博 士 ( 文 学 ) 中 野 友 理
学 位 論 文 題 名
モ ダ リ テ イ 辞 「 ノ ダ 」 の 研 究
―認識機能と伝達機能の階層的分析―
学位論 文内容の要旨
本研究は,日本語の文末 に用いられる「ノダ」をーつのモダリテイ表示形式と捉え.こ の意味機能を明らかにすることを目的としたものである。「ノダ」をーつのモダリテイ辞と 見なし,そこに2 つの構文階層にまたがる機能が生じる と主張している。論文は
180頁ほ ど の本 文(400 字 詰め 原稿 用紙 に換 算し て約
540枚 )からなり,全体として8 章で構成さ れ て い る 。 以 下 , 各 章 ご と の 内 容 を 要 約 し て , 最 後 に 全 体 の 趣 旨 を ま と め る 。
第一章では,「ノダ」について先行研究など知見として確立していることを整理している。
その上で本研究が「ノダ」 の機能に着目した分析であり,その本質的な意味機能,及び語 用論的派生などを論じることを述べる。「ノダ」は,伝統的には準体助詞の「の」と叙述の 助動詞「だ」の複合による複合助動詞であるという認識が出発点になっていたこともあり,
連体化と陳述という2 つの機能の重カから自由にならな いままの研究が多かった。本研究 はそれをモダリティ助動詞 から一歩進めて,機能を重視したモダリティ辞と定めるところ から研究を始めている。
第二章では,日本語モダ リティ論における「ノダ」の扱いについてまとめ,現代日本語 研究の中で「モダリティ」 がいかに理解され,その中で「ノダ」がいかに位置づけられて いるかについて整理してい る。日本語学における主流の考えでは,モダリティは,話者に よる事態認識を表すものと ,発話における伝達態度を表すものに二分されている。それら はときに,命題目当てと聞 き手目当てなど,異なる用語をあてることもあるが,おおむね
2対立で説明する考え方は,文の述部を階層化して捉え る考え方とも重なり合うことから も代表的なモダリテイ観に なっているということができる。しかし,この2 階層モダリテ イでは,「ノダ」はいずれかー方のみに単純に所属すると記述することはできないと本論文 では主張し,その点につい て論証をおこなっている。さらに,この問題を解決できる枠組 みを確立させるために,モ ダリティ2 階層の特性と「ノ ダ」との関係について詳細に論じ る必要があるとしている。
第三章は,予備的議論と して,本論文におけるモダリティの扱いを明確にするために,
モダリティの本質を論じ, その機能を文構造・発話解釈等との関わりでどう位置づけるか について,枠組みの再構成 を試みている。その上で,先行研究を再検証して,モダリティ に2 つの階層が設けられること,伝達態度モダリティが 事態認識モダリテイからの派生し
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た意 味機 能 と捉 えら れる とす る 。
第 四章 で は, 「ノ ダ」 の事 態 認識 機能 を論 じる 。 「ノ ダ」 を伴 う 文と 「ノ ダ」 を伴 わない 文 の 事 態 叙 述 に つ い て 話 者 の 認 識 が ど の よ う に異 なる の かを 分析 し, ◎ 「ノ ダ」 を伴 うこ とで ,述 語 の表 す概 念の みな ら ず, 「ノ ダ」 に先 行 して 叙述 され た 内容 全体 に対 する 話者の 判 断 が 表 さ れ る こ と , ◎ 提 示 さ れ る 命 題 が 焦 点部 を含 む 叙述 内容 であ る とい う話 者の 判断 が 「 ノ ダ 」 で 標 示 され るこ と ,の2つ の特 性が 認め られ る 。こ のう ち, 後 者は ,「 ノダ 」に よる 文の 「 属性 叙述 化」 とい う こと がで きる 。
第 五章 で は, 他の 事態 認識 モ ダリ テイ形式と「ノダ」の両 方が現れる文を分析し,「 ノダ」
は , 叙 述 内 容 と そ れ に 付 与 さ れ た 認 識 を 含 む ,先 行叙 述 の内 容全 体に 対 する 話者 の判 断を 表 す と 結 論 づ け て い る 。 い わ ゆ る 命 題 め あ て のモ ダリ テ ィと 言わ れる 用 法に 分類 され るも ので あり , 「ノ ダ」 の基 本的 な 機能 に認 識論 的な(epistemic)な用法があることを認め ること がで きる と して ,詳 細な 記述 を 行っ てい る。
第 六章 で は, 「ノ ダ」 の伝 達 態度 モダリティについて考察 し,事態認識機能を持つ「 ノダ」
