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差分変動率法を用いたブラックホール天体Cyg X-1の長時間変動の解析

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差分変動率法を用いたブラックホール

天体 Cyg X-1 の長時間変動の解析

14m1-002

明星大学理工学研究科物理学専攻

大枝克弥

(2)

2

要旨

全天観測 X 線監視装置「MAXI」が観測を行ったブラックホール天体 Cyg X-1 のアーカイ ブデータを使用し、差分変動率法(Inoue 2011, PASJ, 63, S1)を用いて、Low intensity-hard spectral state (LHS)と、high intensity-soft spectral state (HSS)の二状態それぞれの長時間変 動の特徴を調べた。データには MAXI の地球公転周期(約90分)をデータ点に取った orbit データと orbit データを1日にまとめた day データがあり、その2つを組み合わせて 2,4,8,16,32 ビンごとの時間幅に順次まとめ、それらの差分変動率を、2-4 keV バンド(L バ ンド)、4-10 keV バンド(M バンド)、10-20 keV(H バンド)ごとに計算を行い、各々 の時間ビン幅依存性(差分変動関数)を求めた。解析によって求められた差分変動関数は、 LHS の L、M、H バンドと HSS での L バンドでは特徴的な変動はみられなかったが、HSS の M、H のバンドに関しては 16 日以下の時間スケールで有意に大きな差分変動率が示された。 それらの結果は、杉本ら(2015, submitted to PASJ)が同じ MAXI のデータから求めたパワー スペクトルの結果と矛盾しないものであった。われわれは、さらに、HSS における L バンド の変動と M バンドの変動の相関を調べ、HSS における L バンド中の disk-Blackbody 成分(soft 成分)と Power law 成分(hard 成分)の変動を分離した。その結果、10 日付近より長い時 間スケールでは hard 成分と soft 成分の差分変動率はほぼ同じ値を示した。しかし、10 日か ら短い時間スケールでは hard 成分が有意に大きな変動を示すようになり、時間スケールが 短くなるとともに二つのスペクトル成分の独立性が強まることがわかったこれらの結果か ら、降着円盤の外縁には外側から 10 日より長い時間スケールでの変動を持った降着物質の 流入が伴星からあり、外縁部あたりで soft 成分を担う幾何学的に薄い降着流と hard 成分を 担う幾何学的に厚い降着流の2層の流れに分かれ、それぞれ独立の流れに分かれていくと 推察される。そして、幾何学的に薄い流れでは遅い落下速度のために変動がなまされ、幾 何学的に厚い流れに比べて変動が小さくなると考えられる。

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3

目次

1

X 線天文学

1.1 X 線で見た宇宙

1.2 ◇これまでの観測

1.3 ◇全天観測 X 線監視装置「MAXI」

2

X 線連星

2.1 近接連星系

2.2 ブラックホール連星

2.3 降着円盤

2.4 円盤の状態変化とモデル

2.5 Cygnus X-1

3

Cygnus X-1 の解析

3.1 Cygnus X-1 のデータ

3.2 HSS,LHS の区分

3.3 ◇HSS、LHS の変動率

3.3.1 差分変動係数

3.3.2 ◇2 つの変動率

3.4 HSS の L バンド

3.4.1 独立な変動と比例する変動

3.4.2 最小二乗法

3.4.3 2成分の独立性

3.4.4 時間幅ごとの PL 成分と BB 成分

4

時間スケールにおける変動の独立性

4.1 長い時間スケールの2成分の変動率

4.2 時間幅ごとの独立性

参考文献

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4

1 X 線天文学

1.1 X 線で見た宇宙

天文学は、いつの時代も生活には欠かさないものとして活用されてきた。太陽と地球の 距離や、季節毎に見える星の位置を把握することにより文明を発達させてきた。技術が進 歩するにつれて、私たちは星の情報をより明確に取得できるようになり、目から望遠鏡、 そして観測機を空に打ち上げて多様な星の姿を捉えるようになった。望遠鏡を駆使してい た時代は光の波長でも可視光でしか解析できなかったが、今では可視光以外でも解析でき る時代となった。 光は波長ごとに性質が異なり、大きく分けて電波、赤外線、可視光、紫外線、X 線などの 領域で分かれ、電波から X 線になるにつれて波長は短く、エネルギーは高くなる(図 1.1)。 光の波長とその波長を出している物体の温度には密接な関係があり、エネルギーが高い ものほど温度も高く、その関係はウィーンにより見出され、ウィーンの変異則と呼ばれて いる 図 1.1 光の波長ごとの領域(ASTRO-H X 線天文学の世界) 図 1.3 可視光と X 線で見たおとめ座銀河団(JAXA)

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5 図 2.2 宇宙から来る光と大気の吸収(ASTRO-H X 線天文学の世界) 波長域により大気に対する透過度が違い、地上での観測が可能な光もあるが大体は大気 に吸収、もしくは散乱してしまい地上までもたないため、観測ロケットや人工衛星を観測 可能な高度まで打ち上げなければならなかった(図 1.2)。そのため、一部の赤外線や紫外 線、及び X 線を含む短い波長をもつ光は近年まで観測することが出来なかった。 X 線は波長が10−1110−8mの領域のものを指し、特徴として物質を透過する力が非常に 高く、屈折しにくいお陰で、遠い天体からの X 線も綺麗に観測することが出来る。X 線を放 出している物体は100万~1 億 K 程度の非常に高い温度である。このような高いエネルギ ーを放出する現象は、超新星爆発やブラックホール、活動銀河核、銀河団といった巨大な 重力や爆発エネルギーを伴うものである。可視光で観測すると何もないような空間が広が っているが、X 線で観測した場合、高温のガスが広く分布していることがわかる(図 1.3)。 宇宙に存在する 90%以上の物質は X 線でしか観測できないともいわれ、X 線で観測すること により、可視光線や電波では捉えることのできない姿を見ることを可能にし、銀河や銀河 団の形成や進化、直接観測することのできないブラックホールの発見など、宇宙の解明に は欠かせないものである。

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6

1.2 これまでの観測

1962年,誰もが強い X 線を放射する天体があるとは想像していなかっ時代にイタ リアの物理天文学者ブルーノ・ロッシは、観測ロケットの側面にガイガーカウンターを搭 載し、打ち上げた(図 2.1)。飛行中は自らの自転により観測領域の角度を変えた。さそり 座の方向に向いているときにガイガーカウンターは大きく反応した。約10分間の観測に も関わらず、想定していた以上の X 線の強度を検出することが出来た。X 線天文学は確立し てから約50年、目まぐるしく進歩を遂げてきた。

