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多国籍企業の本社と子会社との間の関係に関する考察

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(1)

1 はじめに

 これまでの企業の戦略研究を振り返ってみる と,幾つかの時期に分けられ,それぞれの時期 において,それまでに蓄積されてきた研究成果 を批判的に継承しながら,新たな理論を発展さ せてきた経緯を考察できる。

 まず,企業の戦略研究の端緒として広く認識 されているのは,

Ansoff

(1965)の著書『企業戦 略論』であるとされる。その後,1960年代から,

SWOT

分析」という戦略分析のフレームワー クは

Harvard Business School

Kenneth Andrews

によって提唱される。企業の内部環境と外部環 境における諸要因は,「強み(

Strengths

)」,「弱 み(

Weakness

)」,「機会(

Opportunities

)」,「脅威

Threats

)」の4つのカテゴリーに分類され,内

部要因とされた「強み」および「弱み」,と外 部要因とされた「機会」および「脅威」との関 係を巡って,企業の戦略研究は展開されること になる。

 また,1970年代後半に入ると,企業の戦略研 究の焦点は競争優位の源泉を解明することに当 てられる(

Grant,

1991

, p.

20)。その後1980年代 初頭から,

Porter

(1980)は「ファイブフォー

ス分析」という産業構造分析のフレームワーク を構築し,収益性を決める競争要因を「新規参 入者の脅威」,「代替品の脅威」,「売り手の交渉 力」,「買い手の交渉力」,「競争企業間の敵対関 係」の5つに分類する。

  し か し,1990年 代 に な る と,

Barney

(1991)

は図表1のように「

SWOT

分析」と「ファイ ブフォース分析」との関係を整理し,外部環境 に着眼した

Porter

の理論の限界を指摘し,企業 が収益を最大化させるうえで,最も大きな影響 を持つのは,

Porter

のいう産業の競争構造では なく,企業が保有する内部資源であると主張 し,

Wernerfelt

(1984)らとともに,リソース・

ベースド・ビュー(

RBV

)の理論を提唱した。

 このように,リソース・ベースド・ビューの 理論は企業の戦略研究における1つ大きな学派 として,多くの研究が行われてきた。しかし,

その多くは,企業を1つのエンティティと捉え ており,グローバル本社と地域子会社との間に 発生する経営資源の移転に関する研究や,持続 的競争優位を成す経営資源を異なる地域市場ご とにわけて,その効果を比較分析する研究があ まり行われていなかった。

 本稿は,米国と中国の自動車市場におけるト

*早稲田大学大学院社会科学研究科 博士後期課程2年(指導教員 長谷川信次)

論 文

多国籍企業の本社と子会社との間の関係に関する考察

― 経営資源移転と地域特殊的競争優位を中心に ―

梁   成 杰

(2)

ヨタ自動車とフォルクスワーゲンの事例と関連 データを分析することによって,多国籍企業の グローバル本社と地域子会社との間の経営資源 移転と,地域における持続競争優位との関係に ついて考察することを目的とする。

2 リソース・ベースド・ビュー理論と その限界

(1)リソース・ベースド・ビュー理論の誕生 と背景

 リソース・ベースド・ビュー理論は,

Porter

の競争戦略のフレームワークの限界から発展さ れてきたとも言える。

 

Barney

(1991)は,

Porter

の競争戦略理論の 二つの前提を指摘した。1つは,同一産業にお ける各企業がコントロールする戦略的資源や追 及する戦略において,同質になっていることで ある。もう1つは,同一産業の各企業における 異種の資源の存在期間が非常に短く,最終的に 同種の資源しか存在しないようになることであ る。しかし,これらの前提であれば,同一産業 における各企業の収益性の違いを説明できな いという限界が

