• 検索結果がありません。

核不拡散体制の展開に関する研究

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "核不拡散体制の展開に関する研究"

Copied!
12
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

課程博士審査報告書 平成30 年 1 月 23 日 申請学位: 博士(安全保障) 学位申請者: 奥田 将洋(オクダ マサヒロ) 所属: 拓殖大学大学院国際協力学研究科博士後期課程安全保障専攻(在学中) 2D751 課程修了予定(平成30 年 3 月 31 日) 論文題目: 核不拡散体制の展開に関する研究

英文題目: A Study of Development of the Nuclear Nonproliferation Regime. 審査委員会: 主査 国際学部教授 佐藤 丙午 副査 海外事情研究所所長 川上 高司 副査 国際学部教授 甲斐 信好 Ⅰ 論文の要旨 奥田将洋氏の論文は、核兵器の拡散という、一つの安全保障上の問題に対応するにあた り、核不拡散に関わる諸制度が、ルールや、その基となった制度形成の目的に基づいて一 定の機能を果たしていると主張する。核不拡散体制は一つの総体として機能しているわけ ではなく、目的や参加する国の顔ぶれの異なる諸制度がそれぞれ核不拡散に貢献するよう な機能を備えているとする。 この思考に基づき、奥田氏は、現実の核不拡散体制に関連する問題において制度間の、 あるいは主体間の齟齬が生じていることに注目し、その原因を解明することを目的として いる。奥田氏は、核兵器が登場してから70 年以上が経過したにもかかわらず、広島と長崎 の使用以降、使用されていない理由を、IAEA や NPT をはじめとする、不拡散や核セキュ リティを目的とした諸制度が一定の機能を果たしたと主張する。制度構築を時系列でみる と、1953 年の米国アイゼンハワー(Dwight D. Eisenhower)大統領の国連での「平和のた めの原子力(atoms for peace)」演説を契機に設立された、国際原子力機関(International Atomic Energy Agency: IAEA)に始まり、核実験を禁止する部分的核実験禁止条約(Partial Nuclear Test Ban Treaty: PTBT)、そして、非核地帯構想、1970 年に設立された核不拡散 条約(Nuclear Non-Proliferation Treaty or Treaty on Nuclear Non-Proliferation: NPT)

(2)

へと続く。これらのレジームは、設立の目的が異なるものの、核の恐怖を解消する上で、 核不拡散という目的を実現する上で機能を果たした。

しかし、奥田氏は、NPT の不平等性に注目し、一つの条約の下で核兵器の保有が許され た国と、許されない国の二重性を作り出したとする。NPT の後に構築された、原子力供給 国グループ(Nuclear Suppliers Group: NSG)でも、核技術を持つ国と持たない国の差別 性を内包している。奥田氏は、核に対する恐怖を共有しながら、戦略兵器として核を活用 する国と、そのようにできない国との差が存在することを前提に、持てない国が不拡散体 制における不平等な地位を受け入れ、不拡散に協力することを歴史的事実として叙述しつ つ、これがレジーム論の中で不自然なことであると指摘する。そして、その不自然さはレ ジーム相互の関係性の中にも見られると主張する。 たとえば、奥田氏は、NSG において合意されたインドとの民生原子力協力の容認は制度 間の齟齬の端的な例と指摘する。インドとの民生原子力協力はインドを核不拡散体制に部 分的に関与させることによって核不拡散を強化するとされている。一方、NPT 未加盟で核 兵器を保有するインドへの原子力協力は、IAEA 保障措置の締結を前提とする非核兵器国へ の原子力協力の提供というNPT の規定と矛盾する側面があるのである。このような問題が あるにもかかわらず、なぜ核不拡散体制が現在のような形で維持されてきたのか、と問い かけるのである。 奥田氏は、核不拡散体制は維持されてはいるものの、その様態は一定ではないと主張す る。核不拡散体制はこれまで様々な変化を繰り返しながら展開してきた。核不拡散の問題 領域において、様々な目的と機能を持つ多国間制度が形成されてきた経緯などは、まさに その変化の可視的な側面と言える。 奥田氏は、この問題の解明を図る上で、国際レジーム論を用いる。そして、国際レジーム 論を用いた分析では、核不拡散体制を一つの総体のようなものと見做すことをある程度支 持するものになるとする。レジーム論は、安全保障分野においては、各国の追求する利益 が異なることや、問題が死活的であることからレジームが形成されにくいとされてきた。 こうした中にありながら、安全保障の中で軍備管理や不拡散といった分野については早く から国際制度化が進展し、国際レジーム論の研究対象として扱われてきた。クラズナー (Stephan D. Krasner)はレジームを、「特定の問題領域において国家の期待が収斂する明 示的または目次的な原則、規範、規則、意思決定手続きのセット」としており、核不拡散 に関する国際協力枠組みも、その多くが国際レジームであるとする。 核不拡散体制をレジーム論で分析する先行研究としては、ジョセフ・ナイや山本吉宣、ク マル等の研究がある。奥田氏は、国際レジーム論の、とりわけ制度間関係やレジーム複合 体のような状態に関する説明は、核不拡散体制が複数の国際協力枠組みから構成されると いう認識を示唆するものであるとする。そして、こうした核不拡散体制を構成する国際協 力枠組みや制度、そのルールに沿うことで、国家の核政策や原子力政策の正当性が担保さ れる側面があると指摘する。ただし、個々の国際協力枠組みや制度が持つ正当性は、核不