図 1.4 ガイガーカウンターを搭載して打ち上げたロケット(JAXA)

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7 衛星として初めて全天の X 線源探査を行ったのは、1970年アメリカによって打ち上 げられた X 線天文衛星ウフルである。それまではロケットや気球など、ある一定の高度、 短い時間でしか観測できなかったものが長時間の観測が可能になり、より多くの X 線天体 を発見することが出来るようになった。以後、至る所で X 線観衛星の開発が行われ、19 78年アメリカのアインシュタイン衛星、1990年ドイツのローサット衛星、日本でも 1979 年にはくちょう衛星を打ち上げ、それ以降何機もの衛星を運用させてきた。 X 線はとても目まぐるしく、周期の変動が1分や数秒程の短いものが多く存在する。打ち 上げられてきた観測器の多くは、一つの天体に対する連続撮影時間が短く、短時間での細 かい天体の変動をはっきりと観測できなかった。1970年代、初めて全天捜査をアメリ カの衛星 UHURU がおこなった。それ以降も幾度か行われ、1995年には RXTE 衛星の全 天X線モニター(All Sky Monitor)による観測で、短時間変動する X 線の観測に成功した。

人工衛星の X 線観測で X 線パルサーや X 線連星系や活動銀河核など、X 線でしか捉える ことの出来ない高温プラズマやブラックホール近傍を解析することが可能となった。

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8

1.3 全天観測 X 線監視装置「MAXI」

図 1.5 ISS に接続された実験棟きぼう(JAXA)

全天観測 X 線監視装置 MAXI(Monitor of All-sky X-ray Image)は、2009年7月に打ち上 げられた国際宇宙ステーション(ISS)に搭載された、実験棟船外実験プラットフォームき ぼうにある X 線観測装置である(図 1.5)。 大きさ 1.85m×0.8m×1m 質量 520kg 高度 400km 観測範囲 160°×1.5°(FWHM) 公転周期 約 90 分 搭載機器 GSC(ガススリットカメラ) SSC(ソリッドステートスリットカメラ) 2つのカメラは違う役割を持ち、分解能や感度、検出の仕方が異なる(表 1.1)。

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9 表 1.1 MAXIの二つのカメラの基本仕様(2014 Riken,JAXA,MAXI team) ガススリットカメラ(GSC) ソリッドステートスリットカメラ (SSC) X 線検出器 1 次元位置感応型比例計数管(12 台) Xe+CO2 1% X 線 CCD(32 枚) 25mm 角、1024×1024 ピクセル X 線エネルギー帯域 2-30keV 0.5-12keV 全検出面積 5350cm2 200cm2

エネルギー分解能 18%(5.9 keV) 150eV(5.9 keV)

視野 160 度(長さ)×1.5 度(半値幅)の 視野を 2 方向に持つ 90 度(長さ)×1.5 度(半値幅)の 視野を 2 方向に持つ 空のカバー率 瞬時に監視する領域は全天の 2% 1 観測周期ごとに全天の 90-98%を 走査 瞬時に監視する領域は全天の 1.3% 1 観測周期ごとに全天の最大 70%を 走査 スリット部の 開口面積 20.1cm 2 1.35cm2 位置分解能 1mm 0.025mm(ピクセルサイズ) 角分解能 0.1 度 0.1 度 時間分解能 0.1 ミリ秒 5.8 秒 検出感度

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10 過去にも同じように全天を観測する観測機は運用してきたが、他と比べて視野が広く、 高い精度でX線源の位置を細かく決められる素晴らしい性能を持ち合わせている。MAXIは、 比例係数管検出器(GSC)、CCDカメラ検出器(SSC) の2種類のX線検出器を搭載していて、 各々進行方向と鉛直方向の2方向に向けて観測をする(図1.6)。全天と言っても、太陽の位置 やISSの公転周期などの影響で一度に全視野を監視するのではない。

南大西洋の放射線異

常領域(SAA : South

Atlantic Anomaly)を通過するときはX線を検出することが出来ない

ため、SAA通過前後でスリット視野内に2方向の観測を行い、天空を互いに補完観測するこ とでSSCは天空を走査可能となる。ISS座標の北極と南極の10°の領域は観測できないが、 全天の1.5 %程度で、約60日周期の軌道面の歳差運動と軌道傾斜角 51.6 °のお陰で1週間も あればこの部分も補完できる(図1.7)。

図 1.6 左:GSC(Gas Slit Camera)、右:SSC (Solid-state Slit Camera)

SC は 12 台の Xe 比例計数管、SSC は 32 枚のスリッドを使用している。(JAXA)

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2 X線連星

2.1 近接連星系

連星系は二つ以上の星が各々の重力で引き付け合い、お互いの周囲をまわっている系の ことで、特にその二つの星の距離が星の半径ほど接近している連星を近接連星系と呼ぶ。 近接連星系の場合、ただお互いの重心を公転しているだけではなく、近いがゆえに与える 影響が大きい。片方の星(伴星)の外層が主星の強い重力によって引きはがされ主星に質 量が輸送されるなど、直接的なエネルギーのやり取りが行われるほどの近さである。その ため、大きく質量が変化することにより変わった星の進化を遂げるのも特徴の一つである。 近接連星系には 3 つのタイプで分類されていて、その条件にはロッシュローブを用いる。 ロッシュローブとは、二つの星の重力と遠心力の等ポテンシャル面を考える時、お互いの 重力圏内を表したもののことである。二つの星の間を規格化したものをaとした時、ロッシ ュローブ内のポテンシャルΨは、星 1 と星 2 を結ぶ線上を X 軸と定めて次のように書ける。 ψ≡ 𝑎𝛹 𝐺(𝑀1+ 𝑀2)= − 1 − 𝜇 √𝑥2+ 𝑦2+ 𝑧2− 𝜇 √(1 − 𝑥)2+ 𝑦2+ 𝑧2− 1 2(𝑥2− 2𝜇𝑥 + 𝑦2) (2.1) ここでμはケプラーの運動則より星 2 に対する全質量との質量比。このポテンシャルの和 の関係を表したのが図 2.1 で、図にある L はラグランジュ点である。L1、L2、L3 の点は不 安定平均点、L4、L5 の点は安定平均点を指す。 図 2.1 二つの星のロッシュローブを表した図。●が星(左:星 1、右:星 2)、 ×が連星の重心。図に示されている数値は、星の質量比を 2(μ=1/3)とした時 のポテンシャル値。

