2019 年度 修 士 論 文
Tanintharyi 川河口域における塩水遡上の
季節変動特性に関する三次元シミュレーション解析
首都大学東京大学院 都市環境科学研究科 都市基盤環境学域 環境水理学研究室
梅 田 雄 太
指導教員 教授 横山勝英
第1章 序論 --- 1
1-1 研究背景 --- 1
1-2 既往の研究 --- 2
1-2-1 現地観測に基づいた研究--- 2
1-2-2 数値計算に基づいた研究--- 3
1-3 本論文の構成 --- 5
第2章 研究方法 --- 6
2-1 研究対象地 --- 6
2-2 三次元流体シミュレーションの構築方法 --- 10
2-2-1 モデルの内容--- 10
2-2-2 計算格子--- 13
2-3 計算に用いる地形データ --- 17
2-3-1 Andaman 海の地形作成--- 17
2-3-2 河口及び河口付近の島々の地形作成--- 17
2-3-3 Tanintharyi 川感潮河道の地形作成--- 20
2-3-4 河川縦断地形の作成--- 24
2-4 格子サイズの設定 --- 33
2-5 初期・境界条件の設定 --- 42
2-5-1 下流端境界(沖合潮位)--- 42
2-5-2 上流端境界(河川流量)--- 44
2-6 精度検証用データの取得 --- 49
2-6-1 水位データ--- 49
2-6-2 塩分データ--- 49
第3章 三次元シミュレーションの精度検証 --- 54
3-1 水位の計算結果 --- 54
3-2 塩分の計算結果 --- 61
4-2 塩水遡上距離と混合形態についての検討 --- 85 第5章 結論 --- 88
参考文献 --- 90 謝辞 --- 93
第6章 資料編 --- 95
6-1 横断地形図 --- 95
6-2 水質鉛直分布図 --- 144
1
第1章 序論
1-1 研究背景
河川感潮域では,河川水と海水が混じり合うことで塩分の混合型が変化し,潮汐変 動に伴って塩分が時間的・空間的(縦断二次元的)に変動する.河川水と海水の混合 形態は,河川の地形や流況及び潮位によって変化し,弱混合型,緩混合型,強混合型 に分類される.弱混合型では,淡水と塩水の混合が弱く,密度の小さい淡水が密度の 大きい塩水の上を滑るように流下し,その間には塩分躍層が現れる.強混合型では,
淡水と塩水が十分に混合されて,塩分は鉛直方向に一様となる.緩混合型は二つの中 間的な混合形態である.(楠田,山本,2008)
河川の河口域には都市・農地・工業地帯が発展するため,治水・利水・環境を考え た適切な河川計画が必要である.
ASEAN
諸国において,河道地形を単純化して洪水疎 通能力を確保する「治水対策」や,塩水の遡上限界から淡水取水地点を検討する「利 水対策」が適切に行われている河川は少ない.さらに,感潮域では汽水性の生物や淡 水域と海域を往復する生物も多く,これらの複雑な生態系は重要な指標であるが,「環 境への配慮」は充分であるとはいえない.その上,ASEAN
の多くの地域は雨季と乾季 を有するモンスーン気候に属し,上流からの淡水流量の季節変化に伴い,河川感潮域 の塩分分布は変動するため,日本の河川環境よりも複雑であるといえる.今後,ASEAN
の河川で生態系を保全しつつ,治水・利水整備に着手するためには,河口域における 塩水遡上の季節変動特性を把握する必要がある.日本の河川感潮域における治水整備は進んでいるため,河道形状が比較的単純であ り縦断二次元的な検討が多く行われている.工藤ら(
2001
)は,相模川感潮域におい て鉛直二次元シミュレーションを用いた塩水流動解析を行い,塩水流動特性とともに,潮位変動に伴う混合型の形態変化についても比較的よく再現した.その一方で,
ASEAN
の河川感潮域では蛇行・分岐合流など平面形状が複雑であるため,塩分の三次元的な変動を把握する必要がある.これまで,現地観測に基づく研究として,
Nguyen
Phuong
ら(2019)は,鉛直塩分計を用いてVietnam
のHau
川における縦断的な塩水遡上の特徴を捉えている.しかし,塩水遡上の三次元的な現象を捉えるには,観測を高 密度に実施する必要があるが,
ASEAN
の河川感潮域は対象領域が非常に広大である ため,現地観測を平面的に展開することは困難である.したがって,解析には三次元 流体シミュレーションを活用することが望ましく,必要な入力条件がほとんどモニタ リングされていない状況下で,モデルを構築することが求められる.2
1-2 既往の研究
日本及び世界の河川感潮域における塩水遡上について,現地観測や数値計算に基づ いた研究が行われている.では,現地観測に基づいた研究を,では,数値計算に基づ いた研究について示す.
1-2-1現地観測に基づいた研究
橋本ら(2004)は,大潮時の潮位差が
2 m
程度である長良川における塩分のモニタ リングデータから,冬季の小潮時には弱混合型,大潮時に緩混合型になることを示し た.原田ら(2012
)は,二河川(役勝川,住用川)の海水遡上特性の違いについて,現地観測に基づいた考察を行った.その結果,役勝川では強混合型,住用川では弱混 合型となり,同一内湾に接続する二河川で海水遡上形態が異なることを明らかにした.
安達ら(
1998
)は筑後川の水位・流量・塩分の時間変化についてデータ解析を行い,河川流量が比較的小さくなる渇水期の中で,日潮不等の程度が大きい小潮時に弱混合 形態の塩水遡上が生じることを示している.横山ら(2011)は筑後川の感潮域上流部 において塩分濃度は
1
~3
を示すが,海域の干満差が2 m
以下になる長潮・若潮期には 弱混合型の塩水遡上が発生して感潮域上流部の塩分濃度が15
以上に急上昇し,その 後大潮に向かって強混合型に徐々に変化してゆくことを示した.一般的には成層化する小潮時に塩水遡上距離が長くなると考えられているが,福岡 ら(
1988
)は那珂川における渇水時の塩水遡上の実態を現地調査から把握し,塩水遡 上と水理諸量の関連について検討した.その結果,渇水時において大潮時の塩水遡上 距離は小潮時と同程度またはそれ以上となることを示し,潮位差の大きい大潮時に流 量が小さい場合,塩水遡上距離が伸びることが確認された.Jianrong
ら(2018)は.中 国の長江感潮域において,塩水遡上特性は主に河川流量と潮汐によって変化し,流量 が減少すると塩水遡上距離が伸びることを示している.Kwon
ら(2006)はVietnam
のTien
川において乾季に塩分の鉛直分布調査を縦断5
か所で行い,観測した7
日間連続 で強混合型となることを示した.しかし,現地観測からTien
川における塩分分布の日 変動を把握することが困難で,観測データに基づいた数値シミュレーションによる解 析の必要性を述べている.以上のように,塩水遡上に関する研究が現地観測に基づいて行われているが,縦断 的な検討がほとんどであり,平面分布についての検討はされていない.塩水遡上の三 次元的な状況を捉えるには,上記のような観測を高度に実施する必要があり,実際に はかなりの困難を伴う.また,東南アジア地域特有である淡水流量の季節変化に伴う 塩水遡上特性を考察した事例は見当たらなかった.
