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執行力の客観的範囲試論 利用統計を見る

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執行力の客観的範囲試論

著者名(日)

丹野 達

雑誌名

東洋法学

38

1

ページ

81-113

発行年

1994-09-10

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00000542/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

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執行力の客観的範囲試論

はしがき

      ︵−︶  従来民事訴訟法の教科書においては、給付判決の効力について、既判力と執行力とが不可分的に説明されており、        ︵2︶ かえって民事執行法の教科書において執行力についての特段の説明がないことが多かった。このことは、執行力が既 判力と離れ難いものとの印象を与える。たしかに既判力を有する給付判決に執行力があることに無理はない。しかし 執行力のある債務名義に既判力を有しないものが多々存するし︵例えば公正証書︶、既判力を有しない裁判に執行力を 付与するための特段の手段︵例えば仮執行宣言︶が設けられている。このことは、既判力と執行力とが決して不可分 ではないことを示す。執行力は既判力を必然的前提とするものではない。したがって、執行力の本質について一度考 えてみる必要があるのではないか。そこから執行力の取扱いについて、新しい見直しが生まれるのではないかと考え られる。これが本稿の目的である。     東 洋 法 学      八一

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    執行力の客観的範囲試論      八二  この問題を検討するについて、次の二つの見方をとりたいと考える。一は執行力の本質をとらえることである。と くに執行力と既判力との相違点を見極め、そこから執行力の作用、これに対する取扱いについての解明が生まれるの ではないか、ということである。二は、民事紛争の解決は権利者の正当な地位を確定することと、権利者にその利益 を実際に享受させることとによってなされる。前者は民事訴訟制度によって保障され、後者は民事執行制度によって 保障される。ところで、制度は、それによって達成すべき目的をもち、そのためにどのようにこれを構築すべきかの 選択が前提作業となる。民事執行制度もその例外ではない。それはア・プリオリに存在するものではなく、合目的的 に考案されるものである。政策の所産である。したがって、これについての理論を組み立てるに当たっては、所与の 制度を直視することが必要であり、とるべき理論は制度に吻合することが重要である。すなわち、実践的理論は、制 度のもつ意図を付度したものであるとともに、その制度の解釈、運用の助けとなるものであることが求められる。 ︵1︶ ︵2︶  例えば、兼子一・新修民事訴訟法体系三五一頁、斎藤秀夫・民事訴訟法概論新版三九四頁、小山昇・民事訴訟法五訂版 四一〇頁、新堂幸司・民事訴訟法第二版補正版四三八∼四〇頁、中野貞一郎11松浦馨抽鈴木正裕編・民事訴訟法講義︹補 訂第二版︺四七二頁︵上田徹一郎︶など。むしろ積極的に﹁既判力の範囲と執行力の範囲が同じであることが理念的に要 請される﹂︵三ケ月章・民事訴訟法第三版二二一頁︶とする。もっとも、近時の概説書は、あるいは転換執行に触れ︵上 田・民事訴訟法四四一頁︶、あるいは承継人への拡張について既判力と執行力との差異に触れる︵林屋礼二・民事訴訟法 概要五二了五頁、上田・前掲四四一∼二頁、谷口安平・口述民事訴訟法三六五頁︶。  菊井維大・強制執行法︵総論︶三五頁、兼子・増補強制執行法、石川明・強制執行法︵総論︶概論、岡垣学・強制執行

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法概論、中野編・強制執行法概説、斎藤編・強制執行法講義、同編・講義民事執行法、林屋編・民事執行法、小室直人編・ 民事執行法講義︹改訂版︺など。加藤正治・強制執行法要論二七頁は﹁確定判決の既判力の及ぶ主観的範囲﹂と題し、﹁既 判力の及ぶべき場合に強制執行をなすことをうる﹂と説明する。もっとも、中野・民事執行法一一五∼二三頁、一四二∼五 頁、二四一∼二頁、山木戸克己・民事執行法・保全法講義五四∼六〇頁、八一頁は執行力につき詳細な説明をしている し、林屋・前掲民事執行法六九頁︵上北武男︶は転換執行に触れる。 二 執行力の本質  1 執行の目的       ︵3︶  民事紛争は、権利者に対して権利の対象となる利益を実現︵享受︶させることによって終局的な解決に至る。執行 は、この権利の実現を国家権力によって行うものであり、権利者は利益の享受によって満足を得る。この権利の実現 は、義務者の任意の履行によってなされたものではなく、強制的に行われるから、その根拠として、執行の正当性I l権利の存在が確認されなければならないし、また実現方法も節度のあるもの、不必要に義務者の利益を損うことの ないものでなければならない。執行の正当性は、義務者の利益の保護のためにも、執行に対する国民の信頼、ひいて は社会秩序の維持のためにも保持されなければならない。しかし、執行の本質が権利者の権利の実現−利益の享受 を得させることにあるのであり、その実現手続の遂行に当たって義務者の利益を不当に侵害しない限りでは、その目 的が迅速かつ完全に達成されることを要する。このような執行制度の目的の下において、執行制度の構築のため、ど        ︵4︶ のような政策が選択されているのかを見ることが次の問題である。

    東洋法学      八三

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執行力の客観的範囲試論 八四  2 執行の基礎−執行債権存在の蓋然性の度合  権利の存在の確認ないし判断である本案の終局判決は、その審理手続への当事者双方の平等な関与の下に厳密な認 定資料の収集を行い、これに基づいて判定するのであるから、その結論が得られた以上、これに既判力を与え、原則 として当事者はもはやこれを争いえないものとしている。事実認定には、合理的な疑いをいれない心証、仮にこれを 数字で表わせば七〇ないし八○パーセントの心証を必要とする上、判決が確定した場合には争いえないこととされ、        ︵5︶ その対象となる実体的権利の存在の確率はいわば一〇〇パーセントにまで引き上げられる。これに対して、執行の基 礎となる債務名義は判決に限られていないし、給付判決においても、その確定前に執行力が付与されうることが仮執 行宣言の制度によって承認されている。このことは、既判力の法的効果として、その対象となる実体的権利の存在の 確定性に一〇〇パーセントの効果が与えられているのに対して、執行力の対象となる給付請求権の存在の蓋然性の度        ︵6︶ 合は、一〇〇パーセントまでは要求されてはいないことが窺われる。更に、承継執行文付与手続をみると、債務名義 に掲記されている給付請求権の存在の蓋然性が、裁判所書記官又は公証人の処分によって充足されることを認めてい ︵7︶ る。ここに、既判力の対象である実体的権利の存在の蓋然性と執行力の対象である給付請求権の存在の蓋然性との間 には、画然たる差があることが明らかである。

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 3 執行の事実的形成作用  執行制度の目的は権利者の正当な経済的利益の実現ないし享受であるから、執行行為は事実的なものであり、その 結果は事実の形成・実現である。この目的の達成は執行手続によってなされるが、執行手続はその多くは事実行為で        ︵8V ある執行行為の連鎖である。訴訟手続は、訴訟物である権利の存否の判断という観念的形成に奉仕し、証拠資料に基 づく事実の認定、認定された事実に対する実体法規の解釈・適用という観念的思考作用を専らとする。これに対して、 執行手続は、その基礎となる給付請求権︵以下﹁執行物﹂という。︶の実現という事実形成に奉仕し、権利者の権利に 見合う利益状態をもたらす事実的形成作用を専らとする。訴訟手続における法的概念の処理については透徹した論理       ︵9︶ 性に比重がおかれるのに対して、執行手続におけるそれについては、合目的的合理性に比重がおかれる。  4 執行物の範囲  執行物である給付請求権について執行するためには、その法的根拠として、権利の種類・性質の特定︵例えば、所 有権に基づく引渡請求権とか売買契約に基づく引渡請求権︶まで必ずしも必要ではなく、これを捨象した給付を受け ることができる法的地位︵例えば、所有権、売買契約といった権利の種類・性質を包括した引渡請求権︶の存在が高 度の蓋然性を備えれば足りる。被告に対して原告への給付を命ずる給付判決の主文がこのことを示している。また訴 訟物の同一性は、訴訟物の構成要素が当事者と権利︵特定の権利から当事者という要素を除いた残余の部分︶とであ       ︵−o︶ ることから、そのどちらかが異なれば、訴訟物は異なる。訴訟物は実体法上の権利として特定されることが要求され     東 洋 法 学      八五

