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DIPファイナンスビジネスに関する一考察 : 米国 DIPファイナスビジネスを例として

著者 杉本 究

雑誌名 同志社政策科学研究

巻 5

ページ 181‑200

発行年 2004‑02‑10

権利 同志社大学大学院総合政策科学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000004801

(2)

あらまし

 本稿では、我が国で草創期にあるDIPファイナ ンスビジネス(Debtor  in  Possession  Financing Business)のあり方、並びにその活性化に向けて の喫緊ともいえる政策課題の提言を、事業再生 にかかる手法として確立されている米国の事例 を範として行うものである。

 米国における DIP ファイナンスビジネスを検 証するに、その手法の発展は、米国連邦倒産法 364 条における法的整備、並びに OCC などによ る債権の安全性に対する認知を基盤としている。

また一方で、契約書面上のコベナンツ条項の設 定によるモニタリング機能の確立、格付の付与、

さらには金利のみならず様々な手数料の設定に よるレンダー対する相応の収益性の供与など、

様々な実務面でのメリットを有することとなっ ている。これら法制度面並びに実務面の確立に 基づき、DIP ファイナンスそのものが「ローリス ク・ミドルリターン」の融資であるとの認識が米 国内ではあり、結果としてDIPファイナンスビジ ネスの活性化が生み出されているものと考えら れる。

 我が国では、これまで法的再建手続を申立て た企業に対して融資を行うという慣行は皆無に 等しかった。ついては、その実務を行うに際して は、従来型の担保主義的な発想ではなく、対象企

業の事業基盤(ヒト・モノ・カネ)の有無、その 他債権安全性を高める上での様々な項目に対し て検討を行う必要性が生じよう。また、これら実 務の現場で問題となる金融検査上における当該 債権の取扱い、並びに、リスク応分の収益性を得 ることを否認する土壌を改善することは、我が 国での DIP ファイナンスビジネスを活性化させ る上で、喫緊に解決すべき課題であるものと考 える。

1.はじめに

 事業再生1の重要性が、我が国において急速に 認知されつつある。事業再生を機能させるイン フラ、すなわち法制度並びにガイドラインの整 備が、2000 年4月の民事再生法の施行を機とし て、2001 年9月の私的整理に関するガイドライ ン研究会による「私的整理に関するガイドライ ン」2の公表、2003 年4月の改正会社更生法の施 行など積極的に行われてきている。これら法制 度関連の整備が進む一方で、そのインフラを活 かすための手法についても多様化しつつあり、

中でも DIP ファイナンス(Debtor in Possession Financing)、デット・エクイティ・スワップ(Debt for Equity Swap)及び事業再生ファンドの活用な どがその代表的な手法と言え、その認知度も先

 1  「事業再生」の概念とは、過剰債務に陥っている企業の「企業体全体」の存続並びに再生を目指すのではなく、その企業体の中 でキャッシュフローを生み出すところの「コアとなる事業」に関して十分な競争力がある場合に、これら事業についてを再生さ せるとの概念である。

 2  本ガイドラインについては、[私的整理に関するガイドライン研究会事務局 01]私的整理に関するガイドライン研究会事務局「私 的整理に関するガイドラインの概要」『金融法務事情』1623 号 , 2001 年 , 6− 28 ページにて記載。なお、当ガイドラインについ ては、その後見直しがなされており、一部の運用指針につき変更がなされている。これら変更内容などについては、[私的整理に 関するガイドライン実務研究会 02]私的整理に関するガイドライン実務研究会「私的整理に関するガイドライン運用に関する検 討結果」『金融法務事情』1659 号 , 2002 年 , 30 − 37 ページに記載。

DIPファイナンスビジネスに関する一考察

―米国 DIP ファイナンスビジネスを例として―

杉 本  究

  

(3)

 3  http://www5.cao.go.jp/keizai1/2001/0406taisaku.html(2001 年5月7日取得)

 4  本報告書については、[経済産業省中小企業庁事業環境部 01]経済産業省中小企業庁事業環境部「DIP ファイナンス研究会報告書の 概要」『金融法務事情』1614 号 , 2001 年 , 58 − 62 ページにて記載。

 5  経済産業政策局産業組織課が取り纏めを行った早期事業再生研究会による「早期事業再生研究会報告書」(http://www.meti.go.jp/

report/downloadfiles/g30213b01j.pdf(2003 年2月 16 日取得))では、2002 年 12 月 31 日現在での各政府系金融機関の DIP ファイナ ンス取り組みの実績について報告を行っている。日本政策投資銀行は、実績件数 16 件・実績額 25,166 百万円、商工組合中央金庫 は 21 件・1,337 百万円、中小企業金融公庫は 12 件・995 百万円である。これら政府系銀行、並びにみずほコーポレート銀行などの 民間銀行双方で約 400 億円程度の DIP ファイナンスが実行されたとの報道がある(出所:日本経済新聞 2003 年2月 20 日付・朝 刊)。その他、中小企業庁により「事業再生保証制度要綱」が制定され、全国 52 の信用保証協会で「事業再生保証制度」の取扱 いが開始されている。これら保証制度の概要については、[全国信用保証協会連合会業務企画部 03]全国信用保証協会連合会業務 企画部「事業再生保証制度の概要」『金融法務事情』1665 号 , 2003 年 , 6− 16 ページにて記載されている。

 6  民事再生法については 2000 年4月の施行以降、2002 年上半期迄の約2年半で申立て件数 2,198 件・負債総額 15 兆 666 億円に達し ている([帝国データバンク 02]帝国データバンク『全国企業倒産集計 2002 年度上半期報』, 21 ページ)

の事業再生の概念と併せて急速に向上しつつあ る。

 法的再建手続を申立てた企業に対する融資で ある DIP ファイナンスについては、2001 年4月 の経済対策閣僚会議による緊急経済対策におい て、「企業の再建計画策定中の融資(DIP ファイ ナンス等)の円滑化について十分配慮し、資金供 給に前向きに取り組むよう、民間金融機関に要 請するとともに、併せて、公的金融機関も積極的 に対応する」と、その必要性を明文化された3。以 降、同年6月には経済産業省中小企業庁事業環 境部のDIPファイナンス研究会が「DIPファイナ ンス研究会報告書」4の公表を行い、これら行政 機関の動向を受け、現在に至るまで、日本政策投 資銀行、商工組合中央金庫及び中小企業金融公 庫などの政府系金融機関が実績を積み上げてい る状況である5

 しかしながら、これらDIPファイナンスについ ての取り組みの状況が、現在の我が国の経済環 境に照らして十分であるかと言えば、そうでは ない。民事再生法を中心とした法的再建手続の 申立てが急増する中で6、申立て後の事業継続の 安定性向上に資するDIPファイナンスの需要は、

先の申立て件数に比例して増加していることは 贅言を要さず、一方でその供給実績を鑑みると、

未だ事業再生の手法として確立された状況にな いのが実状である。

 DIPファイナンスについて、これら需要と供給 の乖離が生じる理由は何か。その理由として挙 げられるのは、倒産法並びに企業担保法など法 制度上における条文未整備もさることながら、