(3)

拡散体制を構成する他の制度やそのルール・規範すべてに整合するわけではない。先にあ げたインドとの民生原子力協力の事例のように、特定の制度やルール・規範の優先や相対 化のような相克、あるいは矛盾が生じることもあるとする。 奥田氏は、このような現象が生じる理由を説明する上で、既存の説明には、核不拡散体制 の時々の状態から核拡散問題を評価する視点があるように考えられるとする。すなわち、 レジーム論や、第一章で言及する「核不拡散秩序のアーキテクチャ」のような核不拡散体 制を一つの総体と見做すような見解は、核不拡散体制の時限的な状態を説明することには 成功しているものの、本論文が関心を向ける核不拡散体制の変化やその変化の継続とも言 える核不拡散体制の展開については、考察が十分に及んでいないと考えられる。 もちろん、個々の変化(たとえば新たな制度の形成やルールの変更、制度の補完的な動向 など)が生じた要因については、本論文の事例研究において示すように、個々の制度の変 化をもたらした主体の関心や利益に着目した先行研究が多く存在する。おそらくこうした 中から、核不拡散体制が変化してきた要因について一般化を試みることが可能であると主 張する。加えて、核不拡散体制が個々の変化を重ねつつも、その総体を維持するような形 で今日まで展開してきたのはなぜか。この要因を明らかにするためには、その変化のパタ ーンや変化の要因の一般化を試みること、さらに、核不拡散体制の個々の変化の間に共通 する核不拡散の文脈における正当性や規範性を見出す取り組みが必要となるのであろう。 この上で、奥田氏は、まず歴史的分析を行い、核不拡散体制の変化にはいくつかの形態が あるとする。一つは新たな制度の形成や、これによる核不拡散体制の拡大ともみられる展 開である。先述したように、これは核不拡散体制の変化として可視的な側面の一つである といえる。核不拡散の分野では、旧制度の廃止から新制度の構築に移るような制度の交代 ではなく、個々の制度の変更や、新たな機能を持つ新制度の登場し旧制度と並存する状況 が生じることが多いとも指摘している。その中で、奥田氏はこの現象の一般化を試みてい る。 そして、まず、核不拡散体制が複数の制度や国際協力の枠組みから構成されていること(複 合性)を確認し、核不拡散体制がこれまで可視的な面としてどのように展開してきたかを記 述している。その上で、冷戦後の国際環境やこれに伴う核不拡散をめぐる環境の変化の中 で、核不拡散体制もまた変化したという点を指摘し、その上で、核不拡散体制の変化につ いては、核不拡散体制を構成する制度の拡大という可視的な側面のほか、機能の拡大や補 完性の複雑化などの変化があったとする。その変化は争点横断的で、組織横断的に機能す ると指摘する。 この結果、奥田氏は結論として、核不拡散体制は明示的なアーキテクチャや国際組織が存 在するのではなく、核に対する恐怖を基本とした核不拡散に対する規範が、各国際レジー ムを有機的に連動させていると主張する。このため、個別のレジームの参加条件の差や、 制度間の差異は包括的に相対化され、核不拡散体制が相対的に維持されてきたと主張する のである。

