続・NHK「やらせ爆弾漁法」損害賠償裁判 : 権力に 対する「調査報道の自由」の視点から
著者 浅野 健一
雑誌名 評論・社会科学
号 69
ページ 33‑153
発行年 2003‑01‑25
権利 同志社大学人文学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000004273
はじめに
一和解を拒否
1二月四日に判決
2﹁やらせ﹂認めた坂本元支局長
3重箱の隅をつつく喜田村弁護士
二現地取材で私が証言
1喜田村弁護士の思い込み
2取材録音テープを出せというNHK
三﹁やらせ﹂撮影を認めた坂本元支局長
1金銭授受を知ったのは提訴の一〇ヶ月後
2佐藤氏の言論弾圧
3部下に責任押しつけ
四坂本元支局長が証言
五裁判官が和解を提案
1七月九日に最終弁論決まる
2提訴自体の誤りを自己証明 3多かった傍聴者
六坂本氏証言へのフランス氏の反論
七佐藤俊行国際部長が突然︑陳述書を提出
八D氏に﹁今も爆弾漁をしている﹂と証言させる
1NHK︑結審直前に大量の﹁証拠﹂提出
2D氏への﹁やらせ﹂インタビュー
九フランス氏と私を中傷したNHK最終書面
1フランス氏と筆者の人格を中傷
2決め手のビデオを根拠なしに非難
3フランス氏を非難
4ビデオを改竄と言い掛かり
5ムクシン氏を﹁信仰深く公正﹂と信頼
6徹底したフランス氏攻撃
7﹁週刊新潮﹂記事を捏造と非難
8言語に理解ない喜田村弁護士
9喜田村氏苦しい弁解
︹研究ノート︺
続・NHK﹁やらせ爆弾漁法﹂損害賠償裁判
権力に対する﹁調査報道の自由﹂の視点から
浅 野 健 一
― 33 ―
10
﹁自分の思いたい内容﹂にすがるNHK代理人
11
最後までフランス氏を非難︑中傷
一〇講談社の最終準備書面
1NHKの提訴自体を無責任と規定
2﹁やらせ﹂を完璧に証明
3NHKは権力と見て︑坂本氏の証言を批判
4主要な伝達事実を証明
5坂本氏は現場の最高責任者
6自然な爆弾漁法ではない
7現金はNHKから出ている
8信用できるフランス氏の供述
9NHKは権力機構の一部
一一フランス氏がNHK最終書面に反論
一二NHKが被告となった名誉毀損裁判における論理
1玄米酵素に重大被害
2和解を無視したNHK
3﹁社内弁護士﹂の任務とは
4報道の根本的改革を
一三喜田村弁護士は新潮社代理人だった
一四NHKが解雇問題で和解金を支払う
おわりに はじめに
本誌第六
八 号 で
︑︽
﹁ やらせ爆弾漁法
﹂ と報道倫理
NHK対
﹁ 現 代
﹂ 損 害 賠 償裁判から
︾ と題して
︑ 日本放送協
会︵NHK︶
が講談社発行の月刊﹁現代﹂二〇〇〇年一〇月号で報じられた坂
つとむ本
元NHKジャカルタ支局長による﹁やらせ爆弾漁法﹂をめ
ぐる記事を名誉毀損だとして起こした民事裁判について論じた︒
︵1︶私はこの記事の特別取材班の一員である︒
﹁現代﹂の記事は︑坂本氏らのNHK取材班が一九
九七年八月
二四日正午前︑インドネシア・バランロンポ島で︑取材班のコー
ディネーター・ガイドを務めた国立ハサヌディン大学海洋水産学
部職員のムクシン氏を通じて同島の爆弾漁常習者である漁民D氏
︵裁判では実名が出ているが︑本稿では筆者の判断で仮名にする︶
に現金を渡して︑爆弾を三回投げさせて爆弾漁シーンを至近距離
で撮影し﹁ニュース
11﹂などで放映した事実を明らかにした︒政
府が一〇〇%出資し︑税金と受信料で運営されている特殊法人N
HKとNHK
ジャカルタ支局長は明らかに
公的団体
・ 公人であ
り︑﹁現代﹂は精緻な調査報道によって︑NHKによ
る重大な刑
法違反教唆と報道倫理違反の疑いがあることを社会的に明らかに
して︑NHK管理者︵経営陣︶に真相究明と再発防止策の策定を
求めたのであった︒
これに対し︑NHKと坂本氏は﹁現代﹂同号が発行される前日
の二〇〇〇年九月四日︑発行元の講談社︵野間佐和子社長︶と中 続・NHK﹁やらせ爆弾漁法﹂損害賠償裁判権力に対する﹁調査報道の自由﹂の視点から
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村勝行﹁現代﹂編集長に対し︑名誉毀損で一億二〇〇〇万円と謝
罪広告を求めて東京地裁民事第四五部︵裁判長・春日通良氏︑右
陪席裁判官・岸日出男氏︑左陪席裁判官・塚田扶美氏︶に損害賠
償請求訴訟を起こすという信じられない行動に出た︒読者がまだ
雑誌を読んでいない段階で︑名誉毀損が発生したというのは前代
未聞である︒NHKと代理人は﹁現代﹂同号をいつどこで入手し
たのだろうか︒ジャーナリズム機関として︑NHKは入手ルート
を明らかにすべきだ︒これは︑NHKのニュースの放送前に︑ニ
ュース原稿を何らかの手段で入手して︑放送予定のニュースは虚
偽で人権を侵害したとして︑裁判を起こすのと同じである︒
しかも︑NHKはその日の﹁ニュース7﹂全国ニュースで︑ム
クシン氏をVTR画面で登場させて﹁NHK特派員のやらせはな
かった﹂というコメントを放送し︑﹁現代﹂記事を虚偽と決め付
けた︒NHK経営陣は﹁現代﹂に提起され自らの疑惑にこたえる
ことを拒み︑公共の電波で流される報道番組を私物化して自己正
当化に使った︒
﹁現代﹂の取材を受けた後︑全くお粗末な﹁調査﹂
しか行わず
に︑記事全体を虚報と断じて︑メディア界における同業者である
講談社と﹁現代﹂の名誉と信用を傷つけたのである︒調査した主
体も不明でその﹁調査﹂結果はいまだに公表されていない︒
前回の﹁研究ノート﹂で︑日本を代表する報道機関であるNH
Kが原告となった初の名誉毀損裁判を通して︑テレビにかかわる
一部の人たちの市民の常識に反する実態を明らかにすることがで きたと思っている︒NHK会長以下の役員と報道局︑広報局が過去二年間︑本裁判の内外で行ってきたことは︑五年前の一支局長による﹁やらせ﹂撮影をはるかに上回る悪質な組織ぐるみの報道倫理違反である︒
NHKの訴権の濫用による二年半に及ぶ裁判の費用が税金から
出費されていることも強調しておきたい︒
本稿では︑﹁爆弾漁法やらせ﹂裁判のその後の展開を明らかに