債務者が法的再建手続申立て企業であり、これ までの融資慣行とは全く異なった特殊性を有す るDIPファイナンスビジネスが、レンダーとなる 我が国の金融機関の実務として確立されていな

いことにあると考えられる。そもそも、これまで の金融機関の融資慣行からして、法的再建手続 を申立てた企業に対して融資を行うことは、上 場企業など大企業に対して、メインバンクが「や むなく」行う以外はタブー視されてきたことで あり一般的にビジネスとして行うことは皆無に 等しく、結果、それら手続の整備はなされていな かったのである。一方で、法的再建手続申立ての 急増にともなう DIP ファイナンス対する需要傾 向を鑑みれば、本来ならば、事業再生における再 生手法としての活性化・定着化が図られるべき であるが、現状は先の実務面の未整備などにも 起因して程遠い状況にある。よって今後、金融機 関、特に民間金融機関の積極参入が無ければ、事 業再生の主要手法として期待される DIP ファイ ナンスの活用が、将来的には滅失してしまう危 惧さえも生じている。

 これら状況を鑑み、本稿では、今後の我が国に おける DIP ファイナンスのさらなる活性化に資 するべく、未だ未整備とも言えるDIPファイナン スビジネスにかかる実務面のあり方、並びにこ れら実務の現場において問題となるところの喫 緊の政策課題について、その特殊性も踏まえて の提言を行っていきたいと考えるものである。

 構成については、以下の通りである。第2章で は、法的再建手続における事業再生手法として の DIP ファイナンスの必要性並びにその効果に ついてを説明し、第3章では既に事業再生の手 法として確立されている米国における DIP ファ イナンスビジネス、さらにはその具体的事例に ついて検証を行うこととする。これらを受け第 4章にて、我が国のDIPファイナンスビジネス及 びこれにかかる政策論についての展開を行うこ ととし、最後第5章において、今後の金融機関及 び企業においての、あるべき融資慣行並びに経

(4)

 7  但し、これら預金についても、既存の金融機関からの借入による反対債権により相殺されてしまい、結果として、預金口座残高 はゼロに等しくなってしまうことが通常である。

営姿勢への展望も述べながら結びとする。

2.DIP ファイナンスの必要性と効果

 本章では、本稿の基点となる、事業再生におけ る DIP ファイナンスの必要性、並びに、この DIP ファイナンスを享受することによる、法的再建 手続申立て企業(以下、「再建企業」という)が 得る様々な経済効果について、諸学術研究にも 拠りながら検証を行うこととし、次章以降の具 体的提言への布石とする。

2.1 DIP ファイナンスの必要性

 経営不振企業が民事再生法や会社更生法など の法的再建手続の申立てを行った際、通常は、裁 判所より弁済禁止の保全処分命令が下され既存 債務者に対する支払いはストップする事となり、

結果として資金繰りは一次的には楽になる。し かしながら、手続の申立てを行った後も企業経 営は継続して行われる事から、申立て以前と同 様に、再建企業には売掛金などの債権と買掛金 などの債務が生じる事となる。

 通常、企業経営においては、その債権の回収時 期と債務の支払時期にズレが生じ、企業はその 期間の資金負担を負うこととなり、手続申立て 以前は、この立替期間における資金負担を埋め るべく、自己資金、もしくは銀行などの金融機関 より短期資金調達を行い、当該資金により仕入 先などに対しての支払を行うこととなる。しか しながら、我が国の再建企業は、「倒産=悪」と の懲罰的な社会的通念があるため、その大部分 が経営上ギリギリの線にまで追いつめられて手 続の申立てを行うケースが多く、申立て後の経 営に十分な自己資金を持ち合わせているケース は少ない。さらに、金融機関の経営不振企業に対 する対応状況は昨今非常に厳格に行われている 環境下にあり、手続申立て前の余剰資金確保は 容易なことではなく、筆者の経験上においても、

中小企業においては数十万から数百万円、場合 によっては数千円というケースも少なく無いの である7。これら自己資金が枯渇する場合におい

ては、金融機関などからの資金調達に頼らざる を得なくなる。しかし、手続申立て後は比較的回 収率が高いとされる手形割引でさえも困難な場 合が多く、結果的に、異常に高い金利で手形割引 業者から行うか、はたまた手形割引さえも行え ないこととなり、事業継続が極めて深刻な状況 に陥ることとなるのである。

 手続申立て後においての資金調達が困窮化す る一方で、再建企業は債務の支払方法やサイト についても苦慮せざるを得なくなる。すなわち、

再建企業による手形・小切手による支払いにつ いては、債権者側の回収懸念及び金融機関から の発行停止処分により、行う事が不可能であり、

現金での支払を余儀なくされ、さらには、従来の 支払いサイトより短縮化が行われる事が通常と なるのである。

 再建計画認可後においては、事業継続にかか る債務の支払いの他にさらなる資金負担が発生 することとなる。すなわち、再建計画上における リストラによる退職金などの労働債権、租税債 権、一般無担保債権などの債務の弁済、不良債権 の償却資金、計画案認可後の本格的な事業活動 展開にともなう増加運転資金など様々な資金要 因が生じてくることから、再建企業は当該費用 に対して充当する資金の調達も必要となるので ある。

 このように、法的再建手続申立て直後は、一時 的に資金繰りは楽にはなるものの、自己資金の 減少、資金調達手段の困窮化、支払サイトの短 縮、さらなる追加資金負担の増加などの要因に より、再度資金繰りは逼迫する事となるのであ る。しかしながら、現段階においては、我が国の 金融機関において DIP ファイナンスを行う姿勢 が消極的であることから、再建企業は運転資金 などの事業継続に必要な資金調達を行うことが 出来ず、結果的に法的再建手続の申立てを行っ たにもかかわらず事業再生が果たせないままで 終わるケースが少なからずあるのである。

2.2 DIP ファイナンスの効果

 再建企業が DIP ファイナンスを享受しうるこ とによる効果については、以下の3点に大別さ

(5)

 8  我が国では、法的再建手続を申立てると、整理回収ポストに移行となり最終的に上場廃止となるが、米国では、法的整理で株券 の無価値化を前提とする事例は極めて少ないので、ニューヨーク証券取引所(NYSE)では、上場維持が可能である。但し、無価 値化するものは上場廃止となる。我が国においても、東京証券取引所が法的再建手続申立て後も、上場維持が可能とする方針を 検討中とのことである(出所:日本経済新聞 2003 年2月 19 日付・朝刊)

 9  [Dhillon95]Upinder S. Dhillon, Thomas Noe and Gabriel G. Ramirez, Debtor-in-possession Financing and the resolution of uncertainty in Chapter 11 reorganizations, Working paper, Tulane University, 1995

10 [Chatterjee98]Sris Chatterjee, Upinder S. Dhillon, Gabriel G. Ramirez, Debtor-in-possession Financing: Management entrenchment or certification and monitoring? Working paper, Fordham University, 1998

11 [Carapeto01] Maria Carapeto, Does Debtor-in-possession Financing add value? Working paper, City University Business School, 2001

