頚部内頚動脈狭窄症 ー脳卒中治療医以外の先生に知っておいて欲しいこと一
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(2) 仙台医療センター医学雑誌 Vol. 10, 2020. 頚部内頚動脈狭窄症. 3. 内頚動脈狭窄症に対する外科的治療の適応とそ. る方法と、内シャントを用いない方法がある。内. の判断. シャントは一旦置けば時間に関係なく落ち着いて. 外科的治療の選択の目安は、症候性で 50% 以上 の狭窄、無症候性では 80% 以上の狭窄である. 手技を進められる反面、内シャントを設置したり抜. 1,2). 去したりする操作自体がやや煩雑であること、また. 。. 症候性の場合は、発症段階から脳卒中医が関わるこ. 内シャントを置く操作そのものにも多少のリスクが. とが多いと思うので、一般内科医が手術適応の判断. あるという問題がある。一方内シャントをおかなけ. を考えるような場面は少ないと思われるが、無症候. ればそのような要因はないし、麻酔自体がある程度. 性の場合は内科の先生が初期対応をすることも少な. の脳保護作用があること、脳の血管にはある程度の. くない。頸動脈狭窄のスクリーニングに最も使い. 側副血行路があることなどが、内シャントを必要と. やすいのは頸動脈エコーである。狭窄度を予測し. しない側の主張であるが、短時間で済ませなければ. やすいのは peak systolic velocity(PSV)であり、. いけないのと不測の事態においても時間的な制約を. 230cm/s が 80% 狭窄に相当するとされている。但. 受けるという欠点があり、どちらが良いという決定. し頸動脈エコーで最速部を探索するのは技術的習. 的要因はない。剥離をする際は、適切な剥離層を選. 熟度が要求されるので、他院にお伝えする場合は、. 択すること、剥離した遠位端をスムーズに処理する ことが肝要である。. 「150cm/s 以上であればご相談下さい」としている。. 代表症例 1 を提示する(図 1,2)。71 歳男性、一. エコーのスクリーニングで脳外科医に橋渡しして いただけば、そこから先は脳外科医の仕事であるか. 過性の右麻痺、失語が出現。その頻度が高くなり、. ら、これ以降の検査を内科の先生に直接担当してい. 近医を経て当科に紹介となった。紹介後直ちに入院. ただく必要はない。. となり、抗凝固・抗血小板療法を開始した。内科治. MRA や造影 3DCTA は、病変部を確認するのに. 療を開始したにも関わらず失語が増悪、入院翌日. 有用なのはもちろんのこと、頭蓋内の血管、とくに. に CEA を行うこととなった。術後右麻痺、失語は. 後交通動脈や前交通動脈の発達状況をみて、内頚動. 改善。過灌流を含め術後に大きなイベントはなく、. 脈の遮断耐性を予測するためにも不可欠である。. 2 週間後に退院した。. MRI, CT は、過去の脳梗塞を確認するために必 要である。一般的には MRI の方が診断的価値が高 いが、外科的治療では石灰化の有無が比較的大きな 要素になるため、CT も欠くことはできない。 SPECT は hemodynamic compromise の確認と、. C. 治 療 後 の 過 灌 流 を 予 測 す る 上 で 重 要 で あ る。 但. A. し、2 で 掲 げ た 脳 梗 塞 要 因 の う ち、 実 際 に は. D. hemodynamic compromise はかなり少ないと言わ れており、従って SPECT で異常となることはかな. B. り少ない。 4. 内頚動脈狭窄症に対する外科的治療. 図 1. 症例 1 の入院時検査所見。A: 造影 3DCTA にて左内 頚動脈起始部の高度狭窄が観察できる(⇨)。B: 頚動脈エ コー所見。PSV は 358cm/s である。C: 頭蓋内 MRA。左 内頚動脈から中大脳動脈の信号が減弱している(△)。D: 頚部 MRA。左内頚動脈起始部の高度狭窄を認める(➡) 。. 1)頚動脈内膜剥離術(CEA) 頚動脈の狭窄部位をそぎ落とすような手技であ る。全身麻酔下に、胸鎖乳突筋の前縁にそって皮膚 を切開し、頚動脈を露出する。病変部を剥離する際 には操作部位の上下からの血流は遮断する必要があ るが、その際内シャントを用いて血流自体は確保す 25.
