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「多国籍企業における社会的責任に関する考察」

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21 世紀社会デザイン研究 2013 No.12

「多国籍企業における社会的責任に関する考察」

〜台湾企業フォックスコン社工場における連鎖的自殺発生を事例に〜

菰田 雄士

KOMOTA Yushi

1. はじめに

近年、優良企業において、存続さえ危ぶまれるような不祥事や事件が発生している。

1919

年創業のオリンパスでは

M&A

merger and acquisitions

/企業合弁、買収)に 関連した不正会計がイギリス人元社長の告発により明るみになり、2012 年

9

月に東証 監理銘柄となった。1951 年設立の東京電力では、2011 年

3

11

日に発生した東北地 方太平洋沖地震に端を発する東日本大震災において、安全を謳っていた原子力発電所 に壊滅的なダメージを被り、その解決への道筋にはめどが立っていない。1943 年創業 の大王製紙では創業家の経営者、井川意高氏が不正に会社の資金を着服、多額の金を ギャンブルに投じていたことが報じられ、2012 年

10

月に実刑が確定した。何もかも

CSR

Corporate Social Responsibilities

/企業の社会的責任)の枠組みで論ずる意図は ないが、それらの企業の

CSR

報告書では、およそそのような事柄が発生しえないよう な、社会的な責任を全うする姿勢が説明されている。幸か不幸かその報告内容の真偽 そのものに対しての法的拘束力は現状無いが、風評の悪化や

SRI

(Socially Responsible

Investment

/社会的責任投資)組み入れ銘柄からの除外など、深刻な経営への影響が

出ており、危機に直面している。

本論文では台湾の

IT

(information technology)企業グループ、ホンハイ(Hon Hai

Precision Co., Ltd.

/鴻海精密工業、以下

Hon Hai

)の子会社、フォックスコン社の中 国工場における自殺者の連鎖的な発生をサプライチェーン上の

CSR

課題事例ととらえ、

CSR

の在り方や意義、そして今後とり得る対策や課題を論ずる。

本論文では

CSR

の考え方や理論形成の過程ではなく、事例に焦点をあてて掘り下げ

ることにした。それは、企業のサプライチェーン上の課題は、鏡に映ったその企業の

姿勢そのものを暗に示すと考えるからである。本論文では、類似事例との比較を通じ

た特殊性・普遍性の考察や、現地調査・取材が十分に行えていないが、2012 年

11

のバングラディシュアパレル工場での火災事故や

2012

年に労災認定されたワタミフー

ドサービスでの従業員自殺事件など、有名企業の従業員の生命に関わる事故、事例は

近年にも存在することから、自らも働く者として今後も注視し、継続的に研究を続け

たい。

(2)

(1)フォックスコン社について

フォックスコン社は

1974

年創業の台湾企業。従業員数は

2013

年末時点で

100

万人 を超えている巨大企業であり、その約

9

割を中国国内で雇用している。パーソナルコ ンピューター用の基盤、マザーボードなどの製造で急成長を遂げた。現在は主にアッ プルやヒューレット・パッカード、デル、ノキアなどの欧米企業、ソニー、任天堂な どの日本企業向けの最終製品を受託生産しているほか、一部自社ブランドの部品、製 品も生産している。同社は

1993

年に進出した中国以外にもインド、ベトナム、スロバ キア共和国、チェコ共和国、メキシコ、ブラジルに生産拠点を擁する。Hon Hai は台 湾市場に上場しており、2012 年度の連結売上高は約

3.9

兆ニュー台湾ドル(約

12

9,480

億円)、連結営業利益が

9,476

億ニュー台湾ドル(約

3,032

億円)、営業利益率は

2.34%である。Hon Hai

の売上げ規模は

2011

年のベトナム一国の

GDP

に匹敵する。

Hon Hai

グループの一社である

Foxconn International Holdings Limited

は、香港市 場へ上場しており、アニュアルレポート(年次報告書)を発行している。2012 年度版 が現時点の最新となるが、これによると同社は

9

つの工場を中国内に有している(北 京

2

箇所、杭州、深圳、天津、煙台、廊坊、成都、南寧)。

(2)連鎖的自殺の状況

2010

10

月、香港に拠点を置く

NGO、SACOM

が発表した報告書、

Workers as machines: Military Management in Foxconn

の中に、自殺を図ったフォックスコン従 業員の概要がまとめられている。同報告書をもとに、2010 年以降

2012

6

月までの 事象を加え、以下に連鎖的自殺の全容と属性・傾向をまとめた。

・自殺実行者総数:23 名

・男 女 比:男性:16 名(70%) 女性:7 名(30%)

