原 著
〔義心縛,、鐸護,鞘〕
胃癌術後患者のquality of lifβの数量化に関する検討(第3報)
一高齢者胃癌の術後QOLの評価を中心に一
東京女子医科大学 附属第二病院外科(指導:梶原哲郎教授) オガワ 小川 シマカワ 島川 ナリタカ成高
ケンジ ヤガワ健治・矢川
タケシ ワタナベ武・渡辺
ヨシピコ コカジワラ義彦・梶原
ヒロかズ カツベ裕一・勝部
トシァキ ワカスギ俊明・若杉
テツロウ 哲郎 タカオ ヒライ マサノリ隆男・平井 西浜
シンジ ミウラ カズヒロ慎司・三浦 一浩
(受付平成5年6月11日) Quantitic Eva,luation of.puality of Life in Postoperative Gastric Cancer Patients(III): With Special Reference to Evaluation of Elderly Patients Kenli oGAwA,. Hirokazu YAGAwA, Takao KATSuBE, Masanori HIRAI,Takeshi SHIMAKAWA, Toshiaki WATANABE, Shinji WAKASUGI,
Kazuhiro MIURA, Yoshihiko NARITAKA and.Tetsuro KAJIWARA Department of Surgery(Director:Prof。 Tetsuro KAJIWARA), Tokyo Women’s Medical College Daini Hospital The number of elderly patients who underwent surgery fQr gastric cancer has been increasing. Recently, even in the aged, the operation is safer and the outcome is better than before, but the effects on quallty of life(QOL)have yet to be evaluated. The authors developed a scale to measure the magnitude of activity and used it to monitor the QOL in patients who were surgiOally treated for gastric cancer. After either total or partial gastrectomy, the QOL in elderly patients was definitely poorer than that of any other age group. The difference in recovery or the deiay in recovery appeared particularly remarkable in stage. I or II gastric cancer. Delayed recovery of body weight in elderly patients may account in part for such poorness of their QOL. This should be taken into cons孟deration when elderly patients are treated by surgery for gastric cancer and then postopefatively treated at outpatient clinics. 緒 言 胃癌患者の多くは50∼60歳代であるが1),近年, 平均寿命の延長に伴って高齢者胃癌の増加がみら れている2)3).従って,その手術症例も増加してい るが,術前・術後管理技術,麻酔法,手術手技の 進歩によって手術は比較的安全に行うことがで き,治療成績の向上も認められている4)∼6).そこで 問題となるのは,こうした高齢患者の術後のqual− ity of life(QOL),つまり「日常生活の質」6)であ ろう.この術後QOLの客観的評価は難しく,いま だに確立された方法はないが7)∼9),われわれはアンケート調査に基づいてQqLを数量化して
