土井先生が札幌大学を退職されるについて(竹川) — 1 —
土井先生が札幌大学を退職されるについて
竹 川 雅 治
土井先生が札幌大学を退職されるので、その退職記念号を出すこ とになったので私にも一筆をとの依頼が紀要の編集者から依頼され た。他に適任の方がたくさんおられるのではないか、と危惧をしな がらも喜んで引き受けたのは、土井先生が私たち同期の最後の退職 者であるということを強く意識したからである。 本来、退職記念号に文を寄稿する場合、その先生のそれまでの研 究業績の記述が中心となるべきであろうが、土井先生の研究分野で ある商法の専門外である私には任が重いので、それについては他の 先生方に任せることにして、わたくしは、昭和49年に札幌大学に赴 任してきて以来、共に過ごしてきた中での思い出をいくつか選んで 書くことにして、その責を果たそうと考えていた。ところが、いざ あらためて筆を執ると土井先生の同僚としてとして長きにわたって ご厚誼をいただいたこともあって、これが中々思うように筆が進ま ない。そこで無理やりいくつかのエピソードを選んで書くことにし て、土井先生の退職のお祝いの文としたい。 土井先生の専攻は商法である。正直にいうと、大学時代私は「商 法」(総則・商行為、会社法、手形小切手法)という科目は、あり ていに言えば好きな科目ではなかった。当然その成績も必ずしも誇 れるものではなかったように記憶している。もちろん大学での商法 の科目は必修科目かそれに準ずる科目であったので、重要な法律科 目であることは意識したと思われるのであるが、地方の高校を卒業 したてで、アルバイトなどの経験もなく企業というものを特に意識 していなかった当時の私にとって、「商法」という言葉は、むしろ いわゆる「悪徳商法・商人」といったイメージを持つ言葉としてと札幌法学 27 巻 1・2 合併号(2016) — 2 — らえていたように思う。そうしたことから、法律としての「商法」 にあまり興味を持てず、敬遠をしていた授業科目であったようであ る。その商法を大学、大学院で専攻をされた土井先生は、昭和49年 に商法科目の担当者として札幌大学に赴任をされたのである(その 年の赴任者は土井先生や私を入れて五、六人ほどであったと記憶し ている)。それゆえ私は一人勝手に「企業など知らない学生を教え るのは大変だろうな」と内心思っていたが、土井先生はそのような ことをあまり意に介することなく授業をされていたようある。当時 の受講生に聞くと「土井先生の授業は時には脱線するが、企業経営 の実務上の話などもあり、よくわかり面白かった」と好評で、わた くしの懸念は全くの杞憂に終わったようである。赴任したてで授業 に苦労していた私にとって、すこし羨ましく思ったという記憶があ る。 土井先生が最も力を入れられていたのは大学院での授業である。 周知のように本学の大学院には、税理士を志望する社会人が多く入 学する。かれらは「商法」を専攻し土井先生を指導教授として修士 論文を作成し卒業していく。税理士を目指す社会人の大学院生の多 くが会計事務所に勤務している。したがって税についての実務は数 多く経験しているものの、法あるいは法律学の系統だった学習はほ とんどおこなってはいなかった。そうした社会人学生にとって、企 業経営をよく知る土井先生の「商法」の授業は非常に興味深いもの であり、また実務上も役に立っていたようである。土井先生も「法 律学を十分学習をしていない大学院学生が、授業を進めていていく うちに、驚くべき速さで法知識の習得がなされていく」と大学院生 の法律学に対する手ごたえを感じておられた。こうして土井先生の 指導を受けた大学院生は、その後税理士資格を取得し、その多くは 今でも税理士として活動をしていることはよく知られている。 土井先生は大学や大学院での商法研究のほかにも、弁護士の資格 を取得されて弁護士としての業務にも従事されており、また企業の 外部監査役としても活躍をなされているときく。こうした多方面に
土井先生が札幌大学を退職されるについて(竹川) — 3 — 活躍されている土井先生が本年末をもって札幌大学を離れられると いうのは惜しい気もするが、今年の土井先生の年賀状に「研究成果 を実践の場で生かしたい」との抱負が書かれていたことを考える と、また別にご活躍の場を得られて我々にその成果をご報告してい ただけるのではないかと思っている。札幌大学に赴任して以来、同 僚として長きにわたってご厚誼をいただいてきた者としては、その ことをひそかに期待しているのである。