・年  代:10 代:7 名(30%) 20 代:16 名(70%)

・自殺結果:

4

名は負傷、

19

名は死亡が確認されている。

・発生工場: 深圳

16

件(70%)、成都

2

件、北京

2

件、広東省南海

1

件、江蘇省昆山

1

件、山西省太原

1

・出 身 地: 湖南省:5 名、河南省:4 名、江西省:1 名、雲南省:1 名、安徽省:1 名、河北省:1 名(筆者注:出身省が新聞記事から把握できた

13

名を対 象とした。)

・入社後経過年数: 入社時期が特定できた

9

名中

5

年以上勤務

1

名のみ。8 名は長く て入社

13

か月後、早くて入社当月の自殺実行。

・自殺手段:すべて飛び降り自殺。寮の建物から飛び降りしているケースが多い。

・報  道:15 件目まで実名報道されている。それ以降は実名報道されていない。

(3)

21 世紀社会デザイン研究 2013 No.12

【属性・傾向】

平均年齢:20.6 歳。30 代以上の自殺実行者はいない。

発生工場:事例の

7

割が深圳市所在の工場で発生している。

2011

年以降の発生:23 件中

5

件。自殺者は減少傾向にある。

出 身 地:出身地が判明した

13

事例全てにおいて、工場所在地以外の出身者である。

自殺の手段:飛び降り自殺をしているという共通点がある。

フォックスコン社の対処療法的対策により、

2010

年当初に比べ、自殺の発生状況は 沈静化してきているが、2013 年においても、工場では暴動やストライキが発生してお り、落ち着きを取り戻したとは言えない状況にある

(1)

3. 関係者の対応と労働環境の現実

(1)関係者の対応

関係当事者たちが連鎖的自殺問題をどうとらえているかを考察すべく、フォックス コン、アップル、Fair Labor Association (以下

FLA(2)

)の主な対外コメントをまとめ る。社名付きで引用されているインターネット上の情報も活用することとし、信頼性 確保の観点から、可能な限り大手通信社の情報を活用した。

【フォックスコン】

「フォックスコンでの自殺率は中国全体の自殺率よりも低く特別な状況ではない。」

(3)

(フォックスコンの

CEO

テリー・ゴウ氏が自殺報道の高まりを受けて発言した内容で ある。あくまで中国全土平均と比較しての発言であり、年齢層、性別、職業、出身地 域等、属性を加味していないため、説得力に欠ける。)

「搾取工場の何が悪い?(What’s wrong with sweatshops?)」

(4)

(同じくテリー・ゴウ 氏のこの発言は、台湾で行った成績優秀社員向け報奨旅行でのスピーチ内容として広 まった。台湾の

The China Post

紙は

2012

4

29

日の記事において、「法の範囲内 で一生懸命働くことは悪いことではない」という意味合いの発言であった、と発言の 趣旨に補足的説明を加えている

(5)

。)

【アップル】

「私たちは全世界のサプライチェーンにおいて、一人ひとりの労働者に配慮していま

す。どんな事故も問題であり、労働環境に関する問題は懸念材料です。(中略)私たち

は、決してただ立ちすくむわけではなく、サプライチェーン上に起こるそれらの課題

に目をつむることも決してありません。」 (2012 年

1

月、フォックスコン社労働問題の

世論の高まりを受けてアップル社

CEO

ティム・クック氏が、同社従業員にあてた電子

メールの内容

(6)

。)

(4)

らの提言を

100%サポートする。私たちのチームはこれまで何年にも亘ってサプライ

ヤーの労働環境改善に努めてきており、私たちのサプライチェーンをこの業界のモデ ルとしていきたい。」 (アップル社が

FLA

の報告を受けて

2012

3

28

日に発表した コメント

(7)

