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活動型授業における教師の振り返りと授業改善

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Academic year: 2021

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(1)

要 旨

 筆者らが所属する大学には、交換留学生を対象とした初級日本語クラスがある。このク ラスでは、テキストを用いた学習だけでなく、教室外で生の日本に触れ、日本語を実際に 運用する時間を週2コマ設けている。この活動型授業の改善を目指し、実践者1名とティー ムティーチングを行っている共同研究者2名によってアクション・リサーチを行った。ま ず、活動型授業の内容を紹介し、授業を進めていく中で、どのような問題が生じ、実践者が それをどのように振り返って対処していったかの過程を示した。次に、共同研究者が実践 者に対してインタビューを行い、分析するとともに、授業記録、ワークシート等の複数の データを分析した。それにより、実践者の授業観や学習者に対する規範意識がポートフォ リオの作成や評価に影響していたこと、ポートフォリオ作成に問題が出た原因が明らかと なった。

 

【キーワード】

 教室外活動、振り返り、ポートフォリオ、初級、アクション・リサーチ

1.はじめに

 私たち1)が所属する大学には、日本語初級クラスが3レベルあり、私たちは、その中では 最も高いレベル日本語C(仮名)2)を担当し、履修者情報を共有している。日本語Cは、1学 期15週、週6コマ(1コマ90分)あり、4技能の向上を目指す主教材中心の4コマ(鈴木、松 本が2コマずつ担当)と、週1回2コマ続きで活動型授業を行うコマ(以下「活動コマ」で、

久保田が授業設計・実施を担当)がある3)。今回の研究ではそのうち、学習した日本語を教 室外で実際に使用する活動を行っている活動コマを対象とする。

 本研究の目的は、活動コマの授業改善を目指すことである。活動コマは、日本語で生活 上の課題を遂行する能力の向上、既習の言語知識の運用練習、社会文化的知識の獲得を通 し、履修者が自律的な学習者となることを目指している。しかし、教室外活動に関して、履 修者からは「楽しかった」という声は聞かれるものの、学びが意識されているようには見 えなかった。能動的に学ぼうとし、何を学んだかを意識するためには、私は活動コマをど

―実践報告―

活動型授業における教師の振り返りと授業改善

―初級日本語クラスでの実践をもとに―

久保田 美映・鈴木 理子・松本 順子

1)

本稿では、横溝(2005)に従い、筆者ら3名を「私たち」とする。そのうち、実践者(久保田)を「私」、

それ以外の2名(鈴木・松本)を「共同研究者」とする。

2)

主に欧米の大学からの短期交換留学生(半年ないし1年在学)で構成される。2014年度春学期は12 名であった。

3)

2014年度春学期の場合。コマの担当教師は学期によって異なる。

(2)

のように進め、どう改善すればよいのだろうか。この疑問が本研究の出発点となった。

 本稿では、内省しながら進めていく課題探求型アクション・リサーチの手法(横溝2005)

で探る。

2.先行研究

2-1 アクション・リサーチ

 アクション・リサーチは、20世紀に入ってから教育分野において研究方法の一つとして 用いられるようになった(Burns 1999)。Burns(1999)は様々な研究者が述べているアク ション・リサーチの定義をまとめており、その共通点として、1) 文脈があり小規模である、

2) 評価し振り返る、3) 協同作業である、4) 次の実践に生かす、の4つを挙げている。また、

Schön(1987)は、アクション・リサーチという語こそ使用していないが、職業で必要とな る技術の習得においてreflection-in-actionを重要視している。いずれもreflection(振り返 り、内省、省察)が重要なキーワードである。

 日本語教育においては、横溝(2000b)が、アクション・リサーチを「自分の教室内外の 問題及び関心事について、教師自身が理解を深め実践を改善する目的で実施される、シス テマティックな調査研究」と定義し、 その特徴として、以下を挙げている(前掲:17-19)。