12 [Chatterjee98-2]Sris Chatterjee, Upinder S. Dhillon, Gabriel G. Ramirez, a.a.0.,

13 [Dhillon95-2] Upinder S. Dhillon, Thomas Noe and Gabriel G. Ramirez, a.a.0.,

14 [Carapeto01-2] Maria Carapeto, a.a.0.,

れると考えられる。まず、第一に、事業継続に必 要不可欠な資金、即ち運転資金の確保が可能と なる点である。事業再生を目指す法的再建手続 の過程においては、手続申立て後においても事 業継続にかかる運転資金、例えば人件費や商品 納入にかかる買入債務支払資金などが必要とな るが、DIPファイナンスはこれら資金需要を満た す効果を有することとなる。第二に、対外的信用 力が向上することである。再建企業がDIPファイ ナンスを享受することにより、仕入先及び販売 先などへの再建企業に対する信用懸念、特に仕 入先に対しては債権回収リスク懸念を薄める効 果を有すし、結果として、安定的な商品の納入お よび販売が可能となるのである。第三に、先の運 転資金の確保並びに対外的な信用力向上の効果 により、当初策定した再建計画の円滑な履行が 可能となり、事業再生の可能性の向上、ひいては 計画の早期履行が可能となる効果である。

 米国においては、倒産法学者によりDIPファイ ナンスにかかる実態調査が行われており、再建 企業が公開企業である場合において、先の効果 とあわせて、その株価向上についても効果が有 る旨の報告がなされている8。Dhillon9はその効果 について、25 社の再建企業について調査を行っ たところ、DIPファイナンスを享受したとの発表 当日及びその翌日に約 2 5%の株価向上効果が あったとし、Chatterjee10は同様に 30 社について 調査を行ったところ約6%、Carapeto11は 38 社に ついて調査を行ったところ約 11%の効果があっ たとしている。これらの結果は、再建企業は勿論 のこと、株主、ひいては債権者についても DIP ファイナンスによる恩恵を受けている証左と言 えるであろう。

 また、上述したDIPファイナンス享受にかかる 事業再生の可能性向上への効果についても、先 の倒産法学者による実態調査が行われている。

Chatterjee12は、再建企業がDIPファイナンスを享 受した場合と未享受の場合について、①再建企 業単体で再生する確率②事業清算となる確率  の2点での比較検証を行っている。①の調査で は、DIPファイナンスを享受した場合は72%の再 建企業が再生しているのに対し、DIPファイナン ス未享受の場合は 54%の再建企業しか再生して いないとの結果を導き出している。②の調査で は、DIPファイナンスを享受した場合は事業清算 となる確率が10%であるのに対して、DIPファイ ナンスが未享受の場合は 16%と DIP ファイナン ス享受の場合より事業清算となる確率が高くな るとの検証結果を導き出している。Dhillon13は再 建 企 業 が 再 生 を 果 た す 確 率 に つ い て 、 先 の Chatterjee 調査と同様に DIP ファイナンスを享受 した場合と未享受の場合についての比較を行い、

結果として、DIPファイナンスを享受した場合が 85%の再建企業が再生しているのに対し、未享 受の場合は 50%の再建企業しか再建を果たして おらず、Carapeto 14も同内容の検証を行った結 果、DIP ファイナンスを享受した場合には 77%、

未享受の場合には 66%との検証結果を導き出し ている。これらの結果は、DIP ファイナンスが事 業再生に果たす効果が大きいことの証左に足る ものと言えるであろう。

3.米国における DIP ファイナンスビジネス

 米国の事業再生の現場おいて、DIPファイナン スはその手法として既に確立されており、金額 の大小に関わらず、多くの事例が積み上げられ ている。これらにおいては、本稿にて提言する、

今後の我が国の DIP ファイナンスビジネスに対 する多くの示唆を含んでおり、本章では、これら 米国における実状並びに事例などについての検

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15  現行の米国連邦倒産法(Backruptcy Reform Act 1978; Bankruptcy Code)は 1978 年に整備されたものであり(その後も部分的に改 正されている)、第一章・第三章・第五章・第七章・第九章・第十一章、第十三章の奇数章と第十二章で構成されている。その中 で、第十一章が再建型手続を扱っており、これを俗にチャプター・イレブンと呼んでいる。また、清算型手続については第七章 に規定しており、チャプター・セブンと呼ばれている。

16  米国連邦倒産法 364 条には、その(a)項から(d)項において、DIP ファイナンスにかかる類型の規定を行っている。まず(a)

項については、DIP(Debtor-in-Possession =占有する債務者)が通常の事業継続(in the ordinary course of business)を行う中で必 要不可欠な原材料の購入を行う場合においてであり、仕入・取引先による通常業務上の無担保(unsecured)与信を想定している。(b)

項については、DIP が通常業務外の無担保与信を享受することができ、事業継続するためや継続企業価値(going concern value)を 維持するために必要な費用を想定している。(c)項は先の(a)項・(b)項では与信が受けられなかった DIP が、他の担保権が設 定されていない資産、あるいは担保権が既に設定されている場合の資産に対しては後順位での担保権を設定することで有担保与 信を享受する場合である。(d)項は先の(a)項から(c)項までで与信を得られなかった DIP が、既存の担保権がついている担 保物件に対して先順位または同順位での担保権を設定することで(c)項同様に有担保与信を享受することを意味する。通常、金 融機関はこの(c)項・(d)項での再建企業向け融資を行い、アメリカにおいての DIP ファイナンスは一般にこの(c)項・(d)項 のような有担保での資金融資を指すことが多いとされている。また、これら貸付債権の請求権については、(a)項・(b)項につ いては日本の共益債権に相当する管財費用(administrative expense)となり、(c)項・(d)項に基づく担保付与信は管財費用を上回 る権利(priority over administrative expense = super priority) が付与され超優先債権となり、あらゆる債権に優先して弁済が行われる ことから、通常の債権以上に弁済率は高い債権となっている。言うなれば、アメリカの DIP ファイナンスは有担保かつ債権の弁 済率も非常に高い債権であるから、ローリスクの融資であると言えるのである。これら規定の内容については、[田作 00]田作朋 雄「DIP ファイナンスの意義−アメリカにおける現状−」『金融法務事情』1589 号 , 2000 年 , 6−9ページによる。

17 [Danie91] Jere Daniel, The Loan Ranger: Banker Darla Moore Rescues Collapsing Corporations and Their Honchos from the Terrors of Bankruptcy, Executive Female, 1991

証を行うこととする。

3.1 DIP ファイナンスビジネスの歴史と概要

 米国においてDIPファイナンスとは「米国連邦 倒産法チャプター・イレブン15の申立てを行った 企業に対する再建計画策定期間中における融資」

と定義することができ、また法制度面について も米国連邦倒産法 364 条においてその類型が規 定されている16。その歴史を紐解くと、米国でDIP フ ァ イ ナ ン ス が 行 わ れ た の は 、 1 9 8 4 年 に

Chemical  Banking  Corp.(現在の J.P.  Morgan Chase)が米国中西部の小売りチェーンであった Cook United 社に対して供給した 20 百万ドルの D I P ファイナンスが最初とされる1 7。当時、