(4)

Ⅱ 論文の構成 略語一覧 初出一覧 序文 (1)本研究の問題意識 (2)分析対象と方法 第1 章 核不拡散体制の定義づけ―複合性とその展開― 1 節 「核不拡散体制」に関する先行研究での言及 (1) 核不拡散秩序のアーキテクチャ(核不拡散の機能的な体系) (2) 国際レジーム論 (3) 先行研究から見出せる核不拡散体制の姿 2 節 核不拡散に貢献する機能としての側面 (1) 核不拡散体制の技術的な機能 (2) 核不拡散体制の政治的な機能 (3) 総体としての核不拡散体制 3 節 核不拡散体制の展開 (1) 核不拡散体制の展開―解明すべき問題― (2) 核不拡散体制の展開を検証することの意味合い 第2 章 核・原子力分野の国際環境の変容と核不拡散体制の変化の相関 1 節 核をめぐる冷戦期の国際構造① IAEA の形成と「米ソ主導の時代」 (1)冷戦期の時代区分について (2)「前史の時代」:多国間制度不在の時代 (3)「米ソ主導の時代」:核関連技術のキャッチアップと核の均質化 2 節 核をめぐる冷戦期の国際構造② NPT と「多国間協力の時代」 (1) NPT の設立と「多国間協力の時代」への遷移:「核からの安全」の多様化 (2) 既存の制度の限界から多極化へ 3 節 「第二核時代」の構造と核不拡散体制の変化との相関 (1) 冷戦後の核不拡散体制の変化 (2) 「第二核時代」の構造 (3) 冷戦後の国際環境と核不拡散体制の変化との相関

(5)

おわりに 冷戦期から現代までの核の分野の国際構造の整理 第3 章 非核地帯条約から見る「核からの安全」と核不拡散体制の展開 1 節 5 つの非核地帯条約の内容 (1) 中南米非核兵器地帯条約(トラテロルコ条約) (2) 南太平洋非核地帯条約(ラロトンガ条約) (3) 東南アジア非核兵器地帯条約(バンコク条約) (4) アフリカ非核兵器地帯条約(ペリンダバ条約) (5) 中央アジア非核兵器地帯条約(セミパラチンスク条約) 2 節 非核(兵器)地帯条約から見出せる要因 (1) 条約間の比較から見出せる要因 (2) 核兵器国の参加の問題 3 節 他の制度との関係性の考察 (1)「核兵器からの安全」 (2)「核からの”環境”の安全」 おわりに 非核地帯条約から見る核不拡散体制の展開 (1) 核不拡散体制の機能的拡大としての側面 (2) 核不拡散体制の変化の要因 第4 章 消極的安全保証の提供と核不拡散体制 1 節 消極的安全保証に関する議論と問題の所在 2 節 多国間制度を通じた消極的安全保証提供の形態と条件 (1) NPT における政治的なコミットメント (2) 非核兵器地帯条約における安全の保証 3 節 地域的な拡散問題への対応 (1) ウクライナの非核化 (2) 北朝鮮の非核化(第一次核危機と 1994 年の米朝枠組み合意) 4 節 「核からの安全」から考える不拡散の成否の要因 (1) 提供する枠組みの構成 (2) 核をめぐる環境の要因 おわりに 核不拡散体制の変化や補完性との関連 第5 章 外交的アプローチによる核不拡散体制の補完 ―イラン核問題の事例研究― 1 節 核不拡散体制の補完性とイラン (1) 核不拡散体制の補完性とイラン核問題

(6)

