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多国籍企業とその責任動向

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(1)

多国籍企業とその責任動向

I

II

III

企業責任の拡大

企業責任の動向とそれへの対応 発展途上国の開発と企業活動

桜 井

1 序

 現代の企業はいわゆる多国籍企業として,さまざまな国にまたがって活動する。企業環 境のかかる拡大はその責任の拡大をもたらし,その経営者は世界的文脈の中で企業責任の 問題を把握することを必要とする。現代の動的社会ではそのような責任は絶えざる変化の 過程にあり,経営者は将来において展開が予想される責任問題を見積りそれへの経営政策 的対応を考えねばならない。

 ところで,東南アジアその他の発展途上地域への企業進出はまた,そのような地域の経 済的ならびに社会的な開発への寄与を企業の基本的責任として提示しているのであって,

その経営者は,企業責任への対応に際してこの問題への留意をも必要とするのである。

       1)

 本稿では,以上の点について簡単に考察することにしたい。

 注1聖)企業責任の概要ならびに責任への経営政策的対応の一般的概念については,それぞれ拙著「現代    企業の社会的責任」,昭和51年,ならびに拙著「現代企業の経営政策一社会的責任と企業経営一」,

   昭和54年,を参照のこと。

II 企業責任の拡大

 現代の企業は経済理論その他で伝統的に理解されてきたところの企業像に対し,幾つか の点で修正を要請している。たとえば,その目標は多元化しており,利潤追求に加えて他 の経済的ならびに非経済的な目標も企業目標を形成するに到っている。あるいは,その経 営環境は国際化し,しばしば世界化しており,企業のいわゆる多国籍化ないし世界化がみ

られるに到っている。

 企業の国際化あるいは世界化についていえば,企業の国外進出は普遍化しており,企業

はしばしば世界的な視野に立脚しつつその生産,販売,等の活動拠点を設置する。企業の

かかる国外進出は,基本的には,一方での,その存続と成長に対する利害関係諸集団の絶

えざる期待の存在と,他方での,世界的な基盤での政治的ならびに経済的な秩序の整備へ

の傾向とによってもたらされていると思われるが,企業に対し直接あるいは間接にその国

(2)

 16

外進出への動機づけ要因として作用しているところの具体的な主体的要因としてはさまざ まのものが存在する。

       1)

 たとえば,米国企業76社についてのある調査によると,国外進出の理由として企業はつ ぎのものを挙げている。すなわち,33社が現地での市場シェアの維持もしくは増加を,25 社が関税,輸送コスド,あるいは自国重視的購入政策といった理由で現地市場への到達が 不可能たることを,20社が競争への対応を,18社が現地の期待および現地政府への対応を,

また15社が本国におけるよりもより早い売上の成長を挙げる。更に,13社が現地の原材料 もしくは部品の調達ないし使用と,低い賃金コストとを,ユ1社が国外でのより大きな利潤 見込を,10社が主要な顧客への追随を,また8社が現地政府の投資計画と結びつく誘因を     2)

挙げている。

 これらの要因は企業の種類によって,時代によって,あるいは企業がどの国に属するか によって異なりうるが,直接的な主体的要因としては一般に,製品市場の開拓,現地の消 費者ニーズへのより良き適合,輸出相手国における輸入制限,国内での競争の激化,資金 の調達,情報と技術の入手,節税対策,安い労働力の利用,国内での立地難,原材料資源 の確保,等さまざまのものを挙げることができる。

 これらの主体的要因によって企業は国外に進出しようとするが,そのような進出が成功 裏に実現されうるためには,進出先の国による企業の受け入れが存在しなければならない

ことはいうまでもない。進出先の国にとって企業の受け入れに伴うベネフィットが,受け 入れに伴う不利益ないしコストに少くとも等しいか,それを上回るときにのみ企業と進出 先の国の双方を利する形で進出が実現することになる。

 このようなベネフィットとコストについて具体的に眺めるならば,たとえばデイヴィス らは多国籍企業が進出先の国,とりわけ発展途上のそれに対してもたらしうるベネフィッ トとして,以下のものを挙げている。それらは世界的な製品市場への接近,資本へのより 広い接近,先進技術の移転の助成,研究と開発における規模の経済の導入と現地のその小 部門による技術利用,地場企業の育成(現地進出企業への部品供給等を通じて),労働者 への仕事の提供,訓練を通じての労働の熟練の向上,質の高い経営管理者の導入(新しい 概念と技術をもたらし進出先の国の能力は拡大する),管理の質の改善への寄与(ネッス ルによる経営者開発プログラムとしてのIMED(Institut pour 1 Etude des Methodes de Direction de 1 Entreprise)はその1例である),現地消費者への貢献(新製品の提供 や低コスト製品の供給の形で),製品輸出を通じての国際収支残高への寄与,税の支払,

