大学初期教育におけるSNSの導入
著者 多田 実
雑誌名 同志社政策研究
号 1
ページ 117‑123
発行年 2007‑03‑15
権利 同志社大学政策学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000011092
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大学初期教育における SNS の導入
多田 実
概要
同志社大学政策学部では、入学直後の1年次春学期からグループワークを基本 とする少人数教育が実施され、授業アンケートからも一定の成果が確認できてい る。しかし、良い結果を出すため授業時間外のミーティングを何回も行ったり、パソ コンでのインターネット活用が十分にできていなかったりなどの問題点があることも 否めない。そこで、FYEに代表される少人数クラスでの利用を念頭に置いたSNS の導入を提案し、どのような活用法や効果が期待できるかについて考察する。
1.はじめに
同志社大学政策学部では、入学直後の1年次春学期からグループワークを基 本とする少人数教育を実施している。クラス定員は20名程度であり、各担当者が 設定する様々なテーマに対して、グループごとに問題を発見〜解決していくアプ ローチの仕方やそのプロセスを体験させることが目的であるが、大学生活がスタ ートした早い時期から学生どうしのコミュニケーションを円滑にする場としても上 手く機能しているように思われる。
具体的にいうと、図書館、食堂などを調査する「学内資源の探索」、大学周辺 にあるお店や施設などを調べる「学外資源探索」は、2年次秋学期から始まる演 習での「フィールドワーク」へスムーズに展開する効果も期待できる。さらには、政 策科学の入門的なテーマに対して、グループで肯定派/否定派に分かれて対戦 する「ディベート」は、授業のまとめのディスカッションや授業アンケート結果などか ら、受講生の満足度がかなり高いことが確認できている。
しかし、このようなグループワークにおいて彼らが良い結果を出すためには、
授業時間外のミーティングを頻繁に行う必要があるが、各人の授業選択の違い、
サークル活動、アルバイト等々のため、メンバー全員が揃う時間を確保することは 容易ではないようである。また、グループワークの成果をレジュメなどにまとめる とき、Web上のデータを検索して収集したり、表計算ソフトやワープロで加工して まとめるといった情報リテラシー能力が要求されるが、IT活用の基礎がまだ十分 ではない学生も多数存在するという問題も見受けられる。
そこで、これらの問題点を解決するため、FYEに代表される少人数初期教育ク ラスでの利用を念頭に置いたSNSの導入を提案し、どのような活用法や効果が 期待できるかについて考察する。
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2. SNSの現状
2.1.インターネットの現状
ここ数年でインターネットの利用者が急速に拡大した理由を説明するとき様々 な要因が考えられるが、その1つに「Web2.0」というキーワードがある。従来の Webを中心とする状態を「Web1.0」とし、現在の新たなWebの方向性という意味 でこう呼ばれるようになったのだが、現在は明確な定義でこの用語が使われて いるというよりも、ネット上での新しい在り方や取り組みを総称して使われること が多い。この用語が最初に注目されたのは、Tim O’Reillyによってまとめられた What Is Web 2.0 という文献(そのサブタイトルは Design Patterns and Business Models for the Next Generation of Software )が発表された2005年からである。
この文献で解説されているいくつかの事例には「ユーザー」という共通のキー ワードが深く関わっているものが多い。ユーザーどうしで画像を共有するサービス の「Flickr」、ソーシャルブックマークの「del.icio.us 」などはその代表例であり、
「Amazon」などのような通販サイトで商品を購入した人たちのレビュー(口コミ情 報)、個人レベルの広告によってニッチな商品が注目され新たなビジネスモデルと して注目されている「Google Adsense」、一般のユーザーがWeb上で互いに協力 して辞典を作る「Wikipedeia」、ネットワークを通じてファイルを相互に交換、共有 する「Winny」なども典型的な「Web2.0」の事例として挙げられている。
また、「Web2.0」を説明するとき「RSS」というキーワードもしばしば登場する。
