がん患者にどう向き合えばいいか
-こころのケアを考える
第22回生涯教育研修会 東京医科歯科大学大学院 心療・緩和医療学分野松 島 英 介
2016.07.16日本精神神経学会
利益相反(COI)開示
松島英介 演題発表に関連し、開示すべきCOI関係にある企業等として、 ①顧問:なし ②株保有・利益:なし ③特許使用料:なし ④講演料:MSD株式会社 日本イーライリリー株式会社 ファイザー株式会社 ⑤原稿料:なし ⑥受託研究・奨学寄付金等:なし ⑦贈答品などの報酬:なしなぜ、精神科医に
がん患者への対応が求められるのか?
多くの日本人ががんに罹患する。
がんは「今でも死を意識せざるを得ない病気」
である。
何らかの精神疾患の診断がつかなくても、
患者のこころへの対応が必要とされる。
3がん患者にどう向き合えばいいか
4
がん告知を受けたときの
時間 症状・検査 がん告知 「頭が真っ白になった」 「何かの間違いでしょ」 「何で自分が」 「自分に限ってそんな」 「もう駄目だ」 日 常 生 活 へ の 適 応 不安 衝撃 否認 絶望 怒り 疑惑
がん告知を受けたときの
通常の心理的反応
日常生活に支障なし}
0 50 2週 日 常 生 活 へ の 適 応
時間
症状・検査 「眠れない」 「食事がのどを通らない」 「集中できない」 「どきどきする」 「気持ちが滅入る」 不安 衝撃 否認 絶望 怒り 疑惑 日常生活に支障なし がん告知がん告知を受けたときの
通常の心理的反応
食欲低下 集中力低下 不安・抑うつ気分 不眠 6}
2週
時間
症状・検査 現実的対応 情報収集 楽観的見通し 日 常 生 活 へ の 適 応 不安 衝撃 否認 絶望 怒り 疑惑 孤立感・疎外感 「自分だけ違う世界 に放り込まれて…」 日常生活に支障なし}
がん告知がん告知を受けたときの
通常の心理的反応
0 食欲低下 集中力低下 不安・抑うつ気分 不眠 7 がんを患い、5年生存率は20~30%だと 担当医に宣告されました。ショックは想像 を絶するものでした。一人になると、声を 押し殺しながら、肩を震わせました。 深呼吸をし、涙を拭い、平静を装うような 日々を続けていました。 (渡辺和代.朝日新聞声欄,2016) 8 がんが患者に与える苦しみの大半は、がんの 症状そのものではなく、「自分はがんである」と 知っていることによる苦しみである。 (谷川啓司. がんを告知されたら読む本, 2015)
がんの告知後の自殺と心血管性死亡
(Fang F et al. N Engl J Med 366: 1310-1318, 2012)
がんの診断の告知後の患者の自殺(心のストレス) と心血管性死亡(身体のストレス)を調べた。 がんでない者に比べて、がん告知後最初の 1週間の自殺は 12.6倍、 3か月の自殺は 4.8倍、 1年間の自殺は 3.1倍、 それぞれ増加していた。 がんでない者に比べて、がん告知後最初の 1週間の心血管性死亡は 5.6倍、 1か月の心血管性死亡は 3.3倍、 それぞれ増加していた。 診断の告知後の患者の心>身の負担がいかに大きいかがわかる。 9
長期生存:治癒
がんの経過における告知
がんの疑い(症状・検診) 診察・検査 診断 治療 再発・進行 抗がん治療の中止 終末期 10不意打ちの告知
(加藤 敏. 精神科治療学 26: 965-974, 2011) 病名の告知を医師の側から一方的な形で行うと、 「不意打ちの病名告知」あるいは「不発の病名告知」 につながり、患者への影響力が大きくなる。 14 11コミュニケーション技術研修
このため、日本のがん患者を対象に告知に対する希望を 調査し、その結果として、 ・告知の際には落ち着いた環境を整える。 ・患者の理解度をみながら意思を確認する。 ・患者が質問しやすい雰囲気を作り、日常生活や仕事 についても話し合う。 ・患者の気持ちを理解し、適切な対応をする。 ・家族にも配慮する。 など、告知をする際の効果的なコミュニケーションの 方法を‘SHARE’(内富庸介, 藤森麻衣子編, 2007)として まとめ、それを用いた研修が、がん診療に携わる医師 に対し行われている。 2017年6月までに、がん診療連携拠点病院に所属するが ん診療に携わる医師の9割以上の受講完了が目標 となっている。(厚生労働省計画書, 2015) 16 12 全国で427病院(2016年4月1日)コミュニケーション技術研修を受けると…
患者の意向を取り入れたSHAREというコミュニケーション 技術研修を受けた医師から診察されたがん患者は、 同研修を受けなかった医師から診察されたがん患者に 比べ、うつ状態になりにくいことがわかった。 17(Fujimori M et al. J Clin Oncol 32: 2166-2172, 2014)
がんと心的外傷後ストレス症状(PTSS)
がんの診断後1か月の時点で28%に急性ストレス障害の 診断がなされ、その後6か月の時点で22%、12か月の時点 で14%にそれぞれPTSDが診断される。 PTSDの診断基準には至らないまでも、PTSDにみられる 症状(PTSS)が部分的に認められるがん患者は多い。 外傷的な出来事の再体験症状が13~46%、 外傷と関連した刺激の回避・全般的反応性の 麻痺症状が4~11%、過覚醒症状が9~32% に認められる。(Kangas M et al. J Consult Clin Psychol 73: 763-768, 2005)