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    執行力の客観的範囲試論       八六 る。これに対して執行物については実体法上の特定の権利としてまで特定されることを要しないことを意味する。執 行債権者が執行手続を利用することができる法的根拠としては、執行債務者からの給付を受けることができる法的地 位で足り、その地位が特定されておればよい。その点で、執行物は訴訟物よりもゆるやかな特定度を許容されている ということができよう。執行力が第三者i例えば特定承維人に及ぶことが認められる場合、当然当事者が異なるこ とになるから、執行の基礎となる法的地位は異なる。AのBに対する給付請求権は、AのB承継人Cに対する給付請 求権と変更される。既判力が第三者に及ぶ場合も、既判力が働く当事者関係、すなわちAとCとの間の関係という点 では執行力と変わりはない。しかし、既判力が第三者に及ぶ場合と執行力が第三者に及ぶ場合とは、そこに決定的差 異があることに注意されなければならない。すなわち、既判力が第三者に及ぶ場合には、その第三者は、前主と相手       ︵11︶︵12︶ 方との間の訴訟物が前訴の口頭弁論終結時に存在することを争えないに止まる。第三者と相手方との間で既判力が働 くのは、前主と相手方との間における訴訟物についてである。これに対して、執行力が第三者に及ぶ場合には、第三 者が相手方に対して執行することができるか、あるいは相手方からの執行を受けるかである。前主の相手方と第三者 との間の執行物について新たに執行力が生ずることである。事実関係に即していえば、執行力が拡張される、あるい は執行力が第三者に及ぶというのは、原債務名義により、第三者のために又は第三者に対して承継執行文を得、その 者のために又はその者に対して執行行為をすることができることをいい、それ以上でもなければ、それ以下でもない。 したがって、AのCに対する実体法上の給付請求権の存在が確定されているわけではないから、CがAに対する独自 の主張を有することは当然である。BはもともとCの独自の主張を前訴において提出することはできなかったのであ

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るから、前訴判決の既判力によっても、遮断効によっても、Cの独自の主張ができなくなるいわれはない。しかし、 執行力が及ぶ以上、前主が債務者である場合には承継執行文を受けた債務名義に基づくCに対する執行が行われうる のであるから、Cから積極的に執行文付与に対する異議、異議の訴、あるいは請求異議の訴を提起し、執行の停止、 取消を命ずる仮の処分、あるいは勝訴の判決に基づき執行の阻止を図るしかない。原債務名義の執行力が第三者に及 ぶ場合、第三者との澗の執行物は前主との間の執行物とは異なるのである。既判力の拡張について民事訴訟法二〇一 条がおかれているほかに、文言上はほぼ同一の民事執行法二三条がおかれているのは、このことを明示しているので ︵13︶︵14︶ あり、念のため民事執行法にもおかれているものではない。執行力が第三者に及ぶ場合執行物が異なることを法が承 認していることは、執行物の範囲が訴訟物に既判力の及ぶ範囲ほどには狭いものではないことを法が承認しているこ とを示すものということができる。       ︵15︶  執行力の拡張の場合についてもう一つ考慮されなければならないことは、執行文付与制度についてである。執行文 付与機関は、裁判所書記官及び公証人の専権とされ、執行裁判所がこれを付与することはできないとされている。執 行文付与の訴又は異議の訴においては、裁判所は、執行文付与の適否又は当否−承継原因事実の存否、条件成就の 成否は判断するけれども、執行文の内容については触れることはない。したがって、新請求が原請求と客観的範囲を 同一にするか、どのような執行文の変容がなされるべきかは、一に裁判所書記官又は公証人の判断にかかる。そうだ とすると、執行債権者の地位を強化するため、執行力の拡張が必要とされ右場合であっても、執行文付与の当否の審 理手続における証拠資料の制限、付与機関の一般的判断能力を考慮することも必要であろう。ある場合には執行力を     東 洋 法 学       八七

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    執行力の客観的範囲試論      八八 拡張することが必要であると考えられても、執行文付与手続における右の点に対する考慮から、執行力の拡張を認め ないのが相当とされることもありうる。すなわち、執行力の客観的範囲を拡張することにはより慎重であることが必 要とされよう。そこにおのずから制限作用が働くことは否定できない。少なくともこのことを検討した上で、執行力 の拡張の当否を決定すべきであろう。  5 執行手続における執行債権者の優越的地位  訴訟手続においては、口頭弁論終結時に至るまで訴訟物である権利の存否は未確定の状態にあり、当事者の一方を 優位におく一般的根拠はない。したがって、当事者は対等の地位におかれ︵二当事者対立構造︶、当事者双方には平等 に攻撃防御方法の行使の機会を与える必要がある︵武器対等の原則︶。これに対して、執行手続においては、債務名義 の存在により、執行債権者の実体法上の地位は認容されており︵確定ではないが︶、執行手続は、債務名義に基づき執 行債権者の権利の事実的形成!利益の付与に向って進められる。このことは、単に債務名義作成機関と執行機関と が別建となっていることだけからもたらされるものではない。執行の正当性の保証として執行債権の存在が裏付けら れていることが公証されているのである。すなわち、執行手続においては、執行債権者の実体関係上の優位性が公認 されており、前提となっている。執行手続の主役は執行債権者であり、執行債務者は傍役であるとの決定的関係にお かれ、ただ必要以上に不利益を受けないという程度で保護されるにすぎない。この執行債権者の法的承認を受けた優 位性は、執行手続における法の解釈、運用に当たって動かすことのできないものである。

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 6 既判力と執行力の分離  このように見てくると、既判力を有する給付判決について執行力を認めることは、執行力を認める基準をこえた権 利存在の蓋然性を有するが故に、当然の事理というべきであるが、既判力を有しない債務名義を認めることができな いものではなく、現に認められている。既判力と執行力とは、目的、機能を異にするのであり、裁然とこれを区別し て考えるのが相当である。既判力と執行力とは、判決の効力という一個の総合的存在の二つの側面ではなく、別個・ 独立の存在であり、それが結び付くのは、むしろ偶然の場合にすぎないと言っても、あながち言い過ぎではない。こ のような見地から見ると、執行力の範囲についても、既判力とは別個の見方が可能であり、必要であるとさえ言うこ とができよう。ある権利についての執行力も、執行独自の基準に従うものとすることが可能である。そこで、次に執 行力の客観的範囲についての検討を進める。 ︵3︶ ︵4︶  民事紛争の解決は、法的地位の確定︵権利の確認︶によって達成されることもあり、経済的利益を実際に享受すること によって成就されることもある。前者は、法律関係の安定ということによる精神的状態の平穏あるいは権利侵害行為の防 止ということで、現実的な経済的利益ではないが、一種の利益の享受とみることに妨げはない。ただ執行は後者の利益に 関わる解決方法である。  もちろんどのような政策を選択すべきかということそれ自体も重要な問題であり、そのことを否定するものではない。 しかし、そのようなとらえ方は立法論の問題であり、ここでは現行制度の下において、民事執行法の解釈としてどのよう 東 洋 法 学 八九

