平成 28 年度 修 士 論 文
感潮河道の地形特性が塩水遡上に及ぼす影響 に関する三次元シミュレーション解析
首都大学東京大学院 都市環境科学研究科 都市基盤環境学域 環境水理学研究室
松 村 健 史
指導教授 准教授 横山勝英
目次
第一章 序論
1-1 研究背景 ・・・・・ 1
1-2 既往の研究 1-2-1 現地観測に基づいた研究 ・・・・・ 3
1-2-2 数値計算に基づいた研究 ・・・・・ 4
1-3 本論文の構成 ・・・・・ 6
第二章 研究方法 2-1 研究対象地 ・・・・・ 7
2-2 三次元流体シミュレーションの方法 2-2-1 モデルの内容 ・・・・・ 11
2-2-2 計算格子 ・・・・・ 14
2-3 計算に用いる地形データ 2-3-1 有明海及び河口干潟の地形作成 ・・・・・ 17
2-3-2 筑後川感潮河道の地形作成 ・・・・・ 17
2-3-3 縦断地形の作成 ・・・・・ 25
2-4 格子サイズの設定 ・・・・・ 28
2-5 初期・境界条件の設定 ・・・・・ 38
2-6 精度検証用データの取得 ・・・・・ 42
第三章 三次元シミュレーションの調整と精度検証 3-1 三次元シミュレーションの調整 3-1-1 急勾配地形適用に関する検討 ・・・・・ 44
3-1-2 初期塩分・水平乱流拡散係数の設定 ・・・・・ 49
3-2 計算の精度検証 3-2-1 水位の計算結果 ・・・・・ 57
3-2-2 流速の計算結果 ・・・・・ 59
3-2-3 塩分の計算結果 ・・・・・ 60
第四章 本・支川の流動と塩水遡上に関する考察 4-1 本・支川の塩水遡上特性 4-1-1 河口域の塩分分布 ・・・・・ 69
4-1-2 合流部における塩水遡上の三次元的検討 ・・・・・ 81
4-2 分岐合流部の流速分布 ・・・・・ 89
4-3 本・支川の流量分配
4-3-1 残差流量 ・・・・・ 97 4-3-2 流量解析 ・・・・・ 99
第五章 まとめ ・・・・・103
参考文献 ・・・・・106 謝辞 ・・・・・109 付録
・・・・・110
1
第一章 序論
1-1 研究背景
沖積河川の感潮域では,河川水と海水が混じり合うことで塩分の混合型が変化し,潮 汐変動に伴って塩分が時間的・空間的(縦断二次元的)に変動する.河川水と海水の混 合形態は,河川の地形や流況及び潮位によって変化し,弱混合型,緩混合型,強混合型 に分類される.弱混合型では,淡水と塩水の混合が弱く,密度の小さい淡水が密度の大 きい塩水の上を滑るように流下し,その間には塩分躍層が現れる.強混合型では,淡水 と塩水が十分に混合されて,塩分は鉛直方向に一様になる.緩混合型は二つの中間的な 混合形態である.(楠田,山本,2008)
沖積河川では,出水時に砂礫分を主体とした土砂の堆積により,流路変動を繰り返し て網目状の河道が形成される.その下流の感潮域では,河道沿いに砂分が堆積し,背後 の低地にはシルトと粘土が堆積して,S 字状の自然堤防が形成される.このように沖積 河川の感潮域では,平面形状が複雑になるのが一般的であるため,塩水遡上は平面的に も分布をもつと考えられる.また河道の湾曲部では二次流が発達することで横断方向へ の土砂輸送が起こり,砂州が形成される.
沖積平野は人口が集積して高度に利用されており,河道の治水・利水を考えることが 重要となるが,先に述べたように塩水遡上は三次元的な分布をもつため,淡水取水地点 の検討などには慎重さが必要となる.また,治水上は河道地形を単純化した方が洪水疎 通能力を確保しやすい.しかし感潮域には,汽水性の生物や淡水域と海域を往復する生 物も多く,生態系は塩分や地形の微妙な勾配に適応して生息しているので,要因の複雑 さは重要な指標である.したがって,感潮河道の治水・利水・環境管理を進める上では,
塩水遡上の三次元的な特性を把握することが必要である.
これまで,現地観測に基づく研究として,例えば,鈴木・石川(1999)は,多項目水 質計と曳航式超音波ドップラー流速計を用いて,利根川の縦断的な塩水遡上の特徴を捉 えている.しかし,塩水遡上の三次元的な状況を捉えるには,観測を高密度に実施する 必要があり,実際にはかなり困難を伴う.そのため,近年では三次元シミュレーション を用いた検討も行われている.例えば,中村・石川(2010)は,北上川においてシミュ レーションを構築しているが,対象河川は河道形状が比較的単純であり,かつ塩水遡上 は弱混合~緩混合である.さらに多様な状況を予測するには,河道形状が蛇行や分岐合 流を有し,塩水遡上が強混合から弱混合まで変化する場に対応したシミュレーション技 術が必要となる.
2
そこで本研究では,河口干潟,分岐・合流,導流堤を有する筑後川感潮河道を対象と して,複雑形状を合理的に計算できる三次元流体シミュレーターを構築した.構築され たモデルを用いて,塩水遡上および分岐合流部の流動の解析を行い,感潮域の地形特性 が塩水遡上に及ぼす影響に関して考察した.
3
1-2 既往の研究感潮域の塩水遡上と流動について,これまでに現地観測や数値計算に基づいた研究が 行われている.
1-2-1
では現地観測に基づいた研究を,1-2-2
では数値計算に基づいた研 究について示す.1-2-1 現地観測に基づいた研究
鈴木・石川(1999)は,利根川河口域の貧酸素水塊が形成される過程を捉えるため,
多目的水質計と曳航式超音波流速計を用いて,塩分と流速の縦断分布を数度にわたって 観測を行った.その結果,いずれの観測日においても塩水と淡水の二層状態がかなり明 確に形成されており,流速は上げ潮になると,上流部で順流,下流部で逆流となり,中 流部では二層流になっていることを示した.
SOLTANIASL
ら(2012)は,太田川河口域を対象として,太田川と旧太田川の分岐部で流量観測を行い,短期及び長期間における塩分と流量の時系列変動を解析した.その 結果,大潮の上げ潮では,太田川を遡上した塩水が旧太田川に流入することで,旧太田 川の塩分と水位の変動に時間差が生じることを示した.また,川岸に沿った風が感潮域 の混合を促進させる上で重要な要素である可能性を示唆した.Kawanishi(2004)は,同 河川において大潮期の乱流鉛直分布を検討し,上げ潮または下げ潮初期では鉛直一様に 十分混合されているが,下げ潮後期では河床付近の流速が弱く,鉛直方向に混合の偏り が生じることを示した.
