全有機炭素を考慮した残留塩素濃度予測モデル に関する研究
2009
年
3月
佐 藤 親 房
首 都 大 学 東 京
全有機炭素を考慮した残留塩素濃度予測モデルに関する研究
目 次
第1章 序論
第1節 水道水の塩素消毒‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 1 第2節 水道における残留塩素管理‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 3 第3節 本研究の目的と構成‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 5 参考文献‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 8
第2章 高度浄水処理の導入に伴う全有機炭素濃度の低減化と残留塩素濃度の 推移
第1節 緒言‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 9 第2節 東京都における高度浄水処理の導入‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 11 第3節 高度浄水処理施設の概要‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 33 第4節 高度浄水処理による効果‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 37 第5節 高度浄水処理稼働前後の浄水場浄水TOC及び残留塩素 ‥‥‥ 50 第6節 配水(給水栓)における全有機炭素濃度低減化と残留塩素‥‥ 53 第7節 結言‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 57 参考文献‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 59
第3章 全有機炭素を考慮した残留塩素減少に関する化学反応論モデル 第1節 緒言‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 61 第2節 残留塩素濃度減少速度係数‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 63 第3節 実験方法‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 67 第4節 実験結果と考察‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 70 第5節 結言‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 83 参考文献‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 84
第4章 送配水系統における実用的な残留塩素濃度予測式
第1節 緒言‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 87 第2節 実験方法‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 89 第3節 残留塩素濃度減少における速い反応成分に関する考察‥‥‥‥ 93 第4節 送配水過程における水中の残留塩素濃度減少予測の実用的
モデル‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 101 第5節 結言‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 109 参考文献‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 110
第5章 大口径送水管路における残留塩素濃度に関する調査結果
第1節 緒言‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 113 第2節 対象地域及び調査方法‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 115 第3節 残留塩素濃度減少速度モデルの推定‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 122 第4節 高度浄水処理を想定したシナリオ分析‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 129 第5節 結言‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 133
参考文献‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 135
第6章 結論
第1節 研究の成果‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 137 第2節 今後の課題‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 141
謝 辞‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 143
資料
資料1 金町浄水場、三郷浄水場、朝霞浄水場高度浄水処理施設の概要
資料2「全有機炭素を考慮した残留塩素減少に関する化学反応論モデル」実験 データ一覧
資料3「送配水系統における実用的な残留塩素濃度予測式」実験データ一覧
第1章 序論
第1節 水道水の塩素消毒
水道を供給する基本は安全な水を安定して供給することである。水道水の安 全性は様々な角度から検討され水道法を中心としてその管理の手法が規定され ている。特に、水道が水系伝染病の感染経路としての機能を絶つため、水道水 源が病原菌に汚染されたとしても、消毒により安全な水を供給することは最も 基本的なことである。図1.1に1880年(明治 10年代)以降の水系消化器系伝 染病患者数と水道普及率の推移を示した 1)。この図からも明らかなように、水 道普及率が50%を超えた1970年代(昭和45年前後)以降水系消化器系伝染病 の患者数が激減している。これは、飲料水による経口感染と手洗い等による生 活環境衛生の向上が水道の普及によってもたらされたと解することができる。
