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ウマおよび騎乗者の振動解析

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 農 学 ) 松 浦 晶 央

学 位 論 文 題 名

ウマおよび騎乗者の振動解析

―障害者用乗馬の評価の可能性一

学位論文内容の要旨

  従 来、 ウマ は主に労役や輸送手段のた めの役畜として利用されてきたが、20世紀中ごろか らこ れら の役 割は機械にとって替わられ た。ところが、この20年間で世界全体のウマの頭数 は概ね6千万頭とほ とんど変わっていない。こうした事実は従来と異なるウ マの用途が重要視 されていることを裏付けている。新たなウマの 用途として、競馬、馬術競技、長距離耐久レー ス、ホーストレッキングなどがあるが、最近急 速に需要が高まっている分野に障害者の乗馬が ある。他の用途と異なり障害者用のウマに関し ては、従来求められてきた「力、スピード、耐 久性」といった能力以外の観点が必要である。 自発的に運動する歩行や体操などと異なり、乗 馬運動ではヒトは重力以外にウマから物理的な 刺激を受げる。そのため、乗馬運動によって得 られる身体的効果は、ウマからの物理的な刺激 を検討することにより明らかになると考えられ る。ウマからの物理的な刺激はウマの運動によ って発生するため、周期的に変化しながら騎乗 者に振動として伝達される。障害者用乗馬を畜 産学的に追及するための基礎的知識として、ウ マの振動だけでなく騎乗者の振動もりズムの観 点から明確にする必要がある。ウマの振動を測 定した研究は多いが、騎乗者の振動を解析した研究はほとんどない。

  障害者の乗馬は、Riding for the Disabled Association (RDA)のインストラクションに従って、

レッスンという形で実施されることが多い。レ ッスンは認定を受けたインス卜ラクターによっ て計画および実施される。レッスンを構成する メンバーはウマ、騎乗者、およびインストラク ターの他に、ウマを曳くりーダーと、騎乗者の 左右で物理的に騎乗者を支えるサイドウォーカ ーか らな る。 イン スト ラク ター はRDAのマ ニュアルおよび自身の経験などから個々の騎乗者 に 対 し て ウ マ を 選 択 す る 。 し か し 、 ウ マ の 選 択 基 準 に 科 学 的 な 根 拠 は な い 。   以上の観点から 本研究では、1)騎乗者の振 動を測定する手法を確立し、それに関わる要因 を解析した上で2)乗馬経験者、乗馬初心者、 および障害者といった騎乗者の違いが振動に与 え る影 響を 検討し、3)ウマの体格の違いが騎乗者の 振動に与える影響、およびこれらとRDA イ ン ス 卜 ラ ク シ ョ ン に よ る 評 価 と の 関 係 に つ い て 検 討 す る こ と を 目 的 と し た 。   主な結果は次のように要約さ れる。

1) 振動測定法の確立のため、ビデオカメラを用いてトレッ ドミル上を運動する騎乗者を撮影 し、騎乗者の振動を画像情報か ら抽出する方法と、加速度計を用いて直線走路上を運動する騎 乗者の振動を加速度情報から抽 出する方法の2っを検討した 。ビデオ画像から振動を抽出した 結果 、 サン プリ ング 間隔 が182秒 と 比較 的長かったものの、振動の特徴を周波数 および振幅 の指標から把握できた。大型の 設備が必要で測定場所が限定されるトレッドミルと組み合わせ

1129

(2)

たこの 方法は、騎乗者が障害者である場合、実施が難しいと考えられた。一方、加速度記録の 積分か ら推定した位置情報に基づき振動を抽出し、振動の特徴を周波数および振幅の指標から 検討し た結果、サンプリング間隔が1/200秒とより詳細な解析が可能となった。また、障害者 の乗馬 が実際に行われる環境下で、ウマとヒトの3方向の振動を同時に測定でき、両者の振動 の関係 を把握することができた。ウマの鉛直振幅は胴体の頭部側よりも尾部側で大きかった。

一方、 ウマの前後振幅は、常歩の場合は尾部側で、速歩の場合は頭部側で大きかった。また、

騎 乗者 の振 動 の周 波数 は常 歩時 で概ね2 Hzであったのに対し、正反撞速歩時で概ね3Hzであ った。 騎乗者の振幅にもウマの歩法間で差があり、特に顕著であった鉛直振幅は、常歩時で1cm 未 満 と 小 さ く 、 速 歩 お よ び 軽 速 歩 時 で そ れ ぞ れ3.9cmお よ び4.4cmと 大 き か っ た 。 2)騎乗者聞でウマの振動や騎乗者 の振動そのものには違いがなかったが、ウマの振動と騎乗 者の振 動の鉛直方向における相互相関関係に障害者と乗馬経験者の聞で違いがあった。乗馬経 験 者の振 動はウマよりも0.1秒程度早 く、かっウマの振動との相互相関係数が0.44と低かっ た。一 方、障害者の振動はウマよりもわずかに遅れ、かっウマの振動との相互相関係数が0.73 と高か った。このことは、障害者の乗馬運動が乗馬経験者に比べてより受動的なものであった ことを 意味する。