 (1)状況密着型である(小規模であることが多い)

 (2)(授業を行なっている)本人が行なうものである

 (3)状況の改善・変革すなわち教育の質の向上を目標に行なうものである  (4)協働的でありうる

 (5)起こした変化によって他の人が影響を受けるものである  (6)自分の教室を越えた一般化を直接的に目指すものではない  (7)柔軟性があり取り組みやすく現場の教師向きである  (8)システマティックである

 (9)評価的であり内省的である

 横溝(2005:16)は、課題探求型アクション・リサーチについて、「「仮説」の設定は行な わず、「あるテーマをめぐって実施者の気づきが様々な観点から生じ、最終的には、そのテー マと教師である自分自身に対する理解が深まる」というプロセスで進められる。」としてい る。日本語Cの活動コマの授業改善は、実践者である活動コマ担当者と、実践には直接関 わらないが同じ日本語Cを担当する2名が共通して目指すものであり、アクション・リサー チがその手段として適していると考えた。

 大学で行われた授業を対象としたアクション・リサーチには、ポートフォリオ評価に関 しては横溝(2000a)があるものの、教室外活動を含む活動型授業を扱ったものは、管見の 限り、見当たらない。

2-2 教室外活動の実践例

 活動コマは、教室外活動と履修者によるその事前準備、事後の振り返りを中心として

(3)

構成されている。教室外活動の実践を扱った先行研究には、マスデン(1998)、熊野・石井

(2010)等があり、自己評価の方法に関しては参考になるが、対象としている学習者の留学 目的や日本語学習のニーズは本研究と異なる。また、青柳・山本(2006)は、初級レベルを 含む短期の大学留学生を対象として授業時間内に教室外活動を行ったが、学習者による振 り返りを重視したものではない。

 

2-3 教育現場におけるポートフォリオ

 ポートフォリオは、学校教育現場で2000年代より盛んに取り入れられるようになった。

日本語教育分野に限っても、横溝(2000c)(代替的評価法としてのポートフォリオを紹介)、

川村(2005)(作文クラスにおける学習者の自己評価に使用)、澤・後藤・渡辺・山上(2011)

(自主的教室外活動における目標設定と自己評価に使用)等が報告されている。ポートフォ リオの形は一つではなく、西岡(2003:67)は、「基準準拠型ポートフォリオ」(教育する側 が評価基準をあらかじめ設定する)、「最良作品集ポートフォリオ」(学習者が自分にとって 重要な作品を自由に選ぶ)、「基準創出型ポートフォリオ」(教師と学習者が相互交渉によっ てどの作品を残していくかを決める)の3種類に分類している。

 

3.活動コマの実践

3-1 2013年度までの実践の見直し

 これまでの活動コマの学期末履修者アンケートでは、「The Friday class activities were fun.」「授業中の活動は、料理や江戸川公園(筆者注:江戸時代の古民家)などおもし ろかったと思います。」等の記述があった。楽しかったという声がよく聞かれていたものの、

教室外活動を学習ではなく小旅行やイベントだと捉える学習者も見られた。そこで、私は 前述の先行研究、及び国際交流基金(2010)を参照しつつ、活動コマを見直した。2014年 度は、楽しいだけではなく、生の日本に触れることで活動の意義を考え、学びを意識し、そ こで感じたことを学習に反映していけるよう、can-doリスト4)とポートフォリオ作成を導 入することとした。

 また、活動コマの内容は、2013年度までは活動コマ担当者がすべて決めていた。しかし、

日本語Cの授業担当者とのミーティングで、活動コマで、目的もなく出席する受け身の姿 勢や、活動の意義を考えていないと思われる履修者がいることが問題視されていた。そこ で、私は履修者が活動の選択・決定に一部関与できるよう変更した。それにより、活動コマ における学習や意味を考える時間を作ることを目指した。

 