Porter

の競争戦略理論にあると

Rumelt

(1984)は指摘した。さらに,

Barney

は,

それらの限界を解消するために,

Porter

の競争

戦略理論を発展させる形で戦略的資源に着眼し て新たに二つの前提をおき,リソース・ベース ド・ビューを新しい理論として確立した。1つ は同一産業における各企業がコントロールする 戦略的資源が異種であること。もう1つはこれ らの戦略的資源が企業間で流動することが困難 であるため,長期間にわたり,その異種性を保 つことができることである。

 この二つの前提,つまり「異種性(

Heteroge- neity

)」と「非流動性(

Immobility

)」をもとに,

Barney

は図表2のように

VRIO

フレームワーク

を提唱し,企業の持続的競争優位を生み出す戦 略的資源は,次の4つの条件を満たさなければ いけないとしている。すなわち,資源に1)価 値(

Value

)があり,2)稀少性(

Rareness

)を 持ち,3)模倣困難性(

Imitability

)を有し,4)

組織体制(

Organization

)が適切に整っている,

その4つの条件を満たす資源を持つ限り,当該 企業はそれらの資源を強みとして,それに基づ いた戦略によって持続的競争優位を獲得するこ とができるとされる。

(2)リソース・ベースド・ビュー理論の発展  石川(2005)によると,リソース・ベースド・

ビュー理論が誕生以来,その理論的発展は主に

「静的」と「動的」な2つのフレームワークの 展開として捉えることができる。

図表1  The relationship between SWOT analysis, resource based model and models of industry attractiveness

図表2 VRIOフレームワーク  出所:Barney (1991)

 出所: Barney,岡田正大訳(2003)『企業戦略論(上)』

価値がある

NO NO

YES NO

YES YES NO YES YES YES YES

弱み 強み

強みであり,固有のコンピタンス 強みであり,持続可能な固有のコンピタンス 稀少か

模倣 コストは 大きいか

組織体制

は適切か 強みか弱みか

(3)

 

Rumelt

Barney

らを代表として発展してき た「静的」なフレームワークは,新古典派の価 格理論の均衡モデルに依拠しながら,企業のも つ諸資源を分析し,その中に持続的競争優位を 生み出す資源が経済的レントを発生させるとい う理論構造を構築している。一方,

Wernerfelt

らを代表として発展してきた「動的」なフレー ムは,経済的不均衡という動的なコンテキスト において,既存資源の利用と新しい資源の開発 のバランスが企業の成長戦略の鍵であると主張 し,持続的競争優位を生み出す諸資源がどのよ うに蓄積,構築,発展していくかに着眼して理 論を構築している。

(3)リソース・ベースド・ビュー理論に関す る先行研究の課題

①経営資源の移転

 

Barney

は「価値」,「稀少性」,「模倣困難性」,

「組織体制の適切性」の4つの条件を満たした 経営資源は企業にとって強みとなり,持続的競 争優位を生み出せるとしている。しかし,国を 跨いで経営活動を行う多国籍企業にとっては,

4つの条件以外にも考慮しなければいけない要 素があると考えられる。その1つは経営資源の 移転である。

 大田(2013)は経営資源が国境を越えて価値 移転可能性を考える際に,考慮すべき点が2つ あると指摘した。1つは,その経営資源が性質 的に国境を越えて移転可能であるかどうかとい うことと,もう1つは,移転先において価値を もつかどうかという点である。

 しかしながら,実際,経営資源が

VRIO

の性 質を保持したままで移転ができた場合でも,移 転先の市場において持続的競争優位を生み出せ

るかどうかはまた,別問題である。

②地域市場における持続的競争優位

 リソース・ベースド・ビュー理論の誕生経緯 から,これまで関連研究のほとんどは企業の内 部経営資源と持続的競争優位に着眼して理論を 展開してきた。これまでの先行研究からも,市 場を変数として考慮しないことを議論の前提と してきたことを考察できる。しなしながら,多 国籍企業が多くの異なる特徴のある地域市場に 事業を展開している今日,市場そのものを一つ の要素として考慮しなければいけなくなる。企 業の経営資源と性質の異なる地域市場との関 係,あるいは,経営資源の異なる地域市場への 移転とそれに伴う持続的競争優位の生み出し方 の変化等を対象として研究を行う必要があるこ とが明らかである。