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12 このロッシュローブを用いた分類とは、連星系の二つの星に対し、どちらも条件を満たし ていない-分離型、どちらか片方が条件を満たしている-半分離型、二つの星が条件を満た し共通の外層を持っている-接触型の 3 タイプのことである(図 2.2)。 図 2.2 近接連星系の3つのタイプ 線や点線の内側はその星の重力が優勢となり質量が落ち込むのに対し、その外側は遠心 力が効く領域である。星の半径がロッシュローブに比べて小さい場合、伴星から流れ込む ガスが角運動量を持っているため渦を巻くように降着円盤を形成する。その際、内側のガ スと少し外側のガスの間で摩擦が生じ、外側のガスに内側のガスが持つ運動量の輸送が行 われ、運動量を失った内側のガスは星へと落下する。ブラックホールは外層を持たないた めロッシュローブを満たすことが出来ず、分離型、半分離型のどちらかに属する。

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2.2 ブラックホール連星

X線を出す代表的な一つに、コンパクト天体が連星系を成しているX線連星がある。コ ンパクト天体とは、白色矮星、中性子性、ブラックホールなどの高密度天体のことである。 これらの星は恒星の成れの果ての姿であり、核融合反応になどによるエネルギー放出は単 独では行われず、恒星と違い明るく光ることはほとんどない。特にブラックホールの場合 は強い重力により光さえ抜け出せないため、表面がない。 ブラックホールはニュートンにより提唱された万有引力の法則から予言された。 同じ質量の星でも半径が小さいほど速い速度が必要となる。つまり、星の密度が上がる ほど、重力の及ぼす力が大きくなるのである。仮にここで、質量一定の星の半径を極限に 小さく縮めていくと、あるところで脱出速度が光速を超えてしまう。そのような天体は光 さえも放つことは出来ない天体である。このことは18世紀にマイケル(J.Michell)やラプ ラス(P.S.Laplace)によって予想された。その後、アインシュタイン(A.Einstein)による一 般相対性理論を使って、ブラックホールの物理的な概念を導き出したのがシュバルツシル ト(Karl Schwarzchild)である。その半径はシュバルツシルト半径と名で呼ばれ、ブラック ホール研究の基盤をつくりあげた。しかし、あまりにも現実離れした密度と重力に、その 存在を否定する物理学者も多かった。 コンパクト天体が連星を成している系すべてが X 線を常に放射するわけではなく、特に X 線を強く出している連星を X 線連星と言う。強い磁場を持つ中性子星やブラックホールが 主星を成している連星は、X 線を放出することが出来る。中性子星が主星の場合、表面から 一番強い光子が飛んでくるが、ブラックホールの場合光学を駆使した観測では表面やその 付近を捉えることが出来ない。観測できるのは、伴星からの質量降着によりガスがブラッ クホールに落ち込む手前、流れ込むガスで形成された降着円盤からの放射である。他にも ブラックホール連星には特徴がある。 連星には幾つかの周期が存在する。主星の自転周期、伴星の公転周期、長期に及ぶ周期 の変動も確認されている。ブラックホール連星の場合、自転周期を読み取る術がないが、 大きな特徴として、分、秒、それ以下のミリ秒の非常に速い X 線の強度変動が観測されて いる(図 2.3)。これは、降着円盤の内側、ブラックホール近傍で及ぼされている変動であ る。このような派手しい変動がありながら主星らしきものが見当たらないことから、見え ない主星がブラックホールであると観測的に予言された。

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図 2.3 1987 年 X 線観測衛星「ぎんが」による CygX-1 の light curve

図 2.4 中性子星とブラックホールの降着円盤のイメージ 点線は見えない境目を表している

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2.3 降着円盤

強い重力を持つ主星に伴星からのガスが降着するとき、ガスは角運動量を持っているた め主星の周りを回転しながら徐々に落ち込む。この時に主星の周りで回転するガスにより 形成されている円盤が降着円盤である。主星の質量 M の周りを円運動するガスはケプラー 回転をしている。重力と、円運動による遠心力とがつり合い成していて、そのガスから中 心までの半径をrとすると、角速度𝛺𝐾、角運動量𝑙𝐾は 𝛺𝐾=√ 𝐺𝑀 r3 𝑙𝐾≡ 𝑟𝑣𝐾= √𝐺𝑀𝑟 である。これより、降着円盤の円周期は 円運動の周期∝ 𝑟−32 と円盤の半径に依存する。 角運動量をもったガスが回転している時、後から流入してきたガスとの回転速度の差か ら摩擦が生じ、持っていた角運動量を外側に輸送する。角運動量を失ったガスは中心へと 落ち込む。そして、隣り合うガスとの摩擦熱で円盤は温度をあげ、高いエネルギーを放射 する。この降着円盤は過去より、二つのモデルで議論されてきた。 ・標準円盤モデル

1970 年代に Shakura & Suynaev によって考案された、幾何学的に薄く、密度の高いゆっ くりとした降着をする特徴をもつ円盤で、効率的で強度フラックスが高い黒体放射を行う。 円盤全体から様々な黒体放射スペクトルが重なりあう、多温度円盤モデルでもある。 ・高温降着流モデル 1990 年代に Narayan & Yi によって考案された。幾何学的に厚く、密度の薄い速くながれ る降着をするのが特徴。非効率的な放射をされることから RIAF(Radiatively Inefficient Accretion Flow)と現在は呼んでいる。実は、1977 年に一丸節夫が提唱した移流優勢流モデ ルが RIAF の原型と言われているが Narayan らは単独でこのモデルを考案した。強度フラッ クスは非常に低く、様々な放射(シンクロトロンや逆コンプトン散乱による放射)をして いるので、電波からガンマ線までの広い波長で光る。電波領域のべき型スペクトルはコン プトン散乱を繰り返し、X 線領域まで放射する熱的制動放射となる。

