【 様 式 1 0 】
※ 印 欄 記 入 不 要
2020年
12月
11日
※ 報 告 番 号 応 不
甲
乙 第 号
学 籍 番 号
86160001研 究 指 導
教
員 木 山 三 佳
◯
印氏
名 範 弘 宇
◯
印学 位 論 文 内 容 要 旨
応 用 言 語 学 研 究 科
博 士 後 期 課 程
学 位 論 文 題 目
日 本 語 学 習 者 の 要 求 場 面 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン
―間 接 要 求 の 理 解 と 産 出 を 焦 点 に―
氏 名: 範 弘 宇
研 究 指 導 教 員 : 木 山 三 佳
学 位 論 文 要 旨
本 論 文 は 、間 接 要 求 の 理 解 及 び 産 出 の 処 理 過 程 を 焦 点 に 、日 本 語 学 習 者( 以 下 、学 習 者 と 記 す )の 処 理 過 程 は 日 本 語 母 語 話 者( 以 下 、母 語 話 者 と 記 す )の 処 理 過 程 と 異 な る か 、心 的 辞 書 、 理 解 の 処 理 過 程 、産 出 の 処 理 過 程 が そ れ ぞ れ ど う 異 な る か を 解 明 す る こ と を 目 的 と す る 。本 論 文 を 通 し て 、学 習 者 と 母 語 話 者 の 間 接 要 求 の 理 解 と 産 出 の 処 理 過 程 の モ デ ル を 仮 説 と し て 提 案 す る 。そ れ を 踏 ま え 、コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 モ デ ル に 基 づ き 、学 習 者 が 母 語 話 者 と の 円 滑 な コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を 行 う た め に 、 必 要 な 知 識 は 何 か を 探 り 、 日 本 語 教 育 へ の 提 言 を 試 み る 。
学 習 者 の 心 的 辞 書 は 教 室 で の イ ン プ ッ ト に 依 存 し 、形 成 さ れ て い る(
Wray 2002)。そ し て 学習 者 と 母 語 話 者 が 産 出 し た 表 現 を 比 較 し た と こ ろ 、学 習 者 の 産 出 に の み 観 察 さ れ た 表 現 は 教 科 書 の モ デ ル 会 話 で 提 示 さ れ た も の が 多 い (
Shimizu 2009) と 指 摘 さ れ て い る 。 つ ま り 、 教 室 での イ ン プ ッ ト の 一 種 で あ る 教 科 書 は 学 習 者 の 心 的 辞 書 の 形 成 に 大 き な 影 響 を 与 え る 可 能 性 が あ る 。 そ の た め 、 本 研 究 で は 、
4つ の 研 究 課 題 を 設 定 し た 。 ① 教 科 書 の 間 接 要 求 の 提 示 は 学 習 者 の 心 的 辞 書 の 形 成 に 影 響 を 与 え る 可 能 性 が あ る か 。② 学 習 者 の 心 的 辞 書 の 影 響 は 間 接 要 求 の 理 解 と 産 出 の 処 理 過 程 で 異 な る か 。③ 間 接 要 求 の 理 解 処 理 に お い て 母 語 話 者 と 学 習 者 に 違 い が 見 ら れ る か 、そ の 違 い は 教 科 書 の 提 示 の 有 無 の 影 響 が 見 ら れ る か 。④ 要 求 表 現 の 産 出 処 理 に お い て 母 語 話 者 と 学 習 者 に 違 い が 見 ら れ る か 、そ の 違 い は 教 科 書 の 提 示 の 有 無 の 影 響 が 見 ら れ る か 。
本 論 文 は
7つ の 章 で 構 成 さ れ て い る 。 以 下 は 各 章 の 内 容 に 沿 っ て 要 旨 を 述 べ る 。
「
1章
―序 論 」 で は 、 本 論 文 に お け る 研 究 動 機 、 立 場 、 目 的 、 意 義 、 方 法 を 明 確 に 示 し 、 論文 全 体 の 構 成 に つ い て ま と め た 。
間 接 要 求 と は 字 義 ど お り の 意 味 と 発 話 者 が 伝 え た い 意 味 が 異 な る 要 求 表 現 で あ る ( 平 川 他