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執行力の客観的範囲試論 九〇

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︵7︶ ︵8︶ 1110 9 ︵12︶ な理論構成が可能であり、妥当であるかを考えてみようとするものであって、解釈論に的をしぼろうとするものである。  再審が認められている以上、九八パーセント︵?︶というべきか。  中野﹁執行力の範囲﹂︵民事手続の現在問題︶二六八頁、︵山木戸還暦記念論文集・実体法と手続法の交錯下︶二九八頁 ︵原題﹁執行力の客観的範囲﹂︶。  執行文は裁判ではない。その付与のための判断資料として職務上顕著な事実に基づくものとし、また証拠能力の制限を 定めるにしても、その付与機関の一般的に評価される処理能力の点からも︵民執二七条︶、審理手続の点からも、その判 断にかかる給付請求権の存在の蓋然性の度合いは、給付判決におけるそれよりも低いものとされることは否めないであ ろう。  民事訴訟においては、当事者の攻撃防御を容易にするために要件事実が明確であることが必要であり、そのためにはそ の指標である実体法上の権利が特定されなければならない。すなわち、特定の権利の存否の確認が不可欠であって、単に 給付を受ける地位を特定するのみでは足りない。特定の実体法上の権利の存在が確定された以上、これをわざわざ給付を 受ける地位と言い換える必要はない。他の特定の実体法上の権利の確認が必要となれば、それについての審理ができれば よい。給付を受ける地位は執行のために必要であり、執行においてはそれで足りるのである。  吉村徳重﹁既判力拡張と執行力拡張﹂法政研充二三巻二∼四号二二四頁。  この考え方は旧訴訟物理論に基づく。なお、前掲︵8︶参照。  吉村・前掲︵9︶二二三頁、同﹁執行力の主観的範囲と執行文﹂︵竹下守夫H鈴木編・民事執行法の基本構造︶一三八 頁、同﹁判決の効力の主観的範囲ω   口頭弁論終結後の承継人﹂︵民事訴訟法判例百選︵第二版︶︶二四五頁、鈴木﹁判 決の反射的効果﹂判例タイムズニ六一号五頁、新堂﹁訴訟当事者から登記を得た者の地位﹂︵訴訟物と争点効ω︶三三八 頁、中野﹁弁論終結後の承継人﹂判例タイムズ八〇六号二四頁、兼子11松浦H新堂u竹下・条解民事訴訟法六七九、六八 O頁︵竹下︶、小山11中野旺松浦H竹下編・演習民事訴訟法五八九頁︵河野正憲︶。  本題から逸れるが、既判力と執行力との承継人に対する拡張の効果について若干触れてみたい。まず例を挙げよう。A

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のBに対する所有権に基づく建物収去土地明渡請求権の認容の判決が確定したのち、建物所有権がBからCに譲渡され た場合である。AB間の訴訟におけるAの請求原因は、①本件土地をAが所有していること、②Bが本件建物を所有して 本件土地を占有していること、である。AC間の訴訟におけるAの請求原因は、①①と同じ、②Cが本件建物を所有して ︵本件建物はBの所有であったが、CがBから譲渡されたこと︶、本件土地を占有していること、である。前訴判決の既 判力の対象はAのBに対する所有権に基づく建物収去土地明渡請求権であり︵Aが本件土地所有権者であることについ て既判力は生じない。︶、この既判力がCに及ぶとすれば、CはAのBに対するこの請求権の存在しないことを主張するこ とができないということであるが、この事項は後訴の請求原因に含まれていないから、後訴について前訴判決の既判力は 全く影響しない。したがって、CがAのCに対する本件建物収去土地明渡請求権を争えない︵かつてはそのように考えら れていたようである︶とするなら、それは別個の請求権について突如として既判力が生ずることにほかならない。もっと も、AのBに対する請求権が実体的にCについて生ずる場合がないわけではない。CがBの一般承継人であるか、CがA のBに対する本件請求権それ自体の特定承継人である場合である。既判力がCに及び、それがAのため有用であるのは、 この後の場合に限られる。しかし、執行力は、債務名義を有する者︵執行債権者︶の利益状態の形成を目的とし、それが 働くのが執行手続においてである。主観的側面︵本件建物の譲渡︶や客観的側面︵本件建物の増改築ーもちろんそれに より建物の同一性を失う程度に至った場合︶における変更により、債務名義の実効性が失われることは、AのBに対する 前訴での努力を水泡に帰させるだけでなく、零︵執行不能︶にする可能性もある。そこで、少なくともAのCに対する請 求権につき、Aのために執行力を与えることが必要である︵既判力の拡張が認められる場合にそれに即した執行力の拡張 が認められることは当然是認されよう。もっとも逆の場合もありうる。例えば、重畳的債務引受の場合には、執行力の拡 張があるかについて争いがある。この場合に既判力の拡張、すなわち債務引受人が前主の債務の存在を争えないとするこ とには格別の支障がないようである。したがって、執行力の拡張を否定する考え方に立てば、既判力は拡張するが、執行 力は拡張されないということになる。︶。しかし、執行力によって権利状態が争えなくなるわけではないから、一応執行さ せ、実体的権利関係の決着は後廻しにすることである。 東 洋 法 学 九一

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執行力の客観的範囲試論 九二 ︵13︶ ︵14︶  執行力の拡張原因である﹁承継﹂とは、原執行請求権に係る紛争当事者が第三者に入れ換わり、原執行請求権の請求原 因事実︵主要事実︶の一部︵一個又は数個、上例では建物所有権︶が前主から承継人に伝来的に移転することである。請 求原因事実の一部が入れ換わるのみであるから、入れ換わった主要事実の存在が立証されれば、新執行請求権の請求原因 事実がすべて立証されたことになり、原執行請求権と同種の内容の債権の発生の蓋然性が著しく高いことになる。これは 既判力の効果ではなく、請求原因事実の証明度という事実的効果である︵これを執行力拡張の根拠とすることができるな らば、建物所有権の伝来的取得に限られないとすることも考えられる︵村松俊夫﹁訴訟と執行からみた占有の承継﹂法学 新報六八巻七号一〇∼一一頁参照︶︶。もっとも承継人に固有の抗弁事由が存在することがあり、それによって新債権が否 定されることはありうるが、承継人が常に固有の抗弁を有するものではなく、その事由はもともと例外的な事由であっ て、承継人が主張・立証責任を負担するものであるから、その提出の機会を留保しておくならば、承継人の利益の保護の ためにはそれで足りよう。  いわゆる形式説は、承継による執行力の拡張を一応認めるが、承継人の独自の主張を提出することを妨げないとし、い わゆる実質説は、独自の主張を有する者は承継人に当たらないとする。形式説は承継を執行力拡張の原因としてとらえ、 実質説は執行力拡張の当否という結果から見て承継の有無を決定する。このようなアプローチの違いはあるが、承継人に 固有の主張があり、その事由の存在が証明されれば、原債権者の承継人に対する請求権を否定するという結論に変わりは ない。ただ執行力の拡張は、判決があることを契機として、その判決の効力をどこまで拡張するかという問題であるか ら、なるべく実体関係に入らずに決定するという方向が望ましいのであり、実体関係で承継をとらえようとするのは、こ の方向にそぐわないように思われる。  判決の効力の拡張においては、既判力の拡張は余り意味がなく、執行力の拡張に力点がおかれるべきものである。  中野・前掲︵6︶︵現在問題︶二七三頁、高島義郎﹁執行文をめぐる訴訟﹂︵三ケ月11中野11竹下編・新版・民事訴訟法 演習2︶一七八頁。  既判力と執行力とを分離する考え方については、横山長﹁処分禁止の仮処分命令に違反してされた処分行為の効力﹂︵最

