翻刻書陵部蔵花園院御製 (光厳院御集)
原 田 芳 起 序・凡例 書陵部蔵花園院御製1冊は'正し-は光厳院御集である. 続群書類従四二五巻に光厳院衡集として収めているのが正し い。列聖全集解題・皇室御撰解題等で、光厳院の御集にあら ずと断定して以来'その真実を見失われて来た。この百六十 五首の御集を、花園院御集と誤認し、勅撰集等の花園院の御 製を増補改編したものが、書陵部蔵花園院御集二四九首本 (列聖全集底本)である。二四九首本が先に成って一六五首 本は略本であるとするのは、明らかに考証の誤であった。詳 細は、群書解題第十および、雑誌史学文学第三巻言号の拙稿 を参照せられたい。 歴代御製集(国民精神文化研究所)を始め'嘩々の書に' 光厳院の御製を花園院のそれとして収めたり引例したりされ て来た。きわめて個性的な光厳院の作品・作風は見失われ' 花園院の作風に対する批評も同時に混濁せざるを得なかっ た。当然'すみやかにその正に帰らねばならない。 続類従本は'若干の脱字や'誤写もしくは誤植かと思われ るところがある。書陵部本の方が本文の信頼性は大きい。こ こに宮内庁書陵部の御許可を得て翻刻を試みるゆえんであ る 。 皇室御撰解題以来、二四九首本の考証に終始したために、 逆の結論に達したと思われる。この一六五首本に六首の光厳 院の風雅集所出歌があることを取上げるだけでも'推論は根 本的に変っていたはずである。 帰結だけ摘要すると'この〓ハ五首の集は'明らかに光厳 院の作品で、iq.おそらく風雅集の撰集に先立つある短い時期の 詠草で、その中から六首が風雅の選に入った。あれこれの資 料から集めたものでなくて'連続的に創作されたなまの詠草 である。きわめて自由な詠みぶりや、全体の構成からもそれ ■ は察せられる。字余り句を好んで用いてあるが'その頻度が なみなみならぬものがある。稚拙をいとわぬ点もある。総じ て若さがいちじるしく認められる。そのような点から'この 詠草は、一つのまとまった群として鑑賞することが適正な方 法であるO これも翻刻を試みる理由の1部である.- 30 -■■ヽ 文字道はすべて書陵部本のままとする。動詞を表記する漢 字の送り仮名を欠-ものなどはいささか不便だが'これが中 / -世の文字道であったのでもあるからそのままとする。誤字と 見られるところが数箇所あるが、これもそのままにLt他の 本ど対校することで補う。類従本と対枚したところは、類従 本が誤と見られる庵のも右側にルとして示す.書陵部蔵の二 四九首の花菌院御集に包含されるところは1同系らしいの で'列聖全集御製集第三巻所収の本文によって異文があれば 示す。これはどちらかが文字の誤認による写しちがいがある 場合がほとんどである。 異体の仮名や'漢字の字体は現行の普通の体に改める。 底本には'作品中風雅集所出歌の右肩に小さ-風と注して いるが'六首中三首だけそれがあるので'底本にあるものは ゴチ体で風とし、残る三首は︹ ︺でかこんで風とする。 列聖全集御製集の略記はレとする。 濁点は底本にしたがって付けない。 頭にアラビヤ数字で通し番号を付けたのは研究の便宜のた めである。 1 2 3 4 5 8
花園院御製(光厳院御集ル)
よもの梢かすむを見ればまたきより花の心そばや匂ひぬ る 常 春をへていかなる声に鳴なれははつ鷺のいやめつらなる 梅 風 わかなかめなに∼ゆつりて梅花さ-らもまたてちらむと すらむ n u r 杉 夕碁の春風ゆるみしたりそむる柳かすゑはうこ-ともな し 春 春の日の∼とけき空は-れかたみいたつらにき-鷺の声春雨