が , 実 際 の 伝 達 が 行 わ れ る 発 話 の 段 階 で 用 い られ るこ と によ り, 事態 認 識モ ダリ テイ とは 異な るモ ダ リテ イ機 能が ,伝 達 に関 わる もの とし て 派生 され ると 論 じた 。「 ノダ 」の 表す伝 達 態 度 モ ダ リ テ ィ と し て は , 聞 き 手 が 提 示 さ れた 叙述 内 容か ら一 定の 解 釈を 引き 出す こと を 求 め る 作 用 を 認 め , そ れ に 関 連 し て 必 要 な 発話 上の 行 為, ある いは 発 話外 の行 為の 必要 性を 計算 す る段 階に 展開 する と 考え た。 「ノ ダ」 に よっ て, 聞き 手 への 配慮 ,告 白, 伝達内 容 に 対 す る 正 当 性 の 主 張 , 行 為 指 示 な ど , 多 様な 効果 と され てき たも の もこ の説 明の 射程 に含 まれ る と論 じて いる 。
第七 章で は ,「/力」 疑 問文 を取 り上 げ ,「/力」 と 「ノ ダ」 の意 味 特徴 で共 有さ れる もの,
「/力 」 に よ る 事 態 認 識 モ ダ リ テ イ を 分 析 し た。 「/力 」 も事 態認 識機 能 と伝 達態 度機 能を 持つ と論 じ ,そ れが 「ノ ダ」 と 一定 の平 行性 を有 す ると 考え た。
本 論文 で は, 「ノ ダ」 の持 つ 本質 的な 意味 とし て の事 態認 識モ ダ リテ イ機 能と ,こ れから 派 生 し た 機 能 と し て 伝 達 態 度 モ ダ リ テ ィ 機 能 を主 張し た もの であ り, 前 者か ら後 者へ の機 能 転 換 が 徐 々 に 生 じ る と 考 え る も の で あ る 。 これ は, 発 話に おけ る「 ノ ダ」 の機 能と して 説 明 や 関 連 づ け が 積 極 的 に 記 述 さ れ , 認 識 的 意味 につ い ては 周辺 的な 扱 いを して きた ,従 前 の 研 究 と 異 な る 点 で あ る 。 ま た , 事 態 の 叙 述段 階に お いて 表示 され る 意味 と, 聞き 手へ の 伝 達 段 階 に お い て 発 揮 さ れ る 機 能 を 明 確 に 分け て, モ ダリ テイ とい う カテ ゴリ 自体 を再 構 成 す る こ と で 「 ノ ダ 」 が 表 す 多 様 な 意 味 を 階 層 に 即 し て 整 理 し て い る 。 命 題 を 対 象 と す る 事 態 認 識 に 関 す る モ ダ リ テ ィ は 命 題 に っ い て の 話 者 の 主 観 (subiective)な 表 示 領 域 と 考 え る こ と が で き ,聞 き手 を 対象 とす る伝 達 態度 に関 する モダ リ テ イ は 話 し 手 の 主 観 と 聞 き 手 の 主 観 を つ な ぐ間 主観 的 (intersubiective)な表 示領 域と 考 え る こ と が で き る が , 本 論 文 の 分 析 は , 主 観か ら間 主 観へ と文 法化 が 拡張 して 行く 文法 化 理 論 と 軌 を  ̄ に す る 考 え 方 で も あ り , 一 般 言語 学や 言 語類 型論 に寄 与 する 成果 たり える と評 価で き る。 ( 以上 )
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学位 論文審査の要旨 主 査 教 授 加 藤 重 広 副 査 教 授 小 野 芳 彦 教 授 高 橋 英 光
学 位 論 文 題 名
モ ダ リ テ イ 辞 「 ノ ダ 」 の 研 究
―認識機能と伝達機能の階層的分析一
本論文は,日本語のモダリティに関わる複合辞「ノダ」について,記述文法を中心とす る日本語学の成果を踏まえ,言語学の諸知見を活用しながら,統語語用論的な分析をおこ なった研究である。
本論文は ,180 ぺージ ほどの 8 章構成の理論的分析の論文であり,平成 23 年 11 月 30 日 に提出さ れ,同年 12 月 16 日に審 査委員会 が発足し ,その後,平成 24 年 1 月19 日の口頭 試問とその前後に 5 回に渡る審査委員会を開催して,委員全員が一致して学位を授与する に相応のものと認め,文学研科究教授会にて2 月3 日に報告し,2 月20 日の研究科教授会 の投票で学位授与が認められたものである。
「ノダ文」は,日本語学の中で多くの関心を集める現象で,関連する多数の論考が既に 存在しており,文法論と語用論を横断するテーマであることから,一見すると単純な複合 助動詞の問題のように見えるものの,実に多層的で複雑な課題である。加えて,現時点に おいて正攻法の研究とするには,関連するモダリティ論の研究を広く理解することがまず 論考に先んじて必要となり,しかも,それらの研究は,厖大で,かつ,最新の成果が続々 と発表されるなど研究の最先端に常に意を用いなければならない状況があり,端的に言つ て,研究課題としてはかなルハードルが高いものになっている。本論文は,日本語学にお ける記述文法の成果をよく吟味して再構成し,近年急速に進んでいるモダリティ研究に関 わる言語学的知見もよく咀嚼した上で,「ノダ」を文構造論やモダリティ階層論として分析 することを基本的な方向性としているが,上に述べたような過酷な状況において一定以上