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 高裁判所判例解説民事篇昭和四五年度㊦︶一〇二五頁以下に負う所が多い。同旨 太田豊﹁仮処分と当事者恒定口﹂判例  時報六五四号一一頁、塩崎勤﹁不動産に対する執行官保管の仮処分の効力﹂︵不動産法大系W訴訟︵改訂版︶︶二二一一頁、   根本久﹁占有移転禁止仮処分﹂︵新・実務民事訴訟講座!4保全訴訟︶二二六頁、小倉顕﹁占有移転禁止の仮処分決定に違   反した占有の移転と本案訴訟の帰すう﹂︵最高裁判所判例解説民事篇昭和四六年度︶五五八∼九頁。なお、新堂・前掲︵n︶   三四〇、三四四∼五頁参照。    執行力の前提として既判力を要するとするもの 松浦﹁仮差押及び仮処分の改正について因﹂判例時報八五七号六頁、   瀬木比呂志﹁占有移転禁止仮処分−要件と効カー﹂︵民事保全法の理論と実務下︶五二一、五二四∼八頁。    なお、強制執行法案要綱案︵第二次試案︶第三五〇第一項は、﹁物の引渡請求権を保全するため、目的物に対する債務  者の占有を解いて保管人にその保管を命ずる仮処分の執行があった場合において、本案の口頭弁論の終結前に、当該目的   物につき占有の移転がされたときは、本案の終局判決の執行力は、当該占有の承継人に及ぶものとする。﹂とし、判決の   既判力と執行力との分離を認めるかのような表現がとられていた。松浦教授はこの表現を非難する︵松浦・前掲判例時報   八五七号六∼七頁︶。 ︵15︶ 執行文付与手続は、執行手続に属するのか、債務名義作成手続に属するのかという点について考えてみる必要がある。   執行文は、債務名義作成手続の延長   その完成のための一手続であって、執行の開始手続ではないことに注意すべき   である。執行文の付与は、執行債権について現実に執行手続に入ることを可能とすることであり、実質的には執行力を発   生させるに等しい効果を与えるから、債務名義作成手続の一環である。執行文の付与に当たる機関は、受訴裁判所所属の   裁判所書記官又は公証人であり、いずれも債務名義作成機関ないしこれに関わる者であって、執行機関ではない。その機   能は、執行力の発生に係る判断作用を行い、これを公証するものであり、そのためには執行債権ないしはその要件事実の   存否の確認が前提となる。したがって、執行文の付与を求める際には執行物を特定する必要がある。執行物が物権的請求   権であるか債権的請求権であるか、いかなる種類、態様の請求権であるかが明示されるべきである。もっとも単純執行文   の付与を求める場合には、そこまでの必要がないのが通例であろうが、承継執行文、転換執行文の付与を求める場合に 東 洋 法 学 九三

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 執行力の客観的範囲試論       九四 は、その必要が顕在化する。たとえば、甲からの不動産の二重譲受人である乙と丙との間において、甲に対する所有権移 転登記請求権認容の確定判決を有する乙が丙に対する承継執行文を求める場合︵後述の三、3、㈲一〇三∼四頁参照︶、 単に乙の甲に対する右確定判決の存在の表示においては、所有権移転登記を求めうる地位を示すだけではなく、当該登記 請求権の特定  甲乙間の売買を登記原因とする所有権移転登記請求権であることを示す必要がある。そして、これと 承継の具体的事実︵主要事実︶である甲から丙への譲渡を述べることにより、二重譲渡の点が明らかとなる。これにより 執行文付与機関の拘制作用が働きうるのである。       ふ 三 執行力の客観的範囲  1 序   説  執行力拡張の実質的根拠は何か。執行力の拡張後、なお執行力を有するとされる執行請求権の存在の蓋然性が執行 を許容しうる範囲内にあることである。民事執行法は、原債務名義の執行力拡張の要件事実として﹁︵停止︶条件の成        ︵16︶ 就﹂︵二七条一項︶及び﹁承継﹂︵二一二条一項三号︶を定めている。両者は、いずれも本来は執行債権たる給付請求権 の実体法上の効力発生のための要件事実であるから、給付請求権認容のためには給付請求権を主張する者が主張・立 証すべきものである。民事執行法は、原債務名義の存在という要件事実に加えて、両者を要件事実として、新たに生 じた債権につき、原債務名義の執行債権者又はその承継人のために執行力の発生を認めているのである。逆にいえば、 民事執行法は、条件成就又は承継の事実を加えることにより、新たに生じた債権につき、執行力の実質的根拠として 許容するに足りる程度の権利存在の蓋然性を有するものと承認していることを示す。したがって、原債務名義に掲記

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されている執行債権につき、他の事実を加えた場合でも、前記の拡張原因により生ずる執行債権の存在と同程度の蓋 然性を認めることができるならば、原執行債権を若干変容した新債権をも、原債権の執行力の客観的範囲内のものと       ︵17︶ して認める余地を与えたものと解することができよう。  そこで、次に執行力の客観的範囲の拡張の当否が問題とされる若干の事例に即して、どのような基準を定立するこ とができるかについて検討を加えてみることとする。なお、原債権の執行力を消滅させ、あるいは執行力の発生を障 害する事由が存することもありうるのであり、その場合は新債権につき執行力が消滅し、あるいは発生しないことに なる。しかし、これは新債権の執行力の客観的範囲の同一性とは別個の問題である。 ︵16︶ ︵17︶  将来の給付請求権認容判決の既判力は、基準時に将来の給付請求権が存在することを確定するのであり、条件成就時に 現在の給付請求権が存在することを確定するわけではない。これに対し、執行文付与手続においては条件成就を要件事実 としてこの給付請求権について執行力を生じさせる。ここでも既判力と執行力との分離現象がある。この場合は、右判決 の存在プラス条件成就が執行力の発生原因事実である︵実体法上の権利発生原因事実プラス条件成就があっても、実体上 の請求権が発生するにすぎず、当然に既判力、執行力が生ずるものではない。既判力、執行力の発生のためには、判決確 定が必要である。︶。このことは承継の場合でも同様である。債務名義の存在プラス承継により、承継人のために又は承継 人に対して執行力が発生するのであり、右の各事実は、執行力発生についての要件事実であるから、実体法上の承継人に 係る権利の発生原因とは一致しないことがありうるのは当然であろう︵前掲︵12︶参照︶。承継という概念についての拡 張解釈の可能性もここに由来する。  条件成就の場合には、原債務名義成立時と条件成就時との間に時間的間隔があるから、原債務名義作成手続と別個の手 東 洋 法 学 九五

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 執行力の客観的範囲試論      九六 続によらざるをえないし、条件成就は実体的権利の効力の発生に係り、本来は判決事項であって、口頭弁論を開くことが 必要とされる事項であり、その立証は単純執行文における執行力の発生原因に比して困難なものであるが、執行物たる給 付請求権の同︸性に変更はない。承継の場合にも、原債務名義成立時との時間的間隔があること、新執行請求権という実 体権の発生原因であること、単純執行文における執行力の発生原因に比して立証困難であることは、条件成就と同様であ るが、条件成就の場合とは異なり、原執行請求権と新執行請求権とは、実体法上は別個であるから、それ自体において客 観的範囲を異にすることになる。条件成就と承継との問のこの異同点が事例の検討においてどのように関連するかに留 意する必要がある。  2 敗訴借地人の建物買取請求権の行使  前訴において敗訴した借地人が、前訴の最終口頭弁論終結後建物買取請求権を行使すると、地上建物の所有権は地 主に帰属するから、地主の借地人に対する建物収去土地明渡請求権は、建物明渡請求権となり、実体法上の請求権は 異なるといわざるをえないし、執行方法は、原債務名義であれば、執行裁判所を執行機関とする代替執行によるのに 対して、建物明渡請求権となると、執行官を執行機関とする直接強制がなされ、債権者に建物を引き渡さなければな       ︵18︶ らない点で、執行機関、執行内容のいずれもが異なる。しかしながら、①請求権の変更が生じなければ、原請求権は そのまま存在し、執行債務者はこれを争いえない立場にあるにも拘らず、執行債権者に何ら責のない執行債務者の一 方的行為により、執行債権者がその既得的地位を喪失し、原債務名義が形骸化すること、②この請求権の変更があっ ても、地主たる執行債権者は、建物明渡しによって土地の明渡しを受けるのであって、本来の土地の明渡しを受ける