(Gurevich M et al. Psychosomatics 43: 259-281, 2002)
(西 大輔ほか.緩和医療学 7: 128-136, 2005)
がん患者によく見られる心的防衛機制
15 否認 受け入れることができない強い心理的苦痛から自分を守ろう とするために起こる心的メカニズムをいう。 例)認知症はないのに病状の理解が進まない。 ⇒対応としては、医療者が必要だと判断したことが患者に 受け入れられないことを非難したり無理強いすることなく、 穏やかな直面化を繰り返す。 怒り 怒りを沸かせる対象ではないものにその感情を抱いたり、 ぶつけたりする置き換えという心的メカニズムをいう。 例)面会に来ない家族への怒りを看護師にぶつける。 ⇒怒りの背景にある患者の状況を理解して対応する。 いずれも患者に陰性感情を抱かないことが重要である。 告知の際は誰もが一時的に不安・抑うつになるもの であり、それは通常の心理的反応である。しかし、 外傷体験として残ってしまうことも多い。 このようなことは、がんの経過中に何度も体験する 可能性があり、そのたびに同じような心理的反応を することになる。 心身へのストレスのために、自殺や心血管性死亡 に致る患者もおり、がん患者のストレスやこころに 目を向ける必要がある。 医師がコミュニケーション技術研修を受けることに よって、患者の意向を取り入れた告知の仕方を学ぶ ことができ、患者にとって不意打ちの告知にならない ようにすることができる。
がん告知を受けたときの
心理的反応のまとめ
16がん患者の
うつ状態
2週
時間
日 常 生 活 へ の 適 応 適応障害 うつ病 うつ状態 ↓ 日常生活に 支障を来す 日常生活に支障なし がん告知がん告知を受けたときの
対応が必要な心理的反応
0}
18がんと精神疾患(臨床面接による診断)
19 (Mitchell AJ et al. Lancet Oncol 12: 160-174, 2011)
がん治療 (70研究10,071名) 緩和ケア (24研究4,007名) 大うつ病 DSMないしICD DSM 小うつ病 DSM 適応障害 不安障害 気分変調症 大・小うつ病ないし気分変調症 うつ病ないし適応障害 うつ病・適応ないし不安障害 16.3% 14.9% 19.2% 19.4% 10.3% 2.7% 20.7% 31.6% 38.2% 16.5% 14.3% 9.6% 15.4% 9.8% - 24.6% 24.7% 29.0% がん患者に対する臨床面接をもとに精神科診断をおこなった94編の 研究のメタ解析 19
がん患者のうつ状態と関係した要因①
若年 うつ病の家族歴 うつ病の既往 がん以外の身体疾患 薬物 副腎皮質ステロイド 化学療法薬 がん関連要因 進行がん 低い身体活動性 身体的負荷 疼痛 疲労感 腫瘍部位 膵臓 頭頚部 【生物学的要因】(Miller K et al. Depressive disorders. [Holland JC et al, eds] Psycho-Oncology, second
がん患者のうつ状態と関係した要因②
【心理的要因】 関係性 支援の乏しさを自覚 心配性あるいは回避傾向 心的態度 楽観的傾向が少ない 否定的感情を表出できない 低い自己評価 乏しい社会的支援 低い社会的機能 最近の喪失体験 ストレスの多いライフイベント 心的外傷/乱用の既往 物質使用障害 【社会的要因】(Miller K et al. Depressive disorders. [Holland JC et al, eds] Psycho-Oncology, second
22
がん患者の適応障害・うつ病がもたらす影響
自殺の最大の原因
QOLの全般的低下
家族の精神的負担増大
治療コンプライアンス低下
入院期間の延長
身体症状の増強
がんによる死亡率の上昇
(Colleoni M et al. Lancet 356: 1326-1327, 2000) (Henriksson MM et al. J Affective Dis 36: 11-20, 1995) (Grassi L et al. J Pain Symptom Manage 12: 300-307, 1996)
(Cassileth BR et al. Cancer 55: 72-76, 1985)
(Prieto JM et al. J Clin Oncol 20: 1907-1917, 2002) (Lloyd-Williams M et al. Palliat Med 18: 558-563, 2004)
22
81%
61%
53%
(McDonald MV et al. Oncol Nurs Forum 26: 593-599, 1999)
15%
29%
33%
4%
10%
14%
23看護師によるがん患者のうつ病の認識
がん患者のうつ病と看護師による評価の一致率
患者1109名 患者のうつ病の程度 看護師による うつ病の評価なし
軽い
重い
重い
なし
軽い
23一般のうつ病-診断基準
