症例提示 田尻亮輔医員(内科学 1) 症例: Y.H. 51 歳,男性。(ID218-661-8,AN1374) 主訴:黄疸,全身倦怠感 現病歴: 2000 年 7 月中旬より全身倦怠感を自 覚していた。この頃から褐色尿を自覚してい たが,発熱,関節痛,悪心・嘔吐などの症状 が見られなかったため放置していた。8 月 1 日,皮膚黄染を自覚したため,8 月 3 日糖尿 病で通院中の近医を受診した。受診時黄疸を 認め,血液検査でも T.Bil 17.7 mg/dl, GOT 1404 IU/l, GPT 1245 IU/l であったため,急 性肝炎の診断で同日入院となった。入院後は 安静・臥床と補液で経過観察されていたが黄 疸の進行が認められたため当科紹介,8 月 11 日当院に転院となった。 既往歴: 1988 年から糖尿病(グリベンクラミ ド(オイグルコン 1.25 mg 4T),ボグリボー ス(ベイスン 0.2 mg 3T)服用中。この 3 ヶ 月で 7 kg の体重減少があった。ほかに薬剤 歴なし。以前の検査で肝機能異常はない。 家族歴:家族内に肝疾患の既往なし。 患者背景:輸血歴なし,海外渡航歴なし,刺青 なし,静脈内薬物乱用歴なし 職業歴:製造業 喫煙歴: 20 本/日,約 30 年間 飲酒歴:ビール 500 ml/日,約 30 年間 薬剤アレルギーなし 当院転院時身体所見:身長 175.0 cm,体重 59.6 kg,BMI 19.4,体温 36.4°C,脈拍 60 回/ 分,整,血圧 95/61 mmHg 全身状態良好。意識清明。皮膚は黄色調でや や湿潤。毛細血管拡張,撥状指,クモ状血管 腫,手掌紅斑を認めず。前胸部に紫斑を認め る。表在リンパ節は触知しない。結膜に黄疸 を認めるが貧血なし。心・肺に異常を認めな い。腹部は平坦,軟で腸雑音はやや減弱し, 肝脾腎は触知しない。脾濁音界の拡大も認め ない。腫瘤,抵抗圧痛なし,体位変換による 濁音界の変位を認める。両下肢に浮腫を認め る。 転院時検査所見:尿:黄色,やや混濁,比重 1.015,pH 6.5,糖(4 +),蛋白質(−),ケ 第 43 回山梨医科大学 CPC 記録 日時:平成 13 年 1 月 17 日(水)午後 5 時 15 分∼ 6 時 45 分 場所:臨床講堂大講義室 司会:赤羽賢浩助教授(内科学 1),加藤良平教授(病理学 2)
肝移植を考慮するも,その決断にとまどい,
救命し得なかった劇症肝炎の 1 例
要 旨:本症例は急激な肝障害とそれに伴う脳症を起こした 51 歳,男性である。ステロイド, 血漿交換,血液濾過透析等の治療にもかかわらず肝機能の改善を認めないため,肝移植の適応を 考慮された。しかし,経過中重篤な感染症を合併し,約 2 ヶ月の経過で死亡した。剖検時の肝臓 の変化は,萎縮部では急激にほぼ全ての肝細胞が壊死,脱落し,偽胆管の増生により置換される。 胆汁鬱滞の高度な緑色調の部分では,肝細胞は急激な壊死を免れ島状に残存したと思われる。同 部でも活発な肝細胞の壊死が認められ,時間の経過とともに全体が壊死に陥ると考えられる。本 例は組織学的に偽胆管の増生は認められたが,肝実質細胞の再生所見は極めて乏しく,再生不良 型の劇症型急性肝炎の像とみなされた。急激な肝障害を引き起こす原因としては,ウィルス,薬 剤,アルコール,毒物が考えられるが,本例では直接的な原因は不明である。トン体(−),潜血(−),ビリルビン(−) ウロビリノーゲン(4 +),白血球(−),亜 硝酸塩(−).便:褐色軟便 潜血反応 オ ルトトルイジン(−)グアヤック(−).赤 沈 : 1.0 mm/h. 血 算 : WBC 6,380/µl ( Neut 82.0 % , Eos 3.0 % , Baso0.8 % ,