して︑主に﹁調査報道の自由﹂の観点から論じる︒
一和解を拒否
1二月四日に判決
この裁判では︑二〇〇二年七月九日に最終の口頭弁論︵第一四
回︶が開かれた︒その後︑七月一九日に裁判所が六月七日に続い
て二度目の和解協議の場を設けたが︑講談社は﹁NHKが二〇〇
〇年九月四日に﹁ニュース7﹂で放送した内容を訂正放送しない
かぎり︑和解を拒否する﹂と表明︒裁判所はNHKに講談社の意
︵2︶
向を伝えた
が︑NHK
は訂正放
送を拒否し
た た め
︑ 和解は不成
立︒裁判所は判決日を決めることになり︑一一月一九日午後四時
半︑東京地裁六三
一号法廷で判決を言い渡すことを双方に伝え
た︒
講談社から一一月一四日にあった連絡によると︑NHKが月刊
﹁ 現 代
﹂ を訴えてい
た
﹁ やらせ爆弾漁法
﹂ 訴訟で
︑ 一一月一三
日︑東京地方裁判所より講談社法務部に連絡があり︑判決言い渡
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続・NHK﹁やらせ爆弾漁法﹂損害賠償裁判権力に対する﹁調査報道の自由﹂の視点から
しを二〇〇三年二月四日午後四時三〇分に変更すると通知があっ
た︒法廷は同じ東京地裁六三一号法廷︒理由は明らかにされてい
ない︒
判決を六日後に控えての突然の延期通告は信じがたい︒三人の
合議で行われている裁判だが︑意見がまとまらなかったのだろう
か︒
二月四日午後四時三〇分の傍聴をお願いしたい︒
ある大学で最近︑メディア論の講義で︑本件に関するビデオと
﹁現代﹂の記事などを学生に見せ︑﹁判決﹂をさせたところ︑九〇
%以上は︑講談社の無罪︑つまりNHKはヤラセという意見だっ
たそうだ︒同志社での学生調査とほぼ同じ結果だった︒
NHKが二〇〇〇年九月四日に提訴したとき﹁やらせをやって
おいて︑やらせをやった本人と会社が講談社を名誉毀損で訴える
とは︑NHKはほんまにすごい﹂と大阪の司法記者会で言われた
と聞いた︒それが普通の市民の感覚だろう︒この裁判は︑裁判所
がどこまで常識的な判断を下してくれるかにかかっている︒
私が﹁現代﹂記事で中心になって取材したとわかってからは︑
マスコミは冷たくなった︒共同通信はジャカルタ支局に︑﹁浅野
がからんでいるから報じるな﹂と指示している︒メディア各社が
判決をどう報じるかも見て行きたい︒
2﹁やらせ﹂認めた坂本・元支局長
NHKは雑誌の発売日前日に提訴︑その日の﹁ニュース7﹂で ﹁現代﹂記事を虚偽と決め付けた︒NHKが提訴を決
めたのは
︑
二〇〇〇年九月三日前後の理事会と思われる︒この理事会では有
働由美子アナウンサーとプロ野球﹁横浜ベイスターズ﹂有名選手
との﹁不倫﹂疑惑報道についても法的措置が検討されたが︑﹁現
代
﹂ だけを提訴することになったとい
う︒NHKが
原告となっ
て︑個人や団体を相手に名誉毀損で訴えたことはなかった︒その
後も全く例がない︒
坂本氏は二〇〇二年五月七日に開かれた東京地裁での証言で︑
ムクシン氏がNHK取材班の一員であったことを明確に認めたう
えで︑﹁ムクシン氏から︵爆弾を投げた︶D氏に金銭が渡ったこ
とを︑︵本裁判のための現地調査班の一員として︶二〇〇一年七
月に行くまで
知らなかった
﹂ という衝撃的な事実を明らかにし
た︒提訴の一〇カ月後に初めて︑漁民に金が渡っているのを知っ
て
︑ 驚いたと
いうのだ
︒ これによ
り︑NHK
は実に杜撰な
﹁ 調
査﹂をもとに講談社を提訴したことが明らかになった︒
また︑坂本氏は﹁漁民の了解を得たうえで撮影した﹂という説
明をした︒
ムクシン氏とD氏に﹁金銭授受﹂の有無について聞くこともな
く︑坂本氏の言い分だけを信じて﹁調査﹂を終え︑提訴に踏み切
ったのだから︑提訴自体が荒唐無稽である︒
後で詳しく引用するが︑NHKは七月九日の最終弁論で﹁やら
せ撮影﹂について︑﹁すべてはインドネシア人のやったことで︑
坂本氏は金銭授受を知らなかった﹂と強弁した︒坂本氏とムクシ 続・NHK﹁やらせ爆弾漁法﹂損害賠償裁判権力に対する﹁調査報道の自由﹂の視点から
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ン氏の言うことだけを信用し︑元雇員フランス氏や撮影現場にい
た臨時雇員のカメラ助手マディニ氏の証言はウソばかりと断言し
ている︒
フランス氏は︑インドネシア人ジャーナリストとして︑報道人
の良心に従い︑勇気を持って﹁やらせ﹂を告発した︒フランス氏
はNHKジャカルタ支局に記者として一〇年近く勤め︑﹁やらせ﹂
の現場でも助手を務めた︒
坂本氏もフランス氏について︑﹁一九八八年からNHKジャカ
ルタに勤務しており︑ベテラン・リサーチャーとして私の片腕に
なって取材にあたっていました︒︵略︶フランスが中心になって
取材の補助をしており︑フランスは︑事前リサーチや取材先との
交渉をほぼ全て行っていました﹂︵原告坂本氏の陳述書三頁︶と
繰り返し証言している︒佐藤俊行NHK
国際部長
︵﹁
やらせ
﹂ 事
件当時はクアラルンプール支局長︶も陳述書でフランス氏の仕事
を高く評価している︒
しかし︑NHK役員会と報道・広報局は︑一九九七年九月から
坂本氏による﹁やらせ﹂を内部告発してきたフランス氏から一度
も事情を聞かずに︑彼を非難している︒NHK
関係者は
︑﹁
やら
せ爆弾漁法﹂問題に関してだけ︑フランス氏は︑金目当てにウソ
をついていると糾弾するのだ︒
3重箱の隅をつつく喜田村弁護士
最終準備書面におけるNHK代理人︑喜田村洋一︵ミネルバ法 律事務所︶︑梅田康宏両弁護士の主張は︑重箱の隅をつつくよう
な指摘だけだった︒主にNHK職員の﹁イン・カンパニー・ロー
ヤー﹂である梅田弁護士が書き︑喜田村弁護士が仕上げたのだろ
う︒二人はコンピューターを使って﹁現代﹂記事︑フランス氏証
言︑浜野次長陳述書︑浅野陳述書などを項目別に比較対照した表
をつくっていた︒金と人員をふんだんに使って作業をしているの
だ︒
フランス氏がNHKに解雇されたことを恨み︑雇用問題を有利
