に関する研究 : 共同体意識、NPOに対する態度と向 社会的行動経験を中心に
著者 趙 衡範
雑誌名 同志社政策科学研究
巻 20
号 1
ページ 101‑114
発行年 2018‑08‑10
権利 同志社大学政策学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2018.0000000193
概 要
本研究は、社会的・学術的背景を踏まえて探 索的アプローチとして、共同体意識、NPOに 対する態度と向社会的行動経験が大学生の寄付 決定にどのような影響を与えるのかについて実 証的に検証することを目的とした。具体的には、
理論的背景や従来の研究結果を踏まえ、三つの 研究仮説を設定した。仮説検証のために、京都 府京都市にある私立
A
大学の社会科学関連学 部の大学生208
名を対象にアンケート調査を行 なった。統計分析方法としては、四つのロジス ティック回帰モデルを用いて統計分析を行っ た。分析結果は以下の通りである。第一に、個人属性(統制変数)による寄付決 定に与える影響を分析した結果、
「性別」と「学
年」が寄付決定に正の影響を与えていることが 明らかになった。第二に、個人属性をコントロー ルし、説明変数1
である「共同体意識」
と「NPO
に対する態度」が寄付決定に与える影響を分析 した結果、「共同体意識」が高いほど、寄付を 行う可能性も高くなることが明らかになった。第三に、個人属性をコントロールし、説明変数
2
である向社会的行動経験を投入した結果、「寄
付した経験がある人」と「両親のボランティア 参加を観察した経験がある人」は、その経験が ない人より寄付を行う可能性が高いことが明ら かになった。第四に、個人属性をコントロール し、説明変数1
と説明変数2
を投入して寄付決 定に与える影響を分析した結果、本研究の説明変数の中、「共同体意識」と「寄付経験」が統 計的に有意な正の影響を与えることが確認でき た。とりわけ、「寄付経験」は、他の変数より 寄付決定に最も強い影響を与えていることが明 らかになった。最後には、本研究の限界と課題 について述べた。
1.はじめに
日本では、高齢化、少子化、そして多様化が 進行しており、公共サービスに対する様々な需 要が増加している。そして今後もこの傾向が続 いていくことが予想される。しかし、低成長の 長期化、税収の不足などによる財政悪化に伴 い、行政だけでは解決ができない社会的課題が 多く、民間の非営利団体(以下、NPOとする)
の活動に期待が高まっている。しかし、多くの
NPO
では活動資金が不足しており、日本国政 府では2011
年の「新寄付税」制度導入などの 寄付税制優遇措置をはじめ、「新しい公共」
や「共
助社会づくりの推進」の中で寄付活性化が政策 課題として掲げられ、一般市民をはじめとした 多様な主体の参加による寄付の拡大に力を入れ ている。ところが、日本では寄付が活性化されている とは言えない状況である。まず、世界寄付指数1 によれば、2016年の日本の寄付指数は、世界
140
カ国のうち、114位と低い水準である。こ の水準は、上記した寄付政策が導入される前で日本における大学生の寄付決定に影響を与える要因に関する研究
―共同体意識、NPO に対する態度と向社会的行動経験を中心に―
趙 衡 範
1 世界寄付指数というのは、イギリスのチャリティー団体「Charities Aids Foundation」が調査機関に依頼して、全世界140カ国で寄 付行為やボランティア活動についての調査を行った結果である。調査は過去1カ月間について、「困っている他人を手助けしたか」、
「チャリティー団体などに寄付をしたか」、「チャリティー団体などにボランティアとして自分の時間を費やしたか」の3点について 行われた。
寄付行動を分析する必要がある。さらに、年齢 が高いほど寄付を行う個人の割合が高くなると いう日本人の寄付特性を考慮すると、大学生の 寄付参加は将来の寄付参加に繋がる可能性が高 いことが示唆される。
上記のようなことを鑑みると、大学生の寄付 参加は、社会的側面から見れば、社会の発展と 健康な社会を支える一つの要因になると同時 に、社会的結束力を強化させることも期待され る。また、単に不足している
NPO
の資源を拡 充するという次元を超え、世代間の連帯と協力 をもたらす行動であり、大学生の寄付参加は、日本における寄付文化の醸成や寄付参加を促す ための「鍵」になると考えられる。
そのため、本研究では探索的アプローチとし て、大学生の寄付決定に影響を与える要因につ いて実証的に明らかにすることで、寄付研究に おける基礎資料を提供することを目的とする。
本稿の構成は次の通りである。第
2
章では日本 における寄付の現状や寄付者の特性を概観す る。第3
章では、先行研究を検討し、本研究で 検証する仮説を導出する。第4
章では、研究方 法や変数について説明し、第5
章では、分析結 果を提示する。最後に第6
章では、本研究の結 果をまとめた上で議論を行う。2.日本における寄付の現状 2. 1 寄付の概念
伝 統 的 に、寄 付 は 慈 善(charity)と 博 愛
(philanthropy)の概念とともに議論されてきた。
慈善は貧しいに対する寛大さ、周りの人に対す る寛容や同情心、そして、個人的レベルの関心 と慈悲心を根拠とした行為の事を指す。さらに、
互いを思いやる活動を意味する概念である。博 愛は、公益と人類愛のための自発的行動、自発 的なサービス、自発的な寄付の意図的かつ計画 された過程という概念を持つ。
日本における寄付の概念は、寄付白書には
「自
分自身や家族のためではなく、募金活動や社会 ある2010
年の119
位と比較しても、あまり変わっていない。また、寄付白書(2017)による、
2016
年の個人寄付の総額推計値は日本の名目GDP
の0.2%にすぎない 7,756
億である2。な
お、内閣府が実施した『NPO法人実態調査平 成26
年度版』によると、寄付金収入が「0円」であると答えた法人が
5
割以上であり、寄付金 はNPO
の資金としても機能していない状況で ある。むろん、寄付の量的規模が大きいほど、望ま しい社会であるという議論については、様々な 意見がある。しかし、多様な社会問題に対応し、
持続可能な
NPO
の財政を確保するため、寄付 文化を醸成し、定着させる必要性には異論はな いだろう。また、活発な寄付活動は、資本主義 社会の格差問題を緩和し、社会に存在する様々 な階層と社会構成員間の信頼を強固にさせる(Bekkers 2003)ことから、日本社会において寄