 本稿では,米国と中国の自動車市場における トヨタ自動車とフォルクスワーゲンの事例と関 連データを比較・分析し,性質の異なる地域市 場を1つの要素として取り入れながら,多国籍 企業のグローバル本社と地域子会社との間の経 営資源移転と地域における持続競争優位との関 係を考察したい。

3 トヨタ自動車とフォルクスワーゲン の生産方式と経営資源移転

 

Barney

VRIO

フレームワークに従えば,高 いプロダクトクォリティを生み出す生産方式は 経済的価値,稀少性および模倣困難性を有し,

適切な組織構造を要する。自動車企業にとって,

生産方式は持続的競争優位の源泉たる経営資源 である。この節はトヨタ自動車とフォルクスワー ゲンの異なる生産方式を整理し,生産方式が1

(4)

つの経営資源として異なる市場へ移転する際に その資源の性質の変化について考察したい。

(1)トヨタの生産方式

 トヨタ生産方式は,「徹底したムダの排除」

の思想を根底として,豊田喜一郎らが提唱して いた考えを大野耐一が体系化したものである。

主に,「自働化」と「ジャスト・イン・タイム」

の2つの考え方を柱として確立されており,今 日では世界に知られる生産方式である(1)。  「自働化」とは,不良が発生した際に機械が 自動的に停止し,後の工程へ良品のみを送るよ うにする考え方である。また,トヨタの工場に は「アンドン」と呼ばれる異常表示盤のシステ ムが設置され,生産工程の異常がひと目でわか る仕組みになっている。

 「ジャスト・イン・タイム」とは「自働化」

で保証された良品を前提に,「かんばん方式」

という独創的な生産管理方式をベースに,各工 程において生産計画に応じて「必要なものを,

必要なときに,必要なだけ」が供給されること によって,「ムダ,ムラ,ムリ」をなくし,生 産効率を向上させる考え方である。

 このように,トヨタ自動車が「自働化」と

「ジャスト・イン・タイム」を柱として独自の生 産方式を確立することによって,高いプロダク トクォリティを生み出す考え方が見て取れる。

(2)フォルクスワーゲンの生産方式

 フォルクスワーゲンは生産方式としてこれ まで採用してきた「プラットフォーム共通化 戦略」を取りやめ,2008年頃から全面的に「モ ジュラーツールキット戦略(

Modular Toolkit Strategy

)」に切り替えた(2)

 「モジュラーツールキット戦略」は2008年に フォルクスワーゲングループの傘下に入ったス ウェーデンのトラック製造企業であるスカニア

社(

Scania AB

)がもつ生産方式に関するノウ

ハウである。従来,自動車のホイールベース,

フロアーなどをはじめ,多くのスペックが似た 車種間でしか採用できない「プラットフォーム 共通化戦略」の欠点を克服し,「広範囲の標準 化によって車の部品の数を最小化する」という 思想のもと,モジュール化の主な対象をプラッ トフォームとせずに,プラットフォームを構成 する機能ユニットや部品としている。

 日野(2013)によると,「モジュラーツール キット戦略」は機能ユニット(例えば,エンジ ン)を幾つかの構成要素に細分化し,それぞれ をモジュール化し,さらに各構成要素の下位の 部品に関しても,「入れ子構造」的にモジュー ル化する。それらのモジュール化した部品の組 み合わせをアレンジすることによって,多様な 性能,性質の機能ユニットを実現する。

 その利点として,小川(2012)が指摘したよ うに,グローバル市場の多様性への対応および 組織肥大化防止の同時実現を図り,モジュール の単純な組み合わせと良い車作り,あるいは低 コスト設計と高品質を両立できるとされる。