図1.1 水系消化器系伝染病患者数と水道普及率の推移
(金子光美編著「水道の病原微生物対策」丸善株式会社から引用)
この水系伝染病予防のため導入された塩素消毒は、多くの水系伝染病原菌の 消毒に有効である。近年、塩素消毒に耐性のあるクリプトスポリジウム等によ る感染症の事例も見られるが、コレラ等に代表される水系伝染病には非常に効 果的である。水道法22条には水道事業者に対して消毒その他衛生上必要な措置 を講ずることを義務づけており、施行規則において、給水栓における水道水が 遊離残留塩素濃度を0.1mg/L以上保持するよう義務づけられている。一方、水 道水の塩素消毒に伴い、水道原水中の不純物と塩素が反応することにより生ず
るいわゆるカルキ臭はおいしい水の観点から問題を起こしている。また、カル キ臭だけでなく塩素が様々な有機物と化合して生成する消毒副生成物のなかに は、健康影響上の観点から一定濃度以下にコントロールする必要のある物質が 含まれている。更に、塩素消毒は残留性があるため消毒効果が給水栓まで保持 されるという利点があるとともに、消毒副生成物の濃度が時間とともに上昇す るという欠点もある。すなわち、塩素消毒は利点と欠点の二面性を持っており、
水道事業者は確実な塩素消毒と合理的な残留塩素濃度管理を行うことによって、
利点を最大限に発揮し、欠点を最小限に抑える必要に迫られており、それ故、
塩素の注入管理や残留塩素濃度保持に関して十分な知識と経験を駆使して管理 に当たる必要がある。
第2節 水道における残留塩素管理
水道における水質管理は、原水中に含まれる水質成分を踏まえて、健康障害 防止や生活衛生維持に必要な水道水を得るために行われる浄水処理工程におけ る水質管理と水質の劣化防止や塩素の追加注入など送配水系統における水質管 理に大別される。水質管理においては、水系伝染病予防や重金属除去のために 行われる塩素注入と残留塩素濃度の管理は極めて重要である。浄水処理工程に おいて行われる塩素注入と残留塩素濃度の測定は浄水場における重要な管理点 である。塩素注入の管理は、通常は浄水場内に設置されている塩素要求量計等 のデータによるフィードフォワードによるコントロールと残留塩素濃度の自動 測定器による常時監視結果のフィードバックによるコントロールを組み合わせ て行っている。浄水場における塩素注入は、沈砂池出口や着水井で原水に直接 注 入 す る 前 塩 素 処 理 、 凝 集 沈 殿 池 出 口 や 生 物 活 性 炭(biological activated carbon:BAC)ろ過池出口で注入する中塩素処理、砂ろ過池、粒状活性炭(granular activated carbon:GAC)ろ過池及び緩速ろ過池出口で注入する後塩素処理に分類 される。これらの塩素注入は単独又は組み合わせて使用される。また、浄水場 内の主要地点に残留塩素濃度の自動測定器が設置されており、残留塩素濃度は きめ細かく把握され、これらのデータに基づいて塩素の注入管理が行われてい る。このようにシステムの整備、浄水処理に要する時間及び専任オペレーター の存在などから、浄水処理工程における残留塩素濃度の管理は比較的容易であ り、十分管理されていると言える。一方、送配水系統における残留塩素濃度の 管理は、送配水管が面的広がりを持つことや水量の変動が大きいこと、水を使 用するまでに要する時間が不均一で長時間も存在することなどから、非常に難 しく、経験的な判断によることが多い。配水管内の残留塩素濃度は、水温、水 質などの水質的要因及び流下時間等により減尐量が変わるとともに、管網の状 況、管径、管の種類により減尐量が影響される 2)。特に、大規模な水道施設に おいては上記の理由が複雑に絡み合い非常に複雑な構造になっている。東京都 水道局においては、送配水系統における水質管理を強化するために、平成4年 度から23区内を対象に自動水質計器を順次設置し、残留塩素濃度の常時監視を 実施しており、平成14年からは多摩地域を含めて給水区域全体で自動水質計器 による常時監視を実施している。自動水質計器の設置により、配水管末端の残
留塩素濃度はリアルタイムで管理拠点である水質センターや浄水場において把 握することが可能となった。しかし、浄水場出口から配水管末端までは地域に よって水道管内の流下時間が72時間にも及ぶこともあり、浄水場出口における 残留塩素濃度の決定を自動水質計器による残留塩素濃度測定結果から直接フィ ードバックすることは困難であり、これまでの経験を加味して推定し、浄水場 出口等における残留塩素濃度を決定しているのが現状である。
第3節 本研究の目的と構成
送配水系統における残留塩素濃度の管理を十分に行うためには、自動水質計 器による常時監視とともに、残留塩素濃度の減尐を科学的根拠に基づいて精度 良く推定することが重要である。その結果、浄水場出口における残留塩素濃度 の決定や給水所における塩素追加注入の制御を適切に行うことが出来る。すな わち、浄水場出口から配水管末端までに消費される残留塩素濃度を精度良く予 測することができれば、浄水場出口における残留塩素濃度を必要最小限に保つ ことが可能となり、配水管末端における残留塩素濃度も必要最小限となること から、配水区域全体の残留塩素濃度の低減化が可能となる。
このため、残留塩素濃度の予測についてはこれまで様々な研究が進められて きた。その結果、式(2-1)で示されるように残留塩素濃度は残留塩素の初期濃度 と経過時間との関係が明確にされた3)。
kt
C
C 0exp (2-1)
ここで、t:時間(h)、C:時間tにおける残留塩素濃度(mg/L)、C0:初期残 留塩素濃度(mg/L)、k:包括残留塩素濃度減尐速度係数(h-1)、である。
しかし、包括残留塩素濃度減尐係数kは、水質に関しては水温や水質成分な どの影響を受けて変化し、水道管に関しては管内面の材質や接触などに左右さ れる。従って、包括残留塩素濃度減尐係数は個々の水質や水道管網固有の値を とることから、過去の結果から予測を行おうとする場合非常に多くのケースを 想定する必要があり、必ずしも満足な予測結果が得られるとは限らなかった。
このため、包括残留塩素濃度減尐係数を水中における反応と水道管内面に起 因する反応など個々の要素に分けて取り扱う方法が用いられる 4)。この中で、