付文化を醸成し、定着させることは大きな課題 と言えよう。上記の背景を踏まえて
2000
年以降から、寄 付の社会的必要性と機能性を高めるために、「寄
付の活性化」を狙いとした研究がなされつつあ る。これらの主な研究の対象は経済活動をして いる個人や企業の寄付に関する研究であり、未 だ大学生を研究対象としている研究は少ない。なぜなら、大学生寄付者の数が比較的少数であ ることや寄付金額も小額である特性がその原因 であると考えられる。しかし、次に述べる理由 から、日本社会における大学生の寄付参加を促 すことや寄付決定要因について明らかにするこ とは、日本の寄付研究において意義があるもの といえよう。まず、近年一定の所得がない学 生も参加できるクリック寄付、ポイント寄付、
SNS
寄付など、さまざまな寄付方法があるに も関わらず、大学生の寄付者参加率は他の学歴 層より最も低い(41.5%)
水準である(日本ファ
ンドレイジング協会編2015)
3。また、一回寄
付に参加した寄付経験者は引き続き寄付を行う 可能性が高いという先行研究(リ・ソン2010;
ノ
2008;アン 2005;Shelley 2002)の結果から
みると、大学生は将来の潜在的寄付者であり、2 アメリカ(名目GDP比1.44%)、イギリス(名目GDP比0.54%)、韓国(名目GDP比0.5%)となっている。
3 無職(53.2%)、失業(42.9%)、短大・高専在学(53.2%)となっている。
ね
3,000
円程度で推移しており、家計消費支出 に占める寄付支出はおよそ0.08%である。だだ
し、この数字は、独居世帯、宗教や教育に関す る寄付が把握されておらず、過少推計されてい る可能性が考えられる。より詳細な寄付現状を 把握するため、全国インターネットをもとに宗 教や教育に関する寄付を含む日本の寄付を推計 した寄付白書(2017)の統計をみると、2016 年の個人寄付の総額は7,756
億円、15歳以上人 口の45.4%の人が平均 27,013
円を寄付してい ると推計されている。日本における寄付の現状を全体像として海外 と比較すると、日本では寄付支出全体の中、個 人寄付が占める比率が小さいことがわかる。例 えば、アメリカでは個人寄付は全体
94.6%であ
り、イギリスでは94.2%、日本では 19.8%であ
る(石田・奥山2012)。また、各国の統計によ
れば、2016年の日本の個人寄付額は7,756
億円 に対し、アメリカは2,818
億ドル(30兆6,664
億円)、イギリスは97
億ポンド(1
兆5,035
億円)、韓国は
7
兆900
億ウォン(6,736
億円)である(日
本ファンドレイジング協会編2017)。
日本の寄付者の特性について、チョ
(2015)
は、年齢が高いほど、有業よりは年金・恩給生活や 専業主婦・主夫など時間的余裕がある人が年
1-2
回の非定期的寄付を、自治会・町内会の参 加を通して共同募金や自治会に寄付を行ってい ると寄付白書のデータをもとに分析している。より詳しく見ると、属性別では、男性より女性 のほうが比較的寄付を多く行っている。世帯所 得別では、世帯所得階層が高くなるにつれて寄 付者の割合が高くなる傾向性がみられる。海外 の先行研究は、学歴が高いほど寄付参加率も高 い傾向があると報告しているが、日本において は、その特定の傾向がみられない。ただし、こ こで注目したいのは、本研究の研究対象である 大学生の寄付参加率は他の学歴層より最も低い
(41.5%)ことである(日本ファンドレイジン
グ協会編
2015)。年齢別では、男女ともに年齢
が高いほど寄付を行う個人の割合が高くなって 貢献などを行なっている人や団体に対して、金
銭や金銭以外の物品(衣料品、食料品、医療品、
クレジットカードのポイント、不動産など)を 自発的に提供する行為」と定義されている(日 本ファンドレイジング協会編
2017)。また、総
務省の「家計調査」による定義では、寄付金と は、世帯以外の団体などへの寄付金、祝儀等の 移転支出のことで、具体的には、一般的寄付金、共同募金、バザー現金寄付などである4
。両方
の寄付の定義には多少の差はあるが、無償の意 味と利他主義という重要概念に関しては共通し ている。したがって、本研究での寄付の概念は、慈善的・公益的な目的で、自発的に募金活動や 社会貢献活動を行う人や団体に対して、見返り を望まずに金銭や金銭以外の物品を提供するこ とと定義する5
。
寄付の類型は、寄付者の参加形態によって金 銭および品物を提供する
「物的寄付」
と人的サー ビスを提供する「時間寄付」に分けられ、参加 主体によっては、「個人寄付」と「法人寄付」
に分けられる。近年の寄付研究では、寄付を金 銭寄付、現物寄付、時間寄付に区分しており、一般的に金銭寄付と現物寄付を「寄付」、そし て時間寄付を「ボランティア」という用語で使 用する傾向がある。しかし、本研究の調査対象 である大学生は一般的に金銭寄付という用語で はなく、
「寄付」
という用語で使用しているので、本研究における物的寄付は、「寄付」という用 語で総称したい。また、物的寄付とボランティ アを総称する行為として、「向社会的行動」、こ れに関する経験を「向社会的行動経験」という 用語を使って議論を進めたい。
2. 2 日本における寄付の現状
寄付金に関して網羅的に把握する公式統計は ない。しかし、個人寄付のマクロ規模は「家計 調査」の政府統計から把握することができる。
「家計調査」によると、二人以上世帯における
年間平均寄付総額は1990
年から2016
年まで概4 学校寄付や寺社への寄付は「寄付金」の対象からは外れており、それぞれ「授業料」「信仰・祭祀費」に分類される。ちなみに、寄付 白書による寄付金の調査では、広義の寄付の状況を把握するため、国や地方自治体、政治献金、宗教団体、自治会、町内会、婦人会や PTA、地域の催事や祭事への寄付も含んでいる。
5 例えば、貧困者を救うために募金箱にお金を入れること、赤い羽募金など街頭募金に寄付をすること、インターネットを通じてクリッ ク募金やポイント還元などのオンライン寄付をすること、寄付付き商品など購入すること、現物(物品)寄付などが含まれる。
面から評価できる。しかし、日本における寄付 研究は、寄付に関するデータの制約などによっ てあまり進んでいない現状である(石田・奥山
2012)。
