藤 原 重 幸
1. ま え が き
今 日の数学教育の一般的傾向として,高等数学の平易化 と抽象数学の実用化 とい う二面が あげ られる.とりわけ解析学にはその色彩が強い.徴積分学は研究手法では正統形式 と厳密 理論の根強いものがあるが,教育上は年令段階に応 じた多様な指導方法が工夫 されている.
初等解析学を主軸 とす る高専の数学教育において,指導対象の学力変化に伴い,在来の指 導形式の持続困難なることが種々の場で論 じられるようになった.筆者はさきにこのことの 現状を分析し,指導改善の一方法 として 「活用態度を重視す る」ことをとりあげた.
本稿でははじめに数学教育研究の立場を明らかにし,次に今 日の初等解析学の指導体系の 成立をたどり,高専数学教育の特質を探 る,続いて 「活用能力を高めるための指導」として 高専
3
年次に対す る実践例一数分方程式 ・複素関数の指導‑を示 し結果の考察を述べ る.2 .
数 学 教 育 と初 等 解析 学2 ‑1
数学教育研究の立場近年,数学に関係す る研究者の数が増加し,研究分野も多様になった.大き く分類 して
i )
数学の数理そのものに関す る研究i i )
数学の歴史 ・思想 ・哲学に関する研究i i i )
数学の教育指導に関する研究 (以下でさらに分ける)数理の研究内容は細分化,専門化す る慣向にあるが,その反面関連分野の包括的な理解が な くては専門域の新開拓はもはや望めないとの認識 も現われている.
多 くの数学理論は具体的な応用上の問題か ら発生 したが,後には抽象の世界を独 り歩 くよ うになった.数学を活用すること自体に無関心な数学者の数は多いが,時代を先行 しすぎて いる数理を科学一般に役立てる工夫にとりくむ ことは大いに意味がある.
数学史などに関する研究は文化的考察で数学を見なおす ことであ り,最近重要性が認識 さ れだした.科学史の一環 として文化形態での主要行動形式 として意義づけ られる.
現在,数学は学校教育の中で基礎的教科として扱われ る.教育の著しい普及 とともにそれ にたず さある教授者の集団が指導方法の組織的考究に向 うようになった.数学教育は今や多 事の時代に入 り,その研究の中にも種 々の憤向が現われている.大 きく分けてみると,
①教育課程論 (参教材 ・教授方法 ③評価 ・測定方法 ④その他一般
情報処理の発達から,説得力のある研究発表の形は何 らかの数量化を求め られる.本来的
* 昭和
52
年8
月 日本数学教育学会 第59
回総会全国数学教育研究大会において発表 昭和53
年8
月 日本数学教育学会 第60
回総会全国数学教育研究大会において発表**一般科数学 教授
原稿受付 昭和5
3
年9
月3 0
日72
長野工業高等専門学校紀要 ・第9
号には教育の評価は長期的なものであるはず だが,指導 とい う試行では条件を設定 し,空間的 時間的な拘束 の下に閉 じた実験行為 として反応が観察され る.検査は周到に対象集団の実態 を多角的にとらえるよう計画 され る.効果測定がテス トでは困難な とき,意識や認識の内面 探査に誘導式設問のアンケー ト調査形式が とられ る.さらにユニー クな内面実態の把握には 項 目設定の レポー トや 自由論文形式が用い られ る. これ らの長短を相補 して指導を評価す る.
2 ‑2
わが国における初等解析教育の成立戦前の数学教育では,小学校で算術,中等学校で代数 ・幾何 ・三角法,高等学校でさらに 解析幾何 ・徴積分が加えられた.徽積分学が難解 ととられたのは授業そのものが
8‑
∂式論 法であ った り,教科書 ・参考書の種莞酌ま少な く錬成型であるなど教育的配慮が欠けていたか らでもある.高度で詳 しく新 しい内容は原書に よるのが普通であ り,数理の奥義はアカデ ミ ズムにか くされていた.高等数学の全容が普及版 の形で現われた最初のものは 「共立挽近数 学講座( 1 9 20
年代刊)」であ り,やがて単行本 とな り広 まった.続いて 「岩波講座数学( 1 93 0
年代刊)」が出て,現代数学のベールがはがされた.解析学の指導啓発に大 きく影響 した ものに 「解析概論 (高木貞治)」があ り, 大学の教科 書になった. 「数分積分学 (藤原松三郎)」 は解析学事典式面 目で学習者に迎え られた. 高 校教科書では 「高等徴分学,積分学 (竹内端三)」が類書をしの ぐ王座にあった. 竹内端三 の解析学全般‑の幾多の 著書は重版の記録を作 った. 「高等数学概要 (掛谷宗一)」 は解析 入門として広 まった. 「高等教科微分積分学 (末綱恕一 ・荒又秀夫)」 の登場は戦時中, 理 工系数学重視の中に 平易普及を 日ざした良書であった. 「初等数分積分学 (渡辺孫一郎)」
は工業実用数学の先駆的教科書 として長期にわた り影響を及ぼ した.
