86 不妊治療の現場から―男性不妊 瀧川由美子 私は生殖心理カウンセラーとして醍醐渡辺クリニックで勤務しております。 現場では、ほとんど相談者は女性というところで、相談者の女性から話を聴く ことはあるのですが、男性のほとんどを泌尿器科に紹介しておりますので、男 性とお会いする機会があまりないというのが現状です。 勤務クリニックの特徴ですけども、京都市伏見区、東西線の醍醐駅の近くに あります。産科・小児科・不妊治療で、不妊治療に力を入れているのですが、 他のいろいろな個人クリニックと違い、産科の分 可の入院施設も併設してい るところが、少し特徴があるかととらえています。男性不妊外来は精液検査後、 異常があれば泌尿器科に紹介しているのが現状です。ただし不妊カウンセリン グに関しましては、力を入れているという特徴がありまして、生殖心理カウン セラー瀧川と、認定看護師も何名か最近認定されまして、今後またいろいろパ ワーアップしていこうと思っております。 簡単に男性不妊についての話をさせていただきます。男性不妊の原因といい ますか、因子というのは乏精子症、無精子症、精子無力症です。精路通過障害 に関しては、精巣静脈瘤などが原因になってきます。精子を作る機能が低下し ているということで、特発性精子形成障害(非閉塞性)と、精子が通過する管 が炎症や癒着、あるいは管を取り囲む血管が異常に腫れることなどによって圧 迫されて、精子が正常につくられても通過できないこと(閉塞性)に分けられ ます。精子は温度にも敏感で、40℃くらいの発熱により死滅することもあって、 精巣(睾丸)がおなかの中に停留しているケースも、精子の形成に際して問題 があるとも言われています。あと男性不妊には勃起障害(ED)も含まれます。 精液性状の基準値ですけれども、WHO(世界保健機構)が 2010 年に改訂し ておりまして、精液中の精子濃度が 1500 万/ ml より低い場合は乏精子症、 精子運動率が 40%未満の場合を精子無力症と定めています。ただ、不妊治療 を行う施設によって独自に基準値が決められているのが実際のところです。本 クリニックでは 4000 万/ ml、そして運動率 20%を一応の目安にしております。
87 診察に関しましては、問診、視診、触診、超音波検査などがありますが、既 往歴の問診が重要です。特に昔、ムンプスウィルス、おたふく風邪になられた 方とか、あと実際に高熱で感染症を経験されている既往歴のある方とか、先ほ ど述べた環境因子とか、そういったところは結構大事だと先生方も言われてい ます。視診ですけれども、院嚢内の精索静脈瘤(閉塞性の不妊の原因になる) の有無を確認することが必要だといわれています。この精索静脈瘤というのが、 男性不妊の 30%ぐらいあるのではないか、といわれています。触診ですが、 実際に私が診察に関わることはないのですが、オーキドメーターという精巣の 大きさを測定する器具を使っているということです。精巣の大きさの正常は 16 ∼ 24ML です。超音波検査も、診断として大事なものですけれども、特に 精巣腫瘍の有無で、不妊になっている場合があります。 当クリニックでの男性不妊への対応ですけれども、乏精子症の場合、先ほど 述べた基準を目安にしまして、人工授精(AIH)を 5 ∼ 6 回するということで す。その間にも、精子形成障害でしたら漢方薬で、牛車腎気丸や補中益気湯と いうものを処方しています。精管閉塞の精索静脈瘤とか慢性感染症の場合は、 泌尿器科にまず紹介しています。実際それと併行して、泌尿器科と連携しまし て、体外受精にステップアップして、男性不妊の場合は顕微授精が行われます。 精液検査を行うにあたり、精液を採取していただきます。クリニック内の採 精室を使用していただく場合もありますが、自宅で採取して奥さまに持ってき ていただく、というのが多いです。 実際に当クリニックは泌尿器科と連携していますが、そこで行っている治療 法として TESE(Testicular Sperm Extraction)、精巣精子採取術というもの があります。なかでも Micro-TESE(顕微鏡下精巣精子採取術)というのは、 射精液中に精子が認められない無精子症や射精障害の患者に対して、精子を獲 得する手段として行われています。院嚢皮膚を切開して精巣を院嚢外に脱転さ せてから、顕微鏡下に白膜を切開、精細管組織を白膜から剥きおろして可逆的 広範囲を検索することにより、精子形成のありそうな精細管を特定して、それ を 採 取 す る と い う こ と を し て お り ま す。 他 に も MESA(Microsurgical Epididymal Sperm Aspiration)、顕微鏡下精巣上体精子吸引術(精巣上体から 採取)というものもあり、クリニックによっては MESA を採用しているとこ
88 ろがあります。MESA の場合は白膜を切開するということで痛みを伴うこと と、白血球が結構混じるので、実際には TESE をしている施設が多いと聞い ております。 非配偶者間人工授精(AID)についてですけれども、当クリニックでは実施 しておりません。積極的に行っているわけではありませんが、提供卵子を使用 する体外受精含む、非配偶者間の治療を実施している施設を紹介しています。 それほど数は多くないようです。 費用関係ですけれども、勤務クリニックは次の通りです。精液検査が 5 千円 程度です。泌尿器科による精子回収法の処置費ですけれども、MESA が 8 万円、 TESA が 10 万円。精子の保存のための処理費が 5 千円。精子の凍結保存期間 はすべての処理において 2 年間で 2 万円。例えば、初回採卵数 1 個の場合は採 卵費 6 万円、基本が 5 万円。1 個の採卵 1 万というところで、これが増えると、 1 万円×何個とされています。受精費が 2 万円と、透明帯開口、これはうちの クリニックが、体外受精する時にしている技術でして 2 万円。受精卵の移植費 8 万円。これが基本の 6 万円と、胚盤胞の段階で胚移植をしているので、2 万 円加算ということで、だいたい合計 18 万円、1 回の体外受精や顕微授精で最 低でも 20 万円ぐらいいりますので、他の検査と含めたらほとんど 100 万円近 いお金がかかります。 そこで(京都府)特定不妊治療助成制度を患者さんに紹介しております。平 成 28 年度の改訂により、年齢制限ができております。治療開始時の妻の年齢 が 40 歳未満の場合は、通算 6 回の助成が受けられます。初回の年齢が 40 歳か ら 43 歳未満の場合は、通算 3 回。43 歳以上は助成は受けられません。クリニッ クでも高年齢の女性が不妊治療で来られるという現状から考えると、なかなか 厳しいものが考えられます。助成額に関しては、都道府県によって多少違う面 があるのですが、代表的なものは次の通りです。体外受精を初めて受ける場合 は助成額 30 万円、2 回目以降は 1 回の治療につき 15 万円ということになって います。男性不妊治療の助成もありまして、精子を採取する手術を受けた方は 上限 20 万が支給されるということです。 勤務しているクリニックの現場では、医師以外のスタッフが男性不妊患者と 関わる機会がほとんどありません。私自身がやっている仕事内容もですけれど
89 も、カウンセラーとしての男性不妊に対する関わりも大切だと思います。男性 が精液検査に来院することすらなく、自宅採精した夫の精液を妻が持参して、 結果についても妻を介して伝えることが多いという現状があります。私たちス タッフが関わることはほとんどないのですが、何らかの形で夫婦を単位とした 援助体制が必要かなと捉えています。実際に私は、奥さまからご主人の不妊に ついての不安や辛いお気持ちを聞くことが多いです。これ以降の先生方のご報 告を聞かせていただきまして、今後のカウンセラーの勤務として活用させてい ただきたいと考えております。