また、ある個人が寄付に参加するかどうかと いう決定には、個人の属性や社会環境といった 現在の状況だけでなく、その思想や態度・行動 を形成する上でどのような教育を受けてきた か、どのような環境で育ってきたかという過去 の経験も影響すると考えられる。しかし、日本 では未だにこれらの点については検討が進んで いない状況である。
3. 2 寄付決定に影響を与える要因:個人 属性
上記に示したように、日本における寄付に関 する研究では、性別、年齢、宗教、家計収入な どという個人属性に関連した変数を中心に、誰 がより寄付やボランティアに積極的に参加し ているのかを確認するための研究がなされて いる。性別については、研究者によって異なる 研究結果が報告されている。柗永(2012)は、
JGSS2005
のデータを用いて、日本人の寄付決定要因を分析した結果、男性のほうがより寄付 をするということを指摘している。しかし、石 田・奥山(2012)は、兵庫県に居住する
20
歳 以上の男女1,584
名を対象として寄付決定要因 を分析した結果、性別による寄付参加の差はみ られないという結果を報告している。次に、年 齢、学歴、家計収入については、寄付行動に正 の影響を与えているという比較的一致した結 果が示されている(山内・横山2005;NPO
研 究情報センター2004;日本ファンドレイング
協会
2017)。宗教に関しては、宗教団体に属し
ている人は、寄付やボランティア活動といっ た社会参加にもより多く参加していると指摘 し て い る(Matsunaga 2007;寺 沢
2012;
三 谷2013)。
以上のように、個人属性に関連する寄付の決 定要因については、十分な検討がされてきたと 言える。したがって、本研究では、探索的アプ ローチとして、日本の寄付研究において未だに 十分な検討がされていなかった変数に着眼する ことにする。
いる。こうした傾向は、最も多い寄付方法であ る自治会・町内会を通じて共同募金などに寄付 を行うという日本人の寄付特性との関係がみら れる。最近、日本でも一定の所得がない学生も 参加できるクリック寄付、ポイント寄付、SNS 寄付など、さまざまな募金方法を試みているが、
未だに大学生の寄付行動を起こさせるまでには 普及していないと考えられる。
3.先行研究の検討
3. 1 日本における寄付研究の現状
日本における寄付研究は、2000年以降から「寄付の活性化」を狙いとした研究がなされつ
つある。これらの研究では、「どの人が寄付を 行うのか」という寄付者の個人的要因を検討す る研究と、「どの制度が寄付の増加に影響を及 ぼすのか」という制度の効果を分析する研究に 大別される。具体的には、寄付者の個人的要 因に関連する従来の研究は(柗永2012、福重 2010、石田・奥山 2012、山内・横山 2005、寺
沢
2012)、
個人的要因として性別や年齢、宗教、教育水準、家計収入などが取り上げられており、
どのような特性をもった人が寄付を行っている のかを検討している。
また、「どの制度が寄付の増加に影響を及ぼ すのか」という制度的要因としては、政府支出 が寄付を誘発するというクラウディング・イン 効果が報告されている。柗永
・
奥山(2012)は、JGSS-2005
のデータを用いて分析した結果、政府支出(民生費、衛生費、消防費)の寄付に対 するクラウディング・イン効果を観察した。一 方、岩田(2011)は政府の
NPO
への補助金支 給は寄付金をクラウディング・インしている が、アメリカと比較するとその程度が低いこと を報告している。税制インセンティブに関する 国外の数多くの実証的研究の結果、「税制の優 遇措置は寄付行為に対してインセンティブ効果 がある」という一つの結論が導かれている(石田
2004)。また、跡田(2008)は自治体の産業
政策などの結果を独立変数として、制度による 寄付に対する効果を分析している。これらの研 究の成果は、現状を把握し、分析することで、
今後の方向性を見通すことに寄与するという側
3. 3. 2 NPO に対する態度
NPOと寄付に関連する研究は、新規寄付者 の開発と関連した研究と既存寄付者の寄付を維 持し、寄付額の規模を拡大するという寄付者管 理の研究に区分される。今までは、寄付行為に 影響を与える寄付者の属性や心理的な動機に関 する研究が多く蓄積されてきた。ところが、近 年、NPO数が増加しつつある状況の中、既存 寄付者を適切に管理して寄付が中断されないよ うにすることが、新規寄付者を開発するよりも 効率的であるという主張が提起されており、寄 付者を管理して永続的な関係を形成するための 戦略に研究者の関心が高まっている
(MacMillan et al.2005;チョン 2006)。寄付者と NPO
の関係 についてSargeant and Lee(2004)は、信頼関係
の重要性を強調し、NPOに対する信頼は寄付 行動に正の影響を与えることを明らかにしてい る。また、カン(2007)は、NPOに対する信頼 と寄付行動は直接的な関係も存在するが、互い に影響しあう双方的な関係であることを報告し ている。すなわち、信頼は寄付行為に影響を与 えるが、寄付者の寄付行為も他人がもつNPO
の信頼度に影響を与えることを指摘している。日本における調査では、寄付者の寄付先を選ぶ 要因として、「寄付金の使い道が明確で、有効 に使ってもらえること」、「活動の趣旨や目的に 賛同・共感・期待できること」が上位に挙げら れている(日本ファンドレイング協会
2016)。
つまり、NPOに対する信頼度や透明性は日本 人の寄付決定に影響を与える要因として考えら れる。しかし、日本の寄付研究では、NPOの 信頼度と寄付の関係に関しては、多くの部分が 証明されていない。したがって、本研究では、
大学生の寄付決定の予測要因として
NPO
に対 する態度を用いて、その影響力を検討する。3. 3. 3 向社会的行動経験:社会学習理論
学習とは経験によって生じる比較的永続な行 動の変化である(Chance 1994)。言い換えれば、
学習による行動の変化に最も重要なものは経験 である。人の経験は本人が直接的に体験した直 接経験と、他人の経験を見聞きした代理経験の 二つがある。Banduraは、社会的学習理論
(social learning theory)を提唱し、
後者を説明している。3. 3 寄付決定に影響を与える要因:共同 体意識、NPO に対する態度と向社 会的行動経験
3. 3. 1 共同体意識(sense of community)
