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図画工作科・美術科学習指導要領の変遷に関する試論

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図画工作科・美術科学習指導要領の変遷に関する試論

金 子 一 夫

(1980年11月15日受理)

1.図画工作科と学習指導要領の出現

戦後の普通教育における美術教育は,「図画工作科」という新しい教科の出現より始まる。それ は戦前の図画科と工作科を合併したものであった。図画科と手工科(昭和16年から工作科と改称)

の連絡については,古く明治期より研究がなされている。大正年間には霜田静志の図画手工合一論 なども出てくる。さらに昭和16年発行の国定教科書「エノホン』 (尋常小学第一,二年用)では,

図画と手工が一緒になっている。しかし,合併には反対論もあり,図画や工作の教員の多くが積極 的に統合を主張していたのではない。そこには理論的にはともかく,合併による時間数の減少の危 険性という現実的な判断もあったのであろう。図画科と工作科は敗戦後アメリカの民間情報教育 部の強い指導の下に「図画工作科」として統合された。学習指導要領も民間情報教育部の指導下で 作られるのであった。当時文部省において図画工作科担当であった山形寛氏が,その著「日本美術 教育史』 (黎明書房昭和39年)において図画工作科の出現や最初の学習指導要領作成について回 想している。それによれば民間情報教育部にはアメリカ人の図画工作科専門の担当官がいなくて,

最初は理科,後には社会科の担当官が兼任していたらしい。そのため図画工作科と家庭科の合併案 や,社会科や理科との関連を重視した学習指導要領の作成を指示されたことがあったという。けれ ども,何とか図画工作科の独自性を保って切り抜けることができたらしい。このようにして図画工 作科とその学習指導要領(昭和22年,および26年改訂版)ができたのである。民間教育運動ととも に学習指導要領は,戦後の普通教育における美術教育を特徴づける。この文章は学習指導要領の今 日までの変遷がどのような方向性を持っているかについて,ごく簡単な見取りを試みるものである。

小中学校の内容配分を中心に検討する。

2. 学習指導要領の変遷

昭和22年に最初の学習指導要領が発表される。周知のように拘束力のない試案である。担当した 山形寛氏自身もr日本美術教育史』で述べているように,急いで作られたせいもあり内容は雑然と

した印象を与える。項目数が多く,各項目の時数配分も10%〜20%というように大まかな数字が挙 げられている。しかし,それを全体的に配列整理してみると,図表1.のように大きな構成が見えて

くる。描画と紙工が大きな位置を占める。描画は最初,記憶・想像による描画が多いが,だんだん と写生によるそれが優勢となる。紙工も学年が上になるにつれて少なくなり,図案,製図,木工,

金工,糸・布のさいくなどになっていく。おもしろいのは実体的な内容ではなく,製作過程を内容 とする項目があることである。すなわち,「材料があり,その利用法を考えて作る」と「目的がき

(2)

52      茨城大学教育学部教育研究所紀要ユ3号特集(ユ980)

まり,材料組立て方を考えて作る」である。第五学生以上では時間配分の提案はない。内容はよく 言われるように「生活造形主義」とでも言うべきものである。

この学習指導要領は昭和26年から27年にかけて改訂される。小学校と中学校が分離され,図画工 作科に関しては小学校と中学校の内容の連関はあまり考えられていない。小学校の方ではたくさん あった項目を描画,色彩,図案,工作,鑑賞の五項目に整理し,時数配分の割合の数字もきちんと 出している。そこでも描画と工作が主となっている。色彩,図案,鑑賞は従であるが,学年が上に なるにつれてやや増加している。中学校になると表現,鑑賞,理解,技能熟練の四つの教材を挙げ ている。先に述べたように小学校との連絡は感じられない。

昭和33年に再び改訂された学習指導要領は,性格を転換し法的拘束力を持つとされる。そして図 画工作科の性格も大きく転換する。それは直接的には中学校に技術科が設置されたことに関連する。

中学校の図画工作科は「美術科」と改称し,内容も芸術性や創造性を主とする表現や鑑賞に関する ものを扱うように方向づけられたのである。小学校は図画工作科のままではあるが,内容的には中 学校の美術科と関連している。学習指導要領図画工作篇の内容の構成は再び複雑となる。多くの項