(3) 仙台医療センター医学雑誌 Vol. 10, 2020. 頚部内頚動脈狭窄症. 症作用に加え、両剤にプラークの安定作用が報告さ れているからである 3,4)。CAS の 3 日前に入院する が、その時点でクロピドグレルとアスピリンを追加 する。アスピリンについては、術後 1 ヶ月継続し、 A. その後クロピドグレルとシロスタゾールの 2 剤併. B. 用を継続、6 ヶ月時点でどちらかを終了し 1 剤の継 続投与とする。 代表症例 2 を示す(図 3)。71 歳男性、高血圧、 陳旧性心筋梗塞、脂質異常、糖尿病があり、他院に. C. D. てスクリーニングの頚動脈エコーを施行。高度狭窄 があり、当院に紹介となった。当科初診時既に既往. 図 2. 症例 1 の術中所見。A: 左頚動脈を露出したところ。 切開予定線をピオクタニンでマークしている。B: 血栓内 膜を剥離している。C: 剥離後。血管壁が滑らかになって いる。D: 摘出標本。壁は不整であり、潰瘍が観察できる。. 疾患に対して糖尿病薬のほか、ピタバスタチン、ク ロピドグレルが投与されていた。外来受診時にシ ロスタゾール 200mg を追加、入院時にアスピリン 100mg を追加し、入院 3 日後に CAS を施行した。 この症例では当院で開発した Direct road map 法を. 2)頚動脈ステント留置術(CAS) 内頸動脈起始部狭窄症に対する外科的治療は、か. 行った 5,6)。特に問題なく終了し、1 週間後に退院. つては CEA しか存在しなかった。しかし 1990 年. となった。1 ヶ月後にアスピリンを終了、6 ヶ月後. 代後半から CAS が少しずつ行われるようになった。 導入当初は CEA が施行不可能な症例に限って行わ れる程度で症例数は限られていたが、その後さまざ A. まな遠位塞栓防止デバイスが開発され、ステントも いろいろな種類が開発されたため、CAS の適応範. F. 囲は広がっている。 一般的な CAS の方法を示す。8F 程度のバルー. ③. ン付きガイディングカテーテルを大腿動脈から総頸 動脈に誘導する。このカテーテルから遠位塞栓防止. ②. デバイスを、狭窄部を通過させて病変の遠位に誘導 する。遠位塞栓防止デバイスには、バルーン型と. B. ①. C. D. E. フィルター型がある。バルーンのインフレーション 図 3. 症例 2 の検査・術中所見。A: 入院時頚動脈エコー所 見。PSV は 469cm/s である。B:CAS 施行前の左総頚動 脈撮影側面像。病変長は短いが、高度狭窄が認められる (➡)。C:Direct road map。総頚動脈(①)と外頚動脈(②) のバルーンを拡張させ、この状況で総頚動脈においた親 カテーテルから造影剤を流しながら内頚動脈(③)のバ ルーンを拡張させると、造影剤がトラップされ direct road map が完成する。D: ステント留置直後の左総頚動 脈撮影側面像。狭窄部が良好に拡張されている。E: 術後 の頸椎単純撮影。留置したステントがよく見える。F: 術 中に、遮断したバルーンの近位側から吸引した血液の中 から採集されたデブリ(▲)。遠位塞栓防止デバイスを用 いないと、こういったデブリが頭蓋内血管に迷入するこ とになる。. またはフィルターの展開をしたのち、2.5mm 程度 のバルーンで病変部の前拡張を行い、次にステン ト留置、最後に 5mm 程度のバルーンにて後拡張を 行う。その後バルーン型の場合は浮遊デブリの吸引 とバルーンのデフレーション、フィルター型の場合 はフィルターの回収を行い手技を終了する。大腿動 脈穿刺からシース抜去までの通算でも 1 時間以内 に終了する手技である。内服薬については、無症候 性で時間的な余裕がある場合は、CAS 施行の 1 ヶ 月前からシロスタゾールとストロングスタチンを投 与する。これは本来の脳梗塞予防の効果と抗高脂血 26.
