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【症例】急性B型解離安静降圧療法中に深部静脈血栓症から肺塞栓症に至った 1 例

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Academic year: 2021

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35 要  旨:症例は74歳,女性で,突然の背部痛で緊急入院した.造影CTでStanford B型急性 大動脈解離と診断され,安静降圧療法を開始した.循環動態が安定し,徐々に行動を拡大, 14日目から歩行を開始したが,翌朝より咳嗽,呼吸苦を訴え,動脈血酸素飽和度が低下し た.肺塞栓症を疑い,肺血流シンチグラムを実施したところ,左肺の広範囲にわたる血流 低下を認めた.呼吸,循環動態が悪化し,人工呼吸管理とともに,血栓溶解療法を行った. 静脈造影で,両下肢深部静脈に浮遊する陰影欠損を認めたため,肺塞栓再発防止目的で永 久下大静脈フィルターを留置した.呼吸不全の改善に約 1 カ月の挿管管理を要したが,血 行動態が安定し退院となった.大動脈解離に対する安静降圧療法は,肺塞栓症のハイリス ク群であり,安静期間の短縮とともに,その予防に留意する必要がある.また発症時には, 迅速な診断,治療が不可欠となる.(日血外会誌 14:35–38,2005) はじめに  Stanford B型急性大動脈解離の治療は,破裂,臓器虚 血等の合併症がない場合,安静降圧療法が一般的に受 け入れられている.しかし,長期にわたる安静臥床は 深部静脈血栓症の誘因といわれており,発症した場合 は,重篤な経過をたどる場合がある.今回,我々は Stanford B型急性大動脈解離の安静降圧療法中に,下肢 深部静脈血栓症から,肺梗塞をきたした症例を経験し たので報告する. 症  例  症 例:74歳,女性.  主 訴:呼吸困難  現病歴:2001年 8 月 1 日午前 0 時,突然の背部痛を きたし,他院に救急搬送された.CT検査からStanford B

■ 症  例

日血外会誌 14:35–38,2005

急性B型解離安静降圧療法中に深部静脈血栓症から

肺塞栓症に至った 1 例

光部啓治郎  和泉 裕一  眞岸 克明 田中 和幸  中西 啓介  久保田 宏 索引用語:大動脈解離,深部静脈血栓症,肺塞栓症 型急性大動脈解離の診断で,当科へ紹介となった.  既往歴:高血圧症,大腸癌術後 2 年.  入院時現症:身長150cm,体重50kg.血圧120 / 68 mmHg. 脈拍78 / 分,整.体温36.8˚C.両側頸部,胸部,腹部に 血管性雑音なし.両鼠径部動脈拍動触知可能.  入院時検査所見:WBC 12,300 / mm3,Hb 12.6g / dl,

Plt 8.4 × 104애 / l,GOT 36U / l,GPT 15U / l,LDH 469U /

l,BUN 20.6mg / dl,Cre 1.02mg / dl,Ccr 52.6ml / min, PT 69%,APTT 28.8sec,Fib 76mg / dl,FDP 97애g / ml, AT III 93%.  経 過:8 月 1 日入院時のCTでは,解離した胸部大 動脈の最大径は3.5cmで,反応性の胸水を認めた(Fig. 1).偽腔は左鎖骨下動脈分岐末梢より認められた.腹 部主要分枝および両側腎動脈は真腔より造影された (Fig. 2).Stanford B型急性大動脈解離と診断し,安静 降圧療法を開始した.  循環動態が安定し安静臥床より徐々に行動を拡大 し,14日目からトイレ歩行を開始したが,翌日より咳 嗽,呼吸苦を訴えた.動脈血酸素飽和度が低下し,動 脈血ガス分析ではPaO2 51.8mmHg,PaCO2 34.5mmHgで あった.肺梗塞を疑い,肺血流シンチグラムにて左肺 名寄市立総合病院胸部心臓血管外科(Tel: 01654-3-3101) 〒096-8511 北海道名寄市西 7 条南 8 丁目 受付:2003年10月 1 日 受理:2004年11月11日

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日血外会誌 14巻 1 号 36 の広範囲にわたる欠損像を認めたことから,左肺塞栓 症と診断した(Fig. 3).  呼吸不全となり気管内挿管,人工呼吸器管理とし, 未分画ヘパリン(約 3 万単位civ / 日 × 5 日間,ACTが 170∼200secの範囲で投与量を調節)による抗凝固療法 と,ウロキナーゼ(6 万単位iv,24万単位div / 日 × 4 日 間)による血栓溶解療法を行った.その後,塞栓源検索 目的で下肢静脈造影を施行したが,両下肢深部静脈に 陰影欠損を認めたことから(Fig. 4),下肢深部静脈血栓 症による肺梗塞と診断した.肺塞栓再発防止目的で右 鎖骨下より下大静脈フィルター(Green field® vena cava

