博 士 ( 理 学 ) 山 田 邦 雅
学位論文題名
Unruh effect and proton decay (Unruh 効果とproton 崩壊)
学位論文内容の要旨
量 子 論 で 「 加速 」 を 扱 う 研究 が 進 め ら れ、 慣 性 運 動 の みを 扱 っ てい る場合 とは大 きく異 な る結 果 が 現 れ るこ と が わ か っ てき た 。 そ の 中で も 次 の2つの 結 果 は 静 止系 の 場 合 の 常識 を破る 注目 すべき 帰ネぉ である と言 える。
1973年にI.Tn]'uliに よ っ て 、 静止 系 で の 真 空 は加 速 度 系 で は熱 浴 に な る こと が 示 さ れ た 。も ち ろ ん 慣 性系 ど う し で は 真空 は 共 通 の もの で あ る が 、観 測 者が 加速 すると 何も存 在 し なか っ た 真 空 に粒 子 が 現 れ る とぃ う も の で ある 。 こ れ は 、一 般 座標 変換 の下で は正の エ ネ ルギ ー が 正 の エネ ル ギ ー だ け に変 換 さ れ る わけ で は な く 、負 の エネ ルギ ーも現 れるこ と により 起こ るもの である 。これ はI.Tiiruh効果と 呼ばれ てい る。
2つ 目 の 加 速 度 系 に 固 有 の 現 象 と し て 「 陽 子 の 崩 壊 」 が あ る 。1997年Mullerに よ ル フ ウル ミ 粒 子 も ボソ ン 粒 子 と し て扱 う な ど の 大胆 な 簡 略 化 を行 っ たモ デル で、加 速が粒 子 の 崩壊 ヘ 与 え る 影響 が 調 べ ら れ た。 そ の 中 で 、慣 性 運 動 で は安 定 粒子 であ る陽子 までも が 加 速を 大 き く し てい く と 崩 壊 確 率を も つ こ と が示 さ れ て い る。 加 速運 動は エネル ギーを 与 え られ て 初 め て 実現 す る も の で あり 、 こ れ は 外カ と の 相 互 作用 が ある ため に起こ るもの で ある。
こ の2つ の 結果 は と も に 大き な 加 速 が あっ た 場合に その効 果が 現れ始 めるも のであ り、現 在 実験 で 確 か め るこ と は 非 常 に 困難 な も の で ある 。 し か し 、こ の2っ の 結果 が 無 矛 盾 であ る こ と を 理 論 的 に 検 証 を し よ う と す る 試 み が な さ れ て き た。 そ れ は 1999年 にMat.sas 等 が、 静 止 す る 観測 者 に 対 す る 加速 す る 陽 子 の崩 壊 確 率 と 加速 す る陽 子と 共に加 速する 観 測 者に 対 す る 陽 子の 熱 浴の 粒子を 吸収す る確 率が一 致する ことを 示そう とし たもの である 。 し かし 、 彳 皮 ら は2次 元 で 解 析し 、 ニ ュ ー ト リノの 質量を ゼロと する簡 略化 を行っ たが、 解 析 的に 一 致 す る こと は で き ず 数 値的 に 一 致 す るこ と を 確 認 した だ けで あっ た。こ の而結 果 が 同じ 値 を 与 え るこ と を 示 す こ とは 重 要 な 問 題で あ る に も かか わ らず 、今 まで誰 も成功 し ていな い。
本f沂究 では、 静止系 での陽 子の崩 壊確 率とカ 冂速度 系での 陽子 のUnrLih効 果によ る粒子 の 吸 収確 率 が 完 全 に一 致 す る こ と を解 析 的 に 示 す。 ま た 、 彼 らが 使 っ た 簡 略化 を 行 わ ず 、d 次 元で ニ ュ ー ト リノ の 質 量 を 無 視せ ず に 証 明す る。こ れらの 簡I略化は 通常 の方法 では解 析 計 算が 行 え な ぃ よう な 複 雑 な も のに な る た め に導 人 さ れ た もの あ り、 これ を廃止 すれば さ ら に計 算 は 煩 雑 なも の と な る こ とが 容 易 に 想 像で き る 。 し かし 、 こ れ ら のm略 化 を し ない ことは 実際 の物理 現象に 対応す るf眸析を する 上で避 けるこ とがで きない 重要 なこと である 。 た だ し 、 こ の解 析 で はMatsaS等 とJ百J様に次 のよう な近似 を川 いる。 それは 、軽い 電子 や ニ ュ― ト リ ノ な どに 関 して は場の 理論で 扱う が、こ れらの 粒子に 比べて 十分 重い陽 子と中 性 子には 古典的な加速i眦道を与えるとぃうものである。この意味でこの解析はse111iーcla.ssicaI の解析 であ る。