24 興味や喜び の喪失 抑うつ気分 無価値感 ・罪責感 自殺念慮 焦燥 ・制止 食欲減退 睡眠障害 易疲労感・ 気力減退 集中力・思考力減退 のどちらか1つを含む5つ以上の症状が2週間続く場合に うつ病エピソードと診断される(DSM-5 診断基準) 2425
がん患者の身体症状
肺がん患者121名(非小細胞がん69名、小細胞がん52名)について、 その身体症状を調べた。 身体症状 非小細胞がん 小細胞がん 倦怠感 84% 79% 活動性低下 81% 63% 食欲低下 57% 60% 体重減少 54% 52% 疼痛 48% 54% ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・(Hollen PJ et al. Eur J Cancer 29A Suppl 1: S51-S58, 1993)
がん患者で認められる、これらのがん自体の症状や治療による 副作用は、従来のうつ病の身体症状と重なるところが大きい。
出現頻度
がん患者のうつ病を疑うには…
26 興味や喜び の喪失 抑うつ気分 無価値感 ・罪責感 自殺念慮 焦燥 ・制止 食欲減退 睡眠障害 易疲労感・ 気力減退 集中力・思考力減退 で示した症状は、がんそのものの症状やがん治療の 副作用としても出現する がんの症状や副作用では説明できないような の症状が 新たに出現した場合は注意。 26治療のポイント
精神療法は、支持的精神療法を基本的な治療技法として、 治療者の逆転移に十分な注意を払いながらアプローチする。 適応障害や軽症のうつ病では、精神療法だけで対応できる 場合も多い。 27 (明智龍男ほか.精神科治療学 18: 571-577, 2003) 2728
薬物療法(1)
うつ状態の重症度によって使用する向精神薬を選択する。 比較的軽症ではロラゼパム(ワイパックス® )、アルプラ ゾラム(ソラナックス®、コンスタン® )などが有用である。 その際、オピオイド使用中の患者では眠気、高齢者や全身 衰弱者・骨転移患者ではふらつき・全身倦怠感などに注意 して用いる。 軽症~中等症では、選択的セロトニン再取り込み阻害薬 (SSRI)のセルトラリン(ジェイゾロフト® )、エスシタロプラム (レクサプロ® )や、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み 阻害薬(SNRI)のミルナシプラン(トレドミン® )、デュロキセ チン(サインバルタ® )、ベンラファキシン(イフェクサー®) が用いられる。 いずれも5-HT3受容体刺激作用により吐気や嘔吐などの 消化器症状が、抗がん剤使用時の嘔気・嘔吐、食欲低下 と重なるので注意する。またSNRIはα1受容体刺激作用 によりオピオイド使用時の排尿障害を増強するので慎重 に用いる。 2829 SSRIやSNRIで効かない場合や重症のうつ状態には、 ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬 (NaSSA)であるミルタザピン(レメロン® 、リフレックス®)や 三環系抗うつ薬(特に抗コリン作用や心毒性が比較的少な いアモキサピン(アモキサン®)やノルトリプチリン(ノリトレン®) を適宜用いる。 その際は、抗ヒスタミン作用がオピオイド使用時の眠気を 増強したり、三環系抗うつ薬では抗コリン作用がオピオイド 使用時の口渇・便秘・排尿障害・眠気・せん妄を助長したり するので注意する。 経口が困難な場合は、クロミプラミン(アナフラニール®)の 点滴静注が主体となるが、抗コリン作用が問題になる。 スルピリド(ドグマチール®)も筋注で(適応外で点滴静注でも) 用いられるが、特に高齢者で長期に使用すると錐体外路症 状が出現する可能性がある。 29
がん患者のうつ状態に対する薬物療法(2)
がん患者のうつ状態のまとめ
がん患者においては、うつ病ないし適応障害が多く、 なかでも病名告知などに伴う反応性の要素が強い。 生物学的、心理社会的要因が多く、こうした要因を 取り除くことも重要である。 QOLの全般的低下や治療コンプライアンスの低下 をきたし、ひいては死亡率にも影響を与える。 がんそのものや治療による副作用と重なる身体症状 が多いため、診断が難しい。 治療は支持的精神療法を主体にし、向精神薬の選択 にあたっては副作用のプロフィールによって使い分けを する。 30 3031
31
がん患者のせん妄の有病率
32
(Hosie A et al. Palliat Med 27: 486-498, 2013)
せん妄 入院時 13.3~42.3% 入院中 26~62% 終末期 58.8~88% がんの病期やせん妄の診断基準によってかなりの幅がみられて おり、とくに終末期はその差が大きい。 32
33
古いせん妄の診断基準
