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多様な主体の連携・協働による地域力の再生と新し い公共 : 京都府地域力再生プロジェクトの取組を 通じて

著者 梅原 豊

雑誌名 同志社政策研究

号 4

ページ 177‑189

発行年 2010‑03‑08

権利 同志社大学政策学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000012114

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多様な主体の連携・協働による地域力の再生と新しい公共

--京都府地域力再生プロジェクトの取組を通じて

京都府府民生活部府民力推進課参事 

梅原  豊 Yutaka Umehara

概 要

 京都府では2007年度から、人と人とのつながった温かい地域社会をつくり、地域 づくりを担う多様な主体が協働して、地域の課題解決や魅力アップをつくりだす地 域力再生プロジェクトを実施。本論文では、これまで実施してきた施策の紹介と府 民による地域力再生活動の事例、地域でどのような変化が生まれてきているのかに ついてまとめるとともに、本プロジェクトの実施を通じてみえてきた新しい公共の 世界について論じている。

1.地域社会の変質と地域力再生の取組スタート

 私たちが暮らしている地域社会が今どのような状況に置かれているのかを考える 時、1990年代の前半又は中頃当たりから、急激に地域社会の構造変化がうかがえる データがある。器物破損の認知件数、街頭犯罪等認知件数、児童虐待相談件数、児 童・生徒に占める「不登校」の割合、自殺者の推移、そして最近では非正規雇用割 合の推移などのデータである。これらの数字は、いずれも90年代前半又は中頃から 急激に増加し、2000年の後半になった現在でも高止まりをしている。

 これを裏付けるように、平成19年度版国民生活白書に掲載されているアンケー ト調査では、近隣住民とほとんど行き来していない人と、行き来していない人で 39.8%、生活面で協力し合う近隣住民がいないとする人が65.7%にのぼっている。

また、住民にとり一番身近なコミュニティである町内会・自治会に参加していない 人は、51.5%の半数を超えている。

 山田府政の2期目である06年の夏頃から検討が始められ、07年度から総務部自治 振興課に地域力再生プロジェクト担当が新しく置かれ、スタートした地域力再生プロ ジェクトはまさしくこうした地域社会の変質を受けて生まれてきた政策であった。

 少子高齢化や地域格差の拡大、市町村の合併、いきすぎた個人主義等により、

 ○豊かさの陰で家庭や地域において人と人とのつながりが弱体化、人々が孤立し た社会になっている。

 ○自治会などの既存の組織が求心力を低下させている。

 ○自殺の増加や児童虐待、軽犯罪の増加、地域の雇用不安、地域文化の衰退など、

地域発の様々な課題が発生

 ○東京一極集中により、京都の経済力や文化創造力・発信力等が低下

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などの問題意識、いわば日本社会が有していた信頼と絆という地域の社会基盤が崩 壊しつつあるのではないかという問題意識のもと、「人と人との信頼や絆を強め、

地域づくりを担う府民、NPO、企業、大学、行政など多様な主体が協働により、

地域の課題解決や魅力アップができる力=地域力を再生し、住民自治の新しいモデ ルを京都からつくろう」という想いからこのプロジェクトを立ち上げたのである。

2.地域力再生プロジェクト2年半の取組

 それでは、具体的にどのような事業をこの地域力再生プロジェクトは実施してき たのであろうか。ここでは主な事業について紹介をしていきたい。

2.1 市民社会が力をつける(エンパワーメント)

自治会やNPO等、住民自身が地域をよくしていこうという活動が力をつけること を目的に行っている施策群であり、最大のものが京都府地域力再生プロジェクト支 援事業交付金(以下交付金という。)である。

 年度予算枠が3億円、子育て支援、高齢者の居場所づくり、環境保全、地域の美化、

地域の文化振興、都市と農村との交流、地域の産業おこしなど、住民自身が仲間を つくり、地域の課題解決や魅力アップに取り組む活動を企画・申請していただき、

事業経費の1/3を京都府から、京都市内以外の地域で事業を実施する場合は㈶市 町村振興協会、つまり市町村から1/3を支援するというもので、行政の縦割りに 関係ない包括的な財政支援制度である。07年度からの3年間で実施する期限付きの 交付金制度であり、初年度326件、2年目で386件と、2年間の実績ベースで712件 の活動を支援したところである。また、3年目の09年度の第1次募集では266件の 交付決定をしており、通算するとのべ978件の地域力再生活動が実施されているこ とになる。