2012a)。学 習 者 に と っ て 、間 接 要 求 の 発 話 意 図 を 迷 わ ず に 理 解 す る こ と 、母 語 話 者 と 同 様 に 間
接 要 求 を 産 出 す る こ と は 困 難 で あ る が 、間 接 要 求 は 学 習 者 が 母 語 話 者 と 良 好 な 人 間 関 係 を 維 持 し な が ら 、円 滑 な コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を す る た め に 必 要 な も の で あ る 。そ の た め 、学 習 者 は 多 様 な ス ト ラ テ ジ ー を 取 り 入 れ 、そ の 困 難 を 乗 り 越 え よ う と し て い る 。し か し 、コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 の 育 成 を 目 指 す 日 本 語 教 育 に と っ て 、言 語 使 用 の 処 理 過 程 で 学 習 者 の 理 解 と 産 出 の 一 連 の 流 れ か ら 考 え な い 限 り 、そ の 困 難 で あ る 原 因 が 明 ら か に な ら な い 。ま た 、現 実 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン に 対 応 で き る 教 育 も 考 え る こ と が で き な い 。
そ こ で 、本 論 文 は 言 語 使 用 の 処 理 過 程 に 焦 点 を 当 て て 、学 習 者 と 母 語 話 者 の 違 い を 明 ら か に す る こ と に よ っ て 、コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 を 向 上 さ せ る た め に 、ど の よ う な 教 育 が 必 要 で あ る か を 考 察 す る 。
「
2章
―先 行 研 究 」 で は 、 こ れ ま で の 間 接 要 求 の 理 解 と 産 出 に 関 す る 研 究 、 及 び コ ミ ュ ニ ケー シ ョ ン 能 力 と 言 語 使 用 の 処 理 過 程 モ デ ル に 関 す る 研 究 を 概 観 し た 。こ れ ら の 先 行 研 究 の 成 果 を 踏 ま え 、 本 研 究 の 目 的 を 達 成 す る た め に 必 要 な 知 見 を 得 て 、 課 題 を 整 理 し た 。
最 初 に 間 接 要 求 の 理 解 と 産 出 に 関 す る 研 究 を 概 観 し た 。 母 語 話 者 の 会 話 で は 直 接 要 求 よ り 、 間 接 要 求 の ほ う が 多 用 さ れ(
Cook & Liddicoat 2002)、学 習 者 に と っ て 、理 解 も 産 出 も 困 難 で ある(Bardovi-Harlig 2001;Kasper & Rose 2002)と さ れ て い る 。日 本 語 の 要 求 場 面 に お け る 間 接 要 求 の 使 用 は
42.7%を 占 め 、 最 も 多 用 さ れ る こ と が 示 さ れ た ( 柏 崎 1993)。 日 本 語 教 育 で は 、文 型 中 心 の 教 育 か ら 出 発 す る と い う 基 本 的 な 進 め 方 を 変 え る べ き だ ( 荻 原
1997; ネ ウ ス ト プニ ー
2002; 野 田 2009; 清 2012; 富 谷 他 2012)と の 考 え か ら 、コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 視 点 から よ り 自 然 な 会 話 文 を 教 科 書 に 取 り 入 れ る よ う に な っ て き た( 野 田
2009)。教 科 書 で コ ミ ュ ニケ ー シ ョ ン 能 力 の 育 成 を 目 指 す と い う 目 的 を 達 成 す る こ と が で き る だ ろ う か 。
次 に 、コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 の 変 遷 に つ い て 概 観 し た 。コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 が ど の よ う な 能 力 か ら 構 成 さ れ る か と い う 研 究 で は 、