目が設定されたのである。しかし,時数配当の指定区分からすると絵画・版画・彫塑の系,デザイ ンの糸,工作の系,そして鑑賞の系で構成されていると考えることができよう。中学校では工作が デザインに吸収されて三つの系によって構成されている。昭和26年版に比べると細かい配分の指定 がなくなっている。

昭和33年の学習指導要領が発表される頃には,既に有力な民間教育運動団体が結成されていたこ とを見逃すことができないであろう。昭和26年に「日本教育版画協会」,27年に「創造美育協会」,

30年に「造形教育センター」が結成されている。「新しい絵の会」の主張が明確になってくるのも,

この頃からである。これらの教育運動団体の主張が学習指導要領に反映していることは確であろう。

たとえば,図画工作科の第一目標「絵をかいたりものをつくったりする造形的な欲求や興味を満足 させ情緒の安定を図る」は,創造美育協会の精神分析的な考え方が背景にあるのであろう。版画や デザインが独立の項目としてあるのも,日本教育版画協会や造形教育センターの主張が意識されて いるのであろう。いろいろな主張をバランスよく配合することが,法的拘束力の発揮には必要であ ったのかもしれない。

昭和43年改訂の学習指導要領では,内容が絵画,彫塑,デザイン,工作(中学校では工芸),鑑 賞の五領域の哉然とした縦貫構成となるのである。学年によって時数配分もあまり変化しない。系 統性重視の構成と言えるであろう。

      o サして昭和53年改訂の学習指導要領は内容を表現と鑑賞にわけ,その中に絵画,彫塑,デザイン,

工作が含まれるようにし,あまり領域の区別が目立たないようにしている。系統性から再び総合性 への転換である。そして「造形的な遊び」が小学校一,二年で設定されたのもその例として考えら れる。時間配分の指定も絵画・彫塑の系とデザイン・工作の系(+造形的な選び)が均衡となるよ

うにとしかないのである。中学校での指定は全くない。

こうして昭和22年から53年までの内容の変遷を概観すると,いくつか気づくことがある。まず,

内容的に絵画(+彫塑)と工作(+デザイン)の二大支柱の存在である。それは図画科と工作科の 合併という成立事情のなごりでもあろう。次に改訂が系統性と総合性の志向を交互にくりかえしな がら今日に至っていることである。昭22,33,53年版は総合性,26,33年版は系統性である。もち うん,これは内容の構成形式上の志向のことで,完全な系統性や総合性が実現しているわけではな

(3)

図表 L 昭和22年学習指導要領における各項目と時数配当百分率

学年

1         2         3      4         5         6         7         8         9

       1

G       曜

       ,     ;記憶・想像による描画      構想による描画  ,

@      i       i

10

」       印

@         i  描  画

G     ・

堰@      :      ,

20

       i       i       i

ハ生による描画  1写生による描画 i

@      i       、       1       ●

30       i

@         i       l

@         i       

S土による表現    ;粘土による表現  1      …

40

     i       :

Y一一一・…      …

i       ・

艶F        1  色

堰@      i       :煙̀       形

堰@     ・

50 色     i図案  ・図案

竹工  1製図       i   製図 形集め 諌工   i

60

図案 i金工   i:糸・布のさいく  …

紙工       …     i       :

70 …籍膿雑i   ト潔リー

i作る   1

…目的がきまり, i 1材料組立て方を 1 i考えて作る  …

80

;       i

F工具・備品の扱  i設備・備品の保存及修理 材料があり,        iい方       iその利用法を       i         i

90

;;萎i騨2 騨 騨締乞      〆一一       1      

 % P00

r工芸晶美術品の鑑賞i工芸品・美術品の鑑賞i 鑑賞  i鑑賞を主とした美術史       1

(実線の部分が日数配当の指定のある部分。帯の縦幅が配当率を表わす。ただ昭和22年のに関してそれは筆者のおおよその見当でしかない。)

もの

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54       茨城大学教育学部教育研究所紀要13号特集(1980)

