1‑アシルー1‑チオカルボカチオンを用いる合成反応
著者 田村 恭光, 石橋 弘行
著者別表示 Tamura Yasumitsu, Ishibashi Hiroyuki
雑誌名 有機合成化学協会誌
巻 40
号 7
ページ 658‑666
発行年 1982‑07‑01
URL http://hdl.handle.net/2297/3679
新しい試薬
1-アシルートチオカルボカチオンを 用いる合成反応
田村恭光鵜・石橋弘行“
1-Acyl-1-thiocarbocationsinOrganicSynthesis.
YasumitsuTAMuRA*andHiroyukiIsHIBAsHI*
Thecarbon-carbonbondformingreactionsofl-acyl-1-thiocarbocationsaredescribed、Thecat‐
ionscaneasilybegeneratedfroma-acyl-a-chlorosulfidesundertheFriedel-Craftsreactioncon・
ditionsorfroma-acylsulfoxidesunderthePummererreactionconditionsThereactionsareclassi‐
fiedmtothefollowingfourfeatures:1)electrophilicaromaticsubstitution,2)enereaction,3)
olefincyclization,and4)cationicpolarcycloadditionApplicationsofthesereactionstosynthe‐
sesofsomemedicinesandnaturalproductsarealsomentioned.
川,米光らは,β-ケトスルホキシド1aがPummerer反 応条件下,α-チオ炭素カチオン2を経て閉環して3を与 えることを報告し2),その後,このようなα-チオ炭素カ チオンと電子の豊富な芳香環との分子内閉環反応が,複 素環化合物の合成等に,広く利用し得ることが明らかに された(例えば,4→53),6→74))。著者らは最近,硫黄原 子とアシル基(ニトリル基を含む)に隣接した炭素カチ オン8(1-アシルー1-チオカルポカチオン)が極めて一 般性の高い,興味ある炭素一炭素結合形成反応を行うこ とを見出した。本稿では,これらの反応および,その医 薬品,天然有機化合物合成への応用について,著者らの 研究を中心に紹介したい。
1.はじめに
硫黄原子がα-炭素上の陽イオンを安定化させる性質を 有することは,よく知られており,このα-チオ炭素カチ オンを用いる合成反応としては,Pummerer反応がその 代表的な反応で,炭素一ヘテロ原子結合形成の有用な手 段として,現在,広く利用されている')。一方,このカ チオン種を用いる炭素一炭素結合形成反応に関しては,
有用な反応がほとんど知られていなかった。1972年,及
拶覗鱗 ○ 懸》|州一 ○ 伽紳卿,鈴 C ○
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Lewis
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u川・十R11-CH2-R2
○
ン{ 、「ノ9
R’=CH30rPh
810
R2=COOR,COR,CONR2,CN
○
2.カチオンの発生法6 7
カチオン8は,α-アシルーα-クロロスルフイF9をル イス酸処理するか(Friedel-Crafts反応条件下),もし くは,α-アシルスルホキシド10を酸または酸無水物処 理すること(Pummerer反応条件下)により,容易に発 生させることができる*')。
*大阪大学薬学部(565大阪府吹田市山田丘1-6)
*FacultyofPharmaceuticalSciences,Osaka University(l-6Yamada-oka,Suita,Osaka565,
Japan)
-658-
1-アシルー1-チオカルポカチオンを用いる合成反応
(59) 659
よい結果を与える。たとえば,アニソールとの反応で,