3 1-2-2数値計算に基づいた研究
一次元シミュレーションを用いた塩水運動の解析として,古本ら(
1996
)は,強混 合型感潮河川である菊池川を対象に,一次元分散シミュレーションを適用し,塩分分 布を比較的良く再現した.また,横山ら(2011)は,筑後川で塩分に関する一次元分 散シミュレーションを行い,中潮・大潮や平均水位差の高い小潮では強混合型の塩水 遡上をよく再現した.強混合型でかつ形状が比較的単純な河川であれば,一次計算で も良好な再現性は示せるが,塩水と淡水が成層化する場合,水深方向の塩分濃度変化 を考慮した数値解析が必要であると考えられる.そのため,鉛直二次元シミュレーションを用いた研究が進められており,鈴木・石 川(
1999
)は,利根川河口堰下流部を対象に,塩水楔の流動を鉛直二次元k
-ε乱流 モデルによって計算した.その結果,計算で求めた流速分布のパターンと観測結果は よく一致していたが,計算結果では流量の絶対値が全体的に小さくなっていた.この 要因として,計算手法自体が完全でないことと,横断面平均値を求めていることを挙 げている.名倉ら(2010)は,米代川を対象に,冬季日本海側河川の塩水侵入現象の 解析を行った.その結果,川幅が閉塞することでは,河川流量を流下させるために流 速が早くなり,海域からの塩水侵入が難しくなることを示唆した.以上のように,一次元シミュレーションや二次元鉛直シミュレーションを用いた研 究が多く行われているが,平面形状が複雑になれば横断方向も考慮した解析が必要と なる.塩水遡上の三次元的な状況を把握するために,三次元シミュレーションを用い た検討が必要となる.
中村・石川(2010)は,CIP-Soroban法に基づく鉛直
2
次元密度流解析モデルを基礎 とし,汽水域の解析に適した3
次元Soroban
格子の構成方法を報告した.宮城県新北 上川に適用し,現地観測データと比較した結果,潮位に伴う後退を繰り返しながら塩 水楔が遡上する様子を概ね再現できていることを確認した.しかし,上流塩分が低め に見積もられており,塩分躍層が計算結果に比べて多少滑らかになるなど,観測結果 との差異が認められた.この要因として,水平方向の格子幅が粗すぎたことや,上流 端からの淡水流入を鉛直方向一様に仮定したことを挙げている.新谷・中山(2013)は,網走川河口域の塩水遡上現象をオブジェクト指向型環境流
体モデル
Fantom3D
で数値的に計算した.観測結果と比較した結果,塩分上昇・下降のタイミングや塩分の増減傾向は適切に再現していることを確認し,河道内で淡水と 塩水の混合形態が変化する様子を捉えた.また,蛇行部における二次流の発生を再現 し,既往の研究と定性的に良い一致を得た.
4
許ら(2012)は,三次元
CIP-Soroban
流体モデルを利根川感潮域に適用して,塩分 及び流速の縦断分布観測と比較検証を行った.塩分については,混合形態は弱混合型 であり,大潮から小潮にかけて塩水楔が伸張し堰直下まで侵入するなど,潮汐の違い による変化をよく再現できている.流速については,上げ潮時では底層の塩水層で逆 流を生じ,表層淡水層の順流と二層流を形成することなど現地観測の特徴をよく再現 していることを確認した.松村ら(
2017
)は,複雑な平面形状を有する筑後川感潮河道を対象として三次元流 体シミュレーションを構築し,水位・塩分・流速についてそれぞれ良好に表現した.また,大潮期の塩水遡上の特徴について検討を行い,本川・筑後川と比べて支川・早 津江川における塩水の遡上・後退運動は活発でないことを示した.これを,河道の蛇 行や狭窄が原因としている.
上記のように,国内の河川感潮域において三次元シミュレーションを用いた検討も 行われている.形状が比較的単純な河道から複雑な地形を有する河川においても塩水 遡上現象を良好に再現した研究が存在する.しかし,
ASEAN
の河川感潮域における塩 水遡上について数値計算を用いた検討は,現地観測で把握しきれない現象に対して一 次元および二次元のシミュレーションを使用している程度である.以上より,雨季と乾季で極めて異なる混合距離・形態を示す
ASEAN
の河川感潮域 において三次元流体シミュレーションを適用した事例は見当たらなかった.5
1-3 本論文の構成
以上の背景のもと,本研究では,モンスーン気候に属し,蛇行・分岐合流を有する
Tanintharyi
川感潮河道を対象に,複雑な平面形状を合理的に計算できる三次元流体シミュレーターを構築・適用する方法を論述し,構築されたモデルから平面的な塩分分 布,塩水遡上距離および混合形態の季節変動特性に関して考察した.第一章は「序論」
であり,本研究の背景・目的について示す.
第二章は「研究方法」であり,研究対象地と数値計算手法,現地観測方法について 示す.研究対象地は
Myanmar
のTanintharyi
川河口域であり,河口30 km
地点でKyaukpya
川に分流する.また,Thamoke 川はKyaukpya
川の河口付近で合流する.計算モデル の基礎式は,連続式と3
次元Navier-Stokes
式であり,乱流モデルはGLS
乱流クロー ジャー,また静水圧近似とした.離散化手法はコロケート格子有限体積法である.第三章は「三次元シミュレーションの精度検証」である.乾季と雨季における水位・
塩分の計算結果を現地観測データと比較した.
第四章は「塩水遡上の季節変動特性」に関する考察であり,本・支川における塩水 遡上の平面分布特性,塩水遡上距離,混合形態について検討した.
第五章は「結論」であり,本研究を通じて得られて知見についてまとめ,今後の課 題を示した.
6
第2章 研究方法
2-1 研究対象地
Tanintharyi
川は,Dawei
市の内陸山間地域から流域の中央部を南へ流下し,河口域の
Myeik
市を通りAndaman
海に流れ出る.Myanmar の南東部のTanintaryi
地区(図 2-1-1)で最大の河川である.図 2-1-2に流域図,図 2-1-3に河口部 の位置図を示す.幹線流路延長は約500 km
,流域面積が約17,000 km
2であり,上流は1000 m
前後の山岳地帯である.流域内は,農地が全体の数パーセント程度であり,ほぼ全域が常緑樹に覆われている.Myeik市近辺において低木地や住宅地が存在する.
Tanintharyi
川の源流が位置するDawei
市における年平均降水量は約5,500 mm
であり,東京の
3
倍程度である.Myanmar
では2
つの季節が存在し,5
月~10
月を雨季,11
月~4
月を乾季と定義している.雨季の降水量が約5,300 mm
,乾季の降水量が約200 mm
であり,年間の9
割以上の降雨が雨季に集中し,6月~8月の月間降水量は約1,000 mm
を越える.一方で,乾季には1
か月以上降雨がみられない期間もあり,12
月と
1
月の月間降水量は10 mm
以下である.当地区では,主に河川水を農業・工業・生活用水として利用している.ここで,
JETRO
のBOP
層実態調査レポート(2016)より,Tanintharyi地区全体の年平均地表水量は約130,000 km
3で,地下水量は約39,000 km
3であり,豊富な地表水がある.Tanintharyi
川河口域の河川形状について,本川は蛇行が少なく河口から上流30 km
地点まで直線的である.川幅は上流ほど狭い傾向があり,300~1,700 m で変化する.