図表2 昭和26年改訂学習指導要領における項目と時間数配当百分率

小学校 中学校

1     2     3     4     5     6 1     2     3

__」L        」_        L,        L_       .」L _L_ _____⊥

10 表現教材

゜描画 20 描 画      ゜図案

゜配置配合

゜工作

30 」    °製図

40 _「

@   色彩  一「}} 「 鑑賞教材

50 図 案

60 L 1理解教材堰@。表現に即した理解教材

。その他の理解教材

70 技能熟練教材

工 作 80

10話 鑑 賞 i

図表3 昭和33年改訂学習指導要領における項目と時間数配当百分率

小学校 中学校

1     2     3     4     5     6 1      2     3

10

      鰐『にあるものを絵で表現絵をかく       印象や構想などの表現      1外界を観察しながらそれを絵 i

20 版画をつくる        版画をつくる。

30

       i粘土を主材料にしていろいろ..十..彫塑をつくるなものをつくる       i

@      i    I       一

40

50         …

ヘ様をつくる  i デザインをする

@       … i

60

【    」

色や形などの基礎練習 70

… 役立つものをつくったり構成

@の練習をしたりする。 美術的デザイン いろいろなものをつくる

80 機構的な玩具・模型の類をっ

くる・@      _」

90        「轟「弄品を鑑賞する

100

(5)

図表4 昭和43年改訂学習指導要領における各領域の時数配当百分率

小学校       糊学校      … 1         2         3         4         5      6      !         2         3

10

絵   画      絵   画 20

彫   塑       彫   塑 30

40 50 デザイン

60

i デザイン

工   芸 70 工 作       i

80

90

1  鑑  賞

100% 鑑   賞

図表5 昭和53年改訂学習指導要領における内容と時数配当

小学校 中学校

1     2     3     4     5     6 1    2    3

10

瀬 … i i麹        i   l    一絵がかけるよう・・する.

20 灘耐 堰F霊臨海線 i響 うに

30          i         i 。色・形などによる構成

堰@  …   ….伝達のためのデザ,ン

40 膜_畑_−1_、       ;

i鴫

50 表現      i

・造形的な遊び_.      i       i      l鑑賞

@      i    …

ュ_くる.

@.i__、i       i        i       i      i

90 鑑賞        i    i

儒を見る     ・・鑑賞する  i

100% i        i

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56       茨城大学教育学部教育研究所紀要13号特集(1980)

い。そして,改訂は系統性と総合性のジグザグ形を描きながら,いわゆる「精選」の過程をたどっ ていると言えるであろう。ただそれは文面上の精選であり,より多くの可能性を許すようになって いると解釈すべきであろう。また,それと関連して現代美術の状況が従来の絵画,デザイン,工芸 といったジャンル概念では把握しきれなくなっていることも注意されてよい。

3. お わ り に

学校教育は制度的,計画的になされるのであるから,教育内容について共通理解的な規準の存在 は必要であろう。しかし,その教科の教育を探く考えようとする場合,学習指導要領から出発する ことはできないのではないかと思う。学習指導要領は理論ではなく一つの相対的な結論であるから である。その結論に至るまでの論理過程の説明がないので本当に了解するのは難しい。なすべきこ とは明確ではあるが,それをなすべき理由は提示されないからである。指導書でも示してはいない。

美術や図画工作の場合,論理的必然だけで規定するのは困難なこともあるが,それを提示するに至 る経過くらいは何らかの形で明示されるべきであろう。現実に学習指導要領はそこから出発すべき 絶対的結論として受入れられているようだ。何のために何を教えるかではなくて,いかに教えるか のみを考えるように強いてはいないかと思うのである。受習指導要領には目標もかかれてはいるが 曖昧であり,そこから内容が必然的に導き出されるようなものになっていない。教科の教育を考え る時,教科そのもの,少なくとも学習指導要領から出発すべきではなく,美術教育あるいは造形教 育というところから出発すべきである。そうすれば学習指導要領に対して絶対的な尊重とか否定で はなく,一定の距離をもって冷静に眺めることができるであろう。一方,学習指導要領を作成する 側も結論に至るまでの過程は何らかの形で明示すべきであることを繰り返して述べておきたい。

図表 L 昭和22年学習指導要領における各項目と時数配当百分率 学年 1         2         3          4         5         6         7         8         9                    1 G                 曜                    ,     ;記憶・想像による描画          構想による描画  , @                  i       i 10 」       

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