に運ぶために︑私に﹁やらせ﹂問題を伝えたというデマを二人が
最後までやめなかったのは犯罪的である︒梅田氏は法律家や文化
人に対して︑﹁浅野に怒っている﹂などと私への中傷を続けてい
るが︑他人を非難する前に自分の仕事を省みるべきであろう︒
彼らはまた︑私のインドネシアでの取材が杜撰で︑実際に聞い
てもいないことを書く才能の持ち主であるなどと私の人格全体を
中傷した︒ジャーナリスト︑教育研究に携わる私への最大限の活
字による誹謗中傷という名の暴力であった︒
民事裁判では珍しくないのかもしれないが︑悪意に満ちた形容
詞を乱発して︑私の表現活動を誹謗・中傷し︑人格攻撃までした
両弁護士の倫理的責任を厳しく問いたい︒ムクシン氏に対し︑彼
からD氏への現金提供の事実の有無も確認しなかったNHK幹部
の言い分を鵜呑みにして︑﹁現代﹂の記述が虚偽だという訴状や
準 備 書面を書き続け
︑ 法廷でも証言に立った私に
﹁ 混乱してい
る﹂などと非難したことは許しがたい︒依頼者のためには何でも
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続・NHK﹁やらせ爆弾漁法﹂損害賠償裁判権力に対する﹁調査報道の自由﹂の視点から
ありというのでいいのだろうか︒
NHKが問題にした﹁現代﹂記事は︑渡瀬昌彦氏︵現在は学芸
局図書出版部担当部長︶が﹁現代﹂編集長だった一九九九年秋か
ら取材の準備を始め︑その後︑次長の浜野純夫氏︵現在は﹁週刊
現代﹂次長︶を中心とする取材班と私のインドネシア現地取材を
総合して制作され︑渡瀬氏の後任である中村編集長の最終チェッ
クを受けて印刷︑販売された︒しかも本裁判の被告は講談社と中
村編集長なのだ
が︑NHKは﹁現代﹂編集
部の証言を要求もせ
ず︑フランス氏と私に全責任があるという姿勢を貫いた︒最終書
面では﹁筆者は浅野﹂とまで断言している︒雑誌の編集・発行責
任者の法廷証言がなく︑﹁訴外﹂の私とフランス氏だけを非難し
たのである︒
しかし︑講談社側はNHKが提訴した時点で公表したように︑
本件記事が精緻な取材に基づく調査報道による問題提起であり︑
坂本氏が全権を握るNHK取材班が﹁やらせ﹂撮影したことを一
〇〇パーセント証明できたと思う︒記事には出てこなかった五〇
万ルピアを使った﹁やらせ未遂﹂の事実も︑法廷においてNHK
側証人である
ムクシン氏の暴露によって
︑ 新たに明らかになっ
た︒
4NHKは報道被害者か
本裁判では︑島桂次元会長体制の崩壊後︑海老沢勝二会長と会
長の﹁イエスマン﹂︵政治部︑社会部が中心︶で要
職を固める
N
HKという巨大メディアが重い病気にかかっていることが浮き彫
︵3︶りになったと思う︒貴重なサンゴ礁を破壊する刑法違反の﹁やら
せ﹂をやっておきながら︑調査報道としてそれを報じた雑誌に一
億を超える損害賠償を要求し︑名誉・プライバシー訴訟では日本
で第一人者といわれる弁護士と職員弁護士を擁し︑多数の職員と
巨額の資金をつぎ込んで裁判をすすめるという非常識なことをや
ってのけたのである︒
NHK幹部と法務担当者は本裁判について聞かれると︑﹁われ
われは
︑ 松本サリ
ン事件の河野義行さんと同じ報道被害者だ
﹂
﹁われわれは河野氏にきちんと謝罪した﹂などと強調していると
いう︒全く空いた口がふさがらない︒
NHKが毎日︑取材報道している事件・事故報道やドキュメン
タリーなどで︑名誉・プライバシーの権利を侵害されている人々
は相当数に上るはずである︒一九九八年二月四国で初めて脳死移
植のドナーとなった女性は脳死判定の出る三日前からNHKによ
って報道され︑家族は今もNHKを憎んでいる︵本誌六〇号の拙
稿︑拙著﹃脳死移植報道の迷走﹄創出版を参照︶︒彼や
彼女たち
は︑悔しくても裁判に訴えることはできないのである︒裁判には
金と時間がかかる︒マスコミ企業は﹁文句があれば裁判に訴えれ
ばいい﹂とよく言う︒しかし︑弁護士への報酬も着手金だけで五
〇万円前後かかる︒印紙代も必要だ︒メディア相手の裁判は︑憲
法解釈が問題になるので最高裁までいくことが多い︒勝訴しても
確定までに二︑三年はかかる︒政治家や有名人ならともかく︑一 続・NHK﹁やらせ爆弾漁法﹂損害賠償裁判権力に対する﹁調査報道の自由﹂の視点から
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般の市民はなかなか訴訟に踏み切れない︒
繰り返すが︑この裁判でNHKはフランス氏を徹底的に中傷し
た︒カメラ助手のマディニ氏も無視した︒
また︑善意で現地取材のコーディネーター役を務めたムクシン
氏が︑坂本氏の指示を無視して︑勝手に漁民に金を渡したという
架空のストーリーを創り上げ︑坂本氏を守った︒またフランス氏
が内部告発した﹁やらせ﹂の事実を隠蔽してきた佐藤俊行NHK
国際部長ら報道局幹部も責任を免れようとしている︒
NHKは﹁現代﹂記事はすべて虚偽と伝えた﹁ニュース7﹂報
道をいまだに訂正していない︒
﹁おわりに﹂で述べるが︑海老沢会長は二〇〇二年七月に毎日
新聞のスクープで明らかになったテレビ東京窃盗団報道について
﹁私が︵窃盗事件の︶被害者ならテレビ東京を訴える﹂と定例会
見でいきまいたという︒二〇〇二年一〇月一二日︑インドネシア
・バリ島で起きた爆弾事件で︑NHKは﹁爆弾犯﹂を厳しく糾弾
した︒また︑一二月五日にNHK﹁やらせ爆弾漁﹂の現場近くの
マカッサルで︑ファーストフード店﹁マクドナルド﹂の店内で爆
発があり客二人が死亡した︒
海に爆弾を投げさせることも凶悪犯罪である︒NHKの﹁やら
せ撮影﹂のために︑スラウェシ島の貴重なサンゴ礁を破壊された
インドネシア人民はNHKと坂本氏を︑インドネシアにある法令
を駆使して訴えるべきだろう︒ 二現地取材で私が証言
1喜田村弁護士の思い込み
まず︑本誌﹁研究ノート﹂に書いた前回の報告から後の裁判経
過を述べていこう︒
本裁判の第一二回口頭弁論は二〇〇二年四月二日午前開かれ︑
私が約二時間証言した︒ロンドンのウエストミンスター大学で在