橋本ら(2004)は,長良川では冬季の大潮時に緩混合型,小潮時には弱混合型になる ことを示した.原田ら(2012)は,二河川(役勝川,住用川)の海水遡上特性の違いに ついて,現地観測に基づいた考察を行った.その結果,役勝川では強混合型,住用川で は弱混合型となり,同一内湾に接続する二河川で海水遡上形態が異なることを明らかに した.また役勝川の海水遡上量は住用川に比べ顕著に大きく,この差は塩水侵入形態の 差に相当することが示唆された.これらの要因として,住用川の河口マウンドが海水遡 上を阻害していることを挙げている.
筑後川においても以下の現地観測が行われている.横山・宮崎ら(2008)は,筑後川 感潮河道および河口干潟において,一潮汐間の流速,塩分等の鉛直分布に関する広域観 測を実施した.その結果,塩水遡上形態は強混合型であり,流量は潮汐流の影響により 逆流が卓越していることを示した.また残差流量は支川では本川とは逆の傾向を示す,
もしくは順流量が非常に少ない可能性があるとした.しかし,観測値は流心の
1
点で計 測されたものを使っているため,その精度は高いとはいえない.4
横山・大村ら(2011)は,感潮域上流部の塩分濃度は
1~3 psu
を示すが,海域の干満 差が2 m
以下になる長潮・若潮期には弱混合型の塩水遡上が発生して感潮域上流部の塩分濃度が
15 psu
以上に急上昇し,その後大潮に向かって強混合型に徐々に変化してゆくことを示した.このように筑後川では基本的には強混合型であるが,小潮時に弱混合型 へと変化する.
横山・金子ら(2011)は,筑後川感潮域の湾曲部横断面において,曳航式超音波ドッ プラー流速計を用いて流速観測を行い,上げ潮時に二次流の発生を確認した.また,松 村・横山(2016)は同河川の分岐合流部にて,横断流速観測を行い,上げ潮時に二次流 の発生を確認している.
以上のように,河川感潮域における塩水遡上,流動に関する様々な研究が現地観測に 基づいて行われているが,縦断面や横断面での検討がほとんどであり,平面分布につい ての検討はされていない.また,塩水遡上の三次元的な状況を捉えるには,上記のよう な観測を高度に実施する必要があり,実際にはかなりの困難を伴う.
1-2-2 数値計算に基づいた研究
一次元シミュレーションを用いた塩水運動の解析として,古本ら(1996)は,強混合 型感潮河川である菊池川を対象に,一次元分散シミュレーションを適用し,塩分分布を 比較的良く再現した.また,横山ら(2011)は,筑後川で塩分に関する一次元分散シミ ュレーションを行い,中潮・大潮や平均水位差の高い小潮では強混合型の塩水遡上をよ く再現した.強混合型でかつ形状が比較的単純な河川であれば,一次計算でも良好な再 現性は示せるが,塩水と淡水が成層化する場合,水深方向の塩分濃度変化を考慮した数 値解析が必要であると考えられる.
そのため,鉛直二次元シミュレーションを用いた研究が進められており,鈴木・石川
(1999)は,利根川河口堰下流部を対象に,塩水楔の流動を鉛直二次元
k
-ε乱流モデ ルによって計算した.その結果,計算で求めた流速分布のパターンと観測結果はよく一 致していたが,計算結果では流量の絶対値が全体的に小さくなっていた.この要因とし て,計算手法自体が完全でないことと,横断面平均値を求めていることを挙げている.また,工藤ら(2001)は,相模原感潮域において塩水流動解析を行い,塩水流動特性と ともに,潮位変動に伴う混合型の形態変化についても比較的よく再現した.さらに詳細 な検討が必要な場合は三次元計算を行う必要があるが,概略的検討を行う場合には,鉛 直二次元モデルも有用であると述べている.名倉ら(2010)は,米代川を対象に,冬季 日本海側河川の塩水侵入現象の解析を行った.その結果,川幅が閉塞することでは,河 川流量を流下させるために流速が早くなり,海域からの塩水侵入が難しくなることを示
5
唆した.以上のように,一次元シミュレーションや二次元鉛直シミュレーションを用いた研究 が多く行われているが,平面形状が複雑になれば横断方向も考慮した解析が必要となる.
塩水遡上の三次元的な状況を把握するために,三次元シミュレーションを用いた検討が 必要となる.
中村・石川(2010)は,CIP-Soroban法に基づく鉛直
2
次元密度流解析モデルを基礎と し,汽水域の解析に適した3
次元Soroban
格子の構成方法を報告した.宮城県新北上川 に適用し,現地観測データと比較した結果,潮位に伴う後退を繰り返しながら塩水楔が 遡上する様子を概ね再現できていることを確認した.しかし,上流塩分が低めに見積も られており,塩分躍層が計算結果に比べて多少滑らかになるなど,観測結果との差異が 認められた.この要因として,水平方向の格子幅が粗すぎたことや,上流端からの淡水 流入を鉛直方向一様に仮定したことを挙げている.新谷・中山(2013)は,網走川河口域の塩水遡上現象をオブジェクト指向型環境流体
モデル
Fantom3D
で数値的に計算した.観測結果と比較した結果,塩分上昇・下降のタイミングや塩分の増減傾向は適切に再現していることを確認し,河道内で淡水と塩水の 混合形態が変化する様子を捉えた.また,蛇行部における二次流の発生を再現し,既往 の研究と定性的に良い一致を得た.
許ら(2012)は,三次元
CIP-Soroban
流体モデルを利根川感潮域に適用して,塩分及 び流速の縦断分布観測と比較検証を行った.塩分については,混合形態は弱混合型であ り,大潮から小潮にかけて塩水楔が伸張し堰直下まで侵入するなど,潮汐の違いによる 変化をよく再現できている.流速については,上げ潮時では底層の塩水層で逆流を生じ,表層淡水層の順流と二層流を形成することなど現地観測の特徴をよく再現していること を確認した.
以上のように,近年では三次元シミュレーションを用いた検討も行われているが,形 状が比較的単純な河道において,かつ弱混合~緩混合型の塩水遡上を対象としており,
研究が十分に進んでいるとはいえない.さらに多様な状況を予測するには,河道形状が 蛇行や分岐合流を有し,塩水遡上が強混合から弱混合まで変化する場に対応したシミュ レーション技術が必要となる.
6
1-3 本文の構成以上の背景のもと,本研究では,河口干潟,分岐・合流,導流堤を有する筑後川感潮 河道を対象として,複雑形状を合理的に計算できる三次元流体シミュレーターを構築し,
塩水遡上および分岐合流部の流動の解析を行った.同河川については,既に金子ら(2016)
が準三次元モデルにより洪水時の土砂移動と河床変動について詳細に解析している.本 研究では,塩水密度流の運動を再現することを目的として,三次元モデルの適用を検討 した.構築されたモデルを用いて,分岐・合流を含む感潮域の時空間的な塩分分布と流 動の変化に関して考察した.第一章は「序論」であり,本研究の背景・目的について示 す.
