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著明な膝関節水腫を呈した両膝樹枝状脂肪腫の1例

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Academic year: 2021

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著明な膝関節水腫を呈した両膝樹枝状脂肪腫の 1 例

山形大学整形外科

成 田   淳  浅 野 多 聞  鈴 木 朱 美

髙 木 理 彰

Key words: lipoma arborescens(樹枝状脂肪腫)

synovectomy(滑膜切除術) knee joint(膝関節) はじめに  樹枝状脂肪腫は膝関節に好発し、関節水腫を 主徴とする原因不明の疾患である5, 10, 13)。両膝 関節に発症し、術前に MRI で診断可能であっ た 1 例を経験したので、 文献的考察を加えて 報告する。 症例呈示 症例:38 歳、男性。 主訴:両膝関節の腫脹、重苦感。 既往歴、家族歴:特記事項なし。 職業:郵便局員 現病歴:7 年前から両膝の腫脹を自覚していた。 認めた(図1)。 可動域は両側とも伸展 0 度、 屈曲 140 度で制限を認めなかった。関節穿刺 で、右 150 mL、左 250 mL、黄色で軽度混濁 のある関節液が採取された。一般細菌培養、好 酸菌培養検査は陰性であり、結晶成分も認めら れなかった。血液生化学免疫検査では尿酸値が 8.3 mg/dL、CRP が 0.4 mg/dL、 マ ト リ ッ ク ス メタプロテアーゼ(MMP)-3 が 235 ng/mL と 高値を示したが、抗環状シトルリン化ペプチド (CCP)抗体、リウマトイド因子は陰性であっ た。単純 X 線では両膝ともわずかに内側関節 裂隙の狭小化を認めた(図2)。MRI では、両 膝関節ともに膝蓋上嚢部に関節液が大量に貯留 図1 初診時両膝の写真 両膝関節に著明な腫脹、膝蓋跳 動を認めた。 3 年前に前医を受診し た。 腫 脹 の 原 因 と し て関節リウマチ(RA) が疑われ、精査を受け たが確定されず経過観 察となっていた。その 後 症 状 に 改 善 な く 再 度前医を受診し、MRI で著明な滑膜炎が認め られたため、当科紹介 となった。 初診時現症:両膝に著 明な腫脹と膝蓋跳動を 図2 両膝関節単純 X 線写真正面像 左右とも、内側関節列隙に軽度の狭小化 を認めた。 右 左

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東北膝関節研究会会誌 Vol.23 に滑膜組織の絨毛状増殖を認めた(図5)。内 外側膝蓋下ポータル、および外側膝蓋上ポータ ルからシェーバーを用いて滑膜切除を行った。 得られた組織の病理所見は、滑膜の表層細胞の 下層にリンパ球や形質細胞の浸潤を認め、 さ らにその下層には成熟した脂肪組織を認めた (図6)。細胞異型や結晶成分は認めなかった。 図5 関節鏡所見(左膝) a:膝蓋上嚢部、b:膝蓋大腿関節部、 c:内側半月板周囲、d:顆間部 滑膜組織の絨毛状増殖(矢印)を認めた。 P:膝蓋骨、MM:内側半月板、ACL:前十字靱帯 図4 術前 MRI 矢状断(左膝) a:T1 強調像、b:T2 強調像 水平断と同様に、T1 強調像、T2 強調像とも、皮 下脂肪と同等の信号強度を示す部分が、絨毛状に 存在していた(矢印)。 図3 術前 MRI 水平断 a:T1 強調像、b:T2 強調像、c:脂肪抑制造影像 T1 強調像、T2 強調像とも、皮下脂肪と同等の信号 強度を示す部分が、絨毛状に存在していた(a、b: 矢印)。この部分は脂肪抑制にて抑制された(c:矢 印)。周囲の滑膜には造影効果を認めた(c:矢頭)。 c a a a d b b b c しており、 その内部に T1 強調像、T2 強調像 とも、皮下脂肪と同等の信号強度を示す部分が 絨毛状に存在していた。この部分は脂肪抑制で 抑制され、造影 MRI では周囲の滑膜に造影効 果を認めた(図3、4)。  術前診断として著明な関節水腫があること、 疼痛が軽度であること、さらに MRI 上、脂肪 組織と同信号である絨毛状組織の増殖を示して いることから、両膝の樹枝状脂肪腫を考え、生 検を兼ねて関節鏡視下に滑膜切除術を予定し た。  関節鏡で確認したところ、 両膝の膝蓋上嚢 部、膝蓋大腿関節部、大腿脛骨関節部、顆間部