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こ の 解 析 を う け て 、1999‑2001年 、G.E.AMatsasとD.A.T.Vanzella.は加 速する粒子の散乱断面積に対し、一方で加速する粒子と共に加速運動をする観測者を考え ると加速している粒子は静止しているが、その代わりにUnruh効果による粒子を吸収して 前述の散乱断面積になるのではないかと考え、この一致を見ることによりLTnruh効果の理 論的確認を試みた。
特に、加速粒子の散乱断面積の変化の中で最も興味深いのは、慣性運動のときに安定な 粒子が加速の影響で崩壊するところだ。その例はprotonであり、その過程は慣性運動のも のと同じく
rrest; p十一n十e十十也
とぃうものである。一方で加速度系として、加速するprotonに加速して付いていく観測 者を考えると、protonは静止しているので安定だが、今度は観測者が加速をしているため Unruh効 果 に よる粒 子が空 間に存 在し、protonは粒子 を吸収 する逆p崩壊を 起こす 。
p十十e一一・十n十り p十 十 ラ →n十e十 p十十e一十ラーナn.
これらは同じ物理現象の散乱断面積なので、観測者の選び方に依らず一致すべきもので ある。しかし、重力場中ではなく加速度系を扱っているとはぃえ、加速度系でのDirac方 程式の解は特殊関数になり、例えprotonをclassica.l currentで表し、tree levelに限って もその解析計算はとても複雑なものになる。
そのため、彼らは静止系と加速度系の両方から散乱断面積の一致を2次元での解析で試 みた。また、二ユートリノをマスレスにすることで、さらに簡略化してMinkowski空間で の解析計算を行った。しかし、加速度系では積分が複雑になってしまぃ、解析的に結果を 出す ことが できな かった 。それ で彼らは 最終的 に数値 的にー 致することを確認した。
この一致によって、Unruh効果による粒子が、加速度系では実際に観測できる粒子であ ることに矛盾がなぃことが理論的確認されたと言える。この確認の面白いところは、ずつ と以前に理論的に確立していたUnruh効果が、最近になって崩壊確率の計算により、再確 認されたとぃうところだ。
彼らの解析は2次元でのものであり、ニュートリノをマスレスとした簡略化されたもの ですが、現在ニュートリノは質量を持つことが確認されており、また、4次元での現実の 散乱断面積で解析したぃところである。
それでこの博士論文では、4次元でニュートリ丿の質量を入れて、加速するprotonの静 止 系 と 加 速 度 系 で の 散 乱 、 吸 収 の 散 乱 断 面 積 の 解 析 的 一 致 を 示 し た 。 基本的に加速度系では、被積分関数がいくっかのmodified Bessel関数の積になり、その 関数の変数ではなくindexでの積分になってしまうため、解析計算はあきらめられてきた が、modifiecl Bessel関数をすべて、留数を拾うことによりmodifiecl Bessel関数の定義の 級数になるように作られているBa.llnsタイプの積分表示にすることにより、容易に積分で きる形にすることができるのである。これにより、双方の散乱断面積をすべて積分をおえ た形で解析的一致をさせることができた。
この解析的一致は、いままでその確認を数値的一致に頼ってきた、静止系のグ崩壊と加 速度系の逆p崩壊が観測者の違いにより異なる,現象になっているだけの同じ物理現象であ るこ とをよ り確実 にする もので あり、Unruh効果の存在の状況証拠となるものである。
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学位論文審査の要旨
主 査 教 授 石 川 健 三 副 査 教 授 河 本 昇 副 査 助 教 授 鈴 木 久 男 副 査 助 教 授 羽 部 朝 男 副 査 講 師 末 廣 一 彦
学位論文題名
Unruh effect and proton decay
(Unruh 効 果 と proton 崩 壊 )
互いに 等速度運 動する座 標系は互 いに同等であり、どちらで観測しても物理現象.は全く 同 じに 見えると ぃう相対 性の原理 は前世紀 に確定した 事である 。量子論 でもこの 事情は 変 わら ない。と ころで加 速度運動 する座標 系のときは 、事情は 全く異な る。量子 場の理 論 で、 一つの座 標系での 真空を別 の加速度 運動してい る座標系 で見ると どう見え るか?