第二章は「研究方法」であり,研究対象地と数値計算方法,現地観測方法について示 す.研究対象地は筑後川感潮域であり,河道は河口
0~6 km
区間および7~9 km
区間で 支川と分岐合流している.また筑後川0~6 km
には導流堤が設置されている.計算モデ ルの基礎式は,連続式と3
次元Navier-Stokes
式であり,乱流モデルはGLS
乱流クロージ ャー,また静水圧近似とした.離散化手法はコロケート格子有限体積法である.第三章は「三次元シミュレーションの調整と精度検証」である.急勾配地形の適用と 初期塩分・水平拡散係数の設定について検討した.精度検証は水位・流速・塩分を観測 結果と比較した.
第四章は「本・支川の流動と塩水遡上に関する考察」であり,流本・支川の塩水遡上 特性と分岐合流部の流速分布,さらに分岐合流部の流量分配について検討した.
第五章は「結論」であり,本研究を通じて得られて知見についてまとめ,今後の課題 を示した.
7
第二章 研究方法
2-1 研究対象地
筑後川は九州最大の一級河川である.図 2-1-1に位置図を示す.筑後川の流域面積は
2,860 km
2,幹線流路延長は143 km
であり,有明海湾奥部に流入する淡水のうち約7
割を供給している.河口から沖合
12 km
まで日本一広大な干潟があり,さらに有明海・八代 海を経て東シナ海に接続している.有明海の干満差は6 m
に達し,河口干潟(図 2-1-2)の面積は約
45 km
2と広大である.そのため生物生産力や浄化能力が高く,エツ,ムツゴ ロウ,アリアケシラウオといった特産種・準特産種が生息している.大村ら(2012)は,筑後川において一潮汐間の塩分濃度や懸濁土砂
SS
の変動とエツの 漁獲傾向が対応していることから,エツの行動と潮汐の間には関係性があることを示し た.このように筑後川では物理現象と生態系が密接な関係にあるが,近年では底質の変 化や河川環境の悪化などにより,ほぼすべての特産種・準特産種の個体数は減少傾向に あることが問題視されている(佐藤,2000).感潮区間は,河口から
23 km
に設置された筑後大堰までである.感潮河道には本川と 分流する主要支川が2
つあり,河口から6 km
の区間では早津江川と分流し,また7 km
~9 kmの区間で諸富川と分流している(図 2-1-3,図 2-1-4).分岐合流部では,右岸側 に比べて左岸側の水深が深く,複断面的な河道となっている.川幅は
7 km~8 km
付近は100 m
で,河口で1.5 km
と変化し,干潟の澪筋の幅は500~1,000 m
である.また,6.5 km
から
23 km
に位置する筑後大堰までは蛇行が連続しており,曲率半径は1.5 km~3 km
である.
河川構造物としては,筑後大堰,底固め,導流堤が挙げられる.筑後大堰は治水や水 道用水,灌漑用水の安定取水を目的として昭和
60
年4
月に完成した.堰直下流量は豊水83 m
3/s,平水 54 m
3/s,低水 42 m
3/s,渇水 26 m
3/s
である.底固めは17.4 km
地点に設置 されており,天端高がT.P. -1 m
となっていて,日常的な塩水遡上が床固めを乗り越える ことは少ないようである.導流堤(図 2-1-5)は河口0 km~6 km
の区間に設置されてお り,本川は左岸と右岸に二分されている.川の流れを速めることで河口付近での土砂の 堆積を防ぎ,航路を維持している役割を果たしており,干潮時にのみ姿を現し,満潮時 は水面下に隠れるため,水位変動に応じて流況は変化すると考えられる.筑後川は,平水流量が
54 m
3/s
であるのに対し,潮汐流量は大潮時に逆流が1,650 m
3/s
となり,淡水流量に比べて潮汐流量が支配的な場所である.(横山ら,2011)8
図 2-1-1 筑後川の位置
八代海東シナ海
14 km
0 km
有明海
-12 km
23 km
早津江川 諸富川
筑後川 5 km
0
6 km
17 km
福岡県9
図 2-1-2 河口干潟
図 2-1-3 早津江川
早津江川導流堤
上流 下流
流下方向
10
図 2-1-4 諸富川
図 2-1-5 導流堤
流下方向上流 諸富川 下流
11
2-2 三次元流体シミュレーションの方法ここでは今回使用するモデルの概要について述べる.2-2-1 で三次元流体モデルの概 要を,2-2-2で計算格子について示す.
2-2-1 モデルの内容
本研究で使用するモデルは,新谷(2017)が開発した
Fantom Refined
を用いた.本 シミュレーターでは,支配方程式に現れる各項の役割を独立したパーツ(オブジェクト)に分担させることで,本研究で活用する局所高解像度化(local mesh refinement: LMR)等 の複雑なアルゴリズムを柔軟に実現している.基礎方程式は,連続式(2-1)と非圧縮と ブジネスク近似を施した
3
次元Navier-Stokes
式(2-2)~(2-4)である.塩分濃度の輸 送方程式は,式(2-5)に示す.離散化手法は,コロケート格子有限体積法であり,時間 進行は2
次精度,移流項は3
次精度で離散化している.また,非静水圧・静水圧の両者 に対応し,今回は静水圧とした.鉛直方向の渦粘性・渦拡散係数の算定には,一般化さ れた2
方程式乱流モデルであるGLS
乱流クロージャーを用いた.この2
方程式として多 くの選択肢があるが,本計算ではK-OMEGA
と安定化係数(Stability function)を選択し た.GLS乱流クロージャーモデルの詳細については,新谷(2016)に記述されている.干潟(drt-wet)の取り扱いについて,概念図(図 2-2-1)を用いて示し,以下に説明す る.水位低下時には,水面位置にある鉛直セル内の水位が限界水位(以下:limit-depth)
よりも下回った場合,
1
つ下のセルと結合する.水位上昇時には,limit-depth
を水位が下 回っている場合,水面位置にある鉛直セルは1
つ下のセルと結合されているが,水位がlimit-depth
を超えると,セルは分裂する.このように,水面位置にある鉛直セルを水面変動に伴って結合・分裂させ,水域の変化を再現した.また,鉛直方向の空間離散化に は,パーシャルステップが組み込まれている.