水中における反応は塩素注入直後から送配水末端までの全ての過程において進 行することから最も重要である。また、大規模な水道においては大口径の送配 水管による移送の時間が多いため、水量に対して管内面の接触面積が相対的に 小さくなることから、水中における反応が主要な部分を占めることとなる。
一方、原水の水質汚濁が進んでいる東京都水道局の利根川水系の浄水場にお いては、平成4年度から順次高度浄水処理の導入が進んでいる。高度浄水処理 の導入に伴い水道水中の有機物の量が減尐するとともに、残留塩素濃度の減尐
速度も遅くなってきていることが経験的に観察されている。また、配水管路も 内面ライニングが劣化した経年管の更新が進み、管内面に起因する残留塩素の 消費量も減尐している。特に、配水管のうち、送配水の機能を有する大口径配 水管においては残留塩素濃度の減尐は水質に起因する要素が大部分を占めると 考えられる。そこで、これらの点に着目して、水質に起因する残留塩素濃度の 減尐を、浄水場出口において常時測定されている水質項目から精度良く予測す るための予測式を化学反応論に基づいて導出し、実際の残留塩素濃度管理に活 用することを目的として研究を行った。
本研究は全6章で構成されており、各章の概要は以下のとおりである。
第1章は序論であり、本研究の背景と目的について述べ、論文の構成を示し ている。
第2章では東京都水道局における高度浄水処理の導入の背景と経過を述べる とともに、高度浄水処理導入による水道水の水質改善効果について解析した。
更に、高度浄水処理の導入後、配水系統における水質改善効果と残留塩素濃度 の減尐について解析した。特に、水道水中の全有機炭素(total organic carbon:TOC) と残留塩素濃度の減尐との関係について検討した。
第3 章では、水中における残留塩素濃度を予測するため、TOC濃度([TOC]) 及び水温に着目して水道水の残留塩素濃度減尐実験を行い、残留塩素濃度減尐 の反応メカニズムについて検討した。実験は浄水場における前塩素処理を前提 として、塩素注入後24時間後以降における残留塩素濃度の減尐について行って いる。そして、浄水場出口における[TOC]、水温、残留塩素濃度から任意の時 間経過後の残留塩素濃度予測式を提案し、検証した。
第4章では、浄水場における中塩素処理等を想定して、塩素添加直後からの 残留塩素濃度の減尐について、水源河川及び処理方式の異なる浄水場のろ過水 及び高度浄水処理水を用いて実験を行った。この結果と第3章で得られた予測 式から送配水過程における水中の残留塩素濃度の実用的な予測モデルについて 検討した。そして、第3章で得られたモデルの係数を、塩素注入から浄水場出 口の残留塩素濃度測定点までに要する時間を使用して補正することにより、中 間塩素処理や高度浄水処理における塩素注入点から浄水場出口の残留塩素濃度 測定点までの塩素接触時間に相当する、塩素添加後8時間以降についてモデル
の適用が可能であることが解った。
第5章では、大口径送水管路における残留塩素濃度の低減化可能性を検討す るため、東京都東南幹線における水質調査を実施し、測定されたデータに含ま れる時系列変動を検討した。第4章で得られた残留塩素濃度予測式と水道管に 由来する残留塩素濃度減尐を組み合わせることにより、残留塩素濃度減尐速度 のモデルを構築した。そして、得られたモデルを用いたシナリオ分析を行ない、
高度浄水処理の導入に伴う水道水質の向上における残留塩素消費の変化につい て検討し、高度浄水処理に伴う水質向上の効果が、残留塩素濃度低減化可能性 として定量的に把握できることを具体的に明らかにした。
第6章は結論であり、本研究で得られた知見をまとめるとともに、今後の課 題について記述した。
参考文献
1) 金子光美編著:水道の病原微生物対策、丸善株式会社、pp.2-3 (2006)
2) 日本水道協会:水道維持管理指針2006
3) 後藤圭司:配水管網における水質変化(Ⅲ)、水道協会雑誌、第571号、pp.51-65 (1982)
4) AWWA Research Fundation: Characteristics and modeling of chlorine decay in distribution systems、 USA: AWWA (1996)
第2章 高度浄水処理の導入に伴う全有機炭素濃度の低減化と残留塩素濃度の 推移
第1節 緒言
東京都水道局の水源は、高度経済成長の進展に伴い、昭和 38 年から昭和 60 年にかけて四次にわたる利根川系水道拡張事業によって、それまでの主流であ った多摩川水系から利根川水系へと大きく変化した。利根川水系は中流域にあ る利根大堰から武蔵水路と荒川を経由して取水地点に至る朝霞浄水場及び三園 浄水場並びに利根川の派川である江戸川から取水している金町浄水場及び三郷 浄水場がある。何れにおいても流域の人口増加や産業の発展に伴う排水の流入 により河川水質の汚濁が進行するとともに、大規模な河川水質事故も発生して いる。また、金町浄水場では水源である江戸川の取水点付近上流で流入する坂 川水系に起因するカビ臭原因物質の影響を受けて、水道水のカビ臭着臭被害が 発生した。カビ臭原因物質は主にジェオスミン(geosmin) と 2-メチルイソボル ネオール(2-methylisoborneol:2-MIB)が知られているが、生活排水等で汚濁した坂 川流域で異常増殖した微生物に起因する両物質が原因であった。カビ臭原因物 質は通常の凝集沈殿・急速ろ過による浄水処理では除去できないため、粉末活 性炭を使用して除去に努めたが、安定的にヒトが臭いを感じる閾値以下まで除 去することは困難であり、カビ臭が原因である水質苦情が継続した。カビ臭の 被害は金町浄水場に止まらず、その後利根川水系の各浄水場においても発生し ている。
このような河川汚濁に伴うカビ臭原因物質を含めた汚濁物質を安定的に除去 するため、オゾン及び粒状活性炭(GAC)を用いた高度浄水処理についての調 査実験を金町浄水場において昭和58年から開始した。その後、昭和59年から 実験プラントを建設して調査研究を進め、平成元年度から実施設の工事に着手 し、平成 4 年度に第一期工事(26 万 m3/日)が完成し、通水した。引き続き、第 二期工事(26万m3/日) を実施し、平成8年に通水した。現在、金町浄水場では 第三期工事が進められており、この工事が完成すると金町浄水場における浄水 処理は全量高度浄水処理となる。金町浄水場における高度浄水処理はカビ臭原 因物質を安定的にかつ非常に低濃度まで除去できるため、粉末活性炭処理を併
