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図画工作科の指導について−実践力をつけた指導者 の育成をめざして−

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図画工作科の指導について−実践力をつけた指導者 の育成をめざして−

著者 伊藤 雅康

雑誌名 紀要

号 20(別冊)

ページ 281‑293

発行年 2018‑03‑20

URL http://doi.org/10.32125/00000026

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図画工作科の指導について

- 実践力をつけた指導者の育成をめざして - 伊藤 雅康

キーワード:図画工作科教育法、図画工作科概論

はじめに

子どもは制作することへの好奇心と期 待感で満ちている。そしてその表現は実 に自由で多様である。指導者はその全て を受け止める自信と指導できる実力を身 につけるべきであると考えている。また、

子どもたちが楽しく意欲的に学習に取り 組み、感性を発揮できるように支援する 力を身につけて欲しいと願っている。そ のためには学習指導要領の基本を踏まえ、

造形的な感性や想像力・技能などの幅広 い資質や能力を身につけるだけでなく、

指導者自身が自らの力量を高め、表現の 幅を広げる努力を継続することが必要で ある。

しかし、筆者自身が現役教師時代に経 験した中にはなかなか厳しい状況もあっ た。要約すると以下のような点である。

・本来子どもたちは絵を描いたり、もの を作ったりすることが大好きであるにも 関わらず、学年が上がるに従って、そう いった意欲を失っていく子どもが増えて いく。

・子どもの創作活動を充分支援しきれな い悩みを持つ指導者が少なくない。それ が自信のなさとなり、意欲的な自己開発 の妨げにもつながっている。

情報技術の進歩に伴い、断片的な知識 を手に入れることや、基本的な技術を駆 使することはたやすくなった。このよう な時流の中にあって創造的な表現ができ ることや豊かな情操を持つことは未来あ る子どもたちにとって今後ますます重要 なものとなっていくだろう。

そこで、図画工作科教育法の中でこれ からの指導者となる人材には上記を包括 した広い見識と高い指導力を身につけ、

自己研鑽を積んでいって欲しいと願って いる。

1. なにを目指すのか

いきいきと絵を描き、ものを作り、感 じたことを話す。そんな子どもたちを常 にイメージしながら教科指導のあり方を 考えていきたい。

図画工作科の指導者に求められるもの は何か。細かなことを言いかけるとキリ はない。しかし、どういう指導が理想的 か、現実はどうか、自分に必要なことは どんなことか、学生たちに問いかけ、時 に道しるべを示し、よりよい教科指導が できる資質を身につけることをねらいと する。指導者として、学習指導要領を充 分に理解し、幅の広い力量を身につけ、

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子どもたちがこの教科の中で表現や鑑賞 の活動を通して創造性と感性を育み、豊 かな情操を養うことができるような授業 を目指したい。

子どもたちは常に成長を続けている。

その段階に則して適切な支援が必要であ り、その研究も多くなされているところ である。ここでは子どもたちの個人差も あることを前提に主にV.ローウェンフ ェルドの発達段階理論と筆者の経験を元 に論を進める。また、特別な支援を要す る子どもへの対応と特別支援学級の指導 は、それぞれの集団や子どもの状況を正 しく把握した上で、個性を大切にしなが ら個に応じた支援が必要であることは前 提として含み置く。

2. 子どもたちの現状

何事もまず状況を正確に把握しておく ことが必要である。図画工作科授業の対 象となる子どもたちの状況はどうなのか、

経験からの視点が多くなるが以下にあげ る。

(1)「表現」について

子どもたちは基本的に、描いたり作っ たりすることは大好きである。そこには 好きなコトモノを自分のものにするとい う獲得欲、そして逆にいやなことや嫌い なことを外に出したいという排出欲があ る。どちらも同じように『表現』とされ るが、子どもたちが表現しようとするの は圧倒的に前者のほうである。後者はセ ラピーとしてよく用いられる手法の一部

である。

(2)「鑑賞」について

他人の作品をながめるばかりが鑑賞で はない。日常ではあらゆる場面で様々な 情報が入ってくる。その一部にこだわっ てよく観察し、自分の感覚と照らし合わ せる。それが鑑賞である。そのため、鑑 賞者には広く受容する心や感性が必要と なる。許容するにも、否定するにもまず は取り入れないと始まらない。さらに、