浅緑みしかき草の色ぬれてふるとしもなき庭の春雨 長閑なるむつきの今日の雨のをとに春の心そ深-なりぬ る 花も見すとりをもきかぬ雨のうちのこよひの心何そ春な る . 夕霞かすみまさるとみるま∼に雨に成ゆ-入あひのそら 何事をうれふとなしにのとかなる春のあま夜は物そ陀し き 花13 12 ll 16 . 15 14 29 28 27 散ことははやしと恩ふを桜花ひらぐる程のあやに久しき 軒ふかき花のかはりにかすまれてしらみもやらぬ宿の曙 くれか∼る花のにはひをしたひかほにさらにうつろふ夕 日影哉 夏
郭
公
なれも又此夕碁を待けりな初ねうれしき山ほとゝきす 恩ふ事ありあけめ空の時鳥わか為とてやいまき鳴らむ 夏 夏山や木たち凍しき村雨のゆふへを時とな-ほとゝきす夏
昼
庭のうへのまさこにみちて∼れる日のかけみるなへにあ り ぬ ル つさまされる夏夕
蚊遠火のけふりまきると見程に-れぬるならし入あひの 声夏
夜
秋の夜をさひしきものと何か恩ふ水鶏こゑするよひの月 影夏月
更る夜の庭のまさこは月しろし木蔭の∼きに水鶏声して 照号 ともしするはくしの松のつきもあへす葉山か峯は雲明ぬ 也夕
立
吹す-る梢の風のひとはらひこえまて原しょその夕立遠近夕立
とをつそらにゆふたつ雲を見なへにはや此里も風きほふ 也 蛍 とふ賛ともし火のこともゆれとも光をみれば涼し-もあ る か秩
初秋
花もまたき等の範のあさほらけ露のけしきに秋は采にけ h ソ にけりレ 世の色のあはれはふか-成行よ秋はい-かもいまたあら な く に 夕日さす梢の色に秋見えてそともの森にひ-らしの声 秋はまたあさけの魔の池の面にはやすさましき水の色哉 秋になるねさめそいと∼うれはしき物おもふ身にはあり も あ ら す も 30いとはやも風すさましみそれとなき虫も範にやゝ鳴たちぬ 3 1 時わかぬ竹のさ枝に吹風のをとしも秋に成にけるかな33 32 34 35 40
- 32 -七
夕
日にちかき面影なから年もへぬ雲井の庭の星合の秋 おはかたの秋てふ秋のなかき夜をこよひともかな星合の 壁 萩 身こそあらめ花は昔をわするなよ馴し戸-ちの庭の秋萩 荻 秋風のゝき葉の荻よなにそこのうれへのたねを植置にけ る 薄 ほにいてゝ我のみまねく糸薄くる人あれなふるさとのあ き 秋 秋風によはき尾花はうこけとも月にのとけみふけすめる ∼ 夜 半秋夕
3 8 物ことに我をいたむるゆへはあらし心なりけり秋のゆふ ナシル 暮 3 9 しつむ日のよはき光はかへにきえて庭すさましき秋風の 取 扱 無 間 一 ナ シ ル 暮 菊 人 ル 咲やらてしばしもあれな庭の菊符へき花の又もあらなく こ ..HuH‖ 虫 夜をさむみいねすてあれは月影の-たれるかへにきれ く す 鳴 月 -るゝ空に待つるまゝのなかめよりすたれをろさぬ月の よすから てらすらん千里の人の秋の恩ひ月にやうつす影のかなし きル き冬
時雨
木の葉ぬれてそ∼くともなき村時雨さすや夕日のかけも さなから 落莫 よ り ル ら ル 木葉こそもろくもならめ夕嵐我なみたさへたえすも有哉 冬 風 さむからし民のわらやを恩ふにはふすまのうちの我もは つ か し ょぼさむみ嵐の音はせぬにしもかくてや雪のふらんとす らん 雪はまたきた∼冬枯の草の色の面かはりせぬ庭そさひし き 冬あさみル 冬をあさみまたこほらねと風さえてさ∼披塞き池の面哉 I . . . ・ I . . . I 「 ・ ・2 5 3 5 4 5 9 5 0 6 まかふル 散まよふ木葉にもろき音よりも枯木吹とをす風そさひし き 霜にとはる鐘のひ∼きを間なへにねさめの枕さえまさる 也 霜のをくねくら梢さむからしそともの森に夜からすの鳴 雲こはる木すゑの空の夕附よ嵐にみか-影もぎむけし ナ シ レ か す き る ル 空はしもくもるとは見えぬ朝明のしもにうすきる世の気 色 哉 み ね ル この夜半やふけやしぬらん霜ふかき鐘のをとして床さえ まさる 冬枯の草木の時をあはれとやはなをあまねくふれる白雪
冬
草