。)

「私たちは現在、約

100

万人のサプライヤーの従業員勤務データを一週間単位でモ ニターしています。一週間

60

時間という、我々の規範に定める労働時間上限に対し、

93%の従業員においてこれを順守しています。」(8)

【FLA】

ABC :「フォックスコン社はいわゆる搾取工場なのでしょうか?」

FLA :「いいえ、フォックスコン社はとても近代的な工場です。」

ABC :「児童労働を示す事実はありましたか?」

FLA :

「いいえ、ありません。児童労働も強制労働もありません。」

(フォックスコン社工場において搾取労働も児童労働もない、とする

FLA

の発言

(9)

。 その後の

2012

10

月、フォックスコン社は

FLA

が調査を行っていない工場での児童 労働を認めており、上記の「児童労働はなかった」とする発言は「FLA が調査した限 り」という限定つきのものとしか理解できない。)

アップル社は事態収拾に向け、サプライチェーンマネジメントを強化し、情報発信 を社内外に行うようになってきている。一方、フォックスコン社の対応は必ずしも状 況に対し適切なコミュニケーションとは言い難く、アップル社および

FLA

のスタンス とは一致していない。また、SACOM の報告書にある内容を正とすれば、アップル社 や

FLA

の見解は正しい姿を映していないように理解できる。いずれにしてもお互いが 歩み寄り、実態の改善に向けた歩調をより確かに実行してくれることが強く望まれる。

(2)労働環境の実態

一方、労働者が窮していると考えられる労働環境の実態はどうなのか、

SACOM

お よびニューヨークに拠点を置く

NGO、China Labor Watch

の記事、報告から、主な課 題点と考えられる

3

項目を整理した。

長時間労働/サービス残業/休暇

・ピーク時には月間の残業時間が

120

時間にも及ぶ。

・一日

10

時間、週

6

日勤務が常態化しており、新製品発表前は

13

日間連続勤務、12 時間労働ということもあった。

・残業/休日出勤に対する時間給の加算がなく、不払い残業を経験したという報告が 多数ある。

・成都工場では月

80–100

時間、深圳工場は

50–80

時間、鄭州工場では月に

70–80

時間

の残業が発生している。残業を断ればペナルティの発生する、実質の強制残業が横

(5)

21 世紀社会デザイン研究 2013 No.12

行している。

・残業時間を減らす試みは確認できるが、生産目標が高まってより厳しい労働環境に なった。

非正規雇用/インターン

・重慶では

119

校の職業訓練校と契約し、インターンとして就業させた。学生労働者 は学びが主眼の職業訓練ではなく生産活動そのものに従事していた。

2010

6

月、深圳工場では新規従業員採用を凍結したが、学生労働者を大量に採用 した。昆山工場、成都工場でも多数の学生労働者の存在は常態化している。

労働環境/労働安全

・2 時間に

10

分の休みを奨励している、とするが、実際にはトイレに行くのが精一杯 で、作業中トイレに行く際に提示が必要な用紙は数が少なく利用しにくい。

・加工作業で使用する化学薬品の種類が示されていない。従業員自らインターネット で確認した結果、有害物質が含まれた液剤であることが判明した事例もある。

・妊娠中の女性が夜間シフト勤務に従事した報告がある。

・アルミの削り粉、ベンゼンの過剰使用によって体調を崩す事例が多数ある。

・保護具が充分提供されず、防塵用のマスクは要求しないと支給されない。

・作業ミスの内容は掲示板にて報告され、罰としてトイレや作業場の床の掃除をさせ られる。

・警備員が従業員を厳しく監視、管理、時には体罰を従業員に加える。

これらの情報から、少なくとも①長時間労働/サービス残業/休暇について、中国の 労働法を満たしていないことがうかがえ、至急の対策が必要な状況である。また、②、

③についても、明白な法律違反の判断が難しいとしても、安全な職場運営のためには改 善すべき項目が多いことは明らかである。企業が健全に運営されるために不可欠な従業 員の働きやすさを担保することがフォックスコンには必要不可欠な要素である。

