糖尿病療養指導における
検査技師の役割
王子総合病院 臨床検査科 横井 美里
Ⅰ.糖尿病について Ⅱ.患者教育の基本 Ⅲ.血糖自己測定 Ⅳ.指導の実際 Ⅴ.日本糖尿病療養指導士制度 Ⅵ.当院での取り組み
・血液中のブドウ糖(血糖)が高くなった状態 高血糖が続く病気 ・高血糖が続くことにより特有の合併症が出現 する ・インスリン依存性の強い1型とインスリン分泌 不足やインスリン作用障害(抵抗性)の2型が ある
糖尿病とは?
診断のための検査と糖尿病型とされる値 ①空腹時血糖値 ≧126mg/㎗ ② 75gブドウ糖負荷試験2時間値 ≧200mg/㎗ ③随時血糖値 ≧200mg/㎗ ④HbA1c ≧6.5% (NGSP値) ①∼③のいずれかと④が確認された場合は 糖尿病と診断する
糖尿病の診断に必要な検査
糖尿病型 境界型 (糖尿病予備軍) 正常型 FBGと75gOGTT2h値の検査結果により、正常型、 境界型、糖尿病型の3つに分類することができます。 126 110 140 200 空 腹 時 血 糖 値 ブドウ糖負荷試験2時間値 (mg/dL) (mg/dL)
糖尿病治療の目標
健康な人と変わらない日常生活の質(QOL)の維持 健康な人と変わらない寿命の確保 血糖、体重、血圧、血清脂質の 良好なコントロール状態の維持 糖尿病細小血管合併症および 動脈硬化性疾患の発症、進展の阻止血糖コントロールの指標
糖尿病患者教育
・患者が糖尿病をよく理解し、進んで血糖コント ロールの目標を達成する意欲を持つようにな ることが目的 ・内容は、治療法、合併症、血糖自己測定血糖自己測定 ( (SMBGSMBG)、低血糖、シックデイ、日常生活の)、 仕方などがあるが、状況に応じて個別に指導 する ・指導内容をどの程度理解できているか、確認 しつつ患者の反応に応じた指導をする・指導内容を記録しておき、個々の患者の状況 に適した継続的な指導をする ・実行率は時間と共に低下する事が多く、中断 することなく継続できるようにサポートが必要 ・患者中心の医療のために、そして多様な指導 内容と評価の活用に、各専門職が密接な連携 を保ち、専門性を生かしたチームアプローチが 必要
自己血糖測定(
SMBG)
・患者自身が簡易血糖測定器で血糖値を測定する ・SMBGは主としてインスリン治療およびGLP-1受容体 作動薬による治療を行っている患者に保険適用となる ・SMBGの意義、手技、活用法について十分な指導が必 要である ・血糖変動パターンをインスリン投与法や投与量調節の 参考にできるSMBG導入の適応例
・糖尿病自己管理の動機づけ
・低血糖やシックデイが疑われる場合 ・妊娠中または妊娠希望時
• SMBGの必要性⇒明確な目的意識を持たせる • 測定器、穿刺針の選択 • 測定手技の指導 ※手指の洗浄、穿刺針の廃棄などについても徹底させる。 患者個々のケースに応じた指導が必要 • Drの指示のもと測定時間帯を指示 • 自己管理ノートの活用法 • 測定器不良時の対応
SMBG導入時の指導
結果を振り返る
夕食後にポテトチップ 食べた!!
生理検査室では
測定していただいたデータを
グラフにして活用しています。
•
SMBGが確実にとり行われているか、
手技的に誤りはないか確認
• 機器不良はないか(電池の確認など)
• 測定データからの行動の振り返り
• 異常データの確認
• 次回診察までの試薬類の補充
など経過観察時の指導
• 手技の確認 • 機器の点検 • 測定結果からの行動の振り返り • 患者からの質問、回答など ※指導は一方通行にならないように、患者の理解度を確認 した上で段階的に。指導領域を超えたものは看護師や栄 養士に相談することもあり。 電池交換。冬休みに入ったよう。不規則になりがちでランタスを夜中の3時頃に打つ こともあるよう。できるだけ規則正しく生活してもらうように伝える。 Max468はうち忘れ。気付いた時に打ったが単位数減らすのを忘れ夜間に低血糖 起きたとのこと。最近は食後打ちが多いようなのでうち忘れ十分注意してもらう。 接触不良で来院。試験紙挿しても機器反応したり、しなかったり。機器交換する。 電池前回交換したばかりなので、次回の交換時に使用するように伝える。 次回診察時、機器の調子確認して下さい。
症例
1
・
62歳男性 2型糖尿病 ・糖尿病罹病歴:25年 ・注射薬:GLP-1受容体作動薬 ・その他:毎回コントロール良好 HbA1cは6%前半を推移コントロール良好◎
ほぼ管理値内。低血糖もなし。 A1cが高い場合、食前がこ れほど落ち着いていると、 食後が高いという可能性も 否定できないが、6%台を 推移しているということで問 題なし!!症例
2
・78
歳女性 2型糖尿病 ・糖尿病罹病歴:13年 ・注射薬:混合型インスリン 16-0-12 ・その他:行政書士、仕事忙しく食事 は不規則になりがち A1cは9%台コントロール不良×