それと見えし霜の.くち葉も猶落てふる枝はかりの庭のは き原 冬暁 そ 小 あかしかぬる時雨のねやのいくねさめさすかに鐘の声も きこゆる かけうすき有明の月に鳴鳥の声さへしっむ霜のをち方 霜にくもるありあけかたの月影にとをちの鐘もこゑしつ む也冬
曙
4 6 56 のかすきるル ひ∼き残るとをちの鐘はかすかにて霜にうすきる曙のそ う b 冬朝 おきてみねど霜ふか∼らし人のこゑのさむしてふきく ナジル も塞き朝明 夜もすから雪やとおもふ風の音に霜たにふらぬ今朝のさ むけさ 冬夕 嵐吹あられこはる∼けふの暮雪の心やちかつきぬらし し レ 霜かれのをはなか庭に風ふれてさむき夕日はかけさえぬ な り冬
夜
星きよき木すゑの嵐雲晴て軒のみ白きうす雪の夜半 冬月 空のうみ軍の波もやこはるらん夜わたる月の影のさむけ き 霞 . さえくらすあらしに雪やちか∼らしさきたつ霞軒にをつ なり 雪 雲のゆふへ嵐のこよひふりそめぬ明なは雪のいくへかも 見 む71 70 72 73 74 75 76 77 -「 34 -み え ル 野山皆草木もわかす花のさくゆきこそ冬のかさり成けれ 朝日さす松のうれよりをつる雪にきえかたにしもつもる 木のもと
暁
雪
ふりうつむ雪の野山は夜ふかきにあくるかとりのとを里 の 声曙
雪
目にちかき軒のうへよりしらみそめて木すゑかほれる雪 の 曙 、 朝 雪 うつりにはふ雪の梢の朝日影今こそ花の春はおはゆれ風前雪
吹みたしはらひもあへぬ竹の葉の嵐のうへにつもるしら ゆき夜
雪
軒の上ほうす雪しろしふりはる∼空には星のかけきよ-し て雨後雪
けさの雨のなこりの雲やこはるらんくれゆく空の雪に成 ぬ る 雲 ル山雪
岩も木もすかたはさすか見えなからをのか色なき雪の深 山 へ野
雪
なかめやるかきりも見えすかすみゆく野原か末は雪とし もなし浦
雪
狼の上はあまきる雪にかき-れて松のみしろき浦の遠方 杜 雪 ㌧ 雪にたにつれなくてやは山城のとき葉の森も色かはる也山家雪
人はとはぬみやまの庵にあはれ猶ところもわかすふれる 白雪田家雪
すゑとをきかり田のおもの雪の庫にたてるや庵の兄もさ ひしき閑居雪
軒の松にかよふ嵐の音たにもたえていくかの雪のふるさ と社頭雪
たのむゆへのふかき心はへたてぬをいつかみかさの山の しら雪松
雪
・ L ∵ 十 ・ ・ ・ . 1 . 」l .9 ときは木のその色となき雪の中も松はまつなるすかたそ みゆる
雪中鳥
あさあけレル 降つもる雪の梢にゐる鳥の羽かせもをしき庭の有明 雪中獣 起いてぬねやなからきく犬のこゑのゆき常おはゆる雪の あさあけ雪中懐旧
むかしをはうつみや残す白雪のふりにし世のみうかふお もかけ雪中述懐
いたつらにふる白雪をあつめもたぬわか光なみ世さへく もれる炭
電
立のはるけふりの末をあはれともたれかはとはむをの∼ 炭竜除夜
年-ると世はいそきたつ今夜しものとかにもの∼あはれ なる哉悲
初恋 しらさりしなかめやなにそよしなしに物おもふ身にはな らしと恩ふを忍
恋
人まなみたゝにはいはぬそこの色を見しらぬにして過ん とやする不逢恋
︻ 風 ︼ 我はおもひ人にはしゐていとはる∼これを此世のちきり なれとや待
恋
あすのうさも我心からかなしきにこよひよ今夜とへやと そおもふ互忍待恋
待もとふもつ∼むにふくる時のまよあちきなからぬ1夜 ともかな 別 恋 これ程も又はいつかの別路をくれよのちよのやすのたの め や偽
恋
いまそおもふたのみし、うちのい-あはれかさるかうへの なさけ也ける誓
恋
うきかうへになけくそ猶もあはれなるちかひし末を人の 為とて- 36 -1 0 1 2 0 1
恨
恋
をしや我もあはれかなしのいくふしをひとつうらみのう ち に な し ぬ る ぐ うきにたえすうらむれは又人も恨ちきりのはてよたゝか く し こ そ .絶
恋
