困難を抱える子どもへの個別的支援と「居場所」実 践の連携に関する考察 : 子どもの〈居場所〉に着 目して
著者 佐々木 瞳
雑誌名 評論・社会科学
号 133
ページ 161‑172
発行年 2020‑05‑31
権利 同志社大学社会学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2020.0000000195
要約:本研究の目的は,困難を抱える子どもに対する個別的支援において,地域の「居場 所づくり」実践との連携をはかる意義を明らかにし,その連携による支援の可能性を提示 することである。両者の接点としての子どもの〈居場所〉,つまり子どもが主観的に居場所 だと感じる場という概念に着目することにより,子どもの生活を中心に据えた考察を試み た。個別的支援において本人が主体的に課題解決に向き合う後ろ盾として〈居場所〉が必 要であることから,それを生み出す「居場所」実践との連携が重要となるとともに,子ど もが必要とする〈居場所〉は個々に異なり,変化もありうるため,それぞれの子どもに合 った「居場所」に参加できるよう,個別的支援の視点が必要である。
キーワード:子ども,個別的支援,居場所,居場所づくり,連携
目次
1.研究目的と背景および研究方法 2.本研究における〈居場所〉
2-1.主観にもとづく〈居場所〉
2-2.〈居場所〉の2つの方向性
2-3.社会的〈居場所〉と人間的〈居場所〉の関係 3.個別的支援における「居場所」実践との連携に関する考察
3-1.個別的支援における「居場所」実践との連携の意義 3-2.「居場所」実践における個別的支援との連携への期待
3-3.個別的支援における「居場所」実践との連携のあり方に関する考察 4.おわりに
1.研究目的と背景および研究方法
本研究の目的は,困難を抱える子どもに対する個別的支援において,地域の「居場所 づくり」実践(以下,「居場所」実践)との連携をはかる意義を明らかにし,その連携 による支援の可能性を提示することである。個別的支援と「居場所」実践の接点とし
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†同志社大学大学院社会学研究科社会福祉学専攻博士後期課程
*2020年3月12日受付,査読審査を経て2020年3月23日掲載決定
論文
困難を抱える子どもへの個別的支援と
「居場所」実践の連携に関する考察
── 子どもの〈居場所〉に着目して──
佐々木 瞳
†161
て,子どもの〈居場所〉概念に着目することにより,担い手側の役割や効率ではなく子 どもの生活を中心に据えた考察を試みる。本研究での〈居場所〉は,「居場所」実践と は区別しており,ここが居場所であると感じる主観にもとづく概念としてこのように表 記している。
日々,メディア上に流れるニュースのなかで,子ども・若者が巻き込まれた犯罪や,
学校でのいじめ,自殺,不登校,また家庭内の児童虐待の問題などがしばしば大きく取 り上げられ,生活上に困難を抱える子どもの存在が明らかになっている。子どもたちが 有する困難な状況は,「経済的な困窮,いじめ,不登校,ひきこもり,障害,虐待など,
非常に多岐にわたるものであり,また,いくつかの困難が複合的にあらわれ,その困難 をさらに複雑なものとしているケースもみられる」(内閣府
2019 : 116)。そのような状
況に対しては,児童福祉法をはじめ,児童虐待防止法,子ども・若者育成支援推進法,子どもの貧困対策の推進に関する法律などのもと,さまざまな公的施策が講じられてき た。福祉,教育,保健医療などの機関が連携をはかりつつ,子どもや家庭それぞれの状 況に応じた個別的支援が求められる。
その一方で,より子どもたちの暮らしに身近なところから手を差し伸べようとする,
地域の「居場所づくり」の実践も広まっている。子どもを対象に「居場所」と称して取 り組まれた実践の源流は,1980年代につくられるようになった,不登校の子どもが通 うフリースクールであったという見解が多数である(安齊
2003;住田 2003)が,近年
では,「子どもの貧困」に対する社会全体の問題意識の高まりをきっかけとして全国各 地で取り組まれている「子ども食堂」や「学習支援」の活動が,「居場所づくり」とい う理念を共有する。本研究では,このような近年の地域の取り組みを想定して「居場所 づくり」や「居場所」実践と呼んでいる。こうした地域の「居場所」実践が,個別的支援と連携する例もみられる。ひとことに
「居場所」といっても多様な実践があり,そこに参加する子どもの生活環境や家庭背景,
またその場に求めるものもさまざまである。「居場所」実践のなかで,「居場所」だけで は対応できないような,たとえば経済的支援や養育に関する専門的な支援などを必要と する子どもや家庭と関わる場合もある。そのような場合,ふさわしい相談窓口へつなぐ ことで適切な個別的支援を受けられるようにすることができる。このように,「居場所」
