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指定管理者制度とNPOの地域協育力 : 今改めて、ハ ードからソフトそしてヒューマンへ

著者 井口 貢, 高見 啓一

雑誌名 同志社政策研究

号 2

ページ 125‑144

発行年 2008‑03‑15

権利 同志社大学政策学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000011410

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指定管理者制度と NPO の地域協育力

― 今改めて、ハードからソフトそしてヒューマンへ ―

井口 Mitsugu Iguchi

NPO法人FIELD

高見 啓一 Keiichi Takami

はじめに

今、筆者(井口)は改めて、南方熊楠が身を呈して訴えた「神社合祀令」1)反対の運 動に対して、感慨深く思いを馳せている。院生の頃、地域の内発的発展について考察 するある演習を履修した。そのときのテクストとして指導教官が示したものは鶴見和子の 著作であったが、その演習時に何度も耳にすることになるのが南方の名だった。

鶴見が指摘するように、わが国で「エコロジーという言葉を明確にかかげて自然保全 運動をおこなった…(中略)…嚆矢」2)であり、わが国の近代の知の成果を代表する稀代 の博覧強記のこの思想家を形容する言葉は、とどまるところを知らない。

無数の村の産土神を、市町村ごとにひとつの神社に合祀しようとする明治政府の姿 勢を鋭く批判をした南方の意図は、鎮守の森の喪失を単なるエコロジストの視点から憂 えたものでは決してなかった。彼は、地域固有の土俗神に対する信仰と地域固有の精 神の喪失、そしてそれに伴う地方の衰微と綱紀紊乱の懸念を危惧していたのである。

地域固有の信仰と精神とは、地域文化の源泉でもある。近代合理主義的な発想が、

地域文化の固有性を損ないかねない状況に対して、南方は大きな警鐘を鳴らそうとし たのである。

換言すれば、国家神道に従属されていく土俗神と国家行政に収斂されていく地方行 政を捉えた南方の眼には、近代合理主義に潜む不条理さへの憤りと哀しみが満ちて いたに違いない。

翻って現代の日本社会、地域文化のあり方と地方行財政の合理化との関係を考える ときに、南方から学ぶべきものは少なくないような気がしてならない。とりわけ、市町村 の広域合併と地方分権の時代が標榜され、それが不可避なものとなればなるほどに。

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.文化行政と地域協育 1.1.問題の所在

「指定管理者制度」も「NPO(非営利組織)」も、文化政策にとって特有の概念やシス テムではない。しかし、いわゆる「地方分権の時代」「平成の大合併」という社会の文脈 のなかでの、合併後の地域社会の行く末を考えるときに、文化政策にとって特有ではな

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くとも不可欠なその重みを、良きにつけ悪しきにつけ有することになるということは否定 できない事実である。とりわけ「文化行政」が狭義のものとして捉えられていた時代、雑 駁ないいかたをすれば1980年代以前、自治体においては、それが小さなまちであれば ある程なおさら、首長が代わるということは、その文化行政に大きな転換を迫りかねな い出来事であった。あるいは、地方財政の逼迫化も同様の現象をしばしば招来してき たのではなかったであろうか。それは「文化」という概念が多様で多義にわたり、しばし ばその費用対効果がみえにくいという問題、さらに誤解を恐れずにあえて生々しい表現 を採れば、首長のもつ文化観やそれ以前の価値観、「人はパンのみには生くるにあらず」

というものの、「パンではないもの」にどれだけの理解や共感をその政策のなかで示し 得るかという個人的な資質に大きく依存している部分があるからではないだろうか。した がって、パン以外に関心を示すことができない首長にとっては、文化は先ずもってわが 国でいうところの狭義の「リストラ」の対象となってしまう。首長の交代が、その自治体を 特徴付けていたような文化政策の、継続の障害となっている事例は少なからずあるに 違いない。(逆もまたあり得る事実であろうが。)

市町村合併やそれに伴う新首長の選出が一定不可避のものであるとしたら、地域文 化の通時的かつ共時的な連続性を保全し、さらにそれをベースに、新たに生まれた自 治体において、新たな地域文化を創出していくためには、市民一人ひとりの自覚と果た すべき役割、そしてNPOをはじめとする市民団体の主体的な地域活動と地域文化の継 承保全や新たな創造への意思が不可欠なものとなる。

梅棹忠夫の次の指摘にも、今一度耳を傾けたい。

「(文化の概念は)生産にも権力にも直結しない。・・・金にもならないし票にもならない。

そういう価値のものが文化なのだ・・・しかし人生においては、生産や生活目的に直結し ない部分がたくさんある。それをどうするのかということが文化問題なのであります。」3)

合併をしたことで旧市町村それぞれの独自な文化や文化政策を殺してしまってはな らない。もしそうであるとしたら、合併は地方行財政の単なる「リストラ」であったことに過 ぎなくなり、真の「リストラクチュアリング」からは程遠いものとなり、当然のことながら真 の「分権化社会」の実現に近づくことには、大きな困難が伴うものとなるであろう。(以下、

単なる下部構造に重きをおいた合理化的意の狭義の改変を「リストラ」とし、上部構造 と下部構造との調和ある、そして円滑な関係を求める健全な構造改革としてのそれを

「リストラクチュアリング」として、あえて使い分けてみたい。)4)

「指定管理者制度」の活用において、そのことは端的にいえるのではないだろうか。

財政の再建策、あるいは「リストラ」の一環で、そのアリバイのようにハードの管理運営 を市民団体に委ねているという段階にとどまっている限り、健全な地域文化の育成は なし得ない。地域の外部のプロの業者に委託するケースもしばしばみられるが、その理 由のひとつとして地域内の民間業者や市民団体は十分に成熟していないという行政側 のいい分もあるだろう。しかし行財政の健全な「リストラクチュアリング」を通して、内発的 な視点で地域文化を育てない限り、主体的で自律性をもった分権型の地域社会は画 餅に終わる。

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そして行政における内発的な地域発展への視座の有無については、「指定管理者制 度」の援用のあり方もまたひとつの試金石になるということを付記しておきたい。

理想論かもしれないが、単なるハード運営の委託を超えて、この制度を活用すること で自前の市民と市民団体を育て、そして公と民とが連携協働するなかでともに成長し 新たな公が創出され、そのことで地域経済も地域文化も歩調を合わせてブラッシュアップ されて行くのだということを、行政サイドは押さえておいて欲しいということだ。そのこと ではじめて、「指定管理者制度」も地域文化政策のなかで意義をもち得るのである。

