我が国のPFI制度について︵都法五十六‑一︶ 四八三
我が国の PFI 制度について
││十五年の歩み││
田 代 俊 明
P F I
はPrivate Finance Initiative
の略称であり︑
英国を起源とする民間資金を用いた公共事業の仕組みで︑
民間資金による施設の設計
・
建設︵
又は改修︶
と二〇
から三〇
年といった長期間に及ぶ維持管理・
運営を一括して民間事業者に委託するの典型的な
P F I
の例である︒
類似の概念として︑ P P P ︵ Public Private Par tnership ︶
があり
︑
例えば﹁
伝統的には公共セクターによって行われていたサービスの提供に関する︑
公共セクター及び民間セクターの間の長期契約
﹂
と定義されている ︵︒ P P P
は民間資金の活用がない類型も含まれうるが︑ P F I
は︑
通常 1︶Private Finance ︑
すなわち民間資金の活用が重視されている︒ P P P ・ P F I
には︑
独立採算型︵
事業に必要なコストを主に利用者からの利用料金で賄う
︒︶
及びサービス購入型︵
事業に必要なコストを政府が民間事業者に支払う
︒︶
がある ︵︒
2︶我が国では
︑
一九九九年に﹁
民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律﹂︵
平成一一年法一一七号 通称
﹁ P F I
法﹂︶
が施行され︑
四五〇
件以上の事業が実施されている︒
当初より政府内においても﹁ P F I
法﹂
という略称が用いられ︑
民間資金の活用が重視されており︑
英国のP F I
に強く影響された制度とな四八四
っている
︒
しかし︑ PFI
法施行後︑
我が国のPFI
は英国とは違った形で発展している︒
我が国と英国あるいは諸外国の
PFI
とPPP
の違いを理念型として理解することは︑
今後PFI ・ PPP
のノウハウ等を共有していく上で有用であると考えられることから
︑
本稿は︑
我が国︑
英国及びその他の国における類似の制度と比較しながら
︑
特にPFI
導入の主要な目的︑
民間資金の活用︑
需要リスクの分担といった観点から我が国のPFI
制度の十五年間を概観する
︒
なお
︑
本稿は現職につく前に執筆したものであり︑
現在の所属機関の見解とは全く無関係である︒
一 PFI法施行︵一九九九年︶前の民間資金によるインフラ整備の状況
民間資金によるインフラの整備は新しい考え方ではなく
︑
我が国においても百年以上の歴史を有する︒
ここでは主に鉄道を例を若干紹介する
︒
1 私設鉄道条例
一八七七年の西南戦争後
︑
明治政府は財政難に陥り徹底した緊縮財政︵
松方財政︶
によって立て直しを図ったが
︑
鉄道についても予算が不足し︑
民間資金の活用を求める声が強くなり︑
一八八一年に我が国で最初の民間鉄道会社である日本鉄道が設立された
︒
さらに一八八七年に私設鉄道条例が制定され
︵
明治憲法の施行前であり︑﹁
条例﹂
という用語が使われているが︑
国の法規である
︶︑
本条例により多数の鉄道会社が設立され︑
特に一八九〇
年代後半には全国各地で鉄道が建設さ我が国のPFI制度について︵都法五十六‑一︶ 四八五 れた
︵
第二次鉄道ブーム︶︒
現在のJ R
の主要路線︵
東海道線及び新幹線を除く︒︶
は日本鉄道や私設鉄道条例に従って設立された会社によって敷設されたものが多い
︵
日本鉄道が高崎線︑
東北本線︑
山手線等を︑
甲武鉄道が中央線
︵
お茶の水―
八王子︶
を︑
総武鉄道が総武線を︑
山陽鉄道が山陽本線を建設︶︒
この私設鉄道条例では
︑
資産を担保に借入を行う場合の上限は払込み済みの資本金額の一〇
分の五までとされ︑