3) RDAのインスト ラクターを騎乗者として振動測定を行い、一頭の振動測 定が終了する度ご とに 、騎 乗者 にウ マを 評価 させ た。 ウ マは、27項目の質問に対する5段階評価の質問紙法に より 評価 され た。 体高 と躯 幹幅 をも と に35頭の供試馬を4群に分類し、騎乗者の振動におけ る群問の違いを解析した。その結果、体高の低 い群では高い群に比べて、常歩時および速歩時 ともに騎乗者の振動の周波数は高く、遠歩時の 鉛直およぴ前後振幅は小さかった。躯幹の細い 群では太い群に比べて、常歩時の鉛直振幅が大 きく、一方、速歩時の左右振幅が小さかった。

ウマの評価における群聞の違いを比較したとこ ろ、次のような可能性が示された。@体高が低 いウマは騎乗者の機敏さの向上に利用できる。 ◎体高の低いウマは、サイドウォーカーを必要 とする騎乗者に利用できる。◎躯幹の太いウマ は、騎乗者の筋肉を弛緩させるため、高緊張の 騎乗者に利用できる。@躯幹の太いウマは、バ ランスの不安定な状態の騎乗者に利用できる。

一方 、RDAのイ ンス トラ クタ ーは 、上 記以 外の2つの 基準 から もウ マを評価していた可能性 が示された。すなわち、運動量、および筋肉の 協同運動といった筋骨格運動に関する基準と、

ウマの反応の良さに関する基準であった。

4)騎乗者の振動に影響を与える様々な要因 について検討した結果、ウマの体格の違いから騎 乗者の振動の特 徴を説明できることが明らかになった。すなわち、体高が低いウマは、速歩時 に騎乗者に大き な振幅を与えることがないため広く障害者の乗馬として利用できるが、躯幹が 細ければ常歩時 に大きな鉛直振幅を、躯幹が太ければ速歩時に大きな左右振幅を騎乗者に与え ることを考慮し て使い分けることが重要である。体高が高く躯幹の細いウマは、騎乗技術の高 い騎乗者には向 いているものの、障害者用としての利用は限られる。体高が高くても躯幹の太 いウマは、常歩 時に騎乗者に小さな鉛直振幅を与え、バランスの悪い騎乗者にも利用できる。

な おRDAのイ ンス トラ クシ ョン が推 奨す るウ マの 品種は、体高が低く躯幹の太い群に属する とされるが、本 研究でも体高が低く躯幹の太いウマは障害者の乗馬として適することが振動解 析の面からも裏 付けられた。

  以上のように 、本研究は、新たな利活用が期待される障害者用の乗馬について畜産学的に追 究したものであ り、ウマの体格の違いによる騎乗者の振動の違いを明らかにし、障害者用のウ マの選択法に関 して基礎的な知見を示した。

    ー1130―

(3)

学位論 文審査の要旨 主査

副査 副査 副査 副査

教授 教授 教授 助教授 講師

近藤 小林 端 上田 中辻

学 位 論 文 題 名

誠司 泰男 俊一 宏一郎 浩喜

ウマ および騎乗者の振動解析

一障害者用乗馬の評価の可能性―

  本 論 文 は7章 か ら な り 、 図20、 表20、 引 用 文 献87、 補 遺 を 含 む 、 総 頁 数99の 和 文論 文 であり 、別に3編の参 考論文 が添えら れてい る。

  使 役 馬 とし て のウ マの能カ は、「 力、スピ ード、 耐久性」 という点 から畜 産学的に 検討さ れてき た。一方 、近年 ウマはヒ トの健康やQuality of Life (QOL)向上のための利活用が多く、

その 点 で 従 来と 異 なる観点 からウ マの能カ を追究す る必要 がある。 乗馬運 動におい てヒト は 重力 以 外 に ウマ か ら物理的 な刺激 を受け、 様々な身 体的効 果を得る といわ れている 。また 最 近急 速 に 需 要が 高 まってい るウマ の用途と して障害 者の乗 馬がある が、乗 馬するこ とによ る 心理 的 効 果 に加 え てウマか らの物 理的な刺 激が大き な効果 を生むと されて いる。ウ マの運 動 によ っ て 発 生す る 物理的な 刺激は 、周期的 に変化し ながら 騎乗者に 振動と して伝達 される 。 その た め 、 乗馬 の 効果を畜 産学的 に追究す る上で、 ウマの 振動とと もに騎 乗者の振 動もり ズ ムの観 点から明 確にす る必要が ある。