鶴見和子のこの言葉を、今一度噛み締めたい。

目標を実現するであろう社会のすがたと、人々の生活のスタイルとは、それぞれの社 会および地域の人々および集団によって、固有の自然環境に適合し、文化遺産にもと づき、歴史的条件にしたがって、外来の知識・技術・制度などを照合しつつ、自律的に 創出される。5)

1.2.地域主義と地域協育のための文化政策

―狭義の文化行政、負の文化政策を超えて―

地域主義という言葉は、ネガティブで偏狭なイメージを与えるかも知れない。ボーダレ ス社会、グローバル化社会と叫ばれて久しい社会の文脈のなかでは、確かにそれは否 定できない部分を有してはいるかもしれない。しかし、一方で「格差社会」という言葉や さまざまに解釈されるその概念が、流行語のように流布している。例えば「中央と地方 の格差」、「都市部と農山漁村部との格差」といった具合に。そうしたなか、地域主義を ポジティブな意味で復権させる必要性があるのではないだろうか。

上述の南方と親交を結び、そしてやがて袂を分かつことになった柳田國男が求めた 地域主義の倫理的な基礎をなす部分は、盟友であった南方の神社合祀反対運動と思 想的には、実は通底している。顕在化する過激なまでの孤軍奮闘の運動か、天皇制国 家という当時の社会状況下において「かのやうに」を墨守しながらも、行間から照らしだ された思惟かという、表現形態の差異はあったとしても。

柳田の地域主義の倫理的基礎に関する考察は、藤井隆至の労作が示唆深い。

「小市場」の自立性の復活のために、「それぞれの地域の自立と連帯を確保しうる地 域主義的な経済構造への転換」6)を目指した柳田の経済政策を考えるうえで、『遠野物 語』のなかで示された彼の思想こそが、地域主義の倫理的基礎について考えるうえで 重要であることを藤井は主張する。この点において、鶴見和子が示した『遠野物語』観 と重なるところが大きいといえるだろう。「『遠野物語』は、常民が、中央からの強圧にも かかわらず、自己の信仰を守ろうとする、非暴力抵抗の姿勢を、玲瓏とてらし出した。

著者柳田の批判精神をわたしはそこに見る。」7)

これはまた換言すれば、思想統制という名の 負の文化政策 から超越した常民のポ テンシャルを指摘したものともいえるのではないだろうか。常民のポテンシャルという点 では、柳田はまた別のところで興味深い発言を成している。それは「日本歴史閑談」と

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銘打って行われた、歴史家・家永三郎との対談の席上でのことである。(1949年6月)

家永による、「(民衆の)思想は、いわゆる一世を動かすというようなそんなことはでき ないでしょう。」という指摘を受けて、柳田は次のように反論しているのである。

「そんなことは絶対にないのです。村が半分インテリで、半分無学の人ならばインテリの 奴に引っ張って行かれますけれども、村挙って、お寺の坊主、神主を除けばインテリでな いような村だったら、村を動かしているのは無識の者の判断なんです。」8)(全て、ママ)

南方がその喚起のために動き、柳田が期待を込めて想った常民の思想、そして鶴見 がその生涯をかけて追究した常民による内発的な地域発展のための思想が今改めて 問い直されようとしている。それは日本経済新聞が、2007年(平成19)9月22日付文化 欄において、「文化政策も 官から民 へ・・・「啓蒙の時代」から脱皮」と銘打って展開し た論説がある意味で象徴しているのではないだろうか。

文化政策は、たったひとりの普通の生活者である市民の発案や運動の萌芽からも展 開し得る。その事実を肝に銘じながら、常民概念や内発的な地域発展の思想を「文化 政策学」の枠組みのなかで再検討し、批判的に継承していかなければならないだろう。

そのためには、地域社会という、ある意味で小さい世界かもしれないが、そのなかで息吹 きそして連携と協働を得ることで展開していくであろう可能性を内包した小さな動きも看 過してはならない。そしてそこにおいては、市民の思想的営為の所在を無視、もしくは黙 殺を偽装するかのような行為は決して為してはならないのである。市民の思想的営為こ そが地域教育の場と機会を生み9)、そこにおいては行政も市民も企業も全ての構成員が 師であり学徒である。そして、地域という地理的空間がひとつのトポスである以上、トポス 自体が地域教育の担い手であるとともに、地域教育によって成長するものでもあるといえ よう。したがって、地域教育とはまさに地域協育であると換言することもできるだろう。

次章以降の高見による論考では、そんな小さな営為の大きな可能性を考察の対象 にしてみたい。

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.指定管理者制度と米原公民館の挑戦 2.1.指定管理者制度と公民館

井口論考からの引継ぎを受け、ここからはとりわけ公民館における指定管理者制度 の導入によるインパクトと、私の実践フィールドである米原市米原公民館の取り組みに ついて紹介したい。実践家にとっても、研究者にとっても、「狭義の文化政策(行政)」を 乗り超えるためのヒントとなれば幸いである。

指定管理者制度は2003年(平成15)に地方自治法の一部が改正され創設された、地 方公共団体(自治体)の持つ公の施設の運営を民間にゆだねる制度である。10)この制 度が創設されるまでは「管理委託制度」と呼ばれ、委託先は地方公共団体の出資法人

(いわゆる第三セクターなど地方自治体が50%以上出資する法人)などに限定されてい たが、新しい指定管理者制度では、委任先(厳密には委託ではない)の指定管理者の

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範囲には特段の制約はない。選定は原則として「公募」で行われることとなっており、民 間企業でもNPO法人でも、法人格を持たない任意団体でも、制度上は指定管理者に なることができる。11)

指定管理者は、施設の利用料金を収入として収受できるほか、「指定管理料」と呼ば れる委託料を自治体から収受する。その中から施設の管理料や職員の人件費、そして 各種の事業費など全てを捻出するのである。12)指定管理者は、条例や諸規則ほか自治 体と交わす「協定書」の範囲内で自由に事業展開をすることができる。毎年の余剰金 は、指定管理者のものとなるところもあれば、自治体に返還するところもあり、その事情 は様々である。13)

指定管理者制度の導入は、その趣旨であるサービスの向上とコストダウンのほか、公 共事業にNPOの参入が促進されるなど、民間からも期待が大きい反面、公民館へ指定 管理者制度を導入することに関しては危惧される声も多い。たとえば石井山竜平は、指 定管理者制度を公民館へ導入することの危険性として、①住民に対する公的責任が守 られない(平等の原則、無料・安価な利用料の保障、施設運営への住民意志尊重、個 人情報保護など)②労働者の雇用条件(価格競争による劣悪化)③行政からノウハウや 住民との接点が失われる④制度実施に関する民主的な決定手続きがない・・・などの 課題を挙げている。14)