(4) 仙台医療センター医学雑誌 Vol. 10, 2020. 頚部内頚動脈狭窄症. にシロスタゾールを終了し、現在はもともとのクロ. り 11,12)、脳神経外科学会の年次報告では、日本国. ピドグレルを継続している。. 内 で、CEA が 年 間 約 4000 例 に 対 し て CAS は 約 8000 例施行されていて、実臨床では、CAS が標準. 上記の標準的方法のほか、高度狭窄に対して段階 的に 2 度にわけて拡張を行う staged angioplasty、. 治療に変わりつつある。. アクセス困難例に対する冠動脈用ステント使用、低 位病変に対する対外ペーシングなどを組み合わせる. 6. まとめ. と、かなり多くの症例で CAS で対応できることに. 1)内頚動脈狭窄症は脳梗塞の原因として重要であ. なる。. る。 2)高度狭窄症候性では手術適応となる。 3)手術としては、内膜剥離術とステント留置術が. 5. CEA か CAS か 2008 年に SAPPHIRE study を根拠に CAS が 7). ある。 4)現在ではステント留置術が標準治療になりつつ. 保険適応となった。この study は、CEA 困難例に 対して CAS の非劣勢を証明したものである。この. ある。. 時点の保険適応は SAPPHIRE に準じて、対象は CEA 困難例であり、認可デバイスは SAPPHIRE. 文献. の 際 使 用 さ れ た、Precise stent(Johnson &. 1. 江面正幸、木村尚人、鈴木一郎 . 頚動脈狭窄症. Johnson, New Brunswick, NJ)とフィルター型デ. に対する血管内治療―適応と限界―. 脳卒中の. バイスの Angioguard(Johnson & Johnson)であっ. 外科 2015;43:159-164 2. Mantese VA, Timaran CH, Chiu D, et.al. The. た。SAPPHIRE study 以 降、 い く つ か の CEA と 、それらの. Carotid Revascularization Endarterectomy. 結果は必ずしも CAS を支持するものとはなってい. versus Stenting Trial(CREST): stenting. ない。しかしそれらの研究には、①遠位塞栓防止デ. versus carotid endarterectomy for carotid. バイスの使用が不十分、② CEA の術者基準に比較. disease.: Stroke 2010;41:31-34. CAS の比較研究が発表されているが. 8-10). して CAS の術者基準が厳格でない、③ CEA を行. 3. 江面正幸、木村尚人、西村真実、上之原広司 .. うなら問題ないが CAS を行うのは適していない時. シロスタゾール(プレタール)内服により著明. 期でも CAS 群では CAS を行わなければならない、. な拡張が得られた症候性中大脳動脈狭窄症の 2. ④スポンサー企業が存在するためデバイス選択の自. 例 . Progress in Medicine 2011;31:274-276. 由度がなくベストの CAS が行えているとはいいが. 4. 木村尚人、江面正幸、西村真実、他 . 頚動脈ス テント留置術における、アトルバスタチンとシ. たい、などの問題点が指摘されている。. ロスタゾールの術前投与の有効性 . 日本血管内. CAS には、Ⓐ局所麻酔で施行可能、Ⓑ内頸動脈. 治療学会誌 2011;12:10-12. の遮断時間が短い、Ⓒ高位病変でも対応可能、など の利点があるのに CEA の方が標準治療とされてい. 5. 江面正幸、倉前卓実、柴原一陽、他 . Direct. る理由は、歴史的要因のほか、CAS には、①遠位. road map –Mo. Ma Ultra と PercuSurge. 塞栓の発生の可能性、②再狭窄の発生、などの問題. GuardWire を 併 用 し た CAS の 新 法 –. JNET. 点があったからである。しかし、①については各種. 2015;9:331-335. の遠位塞栓防止デバイスの開発、②については薬. 6. 江 面 正 幸、 倉 前 卓 実、 上 之 原 広 司 . CAS 施. 物治療の確立により、これらの欠点はほぼ問題の. 行 時 に お け る、Mo.Ma Ultra と PercuSurge. ない程度まで減少させることができている 。当施. GuardWire を 併 用 し た direct road mapping. 設で直近の 3 年間の頚部内頚動脈狭窄症の外科的. の有用性の検討 . 脳卒中の外科 2018;46:136-. 治療を調べたところ、CEA9 件に対して、CAS120. 141. 2). 7. Yadav JS, Wholey MH, Kuntz RE, et al.. 件であった。CAS が優位なのは全国的な傾向であ 27.
(5) 仙台医療センター医学雑誌 Vol. 10, 2020. 頚部内頚動脈狭窄症. Protected carotid-artery stenting versus. Carotid artery stenting compared with. endarterectomy in high-risk patients. N Engl. endarterectomy in patients with symptomatic. J Med 2004;351:1493-1501. carotid stenosis(International Carotid. 8 . S PA C E C o l l a b o r a t i v e G r o u p , R i n g l e b. Stenting Study): an interim analysis. PA, Allenberg J, et al. 30 day results. of a randomised controlled trial. Lancet.. from the SPACE trial of stent-protected. 2010;375:985-997. angioplasty versus carotid endarterectomy. 11. Lichtman JH, Jones MR, Leifheit EC, et.al:. in symptomatic patients: a randomised non-. Carotid Endarterectomy and Carotid Artery. inferiority trial. Lancet 2006;368:1239-1247. Stenting in the US Medicare Population, 1999-2014. JAMA 2017;318:1035-46. 9. Mas JL, Chatellier G, Beyssen B, et al. Endarterectomy versus stenting in patients. 1 2 . C o l e T S , M e z h e r AW, C a t o p a n o J S ,. with symptomatic severe carotid stenosis. N. e t . a l : N a t i o n w i d e Tr e n d s i n C a r o t i d. Engl J Med. 2006;355:1660-1671. Endarterectomy and Carotid Artery Stenting in the Post-CREST Era. Stroke: Epub ahead. 10. International Carotid Stenting Study. of print, 2019. investigators, Ederle J, Dobson J, et al.. 28.
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