 また,モジュール化された部品を組み合わせ るだけで製品を設計できるため,顧客向きの製 品設計と社内向きの生産技術をひとりの技術者 が担当できるので,日本の自動車メーカーが多 く採用している「大部屋方式」(3)より調整時間 を省き,迅速に全体最適解を得られる。

 このように,フォルクスワーゲンが「モジュ ラーツールキット戦略」という独自の生産方式 によって,高いプロダクトクォリティを確保す

(5)

るための取り込みが見て取れる。

(3)VRIO を保持した経営資源の移転

 前述のように,トヨタ自動車とフォルクス ワーゲンの生産方式に大きな違いが存在してい ることが確認できる。そこで,異なる生産方式 によって生み出されたプロダクトクォリティ が,米国と中国の自動車市場において,どれほ どの差をもたらしているかについて,米国の

J.

D. Power

社の市場調査データをもとに分析を行

おう。

  図 表 3 は,

J. D. Power

社 の 各 年 度 の『

U.S.

Vehicle Dependability Study

』と『

China Vehicle Dependability Study

』の調査データをベースに 算出した,米中自動車市場におけるトヨタ自動 車とフォルクスワーゲンのプロダクト・クォリ ティ・インデックス(

P

Q

I

)をまとめたチャー トである(4)

P

Q

I

の数値が高ければ,製品の品 質が高いことを表している。また,米中自動車 市場において,トヨタ自動車のフォルクスワー ゲンに対するプロダクトクォリティ優位を指標 化したものは,図表4で示されている(5)

 図表3と図表4で示されたように,米中自動 車市場において,トヨタ自動車はフォルクス ワーゲンに対して,比較的に高いプロダクト クォリティを持つことがわかる。こうした米中 自動車市場におけるプロダクトクォリティの差 は,両市場に移転された両社の生産方式の違い を反映しているものとみなすことができる。

 また,前述のように,生産方式は

VRIO

の特 性を備える経営資源である。したがって,図表 5が示したように,トヨタ自動車にとって,競 争相手であるフォルクスワーゲンに対して,高 いプロダクトクォリティを生み出すトヨタ生産 方式という経営資源が,

VRIO

の特性を保持し たまま,米国自動車市場と中国自動車市場へそ れぞれ移転することができることを考察できる。

図表3 米中自動車市場におけるトヨタ自動車と VWのPQI比較

  年度 トヨタ VW トヨタ/VW

米国市場

2010 2.6 1.5 1.7 2011 2.6 1.8 1.4 2012 2.8 1.7 1.6 2013 2.9 1.6 1.8 2014 3.1 1.7 1.8 中国市場

2012 3.2 2.6 1.2 2013 3.7 2.5 1.5 2014 2.1 2.1 1.0  出所: J. D. Power社の各年度の『U.S. Vehicle De-

pendability Study』と『China Vehicle Depend- ability Study』のデータをもとに,筆者が編 集・作成。

図表4 米中自動車市場におけるトヨタ自動車の

VWに対するPQI優位

図表5 VRIOを保持した経営資源の移転

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0

2010 2011 2012 2013 2014

⡿ᅜ ᕷሙ

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 出所:図表3に同じ

 (筆者作成)

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(6)

 すなわち,次の考察が支持される結果となっ た。

・考察1

 

VRIO

の特性を有する経営資源は,異なる地 域市場に,

VRIO

の特性を保持したままで移転 することが可能である。

4 トヨタ自動車とフォルクスワーゲン の経営資源移転と地域競争優位  前節では,経営資源が

VRIO

の特性を保持し たままで異なる地域市場へ移転できることを考 察した。それをもとに,移転ができた経営資源 は異なる地域市場において,持続的競争優位を 成すことができるかについて,米中自動車市場 におけるトヨタ自動車とフォルクスワーゲンの 関連データを用いて,分析したい。