戦後の数学教育では,倣積分教育が新制高校で 「解析」の名でスター トした.伝統数学の パターンを踏襲 しつつ平易普及化する努力が続け られ,おちついた形が高校では直観主義的 倣積分入門を‑早 く果 し,大学で厳密理論的解析学を学ばせる方式が とられ現在に及んでい る.世界的傾向として数学教育の現代化が進め られてきた.教育課程の改訂は屡 々行われ, 内容の平易化や指導力点の移動はあったが,微積分に関 しては内容的には今 も昔 も変 ってい ないとす る見方が多い.教育技術の進歩 とそれを支える多数編者の教科書の多様性は日をみ は るものがある.これ らを上記 の戦前教科書のアレンジと見 るほど数学教育の伝統は根強い.
解析学の中では 「数分方程式
」
「複素関数」は徽積分学に続 くものとして,大学数学の中 で広 く扱われ, その体系 も比較的早 く形成された. 「数分方礎式通論 (矢野健太郎)」は戦 後早い時期に出て, 教科書の定形にな った. また 「函数論 (竹内端三)」は演習書とベアで 斯界で追随を許 さない ものであった. 後に 「初等函数論 (能代清)」 が出て演習毒を加えて 広 まった.工業数学教科書 としては 「新版初等微分積分学 (渡辺孫一郎)」「初等解析学 (同)」 は版を重ねた.解析学教育に著 しい変化の様相が現われたのは,世界的には60年代か らである. 「解析入 門
( S .
ラング)」
「新 しい微積分( E.E.
モイーズ)」などが著わ され,
「現代解析の基礎 (デ ィ,ユ ドネ)」が高い評価をえた.わが国では 「微分積分学 (三村征雄)」が書かれ新 しい解析 学教育の方向づけになった.集合論を基礎に線形代数 と微積分 との一体化の形式がとり入れられた.今 日の数学教育では 「数学的,総合的」なとらえ方が重視 され るようになってきた.
高等数学でも系統に固執 しない学習が広まる兆 しである.
2 ‑3
高専の数学教育高専の数学教育は特色をもつものである.端的にい って,かつてない低年令へ高等数学を 広める画期的な教育 として,実用数学をいかに短期間に系統的に指導す るかの課題をも提供 した.高専数学は一つの完成教育をね らう所に特質を発揮す る要因があ り,極度に時間をき りつめた能率主義 と総花式の指導形体をとることになった.
1
年次 の基礎教学が高校の内容 と大差のないのに対 して, 2年次 の内容は差異を次第に広 げる.線形代数 と徴積分学 とを両立させる現代的数学教育の傾向を先 どりす る道を歩 きは じ める.3年次以降は全 く微積分一辺倒 の深 まりの中に解析学 の様相を強める.その内容は一 見オーソ ドックスな初等解析であ り,原形を前項 の矢野,竹 内,渡辺 らの教科書に準拠す る 形式のもので固さがある.歩調は速 く,一応学問体系に即 した理論展開であるが,所 々で数 学本来の厳密性をさける方法を とることを余儀な くされ る.つま り直観思考に よる理解 と天 下 り式法則の容認が混入 してきて異端性をおび る.説明や証明はむずか しいが定理や公式は 重宝だか ら認めて用い ようとい うわけである. これを批判す る意見がある. 「この行 き方は 科学的合理的精神にプラスにならない,意味理屈のわか らない ことはと りこまない方が よい, 少い真理一指導内容精選一で整えて,そこからできるだけ多 くの真理やその応用を考えだす 方がはるかに教育的である」 とい う.筆者が考えた指導改善 の方法 とは 「活用重視」で編成 しなおす ことであった.内容に多少 のむずか しきはあっても具体性 とくに応用 との関連があれば,興味 と意欲はつなぎとめ うる.
まず導入時の工夫が指導の最大の関心事であってよい.あ とは適切な事例で平易化 と実用化 で未知の分野‑広げることができれば,,意欲ある学習は可能である.活用は実際面 と数理論 の構成へ と及ぼされれば有意義である.さらに史実などを通 してその数学の発展の姿 と位置 をた どり知ることができれば,立体的な修得ができることになる.