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図 2.5 標準円盤モデル

密度が高く効率的な放射

図 2.6 高温降着流モデル

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2.4 円盤の状態変化

連星には様々な周期の強度変動があるのは先ほど述べたが、それ以外にも周期的ではな い円盤の状態による変動がある。それが、Low intensity-Hard spectral State (LHS)と、High intensity-Soft spectral State (HSS)の2つの状態である。LHS と HSS は物理的にお互いが対 になっている部分が多く、この2状態は交互に観測される。この二つの状態を定める大事 な2つの要素がある。 ・X 線強度 単位時間、単位面積あたりに観測される光子の数である。2 つの状態において LHS Low intensity → 低い強度 HSS high intensity → 高い強度 を表している。図 2.7 は、CygX-1 の観測による X 線のカウント値と観測時期のグラフ だが、それを見ると高いカウント値を検出している状態(左側:HSS)から、低いカウ ント数を示している状態(右側:LHS)への遷移が見えている。 図 2.7 長期的な強度の違いから見た LHS と HSS(Tananbaum et al. 1972) 縦軸が X 線のカウント値[𝑝

𝑜𝑡𝑜𝑛𝑠 cm−2s−1]、横軸は時間[day]

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18 ・X 線強度のエネルギー依存性(spectral) X 線のあるエネルギーごとにどのような強度を持っているかを示すものを、X 線ス ペクトルと呼ぶ。図 2.8 において、低いエネルギー側に多くの X 線が分布している ものが HSS の X 線スペクトル、高いエネルギーの側に多くの X 線が分布している ものが LHS の X 線スペクトルである。2 つの状態において LHS Hard spectral → 高い X 線のエネルギー量が相対的に多い(硬い) HSS soft spectral → 低い X 線のエネルギー量が相対的に多い(軟らかい) とされている。X 線では高いエネルギーをハード、低いエネルギーをソフト と呼ぶ。 図 2.8 エネルギーの割合から見た LHS と HSS (McConnell et al. 2002) 縦軸がエネルギーフラックス、横軸は全エネルギー

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19 この HSS と LHS は前説でも記述した2つのモデルで表される。降着円盤はこの2つの状 態を行き来する(図 2.9)。LHS と HSS の違いを生じるのは粘性が関係している。粘性が高 い HSS は円盤の密度が高く、隣り合うガスとの摩擦で暖められることで効率的な黒体放射 (Blackbody)を行い、角運動量を外に輸送することで内側に落ち込む。一方、LHS は粘性 が低く、伴星からのガスが重力エネルギーを持ったまま早く落ち込む。その結果、エネル ギーの放射があまり行われず放射冷却が効かないことから円盤は高温になる。 図 2.9 2つのモデルと LHS・HSS の関係 大体はこのモデルの形で説明がつくが、標準モデルの降着円盤の内側は放射圧の効く領 域では熱的に不安定状態になると1975年から言われていた。1986年に牧島が薄い 降着円盤の内側に厚い円盤が作られ、そこからべき型の放射があると提唱した(図 2.10)。 実際、HSS におけるスペクトル成分を解析すると高いエネルギーではべき型の放射が行われ ている。このモデルが今は一般的とされている。 図 2.10 HSS での降着円盤モデル ブラックホール近傍で薄い円盤が膨らみ、 厚い円盤となるモデル(Makisima et al 1986)

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2.5 Cygnus X-1

太陽系から 6000 光年離れたところに位置する、白鳥座にあるブラックホール連星である。 1965年、ロケットや気球による X 線観測により X 線源として Bowyer が発見した。当時 は、X 線源としては弱くあまり解析を行われなかったが、1970 年代に初の X 線観測衛星 「UHURU」が打ち上げられた。それにより5.6日の周期を発見、及び激しく早い X 線強度 変動からブラックホールがあると初めて予言された天体である(Oda et al.ApJL166,L1 1971) 。それ以降最も有名なブラックホール連星として多くの人が解析にあたった。 連星のもつ周期は様々で、CygX-1 もいくつもの周期が見つかっている(図 2.10)。 ・激しいミリ秒スケールの変動 ブラックホール近傍によるもの ・時間、日スケールの変動 公転周期など ・月や年スケールの変動 超軌道周期など 図 2.10 左:短い時間での激しい変動 右:公転周期

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3 解析

3.1 Cygnus X-1

使用データ 理化学研究所が公開している MAXI のアーカイブデータを使用。 期間 55058-56733MJD データ点 day データ(1日を 1 点) orbit データ(MAXI の軌道周期を 1 点) 解析手段 Excel

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図 3.1 のデータはエネルギーバンドごとに分かれ、その検出している X 線エネルギーの大 きさによって違っている。2 行目一番低いエネルギー領域 2-4 keV のバンドを low、3 行目 のエネルギー領域 4-10 KeV のバンドを med、4 行目一番高いエネルギー領域 10-20 KeV のバンドを high と呼ぶ。一番上は 3 つのエネルギーバンドを足したもの(all バンド)。 MAXI による観測は約 6 年と言う長期間で行われた。MAXI の強みは長期間の観測にもかか わらず広い視野で 90 分ごとに観測できることだ。従来、ここまで長期にわたって多くの X 線源を精度よく行った観測はなく、長期的な時間スケールでの解析には適している。 解析は Excel 上で計算を行った。

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3.2 HSS,LHS の区分

まずは CygX-1 が変動している2つの状態を区分して解析を行う。今回、この spectral state の区分は Long-term variabilities of Cygnus X–1 in the low/hard and the high/soft states (Juri Sugimoto et al 2015)を参考にした。ここで、各々のエネルギーバンドのフラックス low、med、high は𝐹、𝐹、𝐹と書くとする。 解析には day データの𝐹と𝐹の比から区分した。縦軸は L バンドと M バンドの強度: 𝐹+ 𝐹、横軸にはその強度比(hardness ratio):𝐹/𝐹のグラフである。この二つの境界 線は Juri Sugimoto et al 2015 同様に値を LHS 0.48<HR , HSS 0.43>HR の条件で定めた(図 3.2)。

図 3.2 low band(2-10Kev)と Hardness Ratio のグラフ

これにより spectral state を分けた区間が表 3.1 である。各状態は交互に訪れるのだが、 期間の長さには関係性はなく、7日程度の短いものから 318 日間も連続して続いたものま である。 解析には各最長の spectral state を一つずつ選出した。 ・解析する期間 第1期 LHS 第4期 HSS 0.1 1 10 0.1 1 In te n sit y 2 -1 0K eV (P h ot on s/s /cm 2) Hardness Ratio(4-10KeV/2-4KeV)

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period number spectrum state start(MJD) end(MJD) days 1 hard 55058 55376 318 soft 55378 55673 295 2 hard 55680 55788 108 soft 55789 55887 98 3 hard 55912 55941 29 soft 55943 56068 125 4 hard 56069 56076 7 soft 56078 56733 655 5 hard 56735 56741 6 soft 56742 56757 15 6 hard 56781 56824 43 soft 56854 - -