特に、指定管理者制度のもつ時限性15)の問題は、早急な成果主義や不安定労働を 生み出すことにつながりかねない。しかし、一方で「直営の施設が十分にその求められ る機能を果たし得なかったという実情があったのではないか」という問題提起も一方で は必要だろう。そのため、指定管理者制度の導入以前に、各自治体でこれまで公の施 設がどのようにその役割を果たしてきたのかという分析をするのが本筋であろう。

2.2.米原方式の指定管理者制度

公民館への指定管理者制度導入の実情をみる上で、滋賀県米原市の例を取り上げる。

滋賀県米原市は、県内唯一の東海道新幹線の停車駅「米原駅」をもつ交通の要衝。

東海・近畿・北陸エリアの中間にも位置し、東西文化の結節点という性格をもつまちで ある。2005年(平成17)2月と10月に坂田郡4町(米原町・山東町・伊吹町・近江町)が合 併し、米原市となった。人口42,000人の自然豊かな市である。

米原市の指定管理者制度は、合併後の行財政改革の一環で、平成18年度(2006年)

から本格的に導入された。その方針は、米原市にある全ての公の施設を、その「必要 性」から根本的に見直すというスタンスである。16)2007年(平成19)4月1日現在、約4割 の公の施設が指定管理者による運営となっている。17)残念ながら米原市の指定管理者 制度は、利用者・市民との事前協議がないまま導入されたケースが多いため、真の意 味での民主的な決定手続きを経ずに進んだ典型例であると言わざるを得ない。

米原市の場合、公募対象を市内団体に限定しているわけではないが、結果として NPOも企業も全て、地元に関連している団体が公の施設の指定管理者となっている点 が特徴的である。「指定管理者は担い手となる地元団体と並行して考えていく」という平

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尾道雄市長の思いもあり、市当局ではこの動きを「米原モデル」ととらえ、協働のまちづ くりのスタンダードにしていこうという動きになっている。当然ながら、そのためには担い 手側の実情と行政当局の方向性の「相互理解」が不可欠であろう。

この動きの中、旧町エリアごとにある米原市の4つの公民館は、2006年度(平成18)

から2007年度(平成19)にかけてすべて公募にて指定管理者制度に移行した。18)それぞ れ指定管理者となってからは特徴的な動きをしているが、4館に共通している点がある。

① 地元密着の団体であり、地域と顔がつながるスタッフがいる

② 職員に自主退職した元行政関係者がおり、行政の内情に精通している

③ 行政直営よりも動きやすくなり、それぞれの館が特徴的な展開を見せている

④ 公民館運営に留まらず、協働のまちづくりの担い手として期待されている

⑤ いまや市行政の役割そのものが問い直されている(連携・評価のあり方等) など これは、単なる共通項に留まらず、指定管理者制度による公共施設運営がうまく回っ ていくための条件でもある。すなわち、公の施設の展望を考える上では、制度そのもの ではなく、こういった運営の実情に目を向ける必要があるだろう。

最後に私感だが、米原市の場合は、市民合意の手続きを経ないという現実と、「時期 尚早」という反論を、ある種の「覚悟」の上で取り入れた制度である以上、当面の間は 様々な経営ノウハウを持った指定管理者(および指定管理者間の連携)の側が、協働 のための素地づくりをリードせざるを得ないだろう。

2.3.米原公民館の挑戦

米原市米原公民館は「特定非営利活動法人FIELD」が指定管理者となって運営さ れている公民館である。FIELDは、地元米原で活動する地域子ども会の「ジュニアリ ーダー」という中高校生グループの出身者が立ち上げたNPOである。FIELDは「子ど もの手による企画づくり」をコンセプトに、単独事業だけではなく、教育委員会などの行 政機関とも協働し、活動費用を捻出しながら活動してきた。その原点は「いつか好きな ことを仕事にしたい」という思いであり、事業を自ら考え・創り上げていく喜びを軸にし た活動である。19)

指定管理者制度が2006年度(平成18)から米原公民館にも導入されることになり、FI ELDがこれに応募。FIELDの実績と若者の可能性が評価され、指定管理者に選定さ れることができた。館長以下、職員は全員20代でのスタートということで、いまや全国か ら注目を集めている。公民館の指定管理者を受けるにあたっての思いは、「子どもの手に よる企画づくり」というコンセプトが、公民館における市民の育成にそのまま応用できるの ではないかという発想である。そこで打ちたてたのが「一緒につくるみんなの米原公民 館」構想であり、米原公民館ではこれに基づく方針として「3本の柱」を掲げている。

【第1の柱「公民館」】

公民館の本質は、地域課題の解決(地域創造)を担おうとする「公民」のための館で あるという原点に立ち返る。職員主導ではなく、市民参加による公民館の事業運営を

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進め、そのための人づくり・団体育成に力を入れていこうという方針。20)

【第2の柱「たまり場」】

公民館は人と情報がフリーに集まる場であり、地域活動を促すきっかけとなる「自由 なたまり場」であるという機能に注目。子どもからお年寄りまで、日常の学習相談や地域 のつながりづくりをはじめ、学習意欲と成果発揮の場づくりのためのコーディネートをして いく方針。21)

【第3の柱「民活導入」】

住民ニーズへの「スピーディな対応」をはじめとした、民間ならではの手法を活用し、

行財政改革の課題である「住民サービスの向上」と「コストダウン」を矛盾なく実現する。

具体的には、若手専門職中心の登用や、維持管理の総合アウトソーシング等を図ること で、職員定数の削減と専門性の向上を同時に図っていく方針。

2006年(平成18年)4月1日(正確には3月31日夜)のリニューアルで、まず最初に始めた ことは物質的な「たまり場づくり」からである。会議室の貸館中心であった公民館運営 を、人の集まる場に変えていくため、ロビーと事務所の模様換えを行った。喫茶コーナ ーをイメージしたロビーには丸テーブルを配置し、給茶機を使っての湯茶サービスを開始。

開放的になった事務所には畳を敷き、子どもや乳幼児親子のたまり場に変えた。これ まではサークル・活動が終わった後、スッと帰ってしまっていた市民も、ロビーや事務所 に少し寄って談笑していくという風景に変わるようになった-(=滞在時間の延長)。特 別な事業をしていなくても、場を創るだけで市民が集まってくる証明であろう。当然なが ら、職員は来館者へのあいさつを欠かさない。市民の立場で「こんな公民館に行きた いな」という思いをそのまま反映した結果である。