河口から
30 km
地点の川幅は600 m
程度であり,ここで支川のKyaukpya
川に分流する.河口の干満差は
6 m
に達し,日本で最大の干満差を有する筑後川(有明海)と同 程度である.Kyaukpya
川は分岐点から北方に蛇行した後,西に湾曲し本川に並行するようにAndaman
海へ流れ出る.流域は500 m
前後の山地で形成されており,流域面積は約700km
2である.本川と比べて上流部が蛇行しているため,河口から分岐点までの延長は本川よりも長い約
45 km
である.上流部の川幅は150 m
程度で,下流部で1 km
程 度,河口で急激に最大9 km
まで広がる.Thamoke
川は北東から約22 km
流下し,Kyaukpya
川に河口付近で合流する.ほかの2
つの河川と比較して流れが穏やかな川である.流域は200 m
程度の山であり,流域面積は約
300 m
2である.上流部の川幅は200 m
程度で,河口では700 m
程度である.7
図 2-1-1 Myanmar の Tanintaryi 地区
100° E 90° E
30° N
20° N
10° N
Myanmar
8
図 2-1-2 Tanintharyi 川の流域図
9
図 2-1-3 Tanintharyi 川河口域
98°50'E 98°45'E
98°40'E 98°35'E
12°35'N
12°30'N
12°25'N
12°20'N
0 5 10 20 30 40
(km) ¯
Kyaukpya Thamoke
Tanintharyi
Myeik
10
2-2 三次元流体シミュレーションの構築方法
ここでは今回使用するモデルの概要について述べる.2-2-1で三次元流体モデ ルの概要を,2-2-2で計算格子について示す.
2-2-1モデルの内容
本研究で使用するモデルは,新谷(
2017
)が開発したFantom Refined
を用いた.本 シミュレーターでは,支配方程式に現れる各項の役割を独立したパーツ(オブジェク ト)に分担させることで,本研究で活用する局所高解像度化(local mesh refinement: LMR
) 等の複雑なアルゴリズムを柔軟に実現している.基礎方程式は,連続式(2-1)と非圧 縮とブジネスク近似を施した3
次元Navier-Stokes
式(2-2)~(2-4)である.塩分濃 度の輸送方程式は,式(2-5
)に示す.離散化手法は,コロケート格子有限体積法であ り,時間進行は2
次精度,移流項は3
次精度で離散化している.また,非静水圧・静 水圧の両者に対応し,今回は静水圧とした.鉛直方向の渦粘性・渦拡散係数の算定に は,一般化された2
方程式乱流モデルであるGLS
乱流クロージャーを用いた.この2
方程式として多くの選択肢があるが,本計算ではK-OMEGA
と安定化係数(Stability
function
)を選択した.GLS
乱流クロージャーモデルの詳細については,新谷(2016
)に記述されている.
干潟(
dry-wet
)の取り扱いについて,図 2-2-1を用いて示し,以下に説明する.水位低下時には,水面位置にある鉛直セル内の水位が限界水位(以下:limit-depth)よ りも下回った場合,
1
つ下のセルと結合する.水位上昇時には,limit-depth
を水位が下 回っている場合,水面位置にある鉛直セルは1
つ下のセルと結合されているが,水位が
limit-depth
を超えると,セルは分裂する.このように,水面位置にある鉛直セルを水面変動に伴って結合・分裂させ,水域の変化を再現した.また,鉛直方向の空間離 散化には,パーシャルステップが組み込まれている.
11
○ 連続式
𝜕𝑢
𝜕𝑥 + 𝜕𝑣
𝜕𝑦 + 𝜕𝑤
𝜕𝑧 = 0
(
2-1
)○ 基礎方程式:
3
次元Navier-Storkes
式𝜕𝑢
𝜕𝑡 + 𝑢 𝜕𝑢
𝜕𝑥 + 𝑣 𝜕𝑢
𝜕𝑦 + 𝑤 𝜕𝑢
𝜕𝑧 − 𝑓𝑢 = − 1 𝜌
𝜕𝑝
𝜕𝑥 + 𝜕
𝜕𝑥 𝑣 𝜕𝑢
𝜕𝑥 + 𝜕
𝜕𝑦 𝑣 𝜕𝑢
𝜕𝑦 + 𝜕
𝜕𝑧 𝑣 𝜕𝑢
𝜕𝑧
(
2-2
)𝜕𝑣
𝜕𝑡 + 𝑢 𝜕𝑣
𝜕𝑥 + 𝑣 𝜕𝑣
𝜕𝑦 + 𝑤 𝜕𝑣
𝜕𝑧 + 𝑓𝑣 = − 1 𝜌
𝜕𝑝
𝜕𝑦 + 𝜕
𝜕𝑥 𝑣 𝜕𝑣
𝜕𝑥 + 𝜕
𝜕𝑦 𝑣 𝜕𝑣
𝜕𝑦 + 𝜕
𝜕𝑧 𝑣 𝜕𝑣
𝜕𝑧
(2-3)
𝜕𝑤
𝜕𝑡 + 𝑢 𝜕𝑤
𝜕𝑥 + 𝑣 𝜕𝑤
𝜕𝑦 + 𝑤 𝜕𝑤
𝜕𝑧
= − 1 𝜌
𝜕𝑝
𝜕𝑧 + 𝜕
𝜕𝑥 𝑣 𝜕𝑤
𝜕𝑥 + 𝜕
𝜕𝑦 𝑣 𝜕𝑤
𝜕𝑦 + 𝜕
𝜕𝑧 𝑣 𝜕𝑤
𝜕𝑧 − 𝑔
𝜌 (𝜌 + 𝜌)
(
2-4
)
0:参照密度,
0
:密度)
sin 2 (
f
:コリオリ係数,
:緯度,
:角速度
H:水平方向の渦粘性係数,
V:鉛直方向の渦粘性係数○塩分濃度の輸送方程式
𝜕𝐶
𝜕𝑡 + 𝑢 𝜕𝐶
𝜕𝑥 + 𝑣 𝜕𝐶
𝜕𝑦 + 𝑤 𝜕𝐶
𝜕𝑧 = 𝜕
𝜕𝑥 𝐾 𝜕𝐶
𝜕𝑥 + 𝜕
𝜕𝑦 𝐾 𝜕𝐶
𝜕𝑦 + 𝜕
𝜕𝑧 𝐾 𝜕𝐶
𝜕𝑧
(2-5)
C
:塩分濃度K
x,K
y,K
z:拡散係数12
図 2-2-1 dry-wet の取り扱い
13 2-2-2計算格子
従来の計算格子を扱う研究では,計算領域全体の格子サイズを均一として計算を行 うか,計算後に得られた結果を境界条件として細部の計算を行うネスティング(図 2
-2-2)等を利用した構造格子を改良・修正する手法が使われてきた.しかし,構 造格子を拡張した多くの局所高解像度化手法(
local mesh refinement
:LMR
)では,そ の設定方法が複雑であり,適用できる現象が限られる.本モデルでは,空間をマクロに捉えるための“コンテナ”とミクロに捉える“セル コラム”の
2
段階の空間分割で柔軟なLMR
を実現した.このLMR
手法について,仮 想地形(40 m正方格子地形)を用いて説明する.次に,想定する最も低解像度の格子 を考える.図 2-2-3では,最低格子サイズを1,280 m
(40 m
×32
セル)としてい る.この最低解像度格子がコンテナであり,各コンテナに指定するセルコラムの個数(分割数)を変化させることで局所的な水平解像度を調整できる.