SnCl4を用いるとα,α-ジアリール酢酸エチル15の副生 を伴う。また,反応温度に関しては,クロロベンゼンと の反応が還流条件を必要とする以外は,氷冷下または室 温で円滑に反応が進行する。なお,安息香酸エステルと の反応では,還流条件下でも成績体を得ることができな い。このような12aの反応の優れた結果は,(メチルチ オ)メチルクロリド16とベンゼンとのF・C反応によ る成績体17の収率がわずか35%であること⑩),と比 較しても興味深い。
鵬oC( 鵬`c「`…ハ‘い`い’0MW,
15 16 17F.C反応成績体13は,ラネーニッケノレまたは亜鉛末 一酢酸による脱硫によって,高収率でフェニル酢酸エチ ル誘導体14に導くことができる。亜鉛末一酢酸による 脱硫の結果を表1に示す。14cおよび14fは,加水分解 することによって,さらに抗炎症剤イプフェナック18お よびアルクロフェナック19に,それぞれ導くことがで きる。また,14mより得られる2-チエニル酢酸20は,
ペニシリン,セファロスポリンの有力な化学修飾剤であ る'1)。
士0M“voIbM。(
18ibufenacl9alclofenac
Ocぃ。叩
20
以上のように,クロリド12aのF・C反応Iま,操作が 簡便で,収率も大変よいことから,芳香環への酢酸基の 導入法として,合成化学上,極めて有用と思われる。
3.2.フエニルアセトンおよびフエニルアセトニトリ ル誘導体の合成'2)12aのエステル基の代りに,ケトン またはニトリル基が置換しても,F・C反応は同様に好 3.α-アシルーα-(メチルチオ)メチルクロリドと芳
香族化合物とのFriedeI-Crafts反応
クロロ酢酸エチルとベンゼンとのFriedel-Crafts反 応(以下,F、C反応と略称)でフェニル酢酸エチルを得 ようとしても,ポリエチルベンゼンが得られるだけであ り5),また,モノクロロアセトンとベンゼンとのF、C 反応によるフェニルアセトンの収率は,極めて低いこと が知られている6)。このように,F、C反応による芳香 環の直接アシルメチル化が一般に困難である理由として は,この反応の親電子錯体’1の反応活性が,電子吸引 基が存在するために弱められているためと,考えられる。
ところが,アシルメチルクロリドのα位にメチルチオ基 を導入した,2は,芳香族化合物と,緩和な条件下,収率 よくF・C反応を行うことがわかった。
6-6+
fCH3
A1C13-C1…CH2-CORCl-CH-R
ml2a-d a:R=COOEt,b:R=COMe c:R=COPh,。:R=CN
3.1.フエニル酢酸誘導体の合成7,8)クロリド12a
*2)を当モルのSnCl4存在下,大過剰のベンゼンと室温 で反応させると,α-(メチルチオ)フェニル酢酸エチル 13a(Ar=C6H5)が91%の収率で得られる。この反応 を詳細に検討したところ,1)ルイス酸は12aに対して
LeWis
,w÷q-iIU:。。c丸型一‘r-i1ui0oリ,
12al3 Zn
--ArCH2COOC2H5
AcOH 14当モル必要で,ポリアノレキル化体は全く与えない,2)こ の反応は塩化メチレン中,2aとベンゼンの当モルの反応 でも収率よく進行する(87%),3)ルイス酸の活性の 順序はSnCl4=AlCl3>TiCl4>ZnCl2である,などのこ とが明らかとなった。12aと他の芳香族化合物との反応 の結果を表,に示す。これら反応は,_般的にSnCl4を 用いて行うことができるが,アニソールとかチオフエン,
フランなど反応性の高い芳香環との反応の場合には,
TiCl4またはZnCl2のような弱いルイス酸を用いる方が,
fCH3LeWiS ArH+C1-CH-R竺辺--
12b,c,。21R=COMe b,R=CONe22R=COPh c,R=COPh23R=CN d,R=CN
Zn
--ArCH2R AcOH
24R=COMe 25R=CN
fCH3
Ar-CH-R
*1)9のFriedel-Crafts反応条件下での反応は,おそらくルイス酸 とからなる親電子錯体が反応種と考えられるが,本稿では,形式的に カチオン8を経たものとして取り扱う。
*2)対応するスルフイドをN-クロルコハク酸イミド(NCS)でクロル 化することにより得られるの。
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TabIelFriedel-Craftsreactionofl2awitharomati6compounds,andreductionofl3tol4.