共同体意識(sense of community)とは、集 団の成員が持つ所属感、成員が成員相互、ある いは集団に対して持っている重要性の感覚、集 団に関わることによって成員のニーズを満たす ことができるという信念である(McMillan and
Chavis 1986)。共同体意識はこれまで、様々な
心理、社会的変数との関連性が報告されている。ここでは、本研究の対象である大学生を含む若 者に関する研究を中心に先行研究を検討する。
まず、青少年のボランティア活動の参加は、共 同体意識に肯定的な影響を与えることが検証さ れている。パク(2010)によると、ボランティ ア活動に参加した青少年は、地域社会問題の解 決意識や社会的責任感が高いという結果を報告 している。また、ムン・ムン(2009)は、ボラ ンティア活動に参加した学生は、ボランティア 活動を通じて価値ある人生を体験し、理想的な 共同体の生活と社会的連帯感の重要性を認識し ていると指摘している。石盛
・
岡本・
加藤(2012)
の研究では、共同体意識が高い人は、NPOや ボランティア活動による活動を高く評価し、地 域での様々な活動にもより積極的に参加してい ることを報告している。
これまでの先行研究は、共同体意識とボラン ティア活動との間には正の関係があることを明 らかにしている。また、共同体意識は、共同体 の問題を解決するための効果的な手段という観 点から、社会参加の手段である寄付行為との関 連性が報告されている。寄付行動に関する先行 研究に見みると、韓国大学生の共同体意識は寄 付行動に正の影響を与えるということを明らか にしている(チョ
2009;イ・ソン 2013;チョ 2018)。このように、共同体意識は寄付行動の
予測変数として議論されてきたが、海外と日本 の間には様々な文化差があることを考慮する と、海外の先行研究で明らかにされた知見が 日本社会にあてはまらないことも考えられる。従って、本研究では、大学生における寄付決定 の予測要因として共同体意識を取り上げ、検証 を行う。
しやすいという報告をしている。こうした結果 は観察学習経験とボランティア活動との正の関 係について実証的に検証した研究である。しか し、従来の研究では本人の直接経験と寄付行動 やボランティアの関係、間接経験とボランティ アの関係については検討しているが、寄付と向 社会的行動経験との関係については未だに明ら かになっていない部分が多い。
したがって、本研究では本人の直接経験だけ でなく、教育経験
(寄付教育経験)
や観察経験(両
親観察、メディア視聴)といった間接経験が今 後の寄付決定にいかなる影響を与えるのかにつ いて実証的に検証を行う。3. 4 研究仮説
以上の社会的・学術的背景を踏まえて、大学 生の寄付決定に影響を与える要因について明ら かにする。この研究の目的を達成するため、以 下のような仮説を設定する。
① 共同体意識と
NPO
に対する態度の中、寄 付決定にいかなる変数が影響力を持ってい るのか② 向社会的行動経験の中、寄付決定にいかな る変数が影響力を持っているのか
③ 共同体意識、NPOに対する態度、向社会 的行動経験の中、寄付決定にいかなる変数 が最も強い影響力を持っているのか 本研究では、より厳密に検討するために先行 研究で寄付行為に影響を与える要因として十分 検討されてきた個人属性(性別、学年、信仰、
主観的所得水準)を統制変数として設定する。
4.研究方法 4. 1 調査対象
本研究の研究対象は日本の大学生である。京 都府京都市にある私立
A
大学の社会科学関連 学部の大学生を対象にアンケート調査を行なっ た。サンプリングは、便宜的サンプリング法(convenience sampling)を採用した。調査の手
順は、A大学にて講義をしている教員B
氏に 調査目的や方法、個人情報の保護などの調査概 要を説明して調査協力への承諾を得た。その後、社会的学習理論(social learning theory)とは、
特定の文化に所属する人が、他人の影響を受け て、所属する文化で適切な態度、習慣、価値観、
行動などを身につけていくことであると説明す る(Bandura 1977)。社会的学習の特徴は、人 間の行動は他人の行動を観察し、意識的に模倣 することによっても、成り立つことを実験研究 により実証したことである。したがって、学習 による行動の変化に最も重要なものは経験であ り、様々な経験を通じた学習効果が個人の行動 変化の原因であると言えるなら、寄付行動にも この理論を応用できると考えられる。すなわち、
寄付という向社会的行動に参加していなかった 人が他人の向社会的行動を観察することだけで も学習することができる。例えば、両親の寄付 やボランティア活動に参加することを観察した ことだけでも、寄付や
NPO
に対する肯定的な 態度が形成され、寄付を行う可能性が高くなる という仮説が考えられる。まず、先行研究にお ける寄付行動と向社会的行動経験の関連性に関 する議論について検討する。3. 3. 4 向社会的行動経験と寄付行動
ファン・カン(2002)によれば、子供の頃に 友人や近所の人に寄付やボランティアなどの支 援行動(helping behavior)をした経験がある、もしくは慈善募金団体、社会福祉施設などに直 接寄付をした経験がある場合は、大人になった ときの寄付参加への傾向が高くなることを明ら かにしている。また、児童を対象に研究した
Eisenberg(1990)は、同じ年頃の子供の中、他
人を助ける行動を直接経験した子供の場合、学 習の結果により、寄付やボランティアなどの支 援行動および向社会的行動(prosocial behavior)の傾向が高くなるという研究結果を報告してい る。これらの研究結果は、寄付やボランティア 活動といった向社会的行動に関連した直接経験 は、将来の寄付行動を促すと論じている。また、
間接経験とボランティア活動の関係を説明して いる研究結果も報告されている。三谷(2013)
は、ボランティア活動と学習の関係について社 会化理論を用いて説明している。子供の頃に他 者を援助する近所の人と接触していた人は、現 在において他者への共感性や一般的信頼が高い 傾向があり、そのためボランティア活動に参加
4. 2. 3 説明変数 1:共同体意識と NPO に対する態度
説明変数
1