ならびに世界繍の統_ひいては世界の社会的.政治的船と世界の調和との奨蔽あ♂

 他方,デイヴィスらは多国籍企業が進出先の国にもたらしうる不利益として,現地政府

における幾らかの国家主権喪失感の発生(企業が国際収支残高の変動に関係すること等に

より,政府が経済へのコントロールの部分的喪失を経験する場合),現地労働者の被搾取

感(本国での賃率より低い賃率の場合),現地の競争企業の不満(進出企業が現地企業よ

(3)

りも高い賃率で雇用する場合),現地の市民と政治家における一般的な被搾取感といった ものを挙げる。なお,かれらは多国籍企業が仕事の輸出という理由で,あるいは現地独裁 政権の支持や現地政府による人種差別政策への支持等の理由で本国からの非難に直面する       5)

かもしれないということをも指摘している。

 以上のようなデイヴィスらの説明からも知りうるように,企業ぽ国外進出によってその 進出先の国に対し,多様なベネフィットとコストをもたらすのであって。企業が進出に成 功しうるためにはベネフィットの促進とコストの低減に努めることを必要とする。すなわ ち,かかる努力が進出先に対する企業責任として登場することになり,企業活動の地理的 拡大は企業が対応を必要とするところのいわゆる社会的責任の増大と複雑化をもたらすこ

とになる。

 むろん,その社会的責任のこのような拡大は,デイヴィスらも示唆するように,その対 本国責任に関しても生ずることになるといえよう。国際化し世界化した経営環境の中で企 業が存続し成長しうるためには,それはかくの如く拡大した責任への対応を不可欠とする のであって,その経営者は責任問題を世界的文脈の中で認識しつつ責任への対応のための 経営政策の策定と実施にあたらねばならないのである。

 注1)National Industrial Conference Board, e喫U. S. Direct Foreign Investments: The View of   Businessme㎡l World Perspectives, No.10, August 1972.

  2)George A. Steiner, Business and Society, Second Edition,1975, p.447.

  3)ドラッカー(Peter F. Drucker, The Age of Discontinuity,1968, p.97),およびソレリ(Hans   B.Thorelli, The Multi−national Corporation as a Change Agent㌘in Richard N. Farmer, In一   ・ternational Management,1968, p.73)は,この点を指摘する。

  4)Keith Davis and Robert L. Blomstrom, Business and Society:Environment and Responsi−

  bility, Third Edition,1975, pp,470〜2.

  5) Ibid., pp.472〜3.

III企業責任の動向とそれへの対応

 企業の多国籍化は企業責任の拡大をもたらすが,かかる責任の経営政策的対応は必ずし も容易ではない。また,企業はときによると,そのような責任を認識せず,実践に熱心で ない。あるいは,進出先の国や本国も,場合によっては企業の行動への理解を欠くことが ありうる。かくして,企業とその進出先の国の間で,あるいは企業とその本国の間で,し ばしばコンフリクトが生ずることになる。

 スタイナーは多国籍企業の諸目的(それらは投資に対する高くかつ増大する報酬の獲得,

売上の成長の増大の達成,財務的リスクを利潤との関連で合理的な限界内に保つこと,お

よびその技術工学的ならびに他の所有関連的な力を維持することである)と,全世界的な

見地から代替案を考え選択するというその意志決定プロセスとが,国家の主要な目標(そ

(4)

れらは経済成長,資源とひとびとの完全雇用,労働者の熟練の向上,価格の安定,望まし い国際収支残高,より公正な所得分配,企業の技術工学と生産性の改善,経済システムへ の国家のヘゲモニイ,国家の安全,社会の安定性,および生活の質に関するある種の要素      1)       2)

の改善である)の幾つかと対立することを指摘し,多国籍企業とその本国ならびに進出先 の国との間のありうるコンフリクトとして以下のものを挙げている。

 まず,進出先の国で生じうるかもしれないコンフリクトの幾つかとしては,雇用政策(

企業によるレイオフの実施,現地の技術者や管理者の雇用についての企業側の不熱意,等 から生ずるコンフリクト),貿易と生産に関する国の統制の変更(国産化率の引き上げへ の現地政府の要請),現地の競争企業からの圧力,国際収支残高をめぐる諸問題(利潤送 金の規制,現地部門による輸出の増大への現地政府の要請,等),外国による支配,接収,

帝国主義への非難(多国籍企業は原料と安い労働とを持ち去り,植民地主義的搾取を行う       3)