Friedel-Craftsreactionofl2a Reductionofl3
Reactionconditionsa) Product Product Arinl3andl4 ArH Cat./Temp/
Time(min)
ArHm2a No. %Yield No. %Yield
○噸も心噸も心的伽⑩。。⑩“ 0 O”墹働“も
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67 71
a)AUreactionswerecarriedoutinmethylenechlorideb)
e)YieldsarebasedonArHf)Yieldsarebasedonl2a. notexaminedc)o/P=1/4..)。/P=2/5
収率で進行する。クロリド12b~。*2)と種々の芳香族化 合物との反応の結果および成績体21,23の脱硫(亜鉛末 一酢酸)によるフェニルアセトン24およびフェニルア セトニトリル誘導体25への変換の結果を表2に示す。
12bの反応は一般に,TiC14を用いると収率が悪く,
SnCl4を用いるとよい結果が得られる。
3.3.NonacticAcid合成への応用'3)Nonacticacid 27はマクロライド抗生物質nonactinの構成ユニットで ある。これまで述ぺてきたF・C反応を利用すると,以 下に示すルートで,Gerlachら'4)の27の重要合成中間 体26が得られる。
。藁嶮歳。瞳…~菫iラー
鱸入1曲…す腱心い…
26 Ne-,,.〆llLiPl『tc..‘ ̄….
274.Pummerer反応を用いる芳香族親電子 置換反応'5)
先にも述ぺたように,及川,米光らの反応(1a→3)は,
Pummerer反応を利用した炭素一炭素結合形成反応の優 れた反応例である。もし,この反応が分子間反応に応用
SIIe C1-CHCOOMe
--
ZnC12
59%
G9HcooMo
SMe_u-u2uL2EE--
2)Mel
。
87%1-アシルー1-チオカルポカチオンを用いる合成反応 661 (61)
TabIe2Friedel-Craftsreactionofl2b-dwitharomaticcompounds,andreductionof 21and23to24and25.
Reductionof21,23 Friedel-Craftsreactionofl2b,12c,andl2d
Arm21,22,23,
24,and25 Product
Product Reactionconditionsa)
ArH
12 Cat./Temp/
time(min) No. %Yield No. %Yield ArH:12
on代r没翰も⑩0000繊囎も⑩
ⅡⅡe
o咽心州絢地のCoCo噸馳もの
亘 ■」■■
0,ub。,0,0,’、0,Ob。、c0d0.0.0.0.(星(里(竺(ど(廷(里(竺(型(廷(ど(二(竺(4(廷(坐■I弓I。I10。I盃I。I危’。I1□毛I1日。I。I10
00
1:1
111111
●●●●●●●●●●●● 111112
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00
1:1
111 ●●●●●●
111
Allreactionswerecarriedoutlnmethylenechlorideexceptwiththereactionswithbenzene.b)notexamined. ● O/'=1/6..)O/P=3/7.e)O/P=2/3.f)Yieldsarebasedonl2b.
、ノ、ノac
できれば,前述12のF・C反応と同様に,この反応も芳 香環への炭素基導入の新しい方法となることが期待され る。
まず最初の試みとして,α-(メチルスルフィニル)酢酸 エチル28と大過剰のベンゼンとの反応を,CF3COOH または(CF3CO)20を用いて行ったところ,ジチオアセ タール29または通常のPummerer反応成績体30が,
それぞれ得られるだけであった。これらの成績体は,反 応中生成するH20やCF3COO-が,ベンゼンよりも優 先的にカチオン8に攻撃して,生成したものと考えられ る。このことは1bの分子内反応においても認められる。
すなわち,1bを(CF3CO)20で処理しても閉環は起こら
o咄!`w"北鵲[咄…ハ]
-(CH3S)2CHCOOC2H50rCH3SfHCOOC2H5
oCOCF329
or>[「」ff:坐一繋 げNe
301b 31