外研究のため四月一八日に英国へ向けて出発する直前のあわただ
しい時期だった︒多くの友人︑知人が傍聴に来てくれた︒講談社
側の代理人︑的場徹弁護士の主尋問では︑取材の経緯などを詳し
く話した︒
反対尋問でNHK代理人の喜田村洋一弁護士は︑﹁現代﹂記事
の中で引用されているムクシン氏の発言内容の中に︑私が陳述書
の中に載せた取材データに書かれていないことがあると繰り返し
聞いてきた︒またD氏の引用内容についても同様に聞いた︒また
フランス氏の第一〇回口頭弁論での証言での発言と記事との相違
点も聞いた︒
私は取材の全記録を陳述書で明らかにしているわけではない︒
取材の方法は対面︑電話︑メール︑伝聞などさまざまで︑取材の
結果は録音テープ︑ノート︑PCに残し︑頭の中に記憶している
ものもある︒
陳述書の文章や添付した資料にないから︑そういう取材はして
いないのではないかという度重なる
追及
にうんざりした︒
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続・NHK﹁やらせ爆弾漁法﹂損害賠償裁判権力に対する﹁調査報道の自由﹂の視点から
喜田村弁護士は取材︑報道の現場がどういうものなのかほとん
ど理解していない︒丁寧に説明しようとすると︑﹁そういうこと
は聞いていない﹂とくる︒裁判長も﹁答弁は簡潔に﹂と発言をさ
えぎることが多かった︒
喜田村弁護士は高学歴で︑早くに司法試験に合格︑米国のロー
スクールも出てニューヨーク州の弁護士資格も持っており︑法廷
技術は上手︵正確な意味ではカニングというべきか︶だと思う︒
しかし︑いわゆる三段論法︑詭弁を駆使しての﹁三百代言﹂的な
弁論が目立った︒よくしゃべるが内容に論理性︑一貫性があまり
ない︒しかも︑喜田村氏は自分の都合に合わせて質問し︑答えを
引き出そうとする︒風邪を引いていたためか︑言葉があいまいで
聞いていることがよく分からない︒喜田村氏の最近の仕事はNH
Kと文藝春秋︵菊池寛が創立︑侵略戦争に全面協力した責任を今
だにとっていない︶が中心だという︒
D氏が記事の内容と違うことを言っている点について︑喜田村
︵4︶弁護士は﹁︵同志社大学浅野ゼミの︶
ホームペー
ジ︵HP︶でD
さんを全面的に信頼できると書いているのに︑おかしいではない
か﹂と聞いた︒いつどこのHPを指すのかも言わずに︑HPを持
ち出すのは不当だと思った︒HPはこの時点で証拠として出され
ておらず︑二ヵ月後にHPの大量のプリントアウトが突然他の文
書と共に提出された︒
D氏は坂本氏のために爆弾を投げたことなど︑私にはほぼ真実
を話していると思う︒NHKから受領した金額もムクシン氏とD 氏との間で異なっていたが︑D氏が本当のことを言っていると思う︒ムクシン氏と海上で出会う謀議があったことについてだけ︑ウソをついている︒ムクシン氏が︑D氏に話を合わせるように頼んでいるのだと最初から思っている︒
また﹁あなたの方こそ︵ムクシン氏より︶混乱しているのでは
ないか﹂と私に言ったのは︑証言者への中傷であり︑名誉棄損だ
と思う︒民事裁判では︑この程度の言論は許されるらしいが︑私
には理解できないことだ︒
﹁現代﹂記事には︑ムクシン氏とD氏が事前に打ち合わせた可
能性があると示唆する記述があるが︑喜田村弁護士は﹁この根拠
が示されていない﹂と何度も私に質問した︒喜田村弁護士が人を
小ばかにしたような独特の表情を浮かべながら質問するのを見て
いて︑﹁木を見て森を見ない﹂というのは︑こういう人のことを
言うのだと思った︒
坂本氏とムクシン氏の間でも事前の謀議があったと私は信じて
疑わない︒坂本氏とムクシン氏が︑真実を話していないために︑
真 実 を証明するのが難しい
︒ しかし
︑ 何の打ち合わせもないの
に︑取材をすべて終えて島を離れ︑ジャカルタに戻る飛行機の出
発時間が約四
時間後に迫っているときに
︑ 三六〇度に広がる海
で︑坂本氏らのNHK取材班がたまたまムクシン氏の旧知のD氏
の船を含む﹁自然な爆弾漁﹂船団になぜ遭遇できたのかは︑謎の
ままだ︒坂本氏とNHKに説明責任がある︒﹁現代﹂は﹁やらせ﹂
の事実があることを指摘して︑NHKにその真相解明を求めたの 続・NHK﹁やらせ爆弾漁法﹂損害賠償裁判権力に対する﹁調査報道の自由﹂の視点から
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である︒
私は︑坂本氏︑ムクシン氏︑D氏の間で示し合わせた結果だと
今も確信している︒
2取材録音テープを出せというNHK
D氏への金銭がNHKから出ていないというなら︑NHKはな
ぜ一九九七年八月のNHKジャカルタ支局から東京の放送センタ
ーへ提出された会計報告書を開示しないのか︒私は情報公開法を
使ってNHKに開示を求めたが︑取材にかかわるうえに︑裁判で
係争中だから開示できないという決定であった︒
裁判官三人からの私への質問は全くなかった︒
講談社側はこの日︑浜野次長のムクシン氏に対する二〇〇一年
四月と九月の取材経過を明らかにした陳述書を出した︒私も同行
取材した時のムクシン氏の発言内容の記録であり︑ムクシン氏が
いかにウソを言っているかがよく分かるものだ︒
今回も坂本氏は喜田村弁護士と梅田弁護士の間に座っていた︒
彼の表情は終始固く険しかった︒毎回法廷に出て︑さらし者にな
っている坂本氏は大変だと思った︒
傍聴席左前方に坂本氏の関係者と思われる女性が三人いて︑閉
廷後︑私をにらみつけていた︒NHKは前回よりも傍聴団が少な
めだった︒NHK職員は全員︑無表情だった︒
私の証言の後︑NHKの代理人︑喜田村︑梅田両弁護士が二月
十三日に出した﹁文書提出命令申立書﹂について︑裁判長は﹁証 人︵私︶に任意提出する意志があるかどうか聞いてみても良かった﹂などと述べた︒講談社代理人が﹁申立書﹂に対する意見書を出すことにした︒
NHK側が求めたのは︑私と院生の助手が二〇〇〇年八月二︑
三日にムクシ
ン
︑ D 両氏に取材した際の録音オーディオテープ
と︑同年二〇〇〇年八月一三日午後一時三八分付けで発信された