3 .
実 践 例( 1 )
微 分 方 程 式 の 指 導微分方程式 の理論は解析学の中ではまとまりのよい部門 として,普通他 と区分 して教 え.ら れ る.反面,教育体系が定着していて形式的に扱われることも多い.塾を羅列 し抽象的解法 の理論に偏 した り,計算技術にのみ終始す るなど,学習意欲を起す ような具体性 のある内容 提起が忘れ られがちである.ここでは計算上の基本事項はなるべ く簡潔にして主眼を活用に お く指導で学習の効果をあげたい.要点を示す と
(1)微分方程式を作 る段階における基礎的事項 と思考の仕方をつかむ.図形 ・物理 ・化学 ・ 工学の法則を微分法則 として とらえる能力を養 う.
( 2 )
微分方程式を解 く段階における思考工夫の練成,着眼は何に よって区別 され発展 し高め られ るか,解析学を整備 して線形方程式の解法の能力を修得させ る.( 3 )
微分方程式の歴史を導入 して実践の刺激か ら理論が発展 してきた史実を重視 し数学活用 の意義を理解 させ る.3 ‑1
塘導内容の要点 (1)基礎計算力の修得① 微分方程式についての諸定義 常微分方程式,正規形,偏微分方程式,かんたんな実 例,式を導 く,解の意味
7 4
長野工業高等専門学校紀要 ・第9
号②
1
階方程式の解法を限定する 求積法 ・変数変換法を主 とする.変数分離形,同次形, 線形 (同次 ・非同次,定数変化法)ベル ヌイ塾,解の種類 (一般解,特殊解)@ 2
階方程式の解法を限定する 線形理論を主 とす る.線形方程式 (1解 より基本解), 定係数同次 と特性方程式,非同次 と特殊解 (未定係数法,演算子法,山辺の方法)( 2 )
応用問題への習熟① 1
,2
階のもの 図形の問題 (接線,法線)物理 ・化学 ・工学の問題 (原子崩壊,熟 発散冷却,漏水,物体の疫てき,速度 ・加速度,バネ振動,滑車 ・斜面の降下,電気回 路,化学反応など)を取 りあげる.立式重視 と初期条件か ら具体解を求める.② 連立と高階方程式の誘導 連結振動系や連鎖化学反応か ら連立方程式が導かれ,その 解法が高階方程式‑ と発展する.問題提起のみ,続 く数学理論構成の前座 とする.
③ 物理数学の方程式の誘導 電信 ・波動 (弦 ・膜の振動)熱伝導など2階偏数分方程式 の立式を行 う.初期値 ・境界値問題の提起のみを扱 う.解法には至 らない.
( 3 )
数学理論の構成①
2
階線形常微分方程式を数学的に積みなおし高階に至 る.関数の一次独立, ロンスキ アンの導入,基本解による任意解の表現,定数琴化法の理,類似に高階線形定係数方程 式の理論を確立す る.演算子の方法を拡張する.② 連立方程式の理論 代数方程式同様に連立徽分方程式の解法を未知関数を消去す る方 法で高階方程式に帰着させる. 1階定係数の連立系を演算子法の線形代数的手法で解 く 変係数対称形連立方程式の積分の解法.
③ 偏数分方程式の解法理論
1
階完全数分方程式は常微分 と偏微分の接点に位置す る.線形
1
階同次偏,準線形 と特有微分方程式による解法, 2階では波動方程式のダランベ ールの解法のみを扱う.( 4 )
数学史の学習① 常微分方程式の成立 線形理論の発展過程,正規形の意味, 1階一般化としての完全 形 と積分因子,統一理論化の リッカチ,特異解のクレー p‑,解の存在定理のコ‑シー
とピカールの方法,逐次近似解法など.
@ 偏数分方程式の成立 特有方程式の意義,ダランベール, 7‑ リェの方法の画期的意 義,統一理論の建設が重要テーマ,他の数学 と結び現代数学の発展を刺激する.
