• 検索結果がありません。

ノンバーバル行動の調整におよぼす影響

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "ノンバーバル行動の調整におよぼす影響"

Copied!
10
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

        覚醒水準の変化が

ノンバーバル行動の調整におよぼす影響

松尾貴司※1

 非言語的コミュニケーションに関する実験の多さにもかかわらず,その理論的な説明は十分に論 議が尽くされているとはいえない状況である。Argyle&Dean(1965)の親和葛藤理論

(affiliative conflict theory)に始まる非言語的コミュニケーションに関する理論は,この非言語 的行動間の補整的調整を予測する均衡理論(6quilibrium theory)から,相互的反応と補整的反応 の両方を説明できるいくつかの理論へと展開していった。後者の最初の理論は,Patterson(1976)

の覚醒理論(arousal theory)であるが,この理論は覚醒を中心に据えた直接性の変化にともなう 行動調整という考えに基づくものであった。その後同様の視点から,Burgoon(1978;Burgoon&

Hale,1988)の期待違反理論(expectancy violations theory;EVT)や, Cappella&Greene

(1982)の食い違い覚醒理論(discrepancy−arousal theory;DAT)などが提唱されてきた。

 松尾(2005)は,コミュニケーションにおける非言語的行動の調整に関する論理的な説明を得る ための第一段階として,直接性の変化と覚醒水準の変化との関連を確認する実験をおこなった。そ の結果,直接性(視線量)の変化(増大)が覚醒水準を高めることを明確に示すことはできなかっ たが,1)相互作用の開始は覚醒水準を高める,2)相手の視線の増加は覚醒水準を高める可能性 があるが,それは何らかの個人的特性に影響される可能性を含んでいる,3)視線以外の会話に伴

う直接性の変化も覚醒水準を高める可能性がある,という3点が指摘された。また,覚醒水準に変 化が生じると関連する直接性行動が調整されるということにっいても,部分的な確認にとどまった。

すなわち,覚醒変化が大きいほど視線量の変化も大きくなったが,必ずしも視線の量に対して視線 が調整されるわけではなかった。また行動調整の方向にっいても,相互,補整の両反応が見られた。

 上述のように,覚醒水準とノンバーバル行動の調整との関連を研究するには,方法的にも幾つか の間題が存在するようであるが,本研究では松尾(2005)の方法を若干改善するとともに,

Patterson(1976)が提唱した覚醒理論が検証できるように,覚醒変化に対する感情的ラベリング を条件として追加し,実験をおこなうこととする。覚醒理論に関する実証的研究については,肯定 的な結果がいくっか得られているが,必ずしも全体的な支持を得るまでにはいたっていない。本実 験では,コミュニケーション場面でのノンバーバル行動の調整メカニズムに関する覚醒理論を検討 する基礎的資料を得ることを目的とする。

※1 コミュニケーション心理学科

一69 一

(2)

      方 法 実験参加者

 実験参加者は,心理学の専門講義(2年)において募集された女性16名あった。相互作用をおこ なう相手(以下,相互作用者)は,心理学の専門演習(3年)の受講者3名であった(すべて女性)。

実験参加者とは同一の学科に所属していたが,いずれも面識はなかった。

実験計画

 相互作用者の視線量の変化方向(高→低・低→高の2水準),相互作用者の態度(同意・反対の2 水準)をそれぞれ実験参加者間要因とする2×2要因計画であった。相互作用者の各態度に8名ず っを割り当て,それぞれの条件で,相互作用者の視線量が相互作用時間の前半に高くなる場合と低

くなる場合が半数ずっになるようにした。

視線量の操作

 相互作用の期間は2っのブロックに分割され,一方のブロックでは相互作用者はできるだけ実験 参加者を見続けるように,もう一方のブロックにおいては各発言(相手も自分も)の最初と最後だ

け実験参加者を見て,それ以外の時にはできるだけ実験参加者を見ないように指示されていた。な お,相互作用を開始する前の期間は,相互作用者は実験参加者を見ないようにした。

態度の操作

 相互作用者の態度は,以下のようにして統制した。相互作用(会話)は,常に実験参加者から始 まるように誘導し,同意条件では,相互作用者は実験参加者の最初の発言に対して「そうだよね」

などと同意を示し,以降すべての発言に対して肯定的な発言を続けた。一方,反対条件では,実験 参加者の最初の発言に対して「でも…」などと反論し,発言に対し常に否定的な対応をした。ただ