A. 外的刺激に対して注意(attention)を維持する能力の減少、および新しい外的 刺激に対して十分に注意を転ずる能力の減少 B. まとまりのない思考(disorganized thinking)で、とりとめのない、無関係なまた は滅裂な会話に示される C. 以下のうち少なくとも2項目: (1) 意識(consciousness)水準の低下 (2) 知覚障害(perceptual disturbance):誤解、錯覚、あるいは幻覚 (3) 不眠または日中の眠気を伴う睡眠覚醒リズムの障害(sleep disturbance) (4) 精神運動活動性の増加または減少(psychomotor agitation or retardation) (5) 時間、場所、または人物に対する見当識障害(disorientation) (6) 記憶の障害(memory disturbance) D. 短期間(通常、数時間から数日)で発現し、1日の経過に伴って変動し (fluctuate) やすい臨床像 E. 病歴、身体的診察、臨床検査から、その障害に病因的関連を有すると判断 される特異的器質性因子の証拠がある.または、そのような証拠はないが、 その障害が如何なる非器質性精神障害によっても起こっていないならば、 器質性因子が病因であるとみなすことができる (APA. DSM-III-R, 1987) 3334
新しいせん妄の診断基準(1)
A. 注意(attention)の障害(すなわち、注意の方向づけ、集中、維持、転換する 能力の低下)および意識(consciousness)の障害(環境に対する見当識の 低下) B. その障害は短期間のうちに出現し(通常数時間~数日)、もととなる注意 および意識水準からの変化を示し、さらに1日の経過中で重症度が変動 (fluctuate)する傾向がある C. さらに認知(cognition)の障害を伴う(例:記憶欠損、失見当識、言語、 視空間認知、知覚) D. 基準AおよびCに示す障害は、他の既存の、確定した、または進行中の 神経認知障害ではうまく説明されないし、昏睡のような覚醒水準の著しい 低下という状況下で起こるものではない E. 病歴、身体診察、臨床検査所見から、その障害が他の医学的疾患、物質中毒また は離脱(すなわち、乱用薬物や医療品によるもの)、または毒物への暴露、または 複数の病因による直接的な生理学的結果により引き起こされたという証拠がある (APA. DSM-5, 2013) 34せん妄の位置付け(1)
意識の 障害 Ⅰ Ⅱ Ⅲ 認知の障害 刺激に対する反応が落ちる 周囲の状況への理解が悪い 意識清明 昏睡 嗜眠 傾眠 せん妄JCS (Japan Coma Scale)
Ⅰ.刺激しないで覚醒している状態 1.ほぼ意識清明だが、今ひとつはっきりしない 2.見当識(時・場所・人の認識)に障害がある 3.自分の名前や生年月日が言えない Ⅱ.刺激すると覚醒する状態 10.普通の呼びかけで目を開ける 「右手を握れ」などの指示に応じ、言葉も 話せるが間違いが多い 35
せん妄の位置付け(2)
意識の 障害 Ⅰ Ⅱ Ⅲ 認知の障害 刺激に対する反応が落ちる 周囲の状況への理解が悪い 意識清明 昏睡 嗜眠 傾眠 せん妄 36(European Delirium Association and American Delirium Society. BMC Med 12: 141, 2014)
JCS (Japan Coma Scale)
Ⅰ.刺激しないでも覚醒している状態 1.ほぼ意識清明だが、今ひとつはっきりしない 2.見当識(時・場所・人の認識)に障害がある 3.自分の名前や生年月日が言えない Ⅱ.刺激すると覚醒する状態 10.普通の呼びかけで容易に目を開ける 「手を握れ」などの指示に応じ、言葉も 話せるが間違いが多い 20.大きな声または体を揺さぶることにより目を 開ける 「手を握れ」などの簡単な命令に応じる 30.痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すと、 かろうじて目を開ける Ⅲ.刺激をしても覚醒しない状態 DSM-5では検査や問診で注意障害を証明でき ないくらい眠気の強い状態も含める方がいい
せん妄の位置付け(2)
意識の 障害 Ⅰ Ⅱ Ⅲ 認知の障害 刺激に対する反応が落ちる 周囲の状況への理解が悪い 意識清明 昏睡 せん妄 3738 ▶該当すれば特定せよ 過活動型:その人の精神運動活動の水準は過活動であり、 気分の不安定性、焦燥、および/または医療に対する 協力の拒否を伴うかもしれない 低活動型:その人の精神運動活動の水準は低活動であり、 昏迷に近いような不活発や嗜眠を伴うかもしれない 活動水準混合型:その人の注意および意識は障害されて いるが、精神運動活動の水準は正常である.また、活 動水準が急速に変動する例も含む (APA. DSM-5, 2013)
新しいせん妄の診断基準(2)
38せん妄の亜型別頻度
対象別 研究数 (症例数) 低活動型 過活動型 混合型 なし コンサルテーション -リエゾン依頼 6 (413) 15% (0-32) 59% (36-79) 26% (15-48) - 高齢者 14 (1595) 32% (13-46) 25% (10-81) 28% (12-52) 15% (0-31) がん/HIV 11 (865) 51% (10-84) 31% (3-71) 15% (5-64) 3% (0-19) 39(Meagher D. Int Rev Psychiatry 21:59-73, 2009)
せん妄の病因
せん妄の病因は多要因であるが、一般に
準備因子(predisposing factors)