個々の事業においては、市民参画による講座展開も米原公民館の特徴である。たと えば生涯学習講座「エコミュージアム米原学」では、地域住民やNPOなどと協働し、園 芸講座や歴史講座、文化講座などを実施している。また、市民やサークルからの提案 は「市民提案事業」という形で、事業化している。健康推進員による食育講座や、伝統 工芸士による体験講座などは、地域課題の解決や地域資源の発見につながる取り組 みとなっている。また、たまり場づくりのコンセプトのもと、予約のいらないロビーでの各 種事業(パソコンを並べてのネットカフェ、編み物ニットカフェなど)を毎月実施し、入りや すい場づくりを目指している。

このような活動の成果が出て、2006年度(平成18)実績は昨年比で利用者数が2割 増加。印刷機の利用者数は顕著に7割増加した。以前は印刷機の存在すら知らなかっ た市民も多かったが、市民活動の拠点機能を前面に打ち出した結果、印刷機の利用 件数は大幅に増加したのである。これは、単なる印刷機の利用頻度に留まらず、公民 館における「市民活動の活性化」を直に示す数字であり、この意義は大きい。FIELD が打ち出してきた「公民の館」という方向性に向けて確実に進んでいることを示している。

また、もう一つ成果を顕著に示す数字として、新聞や雑誌の年間掲載本数108本とい う数字がある。これは計算上、実に「2.9日に1本(開館日数あたり)」掲載されている

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数字になる。NPO法人としてのノウハウを活かし、マスコミへのパブリシティ(情報提供)

を重視した結果である。記事になれば、来館していない市民にも公民館の活動が伝わ る。当館の主催事業だけでなく、公民館利用団体の事業や、市・他館の事業なども紹 介するといった配慮が「情報発信基地」としての公民館の魅力を高める。また、新聞記 者との交流を通じて、職員自身も世論に敏感になる。中の情報を発信できるところにま た外の情報も集まる。

このような1年目の挑戦におけるFIELDのコーディネート実績が評価され、市からは新 たにスポーツ施設2施設「米原野球場」と「すぱーく米原」(屋内テニスコート)を指定管理す るよう依頼された。指定管理者制度以外にも、行政他部局や各種団体からの協働依頼 は時を経るごとに増えていく。こういった動きは、公民館の指定管理ということから波及して、

広く官民の「協働」を広げる道筋ということになる。しかし、課題も依然として多い。

2.4.残されている課題 ―「米原方式」への評価―

公民館の日常は死活問題にあふれている。施設の老朽化・貸館減免のあり方・事業 におけるニーズとウォンツの分析…等、公を担う立場として考えなければならない課題 は従前より多い。しかし最も大きな課題として、全国の指定管理者と同じく、将来的な

「昇給」の問題を抱えている。指定管理者制度では昇給制度が確立しておらず、不安定 労働であるという評価が未だぬぐえない。行政に対する問題提起と同時に、指定管理 者自身も様々な委託事業や助成金の活用、各種のタイアップといった協働を進めなが ら、独自資金の獲得を続けていかなければならないだろう。これについては次章にて 論じたい。

また、石井山が指摘する通り、指定管理者制度の導入プロセスの問題も大きい。顔 の見える地元の団体が担っている「米原方式」が一定の評価を受けるものの、市民の 理解なく導入が進んだため、制度のメリットとデメリットは未だ市民に正しく浸透してい ない。22)公民館という施設が市民主体による社会発展を目指す施設である以上、この 導入プロセスは施設の目的と真逆の手順であると言わざるを得ないし、後々悪い形で 表面化しかねない。すなわち、行政に対して科学的な批判ができる市民社会を、育成 していけるような公民館を理想としつつも、そういった公民館を実現するNPOや団体を、

行政自身が評価できるのかどうかという問題である。このことは市民力はもちろんのこ と、行政自身の先見性や自己浄化力に寄るところも大きい。

本章の最後に、NPOならではの課題として「スタッフ自身の将来設計」という課題も提 起しておきたい。これは、単純に「食べていけるかどうか」という問題ではなく、将来的 に市民活動を「仕事としてやっていきたいか」という問題である。ボランティアと仕事のギ ャップに悩むスタッフが市民活動分野に多数いるのもまた事実である。営利事業のよう に「拡大=発展」という単純な構図には当然ながらならない。新しい課題・仕事に対峙 する度に「本当にやりたかった仕事なのかどうか」を考えることになる。非常にミクロな 視点から出発する問題提起で申し訳ないが、いまや、米原公民館は、行政とNPO双方 の「継続性(幅広い意味での)」が問われる事例となっているといえよう。

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.公民館と経営 ―「ハコ管理」を超えるために―

3.1.協働創出力

この章では、「公民館と経営」という観点から、「狭義の文化政策(行政)」の一部であ るいわゆる「ハコ管理」を超えるための事業創出について論じたい。この章も現実に対 峙した実践からの視座である。

まず、文化政策の対象として外せない「カフェ」や「パブ」は自治活動の原点とも言わ れる。23)飲み食いから交流を産み出すこれらの施設は通常、仕入と売上の繰り返しで 経営を継続させていくのが基本である。若干短絡的ではあるが、文化施設や公民館に おいてもまずは「事業=予算を使う」という発想を切り替えるべきだろう。

「公民の館」をコンセプトとする米原公民館では、地元にゆかりのある各種団体との 共催事業を展開(市民提案事業)することにより、多ジャンルの事業を安価に実施して いる。また、事業以外にも、各種の市民活動を誘致し、公民館のもつ財産(ホールなど の部屋や備品など)を活用させることによって、賑わいづくりにつなげている。こういっ た協働関係を築いた市民団体には、年間の講座や事業なども委任し、FIELD以外の NPOへの資金循環にもつながっていく。また、公民館が「公民の館」である以上、地域 づくりに直結する自治体の政策にリンクできるかどうかは非常に重要であることから、行 政の補助金や委託事業を創出・紹介・斡旋するなどの方策もとっている。そのため、行 政職員が公民館へ企画相談に来ることも多い。24)

こういった事業費を使わない(むしろ増やす)運営のベースは、全国どこの公民館で も職掌として持っている「相談事業」である。25)他団体の事業を紹介・支援するのも大事 な公民館事業であり、ニーズが見えてきたら専門スタッフが年間事業として組み込み、

早目に資金も獲得していく。これこそ労務費の効果であり、民間の面白さでもある。公 民館における「経営力(そして営業力)」とは「協働26)の創出力」であると私は主張したい。