には、共同体意識を「自分が属し ている地域社会に対する所属感、愛着、責任感」と定義した。測定するために先行研究を参考 に、チェ(2005)の尺度(8問、5点尺度)を 用いて測定した。尺度の質問は、「x1 私は、自 分の周囲に助けが必要な人がいれば喜んで助け たいと思う」、「x2 私は、自分が住む地域社会 の構成員であるという意識をもっている」、「x3 私は、自分が住んでいる地域と隣人に対して愛 情を感じる」、「x4 私は、自分が地域社会にとっ て必要な一員であると思う」、「x5 私は、自分が 努力すれば地域や社会がよりよくなると思う」、
「x6 私は、公共団体が主催する活動などにボラ
ンティアで参加する意思がある」、「x7
私は普段、地域や社会問題に関心がある」、「x8社会問題 に対する自分の意見をインターネットに載せて みたい」で構成されている。また、回答は、
「1
点:
まったくそう思わない」、「2点:
そう思わない」、「3点 :
どちらとも言えない」、「4
点:
そう思う」、「5
点:とてもそう思う」の5
件法で求め、得点の 合計が高いほど共同体意識が高いことを意味す るように数量化されている。NPOに対する態度については、「普段自分が 持つ
NPO
に対する信頼性、有用性と必要性」と定義した。信頼性は
NPO
の機能に対する信 頼、寄付金使用に関する信頼の程度を意味し、有用性と必要性は機能に関する効率性と社会的 役割の重要性を意味する。測定するために先行 研究を検討し、Drollinger(1997)が開発した 尺度(6問、5点尺度)を部分修正して測定し た。尺度の質問は、「y1 私は、NPOや慈善団体 などに対する信頼度が低いと思う」、「y2 NPO や慈善団体は寄付金を倫理的に使用していると 思う」、「y3 自分が寄付先に寄付するとき、寄 付金の使い道が明確で、有効に使用されると思 う」、「y4 NPOや慈善団体は寄付金を無駄使い していると思う」、「y5一般的に、NPOや慈善 団体は、私たちの地域社会をより住みやすい場 所にするため重要な役割を果たしていると思 う」、「y6 NPOや慈善団体は助けを必要とする 人に適切に対応していないと思う」で構成され ている。また、回答は、「1点:まったくそう 思わない」、「2点:そう思わない」、「3点:ど 教員
B
氏に本人が担当している講義を紹介してもらい、受講生の了承の上、受講生へ直接に 調査概要を説明した。その際に、調査への参加 は任意であり、不参加によって不利益は生じず、
個人の特定がなされない旨を伝えた。なお、調 査実施において文部科学省・厚生労働省の「人 を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を 遵守した。アンケート項目の妥当性検証のため には専門家との議論過程を経ており、6人の学 生を対象とした予備調査の過程を通じて修正、
補完作業を行った。以上の調査プロセスにした がって、質問紙調査は、2015年
7
月16
日に行 い、208名の大学生に調査票を配布して182
部 を回収することができた。また、回収された調 査票は漏出しないよう鍵付きロッカーに保管し た。調査票の中で欠損値が多い10
部を除く、172
部のデータを最終的な分析データとして使 用した。4. 2 調査項目 4. 2. 1 被説明変数
被説明変数である寄付決定(寄付意向)は、
Beautiful Foundation(2014)が開発したものを
用いて測定した。「あなたは今年または来年に 寄付する意向はありますか」という今後寄付決 定への意思について「ない=0
点」、「ある=1
点」の
2
件法で求めている。4. 2. 2 統制変数
統制変数としては、個人属性を用いた。性別
(男性= 0、女性= 1)、学年(1
回生、2回生、3
回生、4回生以上)を尋ねた。信仰は、「信仰 している宗教がありますか」という質問を用い て、「ある、特に信仰していないが家の宗教が ある、ない」という3
項目で尋ねた。主観的所 得水準については、「世間一般と比べて、あな たの家族の所得状況はどれくらいであると思い ますか」という質問に「下、中下、中、中上、上」まで、5段階で尋ねた。回帰分析のため、
信仰が「ある」を
“1
点” とし、「ない」と「特 に信仰していないが、家の宗教がある」を“0
点”のダミー変数にした。
大係数(Variance Inflation Factor)を用いて相 関関係分析を行った。最後に、被説明変数が 二項目であるため、ロジスティック回帰分析
(Logistic regression analysis)を採用し、説明変
数と被説明変数の影響力について分析した。5. 研究結果 5. 1 記述統計結果
5. 1. 1 調査対象の記述統計結果
調査対象
172
名の属性分布は表1
に示す。性 別は男性94
名(54.7%)、女性78
名(45.3%)である。学年は平均
2.39
回生(標準偏差 0.644、
範囲
1 ~ 4)であった。信仰については、信仰
を信じていない人が
159
名(92.4%)、信じて いると答えた人は13
名(7.6%)であった。次 に主観的所得水準についてみると、平均得点が3.25(標準偏差 0.87)であり、“中”
から“上”
であると答えた人が
8
割以上を占めている。調 査対象は自分の家族の所得水準を中間所得層以 上に認識していることがうかがえる。5. 1. 2 説明変数 1 の記述統計結果
説明変数1
として、共同体意識とNPO
に対 する態度の回答分布は表2
に示す。共同体意識 は「自分が属している地域社会に対する所属感、
愛着、責任感」を意味し、得点の合計が高いほ ちらとも言えない」、「4点:そう思う」、「5点:
とてもそう思う」の
5
件法で求め、得点の合計 が高いほどNPO
に対する態度が肯定的である ことを意味するように数量化されている。4. 2. 4 説明変数 2:向社会的行動経験
向社会的行動経験は直接経験と間接経験で構 成し、測定した。直接経験として、調査対象者 の寄付経験とボランティア経験の有無について4
項目(経験がない、経験があるが去年はして いなかった、去年した、去年と今年もした)で 尋ねた。間接経験としては、両親の寄付行為の 観察経験の有無、両親のボランティア参加の観 察経験の有無、寄付やボランティアに関連教育 の経験の有無、寄付やボランティアに関連する メディア視聴体験の有無を「ある= 1
点」と「な
い=0
点」という2
件法で尋ねた。回帰分析の ため、本人の寄付とボランティア活動の経験に ついては「経験があるが去年はしていなかっ た」、「去年した」、 「去年と今年もした」を “1