局所高解像度化は,X,Y 方向の分割数を指定することで実現する.コンテナ内の 分割数は任意であるが,コンテナサイズが
2
nとなっていれば,n+1段階解像度を変化 させることができる.例えば,仮想地形のように,コンテナ内のX
方向に2
5=32
個の 地形データを含んでいる場合,X方向の分割数を1,2,4,8,16,32
と6
段階変更す ることが可能である.分割数1
の場合,格子サイズは1,280 m
と最低解像度になる.分割数
32
の場合,格子サイズは40 m
と最高解像度になる.この方法を用いて計算グ リッドを作成する手順を図 2-2-4に示す.地形データ(図 2-2-4(a))とX
方向のコンテナ分割データ(図 2-2-4(b)),Y
方向のコンテナ分割データ(図 2-2-4(c))によって,コンテナごとに解像度を変化させた計算グリッド(図 2-2-4(d))を生成することができる.
また,本モデルでは,計算領域が非常に大きい場合や鉛直格子分割を細かくする場 合,計算上の重要度が低い複数のコンテナをひとつのセルコラムとして結合すること
(
Coarsening
)で,水平解像度の低い計算グリッドを作成することが可能である.Coasening
は結合する複数のコンテナに同じ整数値を与えることでグループ化を行っている.例えば,格子サイズが
1,280 m
である開境界付近の地形データ(図 2-2-5(a))と,コンテナ結合データ(図 2-2-5(b))から,3,840 m(1,280 m×3コ ンテナ),7,680 m(1,280 m×6コンテナ)のコンテナを生成することができる.
以上のように,本モデルで用いる
LMR
は,対象領域の地形データ(最高解像度デ ータ)とコンテナデータ(最低解像度格子)を用意し,高解像度化したい領域のコン テナに分割数を指定することで,柔軟に解像度を調節することが可能にする.14
図 2-2-2 ネスティング手法
図 2-2-3 仮想地形(40 m 正方格子)[左],最低解像度格子(コンテナ)[右]
① 大領域を粗い格子に分けて計算
② 小領域を細かい格子に分けて計算.
粗い格子の計算結果が引き継がれる.
15
図 2-2-4 局所高度解像度化(LMR)の手順
16
図 2-2-5 コンテナ結合(Coarsening)の手順
17
2-3 計算に用いる地形データ
本研究では本川の
Tanintaryi
川(約70 km),河口から 30 km
で分流する支川のKyaukpya
川,北東から流下してKyaukpya
川の河口付近で合流するThamoke
川を計算領域に含む.
Tanintharyi
川は日本の河川より流路延長,淡水流量が極めて大きい上に,沖合
50 km
圏内に多くの島を保有するため,河口付近における複雑な潮汐波の伝播と塩・淡水の混合を再現する必要がある.そのため,通常よりも計算の範囲を拡大し,
河口から西に約
250 km
のAndaman
海までを計算領域とした.ここでは本シミュレー ターで使用する計算地形の作成について記述する.2-3-1でAndaman
海の地形作 成,2-3-2で河口及び河口付近の島々の地形作成,2-3-3でTanintharyi
川感 潮河道の地形作成,2-3-4で河川縦断地形の作成について示す.2-3-1Andaman海の地形作成
Andaman
海については,National Centers for Environmental Information
(国立環境情 報センター)よりETOPO1 Global Relief Model
を使用した.ETOPO1とは,地形と海 底地形を統合した無料のグローバル地形データセットで,図 2-3-1のように南 極・北極も含め全地球の海陸あわせた1
分=約1.8 km
の解像度の標高・水深のグリッ ドデータを取り扱うことが可能である.この全地球のグリッドデータからpython
のプ ログラムでAndaman
海の緯度N
,経度E
,海底標高Z
の3
列データ(NEZ
)を抜き出 した(図 2-3-2).ここで,Tanintharyi
水域はUTM Grid Zones of the World
において
Zone 47
に属する.緯度経度からZone 47
のUTM
直行座標系へ変換しXYZ
データを得た.取得した海底標高データを,等高線・三次元地形作成ソフトウェアである
Surfer
を用いて,1,280 mの等間隔グリッドに変換し,計算地形を作成した(図 2-3-3).
2-3-2河口及び河口付近の島々の地形作成
河口付近の地形については,
Myeik
市周辺の海図(Marine Science
,Myeik University
) を用いた.まず,海図に等水深線を引き,TAMAYA DIGITIZING AREA-LINE METERPLANIX EX/EX-L(タマヤ計測システム株式会社)を使用し,図面上で等水深線上の
座標データを取得した.海図の水深は,最低水面からの深さを表している.Tanintharyi
川の最低水面は約0 m
であるため,海図の水深H
から海底標高Z
を求めると𝒁 = −𝑯
(2-6)
となる.
18
図 2-3-1 ETOPO1 のグローバル地形データ
図 2-3-2 ETOPO1 の Myeik 周辺地形データ
19
図 2-3-3 海域の計算地形(1,280 m メッシュ)
250 300 350 400 450 500
1300 1350 1400 1450 (km)
(km)
20 2-3-3Tanintharyi川感潮河道の地形作成
日本では一般的に,国土交通省や地方自治体の河川計画のための横断・縦断測量が 行 わ れ て い る た め , そ の デ ー タ を も と に 感 潮 河 道 の 地 形 作 成 を 行 う が ,
Myeik
University
によると当地区で地形測量が行われた記録はないという.そこで
2018
年8
月にKyaukpya
川(K000
~K120
)・Thamoke
川(T00
~T50
),2019
年8
月にTanintharyi
川(TA00~TA40)・Kyaukpya
川(K130~K170)・Thamoke
川(T60)の横断測量を行った.図 2-3-4に合計
92
断面の平面図を示す.Tanintharyi
川とKyaukpya
川の分岐前後は非常に複雑な地形となっているため,他の区間と比べて細かい縦断間隔で測量を行った.
測量は,音波探査機(
LCX-25C
,Lowrance
)(図 2-3-5)を用いて行った.こ の装置は超音波で測深を行うのと同時に,記録開始から各音波が発信されるまでの累 積時間を,音響画像と共にSD
カードに記録できる.また,GPS
による位置情報も併 せて記録することができる.発信される超音波の周波数は200 kHz
であり,音波発信角は全角
9°である.電源には 12 V
のカーバッテリーを使用した.図 2-3-6のように音波探査機のセンサーを鉄パイプに取り付け,運転する船舶の横に固定し,河川 を横断することで河床横断面の音波探査を行った.