4. 連鎖的自殺が示す社会の歪み

(1)中国という国家社会における労働者のおかれた環境

中国は、社会主義を社会システムの基本としながら、1978 年から経済的開放を推進 し、資本主義の経済システムの一環で「世界の工場」としての地位を確立してきた。

その結果、現代の中国労働市場は現在以下のような傾向、特徴を有している。

・農業や漁業など第一次産業従事者が減り、民間企業に勤務する割合が高くなった。

・賃金レベルは物価以上に上昇しているが、一方、地域間格差が顕在化している。

・ワーカー(一般工職)の待遇は全国就業者平均収入以下である。

・外国からの投資の流入によって国有企業以外への就職あるいは転職が進んでいる。

(6)

ていた福利厚生制度は、個人または民間企業の負担を伴うようになり、労働者の負担 が増大している

(10)

。統計によると、中国内の集団企業工場に勤務する労働者の諸待遇 は、他の集合(国有企業勤務者や一般企業勤務者)に対して相対的に悪く、衣食住の 環境整備や労働組合の整備状況は依然として発展途上にあると言える。

China Labor Watch

の報告書、

Beyond Foxconn

では、フォックスコン社を含め

10

社の労働環境について、3 ― (2)でまとめた内容とほぼ同類の指摘をしており、上 述した労働環境も合わせて考察すれば、本論にて調査したフォックスコン社の事例お よびその劣悪な労働環境は、一社固有の問題ではない、と結論付けることができる。

(2)NGO を中心とする市民団体の活動、役割

農村部から都市部に働きに出た中国の労働者たちは、戸籍制度上の制約もあり、社 会保障を含め、自らを守る有効な手段を持ち合わせていない。そのような背景から、

労働と人権に関して活動する

NGO

が彼らの相談窓口的な役割を果たしている。今回 の事例においても、市民、労働者の味方となって

NGO

が社会に問題提起をする啓発 の役割を積極的に担っており、その言葉の力は少しずつだが着実に一般市民の理解を 得るようになってきている

(11)

しかしながら政府側は、NGO のアドボカシー(提唱、政策提言)によって市民生活 の実態が暴かれることを快く思ってはいない。SACOM が

South China Morning Post

の記事を引用する形で報告している内容によれば、2012 年に入って

7

月までに広東省 の

7

つの人権啓発

NGO

の事務所が閉鎖、あるいは閉鎖を余儀なくされたという

(12)

。 李氏の著書「中国の市民社会」

(13)

によれば、近年市民活動が活発化しており、市民活 動から生まれた

NGO

団体も認知されるようになってきている。しかしながら、上述 のとおり、中国内での彼らの活動はいまだ政府機関の監視下にある。NGO の活動を制 限したところで労働実態は改善せず、また市民一人ひとりの心に積算される不満や怒 りは解決されないことは明白だが、とにかく火種を権力によっておさえこもう、とい うのが政府の偽らざる思惑といえよう。

(3)企業という社会:フォックスコン社の CSR 報告書

フォックスコン社も多くの優良企業同様、CSR の枠組みを経営に取り入れており、

CSER Report(E

は環境を示す)を

2008

年より毎年発行している。それらを読み解く

と、以下のことが言える。

・連鎖的自殺のあった

2010

年に発行された

2009

年版では、社会保障やカウンセリン グ制度の充実など、改善点も見られるが、自殺という事象についての直接的言及は ない。

・2011 年版では社員食堂の改善、賃上げ、EAP (Employee Assistant Program、メンタ ルヘルスケアプログラムの総称)導入など、明確な従業員の労働衛生安全に関する 対策の事実が表記され始めている。

・経年で追えるデータは労災度数率だが、

2010

年の労災度数率が

1.48

と突出して高い。

(7)

21 世紀社会デザイン研究 2013 No.12

総括として、フォックスコンの

CSER

レポートに明確な破綻は確認できず、連鎖的 自殺を予見することはできなかった。連鎖的自殺発生以降初の発行物となる

2009

年度 版においては、労働安全衛生、福利厚生に関する記載が若干ではあるが強化され、連 鎖的自殺への

CSER

レポート上での配慮が把握できる。しかしながら経年で見て大き な変化がないことは、連鎖的自殺の事実とは対照的に、報告内容全体の真偽に疑問を 抱かせる。

同社が信頼回復のために導入すべき方策としては、①第三者認証など、外部の目か ら見ての正しさを証明できる手法の導入や、②メンタルヘルスや労働災害率の積極的 なデータ開示である。こうした諸策の導入を通じて社会と向き合う姿勢を明確に表明 することが必要であり、それはすなわち