ナ シ ル 我やたそあやしやつゐにたえはてはあらしと恩ふをけふ まての身よ恋
涙
こひあまり我なく涙雨とふるやこのくれしもの雲とつる 壁恋
契
のレ うしとすつる身をおもふにも更に猶あはれなりける人に 契りよ恋
恨
る ル あさくしもなくさむる哉と聞からにうらみの庭そ猶ふか く な る 恋 恩ひつくしあはれに物のなりたちてすへて涙のおちもと ナシル ゝまらぬ そレ 恩ひつくす恩ひのゆ-ゑつ--tl、と涙におつる燈のかけ恋
獣
、 里の犬のこゑをき-にも人しれすつ∼みし道のよはそ恋 しき寄春恋
いろねにもうれへのす. ∼むたねとして我に物うき花鳥の こゑル 香寄冬恋
とちつもる氷も雪も冬のみをとけむてもなき我恩ひ哉 寄暁恋 今も此有明のそらに鳥は克けとわかれし人にまたあはぬ 戟寄朝恋
如何になるけさのなかめそこよひ我みるとしもなきゆめ のなこりに 寄 夕 恋 ・ にしの山にくたる夕日の影みればけふはたくれぬ妹をみ なくに寄風恋
なにそこのうはの空より吹風の身にあたるさへ物のかな しき寄雨恋
いもか,つへにおもひうらふれねすてあかす此夜すからの 雨の音はも寄霜恋
あさ霜のむすひもはてぬ契ゆへさてこそけなめ知人をな み寄煙恋
我恋よけふりもせめてたちな∼んなひかぬまても君に見 きル ゆ へ く 寄山恋 あはれ今はかくて契やつくは山しけきうらみの我もそふ 比寄松恋
人やうきさもいはしろのむすひ松むすはぬ世々の身の契 りこそ寄庭恋
妹符と時そともなきなかめして蓬か庭も霜かれにけり害苔恋
( 欠 字 ) ル そのまゝにはらはぬ庭の苔の色にたえにし人の跡も見え け り寄鶏恋
わかれましっらからましと間もつらし八こゑの鳥の明方 のこゑ 害鳥恋 月に鳴やもめからすは我こと-独ねかたみつまやこひし き寄犬恋
よ 七 レ 人しれすわかたちすまむ宿のあたりとかむる犬もせめて なつかし寄人恋
こ ル 恩ひとりしその偽のならひゆへ人にもひとの猶たのまれ ぬ寄夢恋
ゆきてかよふ夢てふものゝあるならはこよひの心見えさ らめやも寄心恋
に ル の レ うきはさそなあはれなるさへくるしきよ人に心のなへて なら南寄言恋
人を恩ふ世にふりさらむことのはの君にはしめていはま はしきを害鏡恋
恩ふ色のいはれぬきはをうつしみせむか∼みもかなや君 か 心 に寄衣恋
こひしとてかへさむとはたおもはえすかさねしまゝの夜 の 衣 を
- 38-寄燈恋
の ル 右 傍 さそやけにわれそつれなき待よはる明方の窓にきゆる燈 寄書恋 見しそかしか∼ることの葉そのふしとさらに涙もふるき 玉つき 恋 恋といふ名のみはなへてふりぬめり我恩ひをはいかゝい はまし ナノル 恋しきはしのひかたきをいかゝせんうきは身をしるな-さめもあり雑
暁 雲の色星のひかりも同し空の長閑になるやあかつきにな る 竹 の ル もゝしきや庭に見馴し呉竹のみしかきよこそ猶あはれな れ 河 風 よとみしも又立かへりいす∼川なかれの末は神のまに ■ 、 7 5 橋 とまる名はなからの橋のはし-∼ら朽てのちしも猶残り 1 4 1 2 4 1 3 4 1 4 4 1 5 4 1 6 4 1 ける 旅 たひにして妹を恋しみなかめをれは都の方に雲たなひけ り 堆 さ夜ふくる窓の燈つくくとかけもしつけし我もしつけ し 心とてよもにうつるよ何そこれた∼此むかふともし火の か け むかひなす心に物やあはれなるあはれにもあらし燈のか 汁 . ふくる夜の燈のかけををのつから物のあはれにむかひな し ぬ ㌃ 過にし世いまゆくさきと思うつる心よいつらともし火の 本 ともし火に我もむかはす燈もわれにむかはすをのかまに く l 雑暁 ︻ 風 ︼ かねのをとに夢はさめぬる後にしもさらに久しき暁の床雑夕
鳥かへるそともの森のかけくれてゆふへの空は雲そのと け . き150 149 3 5 1 4 5 1 6 5 1 7 5 1 5 8 1