株式主体の資金調達が義務づけられていた
︵
第三二条︶︒
実際︑
平均して九割程度を株式によって資金調達をしていたという ︵
︒
株式による資金調達を義務づけることにより︑
需要変動に比較的強い資金調達が可能になったもの 3︶と考えられる
︒
当時の補助金の方式については
︑
距離ごとに補助金を出すことが主流であった︵
例えば山陽線の場合︑
一マイル︵ =
約一︑
六キロ︶
当たり二〇 〇 〇
円︵
現在の価値ではおよそ二〇 〇 〇
万円︶︶ ︒
一方︑
東北線などを建設した日本鉄道については
︑
人口が少ない地域にも路線を敷設していたこともあり︑
一定の収益率︵
東北線については八パーセント
︶
を保証する形式もとられていた ︵︒
4︶これらは
︑
一応民間事業であったが︑
免許の日から二五年経過後に政府が買い上げを行う権利を有し︵
第三五条
︶︑
その場合の買い上げ価格は前五年間の株券価格の平均とされていた︵
第三六条︶︒
鉄道会社は
︑
新しい形態のサービスの導入︵
山陽鉄道の食堂車等︶︑
値下げ競争︵
官営鉄道と関西鉄道の値下げ競争等
︶
などにより︑
収益強化を図った︒
ところが︑
一九〇
五年に終結した日露戦争を機に幹線が二五年の期間を待たずに国有化されることになり
︑
一部を除き主要な鉄道会社が姿を消した︵
総路線延長4 ︑ 8 0 0
キロメートル
︑
車両数2 ・ 5
万余両が国有化︶︒
一方︑
東武鉄道︑
南海鉄道は︑
候補に挙がったものの貴族院で国有化が否決 されたため国有化を免れ ︵︑
現在に至るまで大手私鉄として残っている︒
5︶四八六 なお
︑
私設鉄道条例は︑
一九〇〇
年に私設鉄道法となったが︑
規制が厳しかったこともあり︑
鉄道建設は減少する
︒
これに対して国は︑
一九一〇
年に軽便鉄道法︑
一九一一年に軽便鉄道補助法を制定し鉄道の建設を推進した︒
軽便鉄道法は規制が緩やかであり
︑
また︑
軽便鉄道補助法で当初五年間︵
後に一〇
年間に改正︶
五パーセントの収益を保証する方法が採用されたこともあり
︑
軽便鉄道法に従って多数の鉄道が建設された ︵︒
6︶2 民営化
戦後は
︑
電力︑
ガス及び一部の鉄道は民間企業により︑
国鉄︑
通信︵
電話︶
は公社によって運営されていたが︑
中曽根内閣によって一九八五年から一九八七年に電電公社
︑
国鉄等が民営化された︵
なお︑
一般的には︑ P P P
は
︑
民営化と異なり事業期間が定められており︑
かつ政府と民間事業者の間に契約が締結され︑
それに従って事業が遂行される点が民営化と異なっている
︶︒ P P P
の対象分野としては︑
鉄道︑
電力︑
通信︑
水道︑
道路などがしばしば取り上げられるが
︑
我が国の場合は民営化により鉄道︑
電力︑
通信は民間企業によって行われることになった
︒
国鉄の民営化に際して︑
赤字が予想されたJ R
北海道︑
四国︑
九州については︑
会社設立時に経営安定基金を支給し
︑
それを現鉄道建設・
運輸施設整備支援機構に貸付け︑
その金利によって赤字を補填するというスキームが採用された
︒
これらの会社は現在も株式は公有である︒
3 第三セクター
第三セクターは
︑
一般的には自治体と民間企業の双方が株主︵
或いは出資者︶
となる形態の法人を指すものとして用いられている
︒
一九八〇
年代後半から二〇〇〇
年代初頭まで盛んに設立された︒
我が国のPFI制度について︵都法五十六‑一︶ 四八七 第三セクターは
︑
もともと通常の民間事業として行うと採算性が高くない事業に用いられることが多く︑
公的補助がある場合が多い
︒
補助の形態としては︑
無利子又は低利の公的融資がしばしば使われている︵
従って︑
必ずしも
﹁
民間資金﹂