Chemical  Banking  Corp. の幹部であった Robert Conway 氏が DIP ファイナンスの可能性に着目 し、1987年頃からはDarla D. Moore氏を中心とす るチームが本格的に DIP ファイナンスに取り組 んで、Texaco, Allied Stores, Allegheny International, Ames Department Stores, Todd Shipyards などチャ プター・イレブンを申立てた大企業にDIPファイ ナンスを供与して大きな実績を上げた。このう

金 額 単 位 :U S百 万 ドル

件 数 比 率 件 数 比 率 件 数 比 率 総 額 平 均

1988 27 100.0% 25 92.6% 2 7.4% 320 160

1989 48 100.0% 43 89.6% 5 10.4% 111 22

1990 58 100.0% 42 72.4% 16 27.6% 1,717 107

1991 82 100.0% 60 73.2% 22 26.8% 1,830 83

1992 64 100.0% 48 75.0% 16 25.0% 1,965 123

1993 54 100.0% 37 68.5% 17 31.5% 646 38

1994 47 100.0% 33 70.2% 14 29.8% 680 49

1995 50 100.0% 26 52.0% 24 48.0% 1,477 62

1996 56 100.0% 29 51.8% 27 48.2% 1,953 72

1997 52 100.0% 30 57.7% 22 42.3% 2,417 110

合 計 538 100.0% 373 69.3% 165 30.7% 13,116 80

(A):法 的 再 建 手 続 を 申 立 てた会 社 数

(B):DIP ファイナ ンス 未 享 受 会 社 数

(C ):DIP ファイナ ンス享 受 会 社 数 年 度

表1 DIP ファイナンス享受会社数推移

 出所:[Chatterjee01]Table1 より作成

(7)

18  法的再建手続申立て以前の取引金融機関が申立て後も DIP ファイナンスレンダーとなる場合をディフェンシブ型、申立て以前に 取引の無い金融機関が DIP ファイナンスを行う場合をオフェンシブ型と言う。

19 [Neustadt98] David Neustadt, Track Record Wins Allegheny Deal For Chemical Bank, American Banker, 1988

20 [Chatterjee01]Sris Chatterjee, et al.. Debtor-in-Possession Financing, Second revision at the Financial Management Journal, 2001, Table1

ち Allegheny International に対するものは初のオ フェンシブ型 DIP ファイナンス18とみられる19。 これら Chemical Banking Corp. の成功に米国の主 要な金融機関も追随し、DIPファイナンスに取り 組むようになった。

 表1は、1988年から1997年までにチャプター・

イレブンを申立てた会社のうち DIP ファイナン スを受けた会社数とローン総額に関する統計で ある20

 表1によれば、同期間中に申立てた538社のな かで、少なくとも31% に当たる165 社がDIPファ イナンスを享受している。ファイナンスを受け た会社の数は 1990 年代に入って飛躍的に増加し ているが、1990 年代前半と比較して 1990 年代の 後半の方が、その会社の割合が高い。これは DIP ファイナンスがこの時期に相当普及したことを 示唆している。

 先のDIPファイナンスを受けた会社165社にか かる各 DIP ファイナンスレンダーについての統 計が以下の表2である。

 レンダーのうち銀行については DIP ファイナ ンスビジネスの先駆者である Chemical Banking Corp. が最たる DIP ファイナンスレンダーであ

り、現在は合併の要因はあるものの、J.P. Morgan Chaseが最大のDIPファイナンスレンダーとなっ ている。この J.P. Morgan Chase は 2001 年 12 月に チャプター・イレブンを申立てた米国史上最大 規模の倒産といわれる Enron  Corp. 向けの DIP ファイナンスレンダーともなっている。ノンバ ンクについて見ると、その件数からすれば CIT Group(現:Tyco Capital)、金額からすればGeneral Electric Capital Corp(GE Capital)が最大の DIP ファイナンスレンダーとなっている。

 また、その1社当たりのDIPファイナンス額に ついて銀行とノンバンクを比較した場合、比較的規 模の大きい案件を銀行が行い(1件当たり融資額平 均 101 百万ドル)、小規模の案件をノンバンクが行 う(1件当たり融資額平均 59 百万ドル)という区 分がある模様である。ただし、GE Capital について はそれらノンバンクの中でも例外の企業といえる。

3.2 コベナンツ(covenant)条項

 米国において DIP ファイナンスを行う場合に は、再建企業との間におけるDIPファイナンス契

レ ン ダ ー(現 社 名 ) 会 社 数 総 額 平 均 額

① Chemical Bank  J. P. Morgan Chase 1 7 3 , 1 8 5 1 8 7

② Bankers Trust  Deutsche Bank 1 0 1 , 2 7 0 1 2 7

③ Citi Bank  Citi Bank 6 8 2 0 1 3 7

④ Chase Manhattan   J. P. Morgan Chase 6 6 3 4 1 0 6

⑤ Other banks −

4 0 2 , 0 9 4 5 2 7 9 8 , 0 0 3 1 0 1 4 8 . 0 % 6 1 . 0 % −

①  CIT Group  Tyco Capital 2 1 1 , 3 7 9 6 6

②  GE Capital  GE Capital 9 2 , 2 1 5 2 4 6

③  Congress Finacial  Congress Finacial 1 1 3 6 8 3 3

④  Foothill Capital  Foothill Capital 1 3 2 7 8 2 1

⑤  Other Financial 3 2 8 7 5 2 7

8 6 5 , 1 1 5 5 9 5 2 . 0 % 3 9 . 0 % −

1 6 5 1 3 , 1 1 6 − 1 0 0 . 0 % 1 0 0 . 0 % −

金 額 単 位 :U S 百 万 ドル 銀 行

小 計

合 計

レ ン ダ ー ( 旧 社 名 )

ノン バ ン ク

小 計

表2 D IP ファイナンスレンダー

出所:[C h a tterjee01]Table1 より作成

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21  再建企業の収支財務状況を勘案して決定され、その主な内容としては、EBITDA の下限、流動比率の下限、インタレスト・カバ レッジ・レシオの下限、固定払い(金利・賃料など)カバレッジ・レシオの下限、負債比率の上限、自己資本比率の下限、など の項目が挙げられる。

22  キャップおよびフロアーの設定などを行う。

23 [Chatterjee01-2] Sris Chatterjee, op.cit., pp11 − 12

24  脚注 15 参照

25  規制当局が金融検査において、金融機関でハイ・レバレッジでリスクの高い取引を監督するために用いられる統一概念で、連邦 三金融規制当局(FRB、FDIC、OCC)が合同でその定義を定めている。この HLT に該当するのは、借入の目的が、バイアウトな ど M&A やデット・リストラクチャリングなどのいずれかで、①取引の結果、借り手の負債比率が 75%を超える ②取引の結果、

借り手の負債額が少なくとも以前の倍になり、かつ負債比率が 50% を超える ③取引が、シンジケーションのエージェントや規 制当局から HLT であるとされる、のうちいずれかの条件を満たしている場合である。ただ、HLT に該当する債権がそのまま、検 査の債権分類上の回収不能の危険性のある分類に当てはめられるわけではなく、その分類は貸出先の個々の財務状況や担保、保 証の有無など様々な要因を勘案した上でなされる。