(2) 外交的アプローチによる補完と関連する議論 2 節 イランの核の問題化の過程 (1) イランの核不拡散体制への関与 (2) 核不拡散体制の一員としての課題 (3) 2002 年の核開発疑惑発覚後の問題 (4) E3 による交渉―外交的アプローチの開始― (5) 国連の集団安全保障と経済制裁 (6) 小括 3 節 包括的共同作業計画(JCPOA)の合意過程と実施プロセス (1) 合意までの経緯 (2) 合意の概要 (3) JCPOA と他の核不拡散制度の関係性 4 節 JCPOA の補完性に関する評価 (1) 保障措置の履行 (2) 原子力平和利用の権利 (3) 国連の集団安全保障措置 (4) 外交的アプローチによる補完 おわりに JCPOA と核不拡散体制 (1) 問題解決のための調整メカニズムとしての評価 (2) 核不拡散体制との関係性について 第6 章 インドとの民生原子力協力と核不拡散体制 ―フォーラム・ショッピングとしてのNSG 例外化とその構造要因― 1節 インド例外化の事例研究を行う意義 (1) インド例外化 (2) フォーラム・ショッピングの基本的な概念 (3) インド例外化の環境要因 (4) インド例外化におけるフォーラム・ショッピング 2 節 1998 年以降の米国の不拡散政策とインド (1) 核不拡散をめぐる国際的な環境 (2) 98 年の核実験の意味合い (3) 98 年核実験に対する米国・国際社会の反応 (4) 核不拡散に関する環境の変化と米国の政策 (5) 米国の国内制度上の要件 3 節 NSG における争点 (1) NSG の基準

(7)

(2) インド例外化のルール 4 節 フォーラム・ショッピングの構造的背景と核不拡散体制への影響 (1) インド例外化の核不拡散の観点からの合理性 (2) フォーラム・ショッピングを可能にした核不拡散体制の構造的背景 (3) インド例外化の核不拡散体制へのインプリケーション おわりに インド例外化が示した核不拡散体制の展開 第7 章 核不拡散体制の展開―変化の発生要因の一般化と変化の様態― 1 節 核不拡散体制の変化の様態 (1) 核不拡散体制の機能の拡大 (2) 補完性の複雑化 (3) 核不拡散体制の変化に影響する国家の構成 2 節 変化の背景や要因 (1) 「核からの安全」の問題化 (2) 核不拡散に関する国際協力への関与 (3) 小括 核不拡散体制の変化の要因 3 節 総体としての核不拡散体制を維持する要素 (1) 展開を経た核不拡散体制 (2) 変化の中で維持されてきた要素 おわりに 今後の展望と課題 結語 主要参考文献 Ⅲ 論文(各章)の概要 本論文は、核不拡散体制が1957 年の IAEA の設立以降、拡大・変化しながら展開してき たことを踏まえ、この変化の様態や変化の要因の一般化を試みるものである。 第 1 章では、今回の研究対象である核不拡散体制について整理を行った。核不拡散体制 という用語は政策や学術研究などさまざまな場面で用いられるが、核不拡散体制自体は必 ずしもあらゆる主体が合意できる実態があるものではない。この全体像について、まず先 行研究の中でどのように扱われているかをレビューしている。核不拡散体制の機能的な体 系を整理した核不拡散体制のアーキテクチャや、国際レジーム論の観点からの説明を引用 し、核不拡散体制が現存する諸制度から構成され、その制度間に相互補完的な関係性があ

(8)