Mono 2.0 %,Lym 15.0 %,atyp lym 1.0 %), RBC 4.25 × 106/µl, Hb 14.8 g/dl,Ht 41.4 %, Plt 120 × 103/µl.血液生化学: TP 4.9 g/dl, Alb 3.0 g/dl,ChE 123 IU/l,ZTT 1.9 KU, TTT 3.9 KU, T.Bil 21.0 mg/dl,D.Bil 14.5 mg/dl,ALP 501 IU/l,LAP 208 IU/l,γGTP 976 IU/l,LDH 404 IU/l,GOT 332 IU/l, GPT 824 IU/l, TG 37 mg/dl, T.Chol 187 mg/dl,BUN 15 mg/dl,Cre 0.60 mg/dl, UA 2.2 mg/dl,Na 132 mEq/l,K 4.8 mEq/l, Cl 95 mEq/l, Ca 9.1 mg/dl, CRP 0.6 mg/dl,AFP <3 ng/ml.凝固系: PT-t 31.1 s,PT % 24.5 %,APTT 84.0 s,FIB 82 mg/dl,AT-3 21 %,FDP-D 3.8µg/ml ;感染 症,梅毒,SLIDE(−),TPHA(−),HIV (−). 肝 炎 ウ イ ル ス マ ー カ ー : I g M - H A (−), CMV-IgM 10 >,EBV VCA IgM 10>
HBs-Ag(−),HBs-Ab(−),HBc-Ab 11.01, IgM-HBc(−),HCV-Ab(−),HCV-RNA P C R ( − ). 免 疫 グ ロ ブ リ ン 分 画 , I g G 769 mg/dl,IgA 468 mg/dl,IgM 98 mg/dl, IgE 650 mg/dl.自己抗体:抗核抗体 40 倍 以下,抗ミトコンドリア抗体(−),抗平滑 筋 抗 体 ( − ), ア ン モ ニ ア 8 3 . 8µg / d l , HGF 3.70 ng/ml 当院転院後の経過:当院転院時,意識清明であ ったが著明な黄疸を認めていた。画像診断で は肝は萎縮しており内部は不均一であった。 このほか腹水を認めた。このため重症型の急 性肝炎と診断し,8 月 11 日(第 11 病日)よ りプレドニン 30 mg/day 投与を開始した。 T.Bil,AST,ALT,PT %の改善を認めない ため,8 月 16 日(16 病日)からはプレドニ ンを 40 mg に増量し,グルカゴン-インスリ ン療法も開始した。さらに 8 月 22 日(22 病 日)には羽ばたき振戦(肝性昏睡度 2 度)が 出現したため,8 月 23 日(23 病日)から血 漿交換療法を開始,翌 8 月 24 日(24 病日) には血漿交換に加え,血液濾過透析も開始し た。意識状態は一時的に改善したものの,傾 眠傾向も出現し(肝性昏睡度 3 度)肝機能の 改善を認めないため,8 月 30 日(30 病日) 肝移植も考慮し,本人および家族にその可能 性を説明し,信州大学第 1 外科にも相談を開 始した。しかしながら 8 月 25 日(25 病日) 頃から 37 度台の発熱が出現し,また右肺野 に結節状陰影が出現したため,肺化膿症およ び真菌症を疑い,γグロブリン製剤,抗生物 質,抗真菌剤を用いて治療開始した。しかし ながら治療効果は乏しく 9 月 13 日 11 時 31 分,永眠した。 剖検目的: 1)死因 2)肝の炎症の程度 3)肺炎の原因 病理所見と診断 中澤匡男大学院生(病理学 2) 剖検番号: A-1374,51 歳,男性 (死亡時間)平成 12 年 9 月 13 日午前 11 時 31 分 (剖検時間)平成 12 年 9 月 13 日午後 1 時 10 分 死後 1 時間 39 分。開胸開腹にて剖検。 A.病理学的所見 身長 173 cm,体重 61.9 kg 瞳孔左右とも 6 mm。全身に黄疸著明。両下 肢に浮腫。右陰嚢水腫。 腹水 6,400 ml。胸水(左少量,右 250 ml)。 心嚢液 40 ml。 胃内には,約 1,000ml のコーヒー残渣様液体 が貯留。 1.肝臓(750 g) 肉眼的所見:黄色調を呈する萎縮性の部分 の中に,胆汁鬱滞の高度な緑色の部分が地図 状に認められる。黄色調の部分は,小葉構造 が完全に消失している。緑色の部分では,小 葉構造は保たれているが,小葉間に帯状の白