用する通常処理の浄水と混合(混合比 50%程度)しても、初期の目標であるカビ 臭はヒトが感じる濃度以下となるため高度浄水処理施設の稼働後は金町浄水場 の配水区域におけるカビ臭苦情は皆無となった。また、この時採用した生物活 性炭(BAC)処理(GACによる吸着とGAC表面に繁殖した微生物による生物 接触酸化によるハイブリッド処理)はカビ臭の除去だけでなく、いわゆるカル キ臭の原因となる原水中のアンモニア態窒素(NH4-N)の除去やトリハロメタン 生成能(trihalomethane formation potential:THMFP)の除去にも効果があり、その効 果が長期間継続するという特徴も証明された。このため、金町浄水場と同様に 原水の汚濁が進んでいる利根川系の浄水場すべてに高度浄水処理を導入するこ ととし、順次整備を進めている。これまでに、三郷浄水場(平成11 年)、朝霞 浄水場(平成16年)、三園浄水場(平成19年)において施設整備が進み、稼働 している。その結果、利根川系の配水量に占める高度浄水処理浄水量の割合は 平成 19 年度において、施設能力で約 40%、配水量で約 60%である。高度浄水 処理の導入に伴って、高度浄水処理を導入した各浄水場の浄水において[TOC]
が低下した。[TOC]は水道水の残留塩素濃度の減尐速度に関係すると考えられ るため、高度浄水処理導入に伴い、送配水系統における残留塩素濃度減尐速度 も遅くなることが予測されることから、高度浄水処理整備事業の伸展は送配水 系統における残留塩素濃度管理にも大きな影響を与える。そこで、これまでの 高度浄水処理施設整備に伴う、浄水の[TOC]変化を検証することにより、利根 川系全量高度浄水処理導入後の送配水系における水質管理に対して知見が得ら れると考えた。
本章では、東京都における高度浄水処理導入の基本的な考え方と期待される 効果の考え方を説明するため、高度浄水処理導入時点に遡って、実施した調査 研究を再度整理するとともに、高度浄水処理施設稼働後における高度浄水処理 施設の運転状況と高度浄水処理の効果、高度浄水処理導入に伴う給水栓水質の 変化について検討した。これらの検討を行うに当たっては、東京都水道局水質 年報を始め、種々の水道局内の報告書や資料のデータを用いた。資料の整理や 検討を行うに当たっては、[TOC]と残留塩素濃度について特に着目することと した。
第2節 東京都における高度浄水処理の導入 2.1水源河川の汚濁進行
東京都水道局の主な水源は利根川水系と多摩川水系である。このうち、利根 川水系の取水点は利根川の派川である江戸川と武蔵水路を経由して導水される 荒川にあり、いずれも河川の下流部に位置するため流域の都市化等の影響によ り水質の汚濁が進んでいる。そこで、主な取水地点における水質汚濁の指標で ある NH4-N や過マンガン酸カリウム消費量(KMnO4消費量)等の経年変化を 図2-1及び図2-2に示す。なお、KMnO4消費量の測定は水道法水質基準の改正 に伴い、平成16年度から全有機炭素(TOC)となったため、平成16年度以前の KMnO4消費量は平成16年度前後に重複して測定したKMnO4消費量とTOCと の相関関係からTOCに換算し、表示している。原水水質の換算に用いたKMnO4 消費量とTOCとの相関関係については図2-3に示した。また、金町浄水場原水 のカビ臭原因物質(2-MIB)の濃度の推移を図2-4に示した。
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7
1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 年度
原水 NH4-N (mg/L)
金町 三郷 朝霞 三園
図2-1 金町、三郷及び朝霞浄水場原水のNH4-N濃度の経年変化(1960-2007)
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3
1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 年度
原水 TOC (mg/L)
金町 三郷 朝霞
図2-2 金町、三郷及び朝霞浄水場原水の[TOC]の経年変化(1960-2007)
y = 0.1709x + 0.6687 R2 = 0.7615
0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0
0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 KMnO4消費量(mg/L)
TOC(mg/L)
図2-3 東京都主要浄水場原水におけるKMnO4消費量とTOCとの相関関係
(金町、三郷、朝霞、三園、境浄水場、2004.4~2006.1 n=110)
0 50 100 150 200 250 300 350 400 450 500
1984 1989 1994 1999 2004
年度
原水2-MIB最大値(ng/L)
図2-4 金町浄水場原水の2-MIB濃度の経年変化(1984-2007、年度最大値)
図 2-1及び図 2-2 からわかるように、利根川系浄水場の原水は近年浄化の傾 向は見られるものの、何れの浄水場の原水においても水道原水としては汚濁が 進んでいる。金町浄水場においてはカビ臭原因物質である2-MIBが1980年代 に高濃度で検出された。これは金町浄水場取水点の上流で流入する支川の坂川 等が生活排水等により汚濁が進み、その結果微生物が大量に増殖し、その微生 物が産生するカビ臭原因物質によるものである。近年は坂川流域における下水 道の整備や国土交通省が実施した流水保全事業(清流ルネッサンス)の効果に より濃度は著しく低下したものの、依然として継続しており、また、他の支川 からのカビ臭原因物質の流入もみられている。これらの汚濁に対して粉末活性 炭の注入により対応したが必ずしも十分に除去することができず、水道水への カビ臭による苦情等が多く寄せられた(図2-5)。
図2-5 金町浄水場カビ臭苦情件数の推移
2.2高度浄水処理施設導入の検討
金町浄水場において粉末活性炭処理ではカビ臭が十分に除去できないこと から 、 カビ臭を安定 的、効 果的に除去す ることを目的としたオゾン及び GAC(BAC)を用いた高度浄水処理を導入することを前提に、各種の実験を昭和 58年から実施した。実験は室内実験(昭和58年度)、モデルプラント実験(昭 和59年度から昭和63年度)及び実施設計のための特性実験を行った。この実 験結果はその後の高度浄水処理施設の建設の指針となるとともに、高度浄水処 理の効果を論じる上で貴重な情報を含んでいることから、東京都水道局に残さ れているこれらの実験結果と雑誌等に報告された内容を基に、主な内容と経過 について細述する。