ず,3,のみを与える2)。そこで,著者らは,比較的求核 性の弱い対陰イオンを生ずると考えられるカーTsOHを
○ つ
有機合成化学第40巻第7号(1982) (62)
662
用い,次のような反応条件で目的の反応を達成すること ができた。
すなわち,28のベンゼン溶液を2当量の無水P-TsOH 存在下,Dean-Stark(D-S)装置を用いて1時間還流を 行ったところ,13aが88%の高収率で得られた*3)。ベ
ArⅡザ。H31cぃ。。cハニーニLビニエニlLAr-iIU:o0c2H,
…(儲"鴛樽「篤
いC-oj0⑳ C'(13f)(139)(131)
ンゼンの代りに,トルエンまたはクロロベンゼンを用い ても同様に反応は進行し,13b,139をそれぞれ89%,
60%の収率で与える。この反応で,電子豊富な芳香環の 場合は,これを28に対して当モルを用い,ジクロロエ タン中,上と同様の操作を行えば,目的物を収率よく得 ることができる。イソプチルベンゼン,カーキシレン,0-
(アリルオキシ)クロロベンゼン,ナフタレンは,13c,13.,
13f,131をそれぞれ58%,55%,74%,62%の収率で与 える。
○m:L[CID〔ii腱]竺○〔ア(iMo
32a,b,c蕊1蝋と1W鍛 加&。,…
fCH3
C1-CH-COCl 33
CH3SCH2COC1
36
アニリンを出発原料として用いるオキシインドールの 合成法の中で,最も簡単で一般的と思われる方法は,α-
ハロアセトアニリドをA1Cl3を用いて閉環させる方法で ある18)。しかし,この方法はAlCl3の精製が重要で,し かも反応は200℃近い高温を必要とする。著者らの方法 は,緩和な条件下で反応を行うことができ,満足すべき 収率で目的物を与えることから,オキシインドールの新
しい合成法として利用価値が高いと思う。
このオキシインドール合成法を利用すると,下図に 示すルートで抗炎症剤ジクロフェナック40が高収率で 合成できる。
5.分子内芳香族親電子置換反応
塔÷○Wザ鰍 lMc,鯛協|(0Ⅱ
Ar Ar[CLi薫艫]鶚c?【B鼠“
39脈c〔ii:剛騏c〔;,川
39
搬・,71。二wiOo
Ar 40dichlofEnac以上述べた芳香族親電子置換反応は,もちろん分子内 の反応にも有効で,以下のような種々の複素環化合物が 合成できる。
5.1.オキシインドールの合成16)_ジクロフエナック 合成への応用'7) アニリン32aを,塩化メチレン中ト リエチルアミン存在下,酸クロリド33でハルアシル化し,
生成するアミド34aを単離することなく,当モルのSnCl4 で処理すると,3-(メチルチオ)オキシインドール35aが,
32aから61%の収率で得られる。同様に,35bおよび35e が,32bおよび32cからそれぞれ94%,56%の収率で得 られる。一方,アニリン32a~cを酸クロロド36でN-ア シル化し,次いでメタクロロ過安息香酸で酸化すること により得られるアミド37a~cを2当量のP-TsOHで処理 すると,35a,35b,35cが,それぞれ5%,82%,86%の 収率で得られる。
上記反応で得られた35a~cは,ラネーニツケルで脱硫 することにより,好収率で38a~cに導くことができる。
5.2.その他の複素環化合物の合成ベンジルアミ ン41a,bを出発原料として用い,上記の反応を行うと,
1,4-ジヒドロー3(2H)-イソキノリノン42a,bが得られ る'6)。42a,bも,ラネーニッケルによる還元で43a,bに 好収率で導くことができる。同様に,クロリド44または スルホキシド45から1-アシルイソチオクロマン46が 好収率で得られる'`)。
*3)この反応で,D-S装置を用いないと,少壁の29が副生し,また,
P-TsOHの量を半分(1当量)に減らすと,D-S装置をつけても,13a の収率は極端に減少し,29との混合物(1:1)を与える。
(63) 1-アシノレー1-チオカルポカチオンを用いる合成反応 663
することなく,トルエン中で加熱すると,クロマト精製
後,ペリトリン52が64%の収率で得られる。ペリトリンはA"αCycZus”γethmmDC・の根に含まれる殺虫
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43a,bcE;論毎輪cEll。
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51 52pellltorineR1R2群i:ldE/Z