 また、活動団体に地域づくりのアドバイザーを派遣する制度や、ファシリテート、

組織づくりや広報などについて学び活動の担い手を養成する「ふるさと京都、夢、

智恵、元気わくわく塾」の開催、さらには団体の活動を、期間(10~12月)を決 めて共同で集中PRする「地域力再生コラボ博覧会」などを行っている。

 この他、NPO法人きょうとNPOセンターと協働して09年3月に設立された京都 地域創造基金を通じて、09年度後半からは融資制度も実施していく。当財団は、8 月に公益財団法人に認定されており、独自事業として新しい寄附メニュー開発によ る活動団体向けの助成事業や民間で使われていない施設や土地、資材を、活用を希 望する団体に仲介・斡旋する制度なども今後取り組んでいく予定をしている。

2.2 つながりをつくる

 地域活動に取り組んでいる人、府や市町村の職員、大学の研究者や大学生、マス コミ関係者など、こうした地域力再生にかかわる人たちが主体的につながり、協働 する場をつくっていくことを目的として実施している施策である。

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179  具体的には、活動している人たちが顔を合わせ情報交換や意見交換を行う場とし

て、地域別やテーマ別に開催している地域力再生フォーラム「コラボカフェ」、活 動の現場に集まり学ぶリレー塾、地域力再生にかかる行政との協働事業の提案を募 集し、発表していただく「京のチカラ・明日のチカラ提案コンクール」、活動に取 り組んでいる人たちのネットワークをバーチャルな世界でもつくるコミュニティサ イト「京結び」の運営支援、同志社大学と連携した大学生向け地域力再生の教育プ ログラムなどがこれに当たる施策である。

 また、08年度から、取組を始めたものにテーマ別プラットフォームの設置と施策 の創出がある。これは本プロジェクトにより活発化・顕在化した民間の活動と京都 府が、環境保全や観光、子育て、青少年の育成、地産地消などテーマ別に課題を共 有し、意見交換を行う話し合いの場をつくり、課題解決の施策を立案し、協働して 実施していくというもので、08年度には19、09年度には35のプラットフォームが本 庁部局や地方機関である広域振興局でつくられている。

2.3 枠組みを変える

府民、NPO、大学、企業、行政等が力を合わせ、住民は要望するだけで行政に地 域づくりは任せるという地域社会を築く枠組みを変えていこう、そのために行う施 策である。

 個々の地域力再生活動を情報やノウハウや提供、あるいは人材の育成などで支援 する中間支援の役割は地域づくりに当たり非常に重要である。行政もある意味中間 支援組織であるが、中間支援の層を厚くし、住民自治社会を確立していく意味から も、民が民を支援するという構造をつくり出すことが求められる。

前述した、京都地域創造基金の活動はそうした枠組みづくりの一翼を担うもので ある。また、京都府では民間と行政との協働をつくりだすセンターとして、府庁や 広域振興局の管内にパートナーシップセンターを設置するとともに、京都市・乙訓 地域と南部の山城地域を対象に、それぞれNPO法人きょうとNPOセンター、NPO 法人まちづくりねっと・うじを民間エリアセンターと認定し、地域力再生を行う団 体への支援を行ってもらっている。

 また、京都府内の大学や地域公共人材開発機構と連携して、全国初の取組である 地域公共人材の育成についても、09年度後半から行う予定をしている。

このほか、府職員のNPO等への短期派遣研修やNPOと府職員の人事交流の実施、

大学と連携し地域力再生プロジェクトの評価なども実施している。

 

3.地域力再生活動のタイプと活動事例の紹介

07年度、08年度、交付金により支援した活動は合計で712件にのぼるが、これを活 動の種類から分類したものが表1である。

このうち新規の取組は、 07年度で326件中128件(約39%)、08年度で386件中163件(約 42%)であり、合計で291件の活動が、地域力再生プロジェクトを契機に新規に取