・低血糖と高血糖のバラ つきが大きい ・低血糖の原因は? ・低血糖時の補食量の 見直し ・補食により高血糖を来 している? ・インスリンは打てている のか?症例
3
・
61歳女性 2型糖尿病 ・糖尿病罹病歴:17年 ・注射薬:混合型インスリン 20-0-16 ・その他:A1cは9%台と非常に高い 療養への意欲は乏しい・測定回数が少ない ・ほとんどが高値 A1cが高値のため他の 時間帯でも高いことは 予想される ・何か改善策、改善する ためにはどのような事 から始められるか、提案 すると同時に患者自身 にも考えてもらう必要が ある
コントロール不良×
症例
4
・
65歳男性 2型糖尿病 ・糖尿病罹病歴:3年 ・注射薬:超速効型インスリン 8-6-8 ・その他:A1cは6%後半を推移 療養への意欲は強い 毎食後の運動はかかさないコントロールほぼ良好○
・ 食後の低血糖が多い 運動量が多い? インスリン量? ・ 測定回数が非常に多い 行動を振り返ることは 大事なことだが血糖値 を気にしすぎて血糖値 に振り回されている感 じがする症例
5
・
72歳女性 2型糖尿病 ・糖尿病罹病歴:8年 ・注射薬:混合型インスリン 16-10-6 ・その他:A1cは6%前半を推移 食事にも気を遣う 療養への意欲は強い朝の高血糖が気になります… その上、就寝前は低血糖になるこ ともあり補食して寝ることも少なく ありません。 補食量はさほど多くはないのに… ・HbA1cは6%台を推移 朝だけの血糖値を見ると A1cとの乖離があるように 思える もしかすると、夜間や早朝 に隠れた低血糖がある!?
症例
6
・76
歳男性 2型糖尿病 ・糖尿病罹病歴:不明・注射薬:混合型インスリン 16-0-4 ・その他:SMBG歴は長い
Min 35 Max 313 普段測定していない時間帯 に測定、しかも高血糖… 原因は? この日カツカレーを食べました。 どのくらい上がるか気になって 測定してみたらすごく高くてビッ クリしました!! 普段と違う時間帯で測定して みることや食べ物でどれぐら いの血糖値になるかを自分で 把握することは大事なこと。 今後も続けてほしい。 一番気になるのはこの値! 非常に低い値だが原因は? 低血糖症状なく、おかしいと 思い再測定したところいつも と変わりない値でした。 なぜでしょう… 次のような原因が考えられる ・血液量が不足している ・消毒用アルコールが十分に乾いていない ・血液を無理に絞りだした
症例
7
・
83歳女性 2型糖尿病 ・糖尿病罹病歴:14年 ・注射薬:混合型インスリン 4-0-4 ・その他:高齢だが手技などには問題 なしMax 470 珍しく高い…原因は? それが原因がわからないの… 生活も食事も普段通りです果物などをむいた後に 測定したということは考 えられませんか? そういえば!!冬なのでミカンを よく食べます。 その後、手を洗わず測定して います。 原因はそれ!! 果物をむいたり砂糖が付着している食べ物など を触った後は、偽高値になるおそれがある。 時間経過に関係なく高くなり、消毒面だけでは正 しい血糖値が得られない報告もある。 採血前には流水で手洗いをすることを勧める。
来院時の採血と自己測定値と 差が出るのはなぜですか?? 採血部位の違いによるものです。 腕の静脈と指先の毛細血管では指先 の毛細血管の方がブドウ糖濃度は高く なります。
その他の事例など
針類の廃棄でのこと
…
なぜ、針を蓋つきの入れ物(ペットボト ルなど)にいれてこなければならない のか!! それはそっちの都合だろ!! 感染防止のため、穿刺針は耐貫通性の容器 に入れてきて頂くことは徹底してもらいます! たとえ、リキャプをしていても万が一外れてい ることもありえるかもしれませんので、袋での 廃棄は避けてください。穿刺針変更時
…
穿刺針が使用できない!! 説明の仕方が悪い!! 手技の確認をしようとしたが、聞き入れてもらえ ない。 再度説明をさせてほしいと言うが、時間がないと のこと。 以前の穿刺針を一時的に使用してもらい、次回 来院時に再度手技の説明をする。日本糖尿病療養指導士(CDEJ)とは?
・糖尿病治療にもっとも大切な患者さんの自己管理 (療養)を指導する医療スタッフ ・高度で幅広い専門知識をもち、患者さんの糖尿病 セルフケアを支援 ・一定の経験を有し試験に合格した看護師、管理栄 養士、薬剤師、臨床検査技師、理学療法士が取得 できる資格・毎年3月に実施される認定試験を受ける⇒ 合格 ・認定試験の受験資格 ① 医療職の資格(看護師、管理栄養士、薬剤師、臨床検査技師、 理学療法士のいずれかの資格を有する) ② 一定の条件を満たす医療施設 で、継続2年以上糖尿病療養 指導の業務に従事し、通算1,000時間以上の療養指導経験 がある ③ 上記期間中に、自分が携わった糖尿病療養指導の自験例 を10例有する ④ 認定機構の講習会(受験者用)を受講し受講修了証を 取得している ・認定期間は5年間:5年毎に更新