教育的観点からは「良さ」を見つけるこ と、自分の感性との「共感」部分を探す ことは大変大切なものとなる。

(3)発達段階と個人差

学齢期の子どもの成長は、外見はもち ろん内面も目を見張るものがある。かつ て「啐啄(そったく)」という言葉がしば しば使われたころがある。禅の言葉で「雛 が内側から卵の殻をつつくと親鳥が外側 から殻をつついて、ひなが誕生する様」

を表している。まさに教育は子どもの発 達に合わせて、子どもに必要な支援をす ることでその成果が充分に発揮できる。

従って、対峙する子どもたちの内面の状 況をしっかり把握することは大変重要で ある。さらに、発達段階は一様でなく、

環境や個人によって全く違う場合もある ことを認識しておくべきである。それは 表現にも鑑賞にも当てはまる。

(4)公開授業と日常の授業

しばしば公開授業を参観する機会があ った。そこではほとんどの場合、ショー アップされ、子どもたちも配役の一人と して緊張しながら参加している。また教

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室に普段いない人たちが大勢いる。当然 といえばそれまでであるが、そういった 時間は1年間に数えるほどもない。目指 すべき理想の授業を研究するための非日 常の時間である。 しかし、日常の授業 では場合によっては図画工作の時間が息 抜きの時間になって、中には騒ぎ出す子 どもが出てくる状況もある。また、とて も完成したとはいえないのに「先生でき た」と何回も言ってくる子どもも現れる など苦労されている先生方も少なくない。

(5)苦手意識の芽生え

幼児の頃には所かまわず落書きして喜 んでいる子どもたちが多い。それがいつ からか他人に絵を見られることをいやが るようになり、ついには描くことをしな くなってしまう、もしくは描くことを嫌 いになってしまう。そういう例をいくつ も見てきた。また、自分はそうだったと いう大人に何人も出会ってきた。

なぜそうなってしまうのか。経験から いくつか思い当たることがある。

一つ目は心ない言葉の投げかけによる 自尊心つぶしである。例えば子どもが「当 然相手はわかるはず」と思って見せた絵 に「これなに?」「へたやなぁ」「もっと 上手に…」などの言葉かけ。悪気のない 場合がほとんどではあるが、それだけに 気づかずに発せられることが多い。また は、子どもの自尊心を傷つけたことに発 言者が気がつかないことが多い。

二つ目は9才ころからのリアリズムへ の目覚め、いわゆる「本物みたい」を良 しとする発達段階である。例えば成長の 早い子どもが、遅い子どもの自由な絵を

見て「それは違う。こう描くの…」など と、よかれと思って手を貸しても当の本 人は不愉快極まりない。また、周囲の大 人や年長者も「本物みたい、イコール、

上手で良い作品」という思い込みが強い のではないだろうか。それは「本物のよ うに描くことが上手」なのであって「本 物のように描かなかったら上手ではなく 良い作品ではない」ということになって しまう。リアルな表現でなくても感動的 な作品や技巧を凝らした作品はいくらで もある。簡単に「上手」という言葉かけ をすることは、逆の「上手じゃない。イ コール、下手」を意識させることになる。

自分はどう思われているのか、子どもが 不安に感じるだろうことは容易に想像が つく。

三つ目は「複雑な多様性を好まず、わ かりやすい単一性を指向する傾向」であ る。特に仲間意識が芽生えてくる発達段 階では「みんなと一緒」が大きな価値観 を持つ。他人と違うことをしたり、言っ たりすると「みんなと違う」ことになり 仲間はずれになってしまう。みんなが気 がつかないことをしたり、思いついたり する個性の尊重や多様性を許容できるの は子ども個人の発達ではかなり成長して からになる。そこで必要なのが指導者の 適切な言葉かけや、一方向へ進みたがる 集団の視野を広げる技量である。

これらは小学校学齢期の図画工作の授 業を想定しているが、そのまま他教科や、

大人へもあてはまると考えている。指導 者はこのことを常に気にとめ、配慮する 必要がある

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3. 指導者の現状

小学校は基本的に担任が全教科を指導 する。最近は状況に応じて、また教科に よっては専科の指導者を設置することも あるが、本来、担任が全教科の指導を求 められる。

加えて、英語・プログラミング・道徳 の教科化、生活指導の多様化、保護者対 応の複雑化、説明責任の重視に伴う記録 等の整理など、今後ますますの多忙化は 想像に難くない。

