運転をやめてほしい』とは言い にくい」と、本人や家族、医師に責任を押しつけたがっているのである(『毎日』

(夕)2007/06/02)。医師の側では、「患者さんが事故を起こした時の責任の所在は 決まっていませんし、医療現場では「危険性」を判定する客観的指標がありませ ん」(『毎日』2007/05/31)。認知症と診断され、医師から運転をやめるように勧告 されても、免許証が「国家に認められていますから」と主張してやめない(『毎日』

2007/05/16)。国民の側は8割が、「免許更新時の適性検査の強化」でスクリーニ ングによる運転停止を求めている(『毎日』2007/04/03)。

 2007年6月14日、75歳以上の免許更新時に「認知機能検査」を義務づける改正道 路交通法が成立する。二年以内に施行されると決定されるが、施行の前から問題点 は指摘されていた。

75歳以上の免許保有者は現在約240万人。検査は時間の制約などから簡易なも のになる見込みで、「認知症のおそれあり」と判定されるのは約7万5000人と 警察庁はみている。このうち過去1年間に信号無視や一時不停止などの違反行 為があった場合だけ、医師の診断を受ける「臨時適性検査」の対象になり、そ の数は約9000人と予測。全体の0.38%で、高齢ドライバーの認知症発症率とさ れる3%を大きく下回る。また、認知症とはいえないまでも「認知機能の低下 がある」と判定される人も3割程度出ると予測。しかし次の検査は3年後で、

その間に症状が進んでも、事故や違反を起こすまで発覚しない。もう一つ、大 きな漏れは75歳未満の認知症患者だ。対象年齢をどうするかは法案段階で議論 があったが、受講者側の反発や検査コストの問題などを考慮し、当面は75歳以 上に落ち着いた。しかし、高齢ドライバー問題を研究する池田学・熊本大大学 院医学薬学研究部教授は「若年性認知症のドライバーは運転機会が多い分、事 故を起こす確率が高く、本来は50歳以上を対象にした方がいい」と話す。……(中 略)……新制度には運用上の問題を指摘する声もある。取り消し・停止の判断 で最も重要なのが医師の診断だが、専門医の中には「中度以上の認知症なら運 転を中止すべきだといえるが、軽度では判断できない」という声がある。蓮花 一己・帝塚山大教授(交通心理学)は「運転を続けさせるよう訴える患者も出 るとみられ、医師に過度の責任を負わせるのは酷。公安委員会や自動車教習所 などの指導員による運転能力試験を行い、医師と指導員らのチームとして判断 すべきだ」と提言する(『毎日』2007/06/17)。

認知機能検査が75歳以上そして二段階を経て臨時適性検査を受けることになったの は、「受講者側の反発や検査コストの問題などを考慮し」たからであって、決して

「科学的客観性」から導かれたのではない19)。「若年性認知症のドライバーは運転機 会が多い分、事故を起こす確率が高く、本来は50歳以上を対象にした方がいい」と

参照

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