12
○ 連続式
0
z w y v x
u
(2-1)○ 基礎方程式:3次元
Navier-Storkes
式
z u z y u y x u x x fv p
z w u y v u x u u t u
V H
H
0
1
(2-2)
z v z y v y x v x x fu p
z w v y v v x u v t v
V H
H
0
1
(2-3)
0 0 0
1 g
z w z y w y
x w x
z p z
w w y v w x u w t w
V H
H
(2-4)
0:参照密度,
0
:密度)
sin 2 (
f
:コリオリ係数,
:緯度,
:角速度
H:水平方向の渦粘性係数,
V:鉛直方向の渦粘性係数○塩分濃度の輸送方程式
z
Kz C z y Ky C y x Kx C x z w C y v C x u C t C
∂
∂
∂
∂
∂
∂
∂
∂
∂
∂
∂
∂
∂
∂
∂
∂
∂
∂
∂
∂
(2-5)
C
:塩分濃度K
x,K
y,K
z:拡散係数13
図 2-2-1 dry-wet の取り扱い
鉛直格子の区切り
25 cm
Limit depth
5 cm
結合 結合Limit depth
5 cm
分裂 分裂15 cm 鉛直セルの結合
鉛直セルの分裂
14
2-2-2 計算格子従来の計算格子を扱う研究では,計算領域全体の格子サイズを均一として計算を行う か,計算後に得られた結果を境界条件として細部の計算を行うネスティング(図 2-2-2)
等を利用した構造格子を改良・修正する手法が使われてきた.しかし,構造格子を拡張 した多くの局所高解像度化手法(local mesh refinement:LMR)では,その設定方法が複 雑であり,適用できる現象が限られる.
本モデルでは,空間をマクロに捉えるための“コンテナ”とミクロに捉える“セルコ ラム”の
2
段階の空間分割で柔軟なLMR
を実現した.このLMR
手法について,仮想地 形(40 m正方格子地形)を用いて説明する(図 2-2-3).次に,想定する最も低解像度の 格子を考える.図 2-2-3
では,最低格子サイズを1,280 m
(40 m×32セル)としている.この最低解像度格子がコンテナであり,各コンテナに指定するセルコラムの個数(分割 数)を変化させることで局所的な水平解像度を調整できる.
局所高解像度化は,X,Y 方向の分割数を指定することで実現する.コンテナ内の分 割数は任意であるが,コンテナサイズが
2
nとなっていれば,n+1段階解像度を変化させ ることができる.例えば,仮想地形のように,コンテナ内のX
方向に2
5=32
個の地形デ ータを含んでいる場合,X方向の分割数を1,2,4, 8,16,32
と6
段階変更することが 可能である.分割数1
の場合,格子サイズは1280 m
と最低解像度になる.分割数32
の 場合,格子サイズは40 m
と最高解像度になる.この方法を用いて計算グリッドを作成す る手順を図 2-2-4に示す.地形データ(図 2-2-4(a))とX
方向のコンテナ分割データ(図 2-2-4(b)),Y方向のコンテナ分割データ(図 2-2-4(c))によって,コンテナご とに解像度を変化させた計算グリッド(図 2-2-4(d))を生成することができる.
以上のように,本モデルで使用する
LMR
のメリットは,対象領域の地形データ(最 高解像度データ)とコンテナデータ(最低解像度格子)を用意し,高解像度化したい領 域のコンテナに分割数を指定することで,柔軟に解像度を調節することが可能になる.15
図 2-2-2 ネスティング手法
図 2-2-3 仮想地形(40 m 正方格子)[左],最低解像度格子(コンテナ)[右]
① 大領域を粗い格子に分けて計算
② 小領域を細かい格子に分けて計算.
粗い格子の計算結果が引き継がれる.
1280 m
(40 m×32セル)
セルコラム コンテナ
16
図 2-2-4 局所高度解像度化(LMR)の手順
1 16 8
4 32 16
8 16 2
1 16 8
4 32 16
8 16 2
(a)
40 m格子地形
(b)X方向の分割数
(c)Y方向の分割数
(d)計算グリッド
17
2-3 計算に用いる地形データ本研究の計算領域は筑後川~有明海(沖合約
20 km
まで)である.ここでは本シミュ レーターで使用する計算地形の作成について記述する.2-3-1 で有明海及び河口干潟の 地形作成,2-3-2で筑後川感潮河道の地形作成,2-3-3で縦断地形の作成について示す.2-3-1 有明海及び河口干潟の地形作成
干潟については平成
15
年に測量された500~1000 m
間隔の横断測量データ(国土交通 省筑後川河川事務所),有明海に関しては,海上保安庁発行の海図(W169,W206)を使 用いた.有明海の地形データは,海図に等水深線を引き,スキャナーで読み取って画像 データに変換し,ArcGISを用いて等水深線上のデータを取得した.海図の水深は,最低水面からの深さを表している.多比良港の最低水面が約-2.49(T.P.m)
であることから,海図の水深
z
から海底標高h
を求めるとz
h 2 . 49
(2-6)となる.取得した標高データを,等高線・三次元地形作成ソフトウェアである
Surfer
を 用いて,等間隔のグリッドに変換することにより,計算地形を作成した.2-3-2 筑後川感潮河道の地形作成
筑後川感潮河道については,国土交通省筑後川河川事務所により平成
20
年に取得され た河口から23 km
までの200 m
間隔の横断測量データを使用した.ただし,河口6~7 km
の分岐合流部と,河口16.6 km
に接続する支川・広川(図 2-3-1)については独自の測量 を行い,河床標高データを取得した.分岐合流部は,本川と
2
つの支川(上流:諸富川,下流:早津江川)が接続して,非 常に複雑な地形となっているため,200 m間隔の横断測量データでは測線間の地形を適 切に再現できない.そこで松村(2014)は,2014年9
月に100m
間隔の横断測量を行っ た(図 2-3-2).支川・広川については,2016年
10
月に左岸側と右岸側の2
ラインで縦断測量を行っ た(図 2-3-3).測量は,デジタル音響探知機(Eagle社
FishStrike 2000C)
(図 2-3-4)を用いて行っ た.この装置では,水深を計測すると同時に,GPSで緯度経度が記録される.観測領域18
内では,7.0 km(若津港)と
14.6 km(六五郎橋)にて水資源機構が 1
時間毎に水面標高 を計測している.しかし筑後川感潮域では,潮位変動が最大6 m
にもなり,1時間の水 面変動は大きい.そこで,独自で水位を観測し,水資源機構が計測した水面標高を用い て,水位を水面標高に変換した.水位は,水位計(HOBO U20 Water Level Logger)を設 置し,10秒間隔で測定した(図 2-3-5).得られた水深,水面標高,緯度・経度データを1
秒毎にまとめた.水位をh,水位計の設置標高を T,水深を D
とし,河床標高H
を求 めると,D h T
H
(2-7)となる.以上より,河床標高データを取得した.