3-2 2014年度春学期実践の記述に使用したデータ

 データは、横溝(2000b)、跡部(2011)、紙矢・三代(2013)を参考にし、以下の6点とした。

 1.教案

4)

一つ一つの活動について主に実践者が作成した。

(4)

 2.ワークシート  3.can-doリスト  4.ティーチング・ログ  5.日本語C全体の授業記録

 6.ポートフォリオ(履修者が作成)

 

 私たちと履修者は評価するものとされるものの関係にあるため、研究倫理を考慮し、履 修者に対する研究協力依頼に対する回答は、当該授業の成績が確定した後に得た。そのた め、研究のための授業の録音・録画は行わなかった。

3-3 2014年度春学期の活動コマの内容

 2014年春学期で本研究にかかわる教室外活動の内容は、キャンパスツアー、祭り見物、

レストラン、江戸時代の古民家見学、地域の国際交流センター訪問の5つである。学期を通 じて、学校生活で必要な身近な活動→実生活で必要な活動→抽象的なことや視野が広がる ような活動とゆるやかに段階を経ている。

 一つ一つの活動は、活動の準備→活動→振り返りの流れで行われた(表1)。詳しくは鈴 木・久保田(2015)を参考にされたい。

 

表1 一つの活動の流れ

① 事前のcan-doリスト 現時点で自身ができることとできないことは何かを把握する

② ワークシート 教師の作成した活動準備のワークシートを教室で使用する

③ 活動 実際の活動を行う

④ ワークシート 教室または宿題でワークシートの振り返りの部分を記入する

⑤ 事後のcan-doリスト 現時点で自身ができることとできないことは何かを把握する

3-4 実践の記述と気づき

 以下に、実践上の主だった気づきについて記述する。

【第1週】

 3-1の見直しをうけ、履修者がグループで活動内容を3つ考え、その活動を選んだ理由や そこでの学びをプレゼンテーションする時間を作った。初めは登山や宴会等、実現しにく い案が挙がった。そこで、私から過去の活動例をいくつか提示したところ、レストランの メニューを読むのがいつも難しいので練習したいという声が出てきた。その結果、レスト ランと祭り見物の活動が採用となった。この時間に私は何度も「これは何の勉強か」「これ は活動コマですることか」と問いかけた。履修者にとって学びを考えるのは難しく、得ら れる学びについてのアイディアは少なかったが、履修者が活動コマの意義を考える機会に なった。

(5)

【第4週】

 祭り見物の事前のcan-doリストでは、「売っている人に品物の値段をたずね、答えを聞 いて理解する」「一人でバスに乗れる」等15の学習項目があった。祭り見物後のワークシー トの記述には、祭りの楽しさに言及したものは多く見られたが、具体的な学びに触れたも のはなかった。以下にキャシー(仮名)の記述を引用する。

こいのぼりまつりはとてもおもしろかったです。たくさんこいのぼりがありました。

多色のこいのぼりがありました。とてもきれいでした。たくさんや台がありました。

まつりの食べ物とおもちゃとかめんを売っていました。私はやきそばとやきとりと チョヨバナナを買いました。とてもおいしかったです。楽しかったです。(原文ママ)

 また、ティーチング・ログによると、キャシーはバスの整理券の存在を知らず、現金を払 いすぎて後で運転手に指摘される様子が記録されていた。私は、キャシーはこの活動でバ スの乗り方を学んだと考えていたが、ワークシートには、バスの乗り方に関する記述は見 当たらなかった。

【第5週】

 このころから、学習者の中にはシート管理が乱雑な様子が観察されるようになってきた。

そこで、学期末に提出するポートフォリオの進捗状況を確認したところ、シート類の紛失 や、ポートフォリオ作成自体を忘れている履修者が数名いることがわかった。この週は、