色部分がみられ,架橋壊死の存在を思わせる。 (図 1) 組織学的所見: 【黄色調の萎縮した部分】 肝細胞は完全に壊死,脱落し(massive necrosis),既存の小葉構造は消失している。 全体が高度のリンパ球浸潤を伴う偽胆管の増 生により置換されている。(図 2) 【緑色部分】 既存の肝小葉構造はおおむね保たれてい る。肝細胞索は著しく萎縮し,肝細胞は中心 静脈に向かって直線的に配列する。小葉内に は,泡沫状の細胞質をもつ羽毛変性をきたし た肝細胞が巣状に認められる。中心静脈間, 門脈域間あるいは中心静脈と門脈域間には架 橋壊死がみられる。(図 3) 門脈域は疎な線維化により拡大し,内部に 胆汁栓を貯めた偽胆管が多数形成されてい る。門脈域にはリンパ球主体の中等度の慢性 炎症細胞浸潤がみられ,偽胆管周囲には,少 数の好酸球,好中球の浸潤が認められる。 小葉単位の壊死の程度は,大部分の小葉で は中心静脈から門脈域に向かって約 1/3 以内 の範囲に肝細胞の脱落,壊死が認められ,一 部の小葉では 1/3 以上の壊死がみられる。 Zonal necrosis から submassive necrosis の所 見である。 小葉内にも多数の胆汁栓と胆汁を貪色した クッパー細胞がみられ,また,門脈域の偽胆 管内にも多数の胆汁栓が存在し,全体に胆汁 鬱帯は高度である。 2.肺(左 330 g,右 430 g) 肉眼的所見:右下葉には約 1.5 cm の集族 する多発性空洞性病変とこれと離れた部位に も約 2 cm の空洞を伴う病変を認める。左下 葉には約 3 cm の巣状肺炎がみられる。 組織学的所見:右下葉の 1.5 cm の空洞性 病変では,空洞の内腔に真菌(ムコール)の 集塊を認め,その周囲には膿瘍,壊死,巨細 胞を伴う肉芽腫がみられる。近傍の血管内に も菌体を伴う血栓が存在する。 右肺下葉の約 2 cm の空洞を伴う病変はア スペルギルス感染を伴う肺膿瘍である。 左下葉には,真菌感染を伴わない気管支肺 炎を認める。 両側上葉には肺胞壁の破壊,細気管支の拡 張がみられ,肺気腫を認める。 3.腎臓(左 235 g,右 220 g) 肉眼的所見:両側の髄質に,最大約 8 mm の白色結節を認める。 組織学的所見:白色結節は膿瘍であり,同 部には真菌を認めない。糸球体には明らかな 糖尿病性変化は認められない。 4.脾臓(130 g) 組織学的所見:全体に壊死,出血がみられ, 一部に梗塞を認める。壊死周囲の大型の動脈 内には血栓を認め,その中にはムコール菌体 の塊が充満しており,塞栓を形成している。 5.食道 肉眼的所見:頚部には顆粒状の粘膜がみら れ,下部から胃境界部に約 5 cm の縦走潰瘍 を認める。 組織学的所見:頚部の顆粒状の粘膜は,胃 底腺領域の胃粘膜で異所性胃粘膜の所見であ る。 下部食道の粘膜欠損部では,壊死,肉芽組 織がみられ,潰瘍を形成している。肉芽組織 内に,周囲に halo を伴う核内封入体をもつ 大型のサイトメガロウィルス感染細胞が存在 する。 B.病理学的診断 1.急性肝炎(劇症型,再生不良型) 2.真菌(アスペルギルス,ムコール)感染 症(右肺,脾臓) 3.左気管支肺炎 4.両側腎膿瘍 5.食道潰瘍 6.脾梗塞 (直接死因)肝不全
考 察 本症例は急激な肝障害を起こし,また経過中 感染を併発し,約 2 ヶ月の経過で死亡した 51 歳の男性である。 剖検時の肝臓の変化は萎縮部では急激に,ほ ぼ全ての肝細胞が壊死,脱落し,偽胆管の増生 により置換される。緑色の部分では,急激な肝 細胞の壊死を免れ,島状に残存したと思われる。 同部でも広範に肝細胞の壊死が認められ,時間 の経過とともに全体が壊死に陥ると考えられ た。 本例では組織学的に偽胆管の増生が認められ たが,肝実質細胞の再生所見は極めて乏しく, いわゆる内田の提唱する再生不良型の劇症型急 性肝炎の像とみなされた。 急激な肝障害を引き起こす原因としては,ウ ィルス,薬剤,アルコール,毒物が考えられる が,本例での肝障害の直接的な原因は不明であ る。 質問 赤羽助教授(内科 1) 本例では,壊死部分と緑色の生き残った部分 が大きな塊を形成しているが,その差はどうし て生じたものか? 例えば,動脈や門脈などの 血管に何らかの変化は見られなかったか? 