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 術後 1 年の時点で、 両膝に若干の腫脹と膝 蓋跳動を認めた(図7)が、重苦感は消失して いた。MRI では、 関節水腫ならびに造影効果 のある滑膜の肥厚は残存しているが、絨毛状組 織の再発は認めていない(図8)。 考 察  樹枝状脂肪腫の原因は明らかとはなってい ないが、RA や乾癬性関節炎など炎症性疾患と の関係が報告されており、 滑膜組織の反応性 変化であるという考えが広く受け入れられて いる2, 4, 5, 11)。症状は持続する関節水腫であり、 疼痛は軽度であることが多い10, 12)。部位は膝 関節が 90%と最多で、両側例も 15 - 20%に 見られる10, 12)。また、肩2)、肘8)、股9)、足関 節6)や多関節発生13)の報告もある。  血液生化学検査は異常を認めないと言われて いる7, 12)。リウマトイド因子や抗 CCP 抗体も 通常は陰性であるが13)、陽性であれば RA の合 併を考える必要がある17)。CRP も陰性である ことが多く、RA17)や乾癬性関節炎4)を合併し た場合では陽性となる。しかしこれらが合併し ない場合でも陽性となる場合もあり11)、診断 的価値は低い。尿酸値に関しての明確な報告は な く、Soler らの報告によると 13 例中 2 例に 痛風の合併を認めていたが15)、現時点では本 図7 術後 1 年の両膝の写真 両膝関節の腫脹の軽減を認めた。 図6 病理組織(HE 染色) a:弱拡像、b:強拡像 滑膜の表層細胞の下層に、炎症細胞の浸潤を認め、さらにその下層 には成熟した脂肪組織を認めた。 疾患との関与は明確ではない。MMP-3 に関し ては高値を示すという報告があり、Fraser ら は摘出した樹枝状脂肪腫から線維芽細胞を単離 し、RA や変形性関節症(OA)に比し MMP-3 の産生が亢進していることを示している4)  診断には MRI が有用で、脂肪組織と同信号 の絨毛状組織の増殖は診断的価値が高いとされ ている3)。しかしながら、本疾患が比較的まれ であること、医師側の認知度が低いなどの理由 で、術前に確定診断を得ることができなかった 症例も散見される10, 16)。また、大井らは著明 な関節水腫があるものの、 疼痛が軽度などの 理由で MRI が施行されず、診断に至らない症 例の存在の可能性を指摘している10)。持続す る関節水腫に対しては、本疾患も鑑別に加え、 MRI による早期診断が望ましい。  鑑別疾患として、本疾患と同様に MRI にて 関節水腫や滑膜増生を呈するという観点から、 RA、色素性絨毛結節性滑膜炎、滑膜骨軟骨腫 症が挙げられる7, 10, 16)。本疾患では、滑膜が絨 毛状に増殖すること、T1、T2 強調像において 脂肪組織を反映した高信号を呈することから、 これらの疾患とは鑑別が可能と思われる10, 16)  治療は鏡視下滑膜切除術の有用性が報告され ており14)、治療成績は良好で再発はまれとさ a b