(1) オゾン処理とBAC処理の組み合わせによる処理効果
GAC処理は前段で塩素処理を行いGACの吸着能のみに着目して処理する方 法と、塩素処理を行わずGACの吸着能とGACに着生する微生物による生物接 触酸化を併せて行うBAC処理が知られている。BACは生物接触酸化処理を伴 うため、GACの吸着能が再生されその有効期間が延長される可能性が高いこと、
いわゆるカルキ臭の原因となる原水中の NH4-N を酸化除去することができる などの利点を有している。一方、臭気原因物質の除去はオゾン処理と BAC 処
0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000
件数(件)
1972 74 76 78 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 年度
理の何れもがその能力を有している。そこで、オゾン処理、BAC処理について それぞれ単独と両者を組み合わせた場合の処理性について比較検討した。その 結果を図2-6に示した。
実験には急激な水質変動時における処理の安定性を知るために行った2-MIB の添加高負荷実験も含まれている。オゾン処理及び BAC 処理単独の場合には 水質項目によってそれぞれ十分な処理効果が得られなかった。すなわち、オゾ ン処理単独では有機物は酸化されるものの完全な分解までには至らない。一方、
BAC単独では有機物は物理的には吸着するが、生物の作用による酸化が十分に は進まないことが推察された。そこで、おのおのの欠点を補完し、長所がより 効率的に活用できる両者を組み合わせた処理を採用することとした。
なお、E260は波長260nmの紫外線吸光度で不飽和結合を有する有機物濃度 の指標である。また、THMFP及びE260は何れもある性質が共通する有機物合 計量の濃度指標であることから図2-6においては除去率として表現した。
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
2-MIB NH4-N THMFP E260 水質項目
除去率(%)
オゾン単独 BAC単独 オゾン+BAC
図2-6 オゾン単独、BAC単独及び両者を組み合わせたときの主な水質項目の
除去性(対沈殿水)
(2) 処理フローの選定
オゾン及び GAC の組み合わせによる高度浄水処理を導入するに当たって、
塩素の注入位置及び砂ろ過の位置を検討する必要がある。特に、GAC を BAC として有効に機能させるためにはこの検討は重要である。そこで、表 2-1 に 示すように3通りの処理フローを比較検討した。
表2-1 処理フローの選定
比較検討は、水温及び負荷の大きさによる処理性の観点から、2-MIB、NH4-N、
THMFP、E260 について、その他、溶存マンガン、流出生物について、また、
2-MIB高負荷時の処理性、処理の継続性について比較実験結果に基づき行った。
その結果、後段に塩素・砂ろ過を配することにより、微小動物の漏洩防止及び マンガン除去を期待したフロー1 が総合的に見て優れているため、選定した。
しかし、このフローは砂ろ過池の前にBAC処理を配することからBACへの濁 質負荷が大きいという欠点があり、このことへの対応を併せて考える必要があ る。
(3) オゾン注入率及び接触時間の検討
オゾン注入率は実験開始当初は1mg/Lの定率注入であったが、夏期に残留オ ゾンが検出されなくなった。オゾン処理を安定的に行うためには、原水水質に 応じたオゾン注入率を設定することが望ましく、そのためには残留オゾン濃度
フロー番号 処理フロー概念 処理フローの考え方
1
原水→凝集沈澱
←(オゾン) (中塩素・後凝集剤)(塩素) (凝集剤)
オゾン処理→BAC処理→砂ろ過→浄水
後段に塩素・砂ろ過を配することにより、微小動物の漏 洩防止並びにマンガン除去を期待した。砂ろ過の前段に BAC処理を配することからBACへの濁質負荷が大き い。
2
原水→凝集沈澱→砂ろ過
←(オゾン) (塩素) (前塩素・凝集剤)
オゾン処理→GAC処理→浄水
前段に塩素・砂ろ過を配することにより、GACへの濁 質負荷を小さくし、微小動物の漏洩防止及びマンガン除 去を期待した。活性炭がGAC(吸着)であることから有 効使用期間が短い。
3
原水→凝集沈澱→砂ろ過
←(オゾン) (塩素) (凝集剤)
オゾン処理→BAC処理→浄水
沈澱・砂ろ過の後段にオゾン・BAC処理を配すること により、活性炭の有効使用期間の延長とBACへの濁質 負荷を小さくすることを期待した。後段に砂ろ過がない ことから、微小動物及びマンガンの漏洩の恐れがある。
のフィードバックによる制御が適切である。一方、オゾン注入率はオゾン発生 器の容量などコストにも大いに関係する。そこで、オゾン注入率に関する実験 を行った。実験はモデルプラントによる連続的な実験と臭気原因物質を添加し て高負荷をかける実験を行った。その結果を図2-7及び図2-8に示す。
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4
84/7 84/11 85/3 85/7 85/11 86/3
年月
注入率(mg/L)
図2-7 実験期間中の月平均オゾン注入率の推移(1984/7~1986/6)
0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800
1 (1.9)
2 (2.1)
3 (2.0)
4 (2.0)
1 (4.1)
2 (4.2)
3 (4.1)
4 (5.0) 実験回数(回) (左:低注入率、右:高注入率)
カッコ内はオゾン注入率(mg/L)
2-MIB濃度(ng/L)
沈殿水 オゾン処理水 BAC処理水
図2-8 添加高負荷実験におけるオゾン処理水及びBAC処理水の2-MIB濃度
18
図2-7に示したオゾン注入率によってBACろ過搭からの2-MIB漏出は殆ど なく、図2-8 に示した高負荷実験でも BACろ過搭からの 2-MIB漏出濃度は目 標値を下まわっていた。これらの実験結果からオゾン注入率としては2~3mg/L、
オゾン処理後の滞留時間10分程度を確保することが、2-MIBの除去率を確保す る上で必要なことが解った。