水深を水位に変換するために別途,
Mergui, Myanmar Tide Chart
(2019
,web
)より満 潮・干潮の予測潮位を取得した.Tanintharyi
川では,潮位変動が最大6 m
にもなり,1
分単位の水面変動への注意も必要であるため,満潮・干潮の予測潮位をpython
のプ ログラムで3
次スプライン補間することで1
分毎の水位データへ変換した.観測時の 水位を図 2-3-7と図 2-3-8示す.緯度・経度データとともに,観測から得 られた水深D
,河口の水位H
を時系列にまとめ,河床標高Z
を式(2-7
)のように求め た.𝒁 = 𝑯 − 𝑫
(2-7)
以上より,河床標高データを取得し,Andaman 海の地形作成時と同様に緯度経度を
UTM Zone 47
の直交座標系へ変換し,XYZ
データを得た.21
図 2-3-4 横断測量断面の平面図
450 460 470 480
1360 1370 1380 1390
(km) (km)
Myeik
478 479 480 481
1360 1361 1362 1363 1364
(km) (km)
0 km
10 km
20 km
30 km
40 km
10 km 20 km
0 km
10 km
20 km
40 km 2018年8月
2019年8月
477
1359
22
図 2-3-5 音波探査機(LCX-25C, Lowrance)と周辺機器
図 2-3-6 音波探査機のセンサーを固定した船舶
23
図 2-3-7 2018 年地形測量時の河口の水位
図 2-3-8 2019 年地形測量時の河口の水位
8/6 8/7 8/8 8/9 8/10 8/11
水位
(m )
-1 0 1 2 3 4 5 6 7
-1 0 1 2 3 4 5 6 7
8/25 8/26 8/27 8/28 8/29 8/30 8/31 9/1 9/2 9/3
水位
(m )
24 2-3-4河川縦断地形の作成
横断図をもとに河川地形を作成する時,縦断方向の連続性の確保にも注意する必要 がある.なお,
Tanintharyi
川では感潮河道の川幅に対して測線間隔が広いため,3D
マ ップソフト(surfer)で自動的に地形を生成すると,現実的ではない凹凸が発生してし まう.そこで本研究では,
iRIC
(International River Interface Cooperative)ソフトウェアを使 用し,河川測量データから格子を作成した.iRIC
は,「一般財団法人 北海道河川財団」が開発した無償の計算ソフトであり,河川の流れ・河床変動解析ソフトウェアである.
iRIC
を用いて,河川測量データを横断・縦断方向に補間することで,縦断方向に滑ら かな地形の変化を再現することができる.以下,iRICによる格子作成方法について述べる.
(1) 観測断面の読み込み
初めに,観測から得られた横断河床データを
riv
拡張子のファイルに保存しiRIC
の“インポート”→“地理情報”→“河床高”から
riv
ファイルを選択する.rivファイ ルの形式フォーマットを図 2-3-9に示す.(2) 観測断面の編集
現地の横断測量では,調査船の操縦限界により比較的水深の浅い両岸のデータ取得 が困難な場合がある.また,充分に水深が確保可能な場所においても,走行中に音波 センサーが水面から出て計測値が不連続になることがある.ここで
iRIC
では図 2-3-10のように右クリックウィンドウから各断面を編集することが可能である.“横 断面の表示”を選択すると各測点に対してエラー値の変更が可能で,“左岸(右岸)延 長線の追加”を選択すると両岸の不足した測点を新たに追加することができる(図 2
-3-11,図 2-3-12).また,各断面の測線間隔が広いとき,図 2-3-1 3のように河川中心線(各河川横断線の中心点をつないだ曲線),左岸線(各河川横断 線の左岸端点をつないだ曲線),右岸線(各河川横断線の右岸端点をつないだ曲線)が 衛星写真と一致せず,観測データのみでは実河川を再現することが難しい.そこで,
“上流(下流)側に挿入”→“前後との比率(
0.5
)”→“前後の横断面をもとに構成:内装データ数”を選択することで,既存の観測断面から新しい断面を作成することが 可能である.新しく作成された断面に“移動”,“回転”,“左右への伸縮”を行うこと で図 2-3-14のように縦断方向に滑らかな地形を再現することができる.
25
(3) データ格子作成
データ格子作成は,各横断線のほか,河川中心線,左岸線,右岸線に分割点を設定 して,そこに格子点を配置する.格子サイズが
20 m×20 m
以下になるよう,横断方 向,縦断方向の分割点を指定した.iRIC
上では,格子生成環境を作るために,“格子”→“格子生成アルゴリズムの選択”→“河川測量データから作成”を選択する.
横断方向の分割数は,任意の横断ラインの右クリックウィンドウを開き,“分割点の 追加”を選択して設定することができる.例えば最大川幅が
1,000 m
で,20 m格子を 作成したい場合,左岸~中点までの距離は500 m
(1,000 m
÷2
)となる.それぞれの区間を
25
分割(500 m
÷20 m
)すれば,20 m
格子毎に値が作られる.最大川幅を基準に一括分割を行うため,上流狭窄部では
20 m
以下の格子が出来上がるが,細かい場合に 問題は生じない.縦断方向の分割数は,任意の場所で右クリックし,“分割点の一括設定”→“目標と する分割点間の距離を指定”を選択し,
20 m
に設定する.横断・縦断の分割点の追加後は図 2-3-15のようになる.最後に,任意の場所 で右クリックし,“格子生成”→“作成領域の決定”を選択すると図 2-3-16の ように格子を作成することができる.“ファイル”→“エクスポート”→“地理情報”
→“河床高”から編集後の河床断面データが
riv
ファイルとして,“ファイル”→“エ クスポート”→“格子”からXYZ
データがcsv
ファイルとして出力可能である.(4) 等高線・三次元地形作成
2-3-2で海図から得た河口の標高データと2-3-4で
iRIC
から生成された 格子データを,等高線・三次元地形作成ソフトウェアであるSurfer
を用いて,等間隔(20 m)のグリッドに変換することにより,計算地形を作成した.作成された計算地 形について,図 2-3-17に
Tanintharyi
川~沖合50 km
,図 2-3-18にTanintharyi
川~河口,図 2-3-19に分岐合流部の河床標高コンターを示す.26
図 2-3-9 riv ファイルの形式フォーマット
図 2-3-10 iRIC メイン画面の右クリックウィンドウ
27
図 2-3-11 編集前の横断面
図 2-3-12 編集後の横断面
28
図 2-3-13 断面追加前の縦断線と既存の観測断面図
図 2-3-14 断面追加後の縦断線と新しく作成された断面図
29
図 2-3-15 20 m 毎に分割後の平面図
図 2-3-16 20 m×20 m の格子
30
図 2-3-17 河床標高コンター(Tanintharyi 川~沖合 50 km)
420 430 440 450 460 470 480
1350 1360 1370 1380 1390 1400 (km)
(km)
31
図 2-3-18 河床標高コンター(Tanintharyi 川~河口)
450 455 460 465 470 475 480 485
1360 1365 1370 1375 1380 1385 1390 1395 (km)
(km)
32
図 2-3-19 河床標高コンター(分岐合流部)
476 478 480 482 484
1358 1360 1362 1364 1366 (km)
(km)
33
2-4 格子サイズの設定
ここでは,計算地形の格子サイズの設定について記述する.