なお,筑後川感潮河道の川幅に対して測線間隔が広いため,
3D
マップソフトで自動的 に地形を生成すると,現実的ではない凹凸が発生してしまう.そこで,紙面上に測線上 の水深をプロットし,等水深を手作業で結んで,等水深線図を作成し,測量ラインに加 えて,等水深上の標高データを取得した.さらに,取得した標高データを,等高線・三 次元地形作成ソフトウェアであるSurfer
を用いて,等間隔のグリッドに変換することに より,計算地形を作成した.作成された計算地形について,図 2-3-6
に筑後川~有明海,図 2-3-7
に分岐合流部,図 2-3-8に広川の河床標高コンターを示す.ただし,導流堤の存在する河口
0~6 km
の地形作成については,「2-3-3縦断地形の作成」で別途説明する.
19
図 2-3-1 筑後川支川・広川 位置図
図 2-3-2 横断測量ライン(分岐合流部)
広川
有明海
筑後川
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導流堤
5.8 km
7.0 km
諸富川筑後川 早
津 江 川
測量ライン
(経度)
(緯度)
130
°21' 18"
33°12' 36"
130
°21' 36"
33
°12' 54"
130
°21' 54"
20
図 2-3-3 縦断測量ライン(広川)
図 2-3-4 デジタル音響探知機
② ① 縦断測量ライン
14.6 km
(経度)
(緯度)
130
°25' 12"
33
゜15' 36"
130
°25' 48"
33
°16' 12"
130
°26' 24" 130
°27' 00"
Google Mapを修正
バッテリー
GPS
音波探査センサー
モニター,記録器
21
図 2-3-5 水位計(HOBO U20 Water Level Logger)
22
図 2-3-6 標高地形コンター図(筑後川~有明海)
0 10 20 30
0 10 20 30 40
(km) (km) (km)
T.P.m
筑後大堰(23 km)沖合20 km
23
図 2-3-7 標高地形コンター図(分岐合流部)
上流
下流
諸富川
0.0 km
早津江川
7.0 km
導流堤 筑後川
6.5 km
筑後川
7.0 km
筑後川
6.0 km
右左
-8 -6 -4 -2 0 2 T.P.m
-60300 -60000 -59700 -59400 -59100
23100 23400 23700 24000 24300
(m)
(m)
24
図 2-3-8 標高地形コンター図(広川)
0 500 1000 1500 2000
0 500 1000 1500
(m) (m)
-4
-2
0
2
4
T.P.m
25
2-3-3 縦断地形の作成本川の河口
0~6 km
には導流堤が設置されている(図 2-3-9).図 2-3-10には,河口1.0 km
と河口4.0 km
の河床横断図を示しており,導流堤を境に左岸側と右岸側で水深が大きく異なっていることがわかる.このように横断方向で大きく地形が異なり,かつそ れが縦断方向に連続しているような河道地形を作成する場合,横断方向の補間だけでは なく,縦断方向の補間にも注意する必要がある.
仮に,横断測量データをそのまま用いて,等高線・三次元地形作成ソフトウェアで,
等間隔のグリッドに変換し地形を作成すると,図 2-3-11(a)のようになる.導流堤左 岸側水路は横断測量ライン間が過度に深く補間されている.逆に右岸側水路は横断測量 ライン間が過度に浅く補間されていることがわかる.
そこで本研究では,
iRIC
(International River Interface Cooperative)ソフトウェアを使用 し,河川測量データから格子を作成した.iRICは,「一般財団法人 北海道河川財団」が 開発した無償の計算ソフトであり,河川の流れ・河床変動解析ソフトウェアである.iRIC
を用いて,河川測量データを横断・縦断方向に補間することで,縦断方向に滑らかな地 形の変化を再現することができる.ここで,iRICによる格子作成方法について,簡単に述べる.格子作成は,各横断線の ほか,河川中心線(各河川横断線の中心点をつないだ曲線),左岸線(各河川横断線の左 岸端点をつないだ曲線),右岸線(各河川横断線の右岸端点をつないだ曲線)に分割点を 設定して,そこに格子点を配置する.河川測量データは
200 m
間隔の横断測量データ(H20)を用いた.また,格子サイズが
20 m×20 m
以下になるよう分割数を設定した.生成された格子データ(XYZデータ)を,等高線・三次元地形作成ソフトウェアであ
る
Surfer
を用いて,等間隔のグリッドに変換することにより,計算地形を作成した.また,導流堤頂部の標高は
T.P.0 m
であるため,それを手作業で修正した.上記の方法より作成した計算地形を図 2-3-11(b)に示す.iRICを用いずに作成した 計算地形(図 2-3-11(a))と比較してみると,
iRIC
を用いることで縦断方向に緩やかに 変化する河道地形を再現できている.以上より,導流堤が設置されている筑後川河道
0 km~6 km
については,iRICを併用 した方法で,横断測量データを横断・縦断方向に補間をし,生成された格子データを用 いて計算地形を作成した.26
図 2-3-9 導流堤位置図
図 2-3-10 横断河床図(H20 測量結果)
0 km
有明海
筑後川 5 km
0
6 km
導流堤
4.0 km
1.0 km
0 100
200 300
400 500
-5 0 5
標高
(T .P .m)
左岸からの距離(
m)
4.0 km
河床横断図0 100
200 300
400 500
600 700
800 -5
0 5
標高
(T .P .m)
左岸からの距離(
m)
1.0 km
河床横断図左岸 右岸
導流堤 導流堤
27
図 2-3-11 計算地形 平面河床コンター図
-6 -5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 T.P.m
2.0 km 3.0 km
4.0 km
1.0 km
2.0 km 3.0 km
4.0 km
1.0 km
横断測量ライン(b) iRICを用いて,縦断方向に補間をし 作成した計算地形
(a) 横断測量データをそのまま用いて
作成した計算地形
28
2-4 格子サイズの設定ここでは,計算地形の格子サイズの設定について記述する.
水平方向については,田井ら(2010)は,有明海および八代海で,格子サイズを一辺
10
秒(東西方向:約250 m,南北方向:約 310 m)として,東西・南北をそれぞれ約 80
分割している.また天野ら(2012)は,川幅が400~500 m
の菊池川河口部で50 m
格子 を採用して,川幅方向を8~10
分割している.鉛直方向については,梶原ら(2005)は,有明海で平均水深
30 m
まで,格子サイズを1 m~5 m
と変化させている.また,李ら(2013)は,有明海において鉛直方向を
40
層に分割し,格子幅は水深5 m
までを25 cm
の等間隔 とし,それ以深を不等間隔としている.筑後川の川幅は,河口で
1.5 km
程度あるが,7 km~8 km
の区間では100 m
程度と,大 きく変化する.本モデルの利点は,高解像度化したいコンテナとその解像度を指定・編 集するだけで,柔軟にLMR
を調整できるところにある.そこで,川幅方向を平均的に10
分割し,細部検討が必要な箇所では20
分割,最小でも5
分割になるように,河道内 の大部分を20 m
正方格子とし,地形が比較的単純な領域と澪筋の続く干潟は40 m
とし た.海域では,河口干潟から大浦港までを40 m~320 m
と変化させ,更に沖側開境界付近では
1280 m
の正方格子を用いた.また,沖側付近の計算地形は横断方向に水深一定とし,境界をまたいで生じる可能性のある水平循環渦の発生を抑制した.水平方向の格子 サイズ分割を図 2-4-1に示し,作成した地形データを図 2-4-2に示す.