点”で、
「経験がない」
を“0
点”のダミー変数にした。4. 3 分析方法
統計解析は「IBM SPSS Statistics 24.0」を使 用して分析した。まず、調査対象者の一般的属 性を把握するための頻度分析と各尺度の信頼性 については
Cronbachʼs
にて検討した。次に、変数間の多重共線性の問題(multicollinearity)
を判断するため、Pearsonの相関係数と分散拡
変数(M±SD) 内容 頻度 比率
性別 男性(=0) 94 54.7%
女性(=1) 78 45.3%
学年
1回生 3 1.7%
2回生 111 64.5%
3回生 46 26.7%
4回生以上 12 7.0%
信仰 ある(=1) 13 7.6%
ない(=0) 159 92.4%
主観的所得水準 (3.25±0.87)
下 6 3.5%
中下 21 12.2%
中 80 46.5%
中上 54 31.4%
上 11 6.4%
表 1表 1 調査対象の属性分布(n=172)調査対象の属性分布(n=172)
のボランティア経験については、経験がある 人は
114
名(66.3%)、ない人は58
名(33.7%)であり、調査対象者の時間的寄付経験と金銭的 寄付経験は約
10%の差がみられる。
次に、間接経験については、今まで両親の寄 付行為を観察した経験がある人は
91
名(52.9%)、ない人は
81
名(42.1%)となっている。両親のボ ランティア参加を観察した経験がある人は46
名(26.7%)、
ない人は126
名(73.3%)となっており、
本人の直接経験より観察経験は相対的に低い。ま た、寄付白書(2016)による、50代の平均寄付 参加率(41.9%)
とボランティア活動参加率(29.3%)
と比較してみると
、寄付の場合は若干高く 、ボラ
ンティア活動は若干低い水準になっている。学校あるいは
NPO
で行う寄付やボランティ ア活動に関連する教育を受けた経験がある人は74
名(43.0%)、
ない人は98
名(57.0%)
であり、メディアからの寄付やボランティアに関連する お知らせ、あるいは情報に接した経験について は、ある人は
116
名(67.4%)、ない人は56
名(32.6%)となっている。今回の調査対象者の
ど共同体意識が高いことを意味するように数量化した。本研究における共同体意識尺度の信 頼性は
cronbachʼs
信頼性係数0.811
であった。また、調査対象における共同体意識の平均得点 は
3.16
±0.659
となっている(表2)。
NPOに対する態度は「普段自分が持つ
NPO
に対する信頼性、有用性と必要性」を意味し、得点の合計が高いほど
NPO
に対する態度が肯 定的であることを意味するように数量化した。本研究における
NPO
に対する態度尺度の信頼 性はcronbachʼs
信頼性係数0.746
であった。NPO
に対する態度の平均得点は2.73
±0.659
と なっている(表2)。
5. 1. 3 向社会的行動経験の記述統計結果
説明変数2
として、向社会的行動経験の回答 分布は表3
に示す。まず、直接経験である本人 の寄付経験やボランティア活動の経験を見る と、今まで寄付経験がある人は127
名(73.8%)、
ない人は
45
名(26.2%)となっている。本人変数 内容 頻度 比率
本人の寄付経験 ある(=)
%
ない(=)
%
本人のボランティア経験 ある(=)
%
ない(=)
%
両親の寄付行為の観察経験 ある(=)
%
ない(=)
%
両親のボランティア参加の観察経験 ある(=)
%
ない(=)
%
寄付・ボランティア活動に関する教育の経験 ある(=)
%
ない(=)
%
寄付関連メディア視聴体験 ある(=)
%
ない(=)
%
表 調査対象者の経験的要因の得点分布Q 表 3 調査対象者の向社会的行動経験の得点分布(n=172)
変数 内容 平均 標準偏差
共同体意識 8項目、 5点尺度 3.16 0.659
NPOに対する態度 6項目、 5点尺度 2.73 0.508
表 2 調査対象者の社会・心理的要因の得点分布(n=172)表 2 調査対象者の得点分布(n=172)
重共線性(multicollinearity)を検出するため、
Pearson
の相関係数を用いて検討した(表5)。
変数の中においては「寄付経験
」と「両親の
寄付観察」が最も強い相関(0.525)を示した。一 般 的 に、分 散 拡 大 係 数(Variance Inflation
Factor)が 10
以上であれば、多重共線性の問題が疑われるが、検討の結果、すべての変数 の
VIF
が1.115 ~ 1.684
の範囲に収まっており、多重共線性については問題がないと判断した。
5. 2. 2 ロジスティック回帰分析の結果
統制変数および説明変数が寄付決定(寄付意 向)に与える相対的影響力を確認するため、4 つの回帰モデルを用いてロジスティック回帰分 析を行った(表6)。
まず、モデル
1
は、統制変数として、大学生 の個人属性である「性別」、「学年」、 「信仰」、 「主
観的所得水準」が寄付決定に与える影響を示し ている。統計的に有意であった寄付決定に影響 場合には、メディアからより多く寄付やボランティアに関連情報を得ていることがみられる。
5. 1. 4 寄付決定(寄付意向)の記述統計 結果
被説明変数である寄付意向の回答分布は表
4
に示す。「あなたは今年または来年に寄付する意 向はありますか」という今後寄付決定への意思 がある人は39
名(22.7%)であり、ない人は 133
名(77.3%)であった。寄付白書(2016)による、
2014
年の20
代の寄付参加率(20.4%)よりは若 干高い数字であるが、いずれにしても日本人の 年齢別寄付参加率では、最も低い水準である。5. 2 大学生の寄付決定に影響を与える要因 5. 2. 1 相関関係分析の結果
ロジスティック回帰に先立ち、変数間の多
変数 内容 頻度 比率
寄付意向の有無 ある(=1) 39 22.7%
ない(=0) 133 77.3%
表 4表 4 調査対象者の寄付意向の得点分布(n=172)調査対象者の寄付意向の得点分布(n=172)
寄付意向 性別 学年 信仰 所得水準 共同体意
識
NPOに 対する 態度
両親の 寄付観察
両親の ボラ・観察 寄付経験
ボラン ティア 経験
マスコミ
寄付意向 1
性別 .120 1