水平方向については,田井ら(
2010
)は,有明海および八代海で,格子サイズを一 辺10
秒(東西方向:約250 m,南北方向:約 310 m)として,東西・南北をそれぞれ
約80
分割している.また天野ら(2012
)は,川幅が400
~500 m
の菊池川河口部で50 m
格子を採用して,川幅方向を8~10
分割している.鉛直方向については,梶原ら(
2005
)は,有明海で平均水深30 m
まで,格子サイズを1 m
~5 m
と変化させている.また,李ら(
2013
)は,有明海において鉛直方向を40
層に分割し,格子幅は水深5 m
までを
25 cm
の等間隔とし,それ以深を不等間隔としている.Tanintharyi
川の川幅は,河口で2 km
程度から上流の分岐点の500 m
程度まで徐々に細くなる.
Tanintharyi
川の川幅は,河口で9 km
程度あるが,Thamoke側との合流部で既に
1 km
程度まで急激に変化し,上流の本川との分岐点の150 m
程度まで徐々に細くなる.本モデルの利点は,高解像度化したいコンテナとその解像度を指定・編集 するだけで,柔軟に
LMR
を調整できるところにある.そこで,川幅方向を平均的に5
~
10
分割にし,狭窄部においても最小でも2
分割にするため,河道内の大部分を160 m
正方格子とし,Kyaukpya川上流の狭窄部や分岐点を80 m
とした.海域では,河口 干潟から島々付近までを160 m
~1280 m
と変化させ,更に沖側へ開境界までコンテナ 結合を行い3840 m
(1280 m
×3
コンテナ),7680 m
(1280 m
×6
コンテナ),15360 m
(1280 m×12コンテナ)とした.また,沖側開境界付近の計算地形は横断方向に水深 一定とし,境界をまたいで生じる可能性のある水平循環渦の発生を抑制した.水平方 向の格子サイズ分割を図 2-4-1(海域),図 2-4-2(河口域)に示し,作成 した地形標高データを図 2-4-3~図 2-4-10に示す.図の上流部について,
観測による河床標高データは存在しないが乾季の塩水遡上調査で塩分が確認されたた め
鉛直方向に関して,
Tanintharyi
川は潮汐変動が5
~6 m
であり,干潟もあるため,鉛 直的に地形変化が激しい河川である.そこで,鉛直格子は,水深8 m
以浅でdz=0.5 m,
水深
8
~17 m
はdz=1.0 m
,水深17
~22 m
はdz=2.0
,海側地形のみ存在する水深22 m
以降は
1885 m
を一層のみ定め,全30
層の非一様格子とした(図 2-4-11).34
図 2-4-1 水平方向の格子サイズ分割(海域)
35
図 2-4-2 水平方向の格子サイズ分割(河口域)
36
図 2-4-3 地形標高図(領域全体)
37
図 2-4-4 地形標高図(河口部)
38
図 2-4-5 地形標高図(Thamoke 川)
図 2-4-6 地形標高図(Tanintharyi 川 下流部)
39
図 2-4-7 地形標高図(Kyaukpya 川 下流部)
図 2-4-8 地形標高図(Kyaukpya 川 中流部)
40
図 2-4-9 地形標高図(分岐合流部)
図 2-4-10 地形標高図(Tanintharyi 川 上流部)
41
図 2-4-11 鉛直方向の格子サイズ
dz
0.5 m
1.0 m
2.0 m
1,885 m
標高7.0 m 6.0 m
0.0 m -2.0 m
-11.0 m -15.0 m
-1,900 m
河川域海域
6.0 m
満潮位干潮位
42
2-5 初期・境界条件の設定
本研究では,乾季と雨季それぞれの小潮・長潮・中潮・大潮における塩水遡上を表 現するため,シミュレーションが行われた.
計算期間について述べる.乾季は
2019
年2
月21
日00:00
~3
月8
日0:00
(大潮→小 潮→大潮)で,このうち2
月21
日00:00
~2
月28
日0:00
の約7
日間が助走期間であ り,2月28
日0:00~3
月8
日00:00
の8
日間が検証期間である.雨季は2019
年8
月19
日00:00~9
月3
日0:00
(大潮→小潮→大潮)で,このうち8
月19
日00:00~8
月26
日0:00
の約7
日間が助走期間であり,8
月26
日0:00
~9
月3
日00:00
の8
日間が検証 期間である.計算領域の初期値として,松村(2017)は塩分の現地調査結果を参考に大潮満潮時 の塩分分布を水平方向に与えており,数値計算手法において初期塩分の設定の重要性 を示している.しかし,本モデルにおいては検証期間までに充分な助走期間を設けて いるため,影響は少ないと考えられる.そのため,計算領域の初期塩分は水平・鉛直 方向に一様で
30
とした.以下,2-5-1で下流端,2-5-2で上流端へそれぞれ与えた境界条件につい て述べる.
2-5-1下流端境界(沖合潮位)
下流端境界は
TPXO Web Service(CEOAS, Oregon State University)より取得できる
【北緯
12.5
°東経96.2735
°】の潮位データと一定塩分(30.0
)を鉛直一様に与えた.境界条件として計算期間の潮位を図 2-5-1(乾季),図 2-5-2(雨季)に示 す.