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り組まれたことになる。

 また、07年度、交付金の支援 を受けた326団体のうち、08年 度も引き続き交付金を活用して 活動を継続した団体が162団体

(約50%)、交付金を活用せず活 動を継続させた団体が163団体 となっている。

 実施主体別にみてみると、一 番多いのがNPO法人の認証を受 けていない任意団体であり、次に NPO法人、実行委員会、自治会 又は自治会系組織が続いている。

 それでは、2年間で支援した 712の活動は具体的にどのよう なものであるのか。以下、活動 の性格から4つのタイプに分類 し、その分類に属する活動の具 体例を紹介したい。

<地域力再生活動の4タイプと活動数>

①子育てや高齢者の見守り、犯罪の防止、災害時の救助など、地域の住民自身が 互助により公共サービスを提供する活動(181活動)

 ②文化振興や環境保全、地域美化、スポーツなど、地域の魅力アップをめざす活 動(361活動)

 ③特産品の開発・販売、都市農村の交流、コミュニティレストラン、地域資源を 活用した観光など、社会的ビジネスをめざす活動(133活動)

 ④中間支援(人材育成や地域活動のPRなど、個々の活動を支援する活動)をめ ざす活動(37活動)

3.1 子育てや高齢者の見守りなど、地域の住民自身が互助により公共サービスを   提供する活動

 京都市に隣接し、ベットタウンである人口7万8千人の長岡京市で活動する NPO法人ほっとスペースゆうは、同市内の民家を借りて、親子が集まる拠点「い ずみの家」を整備・運営している。

 不幸なことに、長岡京市では06年に児童虐待を受けた児童が死亡するという事件 が起きたが、孤立しがちな母親たちの子育てを支援し、虐待を事前に予防できない かという思いから、子育てに悩む親子の癒しのスペースを地域の中で提供している。

表1 地域力再生活動の種類から見た実績

(交付金実績ベース)

単位:件 活動の種類 19年度 20年度 合 計

環境保全 42 42 84

子育て支援 28 34 62 共助型福祉サービス 26 33 59 防災・防犯 22 18 40

地域美化 27 21 48

地域産業おこし 39 34 73 地域商業の活性化 11 16 27 農村・都市交流 26 33 59 地域スポーツ振興 17 15 32 地域文化 49 75 124 地域行催事 19 28 47 その他特に認める事業 20 37 57 合 計 326 386 712

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181  毎週木曜日、午前10時~午後2時の4時

間、温かい家、むかいいれる人、母親の仲 間がいる環境の中で、ボランティア人材と 協力しながら、食事を一緒につくって食べ たり、散歩をしたり、絵本の読み聞かせを 行ったり、地域との交流事業を行ったりと、

親と子どもがリラックスし、親どうしが交 流できる時間をつくっている。

 長岡京市以外の近隣の市町村からも親子

で通ってきておられ、「2人目、3人目を 産んでもやっていけると思うようになっ た、介護保険のヘルパーに復帰したいと前 向きになるお母さんたちも出てきている。」

と理事長の工藤さんは語る。

 児童相談所との連携も行い、地域の中に 日常的に子育てに悩む母親たちが集まり、

リラックスして相談し、支え合う場所が住民自身の手により、行政とは異なる機能 で提供されていることは、児童虐待を予防する重要な取組であるといえる。

3.2 文化振興や環境保全など地域の魅力アップをめざす活動

 先輩の船頭から、「ゴミがあればゴミのない方向をみて説明せよ。」といわれてき たが、「それではいつまでたっても地域はよくならない。」、「毎日観光客を乗せて 下っている保津川がこの汚いままでいいのか。」と疑問を持った保津川遊船企業組 合の若い船頭たちが自主的にエコ・グリーン対策委員会を設立、ちょうど07年保津 川開設400年事業が亀岡市役所で実施され、その実行委員会のメンバーが取組を継 承していこうという、2つの動きが合体してできたのが、京都市の北西部に隣接す る亀岡市で活動しているNPO法人プロジェクト保津川である。08年7月に任意団 体を設立、大学の教員、保津 川遊船企業組合のメンバー、

市民が参加し、自治会とも連 携しながら、月1回保津川の 清掃活動を実施、毎回亀岡市 民だけでなく、地域外からも

40~50人がボランティアと

して集まる。

 グーグルマップの地図を活 用し、市民自身に、みつけた ゴミの写真と場所を携帯電話

〈いずみの家での活動の様子〉

〈保津川での清掃活動の様子〉

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でアップしてもらい、リアルタイムに把握、その情報に基づき重点的に清掃を行っ たり、危険なゴミがあれば行政に連絡して処理してもらう保津川ゴミマップの作成、