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e HHHⅡ
H Me
CH2CHMe2
Me
44 6787 5910 86/14
-★
88/12 82/18
46 45
6.エン反応
*notdetermined
カチオン8はオレフィンとの反応でenophileとして ene反応を行う。
6.1.1-アルケンからElE-Z4-aIkadienoicesterの
合成'9)スルホキシド28のトリフルオロ酢酸溶液に,
氷冷下,当モルの(CF3CO)20および1-アルケン47
(n=2~7)を順次加え,後処理を行うと,ene反応成績
体48(n=2~7)が72~79%の収率で得られる。この反 応を塩化メチレン中で行うと,30が得られるだけである が,この30を再びトリフルオロ酢酸に溶かし,1-アル ケンと反応させると48が得られる。48は'3C-NMRの 検討で,E/Z比が約85-90/10-15であることがわかった。48をNalO4で酸化し,生成するスルホキシドを単 離することなく,ベンゼン中で加熱すると,クロマト精
製後,E,E-2,4-alkadienoicester49が高収率で得られる。
作用を有する物質で,今までに多くの合成法が報告され ているが,そのほとんどは対応するエステル49(n=5)
またはそのカルポン酸から導くものである。著者らの方 法は,これらを経ることなく,直接52が得られ,工程を 短縮できる。
7.オレフィン環化反応
1-アシルー1-チオカルポカチオンは,オレフィン環化 反応のinitiatorとしても優れた反応活性を示す。
7.1.五員環および六員環ラクタムの合成21)
スルホキシド53を塩化メチレン中,氷冷下当モルの (CF3CO)20で処理すると,6員環ラクタム54および55 が,それぞれ43%,35%の収率で得られる。同様の反 応を56について行うと,この場合は上と異なり,5員 環ラクタム57(jγα"s/cZs=69/31)が92%の収率で得 られる。58の場合にはPummerer反応成績体59が,定 量的に得られるだけであるが,これをさらにCF3COOH
`い`野。`ハニゼ:呈姜二[叱二IiII1:北]
YIjヅラ/’l
lw峨鰄リJwIII:北
値化鰄vムノi1f`"リ。豐州-…北
6.2.ペリトリンの合成20)α_(メチルスルフイニ ル)アセトアミド50と1-アルケンとの反応も円滑に進 行し,ene成績体51を好収率で与える。51(R1=H,R2=
CH2CHMe2)をNalO4で酸化し,スルホキシドを単離
電島㈱J-V邸V
jllii二iiiJz鴬
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664 (64)
原子を炭素に置換えても,同様に閉環反応は進行する。
68の塩化メチレン溶液に,氷冷下当モルの(CF3CO)20 を加えると,まず最初に69の生成が観察されるが,室 温でさらに4時間反応させると,5員環ケトン70が70%
の収率で得られる24)。また,Manderら25)も,71から72 が65%の収率で得られることを報告している。
7.3ハノービニルーα-スルフイニルアセトアミドの酸接 触閉環反応一Erythrinane骨格の新合成法26)スルホ キシド73を塩化メチレン中,当モルの(CF3CO)20で 処理すると,閉環体76が22%の収率で得られる。この 反応は,Pummerer反応中間体74から75への環化を経 由していると考えられる。このタイプの反応は比較的起こ
りにくいとされている5-eMo-Dig型の閉環反応22,27)
で,その意味からこの反応は興味深い。
Q、艫一○〆艫L[o震伽。
一輔鵬]--○詞(i洲。
76 Ne(溶媒)で処理すると,5員環ラクタム60および61が,
それぞれ9%,39%の収率で得られる。上記53,56,58 の閉環反応は,下図に示すルートで進行したものと考 えられる。
卿這辱濡`&
R2 Ne…坐礁艫二
+
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54and5557
一般に,5-ヘキセニルカチオン63の環化反応は6-
eMo-Trig型22)で進行し,6員環64を与えるのが普通 で,5-eZo-T7q`g型閉環して5員環を与える場合は,生 成するカチオン65が極めて安定化される場合に限られ ている。このことから,56および58の閉環反応が,5 員環化合物のみを与えることは極めて興味ある゜Ben-