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3.3 ◇HSS、LHS の変動率

3.3.1 差分変動率

今回の解析にあたり、「Inoue, Miyakawa & Ebisawa, 2011」の論文より差分変動率法を導 入した。 連続したデータセット : { y𝑖(0) }( i = 0, … ,2𝑁 − 1 ) について、ある時間幅でカウント数を隣り合う2ビンで m 回まとめる。 その時のデータ列は {y𝑖(m)} (i = 0, … ,n𝑚− 1) (3.1)

である。

隣り合うビンについて、2つの平均と変化量(差分)を算出する。 y𝑖(m)=(𝑦2𝑖 (𝑚−1)+ 𝑦 2𝑖+1(𝑚−1)) 2 (3.2) Δ𝑦𝑖(𝑚)=(𝑦2𝑖 (𝑚−1)− 𝑦 2𝑖+1(𝑚−1)) 2 (3.3) この差分は時間ビン幅スケールでのフーリエ成分の振幅と同様のものである(図 3.4)。 図 3.4 隣り合うデータの差分のフーリエ成分 隣り合うデータ列で差分を取るとき、片方を明るい側を𝑦𝑖,𝐵(𝑚−1)、暗い側を𝑦𝑖,𝐹(𝑚−1)を考える。 この時、常に明るい側から暗い側のデータの差分を取るとすると、Δ𝑦𝑖(𝑚)の絶対値を取るこ とと同等のことが得られる。その差分の絶対値|Δ𝑦𝑖(𝑚)|は

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26 |𝛥𝑦𝑖(𝑚)| =𝑦𝑖,𝐵 (𝑚−1)− 𝑦 𝑖,𝐹(𝑚−1) 2 (3.4) と書き表すことが出来る。 これらの式より、ある時間幅𝑡𝑏(𝑚)における差分変動率ΔVは平均と差分の絶対値の割合で 示すことから(3.2),(3.4)式より ΔV({𝑦𝑖(𝑚)} : 𝑡𝑏(𝑚)) = [𝑦𝑖,𝐵(𝑚−1)] − [𝑦𝑖,𝐹(𝑚−1)] [𝑦𝑖,𝐵(𝑚−1)] + [𝑦𝑖,𝐹(𝑚−1)] (3.14) で、求めることが出来る。 差分変動法を導入した理由は、ランダムで飛び飛びのデータ列の隣り合うビンごとにフ ーリエ成分の振幅を与えることで、バラバラなデータを均し、その畳んだ時間ビンごとの 特色を解析するのに便利だからである。それに加え、今回のように長期的な観測のデータ に対して、簡単にビンごとの計算をすることが出来るからである。このような計算方法を 行えるのは、MAXI の高精度な観測のおかげである。 図 3.5 差分変動率の例。隣り合う青の棒グラフの平均が赤い枠となる。 この図では元のデータが青色の棒グラフとすると、赤色の枠型の棒グラフ が 2 ビンまとめのグラフとなる。

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27

3.3.2 2 つの変動率

3.3.1 章で述べた差分変動率を用いて、比較的連続した区間のデータ、第1期の LHS と、 第4期の HSS を衛星の 90 分周期ごとの orbit データと1日ごとの day データを時間幅ごと に並べたグラフが図 3.6 である。今回、解析で生じる誤差の範囲が 1%以下であることから、 エラーの計算を省いた。 LHS の変動率では L バンド・M バンド・H バンドともに同じような変動率なのが分かる。 3 バンド大体 0.05 の値の中で変動の差が収まっている。それに対し、HSS の変動率では M バンド・H バンド共に有意に大きな変動を取っている。この二つのバンドに対しては LHS の時と比べると約 2 倍も変動率が異なる。それに、HSS には各バンドの独立性を見ること が出来た。LHS には変動率に大きな差がないことから、1つの成分が3バンドに変動を起こ していると考えられる。それに対し、HSS の変動率は L バンドと M バンド・H バンドで大 きく差があることから2つの成分で変動していると考えられる。 このことから、HSS に関して以下の 2 つのことを考えた。 ① L バンドの2つの変動成分 ② 時間ごとのバンドの独立性について

(28)

28 図 3.6 第1期 LHS の各エネルギーバンドの変動率(1,2 番目)と 第 4 期 HSS の各エネルギーバンドの変動率(3.4 番目) 縦軸は各バンドの変動率で 2、4 番目は対数で表している 0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.1 1

day

10 100 low band med band high band

1st LHS -average-

0.03 0.3 0.1 1

day

10 100 low band med band high band

1st LHS -average-

0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.3 0.35 0.1 1

day

10 100 low band med band high band

4th HSS -average-

0.03 0.3 0.1 1

day

10 100 low band med band high band

4th HSS -average-

(29)

29

3.4 HSS の L バンド

3.4.1 独立な変動と比例する変動

図 3.9 は LHS と HSS の変動のイメージである。 LHS では PL 成分しか存在せず、3バンドに大きな変動率の差がないと解釈できる。一方、 HSS には BB 成分と PL 成分の2成分が存在する。しかし、この2成分のスペクトルの違い から、M バンド・H バンドでは PL 成分の変動が主に見えるのに対し、L バンドでは両者の 成分が混在する変動と考えられる。L バンドでの変動率が、M バンド・H バンドでの変動に 比べてずっと小さい変動を示していることは、混在しているスペクトルに大きな差がある ことを示唆している。 L バンドにおける2成分の変動率の違いを見るために、まず HSS の L バンドでの変動を 次のように分けた。 ・PL 成分の変動を表していると考えている M バンドの変動と比例している成分 ・L バンドで独立に変動している BB 成分 この L バンドに混在する2つの成分について、最小二乗法を用いて分割を試みた。 図 3.7 LHS と HSS の変動のイメージ

(30)

30

3.4.2 最小二乗法

ある N 組の組み合わせを持つデータ列 { 𝐴𝑖 }( i = 0, … ,2𝑁 − 1 ):{ 𝐵𝑖 }( i = 0, … ,2𝑁 − 1 ) (3.15) について、回帰直線を求めて相関があるかないかを調べるために、 𝐴𝑖= 𝑎𝐵𝑖+ b (3.16) と定義する。この𝑎は比例係数、bは定数である。 この傾きを求めるため、隣り合うデータの変化量(差分)を Δ𝐴𝑖 = (𝐴2𝑖− 𝐴2𝑖+1) 2 Δ𝐵𝑖 = (𝐵2𝑖 − 𝐵2𝑖+1) 2 (3.17) とする。この変化量から比例係数𝑎を求めるため最小二乗法より 𝑎 =∑ 𝑛 𝑖=0 Δ𝐴𝑛Δ𝐵𝑛 ∑𝑛 𝑖=0 (Δ𝐵𝑛 ) 2 (3.18) で求まる。 図 3.8 最小二乗法