3 ‑2
′指導の経過この指導は
3
年次1
学級( E
科40
名)に対 し後期半年間5 0
時間で立案通 り実施 した.項 目 順に2 0 ,1 0 ,1 0 ,
10時間を配分 したが,さらに1 0
時間が欲しい.一般の教科書の編成とは異 なる内容配列であるので,相当量の補充教材を作成 した.応用問題は多方面 より適切なもの を集めた.数学史についても同様,指導の力点の概要をのべ る.①
1
階の型を限定 した ことで求構法にかける労力を省いた.級数や図解法による一般的方 法 もあるので,正確に積分で解 く方法に固執することをさけた.②
2
階線形は数学理論 と物理への応用 として中心的位置にある.習熟のためには力と時間 を十分にかけたい.応用に慣れ様々の形で解法の原理の理解を深めてい くのである.③ 実際問題か ら理論構成に入ることは学習能率はよくないが,内容にイメージが画けて問 題意識がはっきりす る.創造性をひき出す点でプラス面は大きい.
④ 微分方程式を解 くことだけに主眼をおかないで, 自然法則を微分法則でとらえる態度 と その解法が系統的に処理できるのが線形の場合であることに気づかせ る.
⑤ 微分方程式を広い立場か ら見ることは徽積分学の場合 よりさらに稀である.発展の流れ を大 き くつかみ,直接に証明しえな くても重要定理 の存在意義を知 らせる.
⑥ 人間の思考は演算子のような機枕的操作をみつけて見事に処理できる.微分演算子
D
の 効用 と特性方程式の働 きには大きな関心が示 される.概 して,活用上
2
階線形を重視 し,常 ・偏数分の区分は画然 と設けなかった.筋を明確に す るためもうら的ないき方をさけ,わ くか ら出た重要なものは数学史の中で概説 し位置づけ た.近似解法を深める時間不足,学生 自らの事で理論全体を整理 し定形的に直す課題を残す.3 ‑3
テス トによる学力の評価1
カ月に1
回の割合で計5
回の学力テス トを行 う.各回の問題例 と結果を示す.① ㊥テス ト (1階常飲分方程式
4 5
分5
問) (問 1) ( x‑y) y' +( X+y) ‑
0について,次に答えよ.⑦正規形にせ よ
①y‑xu
としてx,
u の方程式にせ よ ⑳ この解を求め よ (問2) x y' + y‑4 x( 1 +x2)について,次を求め よ.
⑳一般解
㊧x‑1
のときy‑4
となる特殊解(結果) 成就率
㊦9 0 % ①6 1 % ⑳4 1 %
計5 8
% (正答率4 3 %)
⑧6 5 % ㊧4 7 %
計61 % ( 〝 5 0 %)
② ⑤テス ト
(2
階線形常微分方程式6 0
分5
問) (問 1)yH‑5 y' +6 y‑0
について次を求め よ.⑦特性方程式 ①一般解
⑳y( 0 ) ‑2 ,y' ( 0 ) ‑5
の特殊解 (間2) y H l2 y' +2 y‑e 3 X+( 6 x' ・ +4 x+2 )
を次 の順序で解け.⑳左辺
‑ C3X
の特殊解を未定係数法で求め よ.⑳左辺
‑6 x 2 +4 x+2
の特殊解を演算子法で求め よ ②一般解を求め よ (結果) 成就率 ⑦9 8 % ①9 8 % ⑳7 9 %
計8 8
% (正答率8 0 %)
⑧8 3 % ⑳8 0 %
②6 3 %
計7 4 % ( 〝 6 0 %)
③ ⑥テス ト
(1,2
階応用問題5 0
分5
問)(問 1) 放射性元素が崩壊す るとき単位時間に崩壊す る原子の数はそのとき存在す る原子 の数
N
に比例す る.比例定数1 ( > 0)
をその元素の崩壊定数 とい う.㊦時間 tの関数
N‑N ( i )
の微分方程式をつ くりN( 0 ) ‑N oとして N( i )
をだせ.⑦
l l
C (炭素1 4 )
の半減期は,5 7 6 0
年であるとい う. このとき1をだせ.(問
2)
ドラムカン状 (直円柱,底面半径1 m)
の貯水 タンクの庇に穴がある. この穴か ら毎秒流出す る水の量はタンクの水深h
(m)の平方根に比例す るとい う.⑳流出開始後 t砂時の水深
h(
i)
, 微小時間 [t , i +At
] の間に流出す る水量 Vとし,t ,h,At ,Ah‑h( i +At ) ‑h(
i) ,
Vの関係式か ら微分方程式をつ くれ.⑳ i ‑O
のときh‑5 ( m)
であるとしてh‑h( i )
を求め よ.流出完了時問 も.(結果) 成就率
⑳8 6 % ①7 7 %
計8 2
% (正答率7 3 %)
⑧5 3 % ㊧41 % 計 4 7 % ( 〝 4 3 %)