CSR

R、Responsibility

を積極的に果たすこ とにつながる。

(4)中国にとっての自殺問題

北京市衛生局が

2009

9

月に発表している統計

(14)

によれば、中国では年間

25

万人 が自殺死、

10

万人あたりの自殺者は

22.23

人、としている。これを

WHO

の統計に照 らすと日本に次ぐワースト

10

位となる。また、AFP 通信は、2008 年

12

月の記事

(15)

で、中国の年間自殺者数は

25

30

万人、世界の自殺者の約

25%を占めると報道して

いる。英国のレンタルオフィス世界大手のリージャス(Regus)社が行った、サラリー マンのストレスに関する調査において、中国で働くサラリーマンの回答のうち、75%

の回答者が前年に比べてストレスが増大していると答え、73%が主な要因が仕事であ ると答えている

(16)

人民網日本語版も同様に、「中国での過労死が年間

60

万人に達し、日本以上の過労 死大国になった」と伝えている

(17)

。WHO のデータのみならず複数の調査や記事が、

中国の都市労働者が住まう社会は大変に住みにくく生きづらいものであることを明示 している。

本論で取り上げる自殺事象について、これまで見てきた報告書や記事が、労働者の 自殺と労働環境の改善すべき内容を同一の記事ないし報告書にまとめ、企業側をけん 制している。本節で調査した内容を見ても、農村出身の都市労働者の方々が厳しく孤 立した生活を強いられているのは想像に難くない。

23

名の自殺実行者の全員の理由が、

職場環境の不整備や過酷な労働条件だけであったとは結論付けられないであろうが、

限定的とはいえ、中国という国家、社会としての労働環境の改善という課題は深刻化 しており、労働者層に対する積極的な生活基盤整備と自殺対策が急務となっている。

5. 結び〜格差と多国籍企業と国境

社会には様々な「境」が存在する。例えば国境は、常に何らかの意味を持つ境であっ

た。民族間紛争ののちに合意された国境、侵略や略奪の歴史から解放される際に取り

決められた国境、宗教的思想の不一致や文化・言語の違いを示す国境など、国境には

それぞれ歴史があり、意味を有する。だが現在、多国籍企業はその国境をほぼ無きも

(8)

さまざまに差異が存在するが、経済主体である企業は巧みに難関をクリアし、ビジネ スにつなげてきた。筆者はこの「境」、多国籍企業がビジネスを行うにおいて、国境を 意識し認識しなおすことから出発し直すべきではないかと考える。

フォックスコン社はその優れた生産性や発注元企業への献身的協力姿勢により、重 要な顧客を得た優れた企業であると考えられるが、その連鎖的自殺の調査や対策が本 格化したと考えられるのは、自殺連鎖の初期ではなく、アップル社が

FLA

に加盟した

2012

年に入ってからである。それまでの期間は、フォックスコン社とアップル社が別 の国の別の企業であるがゆえに、積極的な問題解決を暗に妨げていたと考えられる。

デビッド・コーテンも、著書、「ポスト大企業の世界」において、行き過ぎた資本主 義と非社会的な存在としての企業を嘆き、「境」という概念を今一度認識すべきと説い ている

(18)

。また、見方は異なるが中谷巌氏は、植民地時代が終焉を迎え、「地理的フ ロンティア」、「金融フロンティア」、「自然フロンティア」の消滅に、資本主義の行き 詰まりの原因を見ている

(19)

。東洋経済社は、領土問題に揺れる日韓中の情勢を踏まえ、

2012

10

6

日号の週刊東洋経済を「国境から世界を知る」と題した。地図上は単 なる線であるが、国境にも歴史的意味、背景が含まれている。国境を越えるという行 動はいつどんな時でも慎重に、細心の注意を払って行われるべきことで、企業経営に おいてごく当たり前になってしまっているグローバル化への傾倒は、多国籍企業に勤 めるもの一人ひとりが改めてその意味や、負の影響を生じるリスクを理解するべきで あろう。