これまでの活動における学びを確認する予定であったが、そうした履修者への対応に終始 することとなった。結果的に、学びを振り返ったり、今後の活動を考えたりするところま では至らず、教案とは異なる活動となった。私は、履修者のシート類の管理の方法を見直 したほうがいいと思ったものの、やはりシート類は履修者自身が管理するべきだと判断し、

自主管理に任せることにした。

 

【第6週・8週・9週】

 これまでのcan-doリストに関して、ほとんどの履修者は真面目に取り組んでいたもの の、一部の履修者は機械的にチェックをしているような印象を持った。

 そこで、国際交流基金(2010)『JF 日本語教育スタンダード2010』第二版を再度参照し、

目標設定の方法について再検討したうえで、私はレストランの活動において、事前の目標 の意識づけと振り返りの方法を工夫することにした。食べ物の嗜好、レストランへ行った 経験等から、現在、履修者一人一人ができることや困っていることは異なるだろう。その ため、can-doリストの代わりに、現在の自分自身に引き付けたそれぞれの目標を書く形に 変更した。事後にはそれがどうだったかを考える箇所を設け、履修者同士で自身の目標を 振り返り、この活動で得たことは何かを共有する時間をとった。

 以下は、キャシーとマリア(仮名)の事前の目標と事後の振り返りの記述の一部である。

(6)

キャシーの事前の目標

 私の目標はレストランの言葉がわかりました。

キャシーの事後の振り返り

店買と話なしました。店買と話なしてみる。ちょっと店買と話なしました。少ない 言葉をならった。(原文ママ)

 キャシーはレストラン特有の言葉を聞いてわかることを目標に挙げた。事前に店員がよ く使う敬語を学習したところ、店員と話してみて、いくつかの言葉を知ったことなどを述 べている。

 

マリアの事前の目標

 違う食べものをもらったらなおすことができます。

マリアの事後の振り返り

たぶんできます。私の気が小さいです。レストランの人は意味わかります。じしん をときました。(原文ママ)

 マリアは以前、注文と異なる食事が提供されたことがあるが、今回のレストランの活動 では、注文したものは正しく出てきたため、目標を達成する機会はなかった。しかし、注文 ができたことで、たとえつたなくても店員は自身の日本語を理解してくれることに気づい た。それが、マリアにとって、自信につながったと思われる。

 この例のように、レストランのワークシートでは、感想のような記述は減少し、自身に 引き付けた個々の目標とそれがどうだったかについて述べた記述の割合が増加した。それ まで活動コマで提示された目標は、履修者全体に向けたものであった。そこから、自身に 引き付けた目標を考えることで、キャシーやマリアのように自身の学びの実感を得ること ができたのではないだろうか。

 

【第10週】

 第10週は、江戸時代の古民家見学準備と見学だった。日本語Cの主教材で江戸時代が取 り上げられていることから選んだ活動である。準備として履修者がそれぞれの国・地域の この時期の世界の歴史を調べて紹介することにした。

 マリアは事前のcan-doリストに「歴史があまり好きじゃありません」と記入していた。

他にも、歴史は関心がないとつぶやき、難しそうな顔をしている履修者が複数名観察され た。

 第10週までの実生活を取り上げた活動から少し離れ、知的好奇心に働きかける活動を選 んだこと自体には意味があったと考えるが、私は履修者の興味や関心の分野に沿うような 活動にするにはどうしたらよいか思いつかないままこの活動を終了した。

(7)

【第14週】

 第14週は、ポートフォリオを整理した。ポートフォリオには、シート類のほか、表紙、目 次、自己評価、最後の振り返りを入れるように指示をし、作成の方法を説明した。これまで 全体及び個人に対して何度か働きかけをしてはいたが、第5週同様、第14週においても履 修者はシート類の紛失やその対処には目が向いていたが、学びを深く考えたかは疑問だっ た。

 

4.共同研究者による分析と考察 4-1 使用したデータ

 研究に、より客観性を持たせるためには、他者の視点が必要である。そこで、2014年春 学期終了後、共同研究者2名がそれぞれ、以下の1から4を検討した。さらに、5の実践者に 対する半構造化インタビューを行った。インタビューは共同研究者のうちの1名が担当し、