(4) オゾン接触池水利特性の検討
オゾン接触池の設計諸言を求めるため、大規模実験槽を用いて接触池形状の 変化による混合・溶解特性把握を行った。実験は幅1m、有効水深6m、槽の長
さは0.3~3.6mの範囲で変化させて行った。オゾン接触池は同じ形状の複数の槽
で構成されるため、単一の槽の抽出モデルからシミュレーションで解析した。
オゾン溶解特性の把握は、定常の通水状態でオゾンを連続注入し、散気管の 間隔と接触槽の長さを変えて、溶存オゾン濃度分布と排オゾン濃度測定を行っ た。混合特性の把握は、電磁流速計で水深別縦横断方向の流速分布を測定する とともに、NaClをトレーサーとして濃度変化を測定した。槽内の混合モデルは、
槽長に応じて「バックフローを有する完全混合モデル」と「内部分割流モデル」
を設定し、シミュレーションによる解析を行った。このシミュレーション結果 とオゾン吸収率並びに施行性や維持管理の容易さを考慮して図 2-9のようなオ ゾン接触池の形状を決定した。
図2-9 オゾン接触池の形状(単位:mm)
4700 1000 4700 1000 4700
1000 7300
6000
流 入
流 出
溶 解 反 応 槽
溶 解 反 応 槽
溶 解 反 応 槽
滞 留 槽
滞 留 槽 散
気 管
4700 1000 4700 1000 4700
1000 7300
6000
流 入
流 出
溶 解 反 応 槽
溶 解 反 応 槽
溶 解 反 応 槽
滞 留 槽
滞 留 槽 散
気
管
(5) オゾン注入制御の検討
オゾンの最大注入率は3mg/Lとした。これは先に示したように、オゾン注入
率2~3mg/L程度で後段の BAC吸着処理との組み合わせにより、処理目標(処
理水の 2-MIB 濃度 20ng/L 以下)を十分満足できたことによる。これは高負荷
(2-MIB濃度1000ng/L)実験についても同様であった。また、注入率を3mg/L 以上にしても、除去効果に大きな変化が見られなかった。
処理実験において、接触時間約10分間に加え、流下時間としてBAC上面ま で20分程度で十分な処理効果が確認されており、それ以上の時間を設定しても 顕著な効果は見られなかった。そこで、実施設では接触時間12分間、滞留槽6 分間、配管及び渠とBAC上面までの水深における流下時間18分間とした。こ れは、実験結果に20%程度の余裕をもたせたものである。
散気方式は維持管理が容易で、設備費や運転経費の経済性を考慮して、ディ フューザ方式を採用し、ブロワの送気能力を考慮してオゾン接触池の水深は6m とした。
オゾン注入率の制御は、総オゾン発生量一定制御、注入率一定制御、排オゾ ン濃度によるフィードバック制御、溶存オゾン濃度によるフィードバック制御、
排オゾン濃度及び溶存オゾン濃度併用フィードバック制御の何れもが行えるよ うになっている。モデルプラント実験の結果と運転開始後の各制御方式の比較 検討結果から溶存オゾン濃度フィードバック方式を主体として運用している。
(6) GACの炭種選定
炭種を選定するため、ろ層厚(1.25m)、ろ過速度(150m/日)の同一条件で、石炭 系2種類とやしがら系1種類の計3種類の GAC について、カラム試験を実施
し、2-MIB、NH4-N、THMFPについて除去効果を比較した。その主な結果を表
2-2に示す。表2-2では、2-MIBは原水中の濃度が高かった8月、9月のデータ を、NH4-Nも同様に12月、1月のデータを、THMFPは全期間のデータを示し た。これらの結果を見ると、石炭系はほぼ同等の効果を示したが、やしがら系 はNH4-Nの除去率とTHMFPの除去率で劣っていた。
更に、BAC として使用した GAC を再生した場合の処理効果について BAC として21ヶ月間使用したGACを再生して新炭との性能評価を行った。再生炭
は初期の吸着性能は若干低下するが、BAC化後の能力には差は見られなかった。
表2-2 炭種による2-MIB、NH4-N、THMFPの除去効果の比較
試料 オゾン処理水 石炭系A 石炭系B やしがら系
60 最高 18 10 9 12
年 最低 0 0 0 0
8 平均 9.2 2.6 2.3 3.8
2-MIB 月 除去率(%) 71 65 59
(ng/L) 60 最高 70 24 14 14
年 最低 19 0 0 0
9 平均 30 10 6 8
月 除去率(%) 65 81 73
60 最高 1.00 0.59 0.61 0.82
年 最低 0.23 0.00 0.00 0.00
12 平均 0.49 0.11 0.11 0.27
NH4-N 月 除去率(%) 84 84 56
(mg/L) 61 最高 1.16 0.96 0.89 1.21
年 最低 0.35 0.00 0.00 0.19
1 平均 0.81 0.33 0.27 0.67
月 除去率(%) 62 70 19
59 平均 21 7 7 13
THMFP 年度 除去率(%) 69 68 42
(μ g/L) 60 平均 20 10 10 13
年度 除去率(%) 45 48 31
(7) BACろ過速度等の検討
ろ層厚、ろ過速度を検討するため、石炭系のGACを用いて、ろ層厚(0.6m、
1.25m、2.5m)及びろ過速度(150m/日、300m/日)を組み合わせたカラム試験を実 施し、2-MIB、NH4-N、THMFPについて除去効果を比較した。その主な結果を 表2-3に示す。表2-3では、2-MIBは原水中の濃度が高かった8月、9月のデー タを、NH4-Nも同様に12月、1月のデータを、THMFPは全期間のデータを示 した。これらの結果を見ると、2-MIBの除去率はカラムによる差は見られなか ったが、空間速度(SV)が5 / 時のカラム1及び4と10 / 時のカラム2及び3を 比べると、NH4-NとTHMFPの除去率では前者が優れていた。
表2-3 ろ過速度及びろ層厚別2-MIB、NH4-N、THMFP除去効果の比較
試料 オゾン処理水 カラム1 カラム2 カラム3 カラム4
ろ過速度(LV)(m/日) 300 300 150 150
炭層厚(m) 2.5 1.25 0.6 1.25
空間速度(SV)(1/hr) 5 10 10.5 5
60 最高 18 6 9 8 10
年 最低 0 0 0 0 0
8 平均 9.2 1.2 1.7 1.8 2.6
2-MIB 月 除去率(%) 80 91 86 71
(ng/L) 60 最高 70 26 28 25 24
年 最低 19 0 0 0
9 平均 30 8.3 12 10 10