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の 成 功 を 収 め た 研 究 で あ り , 高 く 評 価 さ れ る も の で あ る 。
本 論 文 の 最 大 の 成 果 は , 従 来 の 階 層 的 モ ダ リ テ ィ 論 を 踏 ま え て , 認 識 に 関 わ る モ ダ リ テ イ の 階 層 に お け る 機 能 と , 伝 達 に 関 わ る モ ダ リ テ ィ の 階 層 に お け る 機 能 と に , 「 ノ ダ 」 の 機 能 を 分 け て 記 述 で き る こ と を 示 し ,2階 層 に ま た が る モ ダ リ テ ィ 辞 と い う 位 置 づ け に 理 論 的 実 質 を 与 え た 点 に あ る 。2っ の 階 層 に お け る 機 能 の 分 化 は , 話 者 自 身 の 認 識 に 関 わ る 主 観(subjectivity)の 層 か ら 聞 き 手 へ の 働 き か け を 含 む , 間 主 観(inter‑ subjectivity)の 層 へ と 派 生 し て い く , 機 能 拡 張 と し て 説 明 し て お り , 従 来 さ ま ざ ま な 形 で 指 摘 さ れ て き た 現 象 や 分 析 と う ま く 整 合 し つ つ , よ り 高 い 説 明 カ を 持 っ と 認 め る こ と が で き る 。 そ れ は た と え ば , 文 法 化(grammaticalization)の 一 般 的 方 向 性 と 合 致 す る 記 述 と な り , そ の 変 化 プ ロ セ ス に お け る 語 用 論 的 機 能 , 統 語 的 な 意 味 解 釈 の ほ か に も 形 態 論 的 な 特 性 な ど に つ い て , 言 語 学 理 論 へ の フ イ ー ド バ ッ ク す る こ と が 可 能 な 知 見 と な っ て い る 。
と は い え , な ん ら 問 題 点 を 含 ま な い わ け で は な く , 認 識 か ら 伝 達 ( 主 観 か ら 問 主 観 ) へ の 派 生 に つ い て , そ の 連 続 性 や 段 階 性 に つ い て 十 分 に 論 じ て い な い こ と や , 両 者 の 階 層 の 設 定 に も っ と 掘 り 下 げ る べ き 論 点 が 多 少 残 っ て い る こ と , い く っ か の 用 語 の 定 義 や 用 法 に つ い て 精 密 さ を 欠 く 点 な ど , 今 後 改 善 す べ き 余 地 は あ る 。 し か し , そ の 点 を 考 慮 し て も , 「 ノ ダ 」 の モ ダ リ テ ィ 機 能 に つ い て 新 し い 知 見 を 含 み , モ ダ リ テ ィ 研 究 を 次 な る 段 階 に 進 め る 成 果 と し て 重 要 な 意 義 を 有 す る と 言 う こ と が で き る 。
ま た , 本 論 文 の 知 見 は , 日 本 語 教 育 国 際 研 究 大 会(2010年7月 台 北 ,2008年7月 釜 山 ) な ど の 国 際 学 会 や 日 本 語 用 論 学 会'(2007年 関 西 外 国 語 大 学 ) , 日 本 認 知 言 語 学 会(2008年 9月 名 古 屋 大 学 ) , 日 本 語 教 育 学 会(2005年11月 北 海 学 園 大 学 ) な ど で 発 表 さ れ , ま た 北 海 道 大 学 国 語 国 文 学 会 『 国 語 国 文 研 究 』139な ど の 査 読 誌 を 含 む 学 術 雑 誌 等 に6本 の 論 文 と し て 発 表 さ れ て 既 に 相 応 の 評 価 を 受 け て い る 。 こ れ ら の 実 績 も 踏 ま え , 現 在 研 究 成 果 が 盛 ん に 積 み 上 げ ら れ て い る 日 本 語 モ ダ リ テ ィ 研 究 の 分 野 に お い て , 新 た に 切 り 開 か れ る べ き 方 向 性 を 示 し た , 確 固 た る 研 究 成 果 で あ る と 評 価 さ れ る 。
ま た , こ れ ら の 成 果 は , 今 後 日 本 語 研 究 だ け で な く , 一 般 言 語 学 ・ 認 知 言 語 学 ・ 応 用 言 語 学 ( 日 本 語 教 育 ) な ど に 応 用 で き る も の で あ り , そ の 点 で も 長 期 的 に 参 観 や 引 用 が な さ れ る こ と が 期 待 さ れ る 。
( 以 上 )
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