保津川遊船企業組合の船を借り切り、掃除しながら保津川を下るエコツアーの実施、

筏の復活などにも取り組んでいる。

 コアメンバーに若い人が参加する活気のある団体で、地域の環境美化にとどまら

ず、 川を通じた人と文化のつながりをつくる様々な活動を展開し始めており、団体

自体が地域の人材を育てるプラットフォームとなる可能性を持っている。

3.3 特産品の開発・販売、都市農村の交流、コミュニティレストランなど社会的  ビジネスをめざす活動

 京都府の南の山間にある和束町は人口4,870人の小さな町で、宇治茶で知られる お茶の生産地である。この地で活動しているほっこりサークルは、お茶の生産者や 商工会が中心になって2000年に設立された団体で、これまで茶樹のオーナー制度や 荒廃茶園の再生などの事業を行ってきていた。

 07年から交付金を活用し、

和束山の家の周辺に様々な品 種のお茶の樹を植えたティー パークや和束茶の提供・販売、

お茶の淹れ方を伝授する拠点 として和束茶カフェの整備を 行い、 これらの拠点を核にお 茶をコンセプトにしたグリー ン ツ ー リ ズ ム の 展 開 を08年 からは始めている。ほっこり サークルとは別に、お茶を活 用した特産品を開発する女性 グルーブ「恋茶グループ」が07年に立ち上がり、活動を始めており、これまで男性 が中心であった活動に女性が加わり、相互に連携してより大きな活動の波が生まれ つつある。一面に広がる茶畑の風景が京都府の景観条例第1号に登録されたことも あり、これまで外部の人が訪れる機会も少なく、訪れてもせっかくの和束茶を味わ う場所がなかった和束町であるが、リピーターとして訪れる人が増え始めており、

茶農家がお茶を生産し、宇治の問屋に販売するだけでなく、新しい形のビジネスを 生み出す可能性を持つ動きとして期待が高まる。

3.4 中間支援をめざす活動

京都府の北部、天の橋立で有名な宮津市内の民家の2階に事務所を置く、宮津メ ディアセンター実行委員会は、住民自身が地域の情報を撮影し、発信していく住民 ディレクターの活動を行っている団体である。映像という動画情報を活用し、地域

〈ティーパークの整備の様子〉

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183 の活動団体や人物を紹介、地

域内での交流を活発にし、地 域の活性化を図るという中 間支援の活動を行っており、

インターネット放送局「Tango Miyazu-TV」には、既に250 をこえる映像コンテンツが アップされ、様々な宮津の動 きが発信されている。特に反 響の多いのは宮津を出て外で 働いている人からのものだと いう。女優の加藤ローサが主 演した「天国はまだ遠く」は、宮津市で撮影された映画であるが、その撮影風景を 撮ったコンテンツには約2万1千のアクセスがあったそうである。

 地域に出かけ、撮影する住民ディレクターは10数名、3~4名の人間が編集に当 たり、一般の人を対象にした住民ディレクターの養成講座も開催している。08年度 には、京都市内の大学生と連携し、第3セクターKTR北近畿丹後鉄道の魅力をア ピールするプロモーションDVD「KTR駅物語」を制作、試写会を実施するとともに、

キオスクでの販売も働きかけている。

 人材不足や財政難など、ほとんどの団体に共通する課題を同じように抱えている

が、 住民自身により運営されている情報発信のキー局であり、中間支援の新しい形

として注目される活動例である。

4.どのような変化が生まれつつあるのか 4.1 地域力再生活動団体に対するアンケート調査

 活動団体自身に実施した活動の自己評価をしてもらうため、07・08年度交付金に より支援した団体に対して、「気づきシート」を使ったアンケート調査を実施して いる。

 回答団体数は07年度223団体(回収率68.4%)、08年度155団体(回収率39.5%)で あり、回収率に違いがあるが、「事業実施により課題の解決に近づいた。」とする団 体が94.0%から96.8%に、「事業の企画に参加した住民や趣旨に賛同する人が増え た。」とする団体は88.9%から94.1%に、「活動によって地域住民相互」のつながり が深まった又は何らかの変化があった」とする団体は96.3%から98.7%と高い数字 で増加している。