その指導者の状況はどうか。以下にあ げる。

(1)先生全員が図工が得意なわけでは ない

当然ながら誰にも得手、不得手がある。

ところが前述のように本来的に基本的に は担任が全教科を指導しなければならな い。音楽が苦手、体育が苦手等々いくら も例をあげることはできるが、ここでは もう少しつきつめて、具体的に、何につ いて得手、不得手なのか考える必要があ る。図画工作について言えばたとえば絵 を描くことが得手、不得手。さて、それ は本当に指導力に関係あるのだろうか。

もちろん得手であったほうが自信が持て るかもしれない。しかし、不得手だから こそそういう子どもの気持ちが理解しや すく、また子どもがなにに困っているの か、よくわかるということも充分ある。

さらに、不得手だからこそ謙虚に基本か ら授業研究や教材研究をすることにもつ ながるかもしれない。何事でもそうであ るが、あながち得手だと思い込んで過信

している場合のほうがうまくいかないこ とがある。技術的な得手、不得手が必ず しも指導力に反映される訳ではない。

(2)分業されている教育現場

どこの職場でもそうであるように、学 校もまた仕事の合理化のため、いろんな 校務が分業化されている。図画工作科で 言えば、多くの小学校が図工主任という 立場の先生が学校全体の図画工作科を統 括する。教科研修等の出張も図工主任か、

せいぜい広げても校内の図工部会メンバ ーのごく少数に限られる。こういう出張 等は先進的な取り組みや授業ネタなどを 仕入れるチャンスである。しかし、研修 への参加者が各学校に帰って、研修内容 などを全体に伝達できると良いが、多忙 を極める学校現場でこの時間の確保は非 常に困難である。どの教科も一部のリー ダー的先生の専門的意識が強くなり、教 科のエキスパートとなる代わりに、他の 先生は“ついて行ければ上出来”といっ た感覚に陥りやすい。すると、ずっと外 部の図工関係と関わらないまま自分の周 辺が最前線という、「井の中のかわず」的 状況が生まれることになる。

上記はマイナスのスパイラルを想定し たが、特に近年は各学校ではそうならな いように様々な努力がなされており、先 生方個人の研鑽意識を高める工夫もなさ れている。

4.どうするのか

授業の主体は子どもたちである。では 指導者はどうあるべきなのか、何をどう すべきなのか、一部筆者の授業実践の例

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もあげながら考察を進める。

(1)子どもの立場に立った授業計画 常に相手の立場で考えるということは 何事によらず、物事を潤滑にすすめる上 において大切である。授業においても、

一枚の指導案、一つの事柄について、学 級全体にはこれでいいのか。子どもたち 各々には適切なのか、子どもたち一人一 人の顔を思い浮かべてシミュレーション を繰り返し、より上質なものを追求して いかなければならない。そのためには学 級全体の状況、個々の子どもたちの状況 をより正確に、また多角的に把握してお くことが前提である。子どもたちは正確 でわかりやすい支援を必要としている。

また、場合によっては自分自身で考える ことが必要なのかもしれない。子どもの 立場に立って、そこを見極めるのも大切 な技量といえる。

(2)教育現場が求めるのは「絵」でな く「指導」が上手な指導者 小学校は専門家を育てる所ではない。

図画工作科で言えば、画家や彫刻家を養 成する所ではない。誰もが広く美術を愛 好し生涯豊かな社会生活を送れることが 大きな目的である。ということは、指導 者自身が絵が上手である必要はない。描 いたり、作ったり、見たりすることが楽 しめる人で、その楽しさを子どもたちに 伝えることができるということが大切で、

その姿勢から子どもたちは学ぶことにな る。ここは何より先生として重要なとこ ろである。その姿勢こそが高い指導力を 生み出し、生き生きとした授業を作り出

す。

(3)誰もがある程度の基本は身につけ ておきたいと願う

とはいうものの、責任をもって指導す るにはある程度の基礎が身についていな いと、自信を持って子どもの前に立てな いということもある。大学ではそのため に各授業が設定されているのだが、図画 工作科でも基本的な道具やその使い方、

基本技術、色や形の学習、創作の実習な どがある。これはあくまで指導する上で の基本を身につけるためである。教職に 就いたあともこの基本の上にさらに深ま りや広がりを求めていってほしいと願う。