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法的利益に変更を来たすものではないこと、③この請求権の変更は、執行債務者の単独行為︵形成権の行使︶に基づ くものであり、かつ、前訴で行使することも可能であったのに対し、執行債権者はその行使を制止することもできな いし、事前に催告して失権させることもできないうえ、その結果は執行債務者に有利なものであること、④新請求権 は、旧請求権である建物収去土地明渡請求権の発生要件事実に、執行債務者の主張・立証責任事項である建物買取請 求権の行使という一個の要件事実を加えるのみであり、承継執行において承継の事実が加わるのと新執行債権の発生 状態が近似すること︵後者よりむしろ軽微な事情の変動であるといえる。︶、⑤しかも執行債権者が執行文の付与を求 めるということは、執行債務者の建物買取請求権の行使が申立の理由となっており、先行的自白に当たるという事情    ︵19︶ が存する。このような場合には、新執行債権の存在の蓋然性は、執行力の拡張を承認するに足りる高度なものを有す るといっても差支えない。ただ実体上の請求権は異なるものであるし、執行方法が別異のものとなるから、その旨を 債務名義上明らかにするのが相当であり、そのためには執行文においてこれを明示することが必要である︵転換執行  ︵20︶ 文︶. ︵18︶ このように執行方法が異なるにも拘らず、裁判例︵東京高決昭和三八年一一月三〇日下民集一四巻一一号一一三五三頁、  札幌高判昭和四〇年四月一一六日下民集一六巻四号七五三頁︶、多数説︵村松・民訴雑考九〇頁、福永有利目沢井裕・民商  法雑誌五五巻一号一五五∼九頁、中田淳一・民商法雑誌五九巻一号一七八∼九頁、生熊長幸﹁家屋収去土地明渡しの執行   と建物買取請求権﹂︵民事執行法の基礎︶二六八∼九頁︶は、原債務名義に単純執行文の付与を受けることにより執行し  うるとし、その理由は、後者は前者の質的、量的に一部であると説く︵近藤完爾・執行関係訴訟︵全訂︶二七七∼八頁︵注    東 洋 法 学      九七

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︵19︶ ︵20︶ 執行力の客観的範囲試論 九八 五︶参照︶。これに対し、本文の点を指摘して反対するのは、畑郁夫﹁建物買取請求権の行使と請求異議訴訟﹂︵司法研修 所創立一五周年記念論文集ω︶三五三∼四頁、中野﹁非金銭執行の諸問題﹂︵鈴木忠一H三ヶ月監修・新・実務民事訴訟 講座12民事執行︶四六七頁。  中野・前掲︵18︶四六八頁、同・前掲︵6︶︵現在問題︶二九五∼八頁、︵山木戸還暦︶三三〇∼三頁、同・前掲︵2︶ ︵執行法︶二四二∼三頁。なお、住吉博﹁執行力の意義と範囲﹂︵講座民事訴訟⑥︶二三九頁参照.  類似の事例としては、①建物収去土地明渡を命ずる前訴判決確定後の対象建物の執行債務者による増改築、②土地引渡 執行直後の執行債務者による目的物の奪取などがある。①は、増改築の結果建物の同一性を異にするに至った場合には、 原債務名義に基づいて収去執行をなしうるかが問題となる。執行債務者の行った増改築により前訴判決が形骸化するこ と、執行債権者の得られる法的利益は同一土地の明渡しであって変動がないこと、要件事実は執行債務者の目的建物の増 改築という一個の事実であって、新建物収去請求権存在の蓋然性が高いことからすると、この場合には執行力の拡張を認 めるのが相当であると考えられる。②は、事実関係が執行前と同一の状況に戻るから、再度の引渡請求権の存在の蓋然性 は極めて高いといえるが、他方、原債務名義はその目的を達し、その執行力が消滅したものであり、判決の形骸化とはい いえないこと、執行債務者の不法な行為に基づくとしても、執行債権者は一日百らの手に土地の引渡しを受け、法的利益 を享受していることからすると、執行力の拡張を認めるべきではない︵反対 東京高判昭和二七年六月二百下民集三巻 六号八〇三頁。中野・前掲︵6︶︵現在問題︶三〇六頁、︵山木戸還暦︶三三三頁︶。執行債権者は、土地の占有を回復す るためには、断行の仮処分を求めることができ、この仮処分の申請は容易に認容されよう。  3 登記請求権認容判決後の目的物の譲渡   ⑨ 登記請求権の執行の問題点 一は、登記請求権認容の判決は、 ち意思表示を命ずる判決であるが、この判決に執行の余地があるのか、 被告に対して登記申請を命ずる判決、すなわ ということであり、二は、執行が認められる

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としても、承継執行が許されるのか、ということである。       ︵21︶    ω 登記請求権の執行の成否 意思表示を命ずる判決は、その確定により意思表示が擬制され、執行の余地は なく、登記がなされるのは、原告が自己の勝訴判決を事実上利用するにすぎない、とする考え方があり、通説であ ︵2 2︶ る。  しかしながら、登記請求権者の目的ないし所期する利益状態は登記を得ること︵登記簿上に記載されること︶であ る。登記を得るための方法の一部として、登記義務者の登記申請行為ー登記記入を求める申立が必要なのである。 登記義務者の債務は債権者に登記を得させることであるが、登記記入︵登記の完成︶が登記制度上登記官によりなさ れるため、債務者の行為が登記の申請に止まるにすぎない。判決の確定によって債務者の意思表示︵登記所に対して 登記申請をする旨の意思表示︶がなされたことは擬制されるが、登記手続の一部が行われたにすぎない。その意思表        ︵23︶ 示は、第三者で、隔地者の名宛人である登記官に到達してはいない。また登記権利者の満足は登記が実現されること にあるから、登記申請によって満足を得るわけではない。執行の目的は債権者に満足を与えることであり、これによ って始めて執行は終了するというべきである。登記の場合は、登記の実行︵登記簿への登載︶は登記官の専権であっ て、執行債権者が自らなしうるところではない。本来執行手続を遂行することは執行機関の職責ではあるが、登記に ついては、その制度目的から、独立の国家機関︵登記官︶が設置されているため、登記に係る執行手続の満足段階が、 執行機関から登記官に代替させられているとみることができる。登記申請の受理から登記の実行までの満足段階は、 登記官の一連の事実行為であり、金銭債権の執行が債権者の執行申立後は、執行機関によって満足段階に至るのと同     東 洋 法 学      九九