回答 中澤大学院生(病理 2) 血管に器質的な変化は認められず,このよう な肉眼像を呈する原因は不明です。 質問 赤羽助教授(内科 1) 本例では,γ-GTP が高い事もあり,薬剤性 の肝障害の可能性も完全には捨てきれないと思 われる。好酸球の浸潤や,生き残った肝小葉に 何らかの特徴は見られなかったか? 薬剤性の 肝障害では,主として小葉中心性に壊死が見ら れるものと,小葉の周辺部が主としてやられる ものが知られていますが。 回答 中澤大学院生(病理 2) 炎症性細胞はほとんどがリンパ球であり,好 図 1. 肝臓の割面 黄色調を呈する萎縮性の部分と (A),胆汁鬱滞の高度な緑色の結節状の部分 (B)が認められる。黄色調の部分では,小葉 構造は消失している。緑色部では,小葉構造 は保たれているが,小葉間に帯状の白色部分 が認められる。 図 2. 黄色部の組織像 肝細胞は壊死,脱落して, 既存の小葉構造は消失している。換わりに高 度のリンパ球浸潤を伴う偽胆管の増生がみら れる。 図 3. 緑色部の組織像。門脈域には内部に胆汁栓を 貯めた多数の偽胆管の形成と極少数の好中球, 好酸球を伴うリンパ球主体の炎症細胞浸潤を 認める。小葉内には,帯状から亜広範性の壊 死を認める。
酸球は極少数です。小葉構造が残存する緑色部 でも同様です。したがって薬剤性肝障害を積極 的に示唆する所見はありません。 質問 岡田俊一講師(内科学 1) 1.本症例は結局,肝移植しか救命方法はな かったものと考えられますが,生体肝移植 は家族からの申し出が必要であり,強要で きるものではありません。本症例でもし肝 移植ができたとするなら,どの時点でする べきでしたか? 2.肝移植の同意を得た患者の兄は,以前よ り検診で脂肪肝を指摘されていました。エ コーではそれ程強い脂肪沈着は認められな かったのですが,肝移植の適否の判断基準 と,脂肪肝が移植に使えない理由を教えて 下さい。 回答 中澤勇一先生(信州大学第 1 外科) 移植の対象となる劇症肝炎の原因の主なもの としてウイルス性肝炎,薬剤性肝障害,原因不 明が挙げられる。本邦ではこのうちその原因が 不明なものが大多数を占めている。原因不明の 劇症肝炎の移植後に移植肝に慢性肝炎,肝硬変 が発症する症例があることより何らかのウイル スの関与が示唆されている。 最近の劇症肝炎の内科的治療による救命率は 急性型で 51 %,亜急性型で 25 %と報告されて いる。近年,肝移植による劇症肝炎の 1 年生存 率は 70 %と報告されるに当たり,肝移植は劇 症肝炎に対する有効な治療手段として確立され るに至っている。劇症肝炎の治療における最も 大きな問題点は,内科的治療で救命できる症例 と,肝移植が必要となる症例をいかに見極める かにあると考えられる。確かに徹底した肝補助 療法と強力な免疫抑制療法により回復する症例 がある一方,これら治療期間中に重症な感染症 (特に真菌感染症)などを発症し移植の機会を うばわれてしまう症例があるのも事実である。 この点において本邦でもいくつかの肝移植適応 基準が発表・提案されているが,現実には,症 例ごとの経過,原因などをふまえて最終的に, 肝移植のタイミングは個々の施設における臨床 医により判断されている。 本邦では現在も肝移植の主体は健康な生体ド ナーが必要な生体肝移植であり,必ずしも重症 な劇症肝炎の症例全例が肝移植を受けられない のが現状である。しかし,肝炎が重症化した場 合,内科的治療で不可逆な劇症化を予測して肝 移植を念頭において治療を行う必要があるもの と考えられる。 1.この症例の移植にふみきる時期について 現実には脳症のない重症肝炎の時期に移植 を行うという判断は難しいと考えられる。 重症肝炎の劇症化の予測についても今後充 分検討していく必要があると考えられる。 2.兄の fatty liver について 移植肝の脂肪肝は primary non-function (PNF)発症の重要なリスクファクターで ある。脂肪肝は組織学的に小滴性(micro-vesicular steatosis) と 栄 養 性 の 大 滴 性 (macrovesicular steatosis)に分類される。 