○基礎知識、基礎実習の具体例

「絵の具の三原色と混色」「色の三要素」

「クレヨン・パスの技法」「遠近法」「絵 の具の成り立ち」「技法・モダンテクニッ ク」「描画」等。

○「絵の具の成り立ち」説明図

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(4)まずは先生が楽しむ

どの教科の授業でもそうであるように、

先生が楽しい雰囲気を持っていれば、子 どもたちも楽しく能動的な学習活動をす るようになる。子どもたちが意欲的に取 り組めば、自然に先生はより授業を充実 させようと努力する。このプラスのスパ イラルを作ることこそが指導者としての 醍醐味である。

その入り口は、まず子どもたちに興 味・関心を持たせること、授業で言えば 導入部分である。もしくはその前に子ど もたちの状況に合わせたしかけをする。

例えば、ただ「次回は写生するから絵の 具持ってくるように」と伝えるのではな く。「外の葉っぱの色が変わってきたね」

とか「校舎ってじっくり見たことある?」

などのように、まず子どもたちに「ん、

なになに?」と思わせるような一言から 入っていく。

そこから描いてみたい、よく観察した い、思ったように彩色したいなどの広が りや深まり、質の向上を求めたいという、

人が本来持つ本能的なプラス面を引き出 していく。さらに先生が「お、そういう 所に気がついたか」とか「丁寧に描いた ね」「ドンと迫力があるね」などのことば かけでプラスイメージを与えながら、指 導を楽しむ気持ちをそのまま子どもたち に伝えていきたい。

(5)教材研究の意味

ものごとは常に変化をしている。また、

それはその変化に対応する力が常に求め られているということでもある。

どの教科や分野でも子どもたちにより

よい学習を提供できるよう日々教育研究 が進められている。それは、各教科の授 業のあり方や手法、教材など多方面にわ たるが、図画工作科も例外ではない。よ りよい授業を研究することはもちろん、

図画工作科の学習にはほぼ例外なく、表 現するための道具やそれを使う技術が必 要である。鑑賞をするにしてもその対象 が必要になる。それらも日々進歩し、ま た多様化が進んでいる。

ということは指導者は、子どもたちに 幅広い学習活動を提供するための研修を 常に必要とすることになる。これは公の 研修も個人的な研修も含む。授業を前に した場合は、まず指導者自身が教材を熟 知しておくことが必要となり、これが教 材研究である。

○基礎的な技法・モダンテクニックの例 示

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教材研究は道具や技法といったことだ けでなく、学習のねらいの明確化、子ど もたち一人一人に適切か、適切でない場 合どう工夫するか、それでも無理な場合、

全体を見直すか、など考慮する必要があ る。かつて先輩から「段取り九割」と言 われたことがある。このことである。

このとき必要になるのが、基礎の習得 である。技術的な上手下手は関係なく、

一度でも自分が基礎的なことを経験、あ るいは学習しておくか否かは「子どもた ちにどう伝え、支援すればよりよいか」

を考えるときに、一つの指標を持ってい るか否かということになる。

特に活動をともなう学習においては、

事前の教材研究は安全確保や思いもかけ ないつまづきを防ぐ役目もある。指導者 が子どもになったつもりで一通りやって みることで、道具の使い方、危険が発生 しやすい活動、授業全体の流れや支障を きたす動線、等々実感として理解、予測 できる。

○基礎的な実習の学生作品例

① クレヨン・パスによる表情の表現

② クレヨン・パスによるスクラッチ表現

(6)指導者が幅広く興味を持つ 好奇心というのは意欲の動機付けとし て、特に子どもには大きな比重がある。

科学でもそうであるように「何だろう?」

から始まる。図画工作科も同じような側 面がある。当たり前であるが、世の中に は教科書等に載っていること以外のこと のほうが多い。子どもたちもいろいろな 刺激を受けながら生活している。そこに は当然多様な感性が生まれ、個性が育つ。

指導者としては、それらをできるだけ 幅広く知っておいて損はない、どころか 大変重宝する。いろんな自然現象、伝統 文化、ポップカルチャー、古代文化、最 新科学、子どもたちの好きなテレビ番組、

等々、あげればキリはない。全てをくま なく網羅することは無理としても、指導 者自身がいろいろなことに興味を持って おくことは、子どもたちの感性を理解し、

指導者側からも子どもたちの琴線に触れ る働きかけができることとなる。

(7)多様な感性と鑑賞

人は個性として少しずつ違った感性を 持っているが、一方で前述のように「複

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雑な多様性を好まず、わかりやすい単一 性を指向する傾向」がある。近年特に、