 特に、「他団体とのネットワークや協働の機会は増えたか。」という質問について は、増えたと答えた団体の割合が、65.0%から81.2%と大きく増加している。増え た場合の具体的団体としては、NPO、大学、企業、商店街、その他の順になっている。

 自己評価ということで、手前味噌の感はあるが、9割を超える団体が、地域力再

〈「KTR 駅物語」の撮影風景〉

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生プロジェクトの実施により、「課題の解決に近づいた」、「団体のメリットになっ たと実感」と回答しており、高い評価を下しているといえる。

 また、この気づきシートでは、地域力再生活動の実施によるエピソードについて、

文書による回答を依頼しており、その主なものを拾うと以下のような内容である。

 ○新しい活動が起こせたり、既存の活動が活発化する契機となった。 

 ○地域での活動の認知度が高まり、理解者や活動に参画する人の数が増えた。

 ○障害者を支援しているグループと放置竹林の整備を行っているグループが交流 を始めたなど、他団体や行政との連携・協働が進んだ。

 ○農村地域の良さに感動して居住したい家族が現れたなど、経済的効果が上がっ た。

その一方で、

 ○高齢化が進み、イベントばかりでは疲れてしまうという意見もある。

 ○現時点ではスタッフ不足に悩んでいる。資金不足も不安材料である。

 ○今後も継続していきたいが、認知症に対する社会全体の要求が広がり、スタッ フに限界がみえている。

 ○事務局運営が経費保障されていないので、ボランティアが多く大変 などの課題も述べられている。

4.2 市町村に対するアンケート調査

 また、09年7月、府内の26市町村に対して地域力再生プロジェクトに関してアン ケート調査を実施した。

 プロジェクト実施により、地域に変化があったとするのが22市町村、市町村の中 で変化があったとするのが20市町村で、ほとんどの市町村で地域力再生プロジェク トの実施により、地域や市町村に変化が現れていると感じていることがうかがえる

(主な内容については表2を参照)。また、交付金についても継続を希望するのが18 市町村となっている(アンケートでは、交付金についての要望を聞いており、もっ と直接的に交付金の継続を希望するかしないかと聞いた場合は、この数が増えたも のと推測される。)。

表2 主な変化の内容

地域の変化

○各地域でこれまでにない思い切った取組が展開され、地域間・世代間の人と人 とのつながりや地域の連帯感が強まった。

○地域住民が行政に頼るだけでなく、より積極的・主体的に取り組む姿勢が強く

○フォーラム等への参加により、活動地域以外の団体との交流が生まれ、活動内なった。

容が前進したり、市町村の枠をこえて活動をめざす団体がでてきた。

市町村の変化

○これまで接触がなく、その活動について十分認識していなかった団体について の認識が深まった。

○熱意ある団体の活動を支援できることが、職員のやりがいに感じることができ、

職員の意識の向上に寄与した。

○行政と接点がなかった団体と交流を持て、互いに協力して実施する事業が増えた。

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185 5.テーマ別プラットフォームとパートナーシップ推進枠

5.1 プラットフォームとは

 前述したとおり、本プロジェクトの施策の一つとして、テーマ別のプラットフォー ムづくりを08年度から推進しているが、京都府ではプラットフォームを、「自治会 やNPOの民間活動者、大学や企業の関係者、京都府や市町村の職員などが、共通 する課題に応じて集まり、それぞれ参加した人が得意とするネットワークや智恵を 活かし、課題解決や新しい価値創造に向け施策をつくり、実行に移していく場」と 定義している。

 いわば駅のプラットフォームのように、地域づくりにかかわる様々な人が集まり、

目的地が決まった列車が発着するように、課題や目的ごとに自由にグループができ、

課題解決に結びつく施策について意見交換を行い、立案し、実施に移していくとい う運動を伴った、公共政策形成の空間がプラットフォームである。プラットフォー ムはなにも特別なものではない。民間と行政との協働の一手法であり、出入り自由 な外に開かれた空間である。