 プロダクトクォリティを生み出す生産方式 を,

VRIO

の特性を有する経営資源として認識 できることは既に説明された。

VRIO

の特性を 持つ経営資源を,米中自動車市場におけるプ ロダクトクォリティインデックス(

P

Q

I

)で把 握し,地域市場における持続的競争優位を米中 自動車市場における市場シェアで把握しよう。

P

Q

I

を説明変数,市場シェアを目的変数とし て,単回帰分析を行い,移転した経営資源と地 域市場における持続的競争優位との関係性につ いて分析を行う。

(1)米国市場におけるトヨタ自動車とフォル クスワーゲンの生産方式と地域競争優位 の関係

 図表6は米国自動車市場におけるトヨタ自動 車とフォルクスワーゲンの

VRIO

特性を持つ経 営資源と地域競争優位を,それぞれ

P

Q

I

と市場

シェアで示したものを表している。それらの データをもとに,米国自動車市場における経営 資源と地域競争優位に関する単回帰分析の結果 は,図表7の通りである。

 図表7の単回帰分析結果で示されるように,

P

値は1%より小さく,かつ,

t

の境界値(1%)

t

の絶対値より小さいため,1%有意義水準 で帰無仮設を棄却できる。したがって,米国自 動車市場において,説明変数の

P

Q

I

と目的変数 の市場シェアの間に高い正の相関があることが 確かめられるので,次の考察が支持される結果 図表6 米国自動車市場におけるトヨタ自動車と

VWのPQIと市場シェア

年度 PQI 市場シェア

トヨタ

2010 2.6 16.1 2011 2.6 13.8 2012 2.8 15.4 2013 2.9 15.4 2014 3.1 15.7

VW

2010 1.5 5 2011 1.8 5.9 2012 1.7 6.6 2013 1.6 6.3

2014 1.7 6

 出所:世界銀行,J. D. Power, Inc. およびMarkLines

Co., Ltdの関連調査データをもとに筆者が編

集・作成。

図表7  PQIと市場シェアとの関係に関する単回帰 分析結果(米国自動車市場)

回帰統計 分散分析表

補正R2 0.94 自由度 有意F 標準誤差 1.25 回帰 1 0.00

サンプル数 10 残差 8

t境界値(1%) 3.36 合計 9  

  係数 t P-値  

切片 -6.67 -4.31 0.00 PQI 7.75 11.57 0.00 ***  

 (注) ***は1%水準で有意,**は5%水準で有意,

*は10%水準で有意であることを示す。

(7)

となった。

・考察2

a

 米国自動車市場において,生産方式は

VRIO

を有する1つの経営資源として,地域競争優位 を生み出すことができる。

(2)中国市場におけるトヨタ自動車とフォル クスワーゲンの生産方式と地域競争優位 の関係

 図表8は中国自動車市場におけるトヨタ自動 車とフォルクスワーゲンの

VRIO

特性を持つ経 営資源と地域競争優位に関するデータである。

それらのデータをもとに,単回帰分析の結果 は,図表9で示されている。

 図表9の単回帰分析結果で示されるように,

中国自動車市場においては,説明変数の

P

Q

I

目的変数の市場シェアとの間の相関がないとい う帰無仮説を棄却できないことになっており,

次の考察が支持される結果となった。

・考察2

b

 中国自動車市場において,生産方式は

VRIO

を有する1つの経営資源として,地域競争優位 を生み出すことができない。

 考察2

a

と考察2

b

をまとめると,下記の考 察を導くことができる。

・考察2

 

VRIO

の特性を有する経営資源は,異なる地 域市場へ移転する際に,地域市場によって競争 優位を生み出すケースと生み出さないケースが 存在する。

(3)地域市場における経営資源移転の効果  先述した考察2の原因としていつくかが考え られる。

 一つは,進出タイミングの違いとそれによる 現地ブランド力の差である。

 フォルクスワーゲンは1985年にも上海で合弁 会社を設立し,トヨタ自動車よりかなり早い時 期に中国自動車市場に進出し,市場を深耕して きた。対してトヨタは2002年にやっと中国現地 大手の第一汽車と自動車事業での協力関係を構 築し,本格的な中国市場進出を果たした。ま た,フォルクスワーゲン傘下のブランドであ る