約書面上においてコベナンツ(covenant)条項を 締結するのが通常である。このコベナンツ条項 はアファーマティブ・コベナンツ(affirmative covenant)とネガティブ・コベナンツ(negative covenant)に分けられ、アファーマティブ・コベナ ンツは「レンダーに対して・・・の書類を提出し ます」といった類のもので、ネガティブ・コベナ ンツは「・・・のような事態にならないようにし ます」といったような類のことが明記される。こ れらコベナンツ条項の内容については、①各種 財務など報告書の提出義務 ②資産処分、事業 変更、経営陣・所有者変更の制限 ③付保義務 

④合併買収の制限(子会社吸収は可能) ⑤設備 投資の制限 ⑥配当などの制限 ⑦借入、保証 などの制限 ⑧貸出・投資の制限 ⑨他社への 担保差し入れの禁止 ⑩関連会社取引の制限 

⑪財務制限条項21 ⑫金利リスクヘッジの要請22 ようなものが挙げられ、これらがその各契約書 面上において定められることとなるのである。

 これら DIP ファイナンスに付与されるコベナ ンツと一般的なバンク・ローンに付与されるコ ベンナンツについてその項目内容については大 差がない。しかしながら、Chatterjee23はその研究 のなかで、DIPファイナンスにおけるコベナンツ における特徴的なものとして、①アファーマ ティブ・コベナンツによる再建企業監視(モニタ リング)体制を強化する傾向があること、並びに

②バンク・ローンと比較して特に財務制限条項 を多く付与する傾向がある、との2点を挙げて いる。これらの特徴は、DIP ファイナンスが通常 のバンク・ローンと違い、その融資対象先がチャ プター・イレブンを申立てた再建企業となるこ とから、通常の融資以上にモニタリングが必要 であり、かつ財務面での問題点が多いことから 生じる特徴であるといえる。

 コベナンツ違反は Event of Default となり、債

権者が引き金を引けば債務者は期限の利益を喪 失することとなるが、財務諸表の提出漏れや一 時的な財務制限条項違反などの軽微なものにつ いては免除するのが普通である。典型的な Event of  Default は①元利金未払い ②法的清算処理

(チャプター・セブン24への移行) ③コベナンツ 違反 ④一定額以上の支払義務の発生する敗訴な どであり、特に最初の2点はペイメント・ディ フォールト(payment default)、バンクラプシー・ディ フォールト(bankruptcy default)と呼ばれ、債権者の 引き金を待たずして期限の利益は当然喪失となる 旨が契約書面上に織り込まれるが通常である。

 これら詳細かつ多岐に渡るコベナンツ条項を 契約書面上において明記する目的は、第一義的 にはレンダー側の広範なリスクヘッジ、すなわ ち信用補完手法としての意味も有するが、他方 では再建企業自身におけるリスクチェック的な 要素についても含まれているものと考えられる。

3.3 金融監督上の取扱い

 米国で我が国の金融検査に相当するのが、

OCC (Office of the Comptroller of the Currency;

通貨監督庁)による銀行検査である。OCC は財 務省(Department of the Treasury) の下部機関で、

全ての国法銀行への免許の付与(charter)、規制

(regulate)、監督(supervise)を行うとともに、外 国銀行の米国国内の支店や代理店(agencies)を監 督する権限を有している。O C C の銀行検査官

(National bank examiners)は国法銀行の米国内外で の活動を監督し、さらには検査する権限を有する。

 1991 年に FRB(Frderal Reserve Bank;連邦準 備制度理事会)、FDIC(Federal Deposit Insurance Corporation;連邦預金保険公社)及び OCC によ る金融規制当局合同による H L T2 5(H i g h l y

(9)

26  以上は、[岩谷 01]岩谷賢伸「米国の DIP ファイナンスと我が国における普及への課題」『資本市場クォータリー』2001 年春号 , 2001 年 , 180 ページによる。 

27  我が国の金融検査マニュアルでは、「債務者」毎の判定を行っている。これら問題点の指摘については、本稿4.2参照

28 [Jones00] Jonathan Jones, William W. Land, Peter Nigro, Recent Trends in Bank Loan Syndications: Evidence for 1995 to 1999, 2000

29  2000 年6月1日に Fitch IBCA と合併し、現在の Fitch Ratings となる。

30  なお、初めて DIP ファイナンスに格付が付されたのは、DIP ファイナンスに流動性を付与する目的で Chemical Bank Corp. がむし ろ格付機関に働きかけたことがきっかけである。

Leveraged Transaction)の定義の見直しが行われ、

裁判所が許可した DIP ファイナンスについては HLTと見なさないことが明確となった。DIPファ イナンスも当初は、HLT であるとの見方が大半 であったが、DIPファイナンスの融資金額を増大 させている大手銀行などが規制当局に強く働き かけた結果、HLT の指定を免れることとなった ようである26

 現在、OCC は銀行検査のガイドラインとして 検査マニュアル(Comptroller’s Handbook)を定め ており、そのなかで、債務者の財務内容が明らか に悪い場合であっても、DIPファイナンスによる 貸出は例外的に不利な分類(adverse rating)とは ならない旨を指摘している。米国では、リスク管 理債権に該当するか否かについて債権毎に判定 するため27、DIP ファイナンスが未収利息不計上 貸出金、リストラクチャード貸出金、90 日以上 延滞貸出金(未収利息計上分)に該当しない限 り、リスク管理債権として開示されることはな いと考えられているのである。

 以上のように、米国においてはDIPファイナン スの金融監督上の取扱いがある程度明確になり、

取引の相対的なリスクの低さが規制当局に認め られた結果、金融機関が積極的にDIPファイナン スを供与することが可能となったのである。

3.4 DIP ファイナンス格付基準 3.4.1 格付が必要とされる理由

 米国では過去 10 年、銀行経営の焦点が資産の 拡大から総資産利益率(ROA)の向上とリスクの 分散へと移るにしたがって、ローン・パーティシ ペーションやローン・シンジケーションが非常 に活発に行われるようになっており、例えば 1999 年にはシンジケートローンのコミットメン トだけを見ても1.9兆ドルという規模に達してい る28。さらに、シンジケートローンを主要な投資 対象とする投資信託やこれらローンを組み込む

CLO(Collateralized Loan Obligation;貸付債権を 裏付資産とする証券)が登場し、また銀行間でも ローンの売買が活発になされている。こうした バンク・ローンの取引市場の拡大に一役買って いるのが、格付機関によるバンク・ローンの格付 である。1987年12月にDuff & Phelps Credit Rating Co.29がバンク・ローンに対する格付を開始して 以来、その格付は増え始め、バンク・ローンの流 動性は著しく高まったといえる。バンク・ローン に格付が付与されることにより、市場の透明性 が高まり、リスクを勘案したプライシングがし やすくなるという利点がある。