学内の個室において、1対1で行った。インタビューは録音し、文字化した。

 1.実践者が作成したワークシート、can-doリスト等のシート類  2.日本語C全体の授業記録

 3.ポートフォリオ(履修者が作成)

 4.学期末に行った授業改善のための日本語C担当者によるミーティング資料  5.実践者に対するインタビュー

 

4-2 インタビューの分析方法

 文字化したデータは、共同研究者2名がSCAT(Steps for Coding and Theorization)を 用いて分析を行った。SCATは、分析手続きが明晰であることと、それが小規模の質的デー タにも適用できること(大谷2008)を特徴とする。SCATでは、調査対象者の発話を以下 の通り4つのステップに分ける(大谷2008:31)。

 <1>データの中の着目すべき語句を記入する

 <2>前項の語句を言いかえるデータ外の語句を記入する  <3>前項を説明するための概念、語句、文字列を記入する  <4>テーマ・構成概念を記入する

 以上を行った結果、さらに検討・解明が必要であると考えた点を書き出しておく。さら に<1>から<4>のプロセスで得たテーマ・構成概念を用いてストーリーラインを記述す る。SCATにおけるストーリーラインとは、「データに記述されている出来事に潜在する 意味や意義を、主に<4>に記述したテーマを紡ぎ合わせて書き表したもの」(大谷 2008:

32)と定義されている。

 SCATの場合、4つのステップによって分析の過程が可視化されるため、共同研究者2 名がそれぞれ分析をしたのち、互いにその妥当性を検討することができる。分析の過程で 疑問点が出てきたため、さらに共同研究者が実践者に対してフォローアップインタビュー を行った。フォローアップインタビューは、共同研究者2名が同席し、それぞれがインタ

(8)

ビュアーとなり、学内の個室で半構造化インタビューの形で実施され、録音された。

 

4-3 分析結果と考察

 4-3-1から4-3-3までは鈴木、4-3-4は松本によるものである。インタビューのストーリー ラインから、実践者の授業観、規範意識、ポートフォリオ作成とその評価というキーワー ドが浮かび上がってきた。

 

4-3-1 実践者の授業観

 以下は、実践者が授業をどう考えているかについてのストーリーラインである。

実践者は、日本語によるコミュニケーションの機会が少ないこと、また、日常生活の日 本語使用場面で依頼心が強い履修者がいることを残念に思っている。そのため、生活上 必要な日本語を支援し、日本での生活の楽しさ、日本語使用の実感・達成感を味わって もらいたいと考えている。この授業観は、実践者の外国での在住経験を通した語学学習 が影響している。

 キャンパスツアー、祭り見物、レストラン、江戸時代の古民家、地域の国際交流センター 訪問の5つの教室外活動に関するワークシートを分析すると、それぞれの場面で必要とさ れる日本語の語彙や会話表現といった言語面の他、「大学生活で必要だと考える情報を得 る」「日本語サイトの検索の仕方」「電車やバスの乗り方」等、実生活で履修者が困らないよ うに、知識を与え、その運用の練習をするタスクが目立つ。

 実践者はインタビューで教室外活動の意義を「教室や寮から出ようとしない人たちが日 本語を使うチャンスとか、日本を知るチャンスにしたい」と述べている。

 また、レストランを例に、日本語Cの履修者について、以下の発言が見られた。

 

知らなくて困ることが多いだろうと。で、日本語が上手な人とか日本人に頼ってしま うんじゃないか、クラスでやることによって日常生活に出たときに、より楽しく目的 が達せられるようになればいい

 

 タスクの内容とインタビューでの発言から、実践者は、履修者が実感・達成感を得られ るかどうかに関心があり、日本語を用いて、周囲に頼らず、日常生活で必要なことに対処 できるようになってもらいたい、という授業観を持っていることがうかがえる。

