博 士 ( 医 学 ) 木 住 野 達 也 学 位 論 文 題 名
UBE3AIE6AP mutations cause Angelman Syndrome
( ア ン ジ ェ ル マ ン 症 候 群 に お け るUBE3A/E6AP突然 変 異 に 関 す る 研 究 )
学位論文内容の要旨
アン ジェ ルマ ン症 候群 くAS)は精 神遅 滞、 てん かん 、失 調歩 行、 容易 に引き起こされる 笑 い を 特 徴 と し 、 ゲ ノ ム 刷 り 込 み(genomiCimpnnting)が その 発症 機構 に関 与し てい る 代 表 的 な 疾 患 の ー つ で あ る 。ASの 約70% は 母 由 来15q11ー13のdenovo欠 失 、 約2% は 15番 染 色 体 の 父 性片 親性 ダイ ソミ ー、2―3% はゲ ノム 刷り 込み の突 然変 異(imprinting mutation)によるものである。残り25%(NDUI)は上記いずれの異常も認められず家族性発 症 例 で あ る こ が 多い こと から 、母 由来15番染 色体 から もっ ぱら 発現 され るAS遺伝 子の 突 然 変異 によ るも ので ある と推 定さ れて いる 。AS遺伝子座位は非均衡型転座AS症例の解析、
家 族 性AS症 例 の 連 鎖 解 析 か らpTD3ー21(D15S10) とD15S122の 間 と さ れ て い る 。 今回 我々 は15q11ー13に切断 点を 持っ たパ ラセ ント リッ ク逆 位染 色体 が正常表現型母親 か ら 娘 に 伝 え ら れる こと によ り発 症し たAS逆 位症 例を 経験 した 。こ の症 例の 切断 点はAS 遺 伝 子 座 位 の 近 位末 端と され るD15S10のさら に近 位に 位置 する こと から 、母 由来 対立 遺 伝 子 か ら の み 発 現す るAS遺伝 子が 逆位 によっ て不 活化 され たた めに 娘にASが 発症 した と 考 え、 その 逆位 切断 点に また がっ て広 がるP1ファージクローンからエクソントラッピング 法 を用 いエ クソ ンの 単離 (ト ラッ プ) を試 みた 。エ クソン トラ ッピ ング 法により4個のエ ク ソ ン が ト ラ ッ プ さ れ 、 こ れ ら4個 の ト ラ ッ プ さ れ た エ ク ソ ン と 既 知 の 遺 伝 子 、 eXpreSSedSequenCetagくEST) と の 相 同 性 をGenebankに て 検 索 し た と こ ろ、1つ のエ ク ソ ン が マ ウ スEST(W14234) と 高 い 相 同 性 を 示 し た 。 逆 にW14234のGenebankに お け る相同性の検索から、トラップされたエクソンはヒト[ー瑠E3AくE印や)遺伝子の一部である 可 能 性 が 考 え ら れ た た め 、 ヒ ト 胎 児 脳 のcDNAlibraryか らu斑 泓 のcDNAク ロー ン の 単 離 を試 みた 。最 長〔 ′BE3AcDNAク ロー ンの 解析 から 、トラ ップ され た4個のエクソンのう ち3個 は て ′B酪4の5 末 端 の エ ク ソ ン の 一 部で あり 、AS逆位 症例 ではu醗弼Aの5 末 端 部が逆位により断裂されていることが明らかとなった。
以上AS逆 位症 例の ポジ ショ ナル クロ ーニ ングの結果より〔′BE3AをASの候補遺伝子と考 え 、22例 のNDUIのAS患 児 (13例 は 非 家 族 性 発 症 例 、9例 は5家 族 か ら の 家 族 性発 症例 ) に てUBE3.Aに おける突然変異を検索したところ、非家族性発症例1例、家族性発症例2例に て 瑠醜4遺 伝子 の突然変異を認めた。家族性発症例における点突然変異は正常表現型母親に も認められ、て′ BE3Aの母性ゲノム刷り込みが示唆された。
AS遺 伝子はそ の遺伝形 式と表現 型の関係か ら、母性 対立遺伝 子におい てもっぱら発現し て いると予 想される が、Nakaoらに よるRrI丶l・PCRアッセイによれば、UBE3Aは母由来染色 体15qllー13に 欠 失 を 持つAS症例 のlymphoblast,fibroblastにお い ても 発 現 して い る こ と が 示さ れ ている 。これはUBE3Aが母由来 対立遺伝 子のみか ら発現して いるわけ ではな い ことを示 している が、最近 では種々の 遺伝子で ゲノム刷 り込みの 組織特異性、発生期特 異 性、種特 異性、プ ロモータ ー特異性或 いは部分 的なゲノ ム刷り込 みが報告されている。
今 後UEB3Aに おけ る ゲ ノム 刷 り 込み の 組織 特 異性、発 生期特異 性の解析に は、UBE3Aの多 型解析を用いた詳細な検索必要である。