フランス氏から私への電子メールだった︒
報道機関が取材のテープを裁判所に出すことについては様々な
問題がある︒NHKは未編集ビデオテープの法廷内上映に︑﹁取
材・報道の自由﹂を理由に反対した︒ところが︑﹁現代﹂には取
材の生の記録を全部出せと迫るのだ︒まさに無責任極まるダブル
スタンダードだ︒
三﹁やらせ﹂撮影を認めた坂本・元支局長
1金銭授受を知ったのは提訴の一〇カ月後
﹁やらせ﹂実行者の坂本氏は二〇〇二年五月七日に開かれた第
一三回口頭弁論で証人として尋問に答えた︒
私は四月一八日から英国で在外研究していたため︑傍聴できな
かった︒講談社関係者︑今回も傍聴のため訪日した元NHKジャ
カルタ支局助手フランス氏︑傍聴した友人知人などから集めた情
報と裁判書が作成した証人調書︵全文を掲載︶に基づいて報告す
る︒
後で詳しく述べるが︑坂本氏は︑ムクシン氏が爆弾漁法撮影時
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続・NHK﹁やらせ爆弾漁法﹂損害賠償裁判権力に対する﹁調査報道の自由﹂の視点から
にNHK取材班の一員であったことを明確に認めた︒講談社から
裁判所に提出された国立ハサヌディン大学学長の公式文書で︑ム
クシン氏が大学の一般職員で研究職ではないことがはっきりして
いるのに︑坂本氏は﹁国立大学研究員﹂と繰り返し証言した︒陳
述書と同じだ︒ムクシン氏は同大学において教員でも研究員でも
ない︒
坂本氏は﹁ムクシン氏から︵爆弾を投げた︶漁民D氏に金銭が
渡ったことを二〇〇一年七月まで知らなかった﹂という衝撃的な
事実を明らかにした︒そのときの調査で初めて知って驚愕したと
いうのだ︒﹁現代﹂発売日の前日の提訴︑及び﹁ニュース7﹂︵い
ずれも二〇〇〇年九月四日︶での報道は︑ムクシン氏のまともな
証言をもとにしていないことが明白になった︒調査の際︑D氏と
の間で金銭の授受があったかどうかを聞いていないのだ︒
﹁あなた方は︵ムクシン氏らに︶金銭授受の事実確認もしない
で提訴したのか
﹂ という講談社代理人の厳しい追及に
︑﹁
は い
﹂
とはっきり答えた︒NHKは﹁現代﹂が最初に︑坂本氏への﹁当
たり﹂取材の申し込みをした二〇〇〇年八月一八日以降に調査団
を派遣︑調査団は公金を使って︑提訴後も約三週間マカッサルに
滞在し︑ムクシン氏の自宅に連日通っている︒日本語が堪能なジ
ャカルタ支局のインドネシア人の助手が通訳も兼ねて参加︒佐藤
国際部長も何日か滞在︑ムクシン氏を工作するチームの指揮をと
ったようだ︒この辺は︑NHKが調査団の報告書を一切隠蔽して
いるのでよく分からない︒佐藤部長がNHKのいう﹁調査団﹂の キャップ格だったのは間違いない︒NHKはこの調査報告も開示しない︒
その後︑NHK職員の梅田弁護士も現地に出向いている︒調査
団はD氏にも会っている︒佐藤氏は本事件当時︑クアラルンプー
ル支局長で︑フランス氏が一九九七年九月スマトラ島メダンで起
きたガルーダ航空機墜落事故に出張取材した際︑一緒になり︑本
件について初
めて直接告発した人で
︑ 本裁判を毎回傍聴してい
る︒
2佐藤氏の言論弾圧
フランス氏などによると︑佐藤部長は︑私が﹁週刊金曜日﹂の
﹁金曜アンテナ﹂に書いた裁判報告記事について︑私の取材対象
者に対し︑二回電話をかけている︒取材対象者は佐藤部長の知り
合いだった︒佐藤部長は一回目の電話で︑週刊金曜日の名前を出
して︑﹁君の名前が載っている︒こんなことを言ったのか﹂と問
いただした︒二回目は︑﹁君のコメントが浅野ゼミのHPに載っ
ていた︒君が話したのか﹂﹁浅野はマスコミ界でもアカデミズム
でも敵ばかりで︑彼を相手にする学者はいない︒気をつけたほう
がいい﹂などと私を中傷する発言を行って︑﹁週刊金曜日﹂に引
用されているようなことを実際に私に言ったのかと聞いている︒
佐藤部長やNHK関係者は︑私や版元の﹁金曜日﹂には何も言
ってきていない︒
NHK関係者によると︑佐藤氏はあちこちで︑本裁判について 続・NHK﹁やらせ爆弾漁法﹂損害賠償裁判権力に対する﹁調査報道の自由﹂の視点から
― 42 ―
﹁NHKは絶対勝つ確信がある﹂と断言している︒﹁全部やったの
はムクシンで︑NHKは知らない﹂﹁浅野氏もフランス氏も弱点
がある︒フランス氏は解雇された恨みで言っているし︑ハサヌデ
ィン大学の学長に手紙を出してプレッシャーをかけている︒浅野
氏はいつもアグレッシブ︵好戦的な︶な姿勢で︑自分の都合よく
引用するからだ﹂と発言している︒
坂本氏はまた︑﹁金銭を渡して何かをやってもらう事を︑一般
的には︑メディアで何と言われているか﹂という問いには︑﹁や
らせと言います﹂と回答した︒つまり︑坂本氏は自分がしてしま
った行為は︵今となっては︶やらせを批判されても仕方ないと実
質的に認めたのである︒
ただ︑﹁当時は金銭の支払いなどもなかった﹂という認識であ
ったので︑やらせだというつもりは全くなかったと釈明した︒当
事は金がD氏に渡っていたのを知らなかったので︑やらせではな
いという強弁は一般社会では通用しない︒もし知らなかったとし
ても︑部下の勝手な行為を許した管理責任が問われるはずだ︒
また︑重要な証言の中で坂本氏は何度か︑あの時自分は﹁興奮
していたのでよく覚えていない﹂という発言をしていた︒興奮し
ていたので︑あま
り細かな点は覚えていないということだった
が︑自分が起こした裁判で︑これは︑実に驚くべき発言だ︒スク
ープ映像ともいうべき撮影ができる時こそ︑ジャーナリストとし
て冷静な判断を忘れてはならないのではないか︒
さらに
︑ 坂本氏は
︑ 爆弾撮影の現場に行くときのことにつ
い
て
︑ 島 を 回ってみようといったのは自分だと認めた
︒ 陳述書で
は︑フランスが﹁島を回ろう﹂と提案した︑と書いていた︒
また︑坂本氏は﹁やらせではないという理由はありますか﹂と
いうNHK代理人の喜田村弁護士の質問に︑﹁三つ
あります
︒ ま
ったく偶然遭
遇したこと
︑ 漁師が通常やっている場所だったこ
と︑漁師たちに許諾をもらって撮影したことです﹂︵傍点筆者︑