O-2二四2ニエエl2oi三里型-b
qii'柵…[てirIiIM1-lf;i'耐
Ishaiも66を酸処理すると5員環ラクタム67のみが得 られると報告しており23),環内のカルポニル基が環化の 方向の決定に重要な役割を果たしているのではないかと,
述べているが,著者らの結果もこれとよく一致する。53 の6員環形成は,おそらく,環化によって生成されるカ チオン62の高い安定性に基くものと思われる。
7.2.シクロペンタノン環の合成上記反応の窒素
i(CH3SCH2CO)20,C5H5NiiNalO4iii(CF3CO)20/CH2Cl2
上の反応で73の代りに77を用いると,一挙にerythri‐
nane骨格が合成できる。すなわち,77のジクロロエタ ン溶液を2当量の無水p-TsOH存在下,還流すると,
erythrinane誘導体78が60%の収率で得られる。この 際,少量(8%)のベンゾアゼピン誘導体79が副生する。
78の生成はPummerer反応中間体80の5-eMo-Tγig 型閉環反応によって生じた新しいカチオン81に対して 芳香環が分子内求核攻撃したものと考えられる。81のカ チオン中心であるアシルイミニウムイオンがオレフィン
P翰蝿
-Cfw。 E-碧卜
筆鶚 齢陥
69 70鱸。oSTli鱸鶚.cSr
71 721-アシルー1-チオカルポカチオンを用いる合成反応 665
(65)
当モルのSnCl4存在下,スチレン,スチルペン,フエニ ルアセチレン等と[4++2]型のpolarcycloadditionを 行い,チオクロマンおよびチオクロメン誘導体86,87,
88を与える。この反応を分子内反応に応用すると,89か ら90(27%)が91(20%)と共に得られる。また,スル ホキシド92を58と同様の処理を行うと,90(33%),93 (21%),94(14%)が得られる3D。
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2)CF3COOH
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環化反応の強力なinitiatorであることは,すでに多くの 報告がなされている28)。二つの強力なオレフィン環化反応
のinitiatorによってなされた,このような一工程のery‐
thrinane骨格合成は,スピロ化合物の新しい合成手段と して興味深く,合成化学的価値が高いと思われる。78は 図に示すように,種々のerythrinane誘導体に導くこ
とができる。
77の芳香環をオレフインに変えた82も,同様に閉環 反応を行い,低収率ではあるが,83(13%)と84(4%)
を与える29)。
92
94
硫黄原子を含む系のpolarcycloadditionは,今まで ほとんど研究例がなく,ジチエニウムカチオン95の[2+
+4]型の反応が知られているだけである32)。上のような 新しい[4斗2]型の反応は含硫複素環化合物の新規合成 法として興味がもたれる。
M堅輔電 ろ .;可゛ ズーロコql:
BF4 ̄95
オレフィン環化反応の優れたinitiatorを求める研究が 最近活発に行われているが,上に述べたように,この1-
アシルー1-チオカルポカチオンはその新しいinitiatorと して,種々の環状化合物の合成に幅広く利用し得るもの と思われる。
8.CationicPoIarCycIoaddition3o)
9.おわりに
以上のように,1-アシルー1-チオカルポカチオンを用 いる炭素一炭素結合形成反応は,有機合成において,新 しい手法を提供し,医薬品または天然有機化合物を含む 多くの有機化合物の優れた合成法となることが明らかと なった。著者らは,このカチオン種の優れた反応活性を生 かした合成反応を,さらに発展させたいと考えている。
おわりに臨み,この研究に終始熱心な努力を惜しまな かった共同研究者,崔洪大,前田ひろし,上西潤一,
新堂裕久,石山幸一,上田祐子,赤井周司,水木康之,
水谷昌子,の諸氏に心から感謝の意を表します。
(昭和57年3月8日受理)
S上にフェニル基を有するα-クロロスルフイF85は,
。Ⅶ僻辿[。「章]四一
85aDbocC〔i〕「(。〔i〕〔AC〔ドユハ
86a(72%)
87a(剛篭:I3Ili1
85bにOZ)
85c(60%)
a:R=CONHe2b:R=COOEtc:R=H
文献
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