月 除去率(%) 76 62 65 65
60 最高 1.00 0.62 0.75 0.84 0.59 年 最低 0.23 0.00 0.00 0.00 0.00 12 平均 0.49 0.12 0.24 0.29 0.11
NH4-N 月 除去率(%) 82 63 54 84
(mg/L) 61 最高 1.16 0.93 1.15 1.25 0.96
年 最低 0.35 0.00 0.08 0.17 0
1 平均 0.81 0.32 0.60 0.69 0.33
月 除去率(%) 64 29 17 62
59 平均 21 5 10 12 7
THMFP 年度 除去率(%) 77 54 44 69
(μ g/L) 60 平均 20 8 12 13 10
年度 除去率(%) 58 38 33 45
(8) BAC池洗浄特性の検討
選定されたフローでは沈殿水を砂ろ過なしでBACろ過を行うことから、BAC 池に濁質が沈積し目詰まりを起こす可能性が高く、頻繁に洗浄を行う必要があ ると考えられる。また、洗浄を確実に行うために、洗浄強度等 BAC 池の洗浄 特性を十分検討する必要がある。そこで、大規模な実証プラントを用い、BAC 吸着池の洗浄方式の選択、適正な洗浄速度、洗浄時間等の諸元を求める実験を 行った。この実験結果は採用した高度浄水処理において重要な知見であるため、
より詳しく記述する。
実験に用いた吸着池及びGACの諸元は次の通りである。
活性炭吸着池:ろ過面積 1.62m2/槽×2 槽、活性炭層厚 1.5m、処理水量 400m3/ 日×2槽(最大500m3/日×2槽)、接触時間8.6分、線速度(LV)250m/日、空間速 度(SV)5.7 / 時
GAC:石炭系、有効径1.2mm、均等係数1.3 洗浄方式:空気、水同時洗浄方式
空気洗浄は、空気の振動により炭層に捕捉された濁質を剥離させ、排出しや すくすることである。その洗浄強度は速度勾配(G値)で評価できると考えら れ、エネルギーの損失及び活性炭の流出と摩耗が問題とならない適正な洗浄強 度としなければならない。粒子群中で単位体積あたり消費される動力(P)は河村 の式で求めることができる。
P=nRTln(P1/P2)
ここで、P:空気による動力(J/sec)、n:空気量(mol/sec)、R:気体定数(8.314J/mol・ K)、T:空気温度(K)、P1:炭層下端での圧力(atm)、P2:水面での圧力(atm)であ る。
また、空気洗浄時の速度勾配(G値)は次式で与えられる。
G=(P/μV)0.5
ここで、G:速度勾配(sec-1)、μ:粘性係数(Pa・sec)、V:槽内容量(m3)である。
実験で得られた最適空気量は0.8m3/m2/minであるから、水温20℃、水深 3m の条件で、速度勾配Gを計算すると、G=340sec-1程度となり、洗浄強度はG=300
~400sec-1で十分であるといえる。
一方、空気洗浄時の水洗浄の目的は、炭層に多尐の流動性を与えておくこと である。従って、強度をあまり大きくする必要はなく、後段の水単独洗浄の半 分程度とした。空気・水同時洗浄後の水単独洗浄の目的は、空気洗浄によって 剥離した濁質の排出及び空気洗浄後に炭層内に残留している気泡の排出である。
水洗浄水量は活性炭が流出せず、濁質等を効率的に排出できるように決定する 必要がある。実験において得られた、逆洗水量と膨張率の関係及び水温20℃に 補正した計算値について図2-10に示した。洗浄排水濁度、洗浄時間等を考慮し て得られた最適逆洗水量は約0.8m3/m2/minであり、この時の膨張率は概ね30%
である。
0 10 20 30 40 50 60
0.4 0.6 0.8 1 1.2
水逆洗速度(m3/m2/min)
膨張率(%)
図2-10 逆洗水量と膨張率の関係の実測値及び計算値
洗浄排水排出特性について考えると、押出流れモデルのろ層から流出する濁 質量はその時のろ層が保有する濁質量と逆洗水量に比例する。すなわち、
dW/dt=-K・Ub・W
この式をW=W0となる初期条件で解くと W=W0・exp[-K・Ub(t-t0)]
となる。ここで、W:ろ材単位体積当たり保有する濁質量(kg/m3)、W0:洗浄前 にろ層単位体積当たり保有されている濁質量(kg/m3)、K:比例定数(min-1)、Ub:
逆洗水量(m3/m2/min)、t:経過時間(min)、t0:初期時間遅れ(min)とする。
いま、K=0.65 min-1 として、計算値と実験値(逆洗水量1.0及び0.6 m3/m2/min)
を比較したものを図2-11に示す。計算値は逆洗水量1.0m3/m2/minで計算した。
なお、実験における洗浄工程は、前段の空気洗浄の次に空気抜き行程があり、
水単独洗浄の初期においては洗浄排水濃度が安定しないため濃度は一定とした。
また、排出濁度で割って無次元化している。図2-11で、計算値と実測値は良く 一致しており、排出特性は十分に予測することができた。
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2
0 2 4 6 8 10 12 14
経過時間(min)
濁質残留割合
図2-11 洗浄排水濁度の時間変化
実験から求められた洗浄諸元は表 2-4のとおりであり、水温を考慮した場合 図2-12のように大きく変化するため、運用上は水温による補正に幅を持たせる 必要がある。ろ層の洗浄排水は最終残留濁質が問題となるので、抑留濁質の状 況によっては洗浄時間を変化することになる。平均的な原水水質で最適逆洗水 量以上であれば、累積逆洗水量によっても排水特性を求めることができる。
表2-4 最適な洗浄諸元(水温10~15℃)
洗浄速度 (m3/m2/min) 洗浄時間 (min)
①空気・水逆洗 同時洗浄
空気:0.6~0.8 水 :0.4
4 4
②空気抜き 水 :0.4 1
③水単独洗浄 水 :0.8 10
0 10 20 30 40 50 60
0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 1.1 水逆洗速度 (m3/m2/min)
膨張率 (%) 5℃
10℃
15℃
20℃
図2-12 水温と膨張率、水逆洗速度の関係
この実験の結果、水逆洗速度と膨張率との関係、空気洗浄強度などは、すで に文献(水道施設設計指針・解説)に発表された急速ろ過池における理論式と 概ね整合していることが分かった。また、押出流れモデルのろ層から流出する 濁質量は、ろ層が保有する濁質量と水逆洗速度に比例することが分かり、設計 に必要な特性は解明できた。この結果を用いた金町浄水場における逆流洗浄の パターンを図2-13に示した。