によるインフラ整備とは限らない ︵― ︶︒
例えばつくばエクスプレス︵
秋葉原つくば︶
の場合︑
建設 7︶費約八
〇〇〇
億円の約八割に相当する無利子借入を利用している︒
仮に五%
の金利であったとすれば︑
年三〇〇
億円以上の金利が発生したはずである
︒
同社の売上は年間四〇 〇
億円程度︑
当期利益︵
減価償却後︶
は約三五億円であることを考えると
︑
公的融資の役割が小さくないことがわかる ︵︒
なお︑
第三セクターの資金調達方法は多様であ 8︶り
︑
例えば横浜シティ・
エア・
ターミナル株式会社は︑
シティ・
エア・
ターミナル︵ Y C A T ︶
の建設資金をもっぱら株式によって調達することにより需要変動に強い財務体質としている
︒
4 小 括
民間資金によるインフラ整備は
︑
特に我が国にとって新しいことではなく︑
電力︑
ガスは民間企業によっており
︑
さらに鉄道︑
通信などでは既に民営化が完了していた︒
このような状況のなかで︑ PFI
制度はデット主体の民間資金調達を行うスキームとして導入されることになる
︒
︵1︶ DLA Piper, European PPP Expertise Centre, European PPP Report 2009, p21︒なお︑PPPには様々な定義があるが︑和文によるPPPの定義の検討としては根本祐二﹁PPP研究の枠組みについての考察︵1︶﹂東洋大学PPP研究センター紀要第一号一九頁以下︵二〇一一年︶︑OECD編著平井文三監訳﹃官民パートナーシップPPP・PFIプロジェクトの成功と財政負担﹄︵明石書店 二〇一四年︶一九頁から三二頁がある︒︵
2︶独立採算型と分類される場合でも実際には完全に民間からの利用料金だけで賄うことができることは稀であり︑何らかの
四八八
公的負担があることが一般である︒サービス購入型と独立採算型の混合形態として﹁混合型﹂があるが︵PFI法施行当初は﹁ジョイントベンチャー型﹂と呼ばれていた︶︑独立採算型との境界は曖昧であるので︑本稿では理念型として独立採算型とサービス購入型の二分類で検討する︒︵
︵ ︵八朔社二〇〇三年︶参照︒ ―3︶片岡豊﹁鉄道企業の資金調達と資本コスト﹂野田正穂︑老川慶喜編﹃日本鉄道史の研究政策・経営/金融・地域社会﹄
︵ 4︶久保田博﹃日本の鉄道史セミナー﹄︵グランプリ出版二〇〇五年︶五四頁以下参照︒
︵ 5︶原口隆行﹃ドラマチック鉄道史﹄︵交通新聞社二〇一四年︶五七頁︒
︵ www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_fr1_000037.html二〇一二年七月二五日更新︵二〇一五年三月八日閲覧︶︶参照︒ http://6︶明治期から大正期の鉄道については︑注3から注5に記載の文献の他︑国土交通省﹃日本鉄道史﹄四頁以下︵︵
︵ ている︶︒ 7︶銀行から借り入れる場合でも︑自治体が﹁損失補償﹂などを約することが少なくない︵但し︑その法的効力は問題になっ も会社によってかなりの差があるので︑本稿では細かい分析は行わず例示にとどめる︒ スキームとなっている︒これについては同報告書六頁参照︒︶︒なお︑第三セクターにも様々な業種があり︑また同じ鉄道で 8︶首都圏新都市鉄道株式会社第二四期有価証券報告書参照︵鉄道・運輸機構が借入をしているものもあり︑実際には複雑な
二 PFI制度の導入
1 英国における PFI の導入
英国の
PFI
制度は︑
一九九二年に保守党のメージャー政権によって導入された︒
ユニバーサルテスティング制度
︵
二〇〇
万ポンドを超える公共事業についてPFI
の検討を義務づける制度︶
を設けPFI
推進を図ったが︑
案件数は非常に限られていた
︵
一九九六年度までに約二〇
事業 ︵︶︒