filter 50mm)を留置した(Fig. 5).呼吸不全の改善に約 1 カ月の挿管管理を要した.発症 2 週目のCTで横隔膜以 下の偽腔は血栓化したが,胸部の偽腔は開存のままで あった.また肺塞栓症に対する血栓溶解療法後のCTで も同様の所見で,いったん血栓化した偽腔の血栓溶解は なかった.呼吸循環動態安定後,退院となり,現在は 慢性大動脈解離の経過観察を外来通院で行っている. 考  察  急性大動脈解離のうち,本症例のようなStanford B型 解離ではWheatの報告1)以来,破裂,切迫破裂,臓器虚 血,血圧管理困難などの症例を除き,保存療法を選択 するのが一般的である.急性期の保存療法では,厳重 な降圧療法,および安静臥床により,解離腔の血栓化, 壁強度の増加を期待するが,安静期間や,リハビリの 期間や速度などを詳細に検討した報告は少ない2,3).大 動脈解離は高齢者が多く,短期間でのベット上安静で 容易に譫妄をきたし,血圧管理を困難にする場合があ る.また,過度の安静によって,肺炎や無気肺を生じ やすいため,安静期間の短縮が試みられている3)  急性肺血栓塞栓症の発生頻度は従来,欧米で高く, 日本では低いとされてきた4).しかし,最近のデータに よれば,経年的に増加傾向にあり,必ずしも日本に少 ないとはいえない.全剖検数に対する比率は,25年前 では1.5%であったのに対し,近年では4.8∼6.8%と増加 を示している5).とくに院内発症肺血栓塞栓症は,その うち21∼31%を占めるとされているが,極めて早期に 蘇生不能に陥る症例が多いことから,早期診断,早期 治療の重要性が指摘されている6).院内発症の素因とし て,術後(36%),肥満(34%),長期臥床(23%)があげ られ,発生状況が特定できたものは35%で,安静解除 後の起立,歩行,トイレでの発症が多かった7).肺塞栓 症の基礎疾患として,頻度の高い順に,悪性腫瘍(34.9 %),心疾患(17.9%),動脈系の血栓塞栓症(16.8%)で あったが,大動脈解離が基礎疾患である報告はなかっ た5)  安静・降圧を強いられる大動脈解離に対する保存療 法は,肺血栓塞栓症のリスクを伴うという側面を考慮 し,その予防には十分留意しなければならない.肺塞 36

Fig. 1 Computed tomogram at the on-set showed dissection and aneurysm of the distal arch aorta. It was diagnosed as Stanford type B acute aortic dissection.

Fig. 2 Computed tomogram (maximum intensity projection) showed aortic dissection with almost thrombosed false lumen from distal arch to above bifurcation of aorta.

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2005年 2 月 37 光部ほか:B型解離安静降圧治療中に発症した肺塞栓症 栓症一次予防として,弾性ストッキング着用,間欠的 下腿圧迫法などの機械的予防法や,低用量ヘパリン, ワーファリンによる薬物療法がある5,7,8).B型解離症 例では偽腔の血栓化が必要となり,薬物的予防法の選 択は難しい.  当施設のB型解離に対する離床プログラムは,発症早 期はベッド上安静,降圧剤の持続点滴による厳重な降 圧管理の後,経口降圧剤に移行する.循環動態に留意 しながら,3 日目からギャッジアップを開始し,7 日後 よりベッド上フリーからトイレ歩行へと移行させ,また 適時CTによる確認を行っている.安静期間の短縮が, 肺塞栓発症リスクを低減させる手段と考えられるが,大 動脈解離では画一的に早期離床を進めることには,困 難があると思われる.本症例では肺塞栓症の予防策が 十分行われず,長期臥床により発症した反省をふま え,現在は機械的予防法と早期離床を心がけている.  治療の遅れが死につながる本症では,急性肺血栓塞 栓症を疑った場合,診断と治療を平行して行う必要が ある.肺血流シンチグラム,胸部CT,MRI,場合に よっては肺動脈造影を施行して診断を確定しなければ ならない.本症例では入院後より急性腎不全を併発 し,造影CTや肺動脈造影は腎不全の悪化を考慮し,ま た息止めが困難でありMRIも不適と考え,確定診断は 肺血流シンチグラムにて行われた.  治療では抗凝固療法とともに,大きな血栓により呼 吸循環動態が不安定になっているときには,血栓溶解 療法,外科的血栓除去術などによる急速な血栓除去が 必要になる.抗凝固療法により,肺血管内での血栓の 成長,深部静脈血栓の不安定化に対する再発予防が図 られ,症状の改善とともに,長期予後も改善する10) 肺塞栓症に対する血栓溶解療法の有効性は,大規模臨 床試験の結果,明確に確認されていない11).いまだに その適応に議論があるが,血行動態の障害された重症 の肺塞栓症に対しては,血栓溶解療法を試みる価値が ある7).本症例では,安静降圧療法で安定化した解離腔 の血栓溶解が懸念されたが,大動脈解離発症後 2 週間 経過していたため,呼吸循環動態改善を優先し,ウロ キナーゼによる血栓溶解療法を選択した.  肺塞栓症再発防止として下大静脈フィルター留置の 37

Fig. 3 Pulmonary scintigram showed extensive deficit of left pulmonary blood flow.