学年 .234** -.171 * 1
信仰 .055 -.128 -.036 1
所得水準 .099 .166 * -.111 -.082 1
共同体意識 .396** .040 .001 .106 .079 1
NPOに
対する態度 .190* .169 * .036 .092 .155* .345** 1 両親の
寄付観察 .233** .251 ** -.044 .005 .189* .14 -.059 1 両親の
ボラ・観察 .237** -.102 .165* .026 -.052 .243** .050 .175* 1 寄付経験 .291** .064 .176* -.130 .140 .028 -.010 .525** .121 1 ボランティア
経験 .181* .057 -.008 .064 -.007 .151* .092 .115 .264** .303** 1
マスコミ .139 .060 .151* .058 0 .077 .109 .115 .111 .207** .056 1
*P<0.05, **P<0.01, ***P<0.001
表 5 相関関係分析(Pearson 相関係数)
表 5 相関関係分析(Pearson 相関係数)
を与えていることがみられた。すなわち、寄付 した経験がある人は寄付した経験がない人より 寄付を行う可能性が高いことと、「共同体意識」
高くなるほど寄付を行う可能性も高くなること を意味する。
6.考察と課題
本研究は、社会的・学術的背景を踏まえて探 索的アプローチとして、共同体意識、NPOに 対する態度と向社会的行動経験が大学生の寄付 決定にどのような影響を与えるのかについて、
実証的に検証することを目的とした。具体的に は、理論的背景や従来の研究結果を踏まえ、三 つの研究仮説を設定した。仮説検証のために、
四つのロジスティック回帰モデルを用いて検討 を行った。ロジスティック回帰分析は、一つの カテゴリ変数(二値変数)の成功確率を複数の 独立変数によって予測する回帰分析法であり、
この解析手法は
2
群の判別問題や発生確率の予 測問題に適用される(内田2004)ため、本研
究でロジスティック回帰分析を用いたことは適 切であったと言えよう。ロジスティック回帰分析に先立ち、測定尺 度の信頼性を評価した上、変数間の相関関係 分析を検討した。その結果、各測定尺度の信 頼性を評価したところ、共同体意識測定尺度
(cronbachʼs =0.811)と NPO
に対する態度測 定尺度(cronbachʼs =0.741)の信頼性は、統
計的に認められた。海外の先行研究で用いた共 を与える要因としては、「性別」と「学年」が正の影響を与えることが確認できた。すなわち、
男性より女性の方が、なお、学年が高くなるほ ど、寄付を行う可能性が高くなるということを 意味する。
モデル
2
は、モデル1の個人属性をコントロー
ルし、説明変数
1
である「共同体意識」
と「NPO
に対する態度」が寄付決定に与える影響を示し たものである。寄付決定に影響を与える要因と しては、「共同体意識」が統計的な有意な正の 影響を与えていることが確認できた。すなわち、大学生の共同体意識が高くなるほど、寄付を行 う可能性も高くなることを意味する。
モデル3は、モデル
1の個人属性をコントロー
ルし、説明変数2
である向社会的行動経験を投 入した結果を示したものである。寄付決定に影 響を与える要因としては、「寄付経験」と「両 親のボランティア参加の観察経験」が統計的に 有意な正の影響を与えることが確認できた。す なわち、寄付した経験がある人と両親のボラン ティア参加を観察した経験がある人は、その経 験がない人より寄付を行う可能性が高いことを 意味する。最後にモデル
4
は、モデル1
の個人属性をコ ントロールし、説明変数1
と説明変数2
を投入 して寄付決定に与える影響力を分析した総合的 モデルである。寄付決定に影響を与える要因と しては、「共同体意識」と「寄付経験」が統計 的に有意な正の影響を与えることが確認でき た。とりわけ、「寄付経験」は、他の変数より 寄付決定に強い正の影響(オッズ比=26.13)
㻌 㻌 モデル1㻌 モデル2㻌 モデル3㻌 モデル4㻌
変数㻌 オッズ比㻌 標準誤差㻌 オッズ比㻌 標準誤差㻌 オッズ比㻌 標準誤差㻌 オッズ比㻌 標準誤差㻌
性別㻌 2.325㻌 㻖㻌 㻜㻚㻠㻝㻢㻌 3.126㻌 㻖㻖㻌 㻜㻚㻡㻜㻢㻌 㻞㻚㻝㻥㻢㻌 㻜㻚㻠㻣㻢㻌 㻞㻚㻝㻞㻟㻌 㻜㻚㻡㻥㻝㻌
学年㻌 2.791㻌 㻖㻖㻖㻌 㻜㻚㻞㻥㻤㻌 3.383㻌 㻖㻖㻖㻌 㻜㻚㻟㻠㻥㻌 2.301㻌 㻖㻌 㻜㻚㻟㻟㻡㻌 2.726㻌 㻖㻖㻌 㻜㻚㻟㻤㻡㻌
信仰㻌 㻞㻚㻜㻝㻟㻌 㻜㻚㻣㻞㻡㻌 㻝㻚㻞㻝㻜㻌 㻜㻚㻤㻠㻠㻌 㻟㻚㻝㻝㻣㻌 㻜㻚㻤㻡㻝㻌 㻝㻚㻥㻝㻡㻌 㻝㻚㻝㻜㻡㻌
所得水準㻌 㻝㻚㻟㻟㻥㻌 㻜㻚㻝㻤㻠㻌 㻝㻚㻞㻥㻜㻌 㻜㻚㻞㻝㻢㻌 1.496㻌 㻖㻌 㻜㻚㻞㻝㻞㻌 㻝㻚㻠㻜㻣㻌 㻜㻚㻞㻡㻢㻌
共同体意識㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 6.936㻌 㻖㻖㻖㻌 㻜㻚㻠㻠㻤㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 7.140㻌 㻖㻖㻖㻌 㻜㻚㻡㻝㻠㻌
㻺㻼㻻に対する態度㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻝㻚㻢㻞㻠㻌 㻜㻚㻡㻠㻟㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻟㻚㻞㻡㻣㻌 㻜㻚㻢㻤㻝㻌
両親の寄付観察㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻝㻚㻞㻥㻡㻌 㻜㻚㻡㻟㻜㻌 㻝㻚㻞㻜㻜㻌 㻜㻚㻢㻢㻝㻌
両親のボラ・観察㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 2.925㻌 㻖㻖㻌 㻜㻚㻠㻤㻢㻌 㻞㻚㻜㻟㻥㻌 㻜㻚㻡㻢㻜㻌
ボランティア経験㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻝㻚㻣㻝㻝㻌 㻜㻚㻡㻡㻤㻌 㻝㻚㻟㻤㻞㻌 㻜㻚㻢㻠㻞㻌
寄付経験㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 12.37㻌 㻖㻖㻌 㻝㻚㻝㻠㻢㻌 26.13㻌 㻖㻖㻌 㻝㻚㻞㻡㻢㻌