 こうしたプラットフォームづくりを進めるねらいは、京都府の各部局や広域振興 局の担当者が、地域力再生に取り組む団体と日常的に話し合い、より現場や住民の ニーズに近い施策をつくっていくことで、京都府の政策や施策づくりのプロセスを 変えていこうということにある。当然、プラットフォームに集まった多様な主体と 連携・協働し、相互の智恵やネットワークを活かすというプロセスを踏むことで、

より課題解決や地域の魅力アップに有効なソリューションを生み出せたり、従来の 枠にとらわれないダイナミックな政策形成(地域イノベーション)につながるとい う期待がある。

 現在、各部局や4つの広域振興局でこのプラットフォームづくりが進められてお

り、 映像による地域の活性化、府庁旧本館の利活用・整備のあり方、社会的ひきこ

もりの支援、地域文化の振興、乙訓地域を対象とした地域観光の振興、府民協働で 進める美しいみちづくり、かわづくり、地域から取り組む地球温暖化対策、地域に おけるワーク・ライフ・バランス推進モデルの展開、府民が自ら応援や関わりを求 めてきたくなる農業生産、放置竹林対策、地域公共人材の育成、女性の目線のネッ トワークとまちおこし、地域力再生活動の共同PRなど35のプラットフォームがつ くられ、意見交換や施策立案作業に取り組んでいる。

 プラットフォームの中で議論され、合意形成がされた施策実施を支援するため、

09年度から交付金の中に3千万円の地域力パートナーシップ推進枠を設け、プラッ トフォームの運営に係る経費を10/10、20万円以内、協働して実施する事業を 2/3の補助率で支援することとしている。09年度の第1次募集では、9件の申し 込みがあり、そのうち3件は全く新しいもので、民間団体の方から行政と協働して やっていきたいという提案があったものである。

 京都市の北部、北山通りを中心に環境などのコンセプトを持ったまちづくりを多 様な主体が参加し、議論をしながら進めていこうという賀茂葵コミュニティの提案、

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京都市内と中丹地域という都市と農村を結び、子どもの林業体験などによる森林整 備活動の新しいモデルの確立をめざすギブ・アンド・テイクの森林整備活動を考え る研究会、子どもたちの理科離れを防ぐため、京都の地域特性であるお寺に使われ ている当時の最先端の科学技術を学ぶ機会を提供しようというお寺の科学企画委員 会の提案がその3件であり、いずれも交付金の支援が決定し、関係する市町村や京 都府の職員、 大学の研究者らもプラットフォームのメンバーに入り、施策の立案を めざし話し合いを進めている。

 運営自体も行政だけに限らず、民間団体が主導しているものもあり、今後は後者 のプラットフォームが増えていくことが予想される。

5.2 プラットフォームでの議論を通じて実施された協働事業の事例

 プラットフォームはまだスタートをきったところで発展途上であるが、ここでは 既に実施されている2つの事例を紹介したい。

 一つは、08年9月に立ち上げられた「府庁旧本館利活用応援ネット」(京都府庁 の中にある明治時代の建築である旧本館の利活用を考えるプラットフォーム)が翌 年の6月に行った「こだわりマルシェ」である。様々な分野の人が参加し、当然い ろいろな意見が出て、会議は時として紛糾したが、京都府内でこだわりの農作物や 手づくり加工品をつくる生産者が休日の府庁に集まり、マルシェ(市場)を開催し たわけである。行政職員だけでは、府庁の中でものを売るというアイデアは出てこ なかったであろうし、出てもどこかの段階で却下されることになったであろう。参 加したメンバーの熱い志が行政のルールを突き破り、実現にこぎつけた。当日実行 委員会のスタッフとして参加した民間団体の方々や行政職員のやりとげたという満 足と自信にみちた顔が印象的であった。休日の行政施設は実は、大いなる遊休の空 間である。行政職員が事務を行うだけが役所の価値ではない、全く新しい利用価値 があることを実証(価値創造)してくれた事例である。