また,沖側境界に接する計算格子には,水平方向に人工粘性(
10.0 m
2/s
)を与え,境 界をまたいで生じる可能性のある水平循環渦の発生を抑制した.底面摩擦係数はCd=0.0026
とした.43
図 2-5-1 境界潮位データ(乾季)
図 2-5-2 境界潮位データ(雨季)
検証期間
0 1 2 3 4 5 6
潮 位 (m )
2/21 2/24 2/27 3/2 3/5 3/8
検証期間
0 1 2 3 4 5 6
潮 位 (m )
8/19 8/22 8/25 8/28 8/31 9/3
44 2-5-2上流端境界(河川流量)
上流端境界は
Tanintharyi
村(70 km
)であり,河川流量と塩分0
を1
時間間隔で与 えた.雨季の河川流量は3,100 m
3/s
,乾季は110 m
3/s
で一定とした.定流量の設定方法 を以下に述べる.(1) 雨季の淡水流量
雨季は,
2019
年8
月25
日(小潮)と9
月1
日(大潮)に行った分岐合流部の河川 流量調査の結果を参考に設定した.流量観測に用いた機材は,ADCP
(Acosustic DopplerCurrent Profiler)の RiverRay ADCP(株式会社ハイドロシステム開発)である.図 2
-5-3に示す
ADCP
の赤丸部分から音波が発信される仕組みである.測定距離は0.4
m~60 m
で測定精度は±0.25%または±2 mm/sである.今回,ADCPで観測された断面流速分布から流量を算出するために
WinRiverⅡを用いた.WinRiverⅡではアンサンブ
ルごとの航跡直行成分を積分して,流量算出を行うことが可能である.観測では,図 2-5-4 のように金具で固定し調査船を走行させることで横断方向の流速分布を測定し た.観測断面は図2-5-5に示す通り,分岐合流部よりも下流のTanintharyi
川の横断線(TA40)と
Kyaukpya
川の横断線(K170)である.この2
断面に対して,両日とも7:00
~
18:00
の30
分毎に合計23
回の流量観測が行われた.ここで,分岐合流部よりも上流の流量は
TA40
とK170
の流量を合計した値と定義する.図 2-5-6に小潮と大潮の流量観測結果を示す.どちらも周期的に流量が変動するこ とから潮汐の影響を受けていることがわかる.上流の流量は,小潮で約
2,000~3,000 m
3/s
,大潮では約1,000
~5,000 m
3/s
で変化する.観測値を平均することで,雨季の淡水流量を
3,100 m
3/s
で一定と仮定し,計算を行った.45
図 2-5-3 ADCP と周辺機器
図 2-5-4 金具で船に取り付けた ADCP と GPS センサー
46
図 2-5-5 流量観測断面
図 2-5-6 流量観測結果
TA40
K170
Discharge
476 477 478 479 480 481 482
1360 1361 1362 1363 1364
1359 1365 (km)
(km) TA40
K170
Discharge
0 2000 4000
6000 8月25日(小潮) K170
TA40 Total
河 川 流 量 (m
3/s )
6:00 9:00 12:00 15:00 18:00
0 2000 4000
6000 9 月 1 日(大潮)
K170 TA40 Total 河 川 流 量 (m
3/s )
6:00 9:00 12:00 15:00 18:00
47
(2) 乾季の淡水流量
乾季は,流量観測が未実施であるため,雨量から簡易的に淡水流量を推定した.雨 量データは,
Department of Meteorology and Hydrology, Myanmar
(2019
,web
)の月間降 雨量を使用した.図 2-5-7と図 2-5-8に源流のDawei
市と河口のMyeik
市 の月間降雨量を示す.検証期間の総降雨量は(月間降雨量)×(検証期間の日数)÷(対象月の日数)の和から求められる.例えば,2月
28
日~3月7
日における総降雨 量P
は,2
月,3
月の月間降雨量がそれぞれP
2,P
3である時,𝑃 = 𝑃 × 1
28 + 𝑃 × 7 31
(2-6)
となる.得られた総降雨量
P
に流域面積A
と流出率R
を掛け合わせると簡易流量Q
を算出することができる.𝑄 = 𝑃 × 𝐴 × 𝑅
(2-7)
ここで,本研究では流域面積
A
を17,000 km
2,流出率R
を0.7
とした.以上より,得 られた乾季の淡水流量110 m
3/s
を数値計算に使用する.ここで,本モデルでは初期条件として領域の塩分を
30
で一定としている.雨季は淡水流量が
3,100 m
3/s
であるため,助走期間内に河道内の塩分がフラッシュされるが,乾季の淡水流量を計算初期から
110 m
3/s
に設定すると,河道内の塩分を流出しきれず に再現性の低いモデルとなってしまう.そのため,乾季の計算ケースでは,便宜上最 初の48
時間の流量を雨季と同じ値(3,100 m
3/s
)として検証期間までに実際の塩水遡 上現象を再現できるように工夫した.48
図 2-5-7 Dawei 市の月間降水量
図 2-5-8 Myeik 市の月間降水量
0
300 600 900 1200 1500
月 間 降 水 量 ( m m )
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
0 300 600 900 1200 1500
月 間 降 水 量 ( m m )
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
49
2-6 精度検証用データの取得
ここでは,計算結果の精度検証に必要なデータの取得方法について述べる.以下,
2-6-1で水位データ,2-6-2で塩分データについて取得方法を示す.
2-6-1水位データ
Tanintharyi
川感潮域では,潮位変動が最大6 m
にもなり,1
時間の水面変動は大きい.日本では国土交通省が河口の水位データを提供しているが,Myanmarでは公式な データを得ることができない.そこで別途,
Mergui, Myanmar Tide Chart
(2019
,web
) より取得できる満潮・干潮の予測潮位を,pythonのプログラムで3
次スプライン補間 することで1
分毎の水位データへ変換した(図 2-6-1).観測時の水位を図 2-6-2,図 2-6-3に示す.
2-6-2塩分データ
乾季の水質調査は
2019
年2
月28
日~3
月7
日に行った.2019
年2
月28
日(小潮 の一日前),3
月1
日(小潮),3
月3
日(長潮),3
月5
日(中潮),3
月7
日(大潮)の満潮時に測定し,中潮と大潮は干潮時にも測定を行った.
雨季の水質調査は
2019
年8
月25
日~9
月2
日に行った.2019
年8
月26
日(小潮),8
月28
日(長潮),8月30
日(中潮),9月2
日(大潮)の満潮時に測定し,大潮は干 潮時にも測定を行った.水質調査は
Tanintharyi
川,Kyaukpya
川,Thamoke
川にて多項目水質計(JFE
アドバ ンテック社製,AAQ119
,図 2-6-4)を用いて水質の鉛直分布を計測した.移動観測では,作業船に
D-GPS
と多目的水質計(JFE
アドバンテック社製,AAQ1183
) を搭載し,設定した各観測点において塩分の鉛直分布を計測した.多項目水質計の諸 元を表 1に示す.観測可能項目は,深度(m
),水温(℃),塩分,クロロフィル(ppb
),濁度(
FTU
),溶存酸素(DO
;mg/L
)である.同時性の確保の観点から,全地点の観 測を1
時間以内に終了させることが望ましいが,現地では観測船が1
艘のみで,三河川のべ
120 km
と広大であるため,時速約50 km
で移動時間2.5
時間と,1
地点あたり約
1
分間で観測し,乾季で27
地点(図 2-6-5),雨季22
地点(図 2-6-6)の測定時間を含めて概ね
3
時間以内に完了させた.50
図 2-6-1 河口の予測潮位(2019 年)
図 2-6-2 河口の予測潮位(乾季)
図 2-6-3 河口の予測潮位(雨季)
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
:乾季の現地観測, :雨季の現地観測
-1 0 1 2 3 4 5 6 7
水 位 ( m )
-1 0 1 2 3 4 5 6 7
2/28 3/1 3/2 3/3 3/4 3/5 3/6 3/7 3/8
水位
(m )
-1 0 1 2 3 4 5 6 7
8/25 8/26 8/27 8/28 8/29 8/30 8/31 9/1 9/2 9/3
水位
(m )
51
図 2-6-4 多目的水質計(
JFE
アドバンテック社製,AAQ1183
)表 1 多項目水質計の諸元
測定項目 タイプ 測定レンジ 分解能 精度
深度 半導体圧力センサー 0~100 m 0.002 ±0.3%FS
水温 サーミスター -3~45℃ 0.001℃ ±0.01℃
電気伝導度 電極式 0.5~70 mS/cm 0.001 mS/cm ±0.01 mS/cm
塩分 実用塩分式 2~42 (0~2) 0.001 -
クロロフィル 蛍光測定 0~400 ppb
(ウラニン基準) 0.01 ppb ±1 %FS 濁度 赤外線後方錯乱式(LED) 0~1,000 FTU
(ホルマジン基準) 0.03 FTU ±0.3 FTU or ±2 %
DO 燐光式 0~200 %
(0~20 mg/L)
0.01 %
(0.001 mg/L)
±2 %FS
(±0.4 mg/L)
52
図 2-6-5 水質観測地点(乾季,2019 年 3 月)
450 460 470 480
1360 1370 1380 1390
(km) (km)
Myeik
Thamoke
Kyaukpya
Tanintharyi 0 km
10 km
20 km
30 km 40 km
10 km 20 km
0 km
10 km
20 km K000
K010
K050
K070
K100
K130
K170 30 km TA00
TA10
TA20
TA30
TA40 T20
T40
T60
53
図 2-6-6 水質観測地点(雨季,2019 年 8 月)
450 460 470 480
1360 1370 1380 1390
(km) (km)
Myeik
Thamoke
Kyaukpya
Tanintharyi 0 km
10 km
20 km
30 km 40 km
10 km 20 km
0 km
10 km
20 km K000
K010
K050
K070
K100
K130
K170 30 km TA00
TA10
TA20
TA30
TA40 T20
T40
T60
54
第3章 三次元シミュレーションの精度検証
ここでは,本モデルの計算結果を検証用データと比較し,その精度について検討し た.乾季と雨季のそれぞれにおいて,3-1で水位,3-2で塩分の比較を行った結 果を示す.
