101 本研究は,リーダー行動のフレキシビリティがフォロワーの信頼に及ぼす影響,ならびに両者 の関係をモデレートする要因を明らかにすることを目的としている。
第1章においては,本研究における問題意識を述べた。第1章では,企業を取り巻く環境の変 化の激しい現在,リーダーの行動の柔軟性がいかに重要であるかについて述べるとともに,リー ダーに対するフォロワーの信頼の重要性について指摘した。本研究では,リーダーシップの中で も,1人のリーダーが状況に応じてリーダーシップスタイルを柔軟に変化させ,適切なリーダー シップを発揮するというLBF(Leadership Behavioral Flexibility)という能力に着目し,LBFと 信頼の関係について明らかにすることを述べた。そして,この両者の関係はフォロワーの内的要 因やフォロワーを取り巻く外的要因に影響を受けると考え,LBFと信頼の関係に影響を及ぼす 要因についても研究を行うことを述べた。その内的要因としては,特性的自己効力感,セルフモ ニタリング,LMX,シェアドビジョンを挙げ,外的要因としては組織文化を挙げた。そして,
LBFと信頼の関係,そしてこの関係をモデレートする要因を明らかにすることが学術的意義,
実務的意義を持つことを述べた。
第2章では,本研究で用いるそれぞれの変数についての先行研究をレビューし,それらの示唆 することや限界を明らかにした。そして,本研究が先行研究の限界にどのようなアプローチをす ることができるかを述べた。本研究のフレームワークで用いる変数は,第1章で述べたように,
LBFと信頼,そしてモデレーターである特性的自己効力感,セルフモニタリング,LMX,シェ アドビジョン,組織文化の下位概念であるコミュニティ的文化である。
つぎに,第3章では,第2章で述べた先行研究を元に,仮説を構築した。本研究では,LBF と信頼の関係について仮説を構築するとともに,この関係をモデレートする変数に関しても仮説 を構築した。本研究の仮説は以下のとおりである。
仮説1:LBFと信頼には正の相関がある。
仮説2:特性的自己効力感はLBFと信頼の関係に負の影響を及ぼす。
仮説3:セルフモニタリングはLBFと信頼の関係に正の影響を及ぼす。
仮説4:LMXはLBFと信頼の関係に正の影響を及ぼす。
仮説5:シェアドビジョンはLBFと信頼の関係に正の影響を及ぼす。
仮説6: 組織文化の下位概念であるコミュニティ的文化はLBFと信頼の関係に正の影響を 及ぼす。
第4章では,仮説の検証方法について述べ,その実証研究の分析結果を示した。また,分析結 果の考察を述べた。第3章で構築した仮説のうち,仮説1,仮説4,仮説6は検証され,仮説2,
仮説3,仮説5は棄却された。
第5章では,本研究のまとめを行い,学術的および実務的貢献を述べるとともに,本研究の限 界と今後の課題について述べた。本研究ではこれまであまり研究が行われてこなかったLBFと いう概念を挙げ,リーダーとメンバーの関係の礎となる信頼との正の関係を明らかにした。本研 究ではリーダーの行動の柔軟性がフォロワーの信頼を高めることが明らかになった。また,
リーダー行動のフレキシビリティがフォロワーの信頼に及ぼす影響
伊 藤 彩 修士論文 アブストラクト
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LMXと組織文化の下位概念であるコミュニティ的文化がLBFと信頼の関係をモデレートするこ とが明らかとなった。つまり,LBFは万能ではなく,リーダーとメンバーの間に良好な関係が 築けている場合には信頼への影響力が強まることが明らかになった。また,コミュニティ的文化 はLBFと信頼の関係を弱めることも明らかになった。
実務的貢献としては,本研究はこれからの日本企業において重要な役割を担う知識労働者に対 してのより適切なマネジメントの方法を明らかにすることができたと考える。それは,リーダー がフレキシブルな行動をとることによって信頼を築くことができるということである。しかし,
LBFは万能ではなく,リーダーとメンバーの関係の良好さや,組織文化に留意する必要がある。
本研究の限界,そして今後の課題としては2点挙げた。第1に,本研究ではLBFと信頼をモ デレートする要因として主に内的要因を挙げていたことである。外的要因としても組織文化を挙 げていたが,内的要因と同じように外的要因も個人の態度や行動に影響を及ぼすと考えられる。
そのため,今後の研究では組織を取り巻く環境など,外部要因により着目していくことが必要で あると考える。第2に,本研究ではLBFの規定要因を明らかにしていない。規定要因を明らか にすることは,フレキシブルに行動することができるリーダーを育成するために重要なことであ る。なぜなら,規定要因が明らかになることによって,すべての状況とは言えないまでも非常に 幅広い状況に対応できるリーダーを育成することが可能になると言えるからである。今後の研究 ではLBFの規定要因にまで言及し,研究を行っていくことが必要であろう。
伊藤 彩:リーダー行動のフレキシビリティがフォロワーの信頼に及ぼす影響