④ ④テス ト (偏微分方程式,数学史
5 0
分7
問)7 6
長野工業高等専門学校紀要 ・第9
号(問 1)
( x 2 ‑2 y) d x+( y 2 12 x) d y‑0
の完全形なることを示 し,解け.(問
2) 1
階準線形x z x ‑y z y ‑
2の一般解, x‑1
のとき2‑y 2
なる特殊解をだせ.(結果) 問
1
成就率8 2 %
(正答率7 0%) ,
問2
成就率4 2%
(正答率1 5 %)
⑤ ㊥テス ト (高階,連立理論
6 0
分6
問)(問
1) y' ' ' ' ‑y
‑x4なる4
階線形方程式について,次を求めよ.㊦左辺
‑0
の一般解 ① この非同次方程式の一般解 (問 2) 連立方程式y' ‑3 y+I ‑0 ,y‑Z ' +I
‑eXを解け.(結果) 問
1
成就率⑳7 0 % ①68 %
計6 9 %
(正答率5 8 %)
問2
成就率75%
(正答率5 8%)
概 して,計算力では
1
階 より2階の方ができる.積分力の不足が影響 している.線形の2
階以上では代数的な考え方の影響は大 きく,興味をもつ.演算子法には関心を示 し修得でき た.応用では立式がむずか しい らしく個人差は大 きい.力学との関連で2階への関心は強 く 常 ・偏微分の区別は余 り問題でな く理解はし易い.学習の終末で内容を総括的につかむ力が ついたことが うかがえた.3 ‑4
レポー トによる結果の考察学年末に 「微分方程式を学んで」と題するレ'ポー トを提出させる.指定内容の境目で配点 を定めて採点処理 したデータと主な意見をとりあげる.
① 採点処理
5
項 目 (㊦学習方法 ①学習経過 ⑳興味 ㊤応用 ⑳数学史関心)に分け て各2
点 (大へんよい2
点, よい1
点,その他 0点)計10点満点でつけた.得 点
1 2 1 3 6 1 7 4 1 5 1 6 1 6
① l ⑳ l ㊤
⑳ l 計 平均点 l1 . 2 8
(参 主な意見
5
回のテス トの総合成貴か ら上位10名,中位2 0
名,下位1 0
名に3
分して 上位U l:
応用問題はむずか しいが具体的で興味が もてる.U 2:
方程式が立 って解けたとき自信 と希望をもっことができる.U8
1.徴分方程式は生きた学問だ.山辺の方法はす ごい.級数解法は驚異だ.U4.・微分方程式をや り数学の広 さを感 じる.数学の本当の面白さを嫌える.
U5:2
階非同次ころか ら面白 くなった.高専の数学は高等であ り興味がわ く.U 6
.'徴分方程式を発見 した人物 とその歴史に興味をいだ く.下位
L l
.一進度が速 くてついてけない,や っていることの意味がわか らない.L 2:
応用は必要である.専門によくでて くる.L 8:
数分方程式には興味をもつ.努力は した.人により学力進歩の幅がちが う.エl:数学史をや り自然法則が方程式に結びつ くことを知 り興味を感 じた.
L 5:
微積分の力がないので応用 ともなるとさっぱ りわか らない.L6:数学は現象や運動を数式で表わせ る点で面白いが,解法の多いのに閉 口す る.
概 して,学習態度の内面を特長的に とらえると,専門学科での盃要度が意欲を増す ことに 力があ る.授業内容にアクセン トをつけるいき方を した ことが理論を透明にできて数学理論 に向 う刺激 となった.また数学史 との関連が視野の拡大に好影響を与えた.
4 . 実 践例 ( 2 )
複素関数の指導複素関数の理論は学習意義の不 明確 さと意欲の不安定 さにもかかわ らずお し進め られ るこ とが多 く指導内容 と形式の古典性 も手伝 って学習の実態は種 々の問題を提起 してい る.
関数を複素変数の範囲まで広げ る便益を数学理論上 のみでな く数学の適用面での有効性を も学習段階でとり入れ ることによって低学年学習での魅力を生 じさせたい.指導 目標 として
i )
数概念 としての拡張 (複素数体,複素平面)i i )
関数 (写像)概念 としての拡張 (複素関数,写像)i i i )
浜算 (徴積分法)概念 としての拡張 (正則関数,解析性)i v)
それ らの応用 (実際面,数学理論面) 複素関数の指導上の困難点 と考え られることを列挙す ると1) 複素数は数の概念 として抽象的であ り,実数の場合のように生活に密着 していない.
2)
複素数での代数的基礎が乏 しい.四則計算のみで数の性質の理解が不十分である.3) 複素平面での図形的性質の把握で,初等幾何の学力不足が抵抗の理 由にな ってい る.