し,実験参加者が途中で意見を変化させても,相互作用者は意見を変更しないようにした。

手続き

 実験参加者には,会話中の皮膚電位と脈派の生理的反応の変化を測定することが研究の目的であ ると説明し,生理指標の測定にっいて口頭で同意を得ておこなった。

 実験参加者が実験室に到着すると,電極を装着するために手を洗った。相互作用者はすでに電極 を装着した状態で着席しており,対面する位置に実験参加者を着席させ,左手の第2指および第3 指の腹側部(中節掌面)に電極を装着した。実験参加者と相互作用者の距離はおよそ180cmであっ

た。

 話題はA4用紙に印刷したものを机の上に置き,その話題にっいて意見を述べあるように求めた。

意見の内容は資料として用いないこと,また,どちらの意見が優位であったかというような判定は しないことが告げられた。話題の内容は下記のようなものであった。

 『最近の小学校(あるいは中学校でも)の運動会では,競技をおこなっても順位をっけないこと が多くなっているようです。このことに関しては賛否両論がありますが,あなたはどのように考え ますか?』

 会話の時間は5分程度であり,できるだけ多くの意見を述べること,また,会話の様子は実験参 加者の後方に設置されたビデオカメラにより収録することが告げられた。

 実験者が退出して約1分後に実験参加者の後方にあるランプを点灯し,相互作用者が実験参加者

(3)

ビデォカメラー2 ランプ

実験参加者○

       P

相互作用者○纏竃

      (インターフェイス)

0−1 ビデォカメラー1

ビデオモニタ

→ ○

生理指標 測定装置(PC)

実験者

図1実験場面のレイアウト

に会話の開始を知らせ,会話を開始した。その後約2分経過後にランプを点灯し,相互作用者に視 線量を変化させる時期を知らせた。会話がおよそ5分経過したところで,実験者が室内に戻り,実 験参加者に以上で実験が終了であることを告げ,研究の詳細を説明した。

従属変数

 生理指標:生理的覚醒は,AD−lnstrumental社製のPowerLabシステム(GSRアンプ:

ML116)を用いて測定した。本研究では,皮膚電気反応のうち皮膚伝導水準(Skin Conductance Level:SCL)を指標として用いた。測定値は,実験参加者ごとに安静時をゼロに調整した後の値

(μS)である。

 行動指標:実験参加者が相互作用者を直視していた時間を実験終了後,ビデオ映像により計測し

た。

 印象評定:相互作用者の印象を,「社交性」「親しみやすさ」「まじめさ」「興奮しやすさ」「好奇 心」「専門性」「公平さ」の7項目について評定させた。各項目について2っの質問を用意し,いず れも5段階評定とした。さらに,相互作用者の「身体の動き」「表情」「視線」が気になったかを5 段階で評定させた。また,自身の状態(気分)にっいても6項目を各5段階で評定させた。

      結 果 生理的覚醒

 会話開始前(PRE)は1分間の,会話中は30秒ごとのSCLの平均値を,態度条件および視線量 の高低の順序による4群ごとにプロットしたものが図2である。さらに,会話中の高・低各2分間 の視線量条件ごとにSCLの平均値を同様にプロットしたものが図3である。

一71一

(4)

日 日 ω 加 ㏄

 ︵ω篭︶一●︾O﹂OOco↑OコηにOOεぷω 0        0        0︵0        4・       2

︵ψ⑲亘︶一〇>o﹂●o二但ピoコ唱coOεXの

0.0

    一◆−P・Giti・・一←N・g・ti・・ −8・0  −−e−P・sitive−←N・g・ti・,

       ζ

       E…     v−一一一 一一

   ・−v 一・・一一i・ ),.i ;一一

9 °一一e−一一一e−一一e 。へ_。 § …8        、   2        霧o.o

PRE   Pl P2 P3 P4    Pl P2 P3 P4         PRE   Pl P2 P3 P4    Pl P2 P3 P4      Low EC         High EC       Low EC         High EC

 図2 各期間におけるSCLの変化(P 1〜P4は,視線条件内での30秒ごとのブロック)

  一一←Positive −十Negative       −一一一e−一一Positive −一←Negative

       6.0        ?        三        』4.o       {i        §        §2.0        8        ξ        口       0.O