activity score(AS,活動指標)を求め,そのレベ ルで評価を試み℃いる10)11). そこで本稿では,このASを用いて70歳以上の 高齢者胃癌と.それ未満の非高齢者胃癌の術後 QOLを比較検討した.さらに,従来より患者の全 身状態を表わす指標とされている体重,血色素量, 血中総蛋白量などの項目についても併せ比較し た.17 対象および方法 1.対象 対象は1986年以降に当科で胃癌手術を受けて外 来通院している術後患者のうち,再発徴候なく毎 月1回のアンケート調査に24ヵ月以上回答できた 141例である(表1)。70歳以上の高齢者群は36例, 70歳未満の非高齢者群は105例で,この両群につい て比較検討した.症例の内訳は,胃癌取扱い規約12) による組織学的進行程度では,高齢者群はstage I 15例,stage II 4例, stage III 9例, stage IV 8 例,非高齢者群は各56,12,15,22例で両群に差 はみられなかった.他方,手術術式では,高齢者 群は全摘8例,胃切除28例,非高齢者群は各42, 63例で,高齢者群に全摘例が少なかった.他の背 景因子は両群間に差はみられなかった. 2.方法 胃癌術後の定期的な外来通院患者に対して毎月 1回,問診表によるアンケート調査を行い,その
結果からASを算出した.このASはわれわれの
定めた指標であるが,術後患者の日常生活の活動 性を良く表わすと考えている1のu〕,問診表の内容 は,日本癌治療学会で定められたperformance status(PS)13)に対する質問を基礎とし,経口摂取 の状態,自覚的な体重の変化(前回のアンケート 調査時との比較),術後愁訴などに関する設問を加 えたものである(表2).この問診表やアンケート 結果からのASの算出法については,すでに詳し く報告した10)1D. また,体重,血色素量,血中総蛋白量は術前値 を100とし,術後の値をそれに対する百分率で表わ 表2 問診表 表1 対象症例 高齢者群 i7G歳∼) 非高齢者群 i∼69歳) 症 例 数 36例 105例 1 15 56 II 4 12 stage III 9 15 IV 8 22 全摘 8 42 術 式 胃切除 28 63 1.いまの生活の様子はどうですか. a)まったく正常で手術前と同じ生活がでぎる. b)不十分だが仕事や軽い家事はできる. c)仕事や家事はできないが,身のまわりのことは自分で できる。 d)身のまわりのことにしばしぼ人の助けがいる. e)つねに人の助けがいり,いつも横になっている. 2.食事はどのくらい食べられますか. a)よく食べる b)ふつう C)あまり食べられない 3.体重は前回の来院時にくらべてどうですか. a)増えた b)変わらない c)減った 4.次のうち,あてはまる症状があればいくつでも○をつけ てください. a)むねやけ b)げっぷ c)吐ぎ気 d)啄吐「 e)下痢 f)38度以上の発熱 9)腹痛 h)体がだるい i)そのほか( ) し,術前後の変動という形で検索した. なお,統計学的処理についてはt検定にて行っ た. 成 績1.全症例のASの変動
全症例のASの術後変動を3ヵ月ごとの平均値 でみた(図1).ASは術後3ヵ月では60±15,6 ヵ月で67±16,以後69±20,69±18と徐々に上昇 し,12ヵ月以降はほぼ一定した値を示した. 2.年齢別にみたASの変動 高齢者群,非高齢者群のASの術後変動を比較 した(図2).高齢者群のASは術後3ヵ月で58± 14,6ヵ月で65±16,12カ,月で69±16,18ヵ月で 58±14,24ヵ月で62±16であり,非高齢者群のAS は各61±14,70±15,69±14,81±15,82±16で あった.術後12ヵ月まで両群に差はなかったが, 高齢者群ではそれ以降低値となり,術後18ヵ月以 降では有意の低下をみた.Score 100 50 Score 100 50 3 6 9 12 15 18 21 24 (M)
r曾…r∼r下思争
*Pく0.05 0一…・・…O高齢者群(n=36)H非高齢05)
図1 3ヵ月ごとの平均値でみた全症例のASの術後 変動 3 6 9 12 15 18 21 24 (M) 図2 高齢者群,非高齢者群のASの術後変動 一SILage I●H一 一stage I】1●IV一 Score 100 50 エ *p<0.05 0………O高齢者群(n・19) ●一一一一●非高齢者群(n・68) 6 12 18 24(M) Score 100 50 了’rYr工