一般に microvesicular steatosis は移植に際 して問題になることは少ないと考えられて いる。通常問題となるのは macrovesicular steatosis である。脂肪浸潤の程度は,軽度 (30 %未満),中等度(30 %以上 60 %未満), 高度(60 %以上)と分類されており,高 度な脂肪肝を用いた場合は PNF を合併す る可能性が極めて高い。中等度の脂肪肝の 場合は,必ずしも PNF を来さないものの, 移植後の遷延する肝機能異常,患者,グラ フト生存に影響をおよぼすことが明らかに されている。軽度の脂肪肝を有するグラフ トは通常移植に用いられるが,やはり脂肪 肝のない場合に比較してグラフト機能不全 の発症率は当然高くなる。脂肪肝がおよぼ す移植後のグラフト機能不全の機序は,冷 保存,再潅流がその最初の誘因と考えられ ており,その後,脂肪流出による肝内の微 小循環の障害による虚血と,脂質の変性が 関連した肝細胞障害が引き起こされる。
質問 赤羽助教授(内科学 1) 生体肝移植は,血液型一致していれば,施行 は可能ですか? 回答 中澤勇一先生(信州大学第 1 外科) はい。血液型が一致していれば勿論ですが, 輸血が出来る組み合わせであれば,血液型が完 全に一致していなくても,肝移植は可能です。 司会者 劇症肝炎における肝移植適応について説明し て下さい。 発言 坂本 穣助手(内科学 1) 劇症肝炎とは「肝炎のうち症状発現後 8 週以 内に高度の肝機能障害に基づいて肝性昏睡Ⅱ度 以 上 の 脳 症 を き た し , プ ロ ト ロ ン ビ ン 時 間 40 %以下を示すもの」と定義され,症状出現 後 10 日以内に脳症が発現する急性型とそれ以 降に発現する亜急性型に分類される。したがっ て,本症例は,原因不明のウイルス(非 A 非 B 非 C 型)による劇症肝炎亜急性型と考えられ る。劇症肝炎は「難治性肝炎」として全国調査 がなされ,わが国での約 1 割が集計されている と考えられるが,最新の 1998 年の調査によれ ば,急性型と亜急性型の頻度は,ほぼ同数で, 亜急性型の約半数が非 A 非 B(非 C)型である (表 1)。しかしながらその救命率は約 30 %で あり,肝移植がなされた 4 例を除くと 26 %に 過ぎない。一方,肝移植がなされた 4 例は全て 生存中である。また過去 10 年間の非 A 非 B 型 劇 症 肝 炎 亜 急 性 型 を み て も , そ の 救 命 率 は 11 %に過ぎない。近年,「劇症肝炎における肝 移植適応ガイドライン(日本急性肝不全研究会 1996)」が出されており(表 2),本例のように 原因不明の劇症肝炎亜急性型では肝移植も視野 にいれて治療に当たるべきと考えられた。 表 2.劇症肝炎における肝移植適応のガイドライン(案) Ⅰ)脳症発症時に次の 5 項目のうち 2 項目を満たす 場合は死亡と予測して肝移植の登録を行う 1.年齢> 45 歳 2.亜急性型 3.プロトロンビン時間< 10 % 4.:血清総ビリルビン濃度≧ 18 mg/dl 5.:直接/総ビリルビン比≦ 0.67 Ⅱ)治療開始(脳症発現)から 5 日後における予後 の再予測 1.脳症がⅠ度以内に覚醒,あるいは昏睡度で Ⅱ度以上の改善 2.プロトロンビン時間が 50 %以上に改善 以上の項目のうちで,認められる項目数が 2 項目以上の場合:生存と予測して肝移植の 登録を取り消す 0 または 1 項目の場合:死亡と再予測して肝移 植の登録を継続する 表 1.劇症肝炎全国調査(1998 年) 急性型 亜急性型 LOHF (n=46) (n=47) (n=11) 救命率 52 % 30 % 9 % (肝移植を除く) (51 %) (26 %) (0 %) 肝移植例数 1 4 1 成因 A 4 0 0 B* 29(63 %) 13(28 %) 1(09 %) NANB** 09(20 %) 25(53 %) 8(73 %) 薬剤 3 8 1 不明 1 1 1 **B 型: AVH 初感染+ HBV carrier の劇症化 **C 型:急性型 0 例,亜急性型 3 例,LOHF1 例