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    執行力の客観的範囲試論      一〇〇 様に、いわば自動的になされるものではあるが、そこには事実行為と時間的経過とが存在するのであり、登記手続を       ︵24︶︵25︶ 遂行するのが執行機関ではなく登記官であるからといって、執行手続でないとしなければならない理由はない。登記 義務者になお救済を受けるべき理由があるなら、この間において救済すべき必要性が存するが、その機会を与える余 地が生まれる。    ω 登記請求権の承継執行の許否 登記請求権の承継執行とは、債務名義に掲記された登記権利者Aに対する 登記義務者Bが、その登記の目的物件をCに譲渡した場合、その債務名義に基づき、AがCに対して登記請求権の執        ︵26︶ 行をすることができるか、という問題である。Bに対する登記請求権とCに対する登記請求権とは、実体法上の権利 としては別個であり、執行手続面において相手方を異にするし、登記の方法も異なるから、訴訟物としてはもちろん 同一であるとはいえないし、執行物としても同一とみるのは困難である。しかし、Bが執行免脱の目的で、Cに登記 の目的物件を譲渡することは間々ありうるから、引渡執行の場合とパラレルに考えることは可能である。現にAの保 護を図る必要は同様であるし、登記方法を異にするといっても、承継執行がすべての場合において全く不可能とは言    ︵27︶︵28︶ い切れない。なお、個々の場合について検討を加えてみる。   ⇔ 偽造登記の抹消の場合 所有権者Aが偽造書類により登記名義を変更したBを相手に所有権に基づく移転登 記抹消請求訴訟において勝訴したところ、Bが第三者Cに右土地を譲渡し、所有権移転登記を経由した場合である。  この場合、①Cの登記が抹消されなければ、AはBの登記を抹消して自己の登記名義を回復することができず、A のBに対する勝訴判決は無意味なものとなる。②AとB・Cとの間の法律関係を見ると、Aの被侵害権利は所有権で

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あり、BとCとのAに対する妨害の態様は、B、C名義の登記の存在ということにあり、AのB、Cに対する登記請 求権は、いずれも所有権に基づく妨害排除請求権としての抹消登記請求権である。AのB、Cに対する請求権の各発 生原因の相違点は、Aの所有権を妨害する存在が前者においてはBの登記であり、後者においては、それがCの登記 に入れ換わったにすぎず、AのCに対する登記請求権発生の蓋然性が高い。③Aが享受すべき法的利益は、B、C名 義の登記の抹消登記によるAの所有権の回復であって、同一と評価することができる。④AのBに対する勝訴判決の 形骸化のおそれは、AB間の紛争に専らCが介入してきたことに起因し、これによりCに対する請求権行使の必要を 生じたものであり、Aの責に帰すべき行為は存在しない。その意味でBに対する請求権の外延が拡がったにすぎない。 ⑤Bは無権利者であり、登記に公信力が認められていないわが国の法制の下では、Cが所有権を取得することができ ず、独自の法的主張︵抗弁︶をもたない。  以上の事情からすると、実体法的にはAのCに対する請求権が、AのBに対する請求権とは当事者を異にする︵相 手方を異にする︶ことにより別個であるとしても、AのBに対する判決の執行力をCに対して拡張する必要があり、 その拡張があってもCはその不利益を甘受せざるをえない立場にあるというべきであり、執行力の客観的範囲内にあ       ︵29︶ るといってよいと考えられる。そうだとすれば、Aは、Cに対するC名義の登記の抹消登記手続を命ずる旨の承継執 行文を受け、その旨の登記申請をすることができることになる。   ㊧ 錯誤に係る登記原因行為の場合 AB間の売買につき売主Aの意思表示に要素の錯誤があったため、売買を 無効としてBに対する所有権移転登記抹消請求権認容の判決が確定した後、BからCに目的物件の譲渡がなされ、そ     東 洋 法 学       一〇一

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    執行力の客観的範囲試論      一〇二 の旨の移転登記が経由された場合である。        ︵30︶  この場合にも、口の①ないし④の事情が同様に当てはまる。⇔とやや異なるのは、AB間の売買におけるAの錯誤 の主張につき、Aに重大な過失があることが、錯誤による無効の発生障害事由となることである。しかし、これはC の独自の法的主張ではなく、Bの反対主張︵再々抗弁Vにすぎない。したがって、Cがこれを援用することはできる が、前訴︵AのBに対する抹消登記請求訴訟︶でBが主張して排斥された場合はもちろんのこと、Bが主張せずに敗 訴したとしても、前訴判決の既判力が承継人としてのCに及ぶ以上、既判力ないしその遮断効によりCはもはやこれ を援用することは許されない.結局AC間において口の⑤の事情も同様のものとなるから、前訴判決の執行力はCに 及ぶと解するのが相当であると考えられる。   四 通謀虚偽表示に係る登記原因行為の場合 AB間の仮装売買に基づきBに対して所有権移転登記を経由して いたところ、AのBに対する抹消登記請求権認容の判決が確定した後、BがCに目的物件を譲渡し、所有権移転登記 を経由した場合である。        ︵31︶  この場合には、⑫の①ないし④の事情が同様に当てはまる.したがって、ここまででは、Cが無権利者であり、A のCに対する移転登記抹消請求権の存在の蓋然性が高いといえる。口と異なるのは、四においては、Cの独自の法的 主張として、AB間の通謀虚偽表示につき第三者であるCが善意であれば、AがCに対してAB間の売買の無効を主 張することができず、Aは土地所有権を喪失する可能性があることである。すなわち、執行力拡張の要件事実が、C の承継の一個だけではなく、Cの善意でないこと︵悪意︶の事実が加わり、二個となるのかである。この事由が、A

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のCに対する登記請求権存在の蓋然性につきどのような影響を与えるかに係る。ところで、Cの善意は、Cの主張・ 立証責任事項とされ、法は、Cの善意がBC間の譲渡に当然に伴うものではなく、例外的な事情ととらえているとみ ることができる。そうだとすると、Cがこれを主張して前訴判決の執行力の拡張を争い、執行停止処分を得る機会を        ︵32﹀      ︵33︶ 与えておくならば、前訴判決の執行力がCに拡張されると解してよいと考えられる。Cは、請求異議の訴により、C に対する執行を阻止するほかはない。   国 二重譲渡の場合 Bから不動産を買い受けたAが、Bに対する所有権移転登記請求権認容の確定判決を得た が、登記未了の間にBがCに対して右不動産を譲渡し、所有権移転登記を経由した場合である。  この場合にも、まず前訴判決の形骸化を避けるため新請求権についての執行力の拡張の必要性は認められるし、A の法的利益については、本件不動産所有権の確保であって、同一と考えることも可能ではある。そして執行力拡張原 因である﹁承継﹂はCにおいても争わない事実であり、証明が容易であるといえる。しかし、Aはかつて登記名義を 有したことはないから、抹消登記を求める余地はなく、Aが登記名義を得るには、AB間の売買を原因とする所有権 移転登記請求権を主張するほかはない。これに対し、AC間の請求権は所有権に基づく抹消登記請求権である。両請        ︵34V 求権は、権利の性質・態様・登記の方法を異にする。しかも、AがCに対する別訴を求められるとした場合、その訴        ︵35︶ 訟における双方の主張の構成をみると、請求原因の段階では事実関係に争いがなく、その限りでは請求権発生の蓋然 性が高いと一応は言えても、抗弁である﹁承継﹂は、執行文付与の場合にはAが主張立証すべき事項である上、Aに 有利に働くよりは自滅的に働いている。すなわち、必然的にAC間の対抗問題を生じ、Aに登記がないことは争いが