寄付教育の経験㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻝㻚㻜㻣㻞㻌 㻜㻚㻠㻡㻝㻌 㻜㻚㻤㻠㻥㻌 㻜㻚㻡㻝㻢㻌
マスコミ㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻝㻚㻝㻡㻞㻌 㻜㻚㻡㻜㻣㻌 㻝㻚㻜㻥㻞㻌 㻜㻚㻡㻤㻞㻌
Nagelkerke R²㻌 㻜㻚㻝㻢㻡㻌 㻜㻚㻟㻤㻡㻌 㻜㻚㻟㻠㻥㻌 㻜㻚㻡㻞㻡㻌
㻙㻞㻸㼛㼓㻌㼘㼕㼗㼑㼘㼕㼔㼛㼛㼐㻌 㻝㻢㻠㻚㻠㻞㻥㻌 㻝㻟㻟㻚㻥㻡㻞㻌 㻝㻟㻥㻚㻟㻥㻝㻌 㻝㻝㻝㻚㻠㻠㻢㻌
3<3<3<
表ロジスティック回帰分析の結果 表 6 ロジスティック回帰分析の結果
置づけられると考えられる。
第三に、寄付した経験がある人と両親のボラ ンティア参加を観察した経験がある人は、その 経験がない人より寄付を行う可能性が高いこと が明らかになった。本研究では、社会的学習理 論(social learning theory)に基づき、直接経験 だけではなく、観察による間接経験も個人の行 動変化の原因であることを寄付行動に援用し、
両親のボランティア参加を観察した経験が大学 生の寄付決定に正の影響を与えることを実証的 に明らかにした。従来の研究と比較するなら、
本人の直接経験と寄付行動やボランティアの関 係(ファン・カン
2002;Eisenberg1990)、間接
経験とボランティアの関係(三谷2013)
といっ た従来の研究では議論されてこなかった寄付決 定と間接経験の関係を実証的に検証した点で、本研究の成果として評価できる。一方、間接経 験要因の中、両親の寄付参加の観察経験は統計 的に有意な関係性がみられなかった。その分析 結果は、間接経験の中、寄付とボランティアの ような寄付経験の形態により寄付決定に異なる 影響を与えている可能性が考えられる。
第四に、本研究の説明変数の中、寄付決定に 影響を与える要因としては、「共同体意識」と
「寄付経験」が統計的に有意な正の影響を与え
ることが確認できた。とりわけ、「寄付経験」
は、他の変数より寄付決定に最も強い影響を与えて いることを明らかにした。その結果は、一回寄 付に参加した寄付経験がある人は、引き続き寄 付を行う可能性が高いという従来の研究(リ・
ソン
2010 ;
ノ2008 ;
アン2005 ; Shelley 2002 ;
チョ2018)の結果を支持する結果であり、日本の大
学生においても、過去の寄付経験は将来の寄付 参加に繋がる可能性が高いということが示唆さ れる。特に、日本人の寄付特性である、男女と もに年齢が高くなると寄付参加率も高くなるこ とを考慮すると、寄付経験の機会を増やすこと と若者でも手軽く参加できる寄付しやすい環境 を提供することが寄付文化を定着させるに当 たって重要な課題であることが示唆される。最後に、本研究の限界と課題について述べる。
まず、本研究の対象者は限定されたものであり、
全国の大学生という調査対象の確保の難しさを 勘案しても、「調査結果の一般化」という量的 研究の狙いを考えると限界がある。今後の研究 では、より多様な性質の対象を視野に入れ、対 同体意識測定尺度(チェ
2005)と NPO
に対する態度測定尺度(Drollinger1997)の信頼性が 統計的に支持されたことは、二つの尺度は寄付 決定を予測する変数として、日本における寄付 研究にも一定の役割を果たすと期待できる。ま た、変数間の相関関係を検討した結果、変数の 中、「寄付経験」と「両親の寄付観察」が最も 強い相関(0.525)を示したが、すべての変数 の
VIF
を確認した結果、VIFが1.115 ~ 1.684
の範囲に収まっており、本研究での多重共線性 については問題がないと判断した。次に、大学 生の寄付決定にどのような要因が影響を与える のかについて、ロジスティック回帰分析を用い て検討した。分析から得られた主要な結果と考 察は以下の通りである。第一に、個人属性による寄付決定に与える影 響を分析した結果、統計的に有意であった寄付 決定に影響を与える要因としては、「性別」と
「学年」が正の影響を与えていることが明らか
になった。すなわち、男性より女性の方が、学 年が高くなるほど寄付を行う可能性が高い。と りわけ、本研究の女性が男性より寄付する傾 向があるという結果は全年齢層を対象としたJGSS2005
を分析し、男性が女性より寄付する傾向があるという報告(柗永
2012)とは対立
する結果ではあるが、韓国の中・高校生901
名 を対象とした結果、女性が男性より寄付する可 能性が高いという報告(リ・ジャン 2017)は 支持する結果である。また、本研究の学年が寄 付決定に正の影響を与えているという結果は、年齢が上がるほど寄付を行う傾向も高くなると いう報告(山内・横山
2005;NPO
研究情報センター
2004;日本ファンドレイング協会 2017)
を支持している。
第二に、大学生において「共同体意識」が高 いほど、寄付を行う可能性も高くなることが明 らかになった。従来の研究結果と比較するなら、
大学生において「共同体意識」は寄付決定に正 の影響を与える(チョ
2009 ;
リ・
ソン2013 ;
チョ2018)という報告を支持する結果である。海外
の先行研究では、自分が住んでいる地域社会を 良くしようとする「共同体意識」は寄付行動の 予測変数として議論されてきたが、海外と日本 の間には様々な文化差があることにもかかわら ず、日本の大学生の場合でも支持されており、「共同体意識」は寄付決定の予測要因として位
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チョソクフン(2009)「寄付態度に影響を与える要因に関する研 究」韓南大学、修士学位論文。
チョヒュンボム(2018)「韓国大学生の向社会的行動経験が今後
象者を増やしていく必要がある。また、研究結 果として大学生の寄付決定において、「共同体 意識」と「寄付経験」の重要性については指摘 することができた。しかし、得られた知見を踏 まえ、大学生の寄付を促進させる具体的な制度 および政策の提言までは提案することはできな かった。具体的な政策の提言は、基礎研究であ る本研究の範囲を超えるため、今後の課題とし てさらなる研究を進めたいと考えている。
参考文献
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