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東北膝関節研究会会誌 Vol.23 れている10, 12)。本疾患と OA の関連を指摘する 報告は多く、二次性 OA の発症を予防するとい う理由で早期の切除が勧められている1, 10, 12) すでに OA を合併した場合は人工膝関節置換術 が考慮される1,10)。二次性 OA に至る原因とし て、阿漕らは樹枝状脂肪腫と OA の滑膜組織中 の痛覚神経について検討し、樹枝状脂肪腫では OA よりも痛覚が低下していることを示した。 その結果関節水腫が高度になりやすく OA を惹 起する可能性について考察している1)  本症例においては、著明な関節水腫を来たし ており、CRP が軽度上昇していたが、特徴的 な皮疹はなく乾癬は否定され、診断基準を満た さないことから RA も否定的であった。さらに 特徴的な MRI 所見から、術前に樹枝状脂肪腫 の診断が可能であった。高尿酸血症の関与に関 しては尿酸塩が析出した場合、滑膜に何らかの 影響を与える可能性が推察されるが、現時点で は不明である。鏡視下滑膜切除術にて症状は軽 快し、術後 1 年の時点で再発は認めていない。 しかし本疾患の病態生理はまだ解明されておら ず、切除後長期を経過した症例の報告はない。 再発の有無や OA の発症につき、今後も慎重に 経過観察を継続する予定である。 ま と め  両膝関節に発症した樹枝状脂肪腫の 1 例を 経験した。診断には MRI が有用であり、鏡視 下滑膜切除術を行い軽快した。 文 献 1 ) 阿漕 孝治ほか:樹枝状脂肪腫を伴った 両側変形性膝関節症の 1 例-病態生理に関 する考察.整形外科 2011;62:551-553. 2 ) Dawson JS et al:Case report: lipoma

arborescens of the sub-deltoid bursa.Br J Radiol 1995;68:197-199.

3 ) Feller JF et al:Lipoma arborescens of the knee: MR demonstration.AJR Am J Roentgenol 1994;163:162-164.

4 ) Fraser AR et al:Lipoma arborescens co-existing with psoriatic arthritis releases tumour necrosis factor alpha and matrix metalloproteinase 3.Ann Rheum Dis 2010; 69:776-777.

5 ) Hallel T et al : Villous lipomatous proliferation of the synovial membrane (lipoma arborescens).J Bone Joint Surg Am 1988;70:264-270.

6 ) Huang GS et al:Tenosynovial lipoma arborescens of the ankle in a child.Skeletal Radiol 2006;35:244-247. 図8 術後 MRI 水平断 a:T1 強調像、b:T2 強調像、c:脂肪抑制造影像 関節水腫が残存(矢印)しているが、絨毛状の滑 膜組織の増殖は認めなかった。肥厚した滑膜組織 には造影効果を認めた(矢頭)。 a b c

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7 ) Kloen P et al:Lipoma arborescens of the knee.J Bone Joint Surg Br 1998;80:298-301.

8 ) Levadoux M et al:Lipoma arborescens of the elbow: a case report.J Hand Surg Am 2000;25:580-584.

9 ) N o e l E R e t a l : S y n o v i a l l i p o m a arborescens of the hip.Clin Rheumatol 1987;6:92-96.

10 ) 大井 剛太ほか:変形性膝関節症を合併 した両膝樹枝状脂肪腫の 1 例. 臨床整形外 科 2004;39:987-990.

11 ) Ragab Y et al:Inflammatory synovitis due to underlying lipoma arborescens (gadolinium-enhanced MRI features): report of two cases.Clin Rheumatol 2007;26: 1791-1794.

12 ) Sailhan F et al : Bilateral lipoma

arborescens of the knee: a case report.J Bone Joint Surg Am 2011;93:195-198. 13 ) Santiago M et al:Polyarticular lipoma

arborescens with inflammatory synovitis.J Clin Rheumatol 2009;15:306-308. 14 ) Sola JB et al:Arthroscopic treatment for

lipoma arborescens of the knee: a case report. J Bone Joint Surg Am 1998;80:99-103. 15 ) Soler T et al.Lipoma arborescens of the

knee: MR characteristics in 13 joints.J Comput Assist Tomogr 1998;22:605-609. 16 ) 植原 丈尋ほか:両膝に発生した樹枝状

脂 肪 腫 の 一 例.JOSKAS 2011;36:307-311.

17 ) Yacyshyn EA et al:Lipoma arborescens: recurrent knee effusions with positive cyclic citrillunated peptide.J Rheumatol 2010; 37:2188-2189.

参照

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