以下同︶と答えた︒最後の発言は撮影前に爆弾投擲犯人である被
撮影者との間で打ち合わせがあったことを自白しており︑遠くか
ら偶然撮影したという当初の主張を覆して︑﹁やらせ﹂があった
ことを完全に認めたことになる︒
3部下に責任押し付け
坂本氏は証言で︑フランス氏が爆弾撮影をもちかけたなどと︑
フランス氏に責任を転嫁する証言を繰り返した︒部下に罪をなす
りつけるのはどこかの国の政治家︑官僚︑財界人に似ている︒
坂本氏は
﹁ ムクシンは浅野氏に対
し て
︑ 私も浜野氏
︵﹁
現代
﹂
の浜野純夫次長︶に対して十分説明したにもかかわらず︑それを
無視し︑悪意を持って書かれたことで憤りを感じます﹂と発言し
た︒冗談ではない︒坂本氏は﹁十分説明﹂するどころか︑記事の
根幹にかかわる︑撮影前のムクシン氏からD氏への金銭授受につ
いて︑確認することもせずに︑浜野氏の取材に答えたのだ︒本誌
六八号掲載の研究ノートに公表した﹁現代﹂浜野次長や新聞記者
の取材に対する坂本氏のコメントを読めば︑坂本氏が真実に反し
― 43 ―
続・NHK﹁やらせ爆弾漁法﹂損害賠償裁判権力に対する﹁調査報道の自由﹂の視点から
た発言を繰り返していることがわかる︒
またムクシン氏の説明が大きく変遷していることは︑われわれ
が明らかにしている取材録音テープを聴けば明らかであろう︒
浜野氏は﹁坂本氏とNHK幹部は記事の根幹にかかわる︑ムク
シン氏からD氏への金銭授受について︑確認することもせずに︑
取材に答えたことがはっきりした︒今回の提訴自体が社会的常識
に照らして︑まともなものなのかという疑問が浮上した﹂と述べ
た︒﹁現代﹂は悪意をもって書いたわけでも︑印刷したわけでもな
い︒悪意をもって本裁判を起こしたのはNHKである︒海老沢会
長らNHKの経営陣︑報道・広報責任者の社会的責任は重大であ
る︒
不思議なことに︑喜田村洋一弁護士は︑坂本氏の証言に対する
フォローを全くしなかった︒NHK代理人による坂本氏への再尋
問がなかったのだ︒
坂本氏の証言で︑放送法をもとに設立されている特殊法人の公
共放送NHKと元NHKジャカルタ支局長が︑実にいい加減な調
査で︑﹁やらせ﹂はなかったという結論を下して︑民事訴訟を起
こしたことがはっきりした︒
提訴が雑誌の発売日前日で︑かつ﹁現代﹂の取材後に調査団を
現地に派遣したのに︑﹁ガイドのムクシン氏がD氏に金を払った
かどうかを聞かないまま﹂提訴したというのだから︑あきれても
のが言えない︒ また坂本氏の証言で︑彼の証言にはウソが多いことが一段と鮮明になった︒最大の焦点だった︑ムクシン氏からD氏への金銭授受を坂本氏は否定できないどころか︑肯定せざるを得なかった︒
坂本氏のマザーテープの行方不明についての説明もおかしい︒
N H K は再捜索をすべきだ
︒ 坂本氏の管理下にあると私は信
じ
る︒そんなに大事なものをなくすわけがないし︑NHKジャカル
タ支局内のビデオ保管
場所には鍵がかかっていないと証言した
が︑ジャカルタのタムリン通りにある警備の厳重なヌサンタラビ
ル内にあるNHK支局に侵入するのは難しい︒そのテープをどこ
かに持っていく人は坂本氏以外にいないと私は思う︒坂本氏は今
もどこかに隠し持っていると私は思う︒もし︑本当にないとした
ら︑坂本氏が証拠隠滅のために廃棄したのだろう︒
坂本氏の証言によると︑坂本氏とNHK首脳は︑ムクシン氏に
﹁D氏への金銭授受﹂の事実を聞きもせずに︑﹁やらせではなかっ
た﹂と言わせる報道を行ったことになる︒事実の捏造である︒こ
れまた﹁やらせ﹂である︒
NHK理事会は直ちに訴訟取り下げ︑NHK報道局は﹁ニュー
ス7﹂の訂正放送を自主的に行うべきだった︒人に言われる前に
訂正すべきだ︒二〇〇二年三月二八日に辞任した辻元清美前衆議
院議員の政策秘書給与流用問題で︑辻元氏の﹁訂正﹂の遅れをあ
れほど厳しく報じたNHKは︑自らの虚報については﹁訂正﹂も
しないでいいのか
︒ 彼女には
﹁ 興奮していたから
﹂ で は 済 ま せ
ず︑辞任するまで大々的に報じたのだから︒ 続・NHK﹁やらせ爆弾漁法﹂損害賠償裁判権力に対する﹁調査報道の自由﹂の視点から
― 44 ―
四坂本元支局長が証言
ここで︑坂本氏の証言の全文を引用したい︒裁判所が公文書と
して残している尋問調書である︒本裁判で最も重要な証人尋問で
あった︒
坂本
︹四三歳︵昭和三四年三月二二日生︶︺が二〇
〇二年五月七日
午前一〇時一五分から︑東京地裁で証言した証人調書︵廣川書記官︶は次
の通り︒
裁判長は︑宣誓の趣旨を説明し︑本人が虚偽の陳述をした場合の制裁を
告げ︑別紙宣誓書を読み上げさせてその誓いをさせた︒
宣誓の内容は次のようだった︒
︽宣誓
良心に従って真実を述べ︑何事も隠さず︑偽りを述べないことを誓いま
す︒
氏名坂本
︾
証人調書の﹁陳述の要領﹂の全文は次の通り︒原文のまま︒
︹原告ら代理人︵喜田村︶
甲第一二号証︵写真︶を示す
一枚目︒二枚の写真︑これは説明によりますと︑一九九七年八月二三
日〜二四日の本件の撮影当時に取材した船そのものだということなん
ですね︒
はい︑そうです︒
この写真を撮影したのはいつですか︒
去年︑二〇〇一年七月一六日です︒ その撮影をしたのはだれですか︒
私です︒
あなたが現地に行かれたときに撮影したものだということですね︒
はい︑そうです︒
一枚目の下の写真︑あなたが実際にその爆弾漁を撮影したときに︑こ
の船のどの辺にいて撮影をしたのか説明してもらえますか︒
下の写真の青いビニールシートの下に横に渡した板があります︒
その中央のところに座って当時撮影しました︒
板が渡してあるというのは︑そこに腰掛けみたいな︑座席になってい
るんですか︒
はい︑そうです︒
二枚目︒説明を見ますと︑使用した機材①簡易水中マイク︑と書いて
ありますけれども︑下の写真を見ますと︑これがマイクそのものの写
真ですね︒
はい︑そうです︒
写真の中に煙草が写ってますけれども︑大きさとしてこのぐらいのも
のだということですね︒
はい︒