ること、そして核不拡散体制が核兵器や原子力をめぐる国際環境の影響を受けて変化する との見方があることを明らかにした。 先行研究をレビューした上で、本論文では核不拡散に関する諸制度を核不拡散に貢献す る機能の側面から整理している。第一に技術的な機能として、個々の制度が核兵器のライ フサイクルおよび核燃料サイクルという核・原子力利用のプロセスにどのように作用する かを明らかにした。第二に、政治的な機能として、各制度の法的拘束力や制度のメンバー シップを中心とする政治的な影響力という観点から整理した。 第 2 章では、これまでの核不拡散体制の変化を、核・原子力分野における国際環境の変 容との相関という観点から整理している。まず、先行研究で用いられた時代区分を用い、 多国間制度不在の「前史の時代」、米ソ間の協調によって形成されたIAEA の下で原子力平 和利用の拡大が図られた「米ソ主導の時代」、そして核の分野に関する国家の均質化を背景 に、核不拡散に関する制度形成に多くの国が関与するようになり、かつNPT をはじめとす る核不拡散に関する制度の並立が始まった「多国間協力の時代」という冷戦期の核不拡散 体制の変化を、同時期の国際環境の変容との相関から整理した。これらの時代においては、 米国、ソ連、英国からフランス、中国に渡る核兵器の拡散、原子力技術の拡大による潜在 的な水平拡散の懸念、あるいはキューバ危機をはじめとする核兵器使用の懸念など、「核か らの安全」に関わる問題から生じる懸念を喚起させるような現象が多発した。これにより、 核兵器の拡散防止のための国際協力や国際協調が図られ、その結果として、IAEA や NPT、 PTBT といった多国間制度が形成される経緯を説明した。しかし、その形成された制度にも、 制度形成時の妥協によって生じた不足や、制度が想定しなかった形態の拡散が生じたこと で、NSG をはじめとして、更なる制度が形成され、核不拡散に関する制度の多極化の時代 を迎えることとなった。 それ以後の時代を、ブラーケンによる先行研究が示す「第二核時代」における動向とし て、国際環境の変容と核不拡散体制の変化の相関を整理した。冷戦後、NPT の無期限延長 や、IAEA 保障措置追加議定書、NSG ガイドライン Part.2 の合意など核不拡散体制の拡大 やその措置の強化が行われた。一方で、核兵器に関連する多プレイヤー間のゲームやナシ ョナリズム、テロリズムといった、「第二核時代」と呼ばれる環境の変化が顕在化し、冷戦 期のような制度の遵守を通じた核不拡散は困難となった。こうした中で、拡散対抗のため の措置や核セキュリティといった新たな形態の国際協力が進展し、核不拡散体制はより複 合的で重層的な形態となった。 第3 章から第 6 章は核不拡散体制の変化や、変化の影響を受けた個別事例のケーススタ ディに移行する。第 3 章では、非核地帯条約を事例として扱った。非核地帯条約は国家に よる「核からの安全」の追求が核不拡散体制を構成する制度の数を増やすという面での拡 大と、条約設立時における核不拡散体制が備えていない機能を提供するという点で核不拡 散体制を機能面で拡大させた事例である。この事例研究では、人の居住地域を対象とする 現存する非核地帯条約、すなわち中南米非兵器核地帯条約、南太平洋非核地帯条約、アフ

(9)

リカ非核地帯条約、東南アジア非核地帯条約、中央アジア非核地帯条約を対象として、そ の設立の経緯と内容から、これらの条約の形成を推進した国家が「核からの安全」にかか わるどのような問題を抱えていたかを考察した。 第 4 章では、消極的安全保証の提供について考察を行っている。消極的安全保証は、核 兵器国(あるいは核兵器保有国)が、非核兵器国に対して核兵器の使用や威嚇を行わない ことを約束することで、非核兵器国の核兵器取得動機を低減させる核不拡散に貢献する措 置である。消極的安全保証は、NPT におけるコミットメントとして、あるいは非核地帯条 約という制度を通じてと、多様な形態で提供される。 こうした中、実際に核不拡散に貢献したケースとして、冷戦後のウクライナの非核化と、 1994 年の北朝鮮第一次核危機における米朝合意を取り上げた。二つの事例の検討を通じ、 核不拡散のための同様の措置の結果が結果的に核不拡散の成否を分けた要因について考察 した。要因の一つとして、消極的安全保証を提供する枠組みの構成がある。ウクライナの 非核化は、ウクライナに置かれていた旧ソ連の核兵器の扱いだけでなく、米露間の軍備管 理や旧ソ連時代の核兵器の管理といった問題とリンクし、複雑な国際枠組みの中に含まれ た。こうしたウクライナの事例は、核不拡散が多国間制度だけでなく、個別の核問題を調 整する枠組みの必要性を示す事例であった。一方で、北朝鮮の事例では、消極的安全保証 が提供され、これが効果的に作用するような環境の整備が不可欠であることを示した。 第 5 章では、核不拡散体制の補完性について、イランの核問題と、その解決のための枠 組みであるJCPOA の事例研究を行っている。IAEA に未申告の活動が発覚して 10 年以上 にわたり、保障措置の不履行や外交交渉の成果などの国際約束を反故にしてきたイランに 対して、IAEA や国連安保理、E3 や E3/EU+3 のような国家グループなど多様な主体が関 与した。これらの関与の下に、国連安保理の集団安全保障や米国、EU 等による経済制裁な どの措置が取られ、イランへの拡散防止やイランの政策変更が試みられてきた。こうした イランへの対応は、核不拡散体制の補完性の現れである。これを解消する役割として、制 度的な措置を調整する外交的なアプローチの役割が重要であることを確認した。特に JCPOA に関しては、長期的な履行の中でイランに核不拡散体制のより厳格な制度・ルール を受け入れさせるものであり、既存の核不拡散体制との間で高い粘着性(adherence)を持 つものと評価した。 第6 章では、NSG において 2008 年になされたインドとの民生原子力協力合意(インド 例外化)を可能にした構造的な要因を検討した。NPT 未加盟の核兵器保有国であるインド との原子力協力を、レジーム複合体内部における制度の選択であるフォーラム・ショッピ ングとし、これを可能にした要因として、2000 年代に米国が主導し形成された拡散対抗や 輸出管理の強化といった新たな分野での国際協力枠組み形成を挙げた。これによって核不 拡散体制のレジームの密度が向上するとともに、インドという核不拡散体制の外部の問題 を評価する視座が生じた。また、インドを核不拡散体制に関与させることが非国家主体へ の WMD 拡散をはじめとする当時の主要な核拡散問題への対応に有効であったことが考え