最大経費である「労務費」を費やした公民館職員のコーディネート力こそ、公民館の力そ のものなのだろう。

以上はあくまでも協働の一端に過ぎないが、NPOと経営を考える上では、予算だけ でなく、自らとその周辺の「資源」を見つめ直すことが何よりも重要である。「この講座は 市役所〇〇部とタイアップできないか」「このサークルはこのNPOと連携できないか」「こ の事業はあの団体に委ねた方が効果があるのではないか」・・・といった、優れた文化 施設にのみ見られる日常の視座は、まさに井口の言う「仕事のリストラクチュアリング」で あり、「地域協育力」であると言えよう。「施設」という狭い範囲ではなく、まちづくりに関 わる地域課題や地域資源、そしてその受益者層まで幅広く考えることこそが「協働創出 力」であり、「地域協育力」であると言えるだろう。

教育は学習者への便益に留まらない。文化は文化愛好者への便益に留まらない。

まさに公民館も「公民館利用者のため(のみ)ならず」27)なのである。文化施設をめぐる 受益者負担問題や厳しい予算措置の現状を考えていく上で、施設自身にも、利用者便 益だけでなくその先のビジョンが主張できるかどうか問われていると言えよう。

そこで、次の二節では、公民館から「外」へ創出した二つの事業体を取り上げたい。

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3.2.こほく共同オフィス「たまるん」の活動

前節の協働を生み出す装置として、米原公民館内では空き部屋を活用した「こほく共 同オフィス『たまるん』事業」(以下「たまるん」)を、指定管理者制度移行と同時に実施し ている。「たまるん」はNPOが未発達である滋賀県湖北地方における初のNPO中間支 援機関として、ここを拠点とした市民活動の育成を行っている。FIELDが「たまるん」を 実施したきっかけは、自身が公民館の指定管理者となる以前に「身近なところに活動拠 点がほしい」という多くのNPO団体と共通の思いを持っていたことが原点である。28)

「たまるん」では団体登録制をとっており、登録団体および利用者へのサービスとして 4つの基本機能を展開している。

①「共同オフィス機能」:事務机(公民館事務室から移動したもの)・私書箱・共同倉 庫・ミーティングスペースなどを貸与し、活動拠点として利用させている。

②「運営支援機能」:各種手続き案内や助成金の紹介・委託事業のマッチングなど、

NPOの設立運営や市民活動事業構築のためのサポートを行っている。

③「広報・印刷物支援機能」:印刷機などが利用できるほか、専属の「デザインアドバ イザー」によるチラシの印刷支援や、広報発信支援を行っている。

④NPO情報コーナー機能:インターネットPCが利用できるほか、NPOやまちづくりに 関する書籍・パンフレットを集約している。

特に、運営支援機能におけるNPOへのマッチング例としては、行政の情報誌制作やイ ベントの企画採択、公民館年間講座の受託29)、他施設との共催事業創設30)、外部から の講師依頼31)、地元ボランティアの呼びかけ32)といったもののほか、補助金の取得サポ ートなども随時実施している。特に、「たまるん」では市民活動の資金獲得につながるよう な働きかけに関しては「企業体育成プロジェクト」と名づけて、積極的に推進している。

そのため、2年目(2007年度)には民間企業とのコラボもスタート。市民活動情報の発 信と交流を重視している「たまるん」では、地域情報誌『たまるんるん』を地元企業との 協力のもと発行している。これは、「米原のミニコミ紙を発行したい」という地元新聞販 売店の想いと、「市民の活動情報を発信したい」という「たまるん」の想いが合致して実 現。デザイナーやNPOが所属する「たまるん」側で取材や編集を行い、発行・折込経費 は新聞販売店が負担するというコラボレーションに発展した。表面に地域情報、裏面に 市民活動情報が掲載されているほか、他の企業広告ももらいながら発行しており。やれ ばやるほどプラスになっていく「Win・Win」の関係づくりが成立しつつある。33)

3年目(2008年度)以降はFIELDの手から離れ、「たまるん」自らの事業化に発展。公 民館・FIELDから自立した「市民企業」を、たまるんの登録団体を中心に設立し、コミュ ニティビジネス志向も兼ね備えたNPO中間支援を行っていく方向性である。これは、米原 公民館自身が志向している「市民による運営」を象徴した展開である。市民企業となる

「たまるん」の新規事業としては、得意分野である「情報発信」の支援機能として、NPO や市民向けのITサポート(WEB作成など)やパブリシティサービスなど、安価ではじめら れるPR活動を市民活動団体へ推奨し、有償にてその支援も行う。また、公民館や 個々のNPOのミッションを超えて、行政・企業の地域事業のコンサルティング(計画策定

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など)を積極的に展開する予定である。これまで営利企業が担ってきた多分野のコンサ ルティングをたまるんが請け負うことで、住民・NPOの思いを行政に繋ぎ、行政と一緒 に企画を考え実行することが可能となるだろう。

市民企業による「たまるん」事業化のメリットは、これまで述べてきたとおり市民、そし て官民双方にある。34)しかし、地域経営を考える上において重要な点は、米原公民館

→たまるん自身が「提案型」で事業創出をすることにより、指定管理者制度・施設建物 の枠内ではなく、現場の仕事や協働をベースとした「評価制度」や「予算組み」が行政・

NPO双方に可能となることではないだろうか。そのため、財源としては、FIELD予算の 一部を切り離し、新規雇用の人件費に充てるという具体的な戦略も持っている。NPO も一定の負担をし、行政にも負担を求めることで、「自助と公助」の対等関係を築くこと ができる。もちろん、時間を経るごとにそのチャンネルは多様化し得るが、理想を言うな らば協働相手を広げていくスタンスにおいても、上目づかいの「要望」ではなく、対等目 線の「提案」があってこそ、この先のNPO自身そして市民社会そのものの発展につなが るだろう。

3.3.公民館から生まれたデザイン屋

米原公民館はNPOの市民企業だけでなく、外に新しい企業活動も生み出している。

「たまるん」にはデザイナースキルを持った女性職員が所属しており、公民館だよりの 製作のほか、協働創出の一部として各種団体のチラシ製作や、行政からも情報誌35) イベントチラシなどの発注を受けるようになった。米原公民館に留まらない事業活動の 可能性が見えてきたことから、個人事業者のデザイナーとして独立させ、隣接する滋賀 県立文化産業交流会館内SOHOオフィス36)にて2007年(平成19年)よりデザイン会社