鉛直方向に関して,筑後川は潮汐変動が
5~6 m
であり,干潟もあるため,鉛直的に地 形変化が激しい河川である.そこで,鉛直格子は,水深10 m
以浅でdz=0.25 m,水深 10
~15 mは
dz=1.0 m,水深 15 m
以深はdz=2.0~2.5 m
と変化させ,全53
層の非一様格子 とした(図 2-4-3).満潮時の総格子数は約1,284,000
セルである.29
図 2-4-1 水平方向の格子サイズ分割
(経度) (緯度)
40 m格子
20 m格子
40 m格子
160 m格子
320 m格子
640 m格子 1280 m格子
130.2 130.3 130.4
33.0 33.1 33.2 33.3
0 5 10 km
30
図 2-4-2(a) 18 km 地点~23 km 地点(筑後大堰)
40 m格子
-15 -12 -9 -6 -3 0 3
標高(
T.P.m
)31
図 2-4-2(b) 15 km 地点~19 km 地点(広川接続部,底固め堰)
40 m格子
20 m格子
40 m格子
-15 -12 -9 -6 -3 0 3
標高(
T.P.m)
32
図 2-4-2(c) 9 km 地点~15 km 地点
-15 -12 -9 -6 -3 0 3
標高(
T.P.m)
20 m
格子33
図 2-4-2(d) 5.6 km 地点~9 km 地点(分岐合流部)
-15 -12 -9 -6 -3 0 3
標高(
T.P.m
)20 m格子
34
図 2-4-2(e) 0 km~6 km 地点(早津江川分岐部)
-15 -12 -9 -6 -3 0 3
標高(T.P.m
)20 m
格子35
図 2-4-2(f) 筑後川河口干潟
-15 -12 -9 -6 -3 0 3
標高(
T.P.m)
40 m
格子20 m
格子36
図 2-4-2(g) 有明海
-15 -12 -9 -6 -3 0 3
標高(
T.P.m
)160 m格子
320 m格子
640 m格子
1280 m格子
37
図 2-4-3 鉛直方向の格子サイズ
0.25 m 5.0 m
1.0 m -7.5 m
4 m
標高-13.5 m
-15.5 m
2.0 m
-18 m
2.5 m
-23 m
5.0 m
-33 m
-53 m
10.0 m
-93 m
20.0 m
-163 m
海底30.0 m
40.0 m -123 m
満潮位
干潮位
-7.5-7 -6.5-6 -5.5-5 -4.5-4 -3.5-3 -2.5-2 -1.5-1 -0.50.51.52.53.501234
標高 ( T . P . m )
-25 -24 -23 -22 -21 -20 -19 -18 -17 -16 -15 -14 -13 -12 -11 -10 -9 -8 -7 -6 -5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4
標高 ( T . P . m )
-25 -24 -23 -22 -21 -20 -19 -18 -17 -16 -15 -14 -13 -12 -11 -10 -9 -8 -7 -6 -5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4
標高 ( T . P . m )
河口からの距離 (km)
-18 -15 -12 -9
-24 -20 -16 -12 -8 -4 0 4
標高 ( T . P . m )
-20 -15 -10
標高
4.0 m
-7.5 m
-12.5 m -14.5 m
0.25m
2.5m 1.0m
2.0m
dz
満潮位
干潮位
-17.0 m 3.0 m
-2.0 m
5.0 m
38
2-5 初期・境界条件の設定本研究では,2002年
9
月23
日から9
月24
に行われた塩分・流動調査結果(横山ら,2008)を参考にして,シミュレーションを行った.
計算期間は
2010
年9
月21
日22:00~9
月25
日0:00
(大潮)で,このうち9
月21
日22:00
~9月
23
日0:00
の約2
日間が助走期間であり,9月23
日0:00~9
月24
日24:00
の2
日 間が検証期間である.上流端境界は筑後大堰(23 km)であり,河川流量と塩分
0
を1
時間間隔で与えた.河川流量は
25.5 km
にある瀬の下で観測された時間流量を用いた.下流端境界は沖合20 km
の断面
A(図 2-5-1)であり,大浦港実測潮位と一定塩分(31.7)を鉛直一様に与えた.
下流端境界から与えた塩分は,
9
月23
日の満潮時に観測された沖合12 km
の最底層塩分 を参考に設定した.また,沖側境界に接する計算格子には,水平方向に人工粘性(10.0 m2/s)
を与え,境界をまたいで生じる可能性のある水平循環渦の発生を抑制した.底面摩擦係
数は
Cd=0.0026
とした.計算期間の境界条件として河川流量を図 2-5-2に,潮位を図 2-5-3に示す.
入力条件としての気象は,佐賀気象台で毎時計測された観測データ(風速・風向,気 温,湿度,短波放射,大気圧,降水量,雲量)を使用した(図 2-5-4).雲量は長波の方 程式に用いた.