さらに︑
当時は︑
民間事業者にできるだけリスク 9︶移転すべきと考える風潮があり
︑
過度なリスク移転により問題が生じる事業が生じていた ︵︒
例えば︑
社会保障支 10︶我が国のPFI制度について︵都法五十六‑一︶ 四八九 払カード
︵ Benefit payment car d ︶
事業をP F I
で民間に委託した事例おいては︑
事業者選定において民間が負担するリスクの範囲が評価項目となっており
︑
その結果利用者による不正リスクを負担することを提案した事業者が選定されたがまもなく事業が行き詰まった ︵
︒
また︑
王立武具博物館の例では︑
需要変動リスクが移転され︑
さら 11︶に需要が予測が楽観的な事業者が選定されたが
︑
結局運営会社が破綻している ︵︒
12︶一九九七年に労働党政権が誕生するとベイツ卿によるレビューを踏まえ各種の改革がなされ
︑
二〇〇〇
年代には 案件数は飛躍的に増大した ︵︒
さらに︑
過度なリスク移転に対する反省から︑﹁
適切なリスク移転﹂
が重視されるよ 13︶うになった
︒
二
〇〇〇
年代の英国PFI
は︑
サービス購入型が中心となっており︑
サービス購入型を主に想定したガイドラインが整備された
︒
2 PFI 制度の導入
︵一︶PFI法の施行及びガイドライン等の整備
我が国においては
︑
一九九七年ごろからPFI
の導入に関する本格的な検討が開始され︑
一九九九年七月︑ PF
I
法が成立した︒
P F I
法施行後︑
基本方針が策定され︑
さらに二〇 〇
一年には ︵﹁ P F I
事業実施プロセスに関するガイドライ 14︶ン
﹂︑ ﹁ P F I
事業におけるリスク分担等に関するガイドライン﹂︑ ﹁ V F M ︵ Value For Money ︶
に関するガイドライン
﹂
が︑
二〇 〇
三年には︑﹁
契約に関するガイドライン│P F I
事業契約における留意事項について│﹂
及び﹁
モニタリングに関するガイドライン﹂
が策定された︒ P F I
法上は独立採算型︑
サービス購入型双方が実施でき四九〇
るようになっていたが
︑
契約およびV FM
に関するガイドラインは基本的にサービス購入型を想定している︒
ファイナンスの手法はプロジェクト
・
ファイナンス ︵によるデット主体の資金調達を想定したものとなっている
︒
15︶
PFI
法施行後順調に事業数は増加し︑
二〇〇
二年度から二〇〇
五年度までの間は︑
年五〇
件程度の事業が実施された
︒
事業の多くは︑
サービス購入型のBT O
事業である︒
しかし︑
その後の時期に比べれば︑
独立採算型事業や
B O T
事業の割合が高かった ︵︒
16︶資金調達は
︑
明治期の鉄道は株式主体︑
第三セクターは公的融資がしばしば用いられていたが︑ PFI
では︑
民間にとってリスクが少ないサービス購入型では
︑
プロジェクト・
ファイナンスによるデット主体の資金調達が一般的に用いられている
︒
一方︑
独立採算型の場合は事業によって異なるが︑
我が国のPFI
では︑
コーポレート・
ファイナンスもしばしば用いられているようである ︵
︒
17︶︵二︶英国PFIと我が国のPFIの差異
我が国の
PFI
は英国のPFI
に強い影響を受けており︑ PFI
という名称に加えて︑
様々な点で英国のPFI
に類似する部分も多い
︒
両国とも民間資金の活用が重視されており︑
プロジェクト・
ファイナンスの活用を通じた金融機関による事業の監視機能が重視されている
︒
また独立採算型で需要変動リスクを民間に完全に移転した場合
︑
プロジェクト・
ファイナンスは容易ではないが︑
両国ともにサービス購入型が中心であるため︑
プロジェクト
・
ファイナンスが用いやすい︒
さらに