「RINRIEデザイン(代表:小林理恵)」をスタートした。

具体的な仕事内容としては、各種広報物(チラシ・名刺・会報誌など)のデザイン・イラ ストレーションを行っている。「米原生まれ&米原育ち」の彼女は、米原公民館等で地域 のまちづくり活動に関わりながら、活動の「おもい」を「かたち」にするためには、活動と ともにチラシやパンフレット等広報物の「デザイン」が必要であるということを感じていた。

しかし、湖北地方にはそういったものをつくるデザイン会社が成熟していない。そこに注 目し、これまでの行政関係・市民活動関係の関わりを活かしたデザイン業をスタートする こととなった。

PCでのデザインデータ作成を主とし、印刷物に関してはネットによる外注を活用する ことで、地方というハンデを乗り越え、市民活動に関わる人々へクリエイティブなデザイ ンを提供している。そのため、大規模な事業投資や負債もなく、地元に根を張ったSO HOビジネスを着実に展開している。これまでの市民活動家としての顔も活かし、公共 施設やNPOとも連携し、各種事業における広報に活用される。まさに、まちづくり・地域 活動支援に特化したデザイン会社であり、地元に根付くSOHOビジネスである。37)

また、注目すべき点として、公民館の指定管理者制度移行と同じように、地方自治体 の行財政改革の潮流においては、対象顧客となる民間の市民活動・まちづくり活動の伸

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びが今後も期待できるという将来性もある。そして、市民活動に限らず、行政機関もソフト・

ハードを問わず広報・情報発信重視の時代になっている点も忘れてはならないだろう。38)

滋賀県内で公共・NPOに強い・企画力を持つデザイン屋(=まちづくりのデザイン屋)を大 成し、公共・民間をつなぐ「滋賀県発の地方ビジネスモデル」として全国に発信できるか 否か、滋賀の地域経済と地域活動の活性化双方に波及することが期待される。

本節は一転して営利事業の話に飛んだが、非営利活動が「資本主義経済下における 社会的病理の解消」だとするならば、NPOの活動の行く末として、企業の「健全な資本 主義経済」に還元していくことも、ひとつの展望だと言えるだろう。

3.4.公民館・施設の価値とは

ここで再び公民館の議論に戻すべく、米原市以外の事例を一つご紹介したい。筆者 も直接現地見聞していない最新の事例なので、情報不足についてはご容赦いただき たい。北海道のほぼ中央、エルム高原の裾野に広がる人口約16,000人の赤平市の事 例を紹介する。ここはマスコミを賑わす財政再建団体「夕張市」と同じく、日本の石炭産 業を支えてきた工業都市である。

赤平市にある赤平公民館は、赤平市の地域活性化に取り組むNPO法人赤平市民活 動センターが、2003年(平成15)7月よりその運営を受託している。受託のねらいは、赤 平市民活動センター自身の活動拠点としての活用にある。39)運営主体が変わった赤平 公民館では新しい活動として、地域団体に共同事務所を提供しているほか、ミニコミ紙 やFM放送なども行っている。また、NPOの協力者である医者などの専門家と連携して の「何でも相談」なども行っている。活動の中でも、公民館ロビーでスタートした喫茶コ ーナー「ラビカ」では地元食材を活かした「地産地消ディナー」などの特徴的な取り組み も行われている。

地域住民の憩いの場となっていた、赤平市民活動センターが担う公民館であったが、

2006年(平成18)6月に市による産炭地起債の不適切な長期借り入れ(いわゆるヤミ起 債)問題が発覚。国から13億5,000万円の一括返済が求められ、市は一気に財源不足 へ。赤平公民館についても、築33年を超える公民館であることから、この先の維持管理 が保障ができないとして。2007年(平成19)4月の休館が決定された。40)

赤平公民館の休館に対峙し、赤平市民活動センターでは新たな活動拠点を探してい たところ。北門信用金庫が管理する旧富良野信用金庫赤平支店の店舗跡の無償借り 入れができることになった。喫茶コーナーを中心とする市民の憩いの場にしていこうと いう方針のもと、2007年(平成19)4月よりここを「まちなか公民館『ラビカ館』」として運営 がスタート。もともと信用金庫であったことから、仕切りのないスペースに架空の区割りを 設けて、サークルへの時間貸しを実施。場所の提供だけでなく、公民館講座の受託や、

各種イベントの開催、アートや食の取り組みなどを進めている。当然ながら、喫茶『ラビカ』

は赤平公民館内にあった頃に引き続き、市民の憩いのスペースとなっている。

市行政による事業ではないため、人件費などはほとんどついておらず、ボランティアベー

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スのNPO運営となっているが、築33年の赤平公民館の事例は、築25年の米原公民館 の行く末(5年後、10年後)を考える上で実に示唆に富んでいる。築年数、当該エリアの 人口規模、共同事務所の提供といった独自機能など、二公民館とも類似している点は多 いが、共通の展望を一言で言うならば「施設主義からの脱却」である。すなわち、行政の 建てた「ハコ」としての公民館がなくなっても、人やノウハウさえあれば、どんな場所でもソ フトとしての公民館は可能であるということだ。むしろ、維持管理費が浮いた分は、新た に専従スタッフを雇い入れる財源に充てることも可能である(今後はそういった措置が当 然求められるべきだろう)。このことは、公民館の価値の新たな提案にほかならない。

ハード財源をソフト事業に転換するビジョンひとつとっても、米原公民館に応用した場 合、公民館というハコの管理費(ハード予算)だけで年間約1,400万円かかっている。

若干乱暴な計算だが、質実共に年収1,000万円クラスのスペシャリストを追加雇用すれ ば、公民館のみならず、まち全体の活性化につながるだろう(コーディネーターさえいれば、

代替の場所探しは十分可能である)。このことは、米原公民館が抱える昇給問題とも関 わってくる。もちろん、市民活動にこの新予算の使途を委ねることも十分可能だ。

利用者の立場で考えても、サークル活動の場は第1節で述べたように喫茶店やスー パーマーケットの片隅にあってもよい。要は交流の場・居場所となりうる「ウェルカム」な 場が保障されているかどうかが重要なのであって、やはり「人件費」を投入した職員の 専門性にかかってくる。文化創造の場は「狭義の公共施設」だけが担うわけではない。

戦後間もなくの公民館には「青空公民館」という発想がある。戦後、公民館が整備さ れなかった地域では、ハコ無しの公民館活動が展開されていたという。41)ゼロからの出 発こそ、「学習→自治→まちづくり活動」の原点であると思わずにはいられない。

もはや公民館だけが「公民館」ではない。文化施設だけが「文化施設」ではない。い ま自分のまちにある施設の価値がどこにあるのかということを、再度見直すべき時代が 到来したといえるだろう。まさに今、改めてハードウェアからソフトウェアへ、そしてヒュー マンウェアへ・・・である。