上の写真で説明がついてますけれども︑実際にどういうふうにこのマ
イクを水中で使用したのかを説明してもらえますか︒
これは陸上用で使ってる常備のマイクですが︑それにゴムで防水
をしまして︑掃除用のブラシの柄に取り付けて︑それを水の中に
差し込んで水の中の音を収音しました︒
陸上用のマイクということでしたけれども︑このマイク自体は非常に
軽いものなんでしょうか︒
― 45 ―
続・NHK﹁やらせ爆弾漁法﹂損害賠償裁判権力に対する﹁調査報道の自由﹂の視点から
ええ︑ここに書いてありますように︑一八センチぐらいで︑直径
が一・八センチぐらいですから︑非常に軽いものです︒
実際の爆弾漁の撮影のときにもこの簡易水中マイクで音を収音できま
したか︒
はい︑しました︒
当日︑八月二四日に爆弾漁の撮影がなかったけれども︑この簡易水中
マイクを島に持参した理由を教えてください︒
ここに︑ご覧になると分かりますように︑軽いものですし︑以前
爆弾漁に遭遇したことがあります︒音は水の中で遠くまで早く伝
わりますので︑もし遠くで遭遇した場合に音だけでも収録しよう
としまして︑持って行きました︒
三枚目
︒ 使用した機材
② 陸上カメラ
︑ という説明がありますけ
れ ど
も︑これが実際に当日あなたが爆弾漁の撮影に使用したカメラと同じ
型のカメラですか︒
はい︑そうです︒
四枚目︒ここにカメラマンのような人が写真では座ってカメラを構え
ていますけれども︑当日あなたが爆弾漁を撮影したときもこのような
体勢で撮影をしていたのですか︒
はい︑そうです︒
このカメラマンの右手を見ますと︑何か棒のようなものを握っていま
すけれども︑これは何という棒ですか︒
これはパン棒という棒です︒
パン棒というのは何をする役目があるのでしょうか︒
取材用のカメラを三脚に付けた場合に︑取材対象に従って上に上
げたり横に振ったりするときの操作をする棒でありまして︑これ を持ってカメラを安定させます︒
撮影中は常にこのパン棒を右手が握っているということですか︒
はい︑そうです︒
この写真ではこのカメラマンはファインダーを覗いているようですけ
れども︑撮影中はカメラマンは一般的にファインダーを覗いている︑
と理解してよろしいんですか︒
はい︒集中しております︒
五枚目︒これは同じカメラを肩に掛けて撮影する場合の動作を示した
ものですね︒
はい︑そうです︒
これで見ますと︑このカメラマンは右肩に掛けていますけれども︑肩
に掛ける場合には右肩に
しか撮影しようがないということでしょう
か︒
写真のようにファインダーが左側についていまして︑カメラを支
えるグリップが右手で支えるようになってますので︑右肩にしか
担げないということです︒
六枚目︒これは水中カメラとそのケースの写真ですね︒
はい︒
八月二四日にはこの水中カメラは島に持って行ったんですか︒
いいえ︑持って行きませんでした︒
七 枚 目
︒ 潜 水機材ということですけれども
︑ ダイビング機材を入れ た
︑ 写 真 に 写っているのはバッグですけれども
︑ こういうものです
ね︒
はい︑そうです︒
この七枚目のものは島に持って行きましたか︒ 続・NHK﹁やらせ爆弾漁法﹂損害賠償裁判権力に対する﹁調査報道の自由﹂の視点から
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これもかさばりますと重量が重いですから︑取材に使いませんで
したので︑ホテルに置いてきました︒
本件の番組についてお尋ねをいたします︒本件の裁判では爆弾漁とい
うことが焦点になっているんですけれども︑番組自体の企画としては
どういったものを撮影して報道しようとしたものなんでしょうか︒
インドネシアでのサンゴの保全の取組みを取材して︑サンゴの保
全を訴えるというニュースの企画の取材でした︒
爆弾漁の場面がないと番組として成立しないような企画だったのです
か︒
いいえ︑違います︒
そういうものがなくても十分に番組としては成立したということです
ね︒
はい︒
ムクシンさんは︑だれから︑あるいはどのような機関から紹介された
のでしょうか︒
WWF︑世界自然保護基金の紹介で紹介していただきました︒
職業は何をしているということだったですか︒
ハサヌディン大学の研究員をしてるというふうに聞いてました︒
その人に仲介を頼んだわけですけれども︑そういった紹介者あるいは
その職業等から考えて︑
仲介者として信頼できるかどうかについて
は︑どのような判断をしましたか︒
紹介者がWWFで︑しかも国立大学の研究員ということで︑信頼
できる人物だと思ってました︒
あなたが一番最初にムクシンさんに会ったのは八月一八日のようです
けれども︑八月一八日より前にムクシンさんと接触していたのはフラ ンスさんだけですね︒
はい︑そうです︒
あなたはフランスさんから報告を受けたと思いますけれども︑爆弾漁
の撮影について︑撮影できるのかどうか︑あるいはできるとすればど
ういったことが撮影できそうかという点について︑どういう報告を受
けたんですか︒
ムクシン氏に頼めば多分爆弾漁の撮影ができるだろうという報告
を受けてました︒
どうしてそういうことがムクシンさんに頼めば可能なのかということ
についての説明はありましたか︒
はい︑ありました︒
どういうことだったんでしょうか︒
彼は研究員でもありまして︑漁師の研究をしてまして︑漁師もよ
く知ってるということですので︑彼に協力依頼すれば撮れるだろ
うということでした︒
そういった仲介を頼むということについてですけれども︑ムクシンさ
んに対する謝礼については︑八月一八日より前の段階で何か話はあり
ましたか︒
はい︑ありました︒
どういったような話だったんでしょうか︒
大学の研究員︑しかも専門家の人に取材の協力をしてもらうと︑
仲介をしていただくということですので︑一般の取材でも協力者
にはなにがしか支払うことをしておりましたので︑彼にも払うつ
もりでおりました︒
フランスさんとの間で︑ムクシンさんに対する謝礼について何か具体