多様性がこれからの社会にとってのキー ワードとなることはあらゆるところで言 われているとおりである。

鑑賞の授業でもこの多様性がキーワー ドになる。一つの作品を取り上げて子ど もたちの感じたことを聞き出したとして

「その感じわかるな」と共感することも あれば「そういう見方もあったのか」と、

今まで気づかなかったことを発見するこ ともある。それを、自分に取り入れる姿 勢を他の子どもたちに示すことで、鑑賞 者全員の感性の幅を広げる。そういうこ との積み重ねをしていくことが鑑賞の内 容の充実につながり、また様々なアプロ ーチも見つかっていくことになる。

○「動き」をテーマとした学生作品

(8)評価は厳格に、しっかりした評価 が信頼を築く

授業をすれば評価は当然必要になる。

到達目標にどれだけ達しているかを評価 する絶対評価をする。他と比較して行う 相対評価ではない。そのため評価の基準

をしっかり設定しておくことが大切であ る。評価基準の内容は発達段階や授業内 容等から多角的な視野を持って行われる べきである。評価される側の子どもたち にとってみれば、わかりやすく納得のい くものである必要がある。そのためには 授業ごとの振り返りや、短いスパンの小 評価、その都度のわかりやすい説明が大 きな役割を果たす。評価の基準は説明責 任を果たす上でも重要となる。従って、

記録やわかりやすい基準の作成は、その 都度の客観的な視点とともに第三者に受 け入れやすいものとする必要がある。こ れらが累積して信頼関係を築き、同時に 指導者の力量の向上に資することとなる。

(9)指導計画、指導案

学校では様々な教育活動が複雑に関係 を保ちながら組み込まれている。最も基 本になるのが各学校の年間行事計画であ る。校内行事はもちろん対外的行事、学 年行事、曜日や祝祭日との関係等様々な バランスがとられている。

その中で図画工作科の指導計画はどう いう進め方をしていくのか、展覧会との 関係はどうか、他学年との関係はどうか 等々配慮が必要である。一つの題材を設 定するとして、子どもたちの状況を思い 浮かべながら、季節は適当か、行事の取 り組みや、長期休業でぶつ切れにならな いか、時間的余裕はあるか、他の学年や 学級とのバランスはどうか等、充分な検 討が必要で、学校現場ではそのための情 報交換が毎日のようになされている。

単元や題材、授業時間ごとの詳細な計 画が指導案である。子どもの実態や学習

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の状況等を加味してどういう授業をして いくかを、発問や制作の支援内容など一 つひとつを検討し、授業全体の流れや子 どもたちの反応をシミュレーションしな がら丁寧に吟味していく。現場経験のあ る教師と学生との最も大きな違いは“子 どもたちの様子をどれだけリアルにシミ ュレーションできるか”にある。筆者が かつて勤務していた小学校に大学生がボ ランティアをしたいと申し出てくれた。

とりあえず集団下校時指導で一緒に子ど もたちと関わってもらうことにしたが、

大学生はどうしていいのかオロオロする ばかりで「ただ子どもと話すだけがこん なに難しいとは…」と肩を落としていた ことがある。当然彼らも充分なシミュレ ーションをして笑顔で接しようとしてい たが、うまくいかない。事ほどさように、

ただ頭の中だけでシミュレーションして いても、いざ子どもの前では簡単にはい かない。その溝の大きさをできるだけ埋 めて、現実に近くしていく作業が必要に なる。

始めて指導案を作る学生にとって、指 導案とはどういうものか、どんな構成に なっているのか、何から始めればいいの か、全く分からないのが普通である。従 って最も適していると思われる最初の学 習は、公開授業等で使用されたような充 分練られた指導案を読み込むことである。

当然、学生へは着目点やなぜそうなって いるかなどの適切なアドバイスが必要で ある。

(10)模擬授業

特に学生の場合、前述のように子ども

たちとの生の交流感覚がないので、あく まで理想を求めた指導計画に陥りやすい。

そこで、できるだけ現実に近い想定をす るため、そして作成した指導案を練り直 すために大切なのが模擬授業である。い ろいろな方法が考えられるが、いくつか をあげる。できれば、いずれの方法も子 ども役の学生を設定し、多様な個性の子 どもがいることを念頭に模擬授業を受け、