Celce-Murcia(2007) の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力モ デ ル が あ る 。こ の モ デ ル で は 、コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 は 社 会 文 化 能 力 、談 話 能 力 、言 語 能 力 、フ ォ ー ミ ュ ラ 能 力 、イ ン タ ー ア ク シ ョ ン 能 力 、方 略 的 能 力 と い う
6つ の 要 素 か ら 構 成 さ れ る 。 そ の う ち 、 フ ォ ー ミ ュ ラ 能 力 は 定 式 表 現 を 使 用 す る 能 力 で あ り (
Celce-Murcia 2007)、 自然 さ に 深 く 関 与 し 、母 語 話 者 が 多 用 し 、学 習 者 は 上 級 で あ っ て も 、発 達 し て い な い と 指 摘 さ れ て い る (
Jiang and Nekrasova 2007;Wray 2008; 蘇 他 2018)。最 後 に 、言 語 使 用 の 処 理 過 程 に 関 す る 研 究 を 概 観 し た 。言 語 の 理 解 及 び 産 出 の 処 理 過 程 に つ い て 、
Levelt(1993) が 提 唱 す る 言 語 使 用 の 処 理 過 程 モ デ ル が あ る 。 こ の モ デ ル に よ る と 、 発話 意 図 の 推 測 や 生 成 は 概 念 処 理 部 門 で 行 い 、 言 語 の 解 析 処 理 と 形 式 処 理 は 心 的 辞 書 に 関 わ る 。 し か し 、Levelt(
1993) の モ デ ル の 心 的 辞 書 に は 、 見 出 し 語 と 語 彙 素 し か な い 。 そ こ で 、Wray(
2002) が 提 唱 す る 心 的 辞 書 モ デ ル で は 、 心 的 辞 書 は 定 式 表 現 、 語 彙 、 形 態 素 か ら 構 成 さ れ 、さ ら に 母 語 話 者 の 心 的 辞 書 は 数 多 く の 定 式 表 現 が 貯 蔵 さ れ て い る が 学 習 者 は 少 な い と さ れ て い る 。
一 方 、先 述 し た よ う に 学 習 者 は 教 科 書 の 提 示 に 産 出 が 影 響 さ れ て い る が 、そ の 教 科 書 は 母 語
話 者 と し て の 直 感 に 基 づ い て 書 か れ て い る の で は な い か と い う 指 摘(
Boxer & Pickering 1995;
清 水
2009) が あ る 。 で は 、 中 間 言 語 語 用 論 の 習 得 の 視 点 か ら 、 間 接 要 求 は 教 科 書 で ど の よ うに 提 示 さ れ 、 そ の 提 示 は 学 習 者 の 理 解 と 産 出 に 影 響 を 与 え て い る の だ ろ う か 。
「
3章
―教 科 書 で 提 示 す る 間 接 要 求 」 で は 、 研 究 課 題 ① 教 科 書 の 間 接 要 求 の 提 示 は 学 習 者 の心 的 辞 書 の 形 成 に 影 響 を 与 え る 可 能 性 が あ る か に つ い て 、日 本 語 初 級 総 合 教 科 書
3シ リ ー ズ で 合 計
6冊 を デ ー タ と し た 。そ こ で 、要 求 表 現 を 直 接 要 求 と 間 接 要 求 に 分 け 、そ れ ぞ れ の 表 現 の 提 示 の 有 無 、 提 示 の 方 法 を 調 査 し た 。 具 体 的 に は 、 ㋐ 学 習 項 目 と し て の 明 示 的 な 提 示 、 ㋑
2タ ー ン 以 上 の 会 話 の 提 示 、 ㋒ 会 話 の 形 式 の 練 習 の 設 定 、 こ れ ら の 提 示 順 序 の 分 析 で あ る 。 ま た 、 教 科 書 で 提 示 す る 間 接 要 求 を 慣 習 的 間 接 要 求 と 非 慣 習 的 間 接 要 求 に 分 け 、そ れ ぞ れ の 会 話 例 文 を 対 象 に 、 場 面 情 報 と 人 間 関 係 情 報 の 提 示 が あ る か を 調 べ た 。 さ ら に 、「 貸 し た も の を 返 し て 欲 し い 」と い う 要 求 場 面 を 設 定 し 、そ の 場 面 で 使 う 要 求 表 現 を す べ て 言 っ て も ら う と い う 半 構 造 化 イ ン タ ビ ュ ー を