4)
複素関数の数分法学習の目的は写像 の等角性 と密着 しているのに,宋際の学習は微分 法を素通 り.して積分法へ向い,正則性 も積分法以降でない と本領を発揮 しない.5) 積分法学習が純数学的で抽象的であ る.留数利用の実積分計算までに息切れす る.
4 ‑1
指導内容の要点 (1)基礎計算力の修得複素数,複素平面,極形式, ド・モアプル定理,オイラー公式,複素関数, 1次関数
( 2 )
実際面‑の応用複素数の図形問題証明,微分方程式の解法‑利用,等角写像の物理 ・工学‑の適用
( 3 )
数学理論への適用按素積分, コーシー積分定理,積分公式,展開式の誘導 と特異点,留数定理 (4) 数学史の導入
オイ ラーの諸公式 と記号, ガウスの複素平面 と複素数の代数学,代数学の基本定理の意義 コ‑シーの複素関数の諸定理
,CR
方程式, ワイエルス トラスと リーマンの業績これ らの内容をふまえた実際授業の項 目と時間配分は次の通 りである.
㊥
複素数 と複素関数( 1 5
時間)①
正則関数 と等角写像( 20
時間)⑥
複素硫分 と級数展開( 1 5
時間)指導の力点は⑤であ り㊥はその準備,⑥ ほ純数学的で学力的 ・時間的に習熟は望めない.
⑤の内容をさらに くわ しく分けて説明する.
① 正則関数について 関数の性質を微分演算主体で とらえることをね らう.
7 8
長野工業高等専門学脚 己要 ・第9
号関数の極限値 ・連続性,正則 の定義,微分法
,CR
方程式の証明,実関数 としての調和 関数,複素関数 としての 正則関数の重要性, 初等関数 (zn,ez) とその逆関数 (nJ7,l og
a)の正則性, リーマン面の説明 とその模型@ 等角写像について 正則関数の性質を写像主体でとらえ応用に発展 させ る.
写像の諸定義,等角写像 とそれに よる徽小部分の変形の分解,正則関数の等角性条件, 初等関数に よる写像の復習 (zn,ezなど)
, 1
次関数の主な性質の整理 と拡充 (三つの基 本関数に分解 し合成す る,円円対応, 鏡像の原理など), 特殊な1
次関数の例 (上半平面 を上半平面 ・単位円 など),やや複雑な写像 ●(角領域 ・上半円を上半平面へな ど)流体力 学か らの準備(2
次元的定常流,無渦流, 非圧縮流の定義), 2
次元定常流の 数学的解析 (速度ポテンシャル,流れ関数, 複素ポテンシャルなど),2
次元流線の画 き方, 翼断面 の理論, 2次元噴流の問題などの説明4‑2
指導の経過指導対象は
3
年次4
学級( M,E,C
科)1 60
名である.後期半年間で行 う.① 複素数への関心度で科に よる格差がある.
E
が強 くM,C
の順に続 く.② @の段階で練習を多 くして複素数になれ させ ることが大事である.
③ 基本概念である初等関数は とくに一次関数において,㊥⑥の両方にわた り反復 して式 計算に親 しみ,円円対応を作図 (反転法
W
‑1 /
Zの像)を とお して習熟 させ る.④
特殊な一次関数は鏡像の原理や写像の合成などで高程度に至 るが,問題解決の力をつ けさせ ること,興味を増す ことをね らう.⑤ ⑥の内容は高程度で時間不足が 日立つが,それ以上に抽象性が大 きな抵抗であ る.
⑥ 数学史はあ らか じめ教材を用意 しておき随所で導入説明す る形をとる.