誘発因子(contributing factors)
直接因子(precipitating organic factors)
の3つの要素に分けられる。
がん患者ではとくに直接因子の役割が大きい。
40
(Lipowski ZJ. Delirium: Acute Confusional States, 1990)
準備因子
身体的・精神的脆弱性
に関する要因を示す。
60歳以上
脳器質疾患、認知症
慢性腎、心、肝
または肺疾患
アルコールまたは
鎮静睡眠剤嗜癖
せん妄または機能性
精神病の既往
41 41誘発因子
環境変化やそれに対す
る心理的反応を示す。
集中治療室での感覚
環境( 感覚遮断、過
剰感覚負荷)
睡眠剥奪
強制的安静臥床
心理的ストレス
42
直接因子
身体疾患や薬物を表す 副腎皮質ホルモン、麻酔前投薬(抗コリン剤)、麻酔薬、 鎮痛薬(特に麻薬性鎮痛薬)、抗不整脈薬(リドカイン)、 抗がん剤を含む薬物中毒 代謝性障害:低酸素血症、低血糖または高血糖、電解 質異常、脱水、アシドーシス・アルカローシス、肝または 腎不全 循環動態障害:低血圧、低心拍出量、心不全 呼吸障害:呼吸低下または無呼吸、肺塞栓 感染症:肺炎、敗血症、菌血症 急性脳障害:外傷、浮腫、卒中、脂肪塞栓、転移腫瘍 アルコールまたは鎮静睡眠剤離脱症候群 栄養不良、ビタミン欠乏 42(Vasilevskis EE et al. Best Prac Res Clin Anaest 26: 277–287, 2012)
せん妄の発症における
患者の脆弱性と促進因子との関係
患者の脆弱性 (準備因子) 促進因子 (誘発・直接因子) 若年・認知症が ない・併存する 負荷が低い 老年・認知症 ・併存する 負荷が高い 重篤な敗血症 尿路感染症 43 43患者の脆弱性 (準備因子) 促進因子 (誘発・直接因子) 重篤な敗血症 尿路感染症 44 高齢・認知症 ・併存する 負荷が高い
せん妄の発症における
患者の脆弱性と促進因子との関係
(Vasilevskis EE et al. Best Prac Res Clin Anaest 26: 277–287, 2012)
44
(Vasilevskis EE et al. Best Prac Res Clin Anaest 26: 277–287, 2012) 患者の脆弱性 (準備因子) 促進因子 (誘発・直接因子) 若年・認知症が ない・併存する 負荷が低い 老年・認知症 ・併存する 負荷が高い 重篤な敗血症 尿路感染症 45 若年・認知症が ない・併存する 負荷が低い 重篤な敗血症
せん妄の発症における
患者の脆弱性と促進因子との関係
45(Lawlor PG et al. Arch Intern Med 160: 786-794, 2000) 緩和ケア病棟入院後、せん妄が出現したがん患者71名
せん妄の直接因子とその治療可能性
1 オピオイド 高い 2 脱水 高い 3 代謝異常 低い 4 低酸素脳症(呼吸器感染症による) 低い 5 その他の感染症 低い 6 薬剤(オピオイド以外) 高い 7 血液学的異常 - 8 頭蓋内病変 - 9 低酸素脳症(肺がん、転移性肺がんによる) 低い 10 アルコール等の離脱 - 頻度 直接因子 可逆性 46 46がん患者のせん妄がもたらす影響
自律的意思決定の障害
入院期間の長期化
医療スタッフの疲弊
家族に与える苦悩
(Litaker D et al. Gen Hosp Psychiatry 23: 84-89, 2001)
(Lawlor PG et al. Arch Intern Med 160: 786-794, 2000)
(Inouye SK et al. N Engl J Med 340: 669-676, 1999)
(Breitbart W et al. Psychosom 43: 183-194, 2002)
がん患者のせん妄が与える苦痛
せん妄に関連した 苦痛(0-4) せん妄を苦痛と 感じる予測因子 患者 (54名) 3.20±1.10 (平均±標準偏差) 妄想 家族 (75名) 3.75±0.47 身体的活動性 看護師 (101名) 3.09±0.77 せん妄の程度 幻覚 48(Breitbart W et al. Psychosomatics 43:183-194, 2002)
家族に対する配慮
せん妄は幻覚や妄想のために本人の人格を損なうような異常言動 が出現することがあるため、患者のみならず家族の心にも大きな苦 痛となることがある。 (内富庸介. 癌と化学療法 29:1306-1310,2002) せん妄が過活動型であったり、脳転移が原因であったり、あるいは 身体的衰弱がひどく臨死状態にある患者に出現した場合ほど、家族 の苦悩が大きい。(Breitbart W et al. Psychosom 43: 183-194, 2002)
したがって、家族が患者の言動を理解しようとして過剰に反応したり、余 りにも変わり果てた姿にショックを受けないように、せん妄について家族 に十分説明し、理解を得るようにすることが必要である。
44
せん妄への薬物的、非薬物的介入
過活動型せん妄 低活動型せん妄
ヨーロッパせん妄協会に属する医師など200名に調査した。