実践をおこなううえでは,外部の個別的支援とつながることが必要となるといえる。
さらに,反対に,個別的支援のなかで,「居場所」を子どもや家庭に紹介したり参加 をすすめたりする場合があることから,個別的支援においても「居場所」実践との連携 に対する期待があると考えられる。
このような連携が,必要な状況に至ったときに円滑にはかられるように,個別的支援 や「居場所」実践を行なう機関や団体どうしが普段から情報交換をするなど,つながり
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を持ちながら活動していることが多い。
これらは,担い手側から見れば,子どもの支援のための役割分担であるといえる。で は,対象となる子どもたちの生活を中心に据えてとらえた場合,それはいかなる意味を もつのだろうか。個別的支援を受けるにせよ,「居場所」に参加するにせよ,それは子 どもにとって,生活の一場面である。担い手側だけではなく子ども側に視点をおき,子 どもたちの生活の場面として,個別的支援を受けること,「居場所」に参加することそ れぞれから得るものがどのようにつながっているのかに着目する。
そこで,個別的支援において「居場所」実践との連携をはかる意義を,子どもの生活 を中心として見出すため,個別的支援と「居場所」実践の接点として子どもの〈居場 所〉という概念に着目したい。「頻繁に聞かれるこの『居場所』という用語は,物理的 空間という意味だけでなく『居られる場所』,『居たい場所』という心理的価値が付与さ れた用語として使用されていることが多い」(安齊
2003 : 33)と指摘されるように,本
研究での〈居場所〉は,ここが居場所であると感じる主観にもとづくものとしてとらえ ている。ほっとする,安心できる場といった,あらゆる「居場所」実践で共通して目指 される場のあり方も,こうした主観的な〈居場所〉であるといえる。したがってここで は「居場所」実践の場がそのまま〈居場所〉なのではなく,むしろ子どもにとっての〈居場所〉が求められてこそ,それをつくりだそうという「居場所」実践が行われる,
ととらえる。
他方,個別的支援においても,本人をとりまく環境や関係性として〈居場所〉に目を 向けることは重要となるといえる。したがって子どもの〈居場所〉の概念は,個別的支 援と「居場所」実践との接点となると考えられる。
これをふまえて文献研究を行った。まず〈居場所〉概念を整理したうえで,それを軸 として,個別的支援において「居場所」実践との連携がなぜ必要であるのか,また連携 することで個別的支援にはどのような期待がなされるのかを明らかにする。それをふま え,実際に行われるそれらの連携について検討し,その可能性を見出していく。
2.本研究における〈居場所〉
2-1.主観にもとづく〈居場所〉
先述の通り本研究において〈居場所〉は,「居場所づくり」実践やその現場を表す語 としての「居場所」とは区別した概念として用いている。ここでは〈居場所〉の概念に ついて述べている文献の概観を通して,本研究における〈居場所〉のとらえ方を示す。
まず,〈居場所〉は,文字通りにある人が居る場所という意味ではなく,人の主観に もとづくものである。藤竹は,「『ここが君の居場所だ』として,ある特定の物理的空間
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を提供されたとしても,そのことによって直ちにそこが居場所となるわけではない。そ こを自分の居場所だと実感するのは,当人である。空間を自分にとって満足のできる場 所として人間が意味を見出したときに,そこは人間にとって居場所となる」と述べ,詳 細には「人間はある場所に対して,こここそが自分のものであり,落ち着きや安定感,
充実感や所属感覚,さらには保護されているという感覚などをもつことができたとき,
その場所は居場所となる」としている(藤竹
2000 : 48)。廣井は,「『居場所がある』と
か『居場所がない』ということは,周囲(環境)にどのように自分が受け入れられてい るであろうかという主体の受け取り方による」という考えから,「居場所がある」とい うことを「自分自身でいることが受け入れられていると感じられること」と定義した(廣井
2000 : 129)。萩原は,「居場所」を考察したまとめとして第一に「居場所は『自
分』という存在感とともにある」と述べている(萩原
2001 : 63)。住田は,「『居場所』
は,そこに居ると子ども自身が安心とか安らぎとかくつろぎを感じ,またありのままの 自分をそこに居る他者が受け入れてくれると確信できるようなところである」と述べて いる(住田