(31)

31 ここで、L バンドの変動ΔL、M バンド変動ΔM とする。ΔL とΔM の変動比から時間ビン ごとの比例係数𝑎を定めるため、 ΔL=a × ΔM (3.19) と定めた。 定数bは X 線のカウント値が 0 に近い時は誤差の範囲とし、ないものと考えた。 2.4 節で述べた多温度黒体放射、べき型成分について考える。𝐹𝑙に含まれている各成分は 以後、多温度黒体放射を B 成分、べき型成分を P 成分と記す。

Low energy band のフラックスは、B 成分の X 線強度𝐹𝐵と P 成分の X 線強度𝐹

l𝑃より 𝐹= 𝐹

l𝐵+ 𝐹l𝑃 (3.19) と定義する。3.4 節で説明した差分変動率より隣り合うビンの平均を𝐹+、変動成分の差分を 𝐹−とする。

𝐹𝑃の変動成分は med energy band 𝐹𝑚とべき型成分で関連した変動をするとした時、

これらの関係は比例係数𝑎𝑃を使って、 𝐹𝑃+= 𝑎𝑃𝐹𝑚+ 𝐹 l𝑃 −= 𝑎 𝑃𝐹𝑚− (3.20) と言える。 𝐹𝐵 には独立の変動成分を持っているが、𝐹 l𝑃と連動して変化してしまう部分が含まれた ものとして、前者の変動を𝐹𝐵 ,𝐼、後者の変動を𝐹l𝐵,𝐶とする。𝐹l𝐵の連動部分は、 比例係数𝑎𝐵を使い、 𝐹 l𝐵,𝐶= 𝑎𝐵𝐹𝑚 (3.21) である。 ここで𝑎𝐵、𝑎𝑃は次のような関係を持つ。 𝑎 = 𝑎𝐵+ 𝑎𝑃 (3.22) 上記より、式(4.1)、(4.2)、(4.3)、(4.4)をまとめると 𝐹= 𝐹 l𝐵+ 𝐹l𝑃

(32)

32 = 𝑎𝐹𝑚+ 𝐹𝐵 ,𝐼 (3.23) 独立に変動する𝐹𝐵 ,𝐼は差分変動率の期待値がないので、式(4.5)は 𝐹− 𝑎𝐹 𝑚−= 0 (3.24) 差分変動係数𝑎は、式(4.6)に最小二乗法を用いることで求めることが出来る。 データ列{𝐹l(𝑖): 𝑖 = 1, 𝑁}{𝐹 𝑚(𝑖)−: 𝑖 = 1, 𝑁}を与え、 𝑎 =∑ 𝐹l(𝑁) −𝐹 𝑚(𝑁)− 𝑁 𝑖=1 ∑𝑁𝑖=1(𝐹𝑚(𝑁)−) (3.25) と求めることが出来る。

(33)

33

3.4.3 2 成分の独立性

𝑎𝑃 は𝐹𝑚と平行に変化する𝐹lの要素を含む係数とすると、時間経過によらずに一定であ るといえる。しかし、求めた比例係数を見ると、時間幅ごとの値は時間の経過とともに増 幅している(図 3.9)。時間スケールが一番早いところでは、𝑎𝐵、𝑎𝑃は完全に独立している。 比例係数の傾きは𝑎𝑃の傾きとすると、𝑎が最小の時、𝑎𝐵= 0と考えることが出来る。よって、 𝑎が最小である𝑎𝑚𝑖𝑛は 𝑎𝑃 = 𝑎min (3.26) と示せる。 これより、HSS の L バンドにおける PL 成分と BB 成分を分割し、各々の差分変動率を求 めた。 最小二乗法より導き出した L バンドと M バンドの比例係数が図 3.11 である。 時間スケールが短くなるほど値が小さくなっている。これは、降着円盤の内側に行くほど 相関性が次第に失われ、独立性が強まっていくと考えることで説明できる。 求めた比例係数より、L バンドの独立した成分、M バンドと比例した成分を分割ため次の 章に方法を記述した。 図 3.9 HSS の L バンドと M バンドの相関関係 1 1.5 2 2.5 3 0.1 1 10 100

比例係数

day

1st LHS

4th HSS

(34)

34

3.4.4 時間幅ごとの PL 成分と BB 成分

図 3.10 は解析より求めた L バンドの PL 成分と BB 成分である。1日の点にデータプロッ トが存在しないのは、orbit データの時間ビンをまとめる過程でデータ数が極めて少なくな り、解析には不十分であったためプロットをしていない。 グラフからわかることは、0.1 日から 10 日を過ぎても PL 成分と BB 成分は独立した変動 をしていることが読み取れる。つまりは長い時間スケールから 2 成分が存在していたこと になる。 もう一つは、長い時間スケールから短い時間スケールになるにつれて、PL 成分と BB 成 分の変動率の差が大きくなっている。 この2つのことから以下の2つを考察した。 ① 長い時間スケールの2成分の変動率 ② 時間幅ごとの独立性 図 3.10 HSS の L バンドの変動に含まれている PL 成分と BB 成分の変動率 0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.1 1 10 100

変動率

day

L_BB

L_PL

1st LHS

4th HSS

(35)

35

4 結果時間スケールにおける変動の独立性

4.1 長い時間スケールの2成分の変動率

0.1 日から10日付近までの時間スケールで、PL 成分の変動は BB 成分に比べて有意に大 きくなっている。これまでの一般的なモデルでは、ブラックホール近傍までは BB 成分を放 出している薄い降着円盤が侵入してきて、ブラックホールのごく近くで膨らんだ厚い円盤 部分が作られ、そこから PL 成分が発生していると考えられてきた。しかし、ブラックホー ル近傍はミリ秒の時間スケールで変動することから、その近傍だけに存在する膨らんだ円 盤では、BB 成分を大きく超えた day スケールの変動を作ることは不可能と考えられる。PL 成分が BB 成分より大きな day スケールの変動を持っていることは、そのような長い時間ス ケールの変動を作ることができる降着円盤の外縁部から PL 成分を担う厚い円盤が存在し、 BB 成分を担う薄い円盤と2層になっていると考えるのが自然だ。この2層の流れの考えは、 杉本らが 2015 年に提唱したモデル(図 4.1)である。 図 4.1 HSS における降着円盤の古いモデルと新しいモデル