 DIP ファイナンスは当初、銀行では Chemical Banking Corp.、Mellon Bank Corp. 及びContinental Bank Corp.、ノンバンクではGeneral Electric Credit Corp. 及び CIT Group など、限られた金融機関の 間で取扱われてきた。その後、取扱う金融機関が 増え始め、シンジケーションが組まれるように なった。この際、DIP ファイナンスに格付がある と、シンジケーションに参加する金融機関は審 査が容易になるのである30。なお、格付の費用は ファイナンスを必要としている再建企業が支払 うのが一般的である。

 格付が公表されるのは債務者が公表を希望し た場合であるが、これまでのところDIPファイナ ンスの格付が公表されたことはないようである。

理由として考えられるのは、DIPファイナンスの 市場は社債などの市場に比べてまだまだ小さく、

そのストラクチャー自体にも各金融機関のノウ ハウが含まれていて、アレンジャーの金融機関 が公開格付を取得したがらないからであろう。

3.4.2 格付基準

 米国の三大格付機関である、Moody’s Investors Service, Inc.(Moody’s)、Standard & Poor’s(S&P)、 Fitch, Inc.(Fitch Ratings)の3社はいずれも、DIP ファイナンスの格付を行っている。格付は債務 者からの正式な依頼に始まり、財務データの提

(10)

31  米国では国土全体を 94 の地区に分け、地区毎に破産裁判所を置いている。1978 年に改正された米国連邦倒産法で、新たに司法 機関省の一機関である連邦管財官(United States Trustee)が設置され、倒産事件の運営管理的側面を担うこととなった。

32  これら要因による DIP ファイナンスの失敗事例については、3.6.2.2にて詳述する。

33  「(アメリカでは)日本の銀行のように役員を債務者企業に派遣したのでは、改善の努力にもかかわらず倒産に至ったときは貸し 手責任を追及される危険がある。そこで融資債権者が経営者に進言して債権者も信頼する再建のプロである turn around specialist を Chief Executive Officer, Chief Operating Officer, Chief Financial Officer, Chief Reorganization Officer, Chief Information Officer などま たはその補佐あるいはそれらの者の advisor として送り込み、債務者会社の officer または高級職員として経営にあたらせ、リスト ラを実施し企業の収益性を回復させて、債権回収に結び付ける」。以上は、[高木 00]高木新二郎「企業再建実務の変化と会社更 生法改正の問題点についての再検討」『NBL』698 号 , 2000 年 , 18 ページによる。

34  法的整理の前段階で財務再構築と事業再構築とが一体となった適切な再建計画を作成し、主要債権者(銀行など)との合意形成 を目指し、仮に一部債権者の反対により合意が得られない場合には、法的整理により最終決着を行う再建スキーム。米国では我 が国のように、いきなり法的整理を行うことは少なく、法的整理の前段階である程度の抜本的再建スキームを構築し、合意が得 られない場合に限り法的整理で行うという、このプレ・パッケージ型手続が頻繁に使われており、早期かつ迅速な再生が可能と なっている。

35  以上は[Fitch IBCA01] Fitch IBCA, Duff & Phelps, Rating Criteria for Debtor-In-Possession Lending Arrangements, 2001, による。

出、格付機関による仕組みやキャッシュフロー、

法務リスクなどの分析を経て、格付委員会にお いて議論された後に決定される。

 上記3社のうちFitch RatingsとS&PはDIPファ イナンスの格付基準を公表しており、

Moody’sは

DIPファイナンスだけに絞った格付基準は公表し ていない。以下、これら格付基準について、公表 を行っている Fitch Ratings と S&P について概観 する。

 まずFitch RatingsによるDIPファイナンスの格 付基準についてみると、以下の3点についての 検討がなされるようである。まず、DIP ファイナ ンスを格付するにあたって不可欠なのが、当該 企業がチャプター・イレブン手続を無事に終結 し、健全な企業として立ち直ることができるか どうかを検討することである。具体的には、①申 立ての理由 ②再建計画の内容 ③申立て企業 の存続可能性 ④リストラの規模と再建計画の 期間 についてを考慮する。

 第二に、先の定性的な分析に引き続いての、定 量的な分析である。米国連邦倒産法チャプター・

イレブンでは、申立てと同時に債権者による一 切の債権回収行為が禁止されるが(automatic stay;自動的停止)、リストラに伴う店舗や設備の 閉鎖・改修費用、設備投資や追加の運転資金需要 などが発生することから、再建計画に沿った場 合にどの程度の DIP ファイナンスが必要となる か、事業を行うにあたって適当な借入規模はど の程度かを見積もらなければならない。また、

DIPファイナンスに一定の保護が与えられている とはいえ、再生がうまく行かなかった場合や結 局清算せざるをえなかった場合に備えて、清算 に移行した場合の担保価値も考慮しなければな らない。

 第三に、法務面ないしファイナンスの仕組み についての分析である。米国連邦倒産法364条に より高い優先権が与えられるとしても、破産裁 判所31には再建手続を通じて強大な権限が与えら れている。DIPファイナンスは資産担保ローンと ストラクチャー上、似ている部分があるが、担保 の掛目や処分価値の見積もりが甘かったり十分 に管理されていなかったりした場合には、損失 が発生する可能性もある32

 上記以外にも、DIPファイナンスが申立て前の 債権者から供与されるか(デフェンシブ型)、申 立て後の債権者(オフェンシブ型)から供与され るかも重要であるとしている。なぜなら、申立て 前債権者であれば、申立て前債権を守ろうとす るインセンティブがあるし、会社や経営陣、会社 の事業内容に精通しており、再建の成否を吟味 するのにより適当な立場にあると言えるからで ある。チャプター・イレブンでは原則として経営 陣は交代しないが、経営陣が一新されたり、ター ンアラウンドスペシャリスト(t u r n   a r o u n d specialist)33が経営陣となったりすることもある ので、この点も注意を要するとしている。なお、

基本的にプレ・パッケージ型手続34に付されるDIP ファイナンスは格付を付与しやすい模様である35。  S&P については二つの段階に分けて DIP ファ イナンスの格付を行っている。まず、元本を適時 に支払うことができるか(Timely Payment)を勘 案する。具体的には、債務者の存続可能性が確認 できて、適切な時点で再建がなされ、時機をえた DIP ファイナンス弁済がなされるかを検証する。

 次に、特定の課題やローンそれ自体、また清算 に移行した場合の回収可能性についての詳細に 焦点を当てて分析を行う。再建がなされずに清 算に終わったとして、担保状況などに鑑みて清

(11)

36  以上は[Standard & Poor’s00] Standard & Poor’s , Standard & Poor’s Criteria for Rating Debtor-in-Possession (DIP) Loans, 2000, による。

37  筆者による某外資系金融機関からのヒヤリングによる。

38  在庫などの集合動産及び売掛債権などの集合債権をまとめて広く担保をとり、その担保の額に応じて与信の額を増減させていく 融資形態を指す。

39  米国のプライム・レートは連邦準備制度の短期貸出金利政策に連動する。銀行によってはこのプライム・レートを上下する独自 のプライム・レートがあり、例えば “J.P. Morgan’s Prime Rate” などと表現される。