(10)

られる。こうした背景を受けて行われるインド例外化は、核不拡散体制の強化につながる という政策的な評価や、CTBT 批准といったインドの核不拡散体制との調和の進展が期待 される一方、核不拡散体制をNPT が当初目指してきた 1960 年代の核保有の面での国際秩 序を維持できるかの分水嶺に置くものであると評価した。 以上の事例研究の内容を踏まえ、第 7 章で核不拡散体制の変化とこれを経た核不拡散体 制の展開について検討を行った。核不拡散体制は、1957 年の IAEA 設立以降、制度の数を 増やし拡大する形で変化してきた。こうした目に見える変化のほかに、核不拡散に関する 機能の拡大、核不拡散体制内部における補完性の複雑化、核不拡散に関与する主体の構成 という変化の様態が明らかになった。その上で次に、核不拡散体制の変化の要因について 一般化を試みた。要因の一つとして「核からの安全」の問題化を指摘し、既存の核不拡散 体制との関係として、核不拡散体制が対応できない問題に対応する手段として、新たな多 国間制度や国際協力枠組みが形成されることを明らかにした。一方で、「核からの安全」へ の対応がどのように行われるかによって核不拡散体制の変化のあり方が左右されることを 指摘した。 最後に、核不拡散体制が展開していく中で保たれて来た要素について説明している。核 不拡散体制は多様な機能を有する制度や国際協力枠組みから構成されるように拡大してき た。こうした中、NPT を中心とする秩序の維持が、多国間制度が提供する機能が補完的な 役割を担うことで行われてきたとしている。 Ⅳ 論文の総合評価 1.論文提出から審査までの経緯 奥田将洋氏は、国際協力学研究科の安全保障専攻の課程に在籍している。奥田 氏は、英語試験を含め、学内発表会での発表、紀要への論文執筆など、課程博士 として必要な条件を満たしている。語学試験は2013 年に取得し、学内発表会では、 2012 年、2013 年、2014 年、2015 年、2016 年にそれぞれ報告している。 紀要論文としては、「NPT 内部における国家グループ―国際レジーム内部で結成 される国家グループの意義―」『国際協力学研究科紀要』第7 号、2014 年 3 月、「消 極的安全保証に関する一考察」『国際協力学研究科紀要』第8 号、2015 年 5 月、「核 不拡散体制の補完性―イラン核問題の包括的共同行動計画の事例研究―」『国際協 力学研究科紀要』第9 号、2016 年 3 月の三点を掲載している。 奥田氏は2017 年 9 月に大学院に対して論文を提出し、博士号取得の申請を行っ ている。研究科では受理審査委員会を編成し、主査を甲斐信好教授、副査を川上 高司教授、遠藤哲也教授とした審査が行われた。受理審査委員会では、修正の指 摘が出されたが、2017 年 11 月の研究科委員会で受理審査委員会の結論が了解さ れ、奥田氏は2018 年 1 月 9 日に論文を修正・提出し、本審査の申請を行った。