事後のフィードバックの時点でできるだ け多くの意見が出ることが望ましい。

・指導案全てを流して行う…これは時間 を必要とするが、授業全体の流れや、活 動を要する内容の場合子どもが集中しに くいとか、動線がなめらかでないなどの ことを実感できる。子どもの理解や活動 のスピード、また、つまづきやすい学習 内容へのフォローなど、状況を想定して おくとより現実的な内容となる。

・指導案の一部を取り上げて行う…これ は短時間で行うことができ、先生役は見 て欲しいところを抜粋でき、作成した指 導案の核となる部分のアピールができる。

逆に不安な部分を多数の目で軌道修正し てもらう機会にもなる。場合によって指 導案のどの部分を行うか、先生役以外が 指定することもよい学習になる。また、

大切と思われる部分を充分練り直すこと で自信を持った授業ができることにつな がる。

・提示された課題・条件で行う…これは まさに指導者としての実力を問われる。

学生は事前に課題を与えられる。例えば

「5年生で初めての一版多色木版の制作 をする導入と説明を5分間でしなさい。

この学年は4年生で単色木版は経験して

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いる」など。これには学生自身の知識や 体験、子どもたちへの関わり方、機智に 富んだ発想、上質な対応力、等々総合的 な授業能力が必要となる。

(11)準備や片付けをできるだけ子ど もたちにさせる

道具を使う教科においてその取り扱い は大変重要である。生活指導の一端とし てはもちろんであるが、特に図画工作科 に絞って準備段階、活動中、片付けと三 段階に分けて考えると以下のようになる。

準備段階…今回は何をするのか、その ためには何がどれだけ必要か、どう置け ば良いか、このようなことを考える必要 があり、そこには必然的に自分の行う活 動の具体的イメージを作らざるを得ない。

その規模や学級全体の流れを見て指導者 がアドバイスすることは必要になるが、

子どもたちにしてみれば、準備をしなが ら「こんなことをしよう」「他にもできる ことはあるかな」「どんな手順がいいか」

「こんなことに気をつけなければ」等と いった活動への期待感とともに、具体的 イメージを持つことでつまづきが少なく なり作品の完成度も高くなる。

活動中…きちんと道具を使い、丁寧な 扱いをすることは使う道具によっては安 全を確保することになる。また、例えば 絵の上に水がこぼれたり、絵の具のつい た筆が転がるなど不本意な失敗が少なく なる。子どもたちの心はもろいところが あって、こういったことで突然期待感を なくし、やる気を失うことが現場ではよ くある。特に集中している場合に起こり やすいので、指導者は子どもたちの動き

とともに道具等の状況も把握しておくべ きである。

片付け…片付けは今回の終わりでもあ り、次の準備でもある。例えば、パレッ トがきれいに洗えていないと次に開いた ときにやる気は減少する。絵の具のフタ がしっかりしまっていないと固まってし まい使いようがない。彫刻刀がどこかへ 行ってしまっては何もできない。ここで 指導者が気をつけたいのが片付けを始め るタイミング。何も指導をしないと、誰 かが早く片付け始めると、われもわれも となだれをうつように、多くの子どもた ちが制作が途中でも片付け始める。こう なると場合によっては他人の作品を踏ん づけていることも気づかず水道へまっし ぐらということもある。子どもたちはワ ーワーと騒ぐし、トラブルは起こるし、

誰も悪気はないのに…ということになっ てしまう。では、どうするのか。「みんな が満足できる作品を作るために、先生が

『後始末を始めてください』というまで、

できた人も席を動かないでください」旨 のことを、しっかりタイミングを見て子 どもたちに伝える。もちろん後始末にど れくらい時間が必要か吟味しておく必要 はある。

5.基本に返る

…まず子どもの持つ創作意欲を刺激

冒頭にも述べたが、子どもは制作する ことへの好奇心と期待感で満ちている。

制作への好奇心とは何か。自分がどんな ものを制作できるのか自分への好奇心で ある。描くこと、作ることが面白くてし

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ょうがない。創作の原点である。

子どもはよくアニメのキャラクターや 好きな動物を描く、動物は良しとしても アニメのキャラクターを丸写しすること が創作か。と疑問を持つのは至極当然で あるが、そのとき子どもは全く違う世界 にいる。大好きな対象の持つイメージを 自分と同化させたい一心なのである。思 ったように描ければ自分もかっこいいヒ ーローにも、かわいいキャラクターにも なれる。そういう想像の世界の中で自由 に飛び回っているのである。