UBE3Aは ヒ トパ ピ ロー マ ウ イル ス がコ ー ド する タ ンパ ク の 質の ー つ であ るE6が、が ん 抑 制 遺 伝子 産 物であ るp53とin vitroで結 合するの に必要な タンバク 質として単 離された こ と か ら 、 当 初E6−associate protein (E6AP)と 呼 ば れ た 。 こ の タ ン パ ク 質 はhect clomainくhomologus to.the E6AP carboxyl terminus)で 定 義 され る ユピ キチン リガー ゼ として機 能してい るE3夕ンバ ク質のーつ であり、El(ユピキ チン活性 化酵素)、E2(ユ ピ キチン結 合酵素) と複合酵 素系を構成 し、エネ ルギー依 存的なタ ンバク質分解系におけ る タ ン パク 質 のユピ キチン化 を担って いる。UBE3AはE2からユピ キチンを受 け取り基 質を ユ ピキチン 化するだ けでなく 、基質の認 識にも関 与するこ とが最近 明らかになっている。
中 枢神経系 の発達に おけるユ ピキチン化 によるタ ンパク質 分解の役 割は、E2として同定 さ れ た ショ ウ ジョ ウ バ 工bendless遺 伝 子に みる ことがで きる。こ のタンパク 質はある 種 の 中枢神経 ニューロ ン間のシ ナプス接合 の変化及 び視覚系 の発達に 関与していることが示 さ れ て いる 。 ヒトの 脳の発達 におけるUBE3Aの正常な 機能は、 特殊なタン バク質の ユピキ チ ン化によ る分解、 又は不活 性前駆体か ら活性夕 ンバク質 生成への ユピキチン化によるタ ンバク質分解に関与しているのかもしれない。A.・Sのほとんどの表現型は脳の発達、機能異 常 に関与し ているこ とから、 て瑠E誚のゲ ノム刷り込みには組織特異性が関与していると恩 わ れ る 。脳 の 発達 に お けるUEB3Aの 標 的夕 ン パク質は 知られて おらず、UBE3Aの 標的基質 は 現 在 のと こ ろp53以外 に同定さ れていず 、またヒ 卜パピロ ーマウイル スに感染 していな い細胞でのUBE3Aによるp53の分解の報告もない。
以上、ASにおける〔忸E3.A(E6AP)の突然変異の解析から、〔′BE誚(E6AP)の突然変異が ASの 原因 の ひと つ で ある こ と が示 さ れ、 正 常な脳 の発達に 不可欠なユ ピキチン を介した タンバク質分解が、ASでは阻害されていることが示唆された。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
UBE3A/E6AP mutations cause Angelman Syndrome
( ア ン ジ ェ ル マ ン 症 候 群 に お け るUBE3A/E6AP突 然 変 異 に 関 す る 研 究 )
アン ジェルマ ン症候群(AS)は精神遅 滞、てん かん、失 調歩行、容 易に引き 起こされる笑 いを 特徴とし 、ゲノム 刷り込み(genomic imprinting)がその発症機構に関与している代表的 な 疾 患の ー つ であ る 。ASの 約70% は母 由 来染 色 体15qll‑13のde novo欠失、約2%は15番 染色 体の父性 片親性ダ イソミー、2‑3%はゲノム刷り込みの突然変異(imprinting mutation) によ るもので ある。残 り25%は上 記いずれ の異常も 認められず 家族性発 症例であ るこが多 しゝことから nondeletion/n on‑UPD/non‑imprinting(NDUI)と区別され、これは母由来15番染色 体か らもっぱ ら発現さ れるAS遺伝子の突然変異によるものであると推定されている。なお、
AS遺伝子座位はpTD3‑21(D15Sl0)とD15 S192の間とされてしゝる。
本研究は15 qll. 13に切断点を持ったパラセントリック逆位染色体が正常表現型母親から 娘に 伝えられ ることに より発症 したAS逆位 症例の切 断点がAS遺伝 子座位の 近位末端 とされ るD15Sl0の さ ら に近 位 に位 置 す るこ と から 、 母 由来 対 立遺伝子 からのみ発 現するAS遺 伝 子が 逆位によ って不活 化されたために娘にASが発症したと考え、その逆位切断点にまたがっ て広 がるPlファ ージクロ ーンから エクソン トラッピ ング法を用 いエクソ ンの単離 (トラッ プ) を試みた ものであ る。エク ソントラ ッピング 法により4個のエクソンがトラップされ、
これら4個のトラップされたエクソンと既知の遺伝子、expressed sequence tagくEST)との相 同 性 をGenebankに て 検 索 し た と こ ろ 、1つ の エ ク ソ ン が マ ウスEST (W14234)と 高い 相 同 性 を示 し た 。逆 にW14234のGenebankに おけ る 相同 性 の検索か ら、トラ ップされた エク ソ ン は ヒ トUBE3A(E6AP)遺 伝 子 の 一 部 で あ る 可 能 性 が 考 え ら れ たた め 、 ヒト 胎 児脳 の cDNA libraryか らUBE3AのcDNAク ロ ー ン の 単 離 を 試 み た 。 最 長UBE3Ac DNAク ロー ン の 解 析 から 、 ト ラッ プ され た4個 の エク ソ ンの う ち3個 はしrBE3Aの5 末端のエ クソンの 一 部 で あり 、AS逆 位 症例 で はUBE3Aの5 末端 部 が逆 位 によ り断裂さ れているこ とが明ら か と な った 。AS逆 位 症例 の ポ ジシ ョ ナ ルク ロ ーニ ン グ の結 果 よりUBE3AをASの候 補 遺伝 子 と考 え、22例のNDUIのAS患児(13例は非家 族陸発症 例、9例は5家族からの 家族性発 症例)
