72
生活環境学研究 No.4 2016
卒
業
論
文
要
旨
インジゴの存在状態の違いによる色彩の違い
山本 郁美
[指導教員:武庫川女子大学教授 牛田 智]
キーワード:染料,藍,色彩変化,反射スペクトル,吸収スペクトル
1.研究の背景・目的
青色は英語で「
blue」としか表現がないのに対して,日本
人は藍色や浅葱色,紺色,納戸色などの,青色が生み出す多
くの色相に伝統的な名称を付け分類されるほど,現在まで大
切に伝えられている。日本で親しみのある青色染めは,天然
染料で古くから「藍」が用いられ,藍染めは現在でも面倒で
難しいとされている建て染めの染色方法で,何百年もの昔か
らこの緻密で複雑な技術で青色の濃淡を表現してきた1)。日
本で長く愛されている藍のさらなる魅力を知りたいという思
いからこの研究をするに至った。
藍染めではジーンズように,染色後に色の変化が楽しめる
染色物である。また染色過程でも色素の紺色以外の色味が確
認できることがある。
藍の色素であるインジゴは,水に溶けないため還元して水
溶性にしてから染色をする建て染めの方法を用いる。還元後
に溶液の水面で酸化が進むと,水面にはインジゴが膜状に生
成してくるが,その水面は状況によって,青色ではなく紫色
に見えることがある。それは目視や機器によって色の違いが
はっきりと区別できるのか,また,還元後酸化によって水面
に生じたインジゴが青色でなく紫色であることを不思議に思
い,この水面にある光沢のある紫色の膜はどのような時に見
られるものか,インジゴ特有のものであるのか検討した。
2.実験方法
2-1 試薬
合成インジゴは和光純薬工業の特級試薬を,ジブロモイン
ジゴ(商品名:ツヤインジゴ)は三井東圧染料の,テトラブ
ロモインジゴ(慣用名:チバブルー2B)は東京化成工業の,
スレンバイオレット
BRL,スレングリーン FFB,スレンレ
ッド
F3B は田中直染料店のものを用いた。還元のために試
薬特級水酸化ナトリウムと化学用ハイドロサルファイトを使
用した。
2-2 インジゴの還元方法
インジゴは,建て染め染料であり,水に溶けない色素のた
め,還元して水溶性にする必要がある。次のような方法で還
元を行った。
1. まず 150ml の水に合成インジゴ 0.1g を加える。温めな
がら撹拌させるために,高粘度スターラーの上にウォ
ーターバスをセットした状態でビーカーをウォーター
バスに入れてビーカーの中にはマグネットス回転子を
入れた。
2. そのビーカーに水酸化ナトリウムを約 0.5g 加え,50℃
程度で温めながら撹拌を続けた。
3. さらにハイドロサルファイト 1g を加え,撹拌をしても
還元が進まない場合は約
0.25g ずつ加えていった。
当初の溶液はインジゴの色素の紺色をしているが,還元剤
によって黄色に変わり,インジゴは還元体として溶解する。
溶液が黄色になっていないと溶液の水面に膜は表れず,少し
でも還元できていないインジゴが残っていると膜はできない。
また還元の際にハイドロサルファイトを多く入れてしまうと,
酸化に時間がかかってしまうため,注意して少量ずつ加えて
いった。
2-3 膜の採取方法
1. まず三分の一サイズにカットしたスライドガラスをシ
ャーレの中に置き,そこへ還元させた染料の溶液を流
し込み,酸化が進むまでしばらく静かに放置させた。
2. シャーレの水面に紫色で光沢のある膜が見られてから,
水分が多すぎると膜が不安定になってしまうため注射
器でゆっくりと余分な液を吸い取った。
3. ピンセットを用いて少し斜めに傾けながらスライドガ
ラスを持ちあげ,膜を採取した。
2-4 膜の熱処理方法
次のような加熱処理を行った。
1. 90℃設定した乾燥機の中に膜を採取したスライドガラス
を入れ10 分間放置した。
2. 取り出した後,目視で変化を確認後,反射率の測定を行
った。
3. この後も 120℃・160℃・200℃と温度を上げ同じ作業
を繰り返した。
4. 200℃で 10 分間加熱後,大きく変化がない場合は加熱
時間を長くした。
3.結果および考察
3-1 インジゴの膜の色彩に関しての観察と測定
インジゴを還元すると溶液は黄色であるが,その水面に酸
化によって現れるインジゴの膜は光沢のある紫色に見える。
図1 のように,ガラス上に採取した膜を反射光で見ると水面
にある膜と同じように,光沢のある紫色に見えるが,光にあ
てるように透過光で見ると青色に見えた。また,分光光度計