という現地の批判),非関税障壁(進出企業からの不満)が挙げられる。また,本国政府と 企業の間のコンフリクトとしては,国際収支残高,労働と産業の諸問題(企業の国外進出 は本国での雇用減少を,ならびに進出先からの輸入増大による本国産業の不振をもたらす という本国での批判),反トラスト法をめぐるコンフリクト(進出先政府の意向を受けて の現地部門によるカルテル行為と本国の反トラスト法との対立),等が挙げられるのであ

4)

る。

 スタイナーが示すこれらのコンフリクトは主として米国企業に関連するものであるが,

それはまた現代の企業が多国籍化することによって直面するコンフリクトの具体的内容の 理解への手掛りを提供する。かかるコンフリクトの依って生ずる原因は,むろん,必ずし もそのすべてが企業の側にあるとはいえない。コンフリクトの解決のためには,企業の側 の積極的な努力のみならず,進出先の国および本国の側の努力も必要である。

 多国籍企業とその進出先の国との間のコンフリクトを減少せしめるための対策として,

      5)

スタイナーは,以下のことを指摘する。第1に,企業側における社会的に責任ある行動の 必要性が挙げられる。そのような行動とは,進出先の国の愛国的感情を傷わないようにす

ること,その自己決定能力に疑問感を抱かせるようなことを避けること,社会構造を分裂 せしめるような不必要な行為を避けること,ならびにできる限り進出先の国の利益になる 形で行動することを含んでいる。具体的には,現地市民の雇用の増大,そのための現地市 民の訓練と向上,現地子会社への現地人による所有参加の機会の提供,現地の供給者・銀 行家・管理者の活用,といったことが考えられるのである。

 第2に,進出先の国も緊張緩和のために多くのことをなしうる。子会社を相手国との有 利な交渉のための政治上の武器として用いないこと,接収をしないという保障を与えるこ と,自国と企業の両者の利益になるようその税法や生産・参入・等の関連法規を見直すこ と,現地企業と進出企業とを平等に扱うこと,といったことが対策として考えられる。

 第3に,企業の行動基準(codes of beh翻or)の展開は理解を容易ならしめ,コンフリ

(5)

クトを滅少せしめうる。国際投資に関する太平洋海盆憲章は,かかる基準の1例である。

 このようなスタイナーの指摘にもある如く,コンフリクトの解決のためには,企業側の 努力のみならず進出先の国等の側の努力も必要となる。そうはいっても,企業の側の努力       図1 多国籍企業をめぐるコンフリクト源

本国政府 現地政府

多国籍企業

本社部門 現地部門 競争企業

消 費 者 仕 入 先

が第1に要求されることはいうまでもない。企業とその利害関係者との関係は多国籍化に       6)

伴って複雑化しており,図1に示されるような具合に,多国籍企業をめぐるコンフリクト 源は多様となっている。現代の企業は多元化したそのコンフリクト源に留意せねばならず,

コンフリクト解決への積極的対応を必要とするのである。

 スタイナーが示す上述のコンフリクト領域は,多国籍化に伴い今日の企業がとりわけ対 応を迫られているところの責任への手掛りを提供する。企業環境の国際化によって企業が 新たに直面するところの責任は,前節で示唆されたように,さまざまである。企業はその ような拡大された責任への対応を不可避とするが,その場合,それはなによりも,企業と 環境との問のコンフリクトを生み出しつつある問題領域の認識とそれへの対処を必要とす

るのである。

 ところで,企業がそれへの対応を喫緊とするような責任問題は,ダイナミズムをその基 本的特質とするところの現代社会ではすぐれて流動的であり,絶えざる変化の傾向にある。

企業を長期にわたり存続・成長せしめるためにはその経営者は,企業と環境との間のコン フリクト問題の動向に敏感でなければならず,企業が将来において直面するであろうコン フリクト源の把握とコンフリクト解消のための経営政策の策定に努めねばならないので ある。21世紀の経営環境の把握は因難であるとしても,多国籍化に伴い現代の企業が近い 将来において直面するであろうところのコンフリクト領域ないし責任問題はなんであるのか。

また,そのようなコンフリクト問題への対応のための経営的対策としてなにが望ましいで あろうか。以下,本節では,国際経営アカデミーによるアンケート調査の結果についての ニュ_マンの所思参考に,この罷につ、、て眺めることにしたい.