に てUBE3Aに おけ る 突然 変 異を検索 したとこ ろ、非家 族性発症 例1例、家族 性発症例2例に
彦 雄
明
邦 邦
光
林 代
沼
小 田
柿
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
UBE3A:遺 伝子 の突 然変異 を認 めた 。家 族性発症例における点突然変異は正常表現型母親に も認められ、UBE3Aの母性ゲノム刷り込みが示唆された。
AS遺伝 子は その 遺伝形 式と 表現 型の 関係から、母性対立遺伝子においてもっぱら発現し て い る と予 想され るが 、Nakaoらに よるRT‑PCRアッ セイ によ れば 、UBE3Aは 母由 来染 色体 15qll‑13に欠失を持つAS症例のlymphoblast,fibroblastにおいても発現していることが示さ れて いる 。こ れはUBE3Aが母 由来 対立 遺伝 子の みから 発現 して いる わけではないことを示 して いる が、 最近 では種 々の 遺伝 子で ゲノム刷り込みの組織特異性、発生期特異性、種特 異性 、プ ロモ ータ ー特異 性或 いは 部分 的な ゲノ ム刷 り込 みが 報告 されている。今後UEB3A にお ける ゲノ ム刷 り込み の組 織特 異性 、発 生期 特異 性の 解析 には 、UBE3Aの多型解析を用 いた詳細な検索必要である。
UBE3Aは ヒ ト バ ピ ロ ー マ ウ イ ル ス がコ ード する タン バク の質 のー つであ るE6が、 がん 抑制 遺伝 子産物であるp53とin vitroで結合するのに必要なタンバク質として単離されたこ とか ら、 当初E6‑associate protein (E6AP)と呼ばれた。このタンノヾク質はhect domain (homologus to the E6AP carboxyl terminus)で定義されるユビキチンリガーゼとして機能し てい るE3夕ン バク 質のー つで あり 、El(ユ ビキ チン活 性化 酵素 )、E2(ユビキチン結合酵 素) と複 合酵 素系 を構成 し、 エネ ルギ ー依存的なタンバク質分解系におけるタンバク質の ユビ キチ ン化 を担 ってい る。UBE3AはE2か らユ ビキチ ンを 受け 取り 基質をユビキチン化す るだ けで なく 、基 質の認 識に も関 与す ることが最近明らかになっている。中枢神経系の発 達に おけ るユ ビキ チン化 によ るタ ンパ ク質分解の役割は、E2として同定されたショウジョ ウノヾエbendless遺伝子にみることができる。このタンバク質はある種の中枢神経ニューロ ン間 のシ ナプ ス接 合の変 化及 ぴ視 覚系 の発達に関与していることが示されている。ヒトの 脳の 発達 にお けるUBE3Aの正 常な 機能 は、 特殊 なタン バク 質の ユビ キチン化による分解、
又は 不活 性前 駆体 から活 性夕 ンバ ク質 生成へのユビキチン化によるタンバク質分解に関与 して いる のか もし れない 。ASのほ とん どの表現型は脳の発達、機能異常に関与しているこ とか ら、UBE3Aのゲ ノム 刷り 込み には 組織 特異 性が関 与し てい ると 思われる。脳の発達に お け るUEB3Aの 標 的 夕 ン パ ク 質 は 知 ら れ て お ら ず 、UBE3Aの 標的 基 質 は 現 在 の と こ ろ p53以 外 に 同 定 さ れ て い ず 、 ま た ヒ ト バ ピ ロ ー マ ウ イ ル ス に 感染 し て い な い 細 胞 で の UBE3Aによるp53の分解の報告もない。
以 上、ASにおけるUBE3A(E6AP)の突然変異の解析から、び.BE3A(E6AP)の突然変異が ASの原因のひとつであることカミ示され、正常な脳の発達に不可欠なユビキチンを介したタ ンパク質分解が、ASでは阻害されていることが示唆された。
公開発表に際し、副査の柿沼教授から変異遺伝子とimprintingの関係、metylationと癌化 の関 係、 ユピキチンpathwayについて、患者の免疫機構の変化の有無、副査の田代教授から 遺伝 子変 異や 欠損 での臨 床像 の差 異の 有無、人種間での発症頻度の差、米国における本疾 患の登録の現況、主査の小林教授からimprintingの部位について、等の質問があったが、申 請者はほぼ妥当な回答をした。
審 査員 一同 は、 これら の成 果を 高く 評価し、申請者が博士(医学)の学位を受けるに充 分な資格を有するものと判定した。