図2-13 金町浄水場における逆流洗浄のパターン
(9) BAC有効期間の検討
BACの有効期間を検討するため、原水→凝集・沈殿→オゾン処理→BAC→砂 ろ過のフローによる実験を5年間継続して行った。実験の諸元を表 2-5に、処 理工程ごとの水質及び除去率の平均値を表2-6及び表2-7に、BACによる対オ ゾン処理除去率の経年変化を表2-8に示す。
なお、表中のDOCは溶存有機炭素(dissolved organic carbon:TOCのうち溶解し ている有機炭素)である。
表2-5 実験の諸元
(L/G:気液比、SV:空筒速度)
表2-6 水質項目の5年間平均値
項目 単位 原水 沈殿水 オゾン処 生物活性
理水 炭処理水
DOC mg/L 1.98 1.54 1.56 1.22
UV260 -logT/50 0.140 0.100 0.051 0.039 THMFP μ g/L 36.3 24.9 18.6 12.3 KMnO4消費量 mg/L 6.5 3.6 2.8 1.7 MBAS mg/L 0.08 0.08 0.05 0.02
2-MIB ng/L 21.4 19.2 7.5 0.2
TON 22 20 - 0.1
(昭和59年7月~平成2年3月)
オゾン処理 生物活性炭処理
三段向流上下迂流式 ろ過筒 φ 0.2×2.5m 有効水深 5.2m 石炭系活性炭 接触時間 10min 層厚 1.25m 全滞留時間 27min 粒径(有効) 0.71mm L/G 8.8 処理水量 400L/h 処理水量 35m3/h ろ過速度 300m/日
接触時間 6min
SV 10/h
表2-7 水質項目の対原水除去率の5年間平均値(%)
項目 沈殿水 オゾン処 生物活性 処理計
理水 炭処理水
DOC 22.2 -1.0 22.2 43.4
UV260 26.4 36.7 9.0 72.1
THMFP 31.5 17.2 17.4 66.1
KMnO4消費量 44.1 12.7 16.8 73.1
MBAS -0.2 40.9 34.8 75.5
2-MIB 10.4 54.5 24.8 89.7
表2-8 BAC処理における対オゾン処理水除去率の経年変化(%)
項目 昭和59年 60年 61年 62年 63年
DOC 45.3 32.3 22.4 20.4 15.8
UV260 65.7 25.8 8.0 8.6 1.5
THMFP 54.2 38.5 27.1 24.0 23.6
KMnO4消費量 58.4 43.7 34.7 34.3 28.6
MBAS 69.5 75.5 33.0 20.5 37.7
2-MIB 90.6 82.8 70.1 68.9 78.1
TON 95.4 96.0 88.4 86.4 88.0
NH3-N 85.6 80.8 74.9 74.9 77.2
次に、BAC処理における2-MIBと DOCの濃度の経時変化の一部を図 2-14、 図2-15及び図2-16に示す。また、DOC除去率の推移と近似曲線(対数回帰)
を個々の値と年平均値を用いて図 2-17 及び図 2-18に示す。これらの解析に用 いたBACろ過筒の諸元を表2-9に示す。
表2-9 BACろ過筒の諸元
名称 1号筒 2号筒 4号筒
炭層厚(m) 2.5 1.25 1.25 ろ過速度(m/日) 300 300 150
接触時間(分) 12 6 12
SV(1/H) 5 10 5
(1号筒は2年間の運転)
0.000 0.020 0.040 0.060 0.080 0.100
84/6 84/12 85/6 85/12 86/6 86/12 87/6 87/12 年月
2-MIB濃度(μg/L)
原水 沈殿水 オゾン処理水 BAC処理水
図2-14 BAC処理における2-MIB濃度の推移
(BAC処理水は4号筒のデータを用いた。)
0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1
84/6 84/9 84/12 85/3 85/6 85/9 85/12 年月
2-MIB濃度(μg/L)
1号搭 2号搭 4号筒 オゾン処理水 沈殿水
図2-15 BAC処理筒別の処理後の2-MIB濃度の推移
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4
84/6 84/12 85/6 85/12 86/6 86/12 87/6 87/12 年月
DOC濃度(mg/L)
原水 沈殿水 オゾン処理水 BAC処理水
図2-16 BAC処理におけるDOC濃度の推移
y = -9.9432Ln(x) + 101.81 R2 = 0.5138
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90
0 200 400 600 800 1000 1200 1400 通水日数(日)
DOC除去率(対オゾン処理水%)
図2-17 BAC処理水のDOC除去率の推移
y = -13.836Ln(x) + 47.321 R2 = 0.9925
0 10 20 30 40 50 60 70
0 1 2 3 4
通水年数(年)
DOC除去率(対オゾン処理水%)
図2-18 BAC処理水のDOC除去率年平均値の推移
BACによる除去対象物質である2-MIBは図 2-14を見ると、4号筒の処理条 件ではBAC処理水からの 2-MIBの漏出はみられるものの概ね処理目標値をク リアーしている。そこで、BAC 処理水からの 2-MIB の漏出について尐し詳し い図 2-15 をみると、2号筒>4号筒>1号筒の順で 2-MIB の漏出が減ってお り、1号筒では2-MIBの実験期間中漏出は皆無であった。1号筒の実験は2年 間で終了しているが、BAC処理の安全性と安定性からは有力である。
次に、DOCについてみると、図 2-16 では DOC(BAC処理水ではほぼ TOC と同じ値)は通水開始6ヶ月頃までは概ね0.5mg/L前後で推移しているが、そ の後は徐々に濃度が上昇し、1mg/L前後で推移している。特に、冬季に高く、
夏季に低い傾向が見られる。これを DOC の除去率の推移としてグラフ化し、
対数近似曲線を求めると、
y = -9.9432Ln(x)+101.81 R2=0.5138 となり、一定の相関が見られる。
ここで、x:通水日数、y:DOC除去率、である。