「RSS」は Rich Site Summary/Really Simple Syndication の略で、「RSSリーダ ー」と呼ばれるソフトやその情報を取得するためのスクリプトをWebページ上に記 述すると、自動的にブログやニュースサイトなどの更新状況をリーダーやWebペー ジ上に表示することができる。したがって、この技術は情報を閲覧するユーザー のみならず、情報を提供する管理者にとっても不可欠なものとなっている。
2.2.ブログとSNS
「Web2.0」と称されるサービスの大半において共通する「ユーザー」というキー
ワードは、企業や専門家などによって一方的に与えられる情報が中心だった
「Web1.0」から、現在は大きく変化した状況であることを示唆しているが、コンテン
ツそのものをユーザーが制作する「ユーザー参加型」として最も代表的な事例は やはり「ブログ」と「SNS」であろう。
「ブログ」とは Web Log の略で、誰もが簡単にインターネット上へ情報発信 できるように工夫されたシステムである。CMS(Contents Management System) と呼ばれるソフトウェアが、タイピングとクリックぐらいしかできない初心者でさ えもネット上に自分の「日記」を簡単に、しかも見栄えよく作れるような環境を実 現した。また、「トラックバック」と呼ばれる機能により、自分の記したブログを 他のブログへ「関連情報サイト」として簡単にリンク表示することも可能にした。
この機能により、たとえ専門家ではない一個人がアップロードした「草の根情報」
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でも、「孤立した情報」から他の様々なサイトがリンクする、ネットワークらしい「連携 した情報」になりうるのである。
しかしながら、誰もが簡単に開設できる「ブログ」であるが、記事内容やコメン トなどにおいてネチケットを無視するようなものも少なくない。最悪の場合、心無 いコメント攻撃のせいで閉鎖に追い込まれることもある。これはインターネットの匿 名性がその過激さを増長させていると考えられる。
「ブログ」と同様、「日記」を公開したり、それに対してコメントの書き込みができ る「SNS」は Social Networking Site/Service の略で、招待制を原則とする会員 制コミュニティーサービスのことである。この招待制という仕掛けにより、インター ネットの匿名性がある程度排除されるので、とりわけネット初心者のユーザーに安 心感を与えていると考えられる。加えて、承認が必要なコミュニティを設定するこ とも簡単にでき、仲間どうしの帰属意識を高めた非公開エリアにするという楽し み方もある。
日本の「SNS」として圧倒的な会員数を誇る「mixi(ミクシィ)」は2006年9月14日東 証マザーズに上場したが、「mixi」にログオンすることが生活の中心となってしまう
「ミクシィ中毒」と呼ばれる若者も生み出した。自分の書いた日記などを誰が見に 来てくれたか知ることができる「足あと」が常に気になったり、相手にコメントした ときはその返事が気になったりするらしい。
以上、「ブログ」と「SNS」の特徴と問題点を概説したが、総務省の調べによると、
2006年3月現在の国内「SNS」参加者は延べ716万人に対して、「ブログ」は868万 人と少し上回っているが、YahooがSNSのサービス「Yahoo!Days」の運用を開始 したこともあり、今後はかなりその差は縮まっていくようにも思える。いずれにして も、インターネットの利用者が増え続けることは間違いのない事実のようである。
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3.学部オリジナルSNSの導入 3.1.「プロフィール・日記」機能
1年次の春学期に開講される少人数クラス(現行カリキュラムでは「FYE」)では、
グループワークを通じて問題発見〜解決プロセスの基礎トレーニングが行われる が、まずは学生どうし、さらには担当教員との円滑なコミュニケーションが重要で あることはいうまでもない。もちろん、授業時間内で完結できればいいのだが、実 際は時間外に学生の面談を実施する教員も少なくない。
そこで、SNSに用意される「プロフィール」機能を用いて、自己紹介や自己PRを
入力し公開すれば、授業での時間不足がかなり解消できることになる。同時に、
パソコンやインターネットのリテラシー能力(スキル)の確認もできる。このとき必要 なスキルは、タイピングやマウス操作といった基礎的な事柄のみであるが、今後 ますます身近になってくると思われるネットワークについて、そのリテラシーやネ チケットを十分理解している学生は意外と少なく、早い時期からこのSNSを通じ てトレーニングしておくことは重要であろう。