で反射スペクトルと吸収スペクトルを測定すると(図 2),
最大吸収波長はそれぞれ 520nm,647nm と,反射光では赤
みであること,透過光では青みであることを示した。このこ
とから膜は,機器でも見方によって色味に違いが出ることが
分かった。
図 1 インジゴの膜を採取したシャーレを反射光(左)および透過光
(右)で撮影したもの
図 2 インジゴの膜の反射スペクトル(上)・
吸収スペクトル(下)
3-2 インジゴ以外の膜の色彩に関しての観察と測定
3-2-1 ジブロモインジゴ・テトラブロモインジゴ
インジゴと同様に,ジブロモインジゴもテトラブロモイン
ジゴも還元後,酸化すると溶液の水面に膜が現れ,インジゴ
と同じ方法で膜の採取ができた。染料の粉末の色はともにイ
ンジゴと同じ紺色であったが,採取した膜の色を観察すると
反射光では,ジブロモインジゴ・テトラブロモインジゴ共に
紺色に近い濃い青色をしていた。次に膜を透過光で見ると,
ジブロモインジゴは,反射光で見た時と同じような青色をし
ていたが,テトラブロモインジゴはエメラルドグリーンのよ
うな緑色に近い青色であった。
反射・吸収スペクトルの最大吸収波長で比べると,いずれ
も反射光では 500nm 台なのに対して透過光では 600nm 台
に変わることから,反射光では赤み,透過光では青みであり,
若干ではあるが,インジゴと同様に機器でも測定の仕方によ
って膜の色味が異なることもわかった。
3-2-2 スレン染料
スレン染料の膜は,インジゴほどはっきりと光沢のあるも
のでなく,水面に油が浮いているような,薄い膜であった。
スレン染料の採取した膜は,目視では反射光・透過光で見
てもインジゴの膜のように色味に違いはなく,表面には光沢
も見られない。目視で膜の色は染色した場合と同じ色に見え
た。染色布と還元した溶液から採取した膜を,反射スペクト
ルにおける最大吸収波長で比較すると,目視での観察でも,
機器からも大きな差はないことがわかった。
スレン染料では還元後に酸化すると膜は現れるが,それは
色素と同じ色味のものであり,インジゴのように色素と別の
色が確認できるというものではなかった。
3-3 熱処理
インジゴの溶液から採取した紫色の膜は,何らかの条件で
染料本来の色の紺色に変わることがないか調べるために,イ
ンジゴ・ジブロモインジゴ・テトラブロモインジゴの膜に熱
を加えることで膜の色味の変化を観察した。
インジゴとジブロモインジゴの膜の色は変化がなかったの
に対し,テトラブロモインジゴの膜は加熱前,紺色のような
濃い青色をしていたが,200℃の高温加熱によってエメラル
ドグリーンのような緑色がかった青色に変化し,反射スペク
トルの最大吸収波長も
572nm から 610nm に変化した。目
視だけでなく,機器でも色の変化があったことがわかる。膜
の色味の変化は,200℃での加熱後に見られ,加熱によって
変化した膜の色はそのまま常温で1 週間程度放置していたが,
加熱前の色に戻ることはなかった。
4.結論
インジゴを還元させ,その後酸化が進むと溶液の水面には
色素とは色が異なる光沢のある紫色の膜が現れる。今回はこ
の膜を目視での観察だけでなく,分光光度計で測定ができる
ように水面にある膜を採取した。採取をした膜は,反射光で
は紫色に見え,溶液の水面に現れたように光沢もあった。し
かし透過光で見ると,膜は青色に見え,同じ膜でも見方によ
って色味が異なった。分光光度計で反射率・吸収スペクトル
の最大吸収波長を測定すると,機器でも色味の違いが示され,
反射光では赤みであるのに対し,透過光では青みであること
がわかった。
ジブロモインジゴとテトラブロモインジゴもインジゴと同
様に採取した膜には赤みがあり,反射光と透過光で膜の色味
が変化し,分光光度計でも同じ結果が得られた。スレン染料
からも還元後に酸化によって膜の採取ができたが,染料の色
素と膜の色はほとんど同じ色であり,膜はインジゴと異なり,
見方によって色味に変化はなかった。
またインジゴの光沢のある紫色の膜は,200℃で長時間加
熱をしても色素の紺色に戻ることはなかった。
参考文献
1)木村光雄: 藍染の歴史と科学 はしがき ⅲ~ⅳ, 1992
反
射
率
吸
光
度
波長(
nm)
波長(
nm)
出力_68004750生活環境学研究4号本文.indd 72 2016/11/01 13:22:50
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文