 もう一つの事例は、「京都コラボ倶楽部カフェ」の活動である。NPO団体、旅行社、

マスコミ関係者、京都府職員が参加しているこのプラットフォームは、10~12月、

京都府が地域力再生活動を協働でPRしようと設けている「地域力再生コラボ博覧 会」に合わせ、以下の3つの取組を行う予定をしている。

①活動団体が特産品の販売や飲食コーナー、体験ブースなどを通じて、日常行っ ている取組の紹介を行う地域力文化祭の開催

②地域力再生活動を知る全18本の日帰りツアーの実施

③インターネット上と京都市内のアンテナショップで活動団体の紹介

 「地域力再生コラボ博覧会」は別途京都府として予算があり、10~12月の団体の 活動を冊子や府のホームページ上で紹介したり、提案コンクールなどの事業を08年 度から行っているが、これと連動する形で京都コラボ倶楽部カフェが事業を実施す ることで、共同PRの相乗効果を生み出そうというものである。

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187 5.3 今後に向けたプラットフォームの課題

 プラットフォームの運営はまだまだ緒についたばかりの試行錯誤の試みである が、次第に以下のような課題も明らかになってきている。

①話し合いによる合意形成をどのように実現していくか。

 私たちは比較的価値観が似通っていた時代の多数決に慣れているが、今日、

地域づくりにかかわる人は多種多様で、バックグラウンドや考え方も異なって いる。互いにウィンウィンの関係をつくり出し、それぞれが納得のいく形の合 意を生み出すためには、ファシリテートなどの新しい話し合いのスキルや参加 しているメンバーの意識改革が要求される。

②民間と行政との意思決定のタイムラグ

 プラットフォームではうまくいけば、参加したメンバーにより協働して実施 する事業が会議の席上で決定されることになる。往々にして、行政の場合は、

持ち帰り、時間をかけて相談し、長ければ次年度予算がつき、人員が増員され ないと明言はできないという意思決定の方法をとる。協働という場合、民間と 行政との意思決定のタイムラグが今後ますます問題となってくる。

③メンバーの役割分担や責任は誰がとるのか

 合意形成がなされた後、その事業実施にあたり、メンバー間や民間と行政と の役割分担や責任をどうするのか。あまり厳格なルールは逆にプラットフォー ムの活力を奪うことにもなりかねないが、一定のルールづくりは必要になって くるであろう。今後事例を重ねつつ、協働のルール化を明確にしていく必要が 出てくる。

④プラットフォームを運営する人の多忙さ

 前述したように、プラットフォームには民間が主導しているものもあれば、

行政が主導しているものもある。プラットフォームの運営は本来どちらであ るべき かという議論はあまり意味をなさない。どちらもあり得るものであり、

より多くの人、より多様な人が公共空間にコミットメントする環境をつくるこ とが重要である。

 こうしたプラットフォーム運営の担当者は多忙である。従来の業務にさらに プラスアルファの仕事が加わるわけで、新しい協働の仕組みとして何らかのサ ポートが今後必要となるであろう。既に09年度からプラットフォームを運営す る行政職員を府民力推進員に任命し、情報交換や勉強会を開催しているが、改 善を図る余地はまだまだある。特にプラットフォームを運営する民間の人員に は、財政的な支援も検討の余地が出てくるであろう。

6.これからの地域づくりは誰が担うのか

 さて、成果志向や顧客志向、市場原理・競争原理の導入といった考え方により行 政経営のあり方を変えていこうというニューパブリックマネジメントの考えは、一 定成果をもたらした反面、住民を一方的な公共サービスの享受者としてとらえ、行

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政はただひたすら住民の要望に応え公共サービスを提供するという世界が広がって いる。地域力再生プロジェクトの取組を通じて、改めて強く思うことは、そこでは 依然官と民は分離され、地域づくりの重要な担い手、住民自治の重要な担い手とし ての住民の姿が欠落している。

 「官でできることは官で」、「民でできることは民で」又は「無駄な二重行政を避 けるため市町村、都道府県、国の役割分担が必要」という考え方は、一見合理的な ようにみえるが、大きな落とし穴が隠されている。人口減少社会の中で、重なり合 う部分を効率重視という視点だけで切り取った地域社会は、必ず多様性を失いシュ リンクしていく。あえて、広域行政組織である京都府が、地縁組織も含めた地域の 様々な団体と直接の関係性を持ち、自治会やNPO、大学、企業、市町村、京都府 がそれぞれ自立しながらも、地域力再生という公共空間をシームレスに行き来し、