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続・NHK﹁やらせ爆弾漁法﹂損害賠償裁判権力に対する﹁調査報道の自由﹂の視点から
的に話をした記憶はありますか︒
当然フランス氏も同じ理解をしていたと思いますし︑ですから︑
謝礼を払うといった程度の話でして︑それ以上の詳しい議論はし
ておりません︒
五〇万ルピアという数字について︑八月一八日より前にフランスさん
から聞いたことはありますか︒
ありません︒
八月一八日︑あなたがムクシンさんと会ったのはこの日が初めてです
ね︒
はい︑そうです︒
初対面ということですと︑あなた自身の口で︑どんな番組を企画して
いるのかということについてムクシンさんに説明しましたか︒
はい︑しました︒
どんな説明をされたんでしょうか︒
我々の取材の目的は︑インドネシア政府が取り組んでいるサンゴ
礁保全の活動取材をして︑サンゴ礁保全を訴えるという企画を作
るということです︒そして︑スラウェシ島に来たのが二つ目的が
ありまして︑一つは︑スラウェシ島のクンダリの海軍基地で海軍
が行っている爆弾漁師を更生する試みの活動を取材すること︒二
つ目は︑もし可能であれば︑そのサンゴの破壊の大きな原因とな
っている爆弾漁を撮影したい︑ということを説明しました︒
その二つの目的のうち︑ムクシンさんに頼むことというと︑その二番
目ということになるわけですね︒
はい︑そうです︒
具体的にどんなことをしてほしいということをムクシンさんに依頼し たんでしょうか︒
爆弾漁師が︑彼らが通常行っている自然な爆弾漁を撮影したいの
でそれに対して協力してほしい︑ということを言いました︒
本件で問題になるところ
なのでもう一度確認をしておきますけれど
も︑自然な撮影をしたいというそのことが︑あなたの中でどういうこ
とを意味していたのか︑どういうふうにムクシンさんに頼んだのか︑
そのことをもう一度おっしゃってください︒
漁師たちが通常行っている爆弾漁そのものを撮影させてほしい︑
撮影するのに協力してほしい︑ということです︒
そういうことについて︑ムクシンさんは︑爆弾漁の撮影ができるかど
うか︑その可能性についてはどういうふうに言っていましたか︒
普通は撮影は難しいと︒しかし︑近くの島でも爆弾漁やってます
ので︑撮影できる可能性もある︑と言ってました︒
近くの島という話が出ましたけれども︑なぜその島の付近ですと爆弾
漁の撮影ができるのかということについての説明はありましたか︒
ムクシン氏はそこの島に何年も住んでいてそこの漁師の方をたく
さ ん 知 っているということですので
︑ 撮影できる可能性がある
と︑協力してもらえる可能性がある︑ということでした︒
この八月一八日の段階なんですけれども︑ムクシンさんから撮影した
ビデオをほしいという話をあなたは聞いていますか︒
はい︑聞きました︒
具体的にどういうものをほしいということだったんでしょうか︒
放送したビデオをコピーさせてほしい︑ということでした︒
ムクシンさんのほうから︑なぜそういったものをほしいのかという理
由の説明はありましたか︒ 続・NHK﹁やらせ爆弾漁法﹂損害賠償裁判権力に対する﹁調査報道の自由﹂の視点から
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はい︒
どういうことだったでしょうか︒
なかなかその爆弾漁の撮影は難しいですので︑撮影できればそれ
をサンゴの私が
活動している保全に役立てたいということでし
た︒
ムクシンさん自身もサンゴ礁の保全には興味というか関心があったと
いうことなんでしょうかね︒
ええ︑そういうことです︒
これは後の話になりますけれども︑撮影してそれが放映されましたけ
れども︑その番組のビデオを実際にムクシンさんに差し上げたんでし
ょうか︒
それについては確認してません︒
あなた自身としては知らないということ︒
フランス氏がやってることと思ってましたので︑いってるものと
思ってました︒
あなたご自身としては特に確認しなかったということですね︒
はい︒
どんな場面が撮影できるのかということについて︑ムクシンさんは爆
弾漁の場面が撮影できると︑あるいはその可能性があるということを
言った︑ということでしたね︒
はい︑そうです︒
それ以外に︑こんな場面も撮影できるんじゃないか︑というようなこ
とは何か言っていましたか︒
はい︑ありました︒
どんなところのことを言っていましたか︒ もし島で爆弾漁の爆弾を製造している人が製造していれば︑その
製造しているところも撮影できるでしょう︑と言ってました︒
爆弾漁の場面と別に爆弾製造の場面も︑撮影可能かもしれない︑とい
う話だということですが︑あなた自身はその話をムクシンさんから聞
いて︑どのような興味・関心を抱きましたか︒
もともと私の企画の意図が︑サンゴの保全の取組みを伝えるとい
う企画でしたので︑そのサンゴの破壊される大きな原因の爆弾漁
が撮影できればいいとは思っていましたが︑そういう企画でした
ので︑爆弾漁の製造に関してはさほど関心ありませんでした︒要
するに︑爆弾漁の説明をする企画ではありませんので︑その必要
はさほど感じないということです︒
爆弾の製造に関連して︑ムクシンさんのほうから︑NHKが爆弾の材
料費を出してくれれば︑あるいは出してほしい︑というような話をあ
なたは聞きましたか︒
フランス氏を通じてそのようなことは聞いてません︒
全く聞いてない︑ということ︒
はい︒
この話をしていたのが八月一八日ですけれども︑今そのような話をし
ていた場所はラトゥ・ムダというレストランなんでしょうか︒
はい︑そうです︒
八月一八日にそのような話をして︑NHKの取材班としては今後どの
ような日程なのかという説明はしましたか︒
はい︑しました︒
どういうふうに説明したんでしょう︒
翌日海軍の取材でクンダリに行きますので︑ウジュンパンダンに
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続・NHK﹁やらせ爆弾漁法﹂損害賠償裁判権力に対する﹁調査報道の自由﹂の視点から