 PRE  ■■●> Low−EC →レ High−EC      PRE  ■■■●芦 Low・EC ■■■●芦 High−EC

      図3 各期間におけるSCLの変化

       一一◆一一Positive −十Negative

      −−e−−Positive −一◆一一一Negative   60.0

      60.0

  ニ      o  S  20.0      巴  20.O  v       コ  =       v  Φ       c  o       o

      Low−EC   ■■■■●芦   High−EC      Low−EC  ■■■■り>    High−EC

      図4 相互作用中の各期間における実験参加者の凝視時間

 同意条件で会話開始時に視線量が高い群を除き,他の3群では会話の開始時にSCLの上昇が見ら れた。また,いずれの計測期間においても,反対条件のほうが同意条件よりも高いSCLの値を示

した。

 視線量を変化させたときのSCLの変化は,変化の方向により異なっていた。すなわち,視線量 を低から高へと変化させる条件では,反対・同意いずれの条件においてもSCLの値が高くなった が,視線量を高から低に変化させる条件では,SCLの変化は小さかった。

視線量

 会話中の240秒間における実験参加者の平均凝視時間は80。2秒(SD=35.1)で,会話時間の 33.4%であった。

(5)

 会話中の各120秒間における実験参加者の凝視時間 は,相互作用者の視線量を高から低へ変化させる群で は,同意条件で39.4秒,29.2秒,反対条件では45.1 秒,3L7秒であった。一方,相互作用者の視線量を低 から高へ変化させる群では,同意条件で37.4秒,36.2

秒,反対条件では51.5秒,50.3秒であった。いずれ も,反対条件のほうが凝視時間が長かったが,凝視の 割合としてはほとんどの実験参加者で50%以下であっ

た。

00

00

(.B3︶coる﹂召●N呂ち︐−●05δ

 一200

図5 相手の視線量変化による凝視時間の変化

 また,相互作用者の視線量が高から低へ変化した場合には,実験参加者の凝視時間も減少したの に対して,低から高へ変化した場合は,実験参加者の凝視時間に変化はほとんど見られなかった。

個別データ

 実験参加者の凝視時間は個人差 が大きく,会話期間を通して最も 短い実験参加者では27.5秒(11.5

%),最も長い者では167.3秒

(69.7%)であった。また,相互 作用者の視線量の高低による凝視 時間の変化量にも大きな個人差が 見られた。そこで,各実験参加者 の凝視時間の変化とSCLの変化 を個別に表に示した(表1)。

 相互作用者の視線量の変化に対 して,凝視量が大きく変化した者 が各条件に1〜2名含まれており,

これが平均値による分析に大きな 影響を与えていることが分かる。

特に,相互作用者の視線量が低か ら高へと増大する群では,同意・

反対の各条件の1名が他の3名と は逆方向に大きく凝視量を変化さ せている。

表1 各実験参加者の覚醒水準およびN視量 Attitude    Gaze

  of    while Interactant High−EC

Gaze   Changes  Changes while     of     of Low−EC    Gaze    SCL

Positive

Negative

58.2 57.2 28.1 14.1 33.8 59.8 44.8 41.8

27.6

5L7

24.2 13.4 10.6 37.1 36.9 42.0

一30.6

−5.5

−3.9

−0.7

−23.2

−22.7

−7.9  0.2

一1.10

−0.37

−0.29  0.18

−1.48  1.32  0.96

−0.95

Attitude    Gaze   of     while Interactant  Low−EC

Gaze   Changes  Changes while     of      of High−EC   Gaze    SCL

Positive

Negative

52.9 21.4 32.8 42.3 51.7 50。3 18.5 85.5

28.0 30.6 40.7 45.3 65.1 42.6 11.7 81.8

一24.9  9.2  7.9  3.0  13.4

−7.7

−6.8

−3.7

0.21 0.44 0.39 2,12 2.71 1.53 2,15 0.53

相互作用者の評定

 相互作用者の行動に対する意識 相互作用者の「身体の動き」「表情」「視線」について気になっ たかどうかを5段階で評定させたところ,「身体の動き」にっいてはいずれの群においても「あま

一73 一

(6)

5.0

3.0

1.0

5.0

3.0

1.0

■Po61tハve 口Negative 5,0   ■Positive□Negative

aO

1.0

Higb→Low   Low→High         High→Low   Low→High         High→Low   Lρw→Hlgh   図6 実験参加者が相互作用者を気にする程度(左から,身体の動き,表情,視線)