課題やそれぞれが得意とする分野に応じて水平的に連携・協働し、最適解や地域の イノベーションを生み出していく社会を京都府につくっていきたいと我々は考えて いる。

 そこでは、行政が力を入れるべき施策は、自治会やNPOなどの民間の主体が新 しいガバナンスの主体となるように支援(エンパワーメント)していくことであり、

行政への府民参画を求めるだけでなく、行政自身が地域や府民の活動に参画してい くことで、より現場や住民ニーズに合った施策を実現していくともに、地域づくり を支える多様な主体と、組織のルールに縛られず、課題の内容や地域の実情に応じ て柔軟に連携や協働をつくり出す公共の場を新しいインフラとして提供していくと いう、新しい行動様式が行政職員に求められていくことになる。

 そこにはもはや10年の総合計画のように、役人が書いた予定調和のシナリオでは ない別の世界が広がることになる。公共空間においてそれぞれが情報を共有し、既 存の組み合わせとは違う組み合わにより、年度当初、予算として組まれていた事業 とは異なる新しい事業が次々に生まれ、実施されていく、従来型の垂直型のガバナ ンスに慣れた人たちにとっては、一見混沌が広がっているような錯覚をもたらす世 界であり、行政の行動様式だけでなく、民間の思考パターンや行動様式にも変化が 求められていくことになるのである。

7.みえてきた新しい公共の世界

 ここで、改めて地域力再生プロジェクトが当初めざした目的とは何であったのか を考えてみたい。

 一つ目の目的は、住民自身が地域の課題解決や魅力アップに取り組む活動を活発 化させ、いろいろな団体どうし、そして団体と行政との連携・協働を生み出すこと で、市民社会のエンパワーメントにつなげるということがあった。

 もう一つの目的は、行政職員の行動様式を、より現場のニーズからスタートさせ、

必要があれば柔軟に他の主体と連携し、新しい施策を創り出し、実行していくとい うパートナーシップ型に変えることがあった。

(14)

189  二つの目的を追求することで、新しい公共を地域で形成していくという、地域力

再生プロジェクトの三つ目の施策の柱である、枠組みを変えるという働きかけが今 後はいよいよ重要になってくる。

 一概に新しい公共といっても、その定義は人により様々である。地域力再生とい う実践を通してみえてきた新しい公共の世界は、民家を活用した高齢者の居場所づ くりなど互助・共助により公共サービスを提供する活動であり、環境保全や地域文 化の復興など地域の魅力や価値を高める活動であったり、都市農村交流のように将 来の社会的ビジネス、地域の雇用につながる活動など、住民自治の世界が一つある。

 そして、テーマ別のプラットフォームのように、民間団体と行政とがテーマごと に課題を共有し、その解決策を一から考え実施していく、協働の世界がある。

 あと2つは、セーフティネットの構築や規制、法令の制定など、行政が公として、

市民活動が安心して行える枠組を形成し、守る世界があり、体育館の運営のように、

民間と行政とが競争し、より効率のよい方が担っていく世界がある。

 地域力再生プロジェクトという事業を通して取り組んでいるのは、前者の2つ、

住民自治と協働の世界を通じた新しい公共の形成である。協働は協働が先にあるの ではなく、地域で共有できる課題があり、それを解決していくことでよりよい地域 をつくっていくために必要不可欠な手段である。民に全てを任せるだけでは、地域 の再生は実現しない。地域づくりのプロである行政も、自ら活動する住民の動きと 共鳴し、責任あるコミットメントの立ち位置をその事例ごとに模索していかなけれ ばならない。住民自身も、行政に要望して終わりではなく、本来の権利であった住 民自治を、実践と教育を通じて学びなおしていかなければいけない。

 とはいうものの、協働には手間がかかり、ここから誤解や亀裂も生じる。住民自 身による公共サービスといっても、みえているものは、地域的にも分野的にもまだ ら模様である。全部の地域、全部の分野で住民による公共サービスが行政による行 政サービスに置きかわっていく世界は想像し難い。京都府でみえはじめた公共の空 間はまだまだ脆弱であるが、やってみてみえてきた不安とやらずにおびえる不安と は全く違うものである。今後も地域力再生という実践と理論への反映という作業を 不断に繰り返すことで、少しでも新しい公共の形が明確になっていくものと信じて、

地域力再生プロジェクトに更に取り組んでいきたい。

参照

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