2003 : 5)。岩川は,エリクソンが提唱したアイデンティティの概念をふま
え,「居場所」を「私が私だと感じられる場所」ととらえている(岩川2006 : 5)。この
ように,〈居場所〉は,安心,落ち着き,自由,ありのままでいられる感覚,受け入れ られている感覚などによって,ある場に対して人が主観的に〈居場所〉であると感じる ことによって成り立っているとする。2-2.〈居場所〉の2つの方向性
2
点目に,〈居場所〉はその機能の面において2
つの方向性をもつといえる。一方は,積極的・能動的で,成長や自己実現といった機能があり,もう一方は,消極的・受動的 で,回復や安定の機能がある。藤竹は「社会的居場所」と「人間的居場所」という分類 を示した。「社会的居場所」とは,「自分の資質や能力を発揮することが求められてお り,自分の存在が他人によって必要とされている場所」であり,「人間的居場所」とは,
「自分であることをとり戻すことのできる場所」,「そこにいると(そこに帰ると)安ら ぎを覚えたり,ほっとすることのできる場所」である(藤竹
2000 : 49)。安齊は「前向
きな居場所」と「後ろ向きな場所」という分類を示した(安齊2003 : 35)。前者は「自
分の自己像を修正し自立していく場としての『居場所』であり,その先にはいきいきと 自己発揮することが予測されている」(安齊2003 : 35)。後者は「居られない場から逃
げ出し立ち止まって心の安定を図る場」(安齊2003 : 35),「全てが受け入れられ安心し
て身を置くことができる『居場所』」(安齊2003 : 35-36)である。原田・滝脇は,上記
と異なる観点として他者の存在の有無により「居場所」を「社会的居場所」と「個人的 居場所」に分類したうえで,それらがどのように機能するかといった観点から,それぞ困難を抱える子どもへの個別的支援と「居場所」実践の連携に関する考察 164
れ細分化している。ここでの「社会的居場所」は先述の藤竹と同じ語を用いているが異 なる内容を示す,「他者から得られる自己対象に触れることにより,自己の存在や自分 らしさを確認できることで自己にまとまりを与える体験ができる場」であり,「承認的 居場所」「受容的居場所」「所属的居場所」に分けられている。「承認的居場所」とは,
「自分の力を発揮し,その成果・業績が他者に認められたり,他者の役に立ったりする ことで,自己を価値あるものとして実感できる場」,「受容的居場所」は,「他者に愛さ れ,無条件でありのままの自己が受け入れていることを実感できる場」,「所属的居場 所」は,「何らかの集団やグループに所属していることで,帰属意識を持ち,自己の存 在が安定していることを実感できる場」である(原田・滝脇
2014 : 126-127)。一方,
「個人的居場所」は「一人になることで,情緒を安定させたり自己受容したりすること により,自己の存在を確認し,自分らしさを取り戻せることで自己にまとまりを与える 体験ができる場」であり,「解放的居場所」「内省的居場所」からなる。「解放的居場所」
は,「現実社会から逃避し,自己に休息とエネルギーが補給される場」,「内省的居場所」
は,「自己について客観的に思考や内省を行い,自己を再構成する場」である(原田・
滝脇
2014 : 127-128)。以上のうち,「社会的居場所」(藤竹 2000 : 49),「前向きな居場
所」(安齊
2003 : 35),「承認的居場所」・「所属的居場所」(原田・滝脇 2014 : 126-127)
は,積極的・能動的で,成長や自己実現といった機能をもつ。一方,「人間的居場所」
(藤竹
2000 : 49),「後ろ向きな居場所」(安齊 2003 : 35),「受容的居場所」・「解放的居
場所」・「内省的居場所」(原田・滝脇
2014 : 127-128)は,消極的・受動的で,回復や安
定の機能がある。ここでは前者を社会的〈居場所〉,後者を人間的〈居場所〉としてと らえる。2-3.社会的〈居場所〉と人間的〈居場所〉の関係
3
点目に,社会的〈居場所〉と人間的〈居場所〉はどちらも必要である。藤竹は,「人間的居場所は社会性の弱い居場所であるけれども,私的空間を形成し,社会的居場 所で感じる緊張を解放する場所として,人間にとって不可欠の場所である」と述べる
(藤竹
2000 : 50)。「逃げ場としての『居場所』」が「その傷を癒し,回復するために必
要」であるとしつつ「逃げてばかりいては自己発揮していきいきと生活することはでき ない」と述べ,「自己発揮の場としての『居場所』」も同時に必要であると指摘している
(安齊
2003 : 36)。これらから社会的〈居場所〉と人間的〈居場所〉が互いに必要であ