 また実践者は、レストランや国際交流センターに関し、以下のように述べている。

今自分が語学学習をして、外国に住んでいたことを考えると、やっぱりこういう活動 をクラスの先生がやってくれたらすごくうれしかったなって思うんです。買い物の仕 方とか、教科書ではいくらですかとか習うけど、実際はそういう言葉を使ってるわけ ではない。そしたら、ほんとに実際に即したものっていうのをやってく時間って、す

(9)

ごく貴重。

このことから、このような授業観を持つ背景には、実践者の外国での在住経験を通した語 学学習があると考えられる。

4-3-2 実践者の規範意識がポートフォリオに与えた影響

 以下は、履修者のシート管理に関するストーリーラインである。

実践者は、履修者がどのようなポートフォリオを作成してもかまわないとしながらも、

実際は、履修者がシート類の管理を怠り、紛失や他の授業のシート類がポートフォリオ に入っていたことを問題視し、それらに低い評価を与えた。そこには、きちんとしてい ない学習態度への反発があった。履修者の学びや振り返りを深めるためにポートフォリ オを取り入れたものの、実際は内容面より、シート類を揃えることを重視した。

 ポートフォリオの内容に関して、実践者は「意外とどんなものが出ても寛容というか、

まあいいんじゃない、みたいな」と述べている。一方で、「私の期待したポートフォリオは 作ることができませんでした」「(合格点をあげたい人は)いなかったかな」と語り、どんな ものが出てもいいという発言と矛盾する。

 実践者は、授業で使用したシート類はポートフォリオに「全部入れてほしかった」と述べ、

以下のように説明した。

私の中では、合格をあげられるような人がいなかったっていうところのポイントの一 番の大事なところは、違うクラスのも全然ぐちゃぐちゃに入っていたっていうことが かなり大きな比重がある(後略)

 さらに、「何をやったかも忘れるのは論外」「きちんと感がない。きっちりしていない。」

という表現で、使用したワークシートをなくした履修者や、他の授業のプリントを間違え てポートフォリオに加えた学生に対し、授業を受ける姿勢として許容できない気持ちを表 している。それに関連して、「教科書忘れて授業に来る」「ノート持ってこない」「3分遅刻」

といった履修者の行動にも触れ、このような「学習態度が気になる」と述べている。

 履修者が活動によって何ができるようになり、何を考えたかということより、実践者の 考える規範を満たしているかどうかが、ポートフォリオを評価する際に、強く影響した可 能性がある。実践者の中で、授業における学習者のあるべき姿とポートフォリオのあるべ き姿が、分化されていないと考えられる。

 さらに、3-4第5週で述べられているように、実践者は、履修者自身がシート類を管理す べきだと判断したが、これも規範意識に基づくと考えられる。その判断の結果として、学 期末の段階でシート類を揃えることに関して「きちんとやっている人はほとんどいなかっ た」状態になった。それにより、実践者は「自分のポートフォリオの、作ったらいいんじゃ

(10)

ないかと言うものを、たぶん下げた」と、期待するポートフォリオのレベルを下げたという。

規範意識が影響し、シート類が揃っていることが、ポートフォリオの目標となってしまっ た。

 

4-3-3 活動コマの問題とポートフォリオの問題の混同

 以下は、ポートフォリオの問題についてのストーリーラインである。

実践者は活動コマとして授業でできることの限界を強く感じている。そのため、履修者 が作成したポートフォリオに対する評価が低かった理由として活動コマの問題を挙げ た。

 実践者に対して、教師が期待したポートフォリオができなかったのは何が問題だったか と質問をしたところ、(履修者には)「ハードルが高く」と述べた。その「ハードル」とは、ポー トフォリオの問題ではなく、活動コマの目標から見た問題だった。