り気にならない」という回答であったが,「表情」と「視線」については同意条件では「あまり気 にならない」のに対して,反対条件では「やや気になる」ということであった。

 相互作用者の印象 相互作用者の印象は,態度,視線量の変化方向のいずれによってもほとんど 影響を受けなかったが,専門性の評価にのみ交互作用が見られた。すなわち,同意条件では,視線 量を減少させた相手(M=5.3)に比べ,増加させた相手(M=7.5)のほうが高く評価された。

一方,反対条件では有意ではないが視線量を減少させた相手(M=7.5)に比べ増加させた相手

(M=6.0)のほうが低く評価された。

      考 察 覚醒水準の変化について

 平均値か見る限りでは,相手の視線量の増加は覚醒水準を高めたようであった。特に相互作用相 手の態度が否定的(反対条件)においてSCLの大きな増加が見られた。一方,相手の視線の減少は 多くの実験参加者でSCLの減少をもたらしたが,2名においては逆にSCLの増大が示された。また,

相手の視線量の増加に対して生じた覚醒水準の高まりの程度は個人差が大きいが,肯定的相手に対 してよりも否定的な相手の場合のほうがより覚醒水準が高まった。

 本実験においても,視線量の変化がもたらす覚醒水準の変化の程度は一様ではなく,その効果が 個人特性などによって影響を受ける可能性や,視線量以外の要因が影響していた可能性が考えられ

るものであった。

覚醒理論の検証

 本実験の主たる目的は,Patterson(1976)が提唱した覚醒理論の検証であるが,本実験の各条 件でどのような結果が予測されるのかと,実験結果の適合を表2に示した。

 相互作用者が肯定的態度(同意条件)の場合,相互的な行動調整が生じることが予測されるが,

視線量の増加・減少のいずれに対しても,1名を除いて予測と一致する行動変化(凝視時間の増減)

が生じた。しかし,調整された行動量が数%にとどまった実験参加者もあり,発話量やその他の要 因による視線量の変化と考えられる範囲のものかもしれない。また補整的な調整が生じた者も1名 おり,完全に仮説を支持するものとは言い難い。

 一方,相手が否定的態度(反対条件)の場合,補整的調整が生じることが予測されるが,相手の 視線量が増加する群では1名を除き予測に一致した結果が得られたものの,視線量が減少する群で は1名を除き予測と異なる結果が得られた。以上のように,視線量の対応だけで見た場合,視線量

(7)

表2 覚醒理論による各条件での予測と本実験における結果の適合度 Attitude

  ofInteractant

Change       Change       Prediction

 of         of      of Participant s  Results Behavior   Interactant s gaze  Gaze Change

Positive Reciprocity High→Low Low→High

Decrease Increase

△△

      High→bρw      Increase      × Negative  Compensation

       Low→High     Decrease     △

の増加に対しては仮説は比較的適合するが,視線量の減少に対しては仮説は必ずしも支持されなかっ

た。

 また,覚醒理論では,覚醒水準が変化しない場合には行動の調整は生じないと予測するが,本実 験では覚醒水準の変化にかなりの個人差があったことを考えると,上記の結論にもさらに問題が含 まれている。相互作用相手の視線量が増加する条件では,多くの実験参加者で覚醒水準が高まって おり,行動の調整が生じたこと,またその方向ともに仮説に適合する結果といえる。しかし,相手 の視線量が減少する条件では,覚醒水準は2名が高まったものの,他の実験参加者では覚醒水準が 低まるという結果であった。

 この覚醒水準の変化の方向の違いが行動調整に及ぼす影響を考慮して,行動調整がどのように生 じるかを考えることも必要なのではないだろうか。例えば,覚醒水準が高まったときには,相互作 用相手の行動に対する反応も生じやすく,したがって相手の行動量の変化に対応した行動調整(相 互・補整)が生じるが,覚醒水準が低まったときには,相互作用相手の行動に対する反応が生じる のではなく,自身の行動発現水準が低下するということが考えられないだろうか(図7)。これに よって本実験の結果の説明は若干改善されるが,依然として否定的態度×視線量減少の条件で覚醒 水準が高まり,かっ相互的調整が生じた実験参加者が2名あったことは説明がっかない。