ると読み取ることができる。つまり,社会的〈居場所〉での成長や自己実現のために人 間的〈居場所〉での回復や安定が必要であり,反対に人間的〈居場所〉での回復,安定 の先には社会的〈居場所〉での成長や自己実現を見据えるべきである。
本研究では,以上のような特徴から〈居場所〉をとらえている。
困難を抱える子どもへの個別的支援と「居場所」実践の連携に関する考察 165
3.個別的支援における「居場所」実践との連携に関する考察
3-1.個別的支援における「居場所」実践との連携の意義
困難を抱える子どもに対する個別的支援において,「居場所」実践との連携をはかる 意義として,〈居場所〉の概念を軸に
2
つの点が挙げられる。第一に,個別的支援のはじまりに至るまでの過程において「居場所」実践に意義があ るといえる。困難を抱える子どもに対する個別的支援のはじまりが,必ずしも本人や家 族自ら支援を求めることであるとは限らない。何らかの困難を抱え,支援を受ける必要 がある場合,そのためのきっかけ,動機付け,手段や能力が必要であることは言うまで もないが,それは困難な状況が深刻であればあるほど,支援とつながりにくいことをも 意味する。〈居場所〉は,安心感や,ありのままの自分でいられる感覚,自分が受け入 れられている感覚とともにあることから,困っていること,つらいことなどを,積極的 に支援を求めない場合であっても,〈居場所〉にいる人には打ち明けやすい。あるいは,
〈居場所〉ではありのままのすがたを見せられるため,周囲の人々がその困難に気付き やすい。このように考えられ,SOS が見えやすい場であるといえる。子どもはさまざ まな〈居場所〉をもち,例えばそれは家庭や学校などの場合もあるが,「居場所」もそ のひとつとなることがあり,個別的支援をおこなう機関では把握できない
SOS
が発せ られることがあると想像できる。個別的支援のうえでは,まずそこに至るまでに,必要 な支援が届いていない子どもやその家庭とつながるきっかけを,「居場所」においてつ くることができると考えられる。第二に,支援につながったとしても,自らの置かれた状況に向き合い主体的,意欲的 に課題を解決していくことは容易ではない。自分自身や家庭内の状況を理解,受容する ことさえも,子どもの場合なおさら,難しいことであろう。熊田は,社会福祉領域にお いて,地域共生社会の実現に向けた取り組みとして「居場所づくり」に対する期待が寄 せられていることに着目し,社会福祉における居場所について考察している。「居場所」
研究として実践や研究の多くの場面で引用されるのは湯浅による「子ども食堂」の分析 と類型化であり,そこでは主な「子ども食堂」の類型として「共生食堂」と「ケア付き 食堂」が示された(湯浅
2017 : 76-78)が,熊田はこれをベースとし,社会福祉におけ
る「居場所」は問題解決機能とコミュニティ形成機能を有しており,その強調点の置き 方の違いによって「居場所」が多様化していること,なかでも問題解決機能が社会福祉 領域の「居場所」に固有であることを指摘した(熊田2018 : 29-30)。問題解決機能と
は,制度の狭間の問題を抱えるなど「拠り所のない住民を受け止め」,「参加メンバー同 士の交流を通して関係の再構築を行うという過程を経て抱えている課題が整理され,さ困難を抱える子どもへの個別的支援と「居場所」実践の連携に関する考察 166
らにはエンパワーメントされ」,「再度,利用者と支援の適切なつなぎ直しが行われた り,また利用者自身がエンパワーメントされる中で地域社会や支援を自らの力でつなぎ 直していく」(熊田
2018 : 30-31)ものであるという。また,空閑は,「中間支援組織と
しての『居場所』」として,「当事者が社会とつながって,社会の一員として生きていく ことが可能になるために,就労や社会参加への伴走型支援や後方支援を得られる場とし ての居場所,それはときに『助けて』と言える場であり,自分の弱さを出せる場であ り,社会に向き合う際の後ろ盾となる場としての居場所の位置づけ」(空閑2018 : 23)
を示している。これらの指摘は,困難を抱える人が,自らをふりかえって課題を整理し たり,心のパワーをたくわえたり,やり直したり,弱さを出して助けを求めたりする場 と,それによってその課題と向き合い,社会に向かって前進していく場とが相互に必要 であることをあらわしているといえる。社会的〈居場所〉と人間的〈居場所〉がどちら も必要であるいう本研究のとらえ方で考えれば,上記の指摘からも個別的支援における
〈居場所〉の必要性が示唆される。つまり個別的支援を受けつつ主体的に自らの課題を 解決していくには,人間的〈居場所〉で立ち止まったり,社会的〈居場所〉で前進した りすることが必要であるといえる。また繰り返し述べるように,〈居場所〉は「居場所」