Fig. 4 Venogram showed thrombi at bilateral superficial femo-ral veins (arrows).

Fig. 5 Contemporary inferior vena cava filter was implanted to inferior caval vein at the infrarenal level.

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日血外会誌 14巻 1 号

38 38

A Case of Acute Pulmonary Embolism during Treatment

of Stanford Type B Acute Aortic Dissection

Medical treatment and bed rest are generally accepted as the first choice of treatment for Stanford type B acute aortic dissection when there are no complications. However, prolonged bed rest is considered as a cause of deep vein thrombosis and acute pulmonary embolism. A 74-year-old woman was referred to our department with diagnosis of Stanford type B acute aortic dissection. We started medical treatment and bed rest. On the 14th hospital day, she was allowed to walk but suffered from respiratory insufficiency due to acute pulmonary embolism (APE). She was intu-bated under controlled ventiration and was treated with anticoagulation and thrombolytic therapy. A permanent inferior vena cava filter was implanted for secondary embolus prevention. Respiratory condition improvement needed almost a month, then she was weaned from the respirator. We should be aware of the risk of APE during treatment for Stanford

type B acute aortic dissection. (Jpn. J. Vasc. Surg., 14: 35-38, 2005)

Keijirou Mitsube, Yuichi Izumi, Katsuaki Magishi, Kazuyuki Tanaka,

Keisuke Nakanishi and Hiroshi Kubota

Department of Thoracic and Cardiovascular Surgery, Nayoro City Hospital Key words: Aortic dissection, Deep vein thrombosis, Acute pulmonary embolism 有用性が報告されている.最近では,肺塞栓症の再発 の可能性が低く,肺塞栓症の危険性が一時的と考えら れる周術期の症例などには,一時的フィルターが好ま れている12).しかし,本症例のように永続的な抗凝固 療法が困難な場合は,永久的フィルターの予防的留置 が適応となると思われた. 結  語  Stanford B型急性大動脈解離の安静降圧療法中に,深 部静脈血栓症から,重度の呼吸不全を伴った肺塞栓症 をきたした症例を経験した.  大動脈解離に対する安静降圧療法は,肺塞栓症のハ イリスク群であり,その予防に留意するとともに,発 症時には,迅速な診断,治療が不可欠となる. 文  献

1) Wheat, M. W.: Acute dissecting aneurysms of the aorta: diagnosis and treatment−1979. Am. Heart J., 99: 373-387, 1980. 2) 増田善昭,井上寛治,打田日出夫,他:大動脈解離診 療ガイドライン(1998–1999年度合同研究班報告). Jpn. Circ. J.,64:1249-1283,2000. 3) 福本仁志,西本泰久,西本昌義,他:Stanford B型急 性大動脈解離の急性期治療成績と保存療法における早 期離床の有用性.日心外会誌,31:114-119,2002. 4) Hirst, A. E., Gore, I., Tanaka, K., et al: Myocardial infarc-tion and pulmonary embolism. Arch. Path., 80: 365, 1965.

5) 由谷親夫,国枝武義:肺血栓塞栓症の臨床.東京, 1999,医学書院. 6) 丹波明博,新田順一,呉 正次,他:急性肺血栓塞栓 症院内発症例の病態と対策.静脈学,13:29-33, 2002. 7) 後藤信哉,半田俊之介:循環器領域における血栓症と 抗血栓療法.東京,2002,メジカルセンス. 8) Hirsh, J. and Hoak, J.: Management of deep vein thrombosis

and pulmonary embolism. Circulation, 93: 2212-2245, 1996. 9) Barritt, D. W. and Jordan, S. C.: Anticoagulant drugs in the treatment of pulmonary embolism: a controlled trial. Lan-cet, 1: 1309-1312, 1960.

10) The urokinase pulmonary embolism trial: a national coop-erative study. Circulation, 47: II-1-II-108, 1973.

11) 渡辺俊一,酒瀬川浩一,中村好宏,他:深部静脈血栓

症に対する下大静脈フィルター留置症例の検討.静脈 学,11:303-308,2000.

Fig. 2 Computed tomogram (maximum intensity projection) showed aortic dissection with almost thrombosed false lumen from distal arch to above bifurcation of aorta.
Fig. 4 Venogram showed thrombi at bilateral superficial femo- femo-ral veins (arrows).

参照

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