図画工作科の授業ではこの子どもたち の持つ旺盛な創作意欲をいかに刺激する か、そして維持継続させるかが指導者と して大切となる。題材や道具、テーマ、

技法など制作のきっかけやヒントは指導 者が計画に沿って与えるが、誘導しすぎ ると画一的な方向に暴走し、どの子も同 じような作品になったり、こうでなけれ ばならないといった硬直した価値観に陥 りやすくなる。「多様な感性と鑑賞」の項 でも述べたような、共感と多様性で感性 の幅を広げることからはほど遠いものに なってしまう。よかれと思うアドバイス も誘導しすぎにならないよう、口に出す 前に今一度考える必要がある。

(1)“ほめる、認める”で自信とやる気 を引き出す…「できました」への対 応も同じ

他人の目が気になる頃になると、自分 の作品はどう見られているのか、まるで 自分自身の心の中を見られるがごとく気 にし始める。このとき救いとなり、元気 づけてくれるのがほめられること、認め

られることである。但し「上手にできた ね」は禁物。逆に「下手」ということが 別にあることを示唆するからである。で はどうするのか。「ここの形よく工夫した ね」「この色の組み合わせよく考えたね」

「大胆で迫力があるね」など、本人が頑 張ったことを具体的にほめる。また、本 人が気がついていない良いところを見つ けて認める。これがプラスのスパイラル を作り出す。

授業の制作活動もまだ半ばであるにも かかわらず、「先生、できました」と、ど う見ても充分取り組んだように見えない 作品を持ってくる子どももいる。こうい った子どももほぼ同じ方法で対応できる ことが多い。飽きてきたり、うまく制作 が進まなかったりすることがほとんどな ので、自尊心をくすぐって、少しでもや る気が引き出せれば教師冥利につきる。

そのためには子どもたち個々の状況をよ く観察していないと、適切な声かけがで きなくなってしまう。

(2)創作のプラス・スパイラル

“きっかけ・楽しさ・表現の工夫・少し の挫折・多くの達成感・次への創作意欲 の喚起”このサイクルが子どもたち自身 の力となる図画工作科学習を作ると考え ている。

“きっかけ”…授業では指導者が計画的 に、楽しさと創作への期待感をもたせ、

子どもたちの創作意欲を刺激する。子ど もたちはそれにインスパイアされる。

“楽しさ”…子どもたちは与えられた範 囲のなかで、発想や技法など自由に自分 の限界を広げる。指導者は個々に応じ、

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適切なアドバイスで楽しさを増幅させる。

“表現の工夫”…子どもたちは指導者か ら与えられた表現のヒントを元に自分の 考えと技量で独創の世界に入っていく。

“少しの挫折”…子どもたちはうまくい かないことも経験する。自分でクリアで きる場合もあるが、指導者とともにどう すれば良いか考え、試行を繰り返し、ク リアするか、別の道を考える。何事にお いても挫折を乗り越えることは大きな自 信と意欲につながる。

“多くの達成感”…子どもたちも指導者 も、完成した一つの作品に集約された思 いや努力を味わう。

他人の作品へも視野が広がる。

“次への創作意欲の喚起”…子どもたち は創作活動の中で成長を実感し、充実感 を得ているので、次は何をしようか楽し みでしようがない。

「先生、次はどんなことするの?」

この「創作のプラス・スパイラル」が 理想的な図画工作科教育のための一つの 形、そして、意欲喚起から能動的な学習 へ進むアクティブラーニングの一つの形 でもあると考える。

○「素材を活かす」をテーマにした学生 作品

素材:木の皮、かんなくず、竹、包装紙、

色画用紙、バドミントンのシャト ルコック

おわりに

図画工作科は他の教科のように題材や 教材が特に決まっていない。それだけに 指導者の持つ選択肢の多さ深さが大きく 影響する。図画工作科教育法を学んだ学 生たちが、子どもたちといきいきした授 業を作り上げられるよう、筆者自身もま た研鑽を積み上げていきたい。

子ども学科・非常勤講師

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―― 参考文献 ――

○小学校学習指導要領 平成29年3月 文部科学省

○第63回滋賀県美術教育研究大会研究 紀要

平成26年8月22日 滋賀県美術教 育研究会

○模擬授業・場面指導

野口芳宏 2018年度版 一ツ橋書 店

○絵心がない先生のための図工指導の教 科書

細見均 2017年7月 明治図書

○すべての子どもがイキイキ輝く!

学級担任が作る図工授業

今井真理 2017年10月 明治図 書

参照

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