12名 の 母 語 話 者 に 行 っ た 。 そ こ で 求 め た 要 求 表 現 と 教 科 書 に 提 示 が あ る 要 求 表 現 を 比 較 し 、 教 科 書 は 母 語 話 者 の 想 起 と 同 様 な 文 型 を 提 示 し て い る か を 分 析 し た 。
そ の 結 果 、 教 科 書 で 提 示 す る 要 求 表 現 は 、 直 接 要 求 が
14種 、 間 接 要 求 が
24種 で あ る 。
14種 の 直 接 要 求 の う ち 、
9種 は 会 話 例 文 と 学 習 項 目 の 同 時 提 示 で あ り 、
3種 は 会 話 例 文 の 先 行 提 示 で あ る 。 そ れ に 対 し て 、
24種 の 間 接 要 求 の う ち 、
13種 は 会 話 例 文 と 学 習 項 目 の 同 時 提 示 で あ り 、7 種 は 文 型 の 第 一 義 を 先 に 学 習 項 目 と し て 提 示 し て い る 。 そ し て 、 会 話 の 形 式 の 練 習 の 設 定 が あ る の は 、 全
38種 の 要 求 表 現 の う ち の
18種 で あ る 。 ま た 、
13の 慣 習 的 間 接 要 求 の 会 話 例 文 と
70の 非 慣 習 的 間 接 要 求 の 会 話 例 文 の う ち 、 場 面 と 人 間 関 係 情 報 の 両 方 の 提 示 が あ る の は 慣 習 的 間 接 要 求 が
100% で あ り 、 非 慣 習 的 間 接 要 求 が 50% ほ ど で あ る 。 以 上 の こ と か ら 、日 本 語 を 学 習 す る と き に 使 用 す る 教 科 書 で は 、間 接 要 求 の 提 示 の 有 無 や 間 接 要 求 の 提 示 方 法 は 学 習 者 の 心 的 辞 書 の 形 成 に 影 響 を 与 え る 可 能 性 が あ る と 示 唆 さ れ た 。さ ら に 、母 語 話 者 が 使 用 す る
32種 の 要 求 表 現 の う ち 、教 科 書 と 同 じ も の は
10種 で あ る 。そ の た め 、教 科 書 で 提 示 さ れ る 要 求 表 現 と 母 語 話 者 が 想 起 す る 要 求 表 現 は 必 ず し も 一 致 し な い こ と が 見 ら れ た 。
「
4章
―日 本 語 レ ベ ル に よ る 間 接 要 求 の 理 解 及 び 産 出 の 変 化 」 で は 、 研 究 課 題 ② 学 習 者 の 心的 辞 書 の 影 響 は 間 接 要 求 の 理 解 と 産 出 の 処 理 過 程 で 異 な る か に つ い て 、日 本 語 教 育 ネ ッ ト ワ ー ク の 日 本 語 学 習 者 会 話 デ ー タ ベ ー ス( 国 立 国 語 研 究 所 )の 初 級 学 習 者
30名 、上 級 学 習 者
19名 の デ ー タ を 用 い た 。3 章 の 教 科 書 調 査 で 提 示 さ れ る 回 数 が 最 も 多 い 非 慣 習 的 間 接 要 求 の 疑 問 文 で あ る「 ~ が あ る 」に 焦 点 を 当 て 、そ の 理 解 と 産 出 は 学 習 者 の 日 本 語 レ ベ ル の 向 上 に よ り 変 わ る か を 調 査 し た 。
そ の 結 果 、 「 ~ が あ る 」の 産 出 比 率 は 初 級 学 習 者 が 約
2% で あ り 、上 級 学 習 者 が 約 1% で あ る 。そ の た め 、学 習 者 の 心 的 辞 書 に「 ~ が あ る 」は 間 接 要 求 と し て 貯 蔵 さ れ て い な い 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。 z 検 定 で 初 級 学 習 者 と 上 級 学 習 者 の 産 出 比 率 の 有 意 差 を 確 か め た と こ ろ 、 z
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