40  ファシリティ(案件)の設定に対して支払われるフィー。

41  シンジケートローンの組成に際してアレンジャー(主幹事)に支払われるフィー。

42  これら、米国における DIP ファイナンスの収益面については、3.6にて詳述する。

43  グループ全体の資産総額は約 618 億ドル。1987 年の Texaco(現 ChevronTexaco)の資産総額 395 億ドルを大きく上回る結果となっ ている。

算時にも回収が可能かといった分析である36。  以上見てきたように、バンク・ローンの格付 基準と異なるのは米国連邦倒産法上の特有の考 慮点があることだが、会社間で本質的な違いは ないように見受けられる。チャプター・イレブ ンの開始申立てにより、申立て前債権はデフォ ルトするため格付は「D =投資非適格」となる が、申立て後債権である DIP ファイナンスは連 邦倒産法上の保護により場合によっては投資適 格の格付を取得し得る。DIP ファイナンスの格 付が高いことは償還の確実性が高いこと、逆に 低いことは清算に移行する可能性が高いことを 意味しているといえる。

3.5 DIP ファイナンスの形態・金利・

フィーの水準

 DIP ファイナンスは通常、米国連邦倒産法上 の超優先権が付与される364条(c)項または(d)

項に基づき供給される。対象債務者の業種とし て最も多いのは製造業、小売業で、金融・保険 業、不動産業、サービス業は対象となりにくい。

米国では動産担保法が発達していること、DIP ファイナンスは運転資金(Working Capital)を賄 うためのものであることなどから、売掛債権や 棚卸資産を担保としやすく、結果として製造業 や小売業が対象となりやすいと思われる。担保 対象資産は、売掛債権や棚卸資産のほか、不動 産や機械設備、知的財産権を担保とする場合も ある。

 対象債務者の規模も DIP ファイナンスを組成 する際の様々なコストを賄うため、ある一定以 上の規模は要求されるが、その基準は金融機関 によってまちまちである。例えば、ある大手金 融機関は年間の売上規模が 200 百万ドル以上の 債務者を対象としているとのことである37

 運転資金としての性質上、与信期間はほとんど が1年未満ないし1年から2年であり、2年を超 えることはあまりない。また、与信形態は通常、

リボルビング・ローン38であるが、ターム・ロー ンや L/C(Letter of Credit)を伴うこともある。ま た、資金使途は、運転資金か通常の営業過程で必 要な資金に制限する場合がほとんどである。

 DIPファイナンスの金利は一般のバンク・ロー ンよりも高く、LIBOR またはプライム・レート39 のいずれかのベース金利に信用リスクに見合った スプレッドとして2%から5%程度上乗せされ、

固定金利をベースとする場合は余りない。また、

DIPファイナンスを実行するに当たっては数%のコ ミットメント・フィー(Commitment Fee)40やア レンジャー・フィー(Arranger Fee)41が課される42。 一般にDIPファイナンスが返済されるのは再建計 画の認可決定時だが、それがいつかは不確定であ り、しかも再建途上の企業に対する融資は回収の 不確実性が高いから、そのリスクに見合って収益 性も高いのである。

 なお、DIP ファイナンスも通常のバンク・ロー ンと同じようにシンジケーション、パーティシ ペーション、二次売却、CLO組成の対象となるよ うだが、こういった取引をするかどうかは金融機 関の姿勢によりまちまちである。

3.6 DIP ファイナンス事例 3.6.1 最近の事例

 米国における最近のDIPファイナンスに関する 大型並びに小型の事例については、以下表3の通 りである。

 Enron Corp. のチャプター・イレブン申立ては、

その企業資産規模での米国史上最大の倒産といわ れるが43、そのDIP ファイナンスの金額も15 億ド

(12)

金額単位:US百万ドル

申立日 金額 レンダー

大型事例

① Enron Corp. 2001/12/3 1500.0 J.P. Morgan Chase, Citi Group

② Ames Department Stores Inc. 2001/8/20 755.0 GE Capital Corp., KIMCO

③ Federal-Mogul Corp. 2001/10/1 675.0 J.P. Morgan Chase

④ Comdisco Inc. 2001/7/16 600.0 Citi Group, Heller Financial, J.P. Morgan Chase

⑤ Warnaco Group Inc. 2001/6/11 600.0 Citi Group, J.P. Morgan Chase, Bank of Nova Scotia

⑥ Bethlehem Steel Corp. 2001/10/15 450.0 GE Capital Corp.

⑦ USG Corp. 2001/6/25 350.0 J.P. Morgan Chase

⑧ Washington Group International Corp. 2001/5/14 230.0 CSFB, Lehman Brothers, Merill Lynch,Ableco,

⑨ Winster Group International Inc. 2001/4/18 225.0 Citi Group, CIBC, CSFB, Bank of New York,

⑩ Exodus Communications Inc. 2001/9/26 200.0 GE Capital Corp.

小型事例

① SyQuest Technology,Inc. 1998/11/17 0.4 Iomega Corp.

② Unison Healthcare Corp. 1998/5/28 5.5 HCFP Funding Inc.

③ Hayes Corporation 1998/10/9 6.7 NationsCredit

④ Nu-Kote Holding, Inc. 1998/11/6 7.5 Northwest Business Credit, Inc.

⑤ Reliance Acceptance Group, Inc. 1998/2/9 8.0 BankAmerica Business Credit, Inc

⑥ Oneita Industries, Inc. 1998/1/23 10.0 Foothill Capital Corp.

⑦ SmarTalk TeleServices, Inc. 1999/1/19 10.0 AT&T

⑧ Livent, Inc. 1998/11/18 25.0 Angelo, Golden & Co. L.P.

⑨ Golden Books Family Entertainment, Inc. 1999/2/26 30.0 The CIT Group/Business Credit, Inc.

⑩ River Oaks Furniture, Inc. 1998/3/3 32.9 BNY Financial Corporation 再建企業

表3 DIP ファイナンス大型・小型事例

出所:大型案件については、2001 年度中にチャプター・イレブンを申立てた企業に対する DIP ファイナンスの金額多額順、小型 案件については http://www.bankruptcydata.com/DIP.htm(2003 年1月 22 日取得)における DIP ファイナンス案件事例分を基 に、金額小額順に整理して作成した。

Pittsburgh-CanfieldCorp Genesis HealthVentures, Inc. Fruit ofTheRoom, Inc. Harnischfeger Industries, Inc.