  従 来 、 ウマ の カや スピード といっ た能カを 最大限 に利用す る目的で 、運動 するウマ 自体の 振動 解 析 は いく っ か行われ てきた が、以上 のような 観点か らウマと 同時に 騎乗者の 振動を 検 討し た 研 究 はほ と んどなく 、その 測定法に ついても 未開発 である。 また、 障害者の 乗馬に 関 する世 界的組織 であるRiding for the Disabled Association (RDA)においても、そのインスト ラク シ ョ ン マニ ュ アルの障 害者用 のウマの 評価は主 として 経験的で あり、 その科学 的な根 拠 は希薄 である。

  そ こ で 本研 究 は、1)騎 乗者の 振動を測 定・解析 する手 法を確立 し、2)乗馬 経験者、 乗馬 初心者 、および 障害者 といった 騎乗者の 違いが 振動に与 える影 響を明ら かにし た上で、3)ウ     ‑ 1131―

(4)

マ の体格の 違いが騎乗者の振動に与える影響、およびこれらと

RDA

インストラクションに よ る 評 価 と の 関 係 に つ い て 検 討 し た 。 得 ら れ た 結 果の 概 要は 以 下 の通 り であ る 。

1

)  騎乗者の振動測定法の確立

  

ビデオカメラを用いてトレッドミル上を運動する騎乗者を撮影し、騎乗者の振動を画像情 報から解析する方法と、加速度計を用いて直線走路上を運動する騎乗者の振動を加速度情報 から解析する方法の

2

っを検討した。加速度計を用いることにより、特殊な施設を使用する ことなく比較的簡易にウマと騎乗者の

3

方向の振動を同時に測定できた。また、加速度記録 の積分とフイルター処理によって推定した振動軌跡をフーリエ変換することにより、周波数 と振幅の2つの指標から振動の特徴を把握できた。

2

)  騎乗者の違いが振動に与える影響

  

乗馬経験者、乗馬初心者、および障害者問でウマの振動や騎乗者の振動そのものには違い がなかった。ただし鉛直方向におけるウマとヒトとの振動の関係は、乗馬経験者はウマより も

0.1

秒程度早く,振動し、相互相関係数値が0ニ44と低かった。一方、障害者の振動はウマ よりもわずかに遅れ相互相関係数値は

0.73

と高く、障害者の乗馬運動は相対的にやや受動 的であることが示唆された。

3

  

ウマの体 格の違いが 騎乗者の 振動に与える影響およぴこれらと

RDA

インストラクシ ヨンによる評価との関係

  

体 高と 躯幹幅 をもとに

35

頭の供試 馬を4群に 分類し、 加速時計を 装着した

RDA

のイン ストラクターを騎乗者として振動を解析した。その結果、騎乗者の振動の周波数は、1.7〜3Hz、 振幅は

1

5 cm

の範囲にあったが、周波数および振幅はウマの体格によって統計的に異なる ことが明らかとなった。すなわち、体高の低い群では高い群に比べて、常歩時および速歩時 ともに騎乗者の振動の周波数は高く、速歩時の鉛直および前後振幅は小さかった。躯幹の太 い群では細い群に比べて、常歩時の鉛直振幅が小さく、一方、速歩時の左右振幅が大きかっ た 。騎乗者 に各供試馬 を

RDA

のイン ス卜ラク ションマ ニュアル を基礎とした27の評価項 目について回答さ世た結果と合わせて検討すると、@高い周波数の振動を小さな振幅で与え る体高が低いウマは騎乗者の機敏さの向上に利用できる上、サイドウォーカーを必要とする 騎乗者に利用できる;◎鉛直振幅が小さぃが速歩時の左右振幅が大きい躯幹の太いウマは、

騎乗者の筋肉を弛緩させるため、高緊張の騎乗者に利用できる上、バランスの不安定な状態 の騎乗者に利用できる;などの可能性が示された。

  

以上のように本研究は、ウマの評価についてウマおよび騎乗者の振動という従来なかった 観点から追究し、測定方法および解析方法を確立した上で、ウマの体格の違いによる騎乗者 の振動の違いを明らかにした。これらはウマの評価について新たな知見を示したものであり

    

1132

(5)

学術面において高く評価され、障害者用の乗馬の科学的選択法の確立といった応用面での貢 献も大きい。

  

よって審査員一同は、松浦晶央が博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格を有する ものと認めた。

1133

参照

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