0価パラジウム触媒を用いた共役エンイン−カルボ
ニル化合物の新規環化反応
著者
伊藤 和也
学位授与機関
Tohoku University
学位授与番号
11301甲第19194号
URL
http://hdl.handle.net/10097/00129249
博士論文
(要約)
0価パラジウム触媒を用いた
共役エンイン-カルボニル化合物の新規環化反応
令和元年度
東北大学大学院薬学研究科
分子薬科学専攻
伊藤 和也
遷移金属触媒を用いたアルキン-カルボニル化合物の付加・環化反応は比較的入手容易 な鎖状の化合物から、複雑な環状構造を有するアリルアルコールを効率的に合成すること ができる。また、用いる有機金属試薬の種類を変えることで様々な置換基を効率的に導入 することができるため、多様性指向型有機合成の観点から有用である。 当研究室の塚本はこれまでにアルキン-カルボニル化合物 1 に対し、メタノール溶媒中 で有機金属試薬、0 価パラジウム触媒を作用させると、アルキンに対し有機金属試薬とカル ボニル基がトランス選択的に付加・環化することを見出している。本反応ではエキソオレ フィンを有する環化成績体2 とエンドオレフィンを有する環化成績体 3 の二種類が生成し 得る。これまでの知見により、アルキン末端炭素上の置換基R1とホスフィン配位子の組み 合わせが、この二種類の環化体の生成比に大きな影響を与えることがわかっていた (Scheme 1)。 Scheme 1 本論文第二章では、共役エンイン-カルボニル化合物を用いたアンチWacker 型環化反応 における、アルケニル基の置換基効果およびホスフィン配位子の効果について検討した結 果について述べている。アルケニル基をアルキン末端炭素上に導入した基質1(R1=アルケ ニル基)においてアンチWacker 型環化反応を行い、用いる配位子による生成物 2 および 3 の比率の変化を調べた。その結果、トリフェニルホスフィン配位子を用いて反応を行うと、 エキソオレフィンを有する環化成績体2 が選択的に得られた(Table 1、entries 1, 3, 5, 7)。 一方、トリシクロヘキシルホスフィン配位子を用いると、嵩低いアルケニル基では環化成 績体2 が、嵩高いアルケニル基ではエンドオレフィンを有する環化成績体 3 がそれぞれ得 られた(entries 2, 4 vs. 6, 8)。アルケニル基は配向基、および活性基として働いた。トリ シクロヘキシルホスフィン配位子を用いた場合には、嵩高いアルケニル基へのパラジウム 触媒の配位が困難になり、配向基としての効果を電子求引性基としての効果が上回ったと
考えられる。
Table 1
また、アンチWacker 型環化反応を用いた新規 3-ヒドロキシピリジンの合成法の開発、 および天然物であるseco-antofine の全合成を行うことで、アンチ Wacker 型環化反応の 有用性を示した(Figure 1)。 Figure 1 第三章ではプロ求核剤を用いたアンチ Wacker 型環化反応によるアレン合成法の開発を 行った結果を述べている。アルキン末端炭素がイソプロペニル基で置換された共役エンイ ン基質 4 に対し、有機ホウ素試薬を用いたアンチ Wacker 型環化反応を行うと、シス付加 体の副生が観測され、エキソアルキリデン-π-アリルパラジウム中間体 5 の存在が示唆 された(Scheme 2)。そこで、本中間体に対し、プロ求核剤を作用させることでアレンが得 られると考えた。 共役エンイン 4 に対し、非金属性求核剤存在下反応を行うと、環化が進行しエキソアレ ンを有する環化成績体 6 が選択的に得られた。プロ求核剤として、アルコール、活性メチ レンおよびメチン化合物、アミン、スルホンアミドの導入が可能であった。ジアステレオ 選択性は中程度であったが、配位子としてトリフェニルホスフィンとH8-BINAP を組み合 わせて用いることで、反応性とジアステレオ選択性がともに向上した。ジアステレオ選択
性は配位子の配位挟角の大きさに依存し、H8-BINAP を用いたときに最も高いことがわか った。 Scheme 2 第四章では、キラルアミン触媒を用いた共役エンイン-エナール基質 7 のエナンチオ選 択的なアンチWacker 型環化反応について述べている(Scheme 3)。当研究室では、アルキ ン-α,β-不飽和カルボニル化合物に対して Table 1 と同様の反応条件に付すと、パラダ サイクルを経たシス付加体 8 が得られることを報告している。第二章で得られた共役エン イン基質に関する知見をもとに、アルキン末端炭素上にアルケニル基を導入した基質 7 を 用い検討を行った。THF 溶媒中で反応を行うとシス付加体 8 が選択的に得られた。一方、 メタノール溶媒中ではトランス付加体 9 が優先して得られた。アルケニル基の配向基とし ての効果、およびメタノールの水素結合による求電子部位の活性化の二つの効果により、 アンチWacker 型環化反応が進行したものと考えられる。 水素結合の代わりに、キラルアミン触媒の添加によりイミニウムイオン10 を形成させる ことで、エナンチオ選択性の発現を試みた。トルエンのような非極性溶媒中、林・Jørgensen 触媒とブレンステッド酸触媒としてカテコールまたは 2,6-ジメチルフェノールなどのオ ルト置換フェノールの組み合わせを用いることで、トランス付加体 9 が高いエナンチオ選 択性で得られた(Scheme 3)。また、アルキンの末端炭素上に水素、メチル基、アリール基 が置換したアルキン-エナール基質においても、同一条件で反応を行うことで、シス付加 体 8 がエナンチオ選択的に得られたが、その選択性はトランス付加体に比べて若干低下し た。
Scheme 3 第五章では、第三章で得られたエキソアルキリデン-π-アリルパラジウムとプロ求核 剤の反応に関する知見をもとに、アレニルアルコール11 の直接的カップリング反応を開発 した経緯を述べている(Scheme 5)。従来アレノールを原料とし、パラジウム触媒存在下、 エキソアルキリデン-π-アリルパラジウム中間体を経て求核置換反応を行うためには、 水酸基をリン酸エステル等に事前に変換し、その脱離能を向上させる必要があった。今回 開発したメタノール溶媒を用いた反応条件では、メタノール溶媒の水素結合による活性化 により水酸基が直接脱離基として働き、置換生成物を与えるためステップエコノミーに優 れ、副生成物として水のみを生成する。本反応では、ケトンを含む活性メチレン化合物を 求核剤として用いると、一挙にジヒドロフラン13 への変換も可能である。ジヒドロフラン をアレノールから直接合成する方法はこれまで報告例がなく、ジヒドロフランを含む生物 活性物質の合成への展開が期待される。 Scheme 5