計算領域の初期値として,水温は
25.0
℃で一様とした.塩分は大潮期に強混合型にな ることから,横山らの調査結果を参考に,満潮時の塩分分布を水平方向に与え,水深方 向には一様とした.39
図 2-5-1 設定境界の位置
図 2-5-2 河川流量データ
図 2-5-3 大浦港潮位データ
大浦港130.2 130.3 130.4
33.0 33.1 33.2 33.3
(緯度)
(経度)
筑後大堰
(23 km)
沖合20 km
助走期間 検証期間
0 100 200 300
河川流量
( m
3/s)
9/26 9/23
9/20
助走期間 検証期間
-3 -2 -1 0 1 2 3 4
潮位
( T .P .m )
9/26 9/23
9/20
40
図 2-5-4(a) 風速データ
図 2-5-4(b) 風向データ
図 2-5-4(c) 気温データ
図 2-5-4(d) 湿度データ 0
2 4 6 8
風速
( m/ s)
9/21 9/22 9/23 9/24 9/25
0 90 180 270 360
風向
(
度)
9/21 9/22 9/23 9/24 9/25
北
北 南 東 西
15 20 25 30
気温
(
℃)
9/21 9/22 9/23 9/24 9/25
0 20 40 60 80 100
湿度
( % )
9/21 9/22 9/23 9/24 9/25
41
図 2-5-4(e) 短波放射データ
図 2-5-4(f) 大気圧データ
図 2-5-4(g) 雨量データ
図 2-5-4(h) 雲量データ 0
200 400 600 800 1000
短波放射
( W /m
2)
9/21 9/22 9/23 9/24 9/25
1.00 1.01 1.02
大気圧
(
×10
5P a )
9/21 9/22 9/23 9/24 9/25
0 20 40 60 80
雨量
( m m )
9/21 9/22 9/23 9/24 9/25
降雨なし
0 2 4 6 8 10
雲量
9/21 9/22 9/23 9/24 9/25
42
2-6 精度検証用データの取得計算結果の精度検証に必要な実測データ(水位,塩分,流速)については,2002年
9
月23
日~9月24
日に行われた塩分・流動調査結果(横山ら,2008)を用いた.観測地 点を図 2-6-1に示す.塩分は移動観測によって測定された.観測範囲は筑後川16.0 km
地点~沖合12.0 km
である.移動観測では,作業船にD-GPS
と多目的水質計(アレック電子
ACL208-DK)を搭載し,約 1.5 km
ごとに設定した観測点において塩分の鉛直分布を計測した.作業船は
3
班を編制し,それぞれが8~10 km
区間を分担して,高速移動し ながら1
セットを45
分以内に7
地点,各日の日中に1.5
時間間隔で8
セットの計測を行 った.流速は河口から6.5 km
地点において,North製Aquadopp
を河床最深部に設置し,鉛直分布を計測した.また,水位は
3
地点(沖合7.5 km,河口から 1 km,16 km)にお
いて,水位計を用いて計測した.43
図 2-6-1 水位・塩分・流速の観測地点
有明海-12 km
筑 後 大 堰
早津江川 筑後川
5 km
0
広川
16 km
6.5 km
0 km
-7.5 km
130゜ 15′ 130゜ 20′ 130゜ 25′ 130゜ 30′
33゜05′
33゜ 10′
33゜ 15′
水質観測点
水位・流速観測点 水質・水位観測点
44
第三章 三次元シミュレーションの調節と精度検証
ここでは,本モデルを河口干潟,分岐合流,導流堤を有する筑後川感潮河道に適用す るための検討を行う.3-1では,三次元シミュレーションの調節として,急勾配地形適 用に関する検討(3-1-1)と初期塩分・水平拡散係数の設定(3-1-2)について記述した.
3-2
では,シミュレーションの精度検証として,水位・流速・塩分の実測値と比較し,計算の再現性について検討した.
3-1 三次元シミュレーションの調整
3-1-1 急勾配地形適用に関する検討
17.3 km
地点の床固め堰(図 3-1-1)については,堰形状をそのまま適用すると干潮時に射流が発生したり,段落ち部で水流が連続しなくなり計算が停止するため,急勾配地 形を緩勾配に修正した.ここで,修正地形サンプル
2
つ(sample-A,sample-B)を取り 上げ,急勾配地形適用に関する検討を行う.sample-A
の堰形状は中央最深部(澪筋)1セルをT.P.-0.6 m
とし,川岸方向に0.2 m
ずつ河床が高くなるよう設定した.これは流量を澪筋に集中させ,段落ち部での水流の連 続性を確保するためである.また,射流の発生を抑えるため,底固め堰の位置を
100 m
上流(17.4 km)に移動させ,約200 m
下流まで20 cm
ずつ水深を深くし,縦断勾配を緩 やかに設定した.ただし,このときに横断方向の台形形状が保たれるよう注意した.上 流方向についても,17.6 km横断測量ラインを参考に徐々に水深を深くした.sample-A の河床コンターと,堰の断面形状,また17.0~17.8 km
の縦断河床形状については図 3-1-2(a)~(c)に示す.
sample-A
を検証した結果,干潮時の射流の発生を抑えることができた.しかし,下げ潮時に水流が段落ち部で途切れてしまい,連続する流れの再現できなかった.これは下 げ潮時の水面勾配よりも,河床の縦断勾配が大きいことが原因として考えられる.その ため,sample-Bでは底固め堰の位置を更に
200 m
上流(17.6 km)に移動させ,約400 m
下流まで
10 cm
ずつ水深を深くし,さらに縦断勾配を緩やかになるよう設定した.さらに堰の断面形状については,澪筋セルを横断方向に
2
セルに増やし,澪筋と横断方向隣 接セルの標高差を約50 cm
設けることで,流量が澪筋に集中するようにした.また,上流は
17.6 km
横断測量ラインを参考に徐々に水深を深くした.sample-Bの河床コンター45
と,堰の断面形状,また
17.0~17.8 km
の縦断河床形状については図 3-1-3(a)~(c)に示す.
sample-B
を検証した結果,下げ潮時に水流が途切れることなく,下流に淡水が供給されていることを確認した.また,本研究の検証期間には堰上流での水位実測値がなかっ たため,実測値の存在する
2010
年9
月11
日~9月12
日(大潮)において,21 km地点(図 3-1-1)の水位で精度検証を行った.水位変動の実測値と計算値を図 3-1-4に示す.
精度検証の結果,計算結果は,上げ潮と下げ潮で水面変動が非対称になる実測の傾向 を再現できており,干潮時の水面標高も実測と同じく約
T.P.0.1 m
となっている.以上より,sample-Bは下流に河川流量を供給する堰を適切に再現できているため,こ れを計算地形に適用した.また,このような修正は,堰近傍の局所的な流動構造を変え るが,広域的な塩水遡上の状態に大きな影響を与えることはないと判断した.