さて,ニューマンは1979年のColumbia Journal of World Business誌で,国際経営アカデミ

(6)

一(the Internati・nal Acade町of M如agement)が多国籍企業(transnati・nal corporation)と 国益の対立領域に関してこの程行なった調査結果について解説を行なっている。アカデミ ーは世界39ヵ国の著名な経営者,大学教授,コンサルタントからなるそのフェロー64名に 対し,多国籍企業と国益が近い将来においてどのような問題をめぐって対立の可能性が大 であるかについてアンケート調査を行なっている。以下,ニューマンに従ってその結果を 眺めるならばつぎのようである。

 まず,企業どその進出先の国の政府との問の緊張が今後5から10年間に増大するという 広範な予想がみられる。回答者の3分の2が困難の増大を,4分の1が現状レベルの緊張 を予想する。それでは,コンフリクトの主要な源泉はなんであろうか。経営者の見地から 述べるならば,現地政府とその選挙民の主たる関心事はなんであり,企業によるどのよう        表1 コンフリクトを生み出す問題

主要な問題で ネい

望ましいがクリ eィカルではない

主要なコンフリ Nト源

現地の失業の減少 13% 42% 45%

現地の活動への現地所有権の増大 14 29 57

工学技術的ノウハウの移転の促進 15 47 38

国家資源取上げをめぐる利益分配規定の明確化 18 34 48

現地の外資不足の減少 26 40 34

政治目的への会社支出の削減 50 23 27

な現地活動が緊張の緩和に最も有効であるのか。この点についての回答を示したものが表        9) 8)       、

1である。表について解説するならば,つぎのよっになる。

 1.現地部門の所有権は,第1位のコンフリクト源とみられている。回答者の半分以上が それを第1位に順位づけている。現地部門の所有権への関心には,幾つかの理由が考えら れる。現地で生ずる利潤への参加の欲求が,現地では広範になっている。現地に影響をも つ企業行動へのコントロールの増大を,現地は要求する。自己の生活を操作する遠隔的権 力への心理的反対がみられる。これらの欲求は所有権以外の手段によってもかなりに満さ れうるが,所有権が権力と特権のシンボルであることによりそれへの現地人の関心がみら れるのである。

 2.現地の失業への多国籍企業のインパクトも,同様に緊張の原因と考えられている。

回答者の42パーセントが,失業減少への努力を望ましいものとする。失業を増大させるよ うな企業行動は非難を受けるのであり,工場閉鎖,労働時間短縮,あるいは省労働的な機 械化は抗抵を受けるであろう。

 3.工学技術的ノウハウの移転は,発展途上国では先進国の場合に比して,より関心を

集める。現地人は国で用いられる工学技術を1人当りの国民所得と近代的便利さの利用可

能性とに直接に結びつけ,技術移転の速度の向上が個人の生活水準をすぐに改善すると信

(7)

 多国籍企業とその責任動向      21 ずる。また,多国籍企業は最良の工学技術を差し控えているという疑惑が普遍化している。

 4.天然資源の国外持ち出しについての利潤分配もまた,資源国での論争主題である。

回答者の約半数が,これを主要なコンフリクト源と考えている。天然資源の持ち出しは公 正と搾取の問題を提示しているのであって,それは外国による領土利用に対する何世紀に

もわたる国民感情に根ざしている。

 5.  政治的支払 は,最大の問題の一つとは考えられていない。回答者の半分が,そ れを主要な問題とみていない。ある種の贈収賄は,厳しい批判をもたらしうるであろう。

しかしながら,多国籍企業の典型的な行動は主要な緊張源となるところまでは現地の慣習 に触れていないというのが,回答者の見解である。

 6.外貨の不足が,摩擦の原因であるかについては,回答者の見解は一様ではないので あって,それは二つに分かれている。多くの国では外貨問題に関して多国籍企業は,大き な役割を演じていないと考えられる。他の国ではそれは,外貨不足を緩和せしめるかもし れない。慢性的な不足がみられ多国籍企業が大規模な輸入者である状況でのみ,主たるコ ンフリクトが生じそうである。ただ,外貨は情緒的問題というより困難な経済的問題であ って,それは前述の他の問題ほどには政治紛争をもたらさない。

 多国籍企業と現地政府との間の上述の摩擦源は,主として企業の対外的行動を取り扱っ ている。対内的な経営行動もまた,そのような緊張に影響を及ぼす。緊張に対する経営実 践のインパクトを探究するために回答者に対し,かれらが多国籍企業と現地政府間のコン フリクトの軽減にとって重要と考える管理面の対策(management arrangements)が問われ た。表2は,その主要な結果を示している。かかる結果について解説するならば,つぎの     10)

如くである。

 回答者の約半分が,権限の移譲および現地部門の自治ないし自律性の問題を主要なコン フリクト源とみており,ほぼ残り半数もより以上の分権化が少なくとも望ましいと信じて          表2 現地の緊張緩和のための考えられうる経営的対応

主要な問題でない

望ましいがクリテ  

Cカルでない

主要なコンフリク g源

権限移譲と現地自治との増大 3% 48% 49%

経営層に占める現地人比率の増大 8 46 46

OECDの行動基準への公的コミ

bトメント 25 53 22

文化理解の促進のための経営者の

総ロ的ローテーションの増大 33 52 15

現地部門の取締役会への従業員参

43 50 17

いる。現地の経営者が少なくとも現地部門の活動に関しては多国籍企業にコミットする権

限を与えられるとき,コンフリクトは現地の経営者によって平和的に解決されることがよ

(8)