要
旨
インジゴの存在状態の違いによる色彩の違い
山本 郁美
[指導教員:武庫川女子大学教授 牛田 智]
キーワード:染料,藍,色彩変化,反射スペクトル,吸収スペクトル
1.研究の背景・目的
青色は英語で「
blue」としか表現がないのに対して,日本
人は藍色や浅葱色,紺色,納戸色などの,青色が生み出す多
くの色相に伝統的な名称を付け分類されるほど,現在まで大
切に伝えられている。日本で親しみのある青色染めは,天然
染料で古くから「藍」が用いられ,藍染めは現在でも面倒で
難しいとされている建て染めの染色方法で,何百年もの昔か
らこの緻密で複雑な技術で青色の濃淡を表現してきた1)。日
本で長く愛されている藍のさらなる魅力を知りたいという思
いからこの研究をするに至った。
藍染めではジーンズように,染色後に色の変化が楽しめる
染色物である。また染色過程でも色素の紺色以外の色味が確
認できることがある。
藍の色素であるインジゴは,水に溶けないため還元して水
溶性にしてから染色をする建て染めの方法を用いる。還元後
に溶液の水面で酸化が進むと,水面にはインジゴが膜状に生
成してくるが,その水面は状況によって,青色ではなく紫色
に見えることがある。それは目視や機器によって色の違いが
はっきりと区別できるのか,また,還元後酸化によって水面
に生じたインジゴが青色でなく紫色であることを不思議に思
い,この水面にある光沢のある紫色の膜はどのような時に見
られるものか,インジゴ特有のものであるのか検討した。
2.実験方法
2-1 試薬
合成インジゴは和光純薬工業の特級試薬を,ジブロモイン
ジゴ(商品名:ツヤインジゴ)は三井東圧染料の,テトラブ
ロモインジゴ(慣用名:チバブルー2B)は東京化成工業の,
スレンバイオレット
BRL,スレングリーン FFB,スレンレ
ッド
F3B は田中直染料店のものを用いた。還元のために試
薬特級水酸化ナトリウムと化学用ハイドロサルファイトを使
用した。
2-2 インジゴの還元方法
インジゴは,建て染め染料であり,水に溶けない色素のた
め,還元して水溶性にする必要がある。次のような方法で還
元を行った。
1. まず 150ml の水に合成インジゴ 0.1g を加える。温めな
がら撹拌させるために,高粘度スターラーの上にウォ
ーターバスをセットした状態でビーカーをウォーター
バスに入れてビーカーの中にはマグネットス回転子を
入れた。
2. そのビーカーに水酸化ナトリウムを約 0.5g 加え,50℃
程度で温めながら撹拌を続けた。
3. さらにハイドロサルファイト 1g を加え,撹拌をしても
還元が進まない場合は約
0.25g ずつ加えていった。
当初の溶液はインジゴの色素の紺色をしているが,還元剤
によって黄色に変わり,インジゴは還元体として溶解する。
溶液が黄色になっていないと溶液の水面に膜は表れず,少し
でも還元できていないインジゴが残っていると膜はできない。
また還元の際にハイドロサルファイトを多く入れてしまうと,
酸化に時間がかかってしまうため,注意して少量ずつ加えて
いった。
2-3 膜の採取方法
1. まず三分の一サイズにカットしたスライドガラスをシ
ャーレの中に置き,そこへ還元させた染料の溶液を流
し込み,酸化が進むまでしばらく静かに放置させた。
2. シャーレの水面に紫色で光沢のある膜が見られてから,
水分が多すぎると膜が不安定になってしまうため注射
器でゆっくりと余分な液を吸い取った。
3. ピンセットを用いて少し斜めに傾けながらスライドガ
ラスを持ちあげ,膜を採取した。
2-4 膜の熱処理方法
次のような加熱処理を行った。
1. 90℃設定した乾燥機の中に膜を採取したスライドガラス
を入れ10 分間放置した。
2. 取り出した後,目視で変化を確認後,反射率の測定を行
った。
3. この後も 120℃・160℃・200℃と温度を上げ同じ作業
を繰り返した。
4. 200℃で 10 分間加熱後,大きく変化がない場合は加熱
時間を長くした。
3.結果および考察
3-1 インジゴの膜の色彩に関しての観察と測定
インジゴを還元すると溶液は黄色であるが,その水面に酸
化によって現れるインジゴの膜は光沢のある紫色に見える。
図1 のように,ガラス上に採取した膜を反射光で見ると水面
にある膜と同じように,光沢のある紫色に見えるが,光にあ
てるように透過光で見ると青色に見えた。また,分光光度計