 実践者は、ハードルの説明として、「本当にその活動の意義・目的・得たこと・それを使 いこなすというところまでには、やっぱりステップが必要」と言っている。ステップとい うのは、レストランでの店員との会話でいえば、ある表現を習って練習し、特定のレスト ランでその表現が出てきて理解できたとしても、他のレストランで同じ表現が使われるか どうかわからないため、応用が必要であるということである。

 実践者が述べたハードルとは、学習者が実生活でできることと、活動コマで行うことと の関係を示したものであり、ポートフォリオが期待したものにならなかった理由とは考え にくい。というのは、実践者はどのようなポートフォリオの記述がよいと思うかという質 問に対し、「全体を通しての気づき、感想、思ったことがあれば、それが成功体験である必 要はない」と述べているからである。これは、実践者の意識の中で、活動コマの問題とポー トフォリオの問題が混在し、整理されていなかったからではないか。

 

4-3-4 ポートフォリオの理想像と現実

 以下は、ポートフォリオ作成についてのストーリーラインである。

実践者は、これを見れば学びのプロセスがわかるようなポートフォリオを期待してい た。しかし、履修者は期待したようには動かず落胆した。

 実践者は履修者のポートフォリオについて、以下のように期待していた。

 

楽しい、おもしろいではなくて、その活動によってどんなことを学んだか、どういう ことを考えたかっていうのが、はっきりわかったり、出てたりするようなポートフォ リオ。または、出ていなくても、作成する過程でそれを考えることができるきっかけ になるポートフォリオ(後略)

 

(11)

 ポートフォリオの理想像を思い描き、履修者に指示を出したと思われる。しかしながら、

履修者が作成したポートフォリオは単にシート類を入れただけのものであり、実践者の期 待とは乖離していた。シート「ポートフォリオのつくりかた」にはワークシートとcan-do リストを全て入れたかどうかという項目がある。ここから履修者がとにかくシート類を揃 えようとしたことは想像に難くない。実践者は理想を掲げながらも思うようにならない現 実に直面していたと考えられる。

 「ポートフォリオのつくりかた」には教師作成による評価基準が示されていることから、

実践者が期待したポートフォリオは、西岡(2003:67)が述べる「基準準拠型ポートフォリ オ」に当たる。したがって、どのようなポートフォリオを作るかを、実践者が示すべきであっ た。実践者は、理想とするポートフォリオ像はあったが、それを履修者が理解できる形で 言語化できなかったと思われる。学びのプロセスがわかるポートフォリオを求めるとした ら、どのようなものであればそれがわかるのか明確にするべきである。それには学期開始 前に実践者が自ら作成してみたらどうか。松本(2009)も述べているように、まず教師が どのようなものを作ってほしいかを明確にしておかないと、説明しても学習者には伝わら ない。

 なお、上記は活動コマ実践へのフィードバックとして、共同研究者2名から実践者に対 して説明された。これらの説明は、学内の個室において2対1で行われ、録音された。分析 結果について実践者から疑問点があった場合は、共同研究者がその場で詳しい説明や回答 をし、その過程で、実践者から意識や行動の説明と振り返りがさらに言語化された。

5.アクション・リサーチを通した理解の深まり  5-1 実践者の振り返り

 3の実践から、私は活動コマの意義やそこでの学びについて振り返った。第1週に履修者 が活動の内容を決定することで、履修者が活動の意義を意識する機会はあっただろう。し かし、第4週の祭り見物の場合、キャシーは、バスの乗り方を学びとして意識はしていな かった。履修者が学びを意識するための仕掛けが不足していたことがわかった。

 また、4の共同研究者の指摘により、私は2つのビリーフを持っていることを認識した。

一つは、授業では実生活において役に立ち、応用が利く事柄を扱うべきであるというビリー フである。私は、留学では、日本でしかできないことを多く経験するべきだという思いを 強く持っている。そうした際に、日本語初級の履修者が困らないように、留学生活で遭遇 する状況に対応していくことを目指した学びを特に意識している。この授業観が、活動コ マにおける活動の選択、シート類、教室内の事前準備等の授業設計に大きく影響した。