 覚醒水準という媒介変数を想定しなくとも,相互作用相手からの視線量が減少する場合には,相 互作用への要求が低減するために相手の態度に関係なく凝視時間が減少し,相手の視線量が増加す る場合には,態度が肯定的であれば相互作用への要求から相互的に凝視量が増加し,否定的であれ ば調整的に凝視量が調整された,と考えることも可能である(図8)。

 これによっても,本実験の結果を完全に説明することができるわけではない。依然として全体で も2名の例外が生じている。これらの例外は,非言語的行動(あるいは凝視に限定すべきかもしれ

rロロ−..−−コ エ−−ロ

No Arousal  Change

1。、,ra瓢ξe;3havi。r Arousal Increase

」・.・…   ..一・.・一 Arousal

Decrease

No Behavloral

 Change

Positive

Emotlon Negatlve Emotlon

Reciprocal Adjustment Compensative

Adjustment Actlvlty Level  Decrease 図7本実験の結果に基づく覚醒理論の修正

一75一

(8)

Interactant s Gaze

  Decrease …一・・一・…・…i・)…一・…・・……・D隠se

Interactant s Gaze   Decrease

Posltlve Emotlon Negatlve Emotlon

一・・.ib)・一一・

・…@(a)・…

Gaze Increase

 Gaze Decrease

Reciprocal Adjustment

R㏄1procal Adjustment Compensatlve

Adjustment

(a)need for interaction decrease   (b)need for interaction increase

      図8 本実験の結果の覚醒を用いない説明

ないが)の調整が,単に相互作用者の行動の変化や自身の覚醒水準によってのみおこなわれている わけではないことを示していると言えよう。

 相手の行動変化に対する情動的意味づけが大きな役割をはたしていることは覚醒理論でも予測し ているが,本実験のように操作的な定義によってこれを規定する方法にも限界があるのかもしれな い。覚醒水準よりもむしろ,感情的反応を生理指標などを用いてより明確に測定することが必要で

あろう。

 本実験で得られたデータが少数であることや,発話との関係,視線パターンのより詳細な分析が ないことから,これ以上の検討を加えることは困難であるが,少なくとも覚醒理論による説明ほど 確実に,覚醒水準が対人的非言語行動の調整と関連しているとは言えないと思われる。しかし,少 なくとも相手の視線量が増加する場合には,肯定的な感情反応が相互的調整を,否定的な感情反応 が補整的調整を生じさせるという点では,覚醒理論が支持されるものであった。

       今後の研究に向けて

 松尾(2005)および本研究の実験を通して,覚醒水準に変化が生じると関連する直接性行動が調 整されるということにっいて部分的に確認された。しかし,必ずしも視線の量に対して視線が調整 されるわけではなく,行動の調整を直接性の総体として考える必要があることも示唆された。また,

行動調整の方向にっいては,同じ条件においても,相互,補整の両反応が見られたことから,覚醒 変化以外の過程によっても調整の方向が導かれているようであった。第一に,本実験では相互作用 の状況は一定であるので,実験参加者の視線調整のスタイルや他者の視線に対する反応傾向といっ た個人的特性を考慮する必要が考えられよう。また,実験参加者が相互作用者の視線以外の直接性 の手がかりにも反応していたとすれば,実験参加者自身も視線以外の直接性行動を調整していた可 能性も否定できない。

 さらに,本研究の結果は覚醒水準の変化が必ずしも重要な媒介変数ではない可能性を示唆した。

本研究では視線行動を取り扱っており,その機能を考えると,実験参加者が「相手との相互作用を 高めようとする」程度が凝視量を変化させたと考えることもできる。すなわち,「相互作用を高め ようと思わない」場合には凝視量を減少させ,「相互作用を高めようとする」場合には凝視量を増 加させるということである。本研究の結果をこれに当てはめてみると,自分の意見に反対する相手 とは「相互作用を高めようとしない」ために相手を凝視する時間は減少する。一方,自分と同意見 の相手の場合は,自分を見ている相手とは「相互作用を高めようとする」ために凝視が増加する。

(9)

しかし,自分を見ない相手は行動的には自分に対して否定的に感じられるので,「相互作用を高め る気持ち」が抑制され,凝視が減少する。ただし,同じ条件であっても,「相互作用を高めようと する」かどうかが個人によって別の要因で決定されれば,反対の反応が生じることもある。以上の ような説明ができるが,本実験ではこれを検証するデータは得られていない。