り期待されるというのが,その含意するところである。現地部門の自律性へのかかる強調 が,(1)現地経営者は状況をより良く理解し,現地当局ともより良いゴミュニケーションを

もち,かくて,より受け入れられる解決:策を見出しうるという信念から生じているのか,

それとも,②現地経営者は現地の要求により敏感であり,そこからより大きな譲歩を行な うという信念から生じているのかは,明らかでない。

 回答者が第2に強く信ずるものは,経営層への現地人登用の重要性である。90パーセン ト以上のものが,経営者における現地人比率の向上を,不可欠とはいわないまでも,望ま しいとする。企業と進出先の国の間の緊張の処理に現地入がより効果的であると期待され る理由をデータは示していないが,現地部門の自律性についての上の説明の他に,雇用と 民族的誇りが含まれるであろう。

 他の経営的対策に関しては,現地部門の自律性および現地人による経営といった項目の 場合とは対照的に,回答には広範なばらつきがみられるのであって,回答者はそれらが不 可決というよりはむしろ望ましいとみている。たとえば,OECDの行動基準は前述のコ ンフリクトの多くの解消を目指しており,その規定に従うことを多国籍企業が公にコミッ

トすることは緊張緩和のための基礎を提供するかもしれない。しかしながら,OECDの 基準はこれまでのところ強力に支持されたものではなく,良き企業行動のための不可欠な 規範とはなっていない。されば回答者の半分以上は,基準への公的なコミットメントは望

ましいが不可欠なものではないとしている。

 種々の国家間での経営者のローテーションは,他文化への理解を社内で促進せしめる一 つの方法であって,進出先進の国とのーコンフリクトを処理する多国籍企業の能力を改善せ

しめる。このアプローチは,OECD基準の場合よりも回答者の支持がより低かった。

 取締役会への従業貝代表制なる概念の根底にある理論は,代表制によって労働者自身の 利益および社会一般のそれがよりょく奉仕されるというものである。多国籍企業の場合,

かかる方法は進出先の国の子会社の取締役会に従業員代表を置くということを意味するが,

回答者はそれが多国籍企業と進出先の国との間のコンフリクトの解決には主たる助けにな らないとみている。

 以上述べてきた回答結果について,国や地域による相違は少ない。なお,表1あるいは 表2でとり上げられていないある提案に対し,強力な賛同がみられた。回答者の84パーセ ントが,多国籍企業はそれが進出先の各国の利益にどのように奉仕しているかについての 年次の評価を用意すべきであると信じている。そのような評価は表1に示される諸事項一 失業,現地所有,天然資源への利潤,等一をカバーするであろう。測定の困難さにも拘わ       11)

らず,より十全な評価と報告への動きがなされるべきである。

 以上,ニューマンに従い乍ら国際経営アカデミーによるアンケート調査の結果を眺めて

きた。アンケート調査の結果は,多国籍化に伴い企業がその進出先との関係において,近

い将来に直面する可能性が大と思われるところのコンフリクト源およびそれへの必要な対

(9)

 多国籍企業とその責任動向      23 応策を示している。そこでは,所有権,失業,技術移転,ならびに天然資源についての利 潤分配,といった諸問題が,進出先での企業をめぐる主要なコンフリクト源となることが 予想されている。また,そのようなコンフりクト源に関連して現地部門の自治および経営 層への現地人登用も,重要なコンフリクト源となりうると考えられている。と同時に,こ れらのコンフリクトの処理が企業にとっての重大な経営政策的課題であることが指摘され ている。なお,コンフリクトへの経営政策的対応に関しては,企業による責任実践の程度 の測定と評価および報告の重要性もまた強調されているのである。

 かかるアンケート調査結果は,これから生起するであろうことについての予想に過ぎな い。また,アンケートの被対象者は,比較的少数の,ならびに,経営者,学者,コンサル タントという限定された職業のひとびとである。この意味では,アンケート結果の信頼性 と普遍性には,ある程度の問題が存在するであろう。それにも拘わらず,世界各国から の,問題についてのエキスパートに対してなされたこのアンケート調査の結果は、多国籍 企業が近い将来に対応を迫られるであろうところの問題を理解するための有力な手掛りを 提供しているといわねばならない。とりわけ,企業責任の測定と評価および報告の重要性 が強調されていることは興味深い。企業が責任を適切に実施しうるためには,責任履行の 程度についての客観的な測定と評価が不可欠である。また,企業の存在と行動の社会的影 響の増大は,その活動についての適切な情報の開示ないしディスクロージュアへの社会的 関心を増大せしめつつあり,ここから企業は自己への社会の誤解の減少と自己への社会の 支持の増大を図るためにも,責任履行の結果について測定し評価するとともにその結果を 社会に報告することを必要としているのである。