(Morandi A et al. Int Psychogeriat 25: 2067-2975, 2013 )
非薬物療法+薬物療法
51 直接因子の検索とその対応 血圧の正常化、適切な酸素供給、脱水・電解質バランス の補正、原因薬物(抗がん剤、ステロイド、オピオイド など)の減量・中止・変更 とくにオピオイドによるせん妄が疑われたときには、積極 的にオピオイド・スイッチングを試みる必要がある 誘発因子の軽減 睡眠の確保、感覚刺激の調整(照明の調整、無駄な アラームの回避、眼鏡・補聴器の使用)、親しみやすい 環境・プライバシーの確保、家族の面会、十分な病状の 説明、本人の意思の尊重、リ・オリエンテーション 安全性の確保 危険物の撤去、頻回の訪床
せん妄の非薬物療法
5152
せん妄の薬物療法
【いずれも適応外】 低活動型には ミアンセリン(テトラミド®)・トラゾドン(レスリン® ・デジレル® )などの抗うつ薬 またはアリピプラゾール(エビリファイ® )などの抗精神病薬 過活動型では リスペリドン(リスパダール® )・ペロスピロン(ルーラン® )・クエチアピン (セロクエル® )・オランザピン(ジプレキサ® )などの抗精神病薬 経口ができない場合は ハロペリドール(セレネース® )注を点滴静注、必要に応じミダゾラム(ドルミ カム® )注(半減期1~5時間)を併用して点滴静注、呼吸抑制に十分注意する 5253 抗うつ薬 血中半減期 T1/2(hr) 最大血中濃度時間 Tmax(hr) 徐波睡眠増加 5-HT2A 5-HT2C ミアンセリン錠 (10mg 3錠単回投与) 18.2±1.3 2.0±0.1 ◎ ◎ トラゾドン錠 (50mg単回、食後) 6.4±1.8 2.6±0.5 ○ △
抗うつ薬の薬物動態
受容体への阻害作用 ◎強い ○やや強い △弱い (西田圭一郎ほか.精神科治療学 29: 1423-1425, 2014を改変) (いずれもせん妄には適応外処方となる) 53抗精神病薬 血中半減期 T1/2(hr) 最大血中濃度時間 Tmax(hr) ハロペリドール(10mg単回投与) 24.1±8.9 5.1±1.0 リスペリドン錠(1mg単回投与) 未変化体 主代謝物 同 内用液 (同) 未変化体 主代謝物 3.91±3.25 (21.69±4.21) 3.57±2.16 (20.91±3.72) 1.13±0.36 (3.27±2.54) 0.81±0.22 (2.67±2.45) オランザピン錠(5mg単回、空腹時) 同 口腔内崩壊錠 (同) 31.2±5.4 30.5±5.5 3.4±1.0 3.8±1.1 クエチアピン錠(25mg単回、空腹時) 同 細粒 (同) 2.80±0.53 2.88±0.59 0.99±0.35 0.72±0.19 ペロスピロン(8mg単回、食後) 2.3±0.5 1.4±0.7 アリピプラゾール(3mg単回、空腹時) 同 内用液 (同) 62.11±14.17 59.21±13.40 3.5±1.7 2.6±1.0 ブロナンセリン(4mg単回、空腹時) 10.7±9.4 1.5(1~3) 54
抗精神病薬の薬物動態
(いずれもせん妄には適応外処方となる) 54 (竹内 崇先生から提供のスライドを一部改変)主な抗精神病薬 体重・脂質・ 血糖への影響 錐体外 路症状 高プロラク チン血症 鎮静 便秘・口渇・ 尿閉・せん妄 ハロペリドール - +++ ++ + + クロルプロマジン ++ ++ + +++ +++ リスペリドン ++ + +++ + - ペロスピロン + - + + + ブロナンセリン - ++ + - - オランザピン +++ - - + + クエチアピン ++ - - ++ - アリピプラゾール - - - + - H1・5-HT2C阻害 D2阻害 D2阻害 α1・H1阻害 コリン阻害
主な抗精神病薬の副作用の比較
(Leucht et al. A J Psychiatry 166: 152-163, 2009を一部改変)
56
抗精神病薬の鎮静作用
(Leucht S et al. Lancet 382: 951-962, 2013)
クロルプロマジンやゾテピンはおもにアドレナリンα1受容体阻害作用、オランザピンや クエチアピンはおもにヒスタミンH1受容体、アドレナリンα1受容体阻害作用による。 56 鎮静が強い パリペリドン 1.40 (0.85-2.19) アリピプラゾール 1.84 (1.05-3.05) リスペリドン 2.45 (1.76-3.35) ハロペリドール 2.76 (2.04-3.66) オランザピン 3.34 (2.46-4.50) クエチアピン 3.76 (2.68-5.19) クロルプロマジン 7.56 (4.78-11.53) ゾテピン 8.15 (3.91-15.33) クロザピン 8.82 (4.72-15.06)
57
(Gerhard T et al. Br J Psychiatry 205: 44-51, 2014) 65歳以上の認知症患者33,604名の行動障害に用いた 抗精神病薬別の累積生存率をリスペリドンを基準にして 比較したところ、ハロペリドールが最も悪かった。 (いずれも認知症の行動障害には適応外処方となる)
抗精神病薬別の生存率の比較