鉄鋼業 医療事業業 下着製造業 鉱業

2000年11月16日 2000年6月22日 1999年12月29日 1999年6月7日

ヤングスタウン デラウェア州 デラウェア州 デラウェア州

Citi Bank Citi Corp USA CIT Group(TycoCapital) 等

MellonBank Goldman Sachs Credit Partners

First Union National Bank 等 Bankof America Chase Manhattan(J.P.Morgan Chase) Chase Securities INC

$290,000,000

ターム・ローン:$35,000,000 リボルビング・クレジット・ライン:$255,000,000 (レター・オブ・クレジット・スイングローンと合算)

リボルビング・クレジット・ライン:

(i)Citi's Base Rate+1.25% to 2.25%

(ii)Citi's LIBORRate+2.75% to3.25%

ターム・ローン:16.0%

レター・オブ・クレジット:2.25%〜2.75%

リボルビング・クレジット・ライン:

(i)Mellon's PrimeRate+2.25%

(ii)Mellon's LIBORRate+3.75%

レター・オブ・クレジット:3.00%

リボルビング・クレジット・ライン:

(i)BofA's Base Rate+1.0%

(ii)BofA's LIBORRate+2.5%

レター・オブ・クレジット:2.0%

リボルビング・クレジット・ライン:

(i)Chase's Base Rate+1.75%

(ii)Chase's LIBORRate+2.75%

レター・オブ・クレジット:2.75%

リボルビング・クレジット・ライン:$225,000,000 レター・オブ・クレジット:$25,000,000

リボルビング・クレジット・ライン:$750,000,000 (レター・オブ・クレジット・ターム・ローンと合算) ターム・ローン:$150,000,000

リボルビング・クレジット・ライン:$475,000,000 (レター・オブ・クレジット:$125,000,000と合算)

$250,000,000 $625,000,000 $750,000,000

2001年11月1日 2001年12月22日 2001年6月30日 2001年6月6日

未入担資産に対する第1順位設定 売掛債権・不動産 在庫・売掛債権 在庫・売掛債権

超優先債権(不明) 超優先債権(不明) 超優先債権(364(c)・364(d)) 超優先債権(364(c))

不明 $1,875,000 $6,250,000 $7,500,000

$25,000(annual) 不明 不明 $200,000

リボルビング・クレジット・ライン:2.25%

ターム・ローン:0.50%

リボルビング・クレジット・ラインの 未使用残高分の0.50%〜0.65%

$5,000,000 $3,906,250 $7,500,000

不明 不明 不明 不明

0.50% 0.50% 0.25%

3.00% 不明 $250,000 不明

担保管理費用:$225,000 (毎年) (i)アドミニストレーションフィー:$250,000

(ii)担保管理費用:$100,000 (i・iiとも毎年) アドミニストレーションフィー:$125,000 (毎年) 不明

$3,500,000 $4,500,000 $5,000,000 $5,000,000

DIP(債務者)

業種 申立日 裁判所 レンダー 金額 貸出期限 優先性(条項)

貸出形態

担保

金利

手数料

カーブアウトフィー アレンジャーフィー エージェントフィー ファシリティフィー コミットメントフィー アンユーズドライン フィー エグジットフィー その他

表4 DIP ファイナンス案件事例

出所:http://bankrupt.com/periodicals/bcs.htm(2002 年2月 25 日取得)より筆者整理し作成

(13)

44  資金繰りが落ち着いた9月にはこの契約は解除され、最終的には子会社である Texaco Refining & Marketing Inc. が保有する売掛 債権を担保とする総額7億5千万ドルのローンに切り替わった。

ルと非常に多額である。Enron Corp. に限らず米 国国内の大型倒産においては、DIPファイナンス は必然的に付与されるといって良い。そしてそ の契約については申立て当日もしくは翌日など 即座に契約が行われ、さらにその契約内容を対 外的に発表することが多い。これは、チャプ ター・イレブン申立ての事前の段階で企業とレ ンダーの間で事前に調整がされており、申立て と同時に契約、その内容を対外的に発表を行う ことで、DIP の市場性及び風評リスクの低減を 狙って行われるものであり、特に大型倒産の場 合においてはこのような事例が多い。一方で、小 型事例をみるに、200百万ドル以上の大規模案件 のみならず1百万ドル未満の小規模な案件もあ る模様である。

 これらを見るに、その金額幅は広く、チャプ ター・イレブンを申立てた企業の資産規模並び に、資金需要などについて検討がなされた上で の融資金額となっていると言えよう。

 以下表4では、先の大型・小型案件以外のその 他 DIP ファイナンス事例について、その金利面、

手数面、及び担保など、その具体的条件面につい て纏めたものである。

 これらを見るに、その全ての事例において ファシリティーフィーなどのなんらかの手数料 が DIP ファイナンス実行に際して徴されている ことがわかる。その様々な手数料の徴求により、

DIPファイナンスはレンダーにとっても収益性の 高い融資となっているのである。

3.6.2 DIP ファイナンスの成功・失敗事例 3.6.2.1 成功事例

① Texaco, Inc.

 テキサス州地方裁判所は 1985 年 12 月 10 日、

Getty Oil Co. 買収問題に絡んで Pennzoil Co. から 損害賠償請求を受けていた米国で第3位(当時)

の石油メジャー、Texaco, Inc.(Texaco)に対し、

総額111億2千2百万ドル(当時の換算レートで 約2兆2千6百億円 / 1 $ ≒ 203.20 円)の賠償金 支払いを命じる判決を下した。この賠償額は Texaco, Inc. の推定資産の二倍弱に相当するとと

もに、当時、米国裁判史上最大であった。

 この時点で Texaco には①裁判を継続する ② 和解する ③チャプター・イレブンを申立てる  という3つの選択肢があったが、管轄のテキ サス州法は、敗訴した側が上告するには判決と 同額の保証金を供託しなければならないと定め、

① Texaco は到底支払うことができなかったこと  ②和解が不調に終わったことなどから結局、

1987 年4月 12 日にチャプター・イレブンを申立 てた。その後、Chemical Banking Corp は Texaco に対して 20 億ドルもの巨額の DIP ファイナンス を提供すると発表し、申立て直後の資金繰りを 支えた44

 Texaco によるチャプター・イレブンの申立て は「歴史上最も無責任な企業行動」などと非難さ れたように、本事例を成功例に挙げるのはいさ さか不謹慎のように思われるかもしれないが、

現実からかけ離れた巨額の懲罰的損害賠償を認 めた陪審の判断が異常だったとの指摘もあり、

訴訟社会米国を浮き彫りにした点で注目に値す る。また本件によって、十分な資金が確保されて いることがアナウンスされれば申立て会社の信 用確保に寄与することが改めて実証されたとと もに、DIPファイナンスの市場が潜在的に大きい ことを示し、Chemical Banking Corp が以後、DIP ファイナンスにより積極的に取り組む大きな きっかけとなったことも特筆すべき点である。

 なお、Texaco, Inc.は2001年10月9日にChevron Corp. と合併し、世界最大級のグローバルエネル ギー企業 ChevronTexaco Corp. となっている。

② R.H. Macy & Co. Inc.

 創業 133 年の歴史を誇り、全米に 144 の店舗を 持つ老舗の最大手デパート(当時)である R.H.

Macy & Co. Inc. (Macy’s) は、過去に行った LBO

(Leveraged Buy Out)による過剰な債務負担と景 気低迷による売上減のため資金繰りに行き詰ま り、1992 年1月 27 日にチャプター・イレブンを 申立てた。

 申立て時の負債総額は約 53 億2千万ドル(同 資産総額は約49億5千万ドル)に及んだ。

Macy’s

は申立て日現在で手許に 20 万ドルの現金しかな かったが、申立ての翌日にChemical Banking Corp とBankers Trust Co.から364条(c)項に基づく総額

参照

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