 ところで,アンケート調査では将来の予想されるコンフリクトへの必要な対応策が示さ れていた。問題は,かかる対応策をいかにして実践においてワーカブルなものへと展開す るかである。これは,甚だ困難な問題である。責任の測定と評価の問題1つをとってみて も,実践に適用可能な方法の確立は容易でない。いわゆる社会監査の名の下で試みられつ      12)

つある諸努力は,かかる困難を裏付けている。

 同様のことは,現地部門への自治の増大を具体的にはどのようにして行なうかについて も指摘しうる。多国籍化の程度の進展に伴い企業組織が,一方での現地部門の自治の増大 と他方での本社部門への必要権限の留保,ならびに両部門間の相互依存と協力を実現する       13)

ような形で展開される必要があることは,表3からも知ることができる。しかしながら,

そのことは如何にして可能であろうか。一方での分権化と他方での集権化という相互に対 立しうる要素の統合が要請されるのであって,このことは経営者に困難な課題を提示する。

この点について,ニューマンも前述の調査結果に関連していう。

 そこでの諸発見はまた,経営計画と統制への挑戦を含意する。(a)経営層への現地人登用

を伴う現地自律性が,現地所有の増大,現地の失業への感受性,ならびに工学的技術ノウ

ハウの移転速度の増大と並んで強調されている。このことは,各州出先で独立的・自己充

(10)

表3 本社部門による現地部門への対応についての3種のタイプ(パールムッター)

組織デザイン 本国中心

iEthnocentric) 多国中心

iPolycentric) 地球中心

iGeocentric)

組織の複雑さ 本国では複雑;現地部門で 多様にして独立的 ますます複雑であり相互依

は単純 存的

権限;意志決定 本社に高度 本社に相対的に低 本社と現地部門の間の協力

的アプローチを指向

評価と統制 個人と業績への本国基準の 地域毎に決定 普遍的にして地域的な基準

適用 の発見

報酬と処罰;インセンティ 本社に高く,現地部門に低 広い差異;現地部門の業績 本社ならびに現地の経営者

への報酬は高くも低くもあ は現地ならびに世界の目的

りうる の:達成に対して報酬を受け

コミュニケーション;イン 現地部門への量は大ゴ命令, 本社から(ならびに,本社 現地部門間の相互交流。現

フォメーションの流れ 指令,助言 へ)は少。現地部門間も少 地部門の長は経営チームの

一員である

国  籍 所有者の国籍 本国の国籍 真に国際的な会社たるも国

益を認識

永続(採用,配置,開発) 世界中の主要なポジション それぞれの国での主要なポ 世界のすべての主要なポジ

に向けての本国のひとびと ジションに向けてのi現地人 ションに向けての世界中の

の採用と開発 の開発 最良のひとびとの開発

足的に活動する会社への支持が強いことを示している。(b)同時に,活力ある健全な親会社 が想定されている。恐らくこの中央の多国籍企業は,その子会社が資本市場と顧客市場に 接近することを助けるのみならず,最新の経営的ならびに生産的技術に接近することを助 けんとする。

 ジレンマは,同じ組織の中で分権化の利点と集権化のそれをどのようにして転義するか である。計画の技術を洗錬して,不可欠な要素のみを本部に残すようにせねばならぬであ ろう。また,現地会社の経営者を訓練し,動機づけ,統制して,中央の指令への最小の,

しかしながら不可欠な服従を実現せしめねばならないであろう。このことは,殆んどの企       14)

業が今日もっていないような洗錬された計画と統制を要請するのである,と。

 このように,責任問題への具体的にして有効な対応策の探究は容易ではない。ニューマ      15)

ンも指摘するように,われわれは,必要性は分かるもののどうしてそれに対応すべきかを 知らないところの薄明地帯に居るようにみえる。それにも拘わらず,企業が将来にわたっ て存続・成長を願わんとするならば,その経営者はかかる困難を克服することを不可避と するのである。

 注1)A.Kapoor and P. D. Crubb, eds., The Multinationa1 Enterprise in Transition,1972.

  2)G.A. Steiner, op. cit., pp.7〜8.

  3>Ibid., pp. 448〜53.

(11)

多国籍企業とその責任動向       25

 4) Ibid., pp.453〜61.

 5) Ibid., pp.452〜3.

 6)Ivar Berg, The Business of America, p.130(G. A. Steiner, op. cit., p.449).

 7)WiUiam H. Newman, Adapting Transnational Corporate Management to National Inter−

  ests7 Columbia Journal of World Business, Summer 1979.

 8) Ibid., p. 83.