なお、個人情報やプライバシー保護の観点から、このSNSは学部内イントラネッ ト(一般の人々や他学部生には非公開)で運用することを想定している。さらに、
出身地、誕生日、携帯電話番号、メールアドレスなどは、部分的に公開/非公開 ができるようにすることが望ましい。たとえば、同じクラスの学生と担当教員には 公開するが、その他の学部生には非公開とするといった操作が簡単にできるよう に設計することが望まれる。
次に「日記」機能の活用法を考えてみる。たとえば授業時間内に受講生全員に 1分間スピーチをしてもらうとき、クラス定員から少なくとも約20分の時間が必要と なるが、時間が足りないとき、あるいは授業終了後に発言したいことがあるときな
どは、SNSの「日記」機能が有用である。
この使い方をうまく活用できれば、自分の考えを文字として記す訓練にもなる。
そのためには、携帯メールのような文章ではなく、大学でのレポートやペーパー 作成の基礎トレーニングとなるような仕掛けや指導が必要になるだろう。たとえば、
授業内容の要約を100字程度で「日記」に入力するといった宿題を課し、担当教 員がコメントしたり添削するといった(現行カリキュラムでは「AM」のような)活用 法も可能である。
3.2. 「コミュニティ」機能
前節では、あくまで教育的な観点から「日記」の活用法を中心に紹介したが、学 生がもつ「ITツール=携帯電話」という意識から「ITツール=PC・インターネット」に 置き換えるには、あまり堅苦しいことばかりでSNSを利用することは得策ではな いと考えられる。このとき、役に立つのが「コミュニティ」機能を用いての棲み分 けである。要するに、前述のような「教育的」なエリアのみならず「趣味的なエリ ア」をも用意することによって、携帯電話ではなく、パソコンを用いてネットにアク
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セスするSNSも楽しいというイメージを抱かせようするのである。
このとき、学生が立ち上げた「コミュニティ」の管理は学生自らが設定できるも のとし、参加者の承認なども自由にできるようにしておく。この機能により「趣味 的」なコミュニティがSNS内に多数生まれ、クラスの枠を超えた学部生どうしの活 発なコミュニケーションが生まれることが期待される。
また、教員が立ち上げなくても「教育的な」コミュニティを学生が作ることも考え られる。グループワークにおける「オンライン・ミーティング」はその典型的な例であ り、グループのメンバー以外の参加を禁止する設定を行えば、非公開ミーティング
(現行カリキュラムでは「CMJ」におけるディベートの対戦前の打ち合わせなど)が インターネットに接続できる環境さえあれば簡単に実現できる。
さらには、教員が「担当科目コミュニティ」を作れば、受講生は授業時間外にネ ット上で気軽に質問ができる。SNSではメールでの質問とは違い、コミュニティ参 加者全員がその授業関連情報を共有することになり、教員は同じような質問に対 応する必要もなくなる。
その他、クラスやゼミなどの枠を超えた共同研究やコラボレーション的なプロジ ェクト、学部が主催するイベント、就職活動等々、学部初期教育以外での利用に おいても多種多様なコミュニティが考えられ、学生の知的好奇心の向上、学部へ の帰属意識や学習意欲を高める効果などが期待できる。
3.3.「ファイルアップロード」機能
授業でのネットワーク活用を考えたとき、不可欠な機能としてはずせないのは、
やはり「ファイルアップロード」機能であろう。大半の授業では、テキストや参考書 の他に参考資料となるプリント教材を配布するが、授業担当者は自らが管理運営 する「授業コミュニティ」内にプリントのファイル(通常はワープロ文書)をアップロ ードしておく。受講生は、授業開始前にこのファイルをダウンロードすることによっ て、無駄な印刷をすることもなくなり、また受講生が授業前に事前に目を通してお くことも可能となる。
もちろん、カラー印刷しないと正確なイメージが伝わらないような写真のような 資料をアップロードすることも有用であろう。画像に加えて、動画も扱うことが可 能になれば、たとえばディベート(現行カリキュラムでは「CMJ」で実施)の様子をビ デオ撮影しておき、「お手本」や「成果」として学部生に公開することも可能となる。
このような使い方が実現できれば、既存の「eラーニングシステム」とは明確な差別 化が実現することになる。すなわち、大学全学部の全授業で利用可能な「eラー ニングシステム」の場合、ファイル容量制限のため、どうしてもこの種のマルチメデ ィア系ファイルは容量が大きすぎて扱えないからである。
一般に、SNSでは「日記」や「コミュニティ」の記事にデジタルカメラや携帯電話
で撮影した写真をアップロードすることができ、参加者はそれを文章とともに見る ことができる。これを教育的な活用法として考えたとき、学外でのフィールド調査