57 オランザピン クエチアピン ハロペリドール アリピプラゾール → リスパダールより 危険性が高い進行がん患者における
せん妄と入院中の生存率
58 患 者 の 生 存 率 % 入院日数(Lawlor PG et al. Arch Intern Med 160:786-794, 2000)
生存患者数
がん患者のせん妄のまとめ
がん患者においては、とくに終末期にせん妄の 発症が増え、なかでも低活動型の割合が多い。 治療には直接因子の検索とその対応とともに、 誘発因子の軽減や安全性の確保が大切である。 これらの非薬物療法のうえに、抗精神病薬を主体 にした薬物療法をおこなう。また、家族への対応 も重要である。 せん妄を発症したがん患者の予後は、発症しな かった患者に比べてよくない。 59 59がん患者の
家族
のこころ
60
がん患者の家族の役割
患者を支える 身体的介護 患者の気持ちを支える 意思決定・・・相談、共有、家族間の調整、代理人 経済的問題 家族自身や家庭の問題身体疾患(がんや生活習慣病など) 職場の問題、育児 社会的要因・医療の変化 核家族化・少子高齢化 生存期間の延長、入院期間の短縮、外来治療 61 第二の患者 61
がん患者を介護する家族のうつ状態
家族介護者のうち、うつ状態(BDI>13)が67%に、 強いうつ状態(BDI>21)が35%に認められた。 介護者のうつ状態に影響を与える要因 【患者】身体活動性が低い 【介護者】女性、配偶者、健康状態が悪い、負担感 が強い、適応が悪い、 【全体】家族機能が正常でない(Rhee YS et al. J Clin Oncol 26: 5890-5895, 2008)
62
がんセンターで治療中の患者の家族介護者310名(うち配偶者165名)
経過による家族の精神的苦悩
家族の苦悩は患者のそれと有意に相関して いる。(r=0.35, p<0.0001)
診断後、徐々に 相関を示す。
(Hodges LJ et al. Soc Sci Med 60: 1-12, 2005) 21研究のメタアナリシス
終末期に近づくほど家族に対するケアも必要
患者のQOLに対する
患者および家族の評価の一致度
64
(Spearman相関係数)
(Hisamura K, Matsushima E et al. Psycho-oncol 20: 953-960, 2010) 終末期の患者-家族102組それぞれにFACIT-Spによる患者のQOL評価
64
患者-家族間のコミュニケーションを促すことによって、悲嘆反応を 軽減することができるかもしれない
がん患者の家族のこころのまとめ
がん患者の家族は第二の患者といわれ、その 20~35%にうつ状態が認められた。 その要因としては、若年、女性、配偶者などと ともに家族機能が正常でないことが挙げられた。 終末期に近づくほど家族に対するケアも必要で、 とくに患者-家族間のコミュニケーションを促す ことを心掛けることによって、悲嘆を軽減すること ができるかもしれない。 このように、がん患者本人だけでなく、その家族 に対しても同じようにケアが大切である。 65 65がん患者のこころに寄り添うには
-がんと診断されたときの
患者の受け止め方-
がんばらない
経験して初めてわかることがある。 もし皆さんの周りにがん患者がいたら、 「好きにしたらいいよ」 と温かく声をかけてほしい。 「がんばれ」 という言葉もつらい。 治療するだけで、十分がんばっているのに、 それに輪をかけて「がんばれ」と言われると、 「これ以上、がんばれないよ」と言いたくもなる。 (金子哲雄『僕の死に方』2012) (竹田圭吾『がんになってよかった100のこと』2016) がん患者は、必ずしも「闘病」するわけではないし、 するべきでもない。 67ストレス対処行動別の予後
乳がん患者57名について、外科手術後3か月のストレス 対処行動のタイプで4群に分け、5年後の予後を調査した。 対処行動のタイプ 再発なく 生存 転移ある も生存 死亡 計 闘志「がんばるぞ!」 否認「自分に限ってない」 真摯「どうしよう」 絶望「もうだめだ」 8 7 12 1 1 2 10 0 1 1 10 4 10 10 32 5 「闘志(前向きな姿勢)」の生存率が高く、「絶望」の生存率が低い。(Greer S et al. Lancet 2: 785-787, 1979)
闘志(前向きな姿勢)
その後の大規模調査では、 「闘志があった方が生存率が高い」 「闘志があった方が再発率が低い」 という関係は否定されている。 その後の大規模調査では、 「絶望がない方が生存率が高い」という 関係は否定されている。 絶望のスコアの高低で分けた場合の み、再発と関係があることがわかった。 (Petticrew M et al. BMJ 325: 1066, 2002)絶望
ストレス対処行動別の予後についての研究
69(Watson M et al. Eur J Cancer 41: 1710-1714, 2005)
絶望感とがんの再発
絶望感が弱い 絶望感が強い 健 存 ( 再 発 し な い ) 率 診断からの年数 70患者が無理に「前向きに」などと特定の取り 組み方や態度を身につけなければならない と感じる必要はない。 むしろ患者が最後まで絶望感を抱かないよ うに周囲がサポートすることが大事であるこ とがわかった。 71