3.5.おわりに

第1章の井口からの問いを、実践者レベルで 端的に解釈するならば、「現代日本社会 に迫られる地方行財政の合理化と、地域文化のあり方(市民の思想的営為による内発 的な地域発展)とをどう整理するか」という点であったと思う。

指定管理者制度のもと、米原公民館から生み出した協働主体(NPOも企業も)は、「狭 義の公民館」そして「狭義の文化政策(行政)」という「ハコ」に対するアンチテーゼに他な らない。赤平市の事例も文字通り、ハードからソフトへの「スクラップアンドビルド」であり、

「広義の公の労働」にこそ価値が見出される。しかしながら、こういったスタンスが地域で 受け入れられていくかどうかは、官民双方の成熟度によるところが大きいだろう。地域の ハコそのものをどうしていくのか、原点から議論できるヒト(市民)を育成できるかどうかが、

公の労働に携わるヒト(職員)の専門性だろう。42)指定管理者制度は、皮肉にもそのきっ かけの役割を果たしたに過ぎない・・・と断言できる。安易な受益者負担を強いる行政や、

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財源なき一方的な要望を続ける市民の時代はもう終わりだ。内発的な発展をどこから生 み出すか、互いに誇り高く知恵を出し合っていきたいものである。

1)明治政府は、1888年(明治21)に地方行政単位の整備のために、市町村制を敷い た。市町村はこれによって、行政単位としての地位が確認されたものの、一方で内 務大臣や府県の強い監督下に置かれることになる。いうまでもないが、当時の知 事は中央政府からの任命によって派遣されたため、住民による公選制によるもの ではなかった。併せて、強制的な市町村合併を推進したために、7万以上存在した 市町村が1万3千余にまで再編された。こうした背景のなかで、1906年(明治39)に 勅令として公布されたのが「神社合祀令」であった。ここにおいて、ひとつの行政 単位にはひとつの産土社しか認めないという方針が明らかにされ、残りはすべて 取り壊してひとつに合祀することが命じられたのである。

2)鶴見和子『内発的発展論の展開』筑摩書房、1996年、261頁。

3)梅棹忠夫『都市と文化開発』(著作集21)中央公論社、1993年、424-425頁。

4)経済学の研究分野のひとつに、「レギュラシオン理論」と呼ばれるものがあるが、「調 整」を意味するこの概念と理論は、「リストラクチュアリング」という言葉を、あえて和 製英語となったともいえる「リストラ」と対峙させて使用した筆者の意図を読み取っ ていただくための参考となるかもしれない。井口貢編著『文化現象としての経済』

(学術図書出版社、1995年、77-87頁)を参照されたい。

5)鶴見和子 上掲書、9頁。

6)藤井隆至『柳田國男 経世済民の学 〜経済・倫理・教育〜』名古屋大学出版会、

1995年、251頁。

7)鶴見和子『漂泊と定住と・・・柳田国男の社会変動論』筑摩書房、1977年、180頁。

8)宮田登編『柳田國男対談集』筑摩書房、1992年、189頁。

9)公民館活動などその典型例であり、指定管理者制度の的確な活用で従来の お役 所業務的 な公民館の在り方が根底から改善される可能性などは期待されるとこ ろである。そのことが、市民の思想の醸成や創造的文化環境の創造に大きく寄与 するはずである。

10)出井信夫ほか編『図説 地方財政データブック〈平成17年度版〉』学陽書房、2006 年、84頁。

11)実際は、自治体が独自に選定条件を設けることもできるため、公募によらない団体 が指定管理者となるケースも多い。

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12)しかし、建物の持ち主はあくまでも市であるため、修繕費等の予算は別立て(自治 体裁量予算)にされているケースが一般的である。

13)建物修繕と合わせてトラブルや経営課題につながっている指定管理者も多いようだ。

14)日本公民館学会編『公民館コミュニティ施設ハンドブック』エイデル研究所、2006年、

28頁。

15)指定管理者は施設ごとに協定期限が定められる。一般的には3年や5年といった サイクルで選定を行う。年次計画による評価サイクルができる一方で、短期間での 成果を求められるという課題もある。

16)米原市の指定管理者導入に関する基本的な考え方は以下の6つである。

①行政サービスの向上を図るとともに限られた財源を有効に活かす

②全ての公の施設を点検し、施設の必要性等そのあり方について見直しを行う

③市が設置する必要があると判断したもので、管理委託している施設は指定管理 者制度に移行(当初)

④直営施設についても指定管理者制度や民設民営への移行などを継続して検討

⑤指定管理者候補は原則一般公募にて決定。ただし合理的な理由がある場合は 特定事業者を指定管理者候補とすることができる

⑥指定管理者選定にあたっては、新たに選定委員会を設置し、透明性・公正性を 確保する

17)2007年(平成19)4月1日現在、米原市における指定管理者の導入状況は下記のと おりとなっている。(米原市ホームページより。パーセンテージ・表は筆者作成)

【導入率】

公の施設144施設中62施設で導入(43.06%)

【公募指定・特定指定の別】

15施設  47施設  62施設 

24.19% 

75.81% 

100.00% 

指定種別  施設数  % 

公募指定(※) 

特定指定  計 

※初年度公募(2公民館)含むと17施設(27.42%) 

(17)

【管理者の種別】

18)4公民館の指定管理者および概略は下記のとおりである。

NPO法人  13施設  20.97% 

社団法人  6施設  9.68% 

財団法人  5施設  8.06% 

社会福祉法人  9施設  14.52% 

民間企業  4施設  6.45% 

自治会・地縁団体  22施設  35.48% 

任意団体ほか  3施設  4.84% 

計  62施設  100.00% 

指定種別  施設数  % 

公民館名  米原公民館 

指定管理者制度移行年月  指定管理者 

【概略】 

【概略】 

【概略】 

【概略】 

2006年(平成18) 4月  特定非営利活動法人FIELD 

地元で「好きなことを仕事にしたい」という思いをもっていたジュニア リーダー出身の20代メンバーが中心になって運営。法人の掲げる「子 育ち支援」のミッションを「市民活動支援」へと広げて応募。市民活 動の拠点機能を担っている(次節にて紹介)。 