O………O高齢者群(n・17) ●一一一一●非高齢者群(n・3了) 6 12 18 24(M) 図3 進行程度別にみた高齢老群,非高齢一群のASの術後変動 3.進行程度別にみたASの変動 stage別に高齢者群,非高齢者群のASの術後 変動を比較した(図3).stage I・II症例では,高 齢者群のASは術後6ヵ月で58±15,12カ,月で 68±15;18ヵ月で58±14,24ヵ月で61±15であり, 非高齢者群のASは各75±13,70±16,85±16, 85±15であった.高齢者群では術後15ヵ月以降低 値をとり,術後18,21,24ヵ月では有意の低下を みた.stage III・IV症例では,高齢者群のASは 術後6ヵ月で64±15,12カ,月で68±12,18ヵ月で 57±14,24ヵ月で62±15であり,非高齢者群のAS は各65±14,69±15,76±15,78±16であった. 殆どの経過で高齢山群が低値であったが,両群に 有意差は認められなかった. 4.手術術式別にみたASの変動 手術術式別に高齢者群,非高齢者群のASの術 後変動を比較した(図4).全摘症例では,高齢者 群のASは術後6ヵ月で64±15,12ヵ月で61±15, 18ヵ月で50±14,24ヵ月で54±15であり,非高齢 者群のASは各65±13,65±14,71±11,81±15で あった。術後12ヵ月まで両群に差はなかったが, 高齢者群ではそれ以降低値となり,術後18ヵ月以 降は有意の低下をみた.胃切除症例では,高齢者 群のASは術後6ヵ月で65±13,12ヵ月で74±15, 18ヵ月で64±14,24ヵ月で70±16であり,非高齢 者群のASは各72±15,78士15,89±17,88±16で あった.全経過を通じて高齢者群が低値であり, 術後18ヵ月以降は有意の低下をみた. 5.体重の変動 高齢者群,非高齢者群の体重の術前後の変動を 比較した(図5).6ヵ月ごとの平均でみると,高 「齢者群では85±9,86±6,86±8,90±10%,非高19 一全摘例一 一胃切除二一 Score 100 50 了 O一……・一〇高齢者群(n・8) ●一一一●非高齢者群(n・42) 6 12 18 24(M) Score lOO 50 丁工
聾費
*p<0.05 0・……一一〇高齢者群(肝28) ●一一一●非高齢者群(n・63)’ 6 12 18 24(M) 図4 手術術式別にみた高齢者群,非高齢者群のASの術後変動 (%) 十20 十10 0 一10霊一
O……一一つ高齢者群(n耳36) 一ヨド高齢灘(n=105) *P〈O.05勲一見ぞ
一20 3 6 9 12 15 18 21 24 (M) 図5 高齢者群,非高齢者群の体重の術前後の変動 (%) 十20 十10 0 一10 一20レL
0・・一・・…・O高齢者群(n二36) ●一一一●非高齢者群(n=105) 齢者群では90±7,97±7,101±10,98±11%であっ た.高齢者群では術後の体重減少の割合が大きく, しかもその回復も悪く,術後9ヵ月以降21ヵ月ま で有意の減少を認めた. 6.血色素量の変動 高齢者群,非高齢者群の血色素量の術前後の変 動を比較した(図6).6ヵ月ごとの平均でみると, 高齢者群では110±10,106±11,104±17,110± 14%,非高齢者群では102±11,102±15,109±12, 106±8%であった.両一間に有意差は認めなかっ たが,両群とも術後6ヵ月以降から術前値を上回 る値を示した. 7.血中総蛋白量の変動 高齢者群,非高齢者群の血中総蛋白量の術前後 の変動をみた(図7),6ヵ月ごとの平均でみると, 高齢者群では108±1/,103±17,111±14,115± 8%,非高齢者群では105±15,115±20,106±10, 3 6 9 12 15 雪8 21 24 (M) 図6 高齢者群,非高齢者群の血色素量の術前後の変 動 (%) 十20 十10 0 一10 一20レ長
O・・…・…O高齢者群(n罵36) Hヨド高齢灘(n=!05) 3 6 9 12 15 18 21 24 (M) 図7 高齢者群,非高齢者群の血中総蛋白量の術前後 の変動 116±15%であった.血色素量の変動と同じような: 傾向で,両群間に有意差はなく,両群とも術後3 ヵ月以降から術前値を上回る値を示した. 考 察近年,高齢者胃癌の手術症例は増加してお