(36)

36

4.2 時間幅ごとの独立性

L バンドの変動のうち、M バンドに比例して変動する成分の比例計数を求めた結果、BB 成分を担う流れと PL 成分を担う2層の流れは、短い時間スケールになるほど(流れが内側 に流れて行くにつれて)変動率の差が大きくなることから独立性が強まっていることが示 された。それ故、長い時間スケールでは変動率は同じようになることは逆を考えれば有に 言えることである。つまり、異なる変動率を持った PL 成分と BB 成分は、始めは1つの流 れであったことが言える。このことから、伴星からの1つの流れが、降着円盤外縁で2層 に分かれ、次第に独立性が強まって行った結果と考えることが出来る。 図 4.2 伴星の降着ガスが独立性を持つイメージ

(37)

37

参考文献

・Astro-H 「X 線天文学の世界」 (http://astro-h.isas.jaxa.jp/challenge/x-ray/) ・JAXA 「X 線天文学とは」 (http://www.jaxa.jp/article/special/xray/p2_2_j.html) ・京都大学大学院理学研究科 助教・松本浩典 「ブラックホールを見る!」 (http://www-cr.scphys.kyoto-u.ac.jp/member/matumoto/presentation/2009/josyo_09041 8.pdf) ・JAXA 「MAXI(全天X線監視観測)の現状」 (http://www.icrr.u-tokyo.ac.jp/~hmiya/sympo/Matsuoka_4th_Chimondai2010.pdf) ・JAXA 「MAXI」 (http://maxi.riken.jp/top/) ・理研 「きぼう利用研究」 (http://cosmic.riken.jp/maxi/maxi_public_html/documents/MAXInenpoH14.PDF) ・第 6 章 連星系の進化 (http://lyman.c.u-tokyo.ac.jp/~hachisu/lecture/binary_1a/7-6_katohachisu.pdf) ・井上一 「宇宙の観測Ⅲ」 日本評論社 2008 ・Inoue, Miyakawa & Ebisawa, 2011

(38)

38

補遺

差分変動関数

「Inoue, Miyakawa & Ebisawa, 2011」引用

あるデータの間隔における物理的変化の平均を𝑥 (𝑡)、時間幅を𝑡0とした時それぞれのビ ンデータ2Nにおける連続するデータは 𝑖 (0) は y𝑖(0)= ∫ 𝑥(𝑡)𝑑𝑡 𝑡0 (𝑖+1)𝑡0 𝑖𝑡0 , (i = 0, … , 2𝑁− 1) (1) であり、隣り合うビンの平均をとり、それをm回繰り返した時の連続するデータ y𝑖(m)(i = 0, … ,n𝑚− 1)は、時間幅t(0)= 2𝑚𝑡 0、ビンデータの総数はn (m) = 2(𝑁−𝑚) となる。この時のy𝑖(m)は、 y𝑖(m)=(𝑦2𝑖 (𝑚−1)+ 𝑦 2𝑖+1(𝑚−1)) 2 (2) で表される。 ここで、定められた平均で割った標準偏差としての確立変数を考える。あるデータ{y𝑖(m)}、 に対する変動係数𝜂(𝑚)は次のように定義する。 (𝜂(𝑚))2=∑ (𝑦𝑖 (𝑚)− [𝑦 𝑖(0)]) 2 𝑛(𝑚)−1 𝑖=0 𝑛(𝑚)[𝑦 𝑖(0)]2 (3) ここで、[𝑦𝑖(0)]はその平均であり、 [𝑦𝑖(0)] =∑ 𝑦𝑖 (0) 2𝑁−1 𝑖=0 2𝑁 (4) で与えられる。この平均を[𝑦𝑖(𝑚)] = [𝑦𝑖(0)] とした時、隣り合うビンの差分Δ𝑦𝑖(𝑚)は次のよう になる。 Δ𝑦𝑖(𝑚)=(𝑦2𝑖 (𝑚−1)− 𝑦 2𝑖+1(𝑚−1)) 2 (5)

(39)

39 式(2.2)と式(2.5)を使い、(m-1)番目のビンにおける変動係数の二乗(𝜂(𝑚−1))2を変 形すると、 (𝜂(𝑚−1))2=∑ (𝑦𝑖(𝑚−1)−[𝑦𝑖(0)]) 2 𝑛(𝑚−1)−1 𝑖=0 𝑛(𝑚−1)[𝑦 𝑖(0)]2 =∑ 〔(𝑦𝑖 (𝑚−1)− [𝑦 𝑖(0)]) 2 + (𝑦𝑖(𝑚−1)− [𝑦𝑖(0)])2〕 𝑛(𝑚)−1 𝑖=0 2𝑛(𝑚)[𝑦 𝑖(0)]2 =∑ (𝑦𝑖 (𝑚)− [𝑦 𝑖(0)]) 2 𝑛(𝑚)−1 𝑖=0 𝑛(𝑚)[𝑦 𝑖(0)]2 +∑ (𝛥𝑦𝑖 (𝑚)−1) 𝑛(𝑚)−1 𝑖=0 2 𝑛(𝑚)[𝑦 𝑖(0)]2 = (𝜂(𝑚))2+ (Δ𝜂(𝑚))2 (6) この式中にあるΔ𝜂(𝑚)は次のように表す。 (Δ𝜂(𝑚))2=∑ (𝛥𝑦𝑖(𝑚−1))2 n(𝑚)−1 𝑖=0 𝑛(𝑚)[𝑦 𝑖(0)] 2 (7) ここで、定義された(Δ𝜂(𝑚))2 は差分変動係数である。変動係数とパワースペクトルP(k)に は比例関係が成り立つ。 (𝜂(𝑚))2∝ ∫ 𝑃(𝑘) 𝑠𝑖𝑛2(𝑘𝑡𝑏(𝑚) 2 ) (𝑘𝑡𝑏(𝑚) 2 ) 𝑑𝑘 (8) ∞ 0 時間幅𝑡𝑏での振動を考えたとき、差分変動係数はそれに対応するパワースペクトルの周波数 部分を取り出したものであり、時間幅が短くなるにつれて等価な結果が得られ、 (𝛥𝜂(𝑚))2= (𝜂(𝑚−1))2− (𝜂(𝑚))2 ∝ ∫ 𝑃(𝑘) [ 𝑠𝑖𝑛2(𝑘𝑡𝑏(𝑚−1) 2 ) (𝑘𝑡𝑏(𝑚−1) 2 ) 2 − 𝑠𝑖𝑛2(𝑘𝑡𝑏(𝑚) 2 ) (𝑘𝑡𝑏(𝑚) 2 ) 2 ] 𝑑𝑘 ∞ 0 = ∫ 𝑃(𝑘) [ 𝑠𝑖𝑛4(𝑘𝑡𝑏(𝑚−1) 2 ) (𝑘𝑡𝑏(𝑚−1) 2 ) 2 ] 𝑑𝑘 (9) ∞ 0 となる。