近江公民館  2006年(平成18) 4月  特定非営利活動法人おうみ  人権・文化・スポーツ振興会 

館長およびスタッフを中心に、「地域の公民館は地域住民で守ろう」

という想いで地域のメンバーとともにNPOを立ち上げ。毎月公民館 に泊まることができる「子ども民泊体験」といった直営時代にはなかっ た取り組みを新たに進めている。 

山東公民館  2006年(平成18)10月  特定非営利活動法人カモンスポーツクラブ 

総合型地域スポーツクラブが運営。スポーツ的なプログラムだけでなく、

文化的プログラムも展開していきたいという思いで応募。併設の体 育館におけるスポーツ事業はもちろん、文化サークルなどとも連携し、

文化事業の展開も進めている。 

伊吹公民館  2007年(平成19)4月  財団法人伊吹山麓青少年育成事業団 

体育館などの管理委託実績がある財団法人。地元の施設は利益云々 ではなく地域住民の利用を重視し、地元で活用しようという想いで 受託。「薬草の里文化センター」を兼ねており、薬草栽培や健康食 の講座など、癒し・健康志向を打ち出している。 

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19)任意団体期からのFIELDの活動例として、「子どもの手による企画づくり事業(子 ども主体のイベント企画やお店づくりなど)」「子どもの手によるタウン誌づくり(子ど もが取材するタウン誌の発行)」「たまり場づくり(公民館の一室を活用しての月1回 の遊び場開設)」「次世代リーダー育成(中高校生リーダーの育成)」などがある。

20)公民館の構想者である旧文部省公民教育課長 寺中作雄は自著にて「公民館は

『公民』のための館です」と述べている。(参考:寺中作雄『社会教育法解説・公民 館の建設』国土社、1995年)

21)現場公民館職員の調査研究に基き東京都教育庁社会教育部が起草した「新しい 公民館像をめざして」(通称:三多摩テーゼ)には、「公民館は『自由なたまり場』で す」とある。(参考:社全協資料委員会『住民の学習と資料 臨時増刊号’76.9.4』

社全協資料委員会、1976年)

22)たとえば大阪府箕面市では、「公民館運営審議会」という市民や学識経験者で構 成される公的な諮問機関が主となって、指定管理者制度問題についての事例見 聞や市民向けの意見交換会などを一年以上にわたり実施し、制度の現実と課題 を自治体に答申している。こういった「制度検討のプロセス」そのものが、地域の施 設を見つめ直す「学び」となっているという点に、多くの自治体は学ぶべきだろう。

23)近代欧州のブルジョア層は、「コーヒー・サロン」に集まって政治や経済についての 情報交換をしていたが、先述の「三多摩テーゼ」でも「(公民館は)住民のいこいの 場、たまり場的性格をより効果的にするために・・・やきとり・飲酒コーナーも必要で はないでしょうか」と出てくる点は非常に興味深い。(社全協資料委員会『住民の学 習と資料 臨時増刊号 76.9.4』社全協資料委員会、1976年、80頁)

24)地域課題から行政施策まで展開した例として「エコミュージアム米原学」がある。「歴史 編」では米原公民館の一来館者でもある元国鉄関係者の写真展示から始まり、古き よき時代の米原駅を語る座談会や出張展示に発展。市役所からも「米原駅東部土 地区画整理事業PR展」の委託を受け、未来の米原駅とコラボする企画にも広がり、

公共事業の進捗状況を市民と共有する『区画整理だより』の協働発行にもつながっ た。人のコラボから資金のコラボ、まちづくりのコラボにもつながっている事例である。

25)白戸洋は公民館における相談事業について「『相談』とは、公民館の地域で果たし ている役割や地域からの信頼度をはかるバロメーター」と主張する。(日本公民館学 会編『公民館コミュニティ施設ハンドブック』エイデル研究所、2006年、210頁)しか し、地域の幅広い相談に対応するためには、各種機関とのネットワークや高いコー ディネート力が求められる。

26)「協働」に関して、滋賀県では6つの類型を示している。

① 委託/② 共催/③ 補助/④ 公の財産の使用/⑤ 企画立案過程への参加/

⑥情報交換・コーディネート(滋賀県県民活動課ホームページ「協働ネットしが」より)

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27)井口は観光の重要性について「国ノ光ヲ観ル」施政であることから、「観光振興は 観光客のためならず」と主張している(井口貢編著『観光文化の振興と地域社会』

ミネルヴァ書房、2002年、15頁より)

28)(財)淡海文化振興財団「おうみNPO活動基金」助成事業。「NPO活動支援機能 助成」メニューを活用。米原公民館指定管理者選定プレゼンテーションの際には、

協働創出の軸として位置づけ、選定のポイントにつながった。

29)一例として、年間講座「エコミュージアム米原学」の「自然編」を請け負っているNPO 法人「滋賀の園芸福祉研究会」は、樹木医などの専門家が在籍しており、高度な花 の講座や農業体験だけでなく、米原公民館の植栽なども幅広く請け負っている。

30)他施設との連携の一例として、「醒井水の宿駅」という観光施設での出張体験講座 などがある。観光客だけでなく地元の賑わいと交流を生み出す上で、手芸を中心 とする公民館サークルや「たまるん」登録NPOの活躍の場となっている。

31)特に、ユニークな活動を進める「日本折紙飛行士協会」などは外部からの講師紹介 依頼が急激に増加している。派遣先も幼稚園からシルバー施設まで幅広い。こう いったNPOも公民館発の全国組織かもしれない。

32)各種のメディアでボランティアを呼びかけるだけでなく、県や市の「ボランティア入門 講座」を受託することによって、「育成」から「活動の機会づくり(市民団体の紹介)」 まで一連で行うといった仕掛けもしている。

33)ほか、地元商店からも空きテナント活用について相談が来るようになった。公民館 から外へ羽ばたくNPOが出る日も近いだろう。

34)「たまるん」の市民事業化によって期待できる事業効果(メリット)は下記のように 整理できる。

【市行政にとって】

①米原市自治基本条例の具体化(推進体制としての「協働のINDEX」づくり)

②「湖北地方・滋賀県のNPO先進地 米原」が確固たるポジションになる

③行政としても協働事業の担い手を多ジャンルでつないでもらえる窓口となる

※官民の協働を謳う「米原市自治基本条例」を創設し、その具体化を進める米原市 では中間支援・協働事業創出のニーズが特に増加・多様化している現状がある。

【市民にとって】

①市民活動の総合窓口(よろず相談機能・専門機関)となる

②協働事業の創出(要望型ではない財源確保)につながる

【NPO法人FIELDおよび「たまるん」にとって】

①運営主体の変更、自主運営を目指すことにより、より継続性のある組織体を形成 することができる。また、民間企業並みの収益を志向していくことにより、市民事業 やNPOの安定した雇用を生み出すことにもつながり、組織自体の専門性が高まる。

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