この問 題を調べ た Unruh は、も との座標 系での真 空は加速 度系では有限の温度を持つ熟浴 と して 振 る 舞う こ とを 見 つ けた 。 これを Unruh 効果とぃう 。加速度 系にはぃ っもエネ ル ギ ーが 注ぎ込ま れている ため、こ のような 事がおきる 。場の理 論で量子 化を行う 際は、
場 を正 エネルギ ーモード と負エネ ルギーモ ードヘと分 解するが 、この正 負エネル ギーモ ー ドが 加速度運 動してい る座標系 への変換 で入り交じ るためお きる現象 でもある 。一方 粒 子が 加速度運 動すると き運動量 が一定で はないため 、通常と は異なる 現象が生 ずる。
そ のー っに通常 は安定な 陽子が加 速度運動 のためにべ ー夕崩壊 を起こし 不安定に なる現 象 があ る。その 大きさは 加速度に より決ま りヾ通常の 加速度で は崩壊確 率は極め て小さ い。こ の現象を 、空間で 静止した 座標系で観測する場合は、上、記のように運動量が変化 す るた めおきる 現象とみ えるが、 粒子と一 緒に加速度 運動する 座標系で 観測する 場合は
、静止 した陽子 が Unruh 効果に よる熱浴 の電子や ニュート リノと逆ベー夕反応を起こす現 象 とみ える。同 じ物理量 を異なる 座標系で 計算しただ けである ため、二 つの方法 で計算 し た確 率は同じ になるは ずである 。これは また直接実 験で確認 出来るは ずである 。しか し 現在 実現可能 な加速度 には限度 があるた め、この効 果が現状 では非常 に小さい 値であ り 、 Unruh 効果 の 直 接的 検 証の 実 験は まだなさ れていない 。しかし 、理論的 に両計算 が 一致す ることを 示す事に より、間 接的に Unruh 効 果の検証 を行う事が出来る。これが本申 請 者の 研究の目 的である 。今まで 数値計算 に基ずき、 この両計 算が一致 する事が 近似的 に 示さ れていた 。しかし 、両計算 結果の同 等性は原理 的な事柄 であるた め、厳密 な解析 的 な計 算に基ず く証明が 欲せられ ていた。 しかし、こ れに成功 したもの は今まで いなか った。 山 田邦 雅氏は加 速度運動 している 陽子崩壊 の振幅をニ つの座標 系で計算 した。以 前の数 値 的研 究では電 子やニュ ートリノ の質量を 零とおく計 算がとら れたが、 申請者は 電子や ニ ュー トリノの 質量を無 視せず計 算を実行 した。空間 静止系で は、陽子 が古典的 な加速 度 運動 を与えら れた時の 中性子と 電子とニ ュートリノ に崩壊す る確率を もとめた 。一方 加 速度 系 で は、 静 止し た 陽 子が Unruh 効果によ り熱浴に生 じた電子 やニュー トリノを 吸 収して 中性子に 変換され る確率を 求めた。 加速度系 でのこれら の確率は modified Bessel 関 数の 積を含む 複雑な形 をしてい る。その 為、両結果 の同等性 は今まで 数値的に しか議 論 され て来なか ったが、 申請者は 特殊関数 の複素積分 表示を巧 妙に使い 厳密な証 明を与 え る事 に成功し た。これ で同等性 に関する 解析的な証 明が初め て与えら れた。こ れらの 同 等性 が証明さ れたこと より、静 止系の真 空は加速度 系では熱 浴となる ことが間 接的に 確認さ れた。即 ち、 Unruh 効果 が間接的 に証明さ れた。
実 験 に よ る Unruh 効 果の 確 認 には 極 めて 大 き な加 速 度が 要 求 され 、 近 い未 来 での 確
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