実践以外にもありえる。しかし子どもの困難の背景には,その暮らしから安心感や落ち 着き,くつろぎといった〈居場所〉の感覚が得にくい,すなわち〈居場所〉が奪われや すいとも考えられ,「居場所」実践によって〈居場所〉を生み出すことは,必要なこと となる。
3-2.「居場所」実践における個別的支援との連携への期待
「居場所づくり」とよばれる実践は,多様である。たとえば,子ども食堂に関して,
厚生労働省の通知「子ども食堂の活動に関する連携・協力の推進及び子ども食堂の運営 上留意すべき事項の周知について」の説明によれば,「現在,子ども食堂は全国各地で 開設されており,その活動の在り方は,困難を抱える子どもたちへの支援を中心に活動 するもの,地域の様々な子どもたちを対象とした交流拠点を設けようとするもの,『地 域食堂』等の名称により,子どもたちに限らず,その他の地域住民を含めて対象とし,
交流拠点を設けようとするものなど,多岐にわたります。いずれの活動も,困難を抱え る子どもたちを含め,様々な子どもたちに対し,食育や貴重な団らん,地域における居 場所確保の機会を提供しているという意義を有しているものと認められます」(厚生労
働省
2018)とされる。また,生活困窮者自立支援制度の一環でとりくまれる,生活困
窮世帯の子どもの学習支援は,「生活保護世帯の子どもを含む生活困窮世帯の子どもに 対する学習支援や居場所づくり,養育に関する保護者への助言」と説明される(厚生労
働省
2015)。このように「子ども食堂」や「学習支援」が「居場所」をうたっている
困難を抱える子どもへの個別的支援と「居場所」実践の連携に関する考察 167
が,その内容の比重やメインとなるものは異なりながらも,食事,学習,団らん,遊 び,多様な経験といったさまざまな要素が組み込まれるように開催時間や場所が工夫さ れている例が多い。
さまざまな形態の実践が「居場所」と呼ばれるが,そのもとに共有される理念は,本 研究における〈居場所〉と同様,子どもたちやそこにかかわる人々の主観として,安心 感などとともにある〈居場所〉を生み出すというものであると考えられる。すべての子 ども,あるいは子どもを含む地域の人々を広く対象とする「居場所」では,そこを求め てくる人々にとって,その〈居場所〉はゆたかな経験となるだろう。一方,「『ここが君 の居場所だ』として,ある特定の物理的空間を提供されたとしても,そのことによって 直ちにそこが居場所となるわけではない」(藤竹
2000)ため,困難を抱える子どもの支
援を考える場合,その場は〈居場所〉となりうるのか,とりわけ,社会的〈居場所〉,人間的〈居場所〉どちらもが必要という前提のもと,失われている,つくりだす必要の ある〈居場所〉はどのようなものか,その子どもの背景にある状況や,本人の特性,希 望などから見出さなくてはならない。たとえば,家庭環境によって,心を落ち着ける人 間的〈居場所〉が得られない子どももいれば,不登校などにより人との関わりや経験が 少なく,失敗も受け止められながら何かに挑戦できるような社会的〈居場所〉を必要と する子どももいる。ひとつの「居場所」で,多くの機能を併せ持ち,個々の子どもの必 要に応じた〈居場所〉をつくることは難しい。空閑は,「地域に何らかの居場所があっ て,そこに集う人びとにとってはたしかに大切な場所であるが,その
1
つひとつの居場 所の中で,活動や支援が完結しないということ」,「居場所の内側と外側がつながる,開 かれた場であること」(空閑2018 : 24)を重要視しているが,個々の状況を把握しつつ
おこなわれる個別的支援のなかで多様な「居場所」実践との連携をはかることにより,子どもが必要な〈居場所〉を得られるような支援が展開できる。また多様な「居場所」
実践がそれぞれの特徴,強みを生かすこともできると考えられる。
3-3.個別的支援における「居場所」実践との連携のあり方に関する考察
厚生労働省の通知「子ども食堂の活動に関する連携・協力の推進及び子ども食堂の運 営上留意すべき事項の周知について」では,子ども食堂を運営するにあたり留意すべき こととして,生活に困窮する子どもや保護者の養育への支援が必要と思われる子どもを 把握した場合に,生活困窮者自立支援制度の自立相談支援窓口や,市区町村の子育て支 援の相談窓口,児童相談所に連絡するよう呼びかけている。また子供の貧困対策に関す る大綱では,その重点施策の一部として,生活困窮世帯の子どもへの生活・学習支援事 業がある。生活困窮者自立支援法にもとづく事業として取り組まれる生活困窮世帯の子 どもの学習支援がこれに位置づけられ,生活保護世帯を含む生活困窮世帯への支援のひ
困難を抱える子どもへの個別的支援と「居場所」実践の連携に関する考察 168
とつとして,その子どもに紹介されるかたちで行われる。