 9) Ibid., pp.83〜4.

 10) Ibid., pp.85〜6.

 11) Ibid., pp.86〜7.

 12)社会監査については前掲拙著「現代企業の経営政策」,第5章,を参照のこと。

 13)Howard V. Perlmutter, The Tortuous Evolution of the Multinational CorporationマColum−

  bia Journal of World Business, January−February 1969.

 14)W.H. Newman, op. cit., pp.87〜8.

 15) Ibid., p.87.

IV 発展途上国の開発と企業活動

 前節では多国籍企業の責任の動向とそれへの対応策について,進出先の国への企業責任 を中心に眺めてきた。そこでは,所有権,失業,技術移転,天然資源についての利潤分配,

等が将来,重要な責任問題として登場するかもしれないことが指摘された。これらの責任 問題への経営政策的対応を現代の企業が必要としつつあることは,否定しえないであろう。

しかしながら,そのような責任問題はどちらかといえば,「企業はかかる責任問題について の現地社会のひとびとの期待を侵害してはならない」というような種類の消極的責任の要 素をかなりに含んでいるように思われる。多国籍企業がその進出先の地域で長期にわたり 存続・成長を遂げんとするならば,それはまた,他のより積極的な種類の責任への対応を

も必要とするであろう。

 かかる責任とは,その進出先に対して企業がもたらす基本的なベネフィットの促進,す なわち,進出先の地域の経済と社会の発展への貢献である。この責任は企業がとりわけ発 展途上国に進出するとき,重要となるといえるのであって,本節ではこの問題について簡 単に眺めることにしたい。

 さて,東南アジアを含めて発展上の地域の国々は,その経済的,社会的発展を困難なら しめるところのさまざまな内在的要因を有している。幾つかの要因がいわば悪循環的に作 用しあって,発展への道を閉ざしている。この点についてデイヴィスらは,永続的低開発 の法則(the Law of Persistent Underdevelopment)なるものを示しており,以下のように説明

  1)

する。

 すなわち,発展途上国ではしばしば生産性のための文化的基盤はその経済同様,低開発

(12)

である。文化的要素は社会的ならびに経済的成長を抑圧するように作用する。国は低開発 の永続的なサイクルの中に閉じ込められるのであ一って,外部からの助けもしくは自らの異 常な努力なくしてはこのサイクルから脱けだすのは困難である。われわれは,このような システム関係を永続的低開発の法則と呼ぶ。それは,それが,国を永久に低開発のままに 置くという意味での 法則 ではない。むしろ,それは,なんらかの新しい力が加えられ ないならばそれが自己永続的であるという意味の法則である。永続的低開発の法則は,低 開発の社会システムは,それを縛る文化的鎖の打破のために新しい社会的野芝が導入され

うるまでは自己永続的な低開発に閉じ込められるということを述べるに過ぎない。

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低開発文化

資本の乏しさ

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図2 永続的低開発の法則:文化的ならびに経済的な二列の鎖が低開発を永続せしめる(デイヴィスら)。

       2)

 かかる法則における主要な文化的ならびに経済的な構成要素は,図2に示されている。

文化的要素は外側の円で示され,経済的要素は内側の円で示されるが,それらは低開発の

永続化に向って,二列に並んで作用する。外側の円が示すように,初めに低開発文化は教

育面での低い実績へと導き,そのことは管理者の不十分な供給を生ぜせしめる。後者は効

果的でないリーダーシップをもたらし,そのことは低開発文化を永続せしめる。経済の分野

でも同様の永続的な連鎖が存在する。資本の乏しさは低い効率を生ぜせしめ,後者は低い

投資利益率へと導く。低い投資利益率は低い貯蓄をもたらし,そのことは資本の乏しさを

永続せしめるのである。

(13)

 多国籍企業とその責任動向      27  デイヴィスらは,永続的低開発の法則について以上のように説明する。かかる法則は,

発展途上国にみられる開発阻害要因と要因問の相互関連とを明解に示しているといえよう。

発展途上国ではそのような阻害要因が悪循環的に作用し合っているのであって,その経済 と社会がより先進的なものへと向って離陸しうるためには,かかる永続的低開発の法則を 打破するところの衝撃が社会に加えられねばならないことになる。そして,ここに進出企 業の果しつる役割が存在しつることになる。この点に関して,デイヴィスらはいつ。

 これらの自己永続的な二列の鎖にとらわれている国は,鎖を打破しより先進的な社会状 態へとそれを向かわしめるような離陸力を生ぜせしめるところの大規模な経済的ならびに 文化的なインプットを必要とする。企業経営者はかれらが不効率と文化的ラグを征服する ためのリーダーシップを提供するがために,かかる離陸力における主要な要素である。資格 を身に付けるひとびとに報いるに足る程に社会を生産的たらしめることによって管理者は,