り2)3),それに伴って高齢患者の術後のQOLが問 題となってきている.事実,外来通院している高 齢な胃癌術後患者は確実に増加している.就業意 欲のある人,余生を積極的に楽しもうと意欲のあ る人も多く,患者自身からもQOLを向上させよ うという姿勢が伺われる.本来,癌の治療成績を みる場合は,術後のQOLも加味して判定すべき といわれている14)15>.こうした観点から本稿では, 従来,余り考慮されていなかった高齢者胃癌患者 の術後QOLについて検討してみた. 一般に術後患者のQOLを客観的に評価するこ とは難しいといわれ,またその評価法も多くある が,ここではわれわれが定めたAS(活動指標)で 評価した.すでに報告したように,このASはper− formance status(PS)と術後愁訴の程度を併せて 数量化したもので,患者の尋常生活における活動 性を総合的に判定することができる指標である. 著老らはこのレベルから胃癌術後患者のQOLを 客観的かつ簡便に評価しうると考えている10)11). まず全症例のASをみると,術後3ヵ月で62,12 ヵ月で72と上昇したがそれ以降の上昇は軽度で あった.これが基本的な術後QOLの回復パター ンと考えられよう. 次に高齢者群と非高齢者群を比較した.術後12 ヵ月までに両群に差はなく70前後まで上昇した が,それ以降,非高齢者群は80台まで上昇したの に対し,高齢者群では50台まで低下,術後18ヵ月 以降は明らかな差を認めた.高齢者群のASは,術 後1年目では非高齢者群と互角に推移するが,そ れ以後の回復が明らかに遅れるという結果であっ た.遠藤ら16)は高齢者胃癌術後患者のPSを調査 し,高齢者では若年者のように術後日がたてば元 気になるとは一概にいえないと報告している.こ れと一致する成績と思われる.また,荻野ら1ηも社 会復帰に影響する因子の一つに手術時年齢をあ げ,非復帰群に高齢者が多かったと述べている. 高齢者では加齢とそれに伴う合併症の増加なども あり,その術後のQOLは非高齢者に比べて不良・ であると考えられる. さらに進行程度別に芳平を比較してみた.stage III・IVのように進行した症例では,非高齢者群に 全摘例が多いこともあって両群間に明らかな差は なかったが,殆どの経過を通じて高齢者群が低値 を示した.stage l・IIのような比較的早期の症例 では,非高齢者群では上昇したのに対し,高齢者 群では低値で,術後18ヵ月以降は明らかな差を認 めた.とくにstage I・IIのようなASの早期上昇 が期待されるような症例では,高齢者ではその回 復が遅れるように思われる. 手術術式別の比較では,全摘症例,胃切除症例 とも同じような変動で,高齢者群は18ヵ月以降明 らかな低値を示した.術式にかかわらず,高齢者 の術後QOLは非高齢者に比べて不良であるとい えよう. 次に,従来より患者の全身状態の指標とされて きた体重の変動や血色素量,血中総蛋白量といっ た客観的なデータの変動を検討してみた.術後体 重は非高齢者では回復したが高齢者群では減少し たままで,両群問に明らかな差がみられた.鈴木 ら18)も術後体重が術後のQOLに影響すると述べ ており,高齢者の術後QOLが不良である原因の 一つに,体重の回復不良があげられよう.この体 重は誰にでも判る最も簡便な指標で,術後患者は 例外なくその増減を気にする.術後外来で留意す べき点と思おれる.一方,血色素量,血中総蛋白 量の変動では,高齢者群,非高齢者群とも術後早 期より術前値を上回る値を示した.高齢者では術 前・術後に貧血,低蛋白1血症が多くみられ,これ に対する治療が行われたためと思われる.一般に, 体重と並んでこれらの指標も術後QOLをよく反 映するといおれている18)∼20).高齢者の術後QOL を少しでも良くするには,術後外来における食事 指導なども重要で,体重をはじめ各種栄養指標の 回復に努めることが大切と考えられる. 結 論 われわれが定めたAS(活動指標)の推移から,
高齢者胃癌術後患者の術後QOLを評価してみ
た.その結果,高齢者の術後QOLは非高齢者に比 べて,全摘,胃切除などの術式を問わず明らかに 不良であることが判明した.とくにstage I・II症 例でその回復の遅れが目立つように思われた.ま た,高齢者の術後QOLが不良である原因の一つ21 に,術後体重の回復が悪いことがあげられた.高 齢者胃癌を手術するとき,あるいは術後外来で診 るとぎ,留意すべき点と考えられる. 文 献 1)曽和融生,加藤保之,西村昌憲ほか:性・年齢別 にみた胃癌一とくに高齢者胃癌についての考察 一.日臨外医会誌 50:34−44,1989 2)佃 信博,沢井清司,高橋俊雄ほか:最近15年間 における高齢者胃癌手術症例の臨床病理学的推 移。日消外会誌 23二851−856,1990 3)東山考一,梨本 篤,佐々木壽英ほか:80歳以上 の高齢者胃癌における外科治療上の問題点.日消 外会誌 24:771−778,1991 4)古河 洋,岩永 剛,平井国夫ほか:高齢者胃癌 手術の問題点とその予後について.日外会誌 83:1073−1076, 1982 5)桜本邦男,岡島邦男,山田眞一ほか二高齢者胃癌