    東洋法学       

一〇三

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    執行力の客観的範囲試論       一〇四 ないのであるから、実体法上はAはCに劣後することになり、Aとしては対抗要件を不要とするためには、Cが背信 的悪意者であること又はBC間の売買が無効であること︵例えば仮装売買︶を主張立証することを要することとなり、 その結果、背信的悪意者、通謀虚偽表示が必然的に執行力拡張原因にせり上がることになる。しかも右各事実は、承 継とは別個の事実であるし、これを執行力拡張原因に含ませるとすれば、二個の要件事実を主張することが必要とな る。また手続上も︵申立の内容については、前掲︵15︶参照︶、執行文付与手続に予定された証拠方法によって賄うこ とが困難である場合が通例であろうから、直ちに執行文の付与を求めることができず、執行文付与の訴によらざるを        ︵36V えないことが殆どであろう。通説は、前訴判決のCに対する執行力の拡張を認めない。   因 登記原因行為の取消・解除の場合 AがBに対して不動産を譲渡し、所有権移転登記を経由した後、譲渡契 約を取り消し、又は解除してBに対する抹消登記請求認容の確定判決を得たが、登記の抹消未了の間に、BがCに本 件不動産を譲渡し、所有権移転登記を経由した場合である。  この場合には、Aは、かつては本件不動産の所有者であって、その登記名義を有していたから、B、Cに対する請 求権がいずれも所有権に基づく抹消登記請求権であり、執行力の拡張の必要性及びAの享受すべき法的利益は日、四 と同様である。しかしながら、他方においてAの解除・取消とBのCに対する譲渡とにより、AC間には二重譲渡に       ︵37︶ 類する関係が生ずるから、執行力の拡張とAの法的利益とに係るそれは国と同様である。したがって、執行力拡張の 要件事実が﹁承継﹂の事実に止まらず、Cの背信的悪意又はBC売買の無効の事実も加わり、その存在の蓋然性につ いては国と同様であるといわざるをえず、しかもこの点が最も重視されるべきであろう。これらの事柄を総合すれば、

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      ︵38︶ 前訴判決の執行力のCに対する拡張は相当ではないと考えられる。 ︵21︶ ︵22︶ ︵23︶

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 登記申請の意思表示にあっては、債務者が﹁登記所二出頭シテ﹂︵不動産登記法二六条︶所定の申請書︵同法三五条︶ を提出したものとみなされる、とするもの︵中野・前掲︵11︶二五頁、鈴木目三ヶ月編・注解民事執行法⑤一二二、一二 七頁︵町田顕︶、鈴木H三ヶ月H宮脇幸彦編・注解強制執行法㈲一九四頁︵山本卓︶︶と申請書の提出までは擬制しないと するもの︵中野﹁作為・不作為債権の強制執行﹂︵岩松三郎11兼子編・民事訴訟法講座第四巻︶=二九頁、並木茂﹁判 決の内容﹂︵幾代通ほか編・不動産登記講座1︶三六一頁、清水湛﹁意思表示義務の執行﹂︵中川善之助ー兼子監修・実務 法律大系7強制執行・競売︶七二八頁︶とがある。  最判昭和四一年三月︸八日民集二〇巻四六四頁。中野﹁意思表示義務の強制執行﹂阪大法学二二号六二頁、山本・前掲 ︵21︶一九六頁、町田・前掲︵21︶一二八頁、並木・前掲︵21︶三六二頁、清水・前掲︵別︶七二八頁、小倉﹁判決によ る登記﹂︵中川H兼子監修・不動産法大系W登記︹改訂版︺︶二〇三頁、山木戸・前掲︵2︶二︸五頁、林伸太郎﹁抹消登 記請求と意思表示の執行﹂︵民事執行法判例百選︶二〇五頁。反対 大判大正一五年六月二三日民集五巻五三六頁。  第三者に対する意思表示の場合には到達を要するとすることに争いはない︵山本・前掲︵21︶一九二∼三、︸九五頁、 町田・前掲︵21︶二一八頁、中野・前掲︵21︶一二二一頁、山木戸・前掲︵2︶二一五頁︶。  河野・前掲︵11︶五九九頁。  登記手続は執行機関によってなされるものではないから、これを狭義の執行ということはできないが、債務名義に基づ き執行債権者の執行債権が実現されるということから、広義の執行と言われる。広義の執行には、所有権確認判決に基づ く所有権保存登記、離婚判決に基づく戸籍簿の抹消等がある。しかし、これらには登記義務者、戸籍の抹消申請義務者は 存在しないのであるから、これらと登記を命ずる判決の実行との間には画然とした差異がある。もっとも、登記を命ずる 判決につき承継執行を認めるといっても、登記手続に変わりはない。承継執行文を付された債務名義を添付して、執行債 東 洋 法 学 一〇五

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執行力の客観的範囲試論 一〇六 ︵26︶ ︵27︶ 権者が単独で登記申請を行うのであり、要は承継執行文の付与を認めるかどうかにかかる。ただ執行債務者に対する救済 手段として、民事執行手続における執行債務者に対する執行文の送達、不服申立方法︵執行文付与に対する異議、異議の 訴︶の類推適用が認めやすくなる利点がある。  登記を命ずる債務名義に基づく執行を許さないなら、当然承継執行の問題は起らない。その他に、承継執行に反対する 理由として、もし承継執行の規定を準用ないし類推適用すれば、いったん登記を経た第三者Cが事前に何らの審尋をも受 けないまま、不知の間に自己の登記名義を失う結果となりかねず、強制執行とは救済体系を異にする登記手続については 執行訴訟の提起による停止・取消を求める途もないし、仮に類推を認めるとしても、時間的余裕が与えられる仕組となっ ていないことが挙げられる︵中野・前掲︵6︶︵現在問題︶二七六∼八頁、︵山木戸還暦︶三〇六∼八頁、同・前掲︵11︶ 二五頁︶。この難点を回避する一つの方法は、たしかに承継執行を認めず、Aに対してCを相手とする新訴の提起をさせ ることである。しかしもう一つの方法として、承継執行を類推適用する考え方をとる場合には、Cに対する執行文の付 与、執行文付与に対する不服申立をも当然類推適用することが可能となろうから︵山木戸・前掲︵2︶二一八頁、中野・ 前掲︵2︶︵執行法︶六二九頁、河野・前掲︵11︶五九九頁、石川編・民事執行法三一二頁︵斎藤和夫︶、浦野雄幸・条解 民事執行法七五五頁、浦野編・基本法コンメンタール民事執行法四五一頁︵小林昭彦︶。反対 香川保一監修・注釈民事 執行法¢り三二三頁︵富越和厚︶、町田・前掲︵21︶一二六頁︶、この批判は必ずしも当たらないと考える。  大判昭和一一年九月二六日民集一五巻一七四一頁、最判昭和五四年一月三〇日判例時報九一八号六七頁︵但し傍論︶。 兼子﹁登記抹消請求訴訟中に移転登記を受けた者に対する訴訟引受﹂︵判例民事訴訟法︶四三〇頁、中務俊昌目川村俊雄 ﹁口頭弁論終結後の承継人と判決の効力﹂︵鈴木n三ヶ月監修・実務民事訴訟講座2判決手続通論H︶六二頁、香川﹁判 決による登記㈲﹂登記研究一一〇号三頁、同﹁不動産の処分禁止の仮処分の登記とその後の処分の登記の効力﹂︵村松還 暦記念・仮処分の研究下︶四三頁、石川﹁判決による所有権移転登記申請の受否について﹂︵不動産登記先例百選︶一九 四頁、上田・判例タイムズニ七〇号九四頁、竹下”上原敏夫・判例評論二五二号一七九頁、高見進﹁口頭弁論終結後の承 継人﹂︵民事訴訟法判例百選H︶三二八頁、遠藤功﹁登記上の前主に対する勝訴判決の存否と承継人に対する別訴提起の