具体的な例として,平成
29
年度「地域における子供の貧困対策の実施状況及び実施 体制に関する実態把握・検証報告書」で取り組み事例として取り上げられる秋田市の団 体では,その団体の事業である対象者を限定しない「居場所」を利用した子育て世帯の うち,支援が必要な世帯があれば,それぞれの自治体窓口を紹介し,支援,相談につな いでいる。また,行政の子どもや家庭にかかわる部門では,必要と思われる世帯に対 し,「居場所」を紹介し,利用を促している。このように個別的支援と「居場所」実践の連携は,すでに期待が寄せられ,現に実践 されている。実際にそこには何が意図されているのだろうか。子どもの〈居場所〉とい う観点から考察すると,第一に,子どもやその家族が,支援を必要としていてもふさわ しい機関の相談窓口に自ら出向くことは容易でないこと,一方〈居場所〉と感じられる 場所であればそれを表出しやすいことをふまえ,〈居場所〉のひとつを生み出しうる
「居場所」実践が,困っている子どもやその家庭が適切な個別的支援とつながるきっか けをつくることへの期待が読み取れる。
しかしながら,「居場所」で関わった子どもを個別的支援につなぐ,個別的支援にお いて「居場所」を紹介するという連携は,担い手の視点での役割分担にとどまるのでは ないだろうか。子どもの生活を中心におき子どもの〈居場所〉という視点をもつことに よって,その連携がさらに子どもへの支援を充実させることになると考えられる。
「居場所」から個別的支援につなぐときには,その「居場所」は,個別的支援を受け るなかで「ときに『助けて』と言える場であり,自分の弱さを出せる場であり,社会に 向き合う際の後ろ盾となる場」(空閑
2018 : 23)としての〈居場所〉となりうる。その
ためには,「居場所」での関わりは,外部の個別的支援を受けながらも,生活の中の別 の場面において継続することが求められる。また,個別的支援のなかで「居場所」を紹介する場合,単にその地域のなかにある
「居場所」へ導くことだけが,子ども自身にとって必ずしも意味のあることではない。
〈居場所〉は,そこが自分の居場所であると感じる主観によって成り立つものであり,
本来は「居場所」へ参加することがそのまま〈居場所〉を得ることとはならない。ま た,〈居場所〉といっても,その機能の面において
2
つの方向性をもつ。それは積極 的・能動的で,成長や自己実現といった機能がある社会的〈居場所〉と,消極的・受動 的で,回復や安定の機能がある人間的〈居場所〉である。そしてその社会的〈居場所〉と人間的〈居場所〉はどちらも必要である。その子どもの背景にある状況によって,ど のような〈居場所〉をもち,どのような〈居場所〉が欠けており,必要であるのか,
個々に異なる。また,地域にある多様な「居場所」も,さまざまな発想や工夫で,子ど もの〈居場所〉を目指している。「居場所」を〈居場所〉と感じられなければ,そこに
困難を抱える子どもへの個別的支援と「居場所」実践の連携に関する考察 169
通わなくてはならないことがその子どもにとって心の負担となってしまうこともありう る。また時間や経験を重ねるうちに本人や環境の状況が変化し,求める〈居場所〉も変 化したときに,「居場所」が固定化してしまっていては,〈居場所〉を新たに得る,広げ る機会をかえって奪ってしまう可能性もある。個別的支援を軸として,個々の子どもの 人間関係,家庭背景や生活環境によってどのような〈居場所〉が求められるのかを把握 し,地域にある多様な「居場所」のなかで適している「居場所」を紹介することが必要 となる。また,参加した「居場所」が〈居場所〉と感じられないこと,子ども自身やそ の生活環境などの変化によって新たな〈居場所〉が必要となることなどを想定し,一度 ひとつの「居場所」を紹介するだけではなく別の選択肢とともに本人にとって意味のあ る「居場所」,そして〈居場所〉を得られるように寄り添っていくことが求められるだ ろう。
4.おわりに
本研究の目的は,困難を抱える子どもに対する個別的支援において,地域の「居場所 づくり」実践との連携をはかる意義を明らかにし,その連携による支援の可能性を提示 することであった。とくに,子どもの〈居場所〉に着目することを通して,子どもの生 活を中心に据えた視点による検討を試みた。個別的支援のなかで「居場所」を紹介す る,「居場所」で子どもの困難に気付き,個別的支援につなぐといった連携はすでに実 践されているが,それは担い手の役割分担としての連携にとどまってしまう。子どもの
〈居場所〉に目を向けることで,その連携にさらなる可能性を見出すことができた。本 研究では,〈居場所〉について,〈居場所〉は人の主観にもとづくものであり,成長や自 己実現の機能のある社会的〈居場所〉と,回復や安定の機能のある人間的〈居場所〉に 分類され,社会的〈居場所〉と人間的〈居場所〉はどちらも必要である,ととらえた。