      3)

その熟練と教育の向上へと向けて市民を動機づけるのである,と。

 以上のように発展途上国への進出企業は,進出先の国の経済的ならびに社会的な発展に 貢献しうるのであって,それは自己のかかる潜在的能力を効果的に発揮することをその基 本的責任として有するといえよう。企業は現地部門の効率的かつ拡大的な操業を通じて,

かかる責任に積極的に対処せねばならないのである。

 むろん,このような責任の履行は容易ではない。現地の社会的,教育的,政治的,経済 的な諸環境は,責任の履行を厳しく阻むのである。デイヴィスらによると,発展途上国で 進出企業の社会的応答を制約する環境要因の主要なものの幾つかとしては,以下のものが 存在する。

 まず,社会的環境に関しては,かかる要因として第1に文化の差異が挙げられるが,社 会的間接費(Social Overhead Costs)の存在および企業がパブリックの目にとまりやすいこ

とも挙げることができる。社会的間接費は学校,病院,道路,等のようなものへの公的 ならびに私的な投資であり,企業が発展途上国に進出するとき,一般にそのような支出が 必要となる。パブリックの目にとまりやすさについていえば,進出企業は国外からの邪魔 者として現地企業よりもパブリックの目につきやすく,ここからそれは本国のそれと異な る現地の基準に現地企業以上に適合する用意がなければならない。ナショナリズムは,現 地市民をして外国企業の影響に敏感たらしめている。特定の外国企業の無分別な行為から        4)

他のすべての外国企業をも無差別に非難するという企業批判の傾向も,等しく重要である。

 教育的環境に関しては,有資格の人的資源の乏しさ,および教育施設の低開発が挙げら れる。管理者,科学者,および技術者が不足しており,現地の労働者を生産的に雇用する という企業の能力を制限している。学校とその設備は不足しており,有資格の教師も十分    5)

ではない。

 政治的環境に関しては,幾つかのものが存在する。それらは,ナショナリスティックな

傾向,政府による統制,企業所有権への政府参加,接収の危険といったものである。それ

(14)

らについていえば,まず,多くのひとびとが強いナショナリスティックな態度をもってお り,かれらは国と経済システムが外国の干渉を受けないことを要求する。つぎに,統制,

免許,認可,等の形で外国企業への政府の統制が多く,かかる統制は政府自身の不安定性 と官僚主義,等によって複雑たらしめられている。なお,社会福祉への政府のかかわりあいも 大であり,高いフリンジ・ベネフィット・コスト,レイオフへの規制,高い税といった形 で進出企業に影響を及ぼす。更に,多くの国ではとりわけ基幹産業に関しては政府が進出 企業の所有権への参加を主張する。政府はまた,ときに企業への完全な競争者として登場 する。最後に,特殊な政治的リスクとしての接収が存在しており,政府は場合によっては 代償の支払なしに接収を行なうかもしれない。接収のリスクは投資への強い障害となるが 接収は接収する側の国にも大きな損失を与えうるがために,接収よりも共同所有へと向う       6)

傾向がみられる。

 経済的環境についていえば,高い利子率,資本の不足,不安定な経済システム,利潤の        国外送金への制限,といったことに加えて,インフレーションも企業への大きな制約とな っている。最後のものについて更にいうならば,インフレーションは企業の在庫政策や販 売政策,等に影響するとともに,稼得された利潤の価値を消失せしめるのであって,企業 の長期計画のみならず,その日常活動をも困難ならしめる。インフレーションはまた労働 者の生活を不安定にし,社会を不安定たらしめる。更にはインフレーションは資本の国外 逃避を招来せしめ,資本不足と企業成長への制限をもたらす。要するにそれは,低開発を 永続せしめるのである。

 かくの如きデイヴィスらの説明が示すように,発展途上国の環境は進出企業による基本 的責任の履行を困難ならしめている。加うるに,環境における文化的差異はしばしば,企 業が本国で用いてきた経営管理方式の現地適用可能性を排除する。発展途上国の社会文化 はしばしば先進諸国のそれと根本的に異質であり,経営管理方式の有効性についてのいわ ゆる条件理論的認識が不可欠となるのである。しかしながら,これらの困難にも拘わらず 現代の企業は発展途上国の開発への寄与をその基本的責任として課せられているといいう るのであって,それは自己と社会の統合的発展のための経営政策の探究を必要としている のである。

 注1)K.Davis and R. L. Blomstrom, op. cit., p.480.

  2) Ibid., p. 481.

  3) Ibid., pp. 480〜1.

  4)lbid., pp.473〜5.

  5) Ibid., p.475.

  6) Ib量d., p.476〜8.

  7)lbid., pp.478〜9.

参照

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