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︵28︶ ︵29︶ 利益﹂判例タイムズ四一一号二五九頁。  登記の承継執行にはもう一つの難関がある。登記の承継執行の際に生ずる登記方法の変更の判定及び表示を執行文付 与機関である裁判所書記官と登記官とのどちらかに委ねなければならないのに、その両者の権限が狭いことである。どち らも、その権限が限られ、その権限の行使において本来解釈権限がほとんどない。しかし承継執行を可能にするために は、そのどちらかの権限を拡張させることを要する。登記官の権限を拡張するやり方として処分禁止の仮処分の例があ る。この仮処分の登記後になされた所有権移転登記について、仮処分債権者が勝訴してその登記をする際、この所有権移 転登記を職権で抹消して仮処分債権者のための登記︵仮処分債務者の登記の抹消︶をすることを認めるのである。この場 合、仮処分債務者に対する判決のみで、第三者宛の債務名義は存在しないのであるから、本来であれば判決の執行力を拡 張し、承継執行文の付与を受けて第三者の登記を抹消するのが筋であろうが、仮処分の登記のあることから、承継執行文 による執行でなしに、第三者に対する仮処分債権者勝訴の判決の執行を認めたものであり、登記官の形式的審査権の枠を 思い切って拡張したものということができる。他のやり方は、裁判所書記官の権限を拡大することである。承継執行文の 規定を類推適用︵拡張解釈︶することにより賄おうとするものである。執行文付与の訴により執行裁判所の認容判決にま つことも一つの考え方であるが、この判決は﹁条件成就﹂﹁承継﹂の事実の証明を得さしめるのが本来の目的であって、 執行文の付与を命ずるものではない。そうでなければ、実質的には執行裁判所が執行文を付与することになり、執行文付 与の構造と反することになる。たしかに給付内容が変更されるのではあるが、それは実際には数個の類型に限定されよ う。したがって、その判断内容もそれ程複雑多様なものではなく、裁判所書記官の執務能力は十分これに堪えることがで きるものと考えられる。私としては裁判所書記官に承継執行文︵転換執行文も含む︶付与の権限を与えるのが相当である と考える。  積極 最判昭和五四年一月三〇日判例時報九一八号六七頁。兼子・前掲︵27︶四三〇頁、香川・前掲︵27︶︵登記研究︶ 五頁、竹下・前掲︵H︶六八三頁、小倉・前掲︵22︶二〇五頁、清水・前掲︵21︶七三五頁、並木・前掲︵21︶三六三 頁、山田忠治﹁判決による登記と登記原因﹂︵不動産登記講座1︶三八五∼六頁、遠藤・前掲︵27︶二五九頁。大決昭和 東 洋 法 学 一〇七

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執行力の客観的範囲試論 一〇八 ︵30︶ ︵31︶ 五年四月二四日民集四巻四一五頁、大判昭和二年九月二六日民集一五巻一七四一頁、昭和三二年五月六日民事甲第七三 八号民事局長通達先例集追録m九四頁参照。反対 中野・前掲︵6︶︵現在問題︶二七六∼八頁、とくに二七六頁、︵山木 戸還暦︶三〇六∼八頁、とくに三〇六頁、同・前掲︵n︶二五頁︵前掲︵26︶参照︶。なお、拙稿﹁判決後の承継人﹂判 例タイムズニ九四号八頁の考え方を改める。  AB、AC間の訴訟における双方の主張の構成は、請求原因が①Aが本件土地の所有者であること、②B︵又はC︶が 本件土地につき所有権移転登記を有すること、であり、抗弁がAがBに本件土地を売却したこと︵Aの所有権の消滅︶、 再抗弁がAB売買におけるAの売渡しの意思表示に要素の錯誤があったこと︵AB売買の無効、したがってAB売買によ るAの所有権の消滅の不発生︶、再々抗弁がAの錯誤につきAに重大な過失があったこと︵AB売買の無効の不発生︶、で ある。再々抗弁が理由があれば、結局Aの請求は認容されない。またAC間の訴訟における主張の構成においてもBC間 の承継は現われない。日と四との相違点は、Aの重大な過失がAC間の訴訟において初めて現われるのではなく、AB間 の訴訟において既に争点となり、又は争点となりえたことである︵この点については本文参照︶。  AB間の訴訟における双方の主張の構成は、請求原因が①Aが本件土地の所有者であること、②Bが本件土地につき所 有権移転登記を有すること、抗弁がAがBに本件土地を売却したこと︵Aの所有権の消滅︶、再抗弁がAB間の売買は通 謀虚偽表示であったこと︵ABの売買の無効、したがって、AB間の売買によるAの所有権消滅の不発生︶、である。こ れに対して、AC間の訴訟におけるそれは、請求原因の②が、Cが本件土地につき所有権移転登記を有することと入れ換 わるほかは、請求原因から再抗弁までは同様であるが、再々抗弁として、Cが善意であることが現われることである。以 上から明らかなように、AB間の訴訟には再々抗弁がなく、それはCの独自の主張であり、AC間の訴訟においてこの 再々抗弁が理由があれば、AのCに対する請求は認容されない。またこのAC間の訴訟の主張の構成においては、BC間 の承継関係も、AのBに対する抹消登記請求権も現われない。AのCに対する実体法上の請求権が存在しない以上、Aに おいてCの登記を抹消することが許されないことは、形式説をとろうと実質説をとろうと変わりはないし、そもそもAの Bに対する抹消登記請求権もBC間の承継も、実体法上の関係においては、AのCに対する請求権の発生において何ら働

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︵3 2︶ ︵33︶ いてはいないのである。すなわち、AB間の判決の既判力がAC間の訴訟において影響する余地はないが、BのCに対す る本件土地の譲渡︵Cの承継︶は、右判決の執行力の拡張の要件事実として機能するにすぎない。  積極 大阪高判昭和四七年八月二日下級民集二三巻五∼八号四一四頁、判例時報六八六号四五頁。竹下・前掲︵n︶六 八三頁、新堂・前掲︵n︶三四二頁。  消極 吉村・前掲︵11︶︵百選︶二四五頁、︵基本構造︶一五八頁以下︵実質説による。︶、中野・前掲︵n︶一一五頁︵前 掲︵29︶参照︶、水谷暢・民商法雑誌七一巻二号三七六∼八二頁、とくに三八二頁。最判昭和四八年六月二一日民集二七 巻六号七一二頁の事案は、AB間の仮装売買を理由として移転登記請求権認容の確定判決︵本来は抹消登記であるが、真 正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記︶を得たAが、強制競売によりこの土地を競落し、所有権移転登記を受 けたCに対して承継執行文を受け、所有権移転登記を了した。そこで、CがAを相手として所有権確認と右登記原因によ る所有権移転登記を訴求したものである。右最判は、﹁Aは、本件土地につきB名義でなされた前記所有権移転登記が、 通謀虚偽表示によるもので無効であることを、善意の第三者であるCに対抗することはできないものであるから、Cは本 件土地の所有権を取得するに至ったものというべきである。このことはAとBとの間の確定判決の存在によって左右さ れない。そして、CはBのAに対する本件土地所有権移転登記義務を承継するものではないから、Aが、右確定判決につ き、Bの承継人としてCに対する承継執行文の付与を受けて執行することは許されない﹂とする。この判決は実質説をと った判例とされるが、﹁承継執行文の付与を受けることができない﹂としたものではなく、﹁承継執行文を受けて執行する ことは許されない﹂としたものであって、形式説をとっても、執行は許されないのであるから、結論に変わりはないので あって、たやすく実質説をとった判例ということはできないであろう︵中野・前掲︵11︶一九頁、吉村・前掲︵11︶︵構 造︶一四一頁、河野・前掲︵11︶六〇〇頁︵注3︶︶。  中野・前掲︵11︶二五頁。反対︵執行文付与に対する異議の訴によるべきであるとする︶ 三ケ月﹁特定物引渡訴訟に おける占有承継人の地位﹂︵民事訴訟法研究一巻︶三一三頁、小山﹁口頭弁論終結後の承継人について﹂︵小山昇著作集第 一一巻︶一七七頁、高島・前掲︵13︶一八二頁、河野・前掲︵11︶五九九頁。 東 洋 法 学 一〇九

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