B TOC C
log 1 log ・ 1
(4-6)
この式(4-6)を用いて、速い反応の影響が残存する経過時間について検討した。
ここでは、速い反応成分による残留塩素濃度の占める割合が全体の 5%程度で あれば、以降の残留塩素濃度の予測には大きな影響を与えないものと考え、
(r=0.05)となるtを計算した。これは、速い反応成分の残存量(残留塩素濃度)
が、遅い反応成分による残存量も含めた全残留塩素濃度の 5%となる時間であ り、この時点における残留塩素濃度は95%が遅い反応成分に由来していること になる。結果を表4-4に示す。
表 4-4 速い反応成分による残留塩素濃度減尐が全体の 5%となる時間の算出 結果(単位:h)
水温(℃) 通常処理 の平均
高度浄水処理
の平均 平均 最小 最大
10 5.07 3.54 4.10 0.88 10.26
20 3.34 4.35 3.99 1.58 8.03
30 2.44 8.17 6.09 1.53 11.25
全て 3.62 5.36 4.72 0.88 11.25
速い反応成分による残留塩素濃度減尐が全体の5%となる時間は、平均で4.7 時間であった。これは、浄水場において中間塩素処理を行ってから配水池の出 口までに経過する時間とほぼ同等と考えられた。しかし、算出結果の最大値は 11時間に達しており配水池出口以降においても、速い反応が無視できない場合 があることが分かった。
なお、表4-4の解析では、全体で高度浄水処理水 7種類、通常処理水等4種 類の計11種類である。
速い反応成分の影響について、より定量的な検討を行うため、速い反応成分 に由来する残留塩素濃度減尐を塩素添加後の経過時間ごとに比較して表 4-5 に 示した。すなわち、速い反応成分を収束時間ごとに3グループに分けて、並行 一次反応モデルを用いて、速い反応成分の経過時間ごとの残存量を推計し、表 に示した。全体の平均値では、速い反応成分が全体の5%となる時間が4.7時間 であったが、最大と最小の差が大きいことから、塩素添加後 4 時間後から 10 時間後までについて対象とし、5%となる時間が4時間以内の結果、4時間から 8時間までの結果、8時間を超える結果について区別して示した。
表4-5 速い反応成分の経過時間ごとの残留塩素濃度(単位:mg/L)
4 5 6 7 8 9 10
平均 0.045 0.035 0.028 0.023 0.019 0.015 0.013
4時間以内 0.014 0.009 0.006 0.004 0.002 0.002 0.001 4~8時間 0.059 0.046 0.036 0.028 0.022 0.018 0.014
8時間超 0.101 0.086 0.073 0.062 0.053 0.045 0.038
時間(h)
速い成分が全体の5%と なるまでの時間
上水試験方法2001年版16)によると、DPD法による吸光光度法の定量限界は
0.05~3mg/Lで、定量下限付近における測定精度のCV(変動係数)は約10%で
ある。従って、DPDによる測定結果の精度は高いが、通常残留塩素濃度の連続 測定に用いられる工業計器の残留塩素濃度の誤差範囲は指示値±0.025mg/L 程 度と考えられ、その誤差の幅は0.05mg/Lとなる。全ての平均で見た場合、速い 反応成分の残存濃度は、塩素添加後 4 時間で 0.05mg/L 未満となり、7 時間で
0.025mg/L 未満となることが分かった。つまり、全てのデータについてみた場
合、速い成分の残存濃度は、4時間で残留塩素濃度測定法の誤差範囲内となり、
7 時間で誤差範囲の半分に収まることから、配水池出口を塩素添加後 4 時間と 考えた場合、速い反応成分を無視して遅い反応成分のみの一次反応モデルとし て取り扱っても、ある程度の予測精度が確保できるものと考えられた。
また、最も影響が残存する8時間超のグループについては、塩素添加後8時 間で測定法上の誤差範囲と同等の残存濃度となった。このことから、影響が残 存する実験結果をも含めて考えた場合でも、塩素添加後8時間以降については、
遅い反応成分のみの一次反応モデルとして取り扱うことができるものと考えら れた。
第4節 送配水過程における水中の残留塩素濃度減少予測の実用的モデル 4.1 化学反応論モデルの適用に関する検討