で反射スペクトルと吸収スペクトルを測定すると(図 2),
最大吸収波長はそれぞれ 520nm,647nm と,反射光では赤
みであること,透過光では青みであることを示した。このこ
とから膜は,機器でも見方によって色味に違いが出ることが
分かった。
図 1 インジゴの膜を採取したシャーレを反射光(左)および透過光
(右)で撮影したもの
図 2 インジゴの膜の反射スペクトル(上)・
吸収スペクトル(下)
3-2 インジゴ以外の膜の色彩に関しての観察と測定
3-2-1 ジブロモインジゴ・テトラブロモインジゴ
インジゴと同様に,ジブロモインジゴもテトラブロモイン
ジゴも還元後,酸化すると溶液の水面に膜が現れ,インジゴ
と同じ方法で膜の採取ができた。染料の粉末の色はともにイ
ンジゴと同じ紺色であったが,採取した膜の色を観察すると
反射光では,ジブロモインジゴ・テトラブロモインジゴ共に
紺色に近い濃い青色をしていた。次に膜を透過光で見ると,
ジブロモインジゴは,反射光で見た時と同じような青色をし
ていたが,テトラブロモインジゴはエメラルドグリーンのよ
うな緑色に近い青色であった。
反射・吸収スペクトルの最大吸収波長で比べると,いずれ
も反射光では 500nm 台なのに対して透過光では 600nm 台
に変わることから,反射光では赤み,透過光では青みであり,
若干ではあるが,インジゴと同様に機器でも測定の仕方によ
って膜の色味が異なることもわかった。
3-2-2 スレン染料
スレン染料の膜は,インジゴほどはっきりと光沢のあるも
のでなく,水面に油が浮いているような,薄い膜であった。
スレン染料の採取した膜は,目視では反射光・透過光で見
てもインジゴの膜のように色味に違いはなく,表面には光沢
も見られない。目視で膜の色は染色した場合と同じ色に見え
た。染色布と還元した溶液から採取した膜を,反射スペクト
ルにおける最大吸収波長で比較すると,目視での観察でも,
機器からも大きな差はないことがわかった。
スレン染料では還元後に酸化すると膜は現れるが,それは
色素と同じ色味のものであり,インジゴのように色素と別の
色が確認できるというものではなかった。
3-3 熱処理
インジゴの溶液から採取した紫色の膜は,何らかの条件で
染料本来の色の紺色に変わることがないか調べるために,イ
ンジゴ・ジブロモインジゴ・テトラブロモインジゴの膜に熱
を加えることで膜の色味の変化を観察した。
インジゴとジブロモインジゴの膜の色は変化がなかったの
に対し,テトラブロモインジゴの膜は加熱前,紺色のような
濃い青色をしていたが,200℃の高温加熱によってエメラル
ドグリーンのような緑色がかった青色に変化し,反射スペク
トルの最大吸収波長も
572nm から 610nm に変化した。目
視だけでなく,機器でも色の変化があったことがわかる。膜
の色味の変化は,200℃での加熱後に見られ,加熱によって
変化した膜の色はそのまま常温で1 週間程度放置していたが,
加熱前の色に戻ることはなかった。
4.結論
インジゴを還元させ,その後酸化が進むと溶液の水面には
色素とは色が異なる光沢のある紫色の膜が現れる。今回はこ
の膜を目視での観察だけでなく,分光光度計で測定ができる
ように水面にある膜を採取した。採取をした膜は,反射光で
は紫色に見え,溶液の水面に現れたように光沢もあった。し
かし透過光で見ると,膜は青色に見え,同じ膜でも見方によ
って色味が異なった。分光光度計で反射率・吸収スペクトル
の最大吸収波長を測定すると,機器でも色味の違いが示され,
反射光では赤みであるのに対し,透過光では青みであること
がわかった。
ジブロモインジゴとテトラブロモインジゴもインジゴと同
様に採取した膜には赤みがあり,反射光と透過光で膜の色味
が変化し,分光光度計でも同じ結果が得られた。スレン染料
からも還元後に酸化によって膜の採取ができたが,染料の色
素と膜の色はほとんど同じ色であり,膜はインジゴと異なり,
見方によって色味に変化はなかった。
またインジゴの光沢のある紫色の膜は,200℃で長時間加
熱をしても色素の紺色に戻ることはなかった。
参考文献
1)木村光雄: 藍染の歴史と科学 はしがき ⅲ~ⅳ, 1992
反
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nm)
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