Audi

は1980年代から既に唯一の外国ブラン ドとして政府専用車に指定されており,高級ブ ランドのステータスが定着していた。さらに傘 下のブランドである

Santana

は主要都市のタク 図表8 中国自動車市場におけるトヨタ自動車と

VWのPQIと市場シェア

  年度 PQI 市場シェア トヨタ

2012 3.2 4.8 2013 3.7 4.8 2014 2.1 4.9 VW

2012 2.6 16.8 2013 2.5 16.9 2014 2.1 17.8  出所:図表6に同じ

図表9  PQIと市場シェアとの関係に関する単回帰 分析結果(中国自動車市場)

回帰統計 分散分析表

補正R2 0.11   自由度 有意F 標準誤差 6.39 回帰 1 0.28

サンプル数 6 残差 4

t境界値(10%) 2.13 合計 5  

  係数 t P-値    

切片 26.34 2.12 0.10 PQI -5.68 -1.26 0.28    (注) ***は1%水準で有意,**は5%水準で有意,

*は10%水準で有意であることを示す。

(8)

シーとして広く使われており,国民に非常に親 しいブランドとして,かなり早い時期から高い 市場シェアと定評を得ている。

 もう一つは,現地化戦略の違いである。

 フォルクスワーゲンは

Audi

を含め,傘下の ほとんどのブランドを非常に早いタイミングで 中国での現地生産を果たし,価格競争で有利の 立場に立ていた。また,

Santana

Passat

Audi A

4,

Audi A

6など多くの主力車種は中国国民の 嗜好に合わせて,グローバル標準サイズより,

車体を大きくホイールベースを長くカスタマイ ズし,シェアの拡大に大きく寄与したとみられ る。対して,トヨタ自動車は中国現地生産の実 現タイミングが遅かったうえ,車体のサイズを 中国現地のニーズに合わせて柔軟に対応する戦 略がかなり遅れており,シェアが伸び悩んでい る結果に繋がったと考えられる。

 他方,高いプロダクトクォリティを生み出す 生産方式の面において,トヨタ自動車はフォル クスワーゲンより良質な経営資源を持ち,か つ,その経営資源を中国自動車市場にうまく移 転ができたものの,持続的競争優位を生み出せ ないことには,ブランド力や現地化戦略など,

他の経営資源が欠けてることによって,その効 果がオフセットされてしまった可能性を示唆し ている。

 一方,米国自動車市場において状況が異なっ ている。トヨタ自動車は1986年に現地法人を作 り,いち早く現地生産に乗り出し,米国自動車 市場を最重要海外市場と位置づけ,深耕してき た。対して,フォルクスワーゲンは2011年に,

漸く米国での本格的現地生産を実現していた。

また,トヨタ自動車は米国市場向けで開発され た車種が多数存在しており,現地のニーズに迅

速かつ細かく対応する地域戦略が伺える。それ らの要素は,優れた生産方式という経営資源の 効果を打ち消すことなく,むしろ相乗効果が図 られているため,米国自動車市場における持続 的競争優位を生み出せたと考えられる。

 上記のことから,下記の考察を確認できる。

・考察3

 