(40)

40 パワースペクトルに掛かる独立した周波数B(𝑘)は B(𝑘) = 𝑠𝑖𝑛4(𝑘𝑡𝑏(𝑚−1) 2 ) (𝑘𝑡𝑏(𝑚−1) 2 ) 2 (10) で与えられる(図 A.)。

(41)

41

差分変動関数

X 線源の確率的な時間変化を考えるとき、スペクトルの移り変わりの影響やそのスペクト ルの解析は重要である。これにより光子エネルギーの因数として{y𝑖(m)}を得ることが出来、 そのスペクトルの変化には[𝑦𝑖(𝑚)] ± √[(𝛥𝑦𝑖(𝑚))2]の二通りがある。この値を計算するにあた り、平方根√[(𝛥𝑦𝑖(𝑚))2]を絶対値𝑍(𝑚)にすり替え、 𝑧(𝑚)=∑ |𝛥𝑦𝑖 (𝑚)| n(𝑚)−1 𝑖=0 𝑛(𝑚) (11) と定義する。 式(2.2)より、連続するビン𝑦2𝑖(𝑚−1)と𝑦2𝑖+1(𝑚−1)の明るいほうを𝑦𝑖,𝐵(𝑚−1)、暗いほうを𝑦𝑖,𝐹(𝑚−1)と すると𝛥𝑦𝑖(𝑚)の絶対値は、 |𝑦2𝑖(𝑚−1)| =𝑦𝑖,𝐵 (𝑚−1)− 𝑦 𝑖,𝐹(𝑚−1) 2 (12) として表すことが出来、𝑧(𝑚)は 𝑧(𝑚)=[𝑦𝑖,𝐵 (𝑚−1)] − [𝑦 𝑖,𝐹(𝑚−1)] 2 (13) と簡単に計算をすることが出来る。ここでの[𝑦𝑖,𝐵(𝑚−1)]と、[𝑦𝑖,𝐹(𝑚−1)]は {𝑦𝑖,𝐵(𝑚−1)} と、 {𝑦𝑖,𝐹(𝑚−1)} の平均である。 ここで、ある時間幅𝑡𝑏(𝑚)における差分変動率ΔVは ΔV({𝑦𝑖(𝑚)} : 𝑡𝑏(𝑚)) = [𝑦𝑖,𝐵(𝑚−1)] − [𝑦𝑖,𝐹(𝑚−1)] [𝑦𝑖,𝐵(𝑚−1)] + [𝑦𝑖,𝐹(𝑚−1)] (14) である。

(42)

42

1st LHS day low med high 2 0.108604 0.078274 0.135148 4 0.07557 0.062415 0.095677 8 0.059133 0.051369 0.087615 16 0.089921 0.077908 0.08712 2 0.066631 0.057114 0.058297 4 0.052384 0.046426 0.047793 8 0.08 0.075362 0.09158 16 0.052128 0.022734 0.020979 32 0.06715 0.043161 0.034497 図 3.6 1st LHS の計算結果

4th HSS day low med high L_BB L_PL 2 0.099359 0.168581 0.311615 0.11373 0.168581 4 0.077812 0.143928 0.244451 0.084211 0.143928 8 0.070169 0.127038 0.163922 0.062143 0.123875 16 0.081504 0.099912 0.196446 0.067228 0.099912 2 0.059363 0.111102 0.166803 0.052463 0.111102 4 0.05596 0.109159 0.150105 0.044459 0.109159 8 0.065135 0.111149 0.143978 0.050337 0.111149 16 0.04862 0.085046 0.118422 0.040587 0.085046 32 0.058732 0.069312 0.11417 図 3.7 4th HSS の計算結果

(43)

43

4th HSS day inclination L_BB L_PL low の変動率 med の変動率 0.125 1.38278 0.112324 0.180531 0.096832052 0.163978091 0.25 1.413998 0.086862 0.142618 0.077484175 0.142617884 0.5 1.435801 0.073879 0.126777 0.071650405 0.120905586 1 1.856399 0.147022 0.100321 0.050112543 0.114817709 2 1.510314 0.052385 0.111102 0.059362616 0.111101722 4 1.539612 0.046464 0.109159 0.055960276 0.109158573 8 1.809165 0.045793 0.111149 0.065134603 0.111149442 16 1.975777 0.048201 0.075617 0.085512519 0.091017207 32 2.539954 0.02808 0.053501 0.06852326 0.055738899 図 3.9、3.10 比例係数、Low バンドの2成分の計算結果

(44)

44

謝辞

この修士論文作成にあたり、担当指導の井上一先生からの終始手厚いご指導のおかげで 書き終えることが出来ました。心から感謝申し上げます。そして、大学院修士として2年 間、学部生の頃も合わせると約6年間、小野寺幸子先生、日比野由美さん、お世話になり ました。先生方にはとても迷惑や心配をかけてしまい、深くお詫び申し上げます。津田さ ん、内間さんにも大変お世話になりました。諸々、院生のことで大事なことなどその都度 気にかけてくださったこと、御礼申し上げます。そして、後輩の皆さん、一年間共に過ご してくれたこと大変嬉しい限りです。そして、入学当初から一緒に過ごしてきた阿久津、 倉橋にも感謝しています。無事にこの学生生活を過ごせたのは皆さんのおかげです。本当 にありがとうございました。

図 1.5  ISS に接続された実験棟きぼう(JAXA)
図 1.7  左:全天走査の原理、右:MAXI スリットカメラの原理
図 2.3  1987 年 X 線観測衛星「ぎんが」による CygX-1 の light curve
図 2.5  標準円盤モデル
+4

参照

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