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(現行カリキュラムでは「FRP」)などでも使える。たとえば、ゼミの研究でフィール ドに学生が同時に出かけるとき、ゼミ担当教員は、通常、その現場には同行しな
いが、SNSにアップされた写真や入力された報告文から、大学研究室のパソコン
からリアルタイムでアドバイスや指示を出すことが可能となる。ただし、公衆無線 LANが完備されていない現状では、学生のインターネットへのアクセスは携帯電 話を利用せざるを得ない。
3.4.マイページ的な機能
これまで紹介してきた機能は「教育的」にも「趣味的」にも活用することができる が、これらに加えて「マイページ」的な機能を充実させることによって、このSNSが より活性化され、学生にとっての「ポータルサイト」的な存在になることも期待され る。具体的には、下記のようないくつかの機能が考えられる。
「スケジュール」機能
自分のスケジュールやメモがカレンダー表示された日付に書き込めるようにす る。レポートの締め切り日、グループワークのミーティング日などを電子手帳のよう に確認することができる。
「お知らせ」機能
授業担当者、学部事務室などからの「お知らせ」が新着順に数件自動表示され るようになれば、学生はレポート課題に関するお知らせや休講に関する情報など を小まめにチェックするようになるだろう。
「時間割」機能
登録した授業の時間割から、大学サーバーで公開されているシラバスや成績評 価結果、出題意図・講評などのページへリンク設定ができる。これらは学部サイト でも紹介されているが、SNSでは登録している科目に関する情報が簡単に選択・
表示できることが望ましい。
「教えて掲示板」機能
授業関連に限らず、サークル、バイト、趣味等々、ジャンル別に質問ができ、
SNS参加者が自由に回答する。「教えて!goo」のようにランキングが表示されると、
回答してくれる「常連さん」の出現が期待できる。
その他、わが国におけるSNSのデファクトスタンダードといえるmixiに搭載され ている「足あと機能」「メッセージ機能」なども、学生がこのSNSを楽しく使うため には必要なのかもしれない。
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4.おわりに
初等中等教育における情報教育の推進が叫ばれて久しいが、入学して間もな い新入生は、携帯電話は使いこなせていても、PC・インターネットを活用できない ことが予想以上に多いように思われる。そこで、まずは「習うより慣れろ」の環境 を学部初期教育において作る必要があるが、単に「レポートはワープロで」とか
「表計算ソフトでグラフ作成」などの「仕掛け」では不十分で、ITを活用することが
「本当に便利だ」とか「とても楽しいもの」と学生が感じる「仕掛け」が必要である。
本稿で提案したSNSの導入は、その期待に応えるものと考えている。
IT活用の取組みは、もちろん全学的にも行われているが、やはり規模が大きす ぎて簡単便利と言い難い部分がある。たとえばメーリングリストを開設したいとき、
所定の申請書を提出しそれが受理されるまで待たなければならない。しかし、少 人数クラスやゼミなどのグループやチームごとにメーリングリストが気軽に作成で きれば、なお一層の学部教育の活性化も期待できるであろう。
将来的には、学部広報の一媒体として「受験生のためのSNS」や学部SNSの
「部分的/期間限定公開」をして生の政策学部を世にアピールすることも考えられ る。また、教職員用のコンテンツとして「会議資料アーカイブ」機能などがあれば、
ペーパーレス会議が一気に実現するとは考えにくいが、教職員も学部SNSを日常 業務に不可欠なものとして使うようになることが期待できる。
参考サイト
Tim O’Reilly, What Is Web 2.0
- Design Patterns and Business Models for the Next Generation of Software - http://www.oreillynet.com/pub/a/oreilly/tim/news/2005/09/30/what-is-web-20.html 総務省 情報通信政策局情報通信政策課
http://www.johotsusintokei.soumu.go.jp/
総務省(報道資料)ビジネスブログ・ビジネスSNSの活用事例(PDF) http://www.soumu.go.jp/s-news/2005/051222_13.html
SNSポータルサイト「SNSナビ」|37大学 http://www.snsnavi.jp/list/05/37/