今は目の前にある現実に一歩一歩取り組んでいく。 その先の未来のことは未来の私にまかせる…。 (黒木奈々『未来のことは未来の私にまかせよう』2015) とりあえず今日を生き、明日もまた今日を生きよう。 (なだいなだ『とりあえず今日を生き、明日もまた今日を生きよう』2013) その時その時を大事にして生きる、余り先のことまで 考えない。不確実なことが多くなると不安が増すだけ。
(本来の意味での)刹那主義
せつな (仏教)「一瞬一瞬を大事に生きる」 72 「仕事の効用」というべきか、不安はありながらも、 ひとたびとりかかると、今自分がさらされている危機 とはまったく無関係な内容でも、集中できる。 (岸本葉子『四十でがんになってから』2006)
仕事の効用
73 外泊しても気分は沈んだままだろうと考えたのは、 大きな間違いだった。病院から自宅へ向かう車の 中で、妻と二人、「さあ、今夜は何を食べようか」 という話になった。 自宅で料理の本を見てメニューの相談をした。 買い物に行き、妻と台所に立った。 家と家族の持つ癒やしの力を痛切に感じた。 一時帰宅から病院に戻るとき、心には「また頑張 ろう」という力が充満していた。 (上野 創『がんと向き合って』2002)
気晴らし
74がんであることを忘れている時間を少しでも作る。 そのためには、何かに集中する、あるいは小さな 目標を立てる。 『役割』としてあげられるもの 町内会役員 同窓会幹事 趣味のサークルの発表会 様々なボランティア など 『気晴らし』としてよくあげられるもの ペット カラオケ 料理 散歩 編み物 絵・書道 マッサージ 日記 落語 自然散策 園芸 ゲーム 趣味・旅の本 アニメ ショッピング など 75
季節の移り変わりを敏感に感じたり、人との つながりが何ものにも代えがたい大切なもの と思ったりします。今生きている、この世界、 このひとときを愛おしく感じます。 (堀 泰祐『緩和ケア医が見つめた「いのち」の物語』2015)
不安から生まれる柔らかな心
がん以後、桜の花びら一枚一枚の色が心に染み 通ってくる。夜桜の怪しさが心を震わせる。 深くなったのだ、感じ方が。 生まれて初めて生きているのが楽しくなって きたのだ。 (鳥越俊太郎『がん患者』2011) 76 無理に「前向きに」などと、がんばる必要はない。 今日を大切にする、本来の刹那主義を取り入れ、 余り先のことまで考えない。 がんを忘れる時間を作ることが大切で、仕事に集中 したり、うまく気晴らしを利用したり、何らかの役割 や目標を果たすことが役立つ。 いままで感じなかった大切なことやものと出会うこと もある。
がんと診断されたときの
受け止め方のまとめ
77がん患者のこころに寄り添うには
-患者ががんと診断されたときの
周りの人との関わり方-
私は手術を受けたあとの数日、身体のだるさや 動くときの傷の痛みで熟睡できず、とても心細い 夜を過ごしました。そのあいだ、目を覚ました ときに、妻がぐっすり寝ていたとしても、そこに 居てくれるということだけで安心できました。 あれこれ「世話をしてくれる」ということではなく、 そこに「居てくれる」ということが大切だった のです。 (堀 泰祐『緩和ケア医が見つめた 「いのち」の物語』2015)
家族
47 79がん患者が治療中困ったことを相談した相手
(複数回答) 20歳以上のがん患者500人を対象にして、がんの治療中 精神的に困ったことを相談した236人に誰にしたか尋ねた。 (松下年子、松島英介ほか.総合病院精神医学 22: 142-152, 2010) 48 医療者だけでは なく、身の周り の人に精神的に 支えられている。 80 なによりもみな、同じ立場です。どこにも もっていきようのないつらい気持ちが、手に とるようにわかるのです。 泣きたいときには思いきり泣いても、だれかが そっと見守っていてくれます。その視線のある かぎり、私たちは救われます。 (小倉恒子『あなただって「がん」と一緒に生きられる』2002)
同病者
同病者の経験を聞くことは、何ものにも勝る 強い励ましと感じました。 (堀 泰祐「緩和ケア医が見つめた「命」の物語」2015) 患者会、患者サロンなどへの参加 81 がん患者が困っている問題とその支援を求める問題は 必ずしも一致しない。 社会生活や家庭生活に関する問題は困っている程度 は高いわりに、あまり支援を求めない。一方、医療や ケアに関する問題は支援を求めることが多い。 したがって相談窓口では、単に医療やケアに関する 問題だけに対処するのではなく、その背景に隠され ている患者の社会生活や家庭生活に関する問題にも 目を向けるべきである。
がん患者が困っている問題とその支援
53 82 (久村和穂ほか.総合病院精神医学 25: s-235, 2013) できるだけ家族と情報を共有する。家族や医療者と の関係を大事にする。 同じ立場の人(患者会、患者サロンなど)と気持ち を分かち合う。 医療者には、医療やケアに関する問題だけではなく、 社会生活や家庭生活に関して必要な問題についても 相談する。
がんと診断されたときの
周りの人との関わり方のまとめ
54 がん診療連携拠点病院のがん相談支援センター を通して相談する。 8384