ここまでの検討から、塩素添加後4時間もしくは8時間以降については、残 留塩素濃度の減尐は遅い反応成分のみとして取り扱えるものと考えられた。こ の場合、式(4-3)においてz =0となることから、kb=ksとなり、残留塩素濃度の減 尐は式(4-1)に示した一次モデルと同じとなり、水質に起因する残留塩素濃度減 尐速度係数kbは式(4-4)によって水温、TOC濃度及び初期残留塩素濃度から予測 可能となると考えられる。
そこで、既報における残留塩素濃度減尐速度係数の予測式(式(4-4))の適合 性について検討した。
本実験においては、測定時間は塩素添加後4時間と8時間としている。式(4-4) を用いる場合、起点時間における初期濃度が必要なため、起点時間を4時間と 8 時間とした。これは、実際の水質管理においても、送配水過程において残留 塩素濃度を予測しようとする場合、実測値である配水池出口の残留塩素濃度を 用いることができるからである。塩素添加4時間後または8時間後を残留塩素 濃度減尐の起点として、それ以降の経過時間の残留塩素濃度を用い、一次モデ ルとしてC0及びkbを求めた。これによって得られたkbと式(4-4)を用いてTOC 濃度、水温及び初期残留塩素濃度から予測した残留塩素濃度減尐速度係数とを 比較して図 4-7及び図 4-8 に示した。なお、これ以降の検討においては、原水 水質及び浄水処理方式の影響についても考慮するため、多摩川水系の境浄水場 の緩速ろ過水についても同様の実験を行い、その結果も含めて検討を行った。
0.000 0.005 0.010 0.015 0.020
0.000 0.005 0.010 0.015 0.020
残留塩素濃度減少速度係数実測値(h-1) 残留塩素濃度減少速度係数予測値(h-1 )
図4-7 塩素添加4時間後を起点とした場合 (n=42)
0.000 0.005 0.010 0.015 0.020
0.000 0.005 0.010 0.015 0.020
残留塩素濃度減少速度係数実測値(h-1) 残留塩素濃度減少速度係数予測値(h-1 )
図4-8 塩素添加8時間後を起点とした場合 (n=42)
塩素添加4時間後を起点とした場合及び8時間後を起点とした場合の両者に おいて、予測値と実測値との間には正の相関が見られたが、予測値と実測値は 乖離していた。このため、塩素添加4時間後または8時間後からの残留塩素濃
度の減尐を式(4-4)から直接予測できないことが分かった。
しかし、4 時間後及び 8 時間後を起点とした場合における予測値と実測値の 相関係数はそれぞれ0.979、0.983と極めて高かった。
式(4-4)にはC0が含まれており、起点となる時間(起点時間)を変化させた場 合には、初期残留塩素濃度 C0が変化する。一方、遅い反応の反応速度定数は、
起点時間とは独立に決まる。そのため、起点時間を変えた場合には、C0が変化 するために式(4-4)での予測値が実測値と乖離するものと考えられた。今回の実 験から、起点時間が 24 時間より短くなると、式(4-4)の定数 Bが大きくなる傾 向が見られたが、このことにより予測値が実測値より小さくなったものと考え られる。
4.2 化学反応論モデルの起点時間に関する検討
化学反応論モデル(式(4-4))は、Arrhenius式を基にしており、係数のひとつ である活性化エネルギーEaは、化学反応論においては反応速度の温度依存性を 示す。残留塩素濃度減尐速度係数の温度依存性は、起点時間とは独立であるこ とから、起点時間を変化させた場合に変化する係数はBであると考えられる。
予測式は実用上、中間塩素等の浄水場における浄水場出口の残留塩素濃度か らその後の残留塩素濃度を予測するためには、起点時間を塩素8時間程度まで とする必要がある。従って、起点時間と係数 B について検討することにより、
式(4-4)の実用性を高めることができる。そこで、起点時間の変化が、係数Bに 及ぼす影響について検討するため、起点時間を4時間、8時間、11時間、24時 間とした場合について、実験結果を基に残留塩素濃度減尐速度係数ks(=kb)を 算出した。得られた各条件におけるksと、水温、TOC濃度及びそれぞれの条件 における初期残留塩素濃度C0を用いて、式(4-4)から、Ea=3.9×104(J/mol)にお けるBを算出した。算出結果を起点時間と比較してに図4-9示す。なお、図4-9 には、第3章におけるBの値(起点時間24時間における係数B=45,500)も記 載した。