個別的支援においては,支援を必要とする子どもやその家庭とつながるきっかけをつく る場,また支援を受けつつ課題解決に向き合うことに主体的になるために必要な場とし てその本人の〈居場所〉は重要であり,〈居場所〉を生み出しうる「居場所」実践との 連携をはかることは個別的支援において意義があると考えられる。一方で「居場所」実 践のなかでも,それぞれの子どもが必要とする〈居場所〉を得られるようにするには,
単一の「居場所」では難しく,個別的支援が軸となって多様な「居場所」のなかからそ れぞれの子どもに適している「居場所」に導くことが期待される。これらより,個別的 支援と「居場所」実践の連携について,子どもの〈居場所〉に目を向けることを通し て,次のように考察する。個別的支援において本人が主体的に課題解決に向き合う後ろ 盾として〈居場所〉が必要であることから,それを生み出す「居場所」実践との連携が
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重要であるといえる。また,子どもが必要とする〈居場所〉は個々に異なり,変化もあ りうるため,それぞれの子どもが必要とする「居場所」に参加できるよう,個別的支援 の視点が必要となる。
しかし,本研究では理論的な検討にとどまっている。より現実を反映した研究が必要 である。実際に困難を抱える子どもの個別的支援を担う,スクールソーシャルワーカー などの専門職が,子どもの〈居場所〉を,そしてそこにある問題をどのようにとらえて いるのか。また,その支援において「居場所」実践をどのように位置づけているのか。
その位置づけでは「居場所」実践がどのような機能を発揮しているのか。個別的支援の 視点からみる「居場所」実践の現実を反映させるべく,それぞれの現場での調査を今後 行っていきたい。
参考文献
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困難を抱える子どもへの個別的支援と「居場所」実践の連携に関する考察 171
The purpose of this report is understanding the benefit of supporting for individual children living in the difficult situation collaborating with crating place called “ibasho” for children, ex- pecting to expand the possibilities to support children.
His or her own comfortable place, also called “ibasho”, isn’t only created by other people.
This study doesn’t only focus on created “ibasho”, but also focuses “ibasho”. This word means that people think there their own “ibasho”.
Crated “ibasho” is important for making children positive to get over a difficulty because that can be their own comfortable “ibasho”.
It is needed to support children collaborating with many created “ibasho” and encouraging them to take part in the most suitable one.
Key words:Children, Support for individual children, Ibasho, Creating place called Ibasho , Collaboration
The Study of Collaboration between Supporting for Individual Children Living in the Difficult Situations
and Creating Place Called “Ibasho” for Children :
Focusing on Him or Her Own Comfortable Place, Also Called “Ibasho”
Hitomi Sasaki
困難を抱える子どもへの個別的支援と「居場所」実践の連携に関する考察 172