 近年は,非言語行動をマルチチャンネルとして扱うことの重要性が言われているが,個々の行動 の機能的側面を考えると,単純に相互的あるいは補整的行動調整とまとめることには問題があるの ではないかとも思われる。

 また本研究は,相互作用場面において非言語的行動の調整を研究する際に考慮すべきいくつかの 間題を示していた。

 第一に,覚醒水準を変化させる操作として直接性を増大させたとしても,実際の覚醒変化をもと にしてその後の分析をおこなう必要性が示唆された。この場合,統制条件をおくことの意義は,覚 醒変化が操作した直接性行動によってのみ生じたかどうかを確認することである。もちろん,直接 性の変化が覚醒水準におよぼす影響の過程にっいては,個人的特性を含めてどのような要因が関与 しているかを明らかにすることも興味深い問題である。さらに,これは筆者の勉強不足によるとこ ろであるが,生理指標(本研究ではSCL)のどのような変化を覚醒水準のどのような変化として とらえるのかの明確な基準が必要であった。しかし,コミュニケーション場面での生理指標の計測 がアーティファクトとして及ぼす影響を考えると,より適切な計測方法が考案されなければ,今後

もこのような方法を続けることの有効性には若干の疑問が残る。

 第二に,行動の調整が相手の操作された行動を含め,調整可能な直接性行動全般に表れる可能性 があることから,実験参加者の行動表出をある程度統制するか,従属変数として複数の行動を測定

しておく必要がある。これは多大な労力を必要とするため,簡単なことではないが必須であろう。

 第三に,行動の意味をより詳細に分析するためには,視線変化のパターンや発話内容との関係を 記録していくことが重要である。

 本研究は,覚醒水準の変化からノンバーバル行動の調整を説明しようとする理論の検証を目的と したものであったが,少なくとも覚醒理論については全面的な支持を与える結論は得られなかった。

もちろん本研究には,実験の技術的問題やデータの少なさ等,多くの問題が含まれていることは否 めないが,生理的なレベルでの覚醒水準を指標としながらノンバーバル行動の調整に関する説明を 得る研究を進めることには,いくつかの困難があることが示唆されたと言えよう。

 近年は,ノンバーバル行動についてはその機能的側面を強調する研究が増えているが,そのデー タの収集方法が複雑なノンバーバル行動の調整メカニズムの研究がやや停滞しているのも無理から ぬことと言える。しかしながら,機能的側面の研究と機構的側面の研究は行動研究の両輪であり,

今後とも進展させていくことが重要である。

文 献

Argyle, M.,&Dean, J.1965 Eye contact distance, and affiliation. Sociometr y,28,289−304.

一 77一

(10)

Burgoon, J. K.1978 A communication model of personal space violations:Expectation and an initial test.

   Human()ornmuniCation Research,4,129−142.

Burgoon, J. K.,&Hale, J. L.1988 Nonverbal expectancy violations:Model elaboration and application to    immediacy behavior. CommunicatiOn Monograρhs,55,58−79.

Cappella, J. N.,&Greene, J.0.1982 A discrepancy−arousal explanation of mutual influence in expressive    behavior for adult and infant−adult interaction.()ommunication Monographs,49,89−114.

松尾貴司 2005 非言語的行動の調整に関する覚醒理論検討のための基礎的研究 愛知淑徳大学論集コミュニ    ケーション学部篇,5,97−105.

参照

関連したドキュメント

mDESの添加 で薄 くな るこ とを認め, 老令鶏 では傾向 として薄 くなるこ と を認めてい る.従って,本実験の場合, 卵殻の厚 さに つ いて同様 な結果が得 られ るには,更に添加

あった .行動面は ,非常に落ち着きがなく,保護者 の指示がなければ

本研究ではフルコナゾール(FLCZ)の全身投与後の眼組織内移行および硝子体内注入後の眼内動態をウサギにお

どにより異なる値をとると思われる.ところで,かっ

 第 1 章においては,本研究における問題意識を述べた。第

本研究の問題点としては,方法論的な問題が 三点挙げられる.まず一点目は,食行動および

抑うつ感および攻撃行動,いじめ加害行動にど のような影響を及ぼすのかについて, 「家庭での 過剰適応傾向が高い者は抑うつ感が高くなる (

(2017) によると, aRDS 領域の 周辺に cRDS 領域が隣接していると aRDS の奥 行き知覚が cRDS のときの奥行き知覚と逆転す ると報告した.本実験では,