4‑3
テス トによる結果の考察学力の評価は対象全員に共通テス ト
2
回(3
カ月に1
回の割)を行い,集計は3
クラス.①第
1
回テス ト (④⑥正則性までの範囲60
分M3 8 E4 2 C31
計1 1 1
名)出題
4
問 整関数, 1
次関数,指数関数,三角関数に関す る基本的なもの (抜粋で示す) Pl.I4次方程式24 ‑‑
1について,.次に答え よ.㊦‑ 1を極形式になおせ ① この方程式を解け ⑳解を複素平面上に図示せよ
P 2 ・ .1
次関数W‑I( I ) ‑I /I+
1について,次に答え よ.㊥ l I i ‑o mf( o I ) ㊨ l a i mf( ‑ ・ ‑1 I )
②1
次関数の円円対応をかんたんに説明せ よ⑳
Z平面の虚軸のf(
I)
による像を図示せ よP 3
.・指数関数W‑I( I) ‑e z
について,次に答え よ.⑳ e t ' i q i
を計算せ よ◎ D :0≦Re z ≦
1,0 ≦
血 Z≦2
,Tを図示せ よ⑳ I( I)
に よるD
の像を図示せ よ㊦正答率
88 . 3%
(成就率9 0 . 6%) ①81 . 1( 8 6.1 ) ⑳5 2 . 3( 7 2 . 3 )
㊥5 6 . 8 ( 5 6 . 8) ㊧29. 7 ( 35 . 7) ②4. 0 ( 2 6 . 3) ⑳1 3 . 5( 2 2 . 8 )
⑳6 9 . 4 ( 81 . 7) ⑳57. 7 ( 6 8 . 5) ⑳2 5 . 2 ( 4 4. 4)
②第
2
回テス ト (⑤⑥の積分 までの範囲6 0
分M3 7 E4 2 C32
計1 1 1
名) 出題6
問 各問は独立な2
間,写像,正則関数,CR
方程式,積分定理を用いるものQl: ⑳
Z平面上の円I z
J≦1の W‑I+i
に よる像集合を図示せ よ02
.'W‑I( I ) ‑I‑i / a+
tについ次に答え よ㊥ Z平面の実軸を左か ら右‑点 Zが進む ときWの画 く像を図示せ よ
㊧ W平面の領域
l wl <1の原像を図示せ よ
08:
半帯状缶域細:x ≦0, 0 ≦y ≦
7T,上半 円Oi):uB + V 2 ≦1,0 ≦Vを与える
切はW‑e
Z に よって㈱に写像 され ることを知 って次に答えよ⑳ Z平面の上半円CB)の
W‑1 +I / 1 ‑
Zに よる像Qc)を画け⑳ Z平面の半帯状領域紬をW平面の(C)へ写像す る関数を求め よ
㊦正答率
5 8 . 6 %
(成就率6 3 . 1 %) ①3 2 . 4( 3 8 . 4)
⑳ 〝 4 9 . 5 ( 〝 6 3 . 2 ) ㊧3 2 . 4( 3 7 . 7 )
⑳ ・
V 1 9 . 8 ( J V 3 6 . 2 ) ⑳4 4 . 1( 4 4 . 9 )
Pl ,P
8のよいことは形式的にい くか らか, P
丑の悪いのは理解ができていないか らか0
1では円周 と円との区別がっかない者がめだつ.Q2 ,0
3をみ ると円円対応は分 ってきた.合成 もかな りわかる.テス ト
P
.で7 0 %
以上 の成就率をあげたのはP
l⑦①⑳ P
8⑳であ り投素 数計算のもの,テス トQでは01 ‑
01の写像部分を合して4 7 %
の成就率,二つのテス トP ,Q
を比べて1
次関数の写琴についての理解が大分 よくなった とみ られ る・4 ‑4
レポー トによる結果の考察学年末に 「複素関数を学んで」と題す る t'ポー トを提出させ,学習の方法,関心,活用の 態度,田難点な どを観察す る.
MECl 1 5
名,テス ト総合成賃か ら三分 して上中下位を1:
2:1
とし特色があ るか調べた.各 ランクで目立 った意見を示す と次のようであ る.上位の傾向 :視野の拡大, 1次関数写像,交流理論 ・流体力学な ど応用‑の関心
U 1
3年になって複素数 と複素関数がで きてきた,1,2年時徐 々に入れば抵抗は少い (C)U 2
複素数のはじめの部分は面白 くわか る.複素関数徽積分は実感な く意欲わかず( C) U
8 図形の変換が面白い.今 まで学んだ図形の変換は大部分複素関数で扱える (E)U
4 交流理論を解 くとき用いる.複素数 の応用がさきで数学の理解があとである( E) U
S 複素関数が流体力学に使えることが前か ら分 っていればもっと熟が入 った (M)U 6
数学は芸術 と同じく新 しいものをつ くりだ してい くと気づいた( M)
中位の傾向 :学習への疑問,新概念理解への抵抗,複素数に関心,写像の興味
M l
l次関数写像に興味をもつ.複素積分で面倒な計算をせず答がでるのが面白い (C)M 2
複素数の必要性が感 じられない.必要になってきた とき学べば よい (C)〃;写像の合成を考えることは思考の柔軟性のたんれんに役立つ
(E)M4今 までの数学は複素数をさけていた.計算範囲が広ま り面倒だが便利になる ( E)
〟
;実係数代数方程式が複素数の範囲でつねに解を もつことに関心をもった( M) M
B無限遠点は 1点に集中す るとか複素積分が道に よって値がちが うとかは妙だ (M) 下位の傾向 :抽象性が理解困難,写像に関心を示 さない, 目的をもてば学習意欲はで るL
l 理論や説明が高度で抽象的である.具体例をた くさんあげてほ しい( C)
L2 複素数は計算の便利な道具にす ぎない. 「虚」の印象が強 く必要の実感がない
( C)
L
8 微分方程式の ように型に入 らず摸索関数は図形中心で不明,応用 も分 らない( E)
L
I 専門に実際に使 う内容か ら校素関数を理解 しようとすれば次第にわか る( E)
80
長野工業高等専門学校紀要 ・第9
号L 5
抽象的す ぎる.問題 の解 き方をおぼえるのが精一杯,複素関数の写像に不安感( M) L 6
航空 クラブに属 し複素関数に関心を もち写像で異形の設計ができた らと思 う( M)
以上を総 じて,低学年時の基礎学力の不足,図形の性質の理解不備に原因す る学習困難, 指導内容の高度化 と抽象性‑の抵抗,習熟態度の消極性がみ られた.物理 ・工学への応用が 一層具体的に扱われ ることの必要性,関数の深い理解が写像を通 してできた感激 もあ った.