(11)

本審査委員会は、佐藤丙午教授を主査とし、川上教授、甲斐教授が副査を担当 した。2018 年 1 月 18 日に口頭審査を実施した。 2.審査所見 口頭審査では、奥田氏の論文の概要説明と、それに対する質疑応答が行われた。 奥田氏は、論文の概要を説明した後、質疑応答を行った。審査委員は、全体的な 論文構成や内容について評価し、受理審査の際に指摘された、主体・構造問題と 核不拡散体制の可塑性の問題を修正し、よりオーソドックスなレジーム論の中で 体制の変革の要因に特化したことを評価した。 その上で、まず、消極的安全保障と積極的安全保障について、国家の安全保障 を担保する上で、どちらに効力があると考えるか、そして、もし後者であるなら ば、核不拡散体制を何故とりあげたのかという質問があった。これに対し、奥田 氏は、積極的安全保障の重要性を認めつつ、核不拡散体制の基本にある、「核に対 する恐怖」が共有され、国際社会が「核兵器なき世界」への意思を示している限 り、核のタブーに対する規範は共有されると見るべきであり、その手段としての 消極的安全保障の重要性は否定できないとした。論文でも、核不拡散体制の多重 性の背景には、核不拡散に対する規範が存在し、必要な政策課題に対して選択的 にレジームの機能が発揮されるとしており、論文の趣旨に沿った回答であった、 さらに、審査委員より、核の拡散による安定をはかるケネス・ウォルツの論議 に対してどう考えるのか。そして、事例として通常兵器による地域紛争の頻度を、 核の拡散により低下させたインド・パキスタンの例をどう考えるのかとの質問が あった。これに対し、奥田氏は、核不拡散に関わる制度により、不拡散自体は重 層的に配置されており、その規範は選択的に適用されるが、統一性が損なわれる わけではないとした。確かに、そのような選択的な適用は、パッチワーク的な対 応を繰り返すしかないという欠点はあるが、90 年代以降の核不拡散体制に対する パラダイムシフトは起きておらず、今後注視する必要があると述べた。審査委員 からは、さらに、北朝鮮の核保有を米国とはじめとする国際社会が認めた場合、 NPT 体制による核不拡散体制というノームは継続されるのかという質問があった。 奥田氏は、北朝鮮問題に対しては、国際社会は既存の枠組みに戻そうとしている が、北朝鮮の核保有を認めた際の変化についても、注意深く見ていく必要がある とした、ただし、例外的事例は過去数回見られたということもあり、今後も、現 在の相互補完的適用には変化はないとした。 そして、審査委員より、当該論文は「核のない世界に向かいながら、核のある 体制を認めねばならない」というパラドックスに真っ向から挑んだ意欲的なもの であり、着実な実証研究も併せて高く評価したい。さらにメタな立場からの全体 像を求めるのは要求が高すぎるかもしれない。しかし、パッチワークとしての核

(12)

不拡散体制の叙述の完成度の高さを認めつつ、大きなグランドデザインを捜し求 めることを次の課題としてほしいとのコメントがあった。 3.審査委員会結論 委員全員が一致して学位申請者に対し、「博士(安全保障)」の学位を授与する に値するものと認めた。 以 上

参照

関連したドキュメント

を軌道にのせることができた。最後の2年間 では,本学が他大学に比して遅々としていた

氏は,まずこの研究をするに至った動機を「綴

わからない その他 がん検診を受けても見落としがあると思っているから がん検診そのものを知らないから

断面が変化する個所には伸縮継目を設けるとともに、斜面部においては、継目部受け台とすべり止め

船舶の航行に伴う生物の越境移動による海洋環境への影響を抑制するための国際的規則に関して

・子会社の取締役等の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制を整備する

活用することとともに,デメリットを克服することが不可欠となるが,メ

・ 研究室における指導をカリキュラムの核とする。特別実験及び演習 12