VRIO

の特性を有する経営資源は異なる地域 市場へと移転する際に,当該地域における他の 経営資源によって,その経営資源が

VRIO

の特 性を保持していたとしても,その効果がオフ セットされてしまい,地域競争優位を生み出せ ない可能性がある。

5 おわりに

 本稿では,多国籍企業のグローバル本社と地 域子会社との間の経営資源移転と地域特殊的競 争優位との関係について,いくつかの考察を 行った。

 まず,

VRIO

の特性を有する経営資源は,異 なる地域市場に

VRIO

の特性を保持したままで 移転することが可能であることが確認できた。

しかし,ある経営資源の移転がうまくできて も,地域市場において持続的競争優位を生み出 せたり,生み出せなかったりすることが考察で わかった。その原因は,地域市場における他の 諸経営資源の状況によって,当該経営資源の効 果がオフセットされたり,相乗されたりするこ とによるものだと考えられる。

 したがって,リソース・ベースド・ビュー理 論枠組のもとで,多国籍企業を対象として企業 の戦略研究を行う際に,これまで企業の内部経 営資源に着眼して展開してきた理論だけでは解 明しがたい現象が起きており,市場そのものを

(9)

1つの要素として考慮する必要がある。

 本稿では,異なる市場において他の諸経営資 源の状況も異なってくることが,異なる市場へ 移転した同じ経営資源が地域競争優位を生み出 せたり生み出せなかったりする現象の1つの原 因として考察できた。しかしながら,ほかに も,輸入車と現地生産車を区別して検討するこ とや,地域市場という要素を様々な視角から分 析すること,または,地域市場における諸経営 資源間の関係を定量的に分析することなどが考 えられるため,今後の研究課題としたい。ま た,地域市場をリソース・ベースド・ビュー理 論の枠組みに取り入れながら,リソース・ベー スド・ビュー理論を発展させていくことも今後 の課題である。

〔投稿受理日2015. 5. 24/掲載決定日2015. 6. 4〕

⑴ トヨタ自動車のホームページより著者は編集,

作成。

⑵ Volkswagen AGのグローバルホームページより

著者は編集,作成。

⑶ 製品設計者は顧客を向き,生産技術者は社内を 向くので,一般的に利害関係は相反しており,両 者の調整に多大の時間を要する。そうした問題を 解決するため,日本では,製品設計者と生産技術 者を同じ部屋に集めてコミュニケーション・ロス を最小化する「大部屋方式」を採用することが多 いとされている。

⑷ J. D. Power社 の 各 年 度 の『U.S. Vehicle Depend- ability Study』と『China Vehicle Dependability

Study』のデータをもとに,筆者はPQIを算出して

いる。J. D. Power社の『Vehicle Dependability Study』 は各国の自動車市場において,毎年約35,000から 40,000名(年度のよってサンプル数が多少異なる)

の自動車オーナーを対象に,過去12ヶ月の間,経 験した故障の回数を集計した調査である。100台毎 の故障回数をPP100(Problems per 100 vehicles)と 指標化し,各ブランドのプロダクトクォリティを 数値で表している。PP100の数値が小さいほど,

当該ブランドのプロダクトクォリティが高いとさ れている。本稿のPQIは,米中自動車市場におけ るトヨタとVWの主力ブランドのPP100数値をも とに,ブランド毎のプロダクトクォリティが業界 平均よりどれほど高い(または低い)かを表す意 味で,次の数式を用いて算出している。数値が高 いほど,プロダクトクォリティが高いことを示し ている。

 トヨタのPQI

  PP100(業界平均)/PP100(レクサス)+PP100(業 界平均)/PP100(トヨタ)VWPQI

  PP100(業界平均)/ PP100(アウディ)+PP100(業 界平均)/PP100(VW

⑸ 図表3の項目「トヨタ/VW」は,VWのPQIが 1としたときに,VWに対してトヨタはどれほど のプロダクトクォリティを有しているかを数値で 表している。図表3の項目「トヨタ/VW」をもと に,図表4のチャートを作成している。

参考文献

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Porter, M. E. (1980), Competitive Strategy: Techniques for Analyzing Industries And Competitors., The Free Press., 1980. (土岐・中辻萬治・服部照夫約『新訂 競争 戦略』ダイヤモンド社 1995年)

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参照

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