教育課程の改訂に よって中学か ら三角比が除かれ,高校か ら複素平面が除かれている.そ の影響 もあって高専の教科書の中にも複素数のまとまった扱いは 1
, 2
年次になされず, 3 年次の複素関数 と合わせて一挙に行われ る. このことが指導 の抵抗を増す ことになった.た だ授業時数を多 くして集中的に詰めこもうとしても俺 きられ る.学習の目的や意味がある程 度つかめていなければ当然のことであ る.投素数の導入が計算を便利にす る必要から起 った ことはわか った としても,変数を複素数まで広げて関数 ・微積分がすべてはみでない十分な 広 さ,すべての計算を 自動化できる範囲での関数を考える必要性はそ うかんたんに分 るもの ではない.正則関数の特性 とCR
方程式, 1
次関数 ・指数関数の写像が的確につかみえて利 用できるとした らこの指導は一応 の目的を達 した ことになる.5 . あ と が き
この指導は
1976,77
年度に行 ったものであ り,高専1‑ 3
年次に対 し数年来実施してきた「活用能力を高めるための指導」の一環である.教育課程の標準の項 目に一応即 した適応で あ った.78年 3月に至 って高専教育課程改善調査会の報告が出て,従来の標準は もはや旧の ものとなった.新課程は最低限を与え各校の独 自性を認めているが,本稿で扱 った内容の大 部分は
4
年次以降 (応数)‑移 されている.高専の数学 も小 ・中 ・高校の教育課程改訂の関連で変容を求め られた といえる.かつての 高等数学が固いカラを脱 いで初等解析に生 まれ変わ った ように,さらに古 くなった皮を脱 ぐ ことになる.数学教育の 目ざす 「活用能力をいかに高めるか」は方法や鏡域をせ まくしない で,数理の発展や時代の文化の姿にも視野を向けて力点を見定める必要がある.
参 考 文 献
( 1 )
渡辺孫一郎 :初等解析学 裳華房 1 95 7 .
(2) 矢野健太郎 :微分方程式通論 東海書房
1 9 47
(新版 日興出版1 9 6 9 ).
( 3 )
福原溝洲雄他 :微分方程式通論 共立出版 1 9 5 9.
(4)コシリヤコフ他 :物理 ・工学における偏微分方程式 岩波召
店 1 97 4 ( 1 9 6 2
版 藤田宏他訳) (5) 洪妊植 :応用複素関数論 共立出版1 9 7 2.
(6) 長友治郎吉 :関数論と応用 損書
店 1 9 6 8.
( 7 )
ア ・〆・スヴェシニコフ他 :複素関数論 総合図書1 9 6 9 ( 1 9 6 7
版 筒井孝胤訳)( 8 )
鬼頭史城 :等角写像の応用 オ ー ム社1 9 5 5.
( 9 )
小堀意 :数学史 朝倉書店 1 95 5.
的 ルイプエコフ:数学史
( Ⅲ),( Ⅳ)
東京回書1 9 6 6 ( 1 96 0
版 井関清志他訳). 帥 中村正弘他 :数学教育史 損書店 1 97 2 .
的 藤原重串 ・宮下重敬 :数学の活用態度を重視する指導について 長野高専紀要第