図 3-1-1 17.3km 底固め堰 位置図・航空写真
-65000 -60000 -55000 -50000
15000 20000 25000 30000 35000
X
座標(m
)Y座標(m)
※ 写真は干潮時に撮影されたのものである
17.3 km
21.0 km
46
図 3-1-2(a) sample-A 河床標高図
図 3-1-2(b) sample-A 底固め断面形状(17.4 km)
図 3-1-2(c) sample-A 縦断形状(17.0 km~17.8 km)
17.3 km
17.0 km
17.4 km
17.6 km
底固め堰頂部
-8 -6 -4 -2 0 T.P.m
澪筋縦断ライン0 50
100 150
200 250
300 350
-2 400 -1
0 1 2 3 4
標高
(T .P .m)
左岸からの距離(
m
)17 17.1 17.2 17.3 17.4 17.5 17.6 17.7 17.8
-10 -5 0
標高
(T .P .m )
河口からの距離(
km
)47
図 3-1-3(a) sample-B 河床標高図
図 3-1-3(b) sample-B 底固め断面形状(17.6 km)
図 3-1-3(c) sample-B 縦断形状(17.0 km~17.8 km)
17.3 km
17.0 km
17.6 km
17.8 km
底固め堰頂部
-8 -6 -4 -2 0 T.P.m
澪筋縦断ライン0 50
100 150
200 250
300 350
-2 400 -1
0 1 2 3 4
標高
(T .P .m)
左岸からの距離(
m
)17 17.1 17.2 17.3 17.4 17.5 17.6 17.7 17.8
-10 -5 0
標高
(T .P .m)
河口からの距離(
km
)48
図 3-1-4 sample-B 水位精度検証(21.0 km)
-1 0 1 2 3 4
標高
(T .P .m)
9/11 0:00 12:00 9/12 0:00 12:00 9/13 0:00
実測値 計算値
49
3-1-2 初期塩分・水平乱流拡散係数の設定初期塩分の設定方法として,新谷・中山(2013)は網走川を海域塩分で満たして計算 を開始した.網走川は上流に汽水湖が連結されている.汽水湖に塩水が吸収されるため,
安定した塩分分布が形成される.しかし,筑後川には上流部に汽水湖が存在しないため,
この方法を用いると河道内上流に塩分が滞留してしまう可能性がある.一方で,Wang ら(2009)は,実測に基づいて感潮河道の初期塩分分布を設定し,塩分を精度良く再現 した.そこで本研究では,2002年
9
月23
日満潮時に観測された塩分を参考に,初期塩 分分布を水平方向に与えた.また,本研究の計算期間は大潮であり,筑後川は塩水遡上 が強混合型になるため,塩分は鉛直一様に設定した.初期塩分の平面分布を図 3-1-5に 示す.この計算ケースをCase1
とする.Case1
の計算を行い,水位と塩分を実測値と比較し,精度検証を行った.水位は河口から
0 km
と16 km
の2
地点で検証し,塩分は縦断分布にて検証を行った.図 3-1-6
に水位の結果を,図 3-1-7に塩分の結果を示す.水位についてみると,0 km地点では水面変 動は正弦波に近く,16 km地点では下げ潮の水面変動が非対称であり,干潮となる時間
は
0 km
と16 km
で2
時間ほど異なる.このような実測の特徴を計算でも再現できているため,本計算は水面変動を良好に再現できているといえる.しかし,塩分については実 測と計算で大きく異なる結果となった.満潮時には塩分
26
以上の塩水が,実測に比べ,より上流に遡上しており,干潮時には塩分
6~16
の塩水が河道内に残留している.この原 因について以下で検討する.計算開始
3
時間後の干潮時塩分分布(図 3-1-8)をみると,すでに河道内に塩分が残 留していることがわかる.この原因の1
つとして,初期塩分の設定方法に問題があった と考えられる.本シミュレーターは満潮時の海水位を初期水位として,全領域に一定の 水位を与えているが,実測値では,海水位(大浦港潮位)が満潮になるとき,感潮河道 上流部はまだ満潮位に達しておらず,この時点で感潮河道の水位の方が約0.3 m
高い(図3-1-9)
.また,その30
分後,感潮河道の水位も満潮に達するが,すでに海水位は低下し 始めているため,水位差は0.5 m
に拡大する.このように,実際には水面勾配がある状 態に対して,本計算は全領域一定の水位で計算を開始しているため,初期状態として満 潮時の塩分分布を与えると,感潮河道上流部の淡水量が少なく見積もられて,下げ潮時 に河道内の塩分を海域に十分押し戻せない可能性がある.また,水平方向の拡散係を
0.0 m
2/s
と設定したことも原因の1
つとして考えられる.図 3-1-10
には,上げ潮時の表層塩分の平面分布を示した.有明海から供給された塩水は 筑後川河道内へ浸入しているが,その塩水遡上の先端形状は鋭く,横断方向へはほとん50
ど拡散していない.そのため,高濃度の塩水が過剰に河道内へと浸入した可能性が考え られる.以上より,初期塩分と水平乱流拡散係数の設定について検討した.
初期塩分については,満潮時の塩分分布を参考にしつつ,実際には水面勾配がある状 態に対して,本計算は初期に水面を水平にセットしているので,それに見合うよう河道 内の初期塩分(塩分量)を調節している.例えば,河口
0 km
の塩分を28
から25
まで引 き下げている.調節後の初期塩分の平面分布を図 3-1-11に示す.また,水平乱流拡散係数については,蛍光染料を海面に瞬間投入して,その広がりの 実測から拡散計算を計算する方法がとられており,例えば,大井川河口では
1.0 m
2/s,矢
作川河口では0.2~3.0 m
2/s,大井川河口では 10.0 m
2/s
と実測値が求められている(松梨,1993)
.そこで,本研究では0.0 m
2/s, 1.0 m
2/s, 5.0 m
2/s, 10.0 m
2/s
の4
ケースを用意した.初期塩分分布
2
ケースと水平乱流拡散係数4
ケースを組み合わせた計16
ケースで計算 を行い,検証期間の縦断塩分分布を実測値と比較することで,最も再現性のよいケース を選定した.各計算ケースについて表 3-1-1にまとめる.それぞれの計算結果について,塩分縦断分布を実測値と比較し,精度を検証した.図
3-1-12(a)に満潮時の塩分縦断分布を示し,満潮時の実測塩分 26
と塩分6
の遡上位置 に破線を引いた.また図 3-1-12(b)には干潮時の塩分縦断分布を示し,満潮時の実測 塩分1
の位置に破線を引いた.まず満潮時の塩分分布(図 3-1-12(a))をみると,水平 乱流拡散係数が0.0 m
2/s
から1.0 m
2/s,5.0 m
2/s
と大きくなるにつれて塩水遡上距離が短 くなり,実測に近い値となっているが,水平乱流拡散係数が5.0 m
2/s
から10.0 m
2/s
の違 いはほとんど見られない.また,初期塩分の影響を確認するため,Case3
とCase7
を比較 すると,Case7の方が塩分26
の遡上距離が実測値と近くなっている.次に干潮時の塩分分布(図 3-1-12(b))をみると,満潮同様,水平乱流拡散係数が
0.0
m
2/s
から1.0 m
2/s,5.0 m
2/s
と大きくなるにつれて塩水遡上距離が短くなり,実測に近い値となっている.しかし,水平乱流拡散係数
5.0 m
2/s
と10.0 m
2/s(Case3
とCase4,もし
くはCase7
とCase8)で比較すると,わずかではあるが 10.0 m
2/s
(Case4もしくはCase8)
の方が干潮時の塩分
1
の位置が上流にあり,塩分が河道内に滞留していることがわかる.また,初期塩分の影響を確認するため,Case3と
Case7
を比較すると,Case7の塩分1
は 河口から約5 km
の位置であり,より実測に近い.このことから,初期塩分を調節するこ とで河道内塩分が海域へと流出するようすを,よりよく再現できていることがわかる.以上,検証の結果,満潮時の塩分分布を参考に初期塩分を調節し,水平乱流拡散係数
を
5.0 m
2/s
に設定することで,塩水`の遡上・後退運動をよりよく再現できていることが分かった.そこで,本研究ではこの