「境」は秩序を示すこともあれば両側の違いを示すこともあり、領域や陣地を示すこ ともあれば物理的な壁を示すこともある。多国籍企業と言われる法人は、もちろん、

求められる法を順守してビジネスを拡大してきた。であればこそ、問題やいさかいが 発生しないように細心の注意を払う義務があり、有事にはその両側の主張を理解しう る、「境」を越えた多国籍企業の責任として、主体的に問題解決にあたることが、ある べき責任の果たし方であろう。

本論文を締めくくるに当たり、筆者は

2012

11

月に香港、深圳を訪問した。中国 側(深圳側)への入国には大きな深圳河にかけられた橋を徒歩で渡る。徒歩で国境(正 確には辺境)を渡っている際、ここが本論で述べている格差、豊かさと貧しさの間の 目に見える「境」のひとつなのではないか、と考えた。実際に、川の向こう側(深圳 側)と川の手前側(香港側)で暮らす人々の経済的豊かさは大きく違う。深圳河にか けられた入境のための橋は、日常は目に見えることのない、多国籍企業の活動に携わ る者が見るべき「境」であることを筆者は強く感じた。縁あって本論文を読んでいた だいた方にも改めて「境」を意識した企業活動に従事いただくよう願いたい。

■註

(1) 2013923日、ウォールストリートジャーナルが同社工場での暴動を報じている。

“Foxconn says 11 injured in Large-scale Fight at Chinese Campus” / WSJ.com (http://online.

wsj.com/article/SB10001424052702303759604579092641376933788.html)

(2)米国の非営利団体。フォックスコンの現地監査を担当した。www.fairlabor.org/

(9)

21 世紀社会デザイン研究 2013 No.12

(3) www.wired.com/magazine/2011/02/ff_joelinchina/all/ (最終アクセス日 2012年1227 日)

(4) SACOM20125月発行の報告書、“Sweatshops are good for Apple and Foxconn, but not for workers”より引用。

(5) www.chinapost.com.tw/taiwan/national/national-news/2012/04/29/339453/Terr y-Gou.

htm(最終アクセス日 20131029日)

(6) 9to5mac.com/2012/01/26/tim-cook-responds-to-claims-of-factor y-worker-mistreatment-we- care-about-ever y-worker-in-our-supply-chain/(最終アクセス日 20131029日)

(7) money.cnn.com/2012/03/29/technology/apple-foxconn-report/index.htm(最終アクセス 日 2013年1029日)

(8) www.apple.com/supplierresponsibility/labor-and-human-rights.html( 最 終 ア ク セ ス 日 20131029日)

(9) www.youtube.com/watch?v=_RBW2bcMzuU(最終アクセス日 20131029日)

(10)「改革開放の以降、コスト負担者の変更およびコスト負担の増加が、企業や個人にとって大 きな課題になっている。」(松田陽一・于楠、「中国における企業の福利厚生制度に関する研 究」、2010、P266)

(11) 山下昇/龔敏(ゴン・ミン)編著、『変容する中国の労働法』、P120

(12) “Guangdong shuts down at least seven labor NGOs”、SACOM、2012727日、 sacom.

hk/archives/951(最終アクセス日 20131029日)

(13) 李妍焱(リ・ヤンヤン)、2012、『中国の市民社会』、岩波新書

(14) japanese.bjhb.gov.cn/jiankang/200909/t20090927_30351.html (最終アクセス日 2014年13日)

(15) www.afpbb.com/article/life-culture/life/2547707/3598961 (最終アクセス日 2014年13日)

(16) Regus plk, 2012, From distressed to de-stressed.

(17) 人民網日本語版、20121029日。

j.people.com.cn/94475/7995043.html(最終アクセス日 201413日)

(18) デビット・コーテン著、2000、『ポスト大企業の世界』、P243–244、シュプリンガー・フェ

アラーク東京

(19) 中谷巌、2012、『資本主義以後の世界』、徳間書店

参照

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