30000 40000 50000 60000 70000 80000
0 5 10 15 20 25 30
起点時間 tB(h)
式(3)の係数B(h-1 )
図4-9 起点時間と係数Bの関係
係数Bは、起点時間が4時間の場合に最も大きく、起点時間が大きくなるに つれて減尐した。
ここで、残留塩素濃度の速い減尐反応が無視できる場合、式(4-3)におけるC0 の減尐は一次反応モデル(式(4-1))で表すことができる。一方、残留塩素濃度 減尐速度係数ksは起点時間とは関係なく一定である。そのため、起点時間に伴 う係数 B の変化は、一次反応モデルで表すことができるはずである。そこで、
起点時間に対するBの変化を一次反応モデル(次式)で表せると仮定した。
k
Bt
B
B
B
0exp
(4-7) ここで、tB:起点時間(h)、B0及びkBは定数である。
起点時間tBとBの関係について、式(4-7)による非線形回帰分析を行った結果 を、図4-10に示した。
30000 40000 50000 60000 70000 80000
0 5 10 15 20 25 30
起点時間 tB(h)
式(4-3)の係数B(h-1 )
実測値 起点時間 : 4時間 起点時間 : 8時間
B = 7.39×104・exp(-2.12×10-2×tB) R2 = 0.958
B = 6.90×104・exp(-1.85×10-2×tB) R2 = 0.983
図4-10 起点時間tBと係数Bの関係における式(4-7)による回帰分析結果
式(4-7)は実測値から得られたBと概ね良く一致し、回帰分析における決定係
数は0.958と高かった。
しかし、tBが4時間から11時間の範囲では、回帰分析結果と実測値はあまり よく一致しなかった。これは、第3節で述べたように、起点時間tBが4時間に おいては速い反応成分がある程度残存しており、無視できないためと考えられ た。
そこで、速い反応成分が無視できると考えられた8時間以降について再度回 帰分析を行った結果を図4-10に示した。起点時間tBが8時間以降では、式(4-7) による回帰分析の決定係数は0.983と、実測値と非常に高い一致を示した。
以上から、残留塩素濃度減尐の速い反応が無視できる塩素添加後8時間以降 において、化学反応論モデル(式(4-4))を任意の起点時間tBにおいて適用する ための係数Bに関する補正式(式(4-8))が得られた。
tB
B 6 . 90 10
4exp 1 . 85 10
2(4-8)
塩素添加後の全ての経過時間の範囲における残留塩素濃度の挙動は、本章第
3節で述べたように速い反応成分の影響を考慮する必要がある。しかし、送配 水過程における残留塩素濃度減尐の観点からは、塩素添加後8時間以降におけ る式(4-4)及び式(4-8)による残留塩素濃度の推計についても、十分に実用に耐え うるものであると考えられる。
4.3 式(4-4)及び式(4-8)による残留塩素濃度の予測精度についての検討
以上の検討で得られた残留塩素濃度減尐予測の実用的モデル(式(4-4)及び式 (4-8))の予測精度について検討した。
実用的モデルが対象とする経過時間の範囲において、速い反応成分の影響が 最も大きい、起点時間=8時間の場合について、式(4-8)からBを算出し、水温、
TOC濃度及び初期残留塩素濃度から残留塩素濃度減尐速度係数 ksを予測した。
予測値と実測値を比較して図4-11に示す。
0.000 0.005 0.010 0.015 0.020
0.000 0.005 0.010 0.015 0.020
残留塩素濃度減少速度係数実測値(h-1) 残留塩素濃度減少速度係数予測値(h-1 )
図4-11 残留塩素濃度減尐速度係数の予測値と実測値の比較(起点時間=8時間
後)(n=42、R2=0.966)
残留塩素濃度減尐速度係数の予測値と実測値はよく一致し、決定係数は0.966 と高かった。この結果から、式(4-8)を用いることにより、残留塩素濃度減尐速 度係数を精度よく予測できることが確かめられた。