3-1 水位の計算結果
水位については,
TPXO
(2019
,web
)より沖合250 km
(開境界)の予測潮位を,Mergui, Myanmar Tide Chart
(2019
,web
)より河口の予測潮位を取得した.はじめに,地点ごとの水位変動の違いを捉えるために,図 3-1-1~図 3-1-3に乾季,
図 3-1-4~図 3-1-6に雨季の予測潮位を示す.両地点の水位変動は乾季・
雨季を通して正弦波に近く,波形は左右対称であるが,振幅と位相が異なる.沖合
250
km
の振幅は0.5~2.0 m
で増減するが,河口の振幅は無数の島などの地形的な影響で最大
6.0 m
まで増幅する.雨季の位相は,小潮で0.5
時間,大潮で1.0
時間の差がある一方で,乾季は小潮で
1.5
時間,大潮で2.0
時間の差が生じる.このように海域と河口 では水位変動の振幅と位相が異なることがわかる.図 3-1-7では,乾季の河口水位の計算結果を予測潮位と比較した.9 日間(2 月
27
日~3月7
日)の平均絶対誤差を算出すると,0.24 m
となった.これはTanintharyi
川河口の干満差が6 m
あることを考えると許容値といえる.図 3-1-8では,雨季の河口水位の計算結果を予測潮位と比較した.小潮では振 幅及び位相を良好に再現しているが,長潮から大潮にかけて干潮水位が予測潮位と一 致しない結果となった.ここで,予測潮位は天体の引力により発生する起潮力(潮汐 力)から計算されて求められているため,淡水流量の影響による水位変動を考慮して いない.また,潮汐流に比べて淡水流量が河口の混合作用に大きく影響を与える場合,
塩水と淡水の境界面に鉛直循環流が発生し,塩水が淡水を押し上げるような流動が生 じることがある.これは,相対的に河口の水位が低下する下げ潮から干潮にかけて,
淡水流量と鉛直循環流によって発生した可能性がある.この現象を解明するため,追 加の検証を行った.
一つ目は,計算モデルにおける上流端境界の塩分を
30
に変更し,淡水の代わりに塩 水を流入させることで,領域全体の塩分を一様として水位の検証を行うものである.図 3-1-9に計算結果と予測潮位を示す.図 3-1-8において干潮水位と予測
55
潮位の誤差は最大で
1 m
であったのに対し,図 3-1-9では大潮の干潮水位が良 好に表現できている.よって,河口で淡水が塩水と混合することで鉛直循環流が発生 し,干潮水位が予測潮位よりも大きくなる現象が生じる可能性を示唆した.また,図 3-1-9から満潮時の位相が予測潮位と一致するのに対して,干潮時の 位相において約
1
時間のラグタイムが生じることがわかる.この位相差について二つ 目の検証として,実際の現場で雨季・大潮の水位観測を行った.今回,河口付近に水 位計を設置することが地理的に不可能であったため,長さ5 m
の長尺を用いて,1
時 間ごとの水位を計測し,予測潮位と比較した.図 3-1-10に水位観測の位置図を 示す.図 3-1-11と図 3-1-12のように観測はK030
に架かる橋の右岸か ら2
番目の橋台で行われた.2019
年6
月4
日に行われた13
時間分の水位観測の結果 を図 3-1-13に示す.実測値は下げ潮から干潮にかけて予測潮位よりも約1
時間遅れ,干潮水位が下がりにくいことが分かった.
56
図 3-1-1 各地点の予測潮位(乾季)
図 3-1-2 小潮の予測潮位(乾季)
図 3-1-3 大潮の予測潮位(乾季)
0 2 4 6
水 位 (m )
2/27 3/2 3/5 3/8
沖合 250 km 河口
0 2 4 6
水 位 (m )
0:00 6:00 12:00 18:00
沖合 250 km 河口
0:00
3月1日 3月2日
1.5 hr 1.5 hr
2.0 hr
2.0 hr
0 2 4 6
水 位 (m )
0:00 6:00 12:00 18:00
沖合250 km 河口
0:00
3
月7
日3
月8
日57
図 3-1-4 各地点の予測潮位(雨季)
図 3-1-5 小潮の予測潮位(雨季)
図 3-1-6 大潮の予測潮位(雨季)
0 2 4 6
水 位 (m )
8/25 8/28 8/31 9/3
沖合 250 km 河口
0.5 hr 0.5 hr
0 2 4 6
水 位 (m )
0:00 6:00 12:00 18:00
沖合250 km 河口
0:00
8
月26
日8
月27
日1.0 hr
1.0 hr
0 2 4 6
水 位 (m )
0:00 6:00 12:00 18:00
沖合250 km 河口
0:00
9月2日 9月3日
58
図 3-1-7 河口水位の計算結果と予測潮位の比較(乾季)
図 3-1-8 河口水位の計算結果と予測潮位の比較(雨季)
図 3-1-9 水位の追加検証(雨季)
0 2 4 6
水 位 (m )
2/27 3/2 3/5 3/8
計算値 予測潮位
0 2 4 6
水 位 (m )
8/25 8/28 8/31 9/3
計算値 予測潮位
0 2 4 6
水 位 (m )
8/25 8/28 8/31 9/3
計算値(塩分一様) 予測潮位
59
図 3-1-10 予測潮位と観測地点の位置図
図 3-1-11 K030 に架かる橋
450 460 470 480
1360 1370 1380 1390
(km) (km)
Myeik K000
4.5 4.6 4.7 4.8
K030 K000:
予測潮位K030:実測値
60
図 3-1-12 水位観測の様子
図 3-1-13 予測潮位と観測結果の比較