 もう一つは、授業に対する規範意識であり、教師は教師、履修者は履修者の責任を果た すべきであるというビリーフである。それが授業やポートフォリオの作成と評価にも強く 作用していたことがわかった。シート類を全て揃え、埋めることのみが学習ではないが、

私は基本的な管理をしてこそ、その過程で気づきや学びも得られるのではないかと考えて いた。

(12)

 さらに、私は、ポートフォリオについてはそれほど深く考えておらず、その導入目的、利 用方法を十分に消化しきれていなかったことが改めてわかった。活動コマの問題とポート フォリオの問題の混同、及び、ポートフォリオ作成の過程で教師の役割を十分果たしてい なかった問題は、ここに大きな原因があったと考える。

5-2 次の実践に向けて

 私は次の実践に向かうにあたり、第一に、履修者が学びをさらに意識できるよう示した いと考える。第1週で活動の内容を考える機会を作ったように、can-doリストやワークシー トの改善、教師の関わり方の見直し等、何を学んだかを履修者が明確に意識するための工 夫が必要だろう。

 第二に、どのようなポートフォリオを目指すのかを私自身が明確にすることが大切であ る。私がポートフォリオを実際に作成してみたうえで、ワークシート、ポートフォリオの 説明の内容と表現を見直したい。また、ポートフォリオ作成においては、私がシートの管 理に積極的に関わるのもよいだろう。それによって履修者は学びに集中し、より意識する ことができるだろう。

 第三に、母国の大学での専攻、滞日期間、関心を持つ対象等が異なる様々な履修者がい るという前提をふまえたうえで、活動の事前準備の内容を再検討したい。例えば、ワーク シートには、履修者の選択する余地を作ることが挙げられる。第10週の古民家見学であれ ば、ワークシートでは世界の歴史に限定せず、衣服や武器、建物等それぞれの興味によっ て履修者がテーマを選び、調べる方法もある。それによって履修者は能動的に学習を進め ることができるのではないか。

 

6.終わりに

 このアクション・リサーチでは、活動コマを担当する実践者とティームティーチングを 行っている共同研究者が協力することにより、複眼的な分析を行うことができた。しかし、

履修者の視点を含めることはほとんどできなかった。今後は、履修者へのインタビューに よるフィードバックを得て、履修者がどう捉えたかを加えた分析を行いたい。

 横溝(2000b:21)が「アクション・リサーチから出てきた結果を一般化しようとする試 みは、徹底的に排除しなければならない」と述べているように、本研究の結果は、実践者の 内省を中心としたものであり、それをそのまま、他の教育機関で適用できるものではない。

しかし、教師が持つ授業観、学習者に対する期待、それが教師の作成するシート類や授業 設計、評価にどう影響をしたかを公開することは、それを目にした他の実践者の内省を促 すことにつながると私たちは考える。

 本研究では、教室外で実際に使用する活動の設計について、一つの例を提示することが できた。さらに、こうした活動の評価方法の一つとして、ポートフォリオ作成とその留意 点についても示すことができた。時間・場所・履修者数等の問題から、私たちの所属機関の ように正規の授業で複数回の教室外活動を行うことが難しい教育機関も多いと思われる

(13)

が、多少の制約があっても、一部でも応用できるのではないか。そのアイディアを提供で きたと思う。

付記

 本稿の研究は執筆者3人の討議で進めたが、久保田が1節・3節・5節、鈴木が2-1(アクショ ン・リサーチの海外の文献以外)・2-2・4節の4-3-4以外・6節、松本が2-1のアクション・リサー チの海外の文献・2-3・4-3-4の執筆を主に担当した。

 本研究は、桜美林大